10:ごみ 三振法このエントリをはてなブックマークに登録

10:三振法

当初、月火木金のゴミ出し日は交代で集積場に出て管理をしていたが、6時から始まる鉄人の掃除体操を去年からやるようになって交代制はいつのまにか消滅していた。
雨、雪の日を除いて常時70人以上のお年寄りが、ほうき、チリ取り、ごみ箱、たわし、雑巾を持って集積場の周りを徘徊していたからだ。
しかし、最近、アパート、ワンルーム・マンションの増加に伴い新しい入居者との間で問題が生じていた。

南池袋100丁内には皆清族以外の人も住んでいた。
ゴミ集積場はAB、2か所あり、Aは皆清族の人だけだったが、Bは共用だった。
騒動の元は、皆清町が加藤清正公の作った三振法を採用していることだった。
ゴミ出しの警告は2回まで許された、3回目になると三振、ストライクアウトだった。
ゴミ出し模範生に改心するまで、とんでもないことがその人に降りかかった。

益田は会長の指示で、近隣住民とのトラブルを避けるため、月火木金のゴミ出し日にはゴミ集積場Bを4時半から見回っていた。
会長がゴミの横で寝ていることも結構あった。
生ゴミに変なものが入っていないか気になって眠れないのだ。
というのも、三振法適用を命じるのは鉄人ツネ婆さんの役割だったからだ。
以前はそうでもなかったのに、最近は皆清族の、ゴミ急進派・原理主義者の議長になっていた。
痴呆気味だったが三振法を言い渡す時だけは活き活きしていた。
彼女の喜びを奪うわけにもいかず、会長は鉄人が来ない内に、益田と二人でゴミをチェックすることにした。
しかし、7時半に見回りに来る鉄人に現場を押さえられたらどうしようもなかった。

皆清族は皆、本当に異常たい、それが分かっていないところが又、異常たい。
今のところは分かるばってん、自分も先は自信なかたい。

ワンルームマンション犬に住む佐川俊夫が7時40分に生ゴミを持ってきた。
若い、アンちゃん風のサラリーマンだ。
視力、1.5の鉄人の目が輝いた。
この半年で5人の三振者を見つけた眼力は、どんなに小さなプラスチックでも見つけてしまう。

「あら、あなた、生ゴミにプラスチックは駄目と言ったでしょう。
あなたでしょう、プラスチックに不燃ごみ入れるのも」
「違いますよ。
たまには入れるかもしれませんが」
「たまには入れるって何?
絶対に入れないで頂戴。
四郎(重雄)さん、警告何回か確認して?」

益田は三振法適用記録帳を調べた。
警告回数を記入するのは益田の仕事だった。
「はい、ワンルームマンション犬、401の佐川さん、今回が3回目です」
「あなた、三振!」
「何が三振なーの!
ゴミと野球関係あんのかよ?
ババアと野球やってねぇよ。
生ゴミにDVDのちっぽけな包装紙間違えて入れて悪いのかよ。
急いでんだよ。
怖いババアだ」
「はい!
これで、あなたの警告は3回になりました」

ここで会長の言う、鉄人の元気になる儀式があった。
ジャッジ、ジャッジ、ジャッジ、ジャッジ、
K1,PRIDEの審判のように右に回りながら90度で人差し指を立てて言った。
「被告に三振法を適用します」、と叫んだ。
何かに似ていた、“あなたには黙秘権〜〜”刑事言葉と同じだ。
滑稽だった、判決を言い渡された当人はもういないか、背中は遠くにある。

「四郎(重雄)さん、これから毎朝、杉の枝切ってそこ左200m入ったワンルーム・マンション犬401号のドアに置いて頂戴」
「杉、、?」
「あの若者、花粉症なのよ。
時期じゃないけど毎朝、杉見るの嫌でしょう」
「、、はい、分かりました」
「401よ、間違えないでね」

間違えないでね、必ず最後に言う台詞だ。
どうも鉄人は相手の部屋を以前間違えたことがあってそれが揉め事の原因だ、みたいな事を会長が言っていた。
本人はもちろん覚えていない。
その役を会長が自分にするよう働きかけた、と言った。
騒動の原因は鉄人だったのだ。

2か月前、最初の三振法適用者のときは面食らった。
川口という40代のサラリーマン風の男性だった。

悪質だった、、納豆の容器、レトルトのカレー、すべて洗わずにそのままゴミの中だ。
洗濯して、乾かして出す皆清族の人にとって、情状酌量のない重罪だった。
鉄人が例の儀式を2,30m先を歩いている川口さんの背中に言った。

「四郎さん、後で私のパンティ、ブラージャーあげるから川口さんのドアに置いといて」

びっくりした、鉄人のパンティ、ブラジャー、、冗談たい、、80の婆さんの、、
色気がなかやろ、、置いて来い、、と言う。
「改心させるのはこれが一番なのよ。
洗って綺麗に出すようになるから見てなさい」
「他の集積場に持って行くとじゃあないですか?」
「気づかせるの、馬鹿なことしているって。
嫌でも気づくわ。
改心すればわざわざ遠くまでゴミ持って行くことないでしょう。
見てなさい、規則どおりにゴミ出すようになるから。
いつもそうなんだから」

どうなることかと思った、今では川口さんはゴミ出しの模範生だ。
これまで三振法の判決を受け人は皆そうらしい。
その時、益田は感心した、いや、ひどく感動した、、鉄人のパンティはt−バックだった。

相手が女性の場合は、ドア前に置いてくるのは、その女性の出したゴミの中から鉄人が取り出したプライベートなものだった。
お陰で皆、模範生になった。
しかし、問題があった。
当の益田が時期でもないのに花粉症気味なのだ。
これまでやってきたはずなのに鉄人はいたって平気だ。


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genre : 小説・文学

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