14:With a little help. 花子さん
with a little help from Stranger
14:花子さん
徹の母親、花子さんがアフリカの旅から帰ってきた。
黒髪を後ろで束ね、顔は面長、頬に徹と瓜二つのそばかすがある。
目はマイナス15度にも冷えあがった夜明け、そこだけ太陽の日差しにそっぽを向かれ、取り残されて数日も屋根から垂れ下がっているつららのようだ。
しがみついているわけでもなく、ただ垂れ下がっているだけなのに、先は鋭くとがって透き通っている。芯が強そうだ。
肩にバック・パック、ジーパンにアーミーコート姿、旅人がそうであるように戦場から今帰ってきたような雰囲気とエネルギーに溢れていた。
「あなたがGOね。ハワイではKISSが世話になってありがとう」
テレビの上の太鼓を見て含み笑いした時、右口元に恥ずかしそうにえくぼが現れた。
神様も粋なことをするものだ。
「徹へのプレゼントなの。いい音がするでしょう?」
勢い良くドアを開けて徹が花子さんの胸に飛び込んできた。
「花子!お帰り!」
「徹、元気そうね。キャシーはバンドに入れてあげたんでしょうね?」
「もちだよ!楽器弾けないからパーカッションやってる。あの太鼓、キャシーが使ってもいいでしょう?」
「ええ、あなたへのプレゼントだからお好きなように」
ロベルトを見舞ってきたKISSが帰ってきた。
花子さんがいるのを見て、右手がドアの取っ手に張り付いたままだ。顔が赤い、彼女が好きなのだ、だけど言えない、って感じだ。
いい年してこうなるとは、想像していなかった、自分もあまりそう言えない立場だが。
話は俺とKISSの出会いに移っていた。ペレの神のことを徹が話している。
あまり触れたくないことだったので俺達は顔を見合わせて貝になろうとしていたが、徹はそうさせる気はないようだ。
花子さんが俺を見た。「GO、何のことなの留置所って?」
KISSが話そうとしないから回ってきた。好きな女(ひと)の前で、トイレット・ペーパーを落として捕まったなんて誰が言えよう。彼の同意を得てホノルルでの出来事を話した。
「あなた運が悪いわね。なぜ話してくれなかったの?」
「ハワイから帰ってきて二日後にはアフリカだろう。話す時間なんてなかった。
罰金5千$はもう払った。公共サービスは後二時間で終わりだ」
「公共サービスは何をやっているの?」
「朝早くから公園の清掃」
徹が納得したように声を上げた。
「おかしいと思ってたんだ、徹夜のついでにお仕事していたんだ」
徹が自分の部屋からマウナ・ロアの石を持ってきた。よかった、これでKISSが解放される。
自分で落としておいて助け舟を出す、しぶとい子どもだ。
「うわあ、すごいエネルギーね。これがマウナロアの石ね?」
「ここまで運ばれて来てエネルギーが増したんだよ。KISSは気付いてないんだ。臭い靴下に包んで送ってたんだから。代わりにロベルト叔父さんが倒れたんだ」
「え、ロベルトが倒れたの!」
「糖尿が悪化して後二週間ぐらい入院が必要らしい。俺のせいだよ、プレゼントにその石あげたから」
「ああ、、、聞いたことがあるわ」
「そうなんだよ、いろんなことが起きたんだよ。KISSが捕まったり、ロベルト叔父さんが倒れたり。でも二人がハワイで会えたのはペレのおかげだよ」
最後の言葉は信じられなかった、もしそうなら俺が濡れ衣で捕まったのもペレの仕業ということになる。見透かしたように徹が言葉を続けた。
「GOも捕まったでしょう。でも結局何も起きなかったでしょう?そして今ここにいるでしょう。
すべてそうなってたんだ、ペレが仕向けたんだよ」
言葉が無かった、確かにここに来る気になったのはKISSと出会ったからだ。
