完:キャラメル エピローグ
完
キャラメル超特急
Sweet Candy Exress
エピローグ
レジナルド・ダリはニース郊外の療養所にいた。
派遣された刑事は、事情聴取の結果、レジナルドが事件とは無関係との印象を強く持った。
動機を見つけることが出来なかった。
事件当時、急性コカイン中毒になってはいたが常習者ではなかった,と担当の医者が当時の診断書を手に説明した。
しかし、コインロッカーで発見されたプラスチックバッグに付着していた指紋、その中から検出された二本の毛髪、コインロッカーの鍵に付着していた指紋、いずれも彼のものだった。
それらの事実を覆すだけのものを得ることができなかった。
レジナルドは無実を主張してNY市警に再三マスコミに公表するように迫ったが市警は相手にしなかった。
半年が経っても事件の解明は程遠かった。
警察官が一人亡くなっていたが、事件の関係者が仏人と中国人ということもあって人々の関心は既に薄れていた。
レジナルドは外務省を懲戒免職され、モナコでひっそりと暮らしていた。
事件当時、仏の威信をひどく傷つけた、と世論はもちろんのこと身内からも断罪された。
今もってまったく不可解な事件で到底納得できるものではなかったので、全財産を注ぎ込んで汚名を晴らそうとした。
しかし、その道では一、二を争う調査事務所の報告書はかんばしくなかった。
事件後、NYチャイニーズギャング抗争が激しくなり、NYチャイナタウン・飛龍ギャングボス王暁達、安良堂ゴッドファーザだった陸定駿は暗殺され、リュウの父親、童恩正は事件当日から行方不明で福建省に逃げたと噂されていた。
誰がコカインを盗んだのかが調査の焦点だったが、報告ではあいまいな見解に終始していた。
事件を仕組んだ疑わしい人物として、童恩正の後釜に座った現福建青年ギャングボス、現安良堂ゴッドファーザ、他、事件後のし上がった十名以上のチャイニーズギャングボスの名前が報告書に書かれていた。
我々、業界の社会通念として、チャイニーズ内の権力抗争について情報を知り得るのは不可能に近い、と締め括っていた。
事件から七ヶ月たっても市警はその後の進展をマスコミに公表することなく固く口を閉ざしていた。
当初の疑問点の解明は進まず、公表するだけの材料がないのが事実だった。
チャイニーズギャング抗争の名のもと、未解決事件として終わる運命にあった。
市警の未解決事件のファイルに、下記の報告書が付け加えられた。
飛龍ギャングボス、王暁達は、駐カナダ仏大使・レジナルド・ダリ、NY大学生・クリストファー・リーと共謀して、福建青年ギャングボス・童恩正が安良堂のゴッドファーザ・陸家駿に貢いでいたコカインを盗もうと計画した。
貢いでいたコカインを証拠としてリュウ・Tの父親、童恩正と陸家駿の密接な関係を脅し、チャイナタウンでの地位を得ようとしたものと推測される。
彼は自分の名が表に出ることを恐れ、レジナルドとリー、二人の仕業に見せかけようとした。
コカインを盗んだ後、口封じのためリーとレジナルドを殺そうとしたが、童恩正の息子、リュウ・Tの介入にあい失敗する。
そこで、リュウ・Tが、リー、レジナルドの二人をオーバドースに見せかけて殺そうとしたように画策した。
5.5kgのコカインの内、3kgをペンシルバニア駅構内のコインロッカーに入れておいた。
いずれリュウ・Tに発見されるようにその鍵を909の部屋に置いていた。
