ヒッチハイク:プロローグ. ストックホルムこのエントリをはてなブックマークに登録

ヒッチハイク

 
プロローグ:ストックホルム
1:ベルリン
2:ユトレヒト
3:アムステルダム
4:チューリヒ
5:バルセロナ
6:マドリッド.サンチアゴ・ベルナベウ
7:パリ.カトマンズ
8:ブエノスアイレス.プーケット
9:ラパス.クスコ.ゲバラ
10:リマ.カリ
11:ボゴタ.ベトナム戦争
12:中米.カタリ派
13:ラレド.US入国
14:NY.蘇生
15:サンディエゴ.LA.覚醒
16:ダラス.LA脱出
17:NY.再会
18:NY.メグの前世
下19:ウィスラーマウンテン
 20:バンクーバー
 21:シアトル 密入国
 22:東京 強制送還
 23:ハワイ島 コナ
 24:東京 グリーンカード
 25:東京ーNY
 26:NY ケネディ空港
 エピローグ 




フィクションです。    


登場人物

風耕二: 旅人
光 :   不思議な能力を持つ旅人
角さん: NY在住 ギタリスト
マーク・ボラン:  グレン大佐の一人息子
ボブ・レノン:  グレン大佐の部下
ミスターF:ヒーリングパワーをもった造形アーティスト
ロバート・スコット(トレーシー・デービス): 元米兵
キース・スコット:   ロバートの兄。朝鮮戦争の英雄
メグ・C・スコット:  ロバートの姉
チャック・ウォード:  キースの元部下で戦友
アントン・ウォード:  チャックの娘   
シャーキー・マーフィ: CIA工作員
バート・グレン大佐:元南ベトナム駐留米陸軍情報部サイゴン支局長
ジョージ・カミンスキー:ワシントン州選出、共和党上院議員
ハイメ(ジェームス):  アルゼンチンの旅人
パウロとハイディ:   チューリヒに住む学生


プロローグ ストックホルム

おかまのウェイター・ジョンがワインボトルを宙で2回スピンさせ、ケツを振り振り早足で歩いていく。
いつもの光景だ。
よく落とさねぇな。
落ちるよ、
光が言うや、
ギャシャーン!!
落ちた。
ジョンが小走りで飛んできた、
「大変!大変!大変!、
お客様、血まみれ!
助けて、誰か?」

おかま仲間のウェイター達が小走りでホールに向かった。
小走りなんだよな、いつも彼らは。
おう、ミス・エリックだけ大走りだ!
「おい、光、見に行くぞ」
「ほうきとモップはどこだ?」
「俺たちが後片付け、ってこと?」
ミス・エリックの首がホールから、
「ヤパンスカ、早く掃除!」

曲者だ、こいつは。
皿洗いと釜洗いがサボってないかいきなり来る。
釜洗いの光にはウィンクして小指で前髪をゆっくりかき上げ、俺には何もしない。
普段はサーカスの綱渡り、フォークにもけつまずきそうな悲しいぐらいの極端な内股、あわてると大走りなる。
この、偽善者め!
恋人ジョンと光には骨太い声をハスキーに変調し、俺には超低音のオクターブ奏法で迫る。
まったく釣り合いが取れていない2mの巨人だ。
神さん、寝ぼけてボタンかけ違った。

コンサート当日、ガムラスタンのリダホルム教会で、光、角さんと落ち合った。
スカンセンに向かった。

人波に飲まれた。
幼児をバックパックに背負った黒人の青年が角さんの名前を呼んだ。
「ヘイ、角」
「エドワード、元気か。
ジミヘンとなりゃ懐かしくて血が騒ぐようだな」
「モントレー・フェスティバル、67年以来だ。
「クリスティーナも元気そうだな。
もう何歳だ?」
「そろそろ三ヶ月だ。
彼女にもジミヘン聞かせたくてさ」
「生のジミヘンが子守歌になるってのは末恐ろしいな」

