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2:偽札(Supernote)

書類には、模造ダイヤモンドの売買契約書、基本取引条件協定書、契約期間、原石の原価、各種保険料、支払い条件、運送方法、積込価格、コンテナ貨物、用船貨物、航空貨物、倉庫料、売り手と買い手の権利義務、売り手の責任、クレーム、受け入れ予定税関場所、等がきめ細かに記されていた。


SUPER Zに関する記述があった。
戸昼がにらんだとおり、偽札(Supernote)のことだった。

エンリケは、ピョンヤンのチャングアン(Changgwang Street)通りの政府建物内にあるOffice 39と関係があると記されていた。

Office 39は、キノコ、朝鮮人参から覚醒剤、偽造タバコ、
ミサイル技術、偽札を扱っている非合法活動,部署だった。
同じビルにはOffice38とOffice35があり、前者は39で得た金を管理し、35は誘拐、殺人を行っていた。

金日成が亡くなった翌年、1995年、エンリケは北朝鮮に依頼され、上村商事を通してスイス製のIntaglio印刷機(注)を購入した。
ピョンヤン郊外、ピョンソンにあるPrinting House6で偽札製造に使われた。

それまで、不完全なSupernote偽札に悩まされていた米は、1996年、$100新札を発行した。
特殊な、見た角度で色が変わるインクO.V.Iを使用した。
紙幣の右下の数字がメタリックグリーン、裏は黒になるようにした。
スイスのSIPCAがO.V.Iの製造元で、米は“メタリックグリーンと黒の組み合わせ”色の独占権を買い入れ偽札を阻止しようとしたが、北朝鮮も同じ年に“深紅(magenta)と緑”のO.V.IをSPICAから購入した。
エンリケが仲買をし,上村商事がベトナムにある会社名で買い入れた。
深紅は見ようによっては黒に見えた、偽札作りが続行された。
1998年に完成度の高いSupernoteが完成した。

持ち出しルートは二つあった。
北朝鮮外交官が真札と偽札の比率を半々にしてモスクワ経由で出国し、モスクワ・北鮮大使館がばらまいた。
それと、数千の船が、コンテナに混ぜて東海岸のナジン(Najin)と西海岸のナムポ(Nampo)から持ち出すルートがあった。
国際海上輸送システムにのるため、中国、韓国、日本を必ず経由した。
特に中国では検査がなかったのでフリーパス状態だった。

マカオのBanco Delta Asia以上にBank of Chinaマカオ支店が関わっていたが、中国との関係を考慮してBushは摘発を控えた。

北朝鮮偽札売買価格、偽100$が70$、年、5百万$用意できると文書にあった。


この数時間、もぐもぐしていたラルフの口からバドワイザーの缶の蓋が灰皿に落ちた。
「へえ、たいしたもんだな。
ますます500は固いって気にさせてくれるぜ。
エンリケが北朝鮮と関係があるなんてな。
戸昼、どうやって暴力団と接触する?」

戸昼は既にそのことを考えていた
直に接触するのだけは避けたかったので間に連絡係を置くことを考えた。
橋本純一だった。
彼を窓口にしてラルフを交渉役に使えば自分は安全だ。

東都ツアーズのハワイ現地法人社長は仏系韓国人で、13の時、一人でハワイに来て生活していた戸昼をひどく可愛がってた。
社長自身、13の時、朝鮮戦争の影響でパリで孤独な生活を余儀なくされた過去があったからだった。
ハワイで5指に入る代理店で、22でデスク・チーフになり有頂天になっていた。

純一がウエスタンビーチ・ホテルのツアーデスクに配属されてきた時、日本から来たばかりの18歳の若者に仕事を教え、いろいろと面倒を見た。

約半年前に落とし穴があった。
戸昼は子飼いのスタッフ数人と示し合わせて、会社にばれないようにツアーの売り上げ金やデスクで販売したものを計上せず遊ぶ金として使っていた。
売上金を猫ばばしているのを純一に知られ、仲間に加わるように説得したが失敗した。

黒木に何度か純一の他ツアーデスクへの転属を願い出たが無視された。
あれだけ世話をしてやったのに彼は黒木に直訴した。
おかげで朝、5時半始業の空港荷物スタッフに降格され、以来、寝不足状態が続いていた。
この怒りはまだ納まっていなかった。

「明日一番に純一がいるウェスタンビーチ、ツアーデスクに電話をかける。
問題は金をどうやって手に入れるかだ。
何かないか」
「よく映画なんかで出てくるケイマン諸島とかの銀行に送金させるってはどうだ?
それだと素性は割れない」
「偽名使おうが口座情報なんて知るのわけない。
金を転送してどこで引き出そうがすぐに追手が来る」

寿子がやけにおとなしく書類を読んでいる。
「その純一って子はあくまでも連絡係として利用するの?」
「取次いでもらうだけだ」
「ダイヤでもらう手もあるわよ」
寿子は鼻の穴を膨らませた。
書類の内容を読んでむしろ積極的な気持ちになっていた。
相手が暴力団だろうがもうどうでよくなっていた。
「取り引きは明日だぞ」」
「じゃあ、どうするのよ」
「一番確実な現金でもらうさ。
俺に考えがある」
「明日なんてやっぱり早過ぎないか。
一日で500なんて金できるのか。
これがあればいつでも脅せる」
「そうよ。
時間かけてもっと取りましょうよ!」
「2度と言わないからよく聞けよ。
時間が経てば俺たちなんてすぐばれる。
エンリケが知れば寿子、お前なんてすぐ見つかるぞ。
エンリケが盗まれたの知らないので終わらせるのがベストで安全だ。
金は相手が作れるだけでいい。
スーツケースの持ち主の荒井と上村は暴力団、宮沢組の代表としてここに来た。
大事な契約前にへまをした。
宮沢組の会長に報告せず、自ら解決する道を選ぶように仕向けるのがベストだ。
明日中に取り引きが終わればすべて万々歳だ」
「でも明日って、、」
「寿子、2度と言わんぞ!」
明後日以降はルイスが出てくる。
お前は確実に殺される。
明日の夜決行だ」
「で、どうする?」
「ラルフ、明日は仕事を休んで8時にウェスタンビーチホテル、東都ツアーズデスクに電話しろ。
橋本純一にスーツケースで取り引きしたいと言え。
100万で売りたいってな」
「300にしようぜ」
「俺の計画では300万運ぶには重い。
相手が作れる金でいい。
欲を掻くと失敗する」
「ちぇっ、面白くないな。
100万を3人じゃ割り切れないぞ。
戸昼、勿体振らずにその計画とやらを話せよ。
運ぶのに重くて削られたんじゃたまらないからな」
「寿子も休んで、この文書、コピーしてくれ」
「あ、、、分かった!
コピーでエンリケを脅して金を取るのね!」

注:
Intaglio:イメージを刻んで、彫って印刷できる印刷機。
O.V.I(Optical variable ink):見る角度によって色が変わるインク
2006.7/23 NY Times電子記事参考

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

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