前駐カナダ仏大使、レジナルド・ダリはこの事件に関与していなかった可能性が大である。
しかし、現時点ではそれを立証するだけの証拠を見い出せない。
チャイニーズギャング内の抗争が本件の要因だと思われるが、多くの関係者が既に死亡、もしくは行方不明で真相解明ははなはだ困難といわざるをえない。
クリストファー・リーがコカイン所持で、罰金1000$の刑を受けただけで、結局、誰一人としてこの事件で捕まる者はいなかった。
十二月、レジナルドは、学生ビザの延長が認められず、任意送還の形で仏に戻ってきたクリストファー・リーに事件以来、初めて会った。
会うまでは殺したいほど憎んでいたが、彼のやつれた顔、痩せた姿を見て、意に反して優しい言葉をかけていた。
彼の口からコカインを盗んでいないという事実を改めて聞かされたが、もう外務省を体よく追い払われていたのでチャイニーズにうまく利用されたと諦めていた。
カナダ大使に就任してジャン・メルク・トト(ロシュトー)を殺すまでは上手く行っていたのに、
今度の事件はジャン殺しとは関係なかったのだろうか。
わずか一月の隔たりしかない。
殺し屋を送ったのが私だと知って彼の身内が復讐しようとしたのだろうか。
依頼人が私だと知っているのはマルセイユに住む代理人だけだ。
職業柄、彼が秘密をばらすとは思えない。
10年前、ジャン・メルク・トトの交友関係、血縁、金、すべてを徹底的に調べ上げた。
今年、18歳になる娘の他に血縁関係者はいなかった。
8年前に約百万$の遺産をユネスコに寄付していた。
ADメンバー、革命細胞以外の交友関係は皆無だった。
テロ仲間を友達と呼べるのかどうかは分からないが、驚いたことに彼には普通一般でいうところの友達がいなかった。
平気で仲間を売るようなテロリストのために復讐を企てるような、そんな酔狂な友達がいるとは到底思えなかった。
今年一月、バンクーバ移住後の交遊関係をある調査会社に調べてもらったところ、月に数回、訪ねてくる探偵以外の人とは付き合いはないとのことだった。
その探偵も警察の意向を受けて彼を訪ねているようだ、と報告書に書いてあった。
1985年7月終わりから半年余りのジャンのアジア旅行も調べてみたが、調査会社から彼の足跡をたどるのは不可能なので中止したい、と数週間後、連絡があった。
《ジャン・メルク・トトに友人がいる》
レジナルドの思考範囲を超えていた。
アランから、昨日、俺がなりすましていたトロントの日系二世、マーク・アンソニーが亡くなったと、連絡があった。
トム・スコット、アランの分身は既に一月前、世を去ったと知らされていた。
これで、一応、俺達に繋がるものはなくなった。
アランは、居間でモモを抱いて座っているマコトのデッサンをしていた。
いつもかけているFMラジオ局の女性アナウンサーからなじみの名前が飛んできた。
あらあら、文面からすると悲しい恋物語のようよ。
じゃあ読むわよ!
差出人はラム。
相手はウィスラーマウンテンに住むアラン!
『アラン、久しぶり。
そろそろ私は旅立とうと思います。
レジーがあなたたちに何をするのか心配で見守っていたけど、やっと誰にも迷惑をかけずに生きていく決心をしたようよ。
彼のことを忘れて幸せな家庭を作ってね。
あなたが危険を冒して私の家族にしてくれたことは忘れません。
ほんとうにありがとう。
アラン、この曲でお別れよ。
さようなら』
はい!
では、リクエスト曲!
とって〜も〜ふ〜る〜い曲で!
キャット・ステーヴンス!!!
