続下:22 キャラメル 旅人このエントリをはてなブックマークに登録

キャラメル超特急
Sweet Candy Express

22:旅人


今朝、横長の眼鏡だけ残して、禿げたカツラの基本スタイルをパスポートの写真に戻していた、トロント在住のマーク・アンソニー、日系だ。
今朝、会った警官は、、問題ない、パスポートの写真と違うのは眼鏡だけだ。
アランは、丸い黒ぶちの眼鏡、小さめの口髭と顎髯、角刈りの頭がパスポートと違う。
眼鏡と髭、、おかしくはない。
一緒にヴィレッジ・ポイントを出たのは今朝だけだ。
別々に出るべきだったか、二人滞在予定で予約した部屋だ、、問題ないだろう。
軽食堂はどうだ、、アランだけだ、、俺は一度も行ってない、、問題ないな。
刑事が来る前に出るか、どうするか、今朝のうちに出発すべきだったのかな、、
そこまで考えつかなかった、余裕なんてなかった。

マーク・アンソニー、トム・スコットの写真と照合されたらやばい。
二人の指紋が付いた歯ブラシとデジカメ、iPod、頭髪を残していくんだ、彼らのNY滞在は証明してくれる。
まさか、身代わり相手の指紋、頭髪まで用意しているとは、カルロスってのはたいした奴だ。

5月13日、日曜まで予約していた。
後6日、残っている。
アランだけ帰国させるつもりだった。
やはり俺も明日出よう。
急な用事、近場の旅行中に気が変わって帰国した、、
おかしくない、。
金は払っているし、問題ない。

セントラルパーク北、110丁の壁が見えてきた。
人間にはまだ会いたくない。
向きを変えて南東に向かった。
ジグザグに歩いた。
不良共が怖がって逃げた。
今のアランだったら虎も逃げる。
イノシシぐらいなら俺も相手にできる。

4時間のトレッキングが錆を落としてくれた。
五感がぎらぎら光っている、旅人の、前にしか進めない、あの感覚だ。
これで何にでも向き合える。

「カルロスに確認してくれ。
俺のマーク・アンソニーとお前のトム・スコットは警察にばれないのか。
多分、刑事が来る」
「カルロスに電話する」

59丁,ホテル、The Plaza内の公衆電話を使った。
「アラン、どこだ?」
「NY」
「まだいたのか。
何をぐずぐずしてる。
甘いぞ、早く出ろ」
「明朝、出るよ」
「馬鹿だな、早く消えるのが鉄則だ。
お前達がなりすましている二人はもう危ない。
警察が調べてもお前たちに繋がるようなことはないから安心しろ。
手下の家族だ。
だが、死んじまったらことだ。
幽霊がNYにいたってことになる」

荷造り中に私服の刑事が二人、来た。
身元確認の後、滞在理由、滞在期間を質問して去っていった。
明日から2、3日フィラデルフィア観光して戻ってくると伝えた。

その夜のテレビニュースはヴィレッヂ・ポイント事件一色だった。
3人の中国人が撃たれて死んでいた。
リュウの名前があった。
お巡り二人は重傷、一人は危険な状態らしい。
チャイニーズ・マフィアの抗争が背後にあると言った。
これまでの抗争の歴史を流している。
レジナルドの生死を知りたがったが名前さえ出てこなかった。
外交配慮から箝口令が敷かれているのか。

翌朝、出発前のテレビニュースで、重傷だった警官が亡くなった、とアンカーが言った。

Amtrak(鉄道)でボストンに向かった。
アランはシカゴ経由でバンクーバーへ、俺はロス経由で福岡に飛ぶ。
「バンクーバに寄るか?」
「いや、日本に帰る。
小百合ちゃんが心配でな」
「あの猫か、、」
「マコト、モモによろしくな」

お互い言葉が少なかった、もう必要としなかった。
深い付き合いだ、殺しの共犯だ。
ロシュトー復讐の為に殺した。
同じことが起きたら、どうするのだろう、と考えていた。

大家の所へ小百合ちゃんを引き取りにいった。
玄関先で洗面器の中にいた。
丸くなって寝ている。
「小百合ちゃん!
小百合ちゃん!
どうした、お前!
俺だよ」
見向きもしない、知らん振りだ。

大家の浜田のお婆ちゃんが奥から現れた。
「お帰り。
小百合ちゃん、名前変えたのよ」
「、、、、」
「アンジェリーナよ。
アンジェリーナ・ジョイのテレビ映画がこの前あって、あなたに悪いけど変えたのよ。
唇が大きいとこ似ているでしょう」
「アンジェリーナ・ジョリーのことですか。
、、そう小百合を呼ぶの?」
「いいから呼んでみなさいよ。
彼女気に入ってるから」 
「アンジェリーナ」

元小百合ちゃんは尻尾を挙げ、背伸びをゆっくりして、ひどい内股で歩いてきた。
心持ち胸を張っている。
「小百合ちゃんも光夫のディカプリオと同じで横文字に弱かったんだ。
がっかりだな」
「家の光夫とアンジェリーナ同じにしないで!」
この大家、自分の光夫のことを悪く言われると人格が変わる。
「光夫はディカプリオに改名したけど、やはり光夫の方がいいんですって」
 
自分の猫が一番じゃない猫好きはいない。
馬鹿らしくなって元小百合ちゃんを抱いて部屋に向かった。
何がアンジェリーナだ!
俺の小百合はおしとやかな最高の日本猫だぞ、、

帰国後、初めてNYタイムズの電子版をチェックした。
事件がNY時間の7日だったから、、12日、4日目か。
チャイナタウン・ギャング抗争の歴史、三大ギャング安良堂、協勝堂、洪門堂、福建青年ギャング、それぞれの配下のギャング団の構図ぐらいしか載っていない。
レジナルド、仏外交官が関わっていたとか、そんな記事はかけらもない。

翌日、アランに電話した。
「アラン、情報がない。
レジナルド死んだか」
「今電話しようと思っていたとこだ。
ラッキーエイトに確認した。
耕三、どうもレジナルド生きてるぞ。
国務省、市警を無視して二日前、仏の外交官が本国へ移送されたそうだ。
米政府、NY市警はかんかんに怒っているらしい」



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genre : 小説・文学

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