4:キャラメル超特急 バンコクこのエントリをはてなブックマークに登録

Sweet Candy Express



4.Midnight Express・バンコク



バンコックに戻るバスでオーストラリアの旅人と一緒になった。
ビーチで数回見かけて挨拶はしていたが彼とは余り話したくなかった。
自分の思いつくままに喋って一人で悦に入る質だ。
絶えずどこか体の一部が動いている
落ち着けない。

プーケットを出て3時間後に止まった休憩所で、席に戻ると俺の座席隣に座っていた。
「いゃあ、あんたも乗ってたんだな。
あのタイ人に替わってもらった。
同じバスってのも奇遇だな。
え?バス旅は退屈だからあんたがいたんで助かったぜ。
カトマンズでジャパニーズには世話になったよ。
飯おごってくれて、おまけに大事なもんまで運んでくれた」
辺りを見回して小声で言った。
「大事なもんてのは何か分かる?
ハシシだよ。
一月前に成功したんだ。
カトマンズから運んだ。
いくらあったと思う」
「誰が乗っている分からないからそれ以上は話さないほうがいい」

夜中、うつらうつらしている俺に小声で話しかけてきた。
「2kだぜ、驚いたろう。
どうやって運んだかなんて聞くなよ。
独創的な、今だかってなかった方法だ」
「独創的?独創的な方法で運んだハシシか。
お笑いだな。その名前でも付けて売ったら」
「ああ、言われなくても考えてる。
あんた、どんな方法か想像できないだろうが」
「想像する?そんな馬鹿なこと考えたことないからな」
「ヒントをあげようか。俺は一番、安全ってね」
「他人の持ち物に入れて後で回収するんだろう」
「いい線いってる。
登山隊さ。
どこの登山隊でもよかったんだが、たまたまジャパンからの登山隊がいてな。
その荷物の中に2kのハシシが入った俺の寝袋を紛れ込ました。準備は大変だったぜ。
飛行機の出発日時。
彼らの荷物がどこに行くか。
まっすぐジャパンに行かれちゃあ笑い話になるからな。
それに寝袋を紛れ込ますタイミングとかよ。
寝袋に2kのハシシを上手く隠すのも大変だった。
俺たち白人には甘いんで正直なとこ登山隊がジャパニーズで助かったぜ。
アジア人、黒人、彼らには見る目つきからして違うのに白人には甘いんだな、あんたの国は。
それで助かったんだから俺にゃ文句はねえんだが。
その登山隊は国際協力隊だったらしくて税関の検査は簡単でな。
タイの空港で寝袋、抜き取った後すぐおさらばしたかったが飯までおごってくれてな。
え、お笑いだろう。
2kのハシシがフリーパスってんだからな。
とにかく至れり尽くせりでジャパニーズ様様だったぜ」
「2kのハシシなんて爆弾抱えているようなもんだろう」
「爆弾、、、、?ああ、言えてるな。
バンコックで何度か売ろうとしたんだが、、、、。
あるコネでサイアム広場のバーで取り引きすることになった。約束の時間は夜10時だったが偵察をかねて一時間早く行ったんだ。
ブランディをシャツにぶっかけ酔った振りしてな。
約束の時間、間際になって何かがおかしいのに気づいたよ。
暗闇で数人の人間が目配せしたり手で合図してんだ。
胸騒ぎがしてトイレに行って窓から噸ずらした。
出たとこが店の裏でな。
そこからお巡りらしいのが4〜5人、入り口に屯してるのが見えた。
恐いとこだぜバンコックは。
お前、知ってるか?
バンコックのドンムアン空港は私服のお巡りだらけだっての」
「まだ爆弾を抱えてるわけだ」
「メルボルンまで運ぶつもりだ」
 
2kのハシシに一生を賭けているような深刻な顔でバスの天井を眺めている。
成功したとしても、気苦労を思うとまったく御苦労さんだ。
わずかばかりの泡銭と捕まって馬鹿をみるのを比べても割に合わないのは一目瞭然なのに。

「もうジャパニーズの登山隊はいねえし。
陸伝いでマレーシアに行こうとチェックしたんだが難しそうでな。
マレーシアのぺナン空港までうまく運べたら国まで運ぶ自信はあんだが。
問題はあそこはヘロイン、2グラムで死刑なんだ。
ハシシなら2〜30年以上ってとこだろうな、、。
バンコックの空港からは自信ないし、、、」
「そんなに悩んでるなら捨てな。
メルボルンまで運んで売っても監獄に入る年数は遊んで暮らせないだろう」
「抜け道があんだな。
大人は2グラムで死刑だが子どもは罪になんねえ。
子どもに運んでもらうってのもあんだよ」