女性が角さんに声をかけた。
「角、あなたも来てたのね」
「おーマリアン、探してたんだ。
なんだ後ろにいたのか?」
「エドワードったら、この半年、この日の為だけに生きてるような感じなのよ。
明日からが恐いわ」
「もういいよ、マリアン!
今日だけは楽しませてくれよ」
「じゃな、俺たちは後ろで聴く。
マリアン、クリスィテーナはエドワードに抱かせないほうがいいぞ。
踊りだすから」


借りている部屋の裏手にある、
国が若者のために運営している溜まり場Club4(フイラ)で光に出会った。
そこはロックが夕方から10時までかかっていた。
もちろん、無料だ。
知らない曲、バンド名を彼から教わった。
ホテルの皿洗いの仕事を紹介してくれたのも光だ。
皿洗いが楽なのになぜかしんどい釜洗いをやっている。

角さんと出会ったのは帆船ユースホステル、チャップマンだった。
長髪にヘアーバンド、よれよれのジーパンにギターケース、ストリートミュージシャンだった。

片道切符、$246がすべてだった俺は、
ナホトカ経由でヘルシンキに着いた日からバイトを探した。
異国の地で生きていけるのか不安だった。
何事にも動じない二人の行きかたは新鮮で新しいバイパスが俺の中に生まれていた。

光と角さんはすでに空港で知り合っていたようだ。
ストックの空港でイミグレにパスポート取り上げられて別室行きさ。
すれ違った人が金を手渡してくれたさ、角さんだった。
500$、助かったよ。
あれがなきゃあ、多分、ロンドンに送り返されて日本に送還だった。

コンサートの後、俺の送別会を角さんの部屋でやってくれた。
三ヶ月限定の学生夏季短期アルバイトビザがそろそろ切れる。
二日後に俺が、二週間後に光がここを出る。

「角さん、日本出たのいつですか?」
「64年だ、USにな」
ギンスバーグ(Allen Ginsberg、詩人)ケロアック(Jack Kerouac、作家)等が始めたビートニックに近い世代だ。
羨ましかった。
後数年でこのムーヴメントも総括されるだろう。
微かに余震が感じられるだけ幸せか。

「角さん、USのビザ簡単に取れるとこないですか?」
「去年アムスからモントリオールに行ったんですが、カナダはビザ要らないのに入れてくれなくてアムスに逆戻りですよ、飛行機代まで払わされて」
「イミグレの理由は?」
「USのビザないからか、って聞くと、それもある、って。
納得できない、と言うと領事館から感じのいい中年の女性が来て、こっちに住む気なら日本で手続きして来なさい。
それの一点張りでした」
「イミグレに何か言ったのか?」
「いえ、特別、気に入ったら住むけどそうじゃなきゃあ三ヶ月で帰ります、と言いました」
「馬鹿だな、光、住むなんて言ったらどこにも入れないぞ。
余計なことを言うな。
イミグレにも人種的な偏見持ってるのもいる。
USのビザはアテネで比較的簡単に取れると聞いたことがある。
アテネまで行くなら日本で取ったほうがいい。
耕二、おまえは?」
「スペインまで下って船で南米に行きます」
「ヨーロッパ旅しないのか?」
「日本と変わらないようなんで」
「それで、南米か?」
「US目標にトライしますよ」
「どのくらい貯まった?」
「500です。
下でバイトできるような所ないですか?」
「アムスでバイトやってるのがいたが、スイスのチューリヒだな。
ここほどではないが、マレーシア人の若者がユースに屯していた。
仕事していると言ってた」
「スイスですか?
上手く行くと年が明ける頃、南米に入れそうですね」
「約二ヶ月、上手くいって300。
トータル750から800、船賃は?」
「120$ぐらいです」
「630〜780、、南米つく頃には500もないな。
どうやって、南米、中米、メキシコ、USまでたどり着くかだな。
下、ちんたらちんたら行って金が無くなる前にUSへ飛べ」
「はあ、ビザ、南米で取れますか?」
「ビザ?どこの?」
「USのです」
「持ってないのか!アメリカのビザ!」

