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3:シーカヤック


戸昼はラルフと寿子をじらすように深呼吸をしてゆっくり息を吐き出した。
「友達にバリーカヌー社のアリュートシー2型というスピートが出るシーカヤックを持ってるのがいる。
古いが走る。
三つの完全防水ハッチ、二つにばらして車に積むことも可能だ。
金を受け取った後、ラルフはサーフボードで沖に出る。
俺がシーカヤックで待っている。
サンディビーチ(注)まで行って寿子の車に積み替え、ここまで運ぶ。
どうだ?」
「金をお前に渡した後、俺は?」
「サーフでもして遊んで戻ってこいよ。
俺たちは10時過ぎに戻る」
「金はお前達が持つのか、、、?」
「心配か?
じゃあサーフボードでついて来いよ。
サンディビーチなら1時間かからない」
「そうする」
「取り引き場所は日没に近い午後8時、カピオラニ公園にある桟橋のとっ先だ」
「とっ先?」
「カパフル通りの突き当たりじゃない、それから4、500m先の公園内のもう一つの方だ。
ゲイの連中が多い」
「幅が狭い方だな」
「合流地点はダイヤモンドヘッド・ビーチ沖1マイル(約1.6k)
辺りにしたい」
「シーカヤックか?
それで重いって訳か」
「問題はサーフボードだ。
100万がどのくらいの重さになるのかは分からん」
「取れるだけと取ろうぜ。
大丈夫だって、300で行こうぜ」
ラルフが執拗に言い張った。
「そう言ってもな、この書類を見る限りまだ計画段階のようだ。
100を払うかも疑問に思ってるとこさ。
明日の夜まで時間もないしな」
「奴らが会長にへまを報告した方が金は上がるんじゃないか。
エンリケに頼めるからな」
「エンリケが第三者に秘密を知られて計画を進めると思うか。
どこも欲しい。
暴力団に売る必要なんてない。
気がかりなのは、この荒井と上村が保身のために動く人間か、だ。
彼等が手を引いたら終わりだ。
100万、、難しいかもな」

寿子の目が光っている。
「この書類で脅せないの?
FBIに持っていくと言ってさ」
「そうだ!
これで脅せるぜ!」
「今そこまで考えてない。
コピーがある。
いずれ時間をかけて考えよう」
「明日、暴力団から巻き上げて、取引成立させた後、また吹っかけるのね?
それって、、いいよ!
最高よ!」

そのことも考えた。
うまく行けば、かなり踏んだくれる。
しかし、確実に割り出され殺される。
ヤクザが出す金で止めるつもりだった。
コピーは保障のためだけに使うつもりだった。
明日中に取り引きを終わらせるには、相手の用意できる金で手を打たなければ、。
そもそもスーツケース盗みを計画したのは自分だ。
一人では不可能だったので寿子とラルフを誘った。 
これまでに抜き取りを3回遣った。
既にスーツケースの鍵が壊れていたのがあった。
金目の物が入っていなかったので、ラルフが運搬途中に物色したと感じた。

こいつらはいい気なもんだ。
明日以降も金を踏んだくれると思っている、、命と代償に。

死に何度か直面したことがあった。
幼いころ、兵隊に追われてグアテマラ、マヤ、イシルの部落から必死で逃げた。
お父さん、お母さんは殺され、一人になってしまった。
あの、日本の旅行者がいなかったら自分はこの世にいない。
空のバックバックに自分を押し込んで軍のチェックポイントを通過した。
彼は命がけだった。
自分などに関わらなかったら、日本から来た旅行者で簡単に通過できたのに、自分が見つかった時、何度も、殴られ、蹴られ、聞いてて恥ずかしいぐらい哀願していた。
それまでして助けてくれた。


「明日の分は300で行くぜ。
どのくらい出せるか様子を見るためにな。
戸昼、合流地点だが、辺りは暗い。
上手く落ち合えるか心配だ」
「じゃあ、合流地点はお前が決めろ」
「そう怒りなさんなって。
ダイヤモンドヘッド沖はあの時間、まだサーファーがいる可能性がある。
いっそその先のブラックポイント(ワイキキ沖)にしようぜ。
ブラックポイント南東約2マイル(2.6k)地点」
「ああ、いいよ。
おさらいしよう。
明日、寿子は休んで書類のコピー、夜、サンディビーチで待機。
俺たちは9時前後に着く。
俺は疑われるから休めないが口実作って早退する。
朝8時以降になるか、、。
ラルフは8時に純一に電話して取り引きしたいと告げる。
金がいつまでに用意できるか10時に電話をすると言って切れよ。
彼の携帯番号を聞いて、それを窓口にすると言う」
「デスクにはその橋本純一しかいないんだな」
「多分もう一人スタッフがいるはずだ。
スーツケースの件だと言えば純一が出てくる。
奴がデスクのチーフだ」
「ウェスタンビーチの東都ツアーズに電話したら、戸昼、あなた怪しまれるんじゃないの?」
「ラルフが純一にスーツケースにウェスタンビーチ・東都って書かれたテープが付いてたって言えばいい。
なあ、ラルフ?
荒井と上村って漢字で書いたぐらいだ。
パンチパーマがどんなのが付いてたなんて覚えてないさ」
「その東都と書かれたテープはいつも付けてるの?」
「ウェスタンビーチ・ホテル滞在者に付けてる会社の正規のテープだ。
家の会社の人間がやったと思わせる。
あんなテープ、誰でも入手可能だ。
調べても分からんよ。
パンチパーマが女性にスーツケースを預けたと言ってるはずだ。
これで寿子は安全圏だ。
あのチャイナ便の時、荷物係は男しかいなかった。
俺もセーフってわけだ」
「面白くなってきたわね。
昼間、私は何をやったらいいの」
「純一との連絡はラルフがやる。
ヤクザに日本人が関わっているのを知られたくない。
パンチパーマに出くわしたらやばいし。
とにかく、皆ここで待機だ」
「分かったわ」
「サンディビーチは俺のダッジのトラックを使ってくれ。
まあ、、車は明日、また考えよう。
ラルフ、お前は当分、仕事休め」
面白くないって顔だ。
「ボス気取りだな」
「何か気に食わないことでもあるのか。
何か考えがあるなら言えよ。
いい計画なら喜んで従うぜ。
俺の計画で行くなら金を手に入れるまで我慢しろ。
それから電話は絶対に公衆電話を使えよ。
ハワイ大近くのアパートに帰らず当分ここにいろ。
ここだとシーサイド、ウェスタンビーチホテルまで歩いて7、8分だし、
ボックス型の公衆電話もクヒオ通りに出たらあるしな。
寿子の住んでいるバニヤンホテルまでも数分だ」
「へへへ、戸昼ボス、分かりました。
公衆電話はすぐこのビル出た所に2台あるしな」
「あれは使わないでくれ。
お前も知ってるとおり、売人、娼婦、ジャンキーがいつもぶらぶら暇持て余してるから聞かれたら事だ。
クヒオ通りのボックス型を使うか、運河脇の人通りがないのを使ってくれ」

注:
サンディビーチ:オアフ島東部、ワイキキから車で約40分。


theme : 連載小説
genre : 小説・文学

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