「馬鹿なことを!アラン・パーカー(Alan Parker)監督の『Midnight Express(深夜特急』って映画見たか?1970年にあった実 話を映画化した」
「いや」
「2kのハシシをテープで体に巻き付けてトルコからアメリカに運ぼうとしたアメリカ人旅行者の話さ。
そういゃあ、そっちも2kだったか」
 彼は真剣な顔になった。
「俳優のブラッド・デビス(Brad Davis)が主人公の役だったが名前は忘れた。
サングラスをした主人公がイスタンブール空港の搭乗待合室でニューヨーク行きだったかな、搭乗アナンスを待っている。
煙草をせわしなく吸ってびっちり汗かいてな。
バックに流れている音が心臓の鼓動でもう特急みたいな速さだ。
周りには百人以上の乗客がいて、誰が見ても彼が異常に緊張しているのが分かる。
彼は自分を落ち着かせようとトイレへ行くんだ。
テープで体に巻いたハシシをチェックした後、待合室に戻ると乗客は誰もいない。
あわてた彼は係員の制止も聞かず搭乗口を駆け抜けて連絡バスに乗るんだが、彼の挙動不審がセキュオリティの兵隊に怪しまれる。

連絡バスから飛行機に乗り込むとき、50人ほどの兵隊が待ち受けている。
乗客はタラップの前で体を触られ身体検査をされる。
 
彼の順番だ。
検査が終わるや、30以上の銃口を一斉に向けられるんだ。
彼が夜空に両手を突き上げる場面は圧巻だった。

当時、ハイジャックが多かったからテロリストだと思われたんだな。
兵隊は爆弾を体に巻いていると思った。
今にも発砲しそうな真剣な表情だ。

それがハシシだと分かった途端、みんなバカ笑いさ。
つられて主人公も笑う。
《なんだハシシ運びは笑えることなんだ》ぐらいに軽く彼は思ったっただろうな。
みんな楽しそうに笑ってるから俺もそう感じた。

しかし、そうじゃなかった。
彼の両親は金のかかる弁護士を雇い、アメリカ大使館はトルコ政府に働きかけた。
やれることはすべてやったが徒労に終わる。
一度、逃亡しようとしたからそれも加算されたんだが、結局、30年以上の刑を言い渡される。

監獄の中には数人のアメリカ人、ヨーロッパ人がいた。
みんな気の遠くなるような刑期を宣告されてもう屍さ。
彼らの心情を表わす言葉なんてない。

俺はそんなへまなんかしない、なんて言わないほうがいい。
ドラッグには成功もヘマもない。
どっちも割に合わないつまらないことだからな」
「で、最後はどうなるんだ!」
「それから5年後だったか、、、当時、一緒にトルコを旅行していたガールフレンドが面会に来る。
すべてを諦め抜け殻になっている主人公に彼女が強く言うんだ。
“ここをなんとしても抜け出さないと駄目だ”、ってね。

そのとき、彼女、金を巧妙に隠した家族の写真集を置いていく。
主人公は脱獄を決意する。
75年、看守を偶発的に殺して脱獄に成功する。
心身の傷、時間、多大な犠牲を払ってな。

たかがハシシがそうじゃないんだ。
決行する前に《Midnight Express》のビデオを見たほうがいい」
「《Midnight Express》の意味は心臓の鼓動のことか?」
「escape(脱出)の意味らしい」

翌朝、バンコックで悩めるオーストラリア人と別れた。
 
バンコックは巨大な排気ガスの街だ。
通りで見かける片足を上げたキックボクサーのポスターが脳裏から離れない。
落ち着けなかった。

3日後、バスでチェンマイに向かった。
想像していたとおりの静かな町並で寺院が多かった。
その多さは町の大きさを考慮するとバンコックの比ではなかった。

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

この記事を見ている人は、次の記事も見ています。

ロードしています....

最新エントリー

Trackbackについて

Trackback policy - トラックバック・ポリシー

言及リンクは特に必要ありません(が承認待ちになることがあります)。初めてされる方もお気軽にどうぞー。内容が良かった場合はこちらからもトラックバックを送らせていただくことがあります。また、内容が悪質な宣伝目的やスパムと思われるものや全く関係のないトラックバックは削除します。

以上に了承された方は下記のTBアドレスを御使用ください。


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

comment

comments:
0 Responses to " 4:キャラメル超特急 バンコク "
Secret

dorock修

Author:dorock修
物語,音楽をとおして何かを共有できないか、心に入り込めないか探っている者です。
リンクのdorockmuzie/junkmusicをクリックしていただければ、junkな音が、

最近の記事
dorock 全作品一覧

全ての記事を表示する

CATEGORIES

MONTHLY

Ranking

ブログランキング・にほんブログ村へブログランキング

fc2
Track Back
Comment
Mail Form

名前:
メール:
件名:
本文:

you're welcome

k2

FC2ブログジャンキー

「アクセス数が全然伸びない…」そんな悩みをブログジャンキーが解決します!

RSS Link
QR
QRコード

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