大体、USにビザが必要だなんて、光の話でわかったぐらいだ。
「はい」
「やめろ。コロンビア、中米、メキシコ辺りで強制送還だ。耕二、無茶だ」
「無一文になったらバイト探します」 
光があきれた顔をして怒っている。
「おまえ、肝試しに行くのか?」
「それぞれの旅があるんだ。
光、いいじゃないか」

別れ際に聞いてみた。
「エドワードはストック長いんですか?」
「一年少し、と言ってたな。
USに戻れない」
「帰れないのですか?」
「ベトナムに一年いてベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)の助けでここに来た。
ジミヘンのコンサート楽しみにしていたようだが苦しかったかもな、3年前の自分には戻れない。
恐くてハイになって頭にこびりついたジミヘンの残音聴きながら自動小銃ぶっぱなして突っ込むんだ、と言ってた。
当時はビートニックの最盛期だ。
国内では同世代の若者が自由を謳歌しているのに、一方では精神をぼろぼろにされ病んだ自分にうろたえ苦悩している若者がいる。
アメリカ合衆国だな」

角さんのNYの住所をもらって別れた。


チャック・ウォードはこの一年余り空き家なっているニューメキシコ、サンタフェにある一軒屋のドアを開けた。
周りの田園風景とは場違いな錆ついた金属音がした。
昔、よく訪れていた頃とは余りにかけ離れた冷たい音にため息が出た。
カビ、埃臭、見覚えのある居間、台所、壁、床、
よそよそしかった。
去年の自動車事故以来ここではすべてが止まっていた。

くすんだカーテンを開けた。
まぶしかった。
昔と変わらないなつかしい風景があった。
微かに台所から音がした。
流し台脇の時計の針が,
約2時間ほど遅れて時を刻んでいる。
そういえば、
スコット夫人が、
三日で丁度1分遅れる不思議な時計よ、
と話していた。

喉が渇いていた。
蛇口に手を伸ばした。
水は出てこなかった。
冷蔵庫を開けるとコカコーラの瓶が2本とハイネケンのビール瓶が1本見えた。
キースの好みのビールだ。
ゆであがったハイネケンを恐る恐る口に含んだ。
シンクに流した。

二階のキースの部屋に向かった。
主のいない本棚横のキャビネットに2000枚近いレコードが立てかけてあった。
その表面が所々醜く剥がれている。
何かが引掻いたようだ。
床の上に爪の抜け殻が落ちていた。
猫の爪のようだ。

数センチ積もった埃と引っかかれた残骸を取り除いた。
目当てのMiles DavisのSixtetのアルバムを探した。

猫はMilesが嫌いなようだ。
無傷だった。
レコード盤を取り出して5枚の写真をセロテープで固定した。
ジャケットから落ちないのを確認して、
無傷のレコード100枚と共に車に運んだ。

一週間後、チャックはNY76丁ブロードウェイ角にある7階建てのビルに入っていった。
404のインターフォンを押した。

長い間、メグ・スコットはサンディエゴの療養所にいた。
会うのは事故以来だ。
相手ドライバーの飲酒運転が原因だった。
免許を取ってまもない自分の運転で家族を亡くした苦しみが彼女を抜け殻にした。
NYに帰っている、と人伝に知った。
訪問を躊躇していると手紙が届いた。

メグは青白かった。
簡単な挨拶の後、就職した、
と手紙にあったので聞いてみた。

上手く言葉が出てこない。
ため息をはいては手を口に当てている。
いらついているようには見えなかった。
もう諦めているようだ。

サンタフェに行った、と告げた。
言うべきじゃなかった。
彼女の顔が曇った。
用件を話している間、
深いため息をはき続けた。


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