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Sweet Candy Express



5. 黄金の三角地帯 チェンマイ

 
13世紀にメングライ王がここに王国を作って以来、19世紀後半までビルマ族、モン族との争奪の地だった。
そのため、ビルマ族、タイ族、カレン族、メオ族、アカ族、モン族、シャン族の人々が住んでいた。
チエンマイは国際都市だった。
 
二日後チェンライへ行き、そこを拠点に2週間ほど三角地帯に行った。
マエチャンを回りそこから往復6日かけてバンポングまで行った。
マエサイまで行きたがったが、これ以上行くなと兵隊に止められた。
ここら一帯はラオスの共産軍、阿片畑を君臨するクンサの軍隊などでピリピリしていた。

そこからアカ部落へ行った。
車の通らない山路を彼方からこだまする銃声を聞きながら歩くほど心細いものはない。
周りは一面けし畑だ。
途中、肩から古そうな銃をぶら下げた数人とすれ違った。
銃身は剥きだしの木で餓鬼の頃使っていたくたびれた野球バットを思い出した。

入り口ゲートが、子孫繁栄のため性器の形をした部落に着いた。
頼んで泊めてもらった。
高床式の家に案内された。
床は板張りで一、二センチ間隔に隙間があって約2m下に地面が見える。
40前後のおやじさんが、隅のござで横になって阿片を吸っていた。もう長く生きそうもない。
頭痛薬の白い粉をどす黒い樹液に混ぜ、びんに入った石油を数滴たらした。
粘り気を出して吸いやすくするためだ。それを手にとって捏ね、適当な硬さになったところで丸めて針金の先に固定してランプの炎で焼いた。
それを竹パイプに詰めてジュ、ジューと音を出して吸っている。
「アメリカ人、オーストラリア人がよく来るよ」
 彼はとろんとした顔で天井に話しかけた。
 
ここにいる間、おやじさんは阿片の入った喫煙用具を枕元に置いて寝転がっていた。
女性のお年寄りはたくさんいたが男は見えなかった。
阿片で寿命を減らすのだ。
 
ここの女性は、ツイッギーより早くミニスカートを着ていたらしい。
確かに濃い青の綿を織った短いスカートを履いていた。
上半身は長袖のジャケットで、竹の帽子からリスの毛、犬の毛、鳥の羽、ビーズ、インドのシルバー・ルピーなどが垂れている。
祭りで着飾っているのだろう思っていた。
それが普段着だった。
生活は楽そうには見えなかったが、彼らの笑い声と笑顔は絶えることがなかった。


翌日の夕方、見るからに疲れはてた旅人が二人同宿した。
一人は若いカナダ人で名をアランと言った。
もう一人はカラチで会ったロシュトーだった。
一瞬、目が合ったとき目を逸らした。
俺に気づいたようだ。
そ知らぬ振りを装っていたので敢えて話しかけなかった。
彼らのバッグ、靴、ズボンには泥が乾燥してこびりついていた。
数日間、睡眠を取っていなかったのか、頬は窪み、疲れ切った顔をしている。
二人は食事の後、挨拶もそこそこに寝袋に入った。
 
翌朝、チェンライに戻ろうと荷造りをしていると、一緒に行こう、と精悍な顔付きに変わっていたアランが出し抜けに言った。
心細かったので喜んで申し出を受けた。
ロシュトーは目に隈を作って冴えない顔をしている。
彼が右足を庇っていたので俺たちは彼の歩調に合わせた。

アランはすれ違う人々にときたま話しかけていた。
「餓鬼の頃カレン族の知り合いがいてビルマ語を習った。
アカ、ラウ、リス、モン族とは片言だけどな」
彼は奇妙な話をした。
「ユンブリ、またはムラビって聞いたことは?」
「いや」
「この三角地帯のどこかにいるらしい。
ここらの山岳民族にも余り知られていない奇妙な種族だ。
噂では彼らはメオ族しか信用してないらしい。
10人ぐらいで移動し、一か所にとどまることがない。
木の葉の寝床を造り、二、三日して黄色になる頃、移動するので《Spirits of the yellow leaves(黄色の木の葉の精)》とも呼ばれている。
面白いのは彼らの唯一の関心事がサヴァイヴァルなんだ。
《ただ生き延びる》それだけだ。
その意味では世界で最も原始的な種族といえるかもな。
ここには虎が生息しているので、彼らと食いつ食われつの闘いをしていると噂されていたんだが、最近、誰も彼らを見ていない。トラの餌食になったのだろうといわれてる。