《Wild World!》
マコトの目が潤んでいた。
遠い昔、ラムが自分を抱いてくれた記憶がよぎった。
モモが幼い頃の自分とだぶった。
外は一面、純白の雪景色だった。
朝日を浴びて、まるでラムが亡くなった早朝のようだ。
今日はクリスマスだ、、ラムの命日だ、
完 おさむ
参考図書
テロ白書/ アメリカ合衆国政府編 高井三郎訳 ミリタリー・プレス・ジャパン
こころを鍛えるインド/ 伊東武著 講談社
森の回廊/ 吉田敏浩著 NHK出版
麻薬/松本利秋著 かや書房
日本赤軍派/ パトリシア・スタインホフ著 木村由美子訳 河出書房
マイアミ・コネクション/ホ ル エティ マュ コ サホカル セイラ ウォ ルテン 共著植村修訳 朝日新聞社
SWATテクニック/ 毛利元貞著 並木書房
ナチ占領下のパリ/ 長谷川公昭著 草思社
チャイナ・コネクション/ 森田靖郎著 日本評論社
証拠は語る/ ディヴィッド・フィッシャー著 小林宏明訳 ソニー・マガジンズ
キャラメル超特急
Sweet Candy Exress
エピローグ
レジナルド・ダリはニース郊外の療養所にいた。
派遣された刑事は、事情聴取の結果、レジナルドが事件とは無関係との印象を強く持った。
動機を見つけることが出来なかった。
事件当時、急性コカイン中毒になってはいたが常習者ではなかった,と担当の医者が当時の診断書を手に説明した。
しかし、コインロッカーで発見されたプラスチックバッグに付着していた指紋、その中から検出された二本の毛髪、コインロッカーの鍵に付着していた指紋、いずれも彼のものだった。
それらの事実を覆すだけのものを得ることができなかった。
レジナルドは無実を主張してNY市警に再三マスコミに公表するように迫ったが市警は相手にしなかった。
半年が経っても事件の解明は程遠かった。
警察官が一人亡くなっていたが、事件の関係者が仏人と中国人ということもあって人々の関心は既に薄れていた。
レジナルドは外務省を懲戒免職され、モナコでひっそりと暮らしていた。
事件当時、仏の威信をひどく傷つけた、と世論はもちろんのこと身内からも断罪された。
今もってまったく不可解な事件で到底納得できるものではなかったので、全財産を注ぎ込んで汚名を晴らそうとした。
しかし、その道では一、二を争う調査事務所の報告書はかんばしくなかった。
事件後、NYチャイニーズギャング抗争が激しくなり、NYチャイナタウン・飛龍ギャングボス王暁達、安良堂ゴッドファーザだった陸定駿は暗殺され、リュウの父親、童恩正は事件当日から行方不明で福建省に逃げたと噂されていた。
誰がコカインを盗んだのかが調査の焦点だったが、報告ではあいまいな見解に終始していた。
事件を仕組んだ疑わしい人物として、童恩正の後釜に座った現福建青年ギャングボス、現安良堂ゴッドファーザ、他、事件後のし上がった十名以上のチャイニーズギャングボスの名前が報告書に書かれていた。
我々、業界の社会通念として、チャイニーズ内の権力抗争について情報を知り得るのは不可能に近い、と締め括っていた。
事件から七ヶ月たっても市警はその後の進展をマスコミに公表することなく固く口を閉ざしていた。
当初の疑問点の解明は進まず、公表するだけの材料がないのが事実だった。
チャイニーズギャング抗争の名のもと、未解決事件として終わる運命にあった。
市警の未解決事件のファイルに、下記の報告書が付け加えられた。
飛龍ギャングボス、王暁達は、駐カナダ仏大使・レジナルド・ダリ、NY大学生・クリストファー・リーと共謀して、福建青年ギャングボス・童恩正が安良堂のゴッドファーザ・陸家駿に貢いでいたコカインを盗もうと計画した。
貢いでいたコカインを証拠としてリュウ・Tの父親、童恩正と陸家駿の密接な関係を脅し、チャイナタウンでの地位を得ようとしたものと推測される。
彼は自分の名が表に出ることを恐れ、レジナルドとリー、二人の仕業に見せかけようとした。
コカインを盗んだ後、口封じのためリーとレジナルドを殺そうとしたが、童恩正の息子、リュウ・Tの介入にあい失敗する。
そこで、リュウ・Tが、リー、レジナルドの二人をオーバドースに見せかけて殺そうとしたように画策した。
5.5kgのコカインの内、3kgをペンシルバニア駅構内のコインロッカーに入れておいた。
いずれリュウ・Tに発見されるようにその鍵を909の部屋に置いていた。
前駐カナダ仏大使、レジナルド・ダリはこの事件に関与していなかった可能性が大である。
しかし、現時点ではそれを立証するだけの証拠を見い出せない。
