16:The end of a明日 マサコと恵美このエントリをはてなブックマークに登録

16:マサコと恵美



「余命がない人間を殺すのですか?」
「公安に入って何年だ?」
「2年弱です」
「まだ読めないか。
昨夜からの急な作戦がそれだ」
「松岡勤の病気ですか?」
「死を宣告されたんだ。
何やるか分らん。
父親も息子の病気で何か変化があったのかな」

シボレーはマンションに向かっていた。
「予想外の行動だな。
父親の死に疑問を感じたか?」
「あのファイルですか?」
「そうだな」
「どのように?」
「マンションの後、母親の待つ家に行くはずだ。
車に乗り込む時にしよう」

携帯が鳴った。

「時間はあるか」
「はい、」
「指示が一部変った」
「はい」
「シボレーはマンションに駐車しておけ。
拉致した後、北尾は松岡になりすまして新宿駅までタクシーに乗れ。
松岡の部屋で適当な服を選んで着替えろ。
新宿駅で北尾をピックアップして川口へ行け。
川口ジャンクションは使用するな。
首都高、王子北で降りて下を行け。
北尾は川口駅前から石神までタクシーに乗れ」


「そこまで偽装を?」
「事実を残す。
使えなくてもな。
今回も、他殺の線が出てきたら、公安部員が警察に通報するようになっているはずだ。
新宿で見た、別のが京浜東北線に乗っているのを見た、とな。
タクシーの運転手の大まかな証言が加わればうやむやで終わる」
「通報だけで信用を?」
「尋ねられたら身元も明かすはずだ」
「公安と分るのでは?」
「そこまでは分らんし、調べんよ」
「ビルと高速、どう違うのですか?」
「今、世論の批判に外務省が神経を尖らせている。
父親と同じ日に息子が自殺だ。
とにかく、間に時間を置きたいだろう。
上手く行けば、身元が割れるのに1、2週間はかかる。
相手は車だからな。
服はなるべく黒い色を選べ、下着も。
上手い具合に今夜は雨になりそうだ」


パソコンの前に座った。
違った、変っている。
東芝だ。
“桜散る”があった。
入ってるはずがない、真っ白だ。
もう駄目だ。
親父はメモリーカードを処分した。
何も残ってないんだ。
このまま終わりなんだ。

部屋を出た。
車に乗ろうとした。
羽交い絞めにあった。
何か匂ってきた。


勤の帰りを待つ間、シュシと薫は、マサコを手助けした。
訃報を聞いて駆けつけた知人、近所の人々、電話の対応に追われた。
マサコには体力も気力も残っていなかった。

5時過ぎになっても勤は帰ってこなかった。
「シュシちゃん、薫ちゃん、今日は御免なさいね。
もう勤が来るとは思うけど、それまで対応お願いできるかしら」
「ええ、勿論です。
お母様、横になりませんか?
ここはシュシと二人で出来ますから」
「ありがとう。
じゃあ、、お願いするわ」
「お腹は空いてませんか?
シュシ、ビーフン作るの美味いのですよ」
「そうよ、マサコちゃん、私、銀座にお店出せるぐらいの腕よ」
「ありがとう」
「じゃあ、シュシ、お母様、寝かせてくる。
さあ、お母様、」
「はい、ありがとう」

薫はマサコの肩を抱いて寝室に向かった。
マサコは泣き出した。
涙が止まらなかった。
「ああ、薫ちゃん、、ごめんなさいね、、」
「お母様、さあ、入って、布団の中に」

7時を過ぎた。
テレビのニュースで松岡行俊の事件を報道した。
「薫!
お父様だよ、自殺だったんだよ!」
「ええ、、!」
「恵美ちゃんに電話する。
私たちじゃあどうしたらいいか分らないもん」
「そうね」

「お母さん、松岡行俊という外務省の役人が自殺したニュース見た?」
「今、やってたわね」
「今、その松岡行俊さんのお家にいるのよ」
「そのお家に?」
「体の弱いお母さんが一人なの。
勤を待ってるのに帰ってこないのよ」
「勤さんって?
この前、薫と病院に見舞った、、息子さんだったの?」
「うん、帰ってこないのよ。
看護婦さん、3時頃、病室に居なかったって。
あたしが話したのが2時半過ぎよ。
マサコさんは3時前に話したって。
家に来るって、言ったのよ」
「4時間も経っているの?
おかしいわね」
「お母さん、マサコさん、体調が心配で。
人は来るし、電話は鳴るしで薫と二人じゃあどうしたらいいか。
助けてよ?」
「すぐ行く」
「お母さん、警察に事故の問い合わせてして。
名前は松岡勤、車はGMのシボレーよ。
それから勤のマンション、カサ・デソル、502号室と駐車場にシボレーがあるか確かめるように言って。
もし無かったら病院の駐車場をチェックするように」
「分ったわ、車種はシボレーね。
マンションの名前はカサ・デ・ソル?」
「そう。502号室よ」
「シュシ、マンションの住所と車のナンバー、、それに病院の名前教えて頂戴。それと、、そこの住所!」



恵美は、寿司弁当を買ってきた。
警察に松岡勤の情報はなかった。
マンションと病院の駐車場は、後で連絡する、とのことだった。

薫とマサコの寝室に向かった。
ドアの音に反応しなかった。
天井を見ていた。

「大丈夫ですか?」
「あ、はい、、」
「お母さんの恵美ちゃんです。
来てくれました」
「どうも申し訳ございません。
こんな時に、、、勤は、、まだ、」
「ええ、、」
「そうですか?
どうしたのでしよう?
、、もしかして、、、」
「もう帰ってくるでしょう。
お腹空いているでしょう?
寿司を買ってきました。
どうぞ。
薫、お茶を持って来て」
「はい」
「御免なさいね、ご迷惑をお掛けして」
「何を言うのですか?
気になさらないで。
まず、お腹を一杯にして元気になりましょう。
その内、勤さんも帰って来るでしょう」

「薫、マサコさんの食事手伝ってあげてね」
「はい」
「後のことは大丈夫ですからね。
安心してお休みくださいね」

食べやすいように、寿司を半分に切って口まで運んであげた。
マサコの口から何度か落ちた。
その度に自分の口に含んだ。
それを見てマサコは少し元気になった。
お茶碗のお湯を、ふーふーして、温度を下げた。
濡れたタオルで手を拭いてあげた。
寝癖の付いた髪を直した。
マサコはその間、ずっと、泣いていた。

自分がやっていたように看病されるなんて、、


恵美は手際よく慰問客を捌いた。
10時を過ぎた頃、やっと落ち着いた
車は勤のマンション駐車場にあったが部屋には居なかった、と通知があった。
マサコに尋ねられたので伝えた。

どこに行ったの、あなたは、?

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

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