「恐ろしい神様のようだけどいいこともやるのね。今でも旅行者が黙って持ち帰った何千もの石がハワイ島に送り返されているそうよ。世界中で火山が噴火した時、ペレの亡霊を見た、って報告もね」
「GOがこの前言ってたが、神様なのになんで化けて人を試すんだ?」
「同じ境遇に落として考えさせたいのでしょう。強烈だけど」
「神様がやることじゃあないな」
「KISS、言葉を慎んだほうがいいぞ。ここにいるんだからな」
「そう。素直に受け入れなさいよ。ペレの神はそうなのよ。あなたの落としたトイレット・ぺーパーがたまたまお巡りさんに当たったのも関係があると思いなさい。マウナ・ロアは約50万年前に火山活動のピークを終えたのよ。でも当時よりどんどん山自体は沈んでるの」
「なぜ沈むの?」
「その溶岩の重みで海底がたわんだの。マウナ・ロアの横にあるマウナ・ケアなんて、この40万年で、千Mも沈んだのよ」
花子さんは旅の垢をシャワーで洗い流した後、アフリカの旅のことを話した。
「俺の先祖様は?」
「スプキ・ウッチャパイ・ラッパなんて、似たような名前が多いのよ。村の名前だけじゃあ。
もう少し情報が無いと無理ね」
「詳しくひいお祖母ちゃんに聞いときゃあよかった。サハラ砂漠はヒッチハイクしたのか?」
「ええ、夢だったからやったわよ。でも大変だったわ。うまくトラックをヒッチしたの。向こうの夜は運転手が毛布を体に巻いて運転するぐらいとても寒いの。私の寝袋はそんなに暖かくなかったから足だけその毛布の端に入れてたのよ。そうしたら運転手が触ってきたの。それが嫌で足を毛布から出すでしょう。でも寒いからまた入れたわ。そうするとまた触ってくるのよ」
「ふざけた野郎だな。何ともなかったのか」
KISSの耳まで紅潮した。
「足を触られた以外はね。でも、あの運転手はいい人だったのかな、と今感じてる。あれは変な下心じゃなくて、ただ私の足を温めてやろうとしてたのかなって。過剰反応で気持ちを汲み取れなかったの。 気持ちが通じ合うって難しいわね。
アフリカは初めてだったからわくわくしてた、旅の始はね。でもだんだん落ち込んじゃった。
今でもヨーロッパのエゴがアフリカ人を殺してるってとこね。今の紛争のもとは結局ヨーロッパ植民地時代の都合のいい国境の線引きにあるの。国境線が直線の所がたくさんあるわ。そもそも人為的な配慮なんてなかったの。ヨーロッパ人がアフリカに行って現地人に会った時、ヒトかサルか分からなかった、なんて書いてある本があるぐらいよ。幼児の頃から自分たちの宗教、文化が優れているという狭い観念の枠組みが形成されているからアフリカ人を劣った人種としか見れないのよ」
気になっていたことを聞いた。
「花子さんの旦那さんはポーランド生まれだったの?」
「ええ、」
「徹を前にして悪いけど先祖にそういう人がいたの?」
「この子のパワーのことね。ええ。彼の母方の家系にいたらしいわ。中世ヨーロッパで魔女狩りがあったのは知ってるでしょう。精神病院に入れられたり殺された人たちの中にはそういう不思議な力を持っていた人がたくさんいたんですって。教会が彼らを恐がった、ってお母さんが言ってた。
普通の人より少し広い常識を超えた世界に住んでいるから排除されるのよ」
「恐い話だな、、俺達が知らない世界の秘密を喋って閉じ込められてたんだ」
「ええ、GOの言うとおりよ。私達はとっても小さな世界に生きているの。それが少しでも広くなるともう駄目ね。常識を失ったと見なされるか命を落とすわ」
「そういう能力を持ってると、どうなんだろう?自分が優れているとか偉いとか思わないのかな?」
「宗教興してお金集めに奔走するのかな。それが普通の最悪のパターン。ただ活用してないだけでみんなそういう力を持っているのに」
