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24:捜査難航


九日、日曜朝、容態が安定したクリストファー・リーは警察の事情聴取を受けた。
しかし、彼の供述は信頼に足るものではなかった。

リュウの為にコカイン運びをやっていたこと、報酬としてコカインをもらっていたこと、駐カナダ仏大使、レジナルド・ダリの愛人であったこと、コカイン中毒だったことは認めたが、肝心の六日、木曜のことになるとまったく要領を得なかった。

彼の供述によると、ポートオーソリティのコインロッカーにバッグを入れて、ビレッヂポイント909号室に戻って来たところまでは覚えていた。
しかし、それから病院で意識が戻る七日、午後11時までまったく記憶がなかった。 
もちろん909号室からどうやって自分の部屋へ行ったのか、自分の部屋で注射を打ったことさえ覚えていなかった。
しかも、指示されたとおりポートオーソリティのコインロッカー88番にコカインを運んだだけで盗んだのは自分ではない、と強く主張した。

その裏づけ捜査中に不審な東洋系のホームレスが、当日の午後5時過ぎから7時頃までロッカー前に屯していた事実が浮かび上がってきた。
管轄の警官の話では、初めて見る顔で再三の注意にもかかわらず居座っていたらしい。
現場に居合わせた中国人がクラックを売っている、と注意を逸らし、警官がその不審な中国人を追っている間に失踪していた。
ホームレスが事件と関り合いがあるのかどうかも調べられていたが、中国人も逃走していたので関連を見い出すのは容易ではなかった。

疑問点はいくらでもあった。
リュウが最後に言い残した《仕組まれた》の言葉。
クリストファー・リーの供述。
誰がクリストファー・リーのオーバドースを警察に通報したのか。
洪門堂の者、と名乗った事件当日の電話通報。
リュウたちが明け方の5時近くまで909号室にいた理由。
行方不明の約2kのコカイン。
(盗まれたコカイン5.5kgの内、約499gがビレッヂ・ポイント909号室、約3kがコインロッカーから発見された。
リーの部屋から押収されたコカインは、3gにも満たなかった)

その後、電話通報から飛龍ギャング派のボスの一人、王暁達(エディ・ワンシャオター)が事件前日の木曜、午後7時頃、クリストファー・リーが住むビル前にある《Cafe Shasha》にいた、という事実がウェイトレスによって確認された。

当初、市警は下記のように推測した。

クリストファー・リーとレジナルド・ダリは、福建青年ギャングボス、童恩正(トニー・トンエンチョン)が秘密裏に身内を使って安良堂・ゴッドファーザー、陸家駿(ルーリャチュン)にプレゼントしていたコカインを盗もうと企てた。
クリスストファ・リーは、ポートオーソリティの88番ロッカーから自分の報酬分だけを取って、その足でペンシルヴニア駅構内のコインロッカーに行き、コカイン5袋(2.5kg)を抜き取り、残りの3kgをロッカーに入れて隠しておいた。

コカインが88番ロッカーに無いことを知った童恩正の息子・リュウ・Tは、クリストファー・リーにコカインを注射し、隠し場所を吐かせようとしたが手違いでオーバドースにしてしまい目的を果たせなかった。

リュウ・Tはかねてよりクリストファー・リーが彼との連絡場所として利用していた駐カナダ仏大使、レジナルド・ダリの部屋に行き、コカインを探したが見つけることができなかった。

事件前日、午後8時前後、東洋人が数人、909号室にいたのを向かいに住んでいた数人の住人が目撃していた。
確認はできなかったが、リュウの顔写真を彼らに見せたところ、似ていると証言した。
909号室にクリストファー・リーがよく来ていたことも住人によって確認された。
留守番電話に入っていた声から、駐カナダ仏大使、レジナルド・ダリが午後11時過ぎに部屋に来ることを知ってリュウたちは待ち伏せしていた。

レジナルドがワシントンDCでの表敬訪問を終え、NYのラガーディア空港に着いたのが午後10時、そのときすでにクリストファー・リーは病院に収容されていたのでレジナルドとの接触は不可能だった。
九〇九に押し入ったリュウが持っていたコインロッカーの鍵は、リーが909号室のどこかに隠していたに違いなかった。
多分、リーが前もってレジナルドに知らせておいたのか、それとも予め二人で隠し場所を取り決めていたのだろう。

午後11時過ぎ、909号室に現れたレジナルドを脅し、コカインがペンシルバニア駅構内にあるコインロッカーに隠してあることをリュウたちは聞き出した。
用無しのレジナルドをオーバドースに見せかけ殺害しようとしたが、市警の敏速な奇襲作戦に遭い失敗に終わった。

しかし、レジナルドが現れてから明け方5時近くまで隠し場所を聞き出すのになぜ6時間近くも要したのか疑問が残った。
リーが抜き取ったとみられる、2.5kgのコカインの内、約2kgも行方不明だった。

事件から約一か月後、チャイタナタウン担当の刑事は、協勝堂系、飛龍ギャング一派のボス・王暁達(エディ・ワンシャオター)が、ビィレッヂ・ポイント事件でリーとレジナルドがロッカーに隠していたものとまったく同じ成分のコカインを所持している、という噂を耳にした。 

彼が事件前日の木曜午後7時頃、リーが住んでいるビル前にある《Cafe Shasha》にいた事実が改めてクローズアップされた。
警察の記録から、オーバドース状態のリーが救急車で病院に搬送された時刻と一致していた。

不明のコカイン、2kgがエディに流れたと推測して市警が捜査を始めた矢先の6月半ば過ぎ、王暁達はベトナム系ギャング(BTK)との抗争で暗殺されてしまった。

またしても捜査は暗礁に乗り上げた。
なぜ飛龍ギャングの王暁達が盗まれたコカインと同じものを持っていたのか。
(殺害後、彼の部屋を捜索中に発見されたコカイン少量から裏が取れていた)

王暁達がすべてを仕組んだ、と仮定して市警は捜査を始めた。
リーはコカインを盗んでいない、と今もって頑強に主張していた。
全容解明にはレジナルドの事情聴取が必要だったので、市警は仏政府宛にレジナルドへの質問状を箇条書きにして送った。
可能ならそちらで事情聴取を取りたいとも伝えた。

8月末、レジナルドから質問状の返事が市警に届いた。

彼は一切この事件に関わっていない、と主張していた。
事情聴取を喜んで受ける、とあったので市警から仏に刑事が派遣された。



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