ここ三角地帯は小数の種族が無数に群居している世界でも不思議な所だ。
山岳民族に、1949年に蒋介石の国民軍の一派や共産主義を嫌うモスレムの中国人が逃げ込んできた。
カレン族を知っているか?タイ、ビルマ国境に住んでいる約28万ぐらいの部族だ。 
6〜7世紀に中国から来たといわれているがはっきりしない。

おもしろいのは彼らにはクリスチャンが多い。
独自の言葉、習慣を持ち、ビルマ政府と独立闘争をやっている。
19世紀、英国とビルマが戦争したとき、カレンは英と共に戦ったぐらいだからビルマ政府とは犬猿の仲だ。
第二次大戦が始まる1941年頃までイギリス植民地政府は、多数派のビルマ人を抑え込むため少数派のカレン族を優遇して軍人や警察官に採用した
。だが戦争が始まって日本がビルマを占領してからは一変した。
日本に武器供与を受けたアウン・サン将軍を指導者とするビルマ独立義勇軍は、カレンをイギリス側につく敵だとみなしてカレン人を虐殺した。
犠牲者は1000人以上だともいわれている。
戦後、ビルマ人の独立運動が興ったが過去のいきさつからカレンは自ら独立する道を選んだ。
 
1946年にカレン民族運動の指導者、ソ・バウジーは英に渡り支援を訴えた。
だが当時の英アトリー政権は将来の権益確保のため多数派のビルマ側に寝返った。
当初カレンは平和的手段で分離独立運動をやっていた。
しかし1948年に独立したビルマ政府はカレンに対する弾圧を強めていった。
指導者は逮捕され、カレンの村はビルマ軍に襲われた。
やむなくカレンは1949年に武器を手に立ち上がった。

一時は、首都ラングーン近郊まで迫ったが、約四ヶ月あまりの激戦の末、米、英の武器弾薬の支援を受けたビルマ軍によってサルウィン河流域からタイ国境にかけての地域まで追いつめられた。
以来、ソ・バウジーの死や組織の乱れ、兵力の衰えなどでゲリラ戦に活路を求めざるえなくなった。
 
1976年に他の10の小数部族とNDF(民族民主戦線、THE NATIONAL DEMOCRATIC FRONT)を組織して、ネ・ウィンのビルマ政府と戦っていた。
形勢は好転しなかった。
ビルマ政府に反対する学生が逃げてくるようになってますます政府の圧力が強まりタイ側に押されている状態だ。

たまたま俺は餓鬼の頃からカレン族の女性、ラムを知っていたんでカレン族の独立を手伝ってる」
「カレン族の独立?」
「金を送ることぐらいしかできないが、、彼女は俺が昔いたトロントの孤児院で働いていた。
この東洋の女(ひと)のおかげでここまで生きてこれたと思っている。
俺は餓鬼の頃からかなり悪だった。
10にしては体はでかかったし喧嘩は強かったんでトロント中のお巡りが俺を知ってたぐらいだ。
毎日、喧嘩を求めて歩いてたよ。
ポリスに捕まるたびに誰も身寄りがいないんでしかたなくラムの名を言った。
真夜中だろうが、雨が降ろうが、雪が降ろうが、俺を引き取りに来てくれた。
説教、小言、何も言わず。
部屋に着くといつも食事を作ってくれたよ」
「そのために、喧嘩してたんだな」
「そうじゃない!、、、、、、、、、、、、夜中の2時を過ぎてたが、あのクリスマスイブの日も喧嘩して彼女を呼んでもらった。
俺の一番嫌いな時期で街中が舞い上がってた」

アランは言葉を無くした。
遙か下の斜面に拡がるひょろひょろの坊主頭のけしが、風で波打つ様を眺めている。
彼の目は心なしか潤んでいた。
「四時、五時になっても彼女は来なかった。
そのときにはもうラムは死んでたってえのに!
馬鹿な俺はてめえのことしか頭になくて拗ねてた!」

彼の涙が見えたのか、けしは一斉に頭を下げて不安定に揺れた。
アランはしばらく遠くへいった。

そして、「勝手に喋って悪かった」と言った。
「構わなければ続きを聞かしてくれ」 
ロシュトーもその先を聞きたがっているのが見て取れた。
「夜明け前、パトカーで病院へ行った。
ラムはベッドで寝ていた。
頭と耳に血がこびりついていた。
お巡りが酔っ払いに轢かれたと言った。ここに来るまで俺の名を呼び続けてたってな。
俺が、、、俺がこんなんじゃなかったら、と思うと、、、、、、、、、」

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

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