14:花子さん
徹の母親、花子さんがアフリカの旅から帰ってきた。
黒髪を後ろで束ね、顔は面長、頬に徹と瓜二つのそばかすがある。
目はマイナス15度にも冷えあがった夜明け、そこだけ太陽の日差しにそっぽを向かれ、取り残されて数日も屋根から垂れ下がっているつららのようだ。
しがみついているわけでもなく、ただ垂れ下がっているだけなのに、先は鋭くとがって透き通っている。芯が強そうだ。
肩にバック・パック、ジーパンにアーミーコート姿、旅人がそうであるように戦場から今帰ってきたような雰囲気とエネルギーに溢れていた。
「あなたがGOね。ハワイではKISSが世話になってありがとう」
テレビの上の太鼓を見て含み笑いした時、右口元に恥ずかしそうにえくぼが現れた。
神様も粋なことをするものだ。
「徹へのプレゼントなの。いい音がするでしょう?」
勢い良くドアを開けて徹が花子さんの胸に飛び込んできた。
「花子!お帰り!」
「徹、元気そうね。キャシーはバンドに入れてあげたんでしょうね?」
「もちだよ!楽器弾けないからパーカッションやってる。あの太鼓、キャシーが使ってもいいでしょう?」
「ええ、あなたへのプレゼントだからお好きなように」
ロベルトを見舞ってきたKISSが帰ってきた。
花子さんがいるのを見て、右手がドアの取っ手に張り付いたままだ。顔が赤い、彼女が好きなのだ、だけど言えない、って感じだ。
いい年してこうなるとは、想像していなかった、自分もあまりそう言えない立場だが。
話は俺とKISSの出会いに移っていた。ペレの神のことを徹が話している。
あまり触れたくないことだったので俺達は顔を見合わせて貝になろうとしていたが、徹はそうさせる気はないようだ。
花子さんが俺を見た。「GO、何のことなの留置所って?」
KISSが話そうとしないから回ってきた。好きな女(ひと)の前で、トイレット・ペーパーを落として捕まったなんて誰が言えよう。彼の同意を得てホノルルでの出来事を話した。
「あなた運が悪いわね。なぜ話してくれなかったの?」
「ハワイから帰ってきて二日後にはアフリカだろう。話す時間なんてなかった。
罰金5千$はもう払った。公共サービスは後二時間で終わりだ」
「公共サービスは何をやっているの?」
「朝早くから公園の清掃」
徹が納得したように声を上げた。
「おかしいと思ってたんだ、徹夜のついでにお仕事していたんだ」
徹が自分の部屋からマウナ・ロアの石を持ってきた。よかった、これでKISSが解放される。
自分で落としておいて助け舟を出す、しぶとい子どもだ。
「うわあ、すごいエネルギーね。これがマウナロアの石ね?」
「ここまで運ばれて来てエネルギーが増したんだよ。KISSは気付いてないんだ。臭い靴下に包んで送ってたんだから。代わりにロベルト叔父さんが倒れたんだ」
「え、ロベルトが倒れたの!」
「糖尿が悪化して後二週間ぐらい入院が必要らしい。俺のせいだよ、プレゼントにその石あげたから」
「ああ、、、聞いたことがあるわ」
「そうなんだよ、いろんなことが起きたんだよ。KISSが捕まったり、ロベルト叔父さんが倒れたり。でも二人がハワイで会えたのはペレのおかげだよ」
最後の言葉は信じられなかった、もしそうなら俺が濡れ衣で捕まったのもペレの仕業ということになる。見透かしたように徹が言葉を続けた。
「GOも捕まったでしょう。でも結局何も起きなかったでしょう?そして今ここにいるでしょう。
すべてそうなってたんだ、ペレが仕向けたんだよ」
言葉が無かった、確かにここに来る気になったのはKISSと出会ったからだ。
「恐ろしい神様のようだけどいいこともやるのね。今でも旅行者が黙って持ち帰った何千もの石がハワイ島に送り返されているそうよ。世界中で火山が噴火した時、ペレの亡霊を見た、って報告もね」