チャイニーズギャング内の抗争が本件の要因だと思われるが、多くの関係者が既に死亡、もしくは行方不明で真相解明ははなはだ困難といわざるをえない。
クリストファー・リーがコカイン所持で、罰金1000$の刑を受けただけで、結局、誰一人としてこの事件で捕まる者はいなかった。
十二月、レジナルドは、学生ビザの延長が認められず、任意送還の形で仏に戻ってきたクリストファー・リーに事件以来、初めて会った。
会うまでは殺したいほど憎んでいたが、彼のやつれた顔、痩せた姿を見て、意に反して優しい言葉をかけていた。
彼の口からコカインを盗んでいないという事実を改めて聞かされたが、もう外務省を体よく追い払われていたのでチャイニーズにうまく利用されたと諦めていた。
カナダ大使に就任してジャン・メルク・トト(ロシュトー)を殺すまでは上手く行っていたのに、
今度の事件はジャン殺しとは関係なかったのだろうか。
わずか一月の隔たりしかない。
殺し屋を送ったのが私だと知って彼の身内が復讐しようとしたのだろうか。
依頼人が私だと知っているのはマルセイユに住む代理人だけだ。
職業柄、彼が秘密をばらすとは思えない。
10年前、ジャン・メルク・トトの交友関係、血縁、金、すべてを徹底的に調べ上げた。
今年、18歳になる娘の他に血縁関係者はいなかった。
8年前に約百万$の遺産をユネスコに寄付していた。
ADメンバー、革命細胞以外の交友関係は皆無だった。
テロ仲間を友達と呼べるのかどうかは分からないが、驚いたことに彼には普通一般でいうところの友達がいなかった。
平気で仲間を売るようなテロリストのために復讐を企てるような、そんな酔狂な友達がいるとは到底思えなかった。
今年一月、バンクーバ移住後の交遊関係をある調査会社に調べてもらったところ、月に数回、訪ねてくる探偵以外の人とは付き合いはないとのことだった。
その探偵も警察の意向を受けて彼を訪ねているようだ、と報告書に書いてあった。
1985年7月終わりから半年余りのジャンのアジア旅行も調べてみたが、調査会社から彼の足跡をたどるのは不可能なので中止したい、と数週間後、連絡があった。
《ジャン・メルク・トトに友人がいる》
レジナルドの思考範囲を超えていた。
アランから、昨日、俺がなりすましていたトロントの日系二世、マーク・アンソニーが亡くなったと、連絡があった。
トム・スコット、アランの分身は既に一月前、世を去ったと知らされていた。
これで、一応、俺達に繋がるものはなくなった。
アランは、居間でモモを抱いて座っているマコトのデッサンをしていた。
いつもかけているFMラジオ局の女性アナウンサーからなじみの名前が飛んできた。
あらあら、文面からすると悲しい恋物語のようよ。
じゃあ読むわよ!
差出人はラム。
相手はウィスラーマウンテンに住むアラン!
『アラン、久しぶり。
そろそろ私は旅立とうと思います。
レジーがあなたたちに何をするのか心配で見守っていたけど、やっと誰にも迷惑をかけずに生きていく決心をしたようよ。
彼のことを忘れて幸せな家庭を作ってね。
あなたが危険を冒して私の家族にしてくれたことは忘れません。
ほんとうにありがとう。
アラン、この曲でお別れよ。
さようなら』
はい!
では、リクエスト曲!
とって〜も〜ふ〜る〜い曲で!
キャット・ステーヴンス!!!
《Wild World!》
マコトの目が潤んでいた。
遠い昔、ラムが自分を抱いてくれた記憶がよぎった。
モモが幼い頃の自分とだぶった。
外は一面、純白の雪景色だった。
朝日を浴びて、まるでラムが亡くなった早朝のようだ。
今日はクリスマスだ、、ラムの命日だ、
完 おさむ
参考図書
テロ白書/ アメリカ合衆国政府編 高井三郎訳 ミリタリー・プレス・ジャパン
こころを鍛えるインド/ 伊東武著 講談社
森の回廊/ 吉田敏浩著 NHK出版
麻薬/松本利秋著 かや書房
日本赤軍派/ パトリシア・スタインホフ著 木村由美子訳 河出書房
マイアミ・コネクション/ホ ル エティ マュ コ サホカル セイラ ウォ ルテン 共著植村修訳 朝日新聞社
SWATテクニック/ 毛利元貞著 並木書房
ナチ占領下のパリ/ 長谷川公昭著 草思社
チャイナ・コネクション/ 森田靖郎著 日本評論社
証拠は語る/ ディヴィッド・フィッシャー著 小林宏明訳 ソニー・マガジンズ
- [ 続下キャラメル ]
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