「GOがこの前言ってたが、神様なのになんで化けて人を試すんだ?」
「同じ境遇に落として考えさせたいのでしょう。強烈だけど」
「神様がやることじゃあないな」
「KISS、言葉を慎んだほうがいいぞ。ここにいるんだからな」
「そう。素直に受け入れなさいよ。ペレの神はそうなのよ。あなたの落としたトイレット・ぺーパーがたまたまお巡りさんに当たったのも関係があると思いなさい。マウナ・ロアは約50万年前に火山活動のピークを終えたのよ。でも当時よりどんどん山自体は沈んでるの」
「なぜ沈むの?」
「その溶岩の重みで海底がたわんだの。マウナ・ロアの横にあるマウナ・ケアなんて、この40万年で、千Mも沈んだのよ」
花子さんは旅の垢をシャワーで洗い流した後、アフリカの旅のことを話した。
「俺の先祖様は?」
「スプキ・ウッチャパイ・ラッパなんて、似たような名前が多いのよ。村の名前だけじゃあ。
もう少し情報が無いと無理ね」
「詳しくひいお祖母ちゃんに聞いときゃあよかった。サハラ砂漠はヒッチハイクしたのか?」
「ええ、夢だったからやったわよ。でも大変だったわ。うまくトラックをヒッチしたの。向こうの夜は運転手が毛布を体に巻いて運転するぐらいとても寒いの。私の寝袋はそんなに暖かくなかったから足だけその毛布の端に入れてたのよ。そうしたら運転手が触ってきたの。それが嫌で足を毛布から出すでしょう。でも寒いからまた入れたわ。そうするとまた触ってくるのよ」
「ふざけた野郎だな。何ともなかったのか」
KISSの耳まで紅潮した。
「足を触られた以外はね。でも、あの運転手はいい人だったのかな、と今感じてる。あれは変な下心じゃなくて、ただ私の足を温めてやろうとしてたのかなって。過剰反応で気持ちを汲み取れなかったの。 気持ちが通じ合うって難しいわね。
アフリカは初めてだったからわくわくしてた、旅の始はね。でもだんだん落ち込んじゃった。
今でもヨーロッパのエゴがアフリカ人を殺してるってとこね。今の紛争のもとは結局ヨーロッパ植民地時代の都合のいい国境の線引きにあるの。国境線が直線の所がたくさんあるわ。そもそも人為的な配慮なんてなかったの。ヨーロッパ人がアフリカに行って現地人に会った時、ヒトかサルか分からなかった、なんて書いてある本があるぐらいよ。幼児の頃から自分たちの宗教、文化が優れているという狭い観念の枠組みが形成されているからアフリカ人を劣った人種としか見れないのよ」
気になっていたことを聞いた。
「花子さんの旦那さんはポーランド生まれだったの?」
「ええ、」
「徹を前にして悪いけど先祖にそういう人がいたの?」
「この子のパワーのことね。ええ。彼の母方の家系にいたらしいわ。中世ヨーロッパで魔女狩りがあったのは知ってるでしょう。精神病院に入れられたり殺された人たちの中にはそういう不思議な力を持っていた人がたくさんいたんですって。教会が彼らを恐がった、ってお母さんが言ってた。
普通の人より少し広い常識を超えた世界に住んでいるから排除されるのよ」
「恐い話だな、、俺達が知らない世界の秘密を喋って閉じ込められてたんだ」
「ええ、GOの言うとおりよ。私達はとっても小さな世界に生きているの。それが少しでも広くなるともう駄目ね。常識を失ったと見なされるか命を落とすわ」
「そういう能力を持ってると、どうなんだろう?自分が優れているとか偉いとか思わないのかな?」
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- [ 上:With a little ]
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