1:ごみ 益田重朗このエントリをはてなブックマークに登録

1:益田重朗
  
東京は暑か、こげんとこで生活できっちゃろか。
家賃が高かたい、長崎の倍たい。
安かとこないとね。

益田重郎(しげお)は部屋を探していた。
長崎から転勤だ。
部屋探しの期間は一週間しかない。
会社が池袋、どうしても通勤ラッシュを避けたいので池袋近辺を探していたが、家賃が高くて困っていた。

サンシャイン近くの不動産に入った。
机の向こうで中年の男性が背を向けて受話器を手に話している。
まだ自分に気づいていない。
立ち上がっては、耳に挟んだポールペンで、目の前の壁に貼ってある、水着姿の女性のポスターの胸の辺りを触っている。
変な不動産たい。

「貸した鍵、部屋に入れてロックした?
それは困りましたね。
で、お部屋はどうでした?
お決まりになりました?」
―――――――
「え、、部屋汚いからここはいい!
何ですって、このまま帰ります!
鍵は持ってきてもらわないと!」
――――――
「ええ、、、それは分かりますよ。
自動ロックだから気をつけるようにとあれだけ言ったじゃないですか」
――――――
「じゃあ、近くに大家さんが住んでいるのでそこに行かせますから。
待っててくださいよ。
開けてもらってここに持ってきてくださいよ。
部屋を見たいお客様がここにいるので持ってきてもらわないと困ります」
―――――――
「今、大家さんに電話しますから」

全く、手間がかかる客だな。
自動ロックだとあんなに言ったのに、、
アホか!
トンマ!

「ああ、寺前さんのお家でしょうか?」
―――――――――
「あ、、はい。私、サンレイン不動産の有川です。
実はお部屋を見に行かれたお客様が202の部屋の鍵を中に入れたままロックしてしまいまして、申し訳ございませんが202に行って開けてもらえないでしょうか。
鍵を渡していただきたいのですが、、部屋の前で待っていますので
、、お客様のお名前は木下様です。
申し訳ございませんが、お願いいたします」

腐ったジャガイモ!
サツマイモ!

振り向いた途端、目が合った。

「ああ、よくいらっしゃいました。
どうぞ、どうぞ、こちらに」

不動産は、又、信用できんと思った。
態度、口調がころころ変わると。
電話と実際の対応が違うたい。
本当の顔でしゃべれんちゃろか、、これが本当ならカメレオンたい。

「安か部屋を探しとるとですが?」

いきなり入ってきて、安い部屋という客は珍しい。
しとると、、?どこの出だ、西か?
半分、からかいと時間つぶしのつもりで、
「どうぞ、よくいらっしゃいました。
お見かけしたところ九州の方でしょうか?」
「そうたい。
長崎から初めて東京に来たと」
「長崎、、でございますか?
まあ、遠路はるばるよくお越しくださいました」
「人が多か、、皆、人間じゃなか顔しとる。
電車の中、皆知らん振りたい。
若か女性は化粧しとるし、出て行く時は別人たい。
漫画めくる音とチャカ、チャカした音楽、
人種が違うとやろか」
「いえ、そんなことはござません。
これが普通でございますよ、ここでは。
家賃はどのくらいのをお探しでしょうか?」
「7万以下で2LDKで十分たい、なかなか東京は難しか。
ここが4軒目ですたい」

4軒目、、こんなこと言う客は地球にはいない。

「7万で2LDKですか?
それは難しいですよ、お客さん。
倍は出さないと無理です」
「よく皆こんな高かとこに住めるたいね。
7万でどんな部屋が借りれるとね?」
「1DKでしょうか、、ご家族は?」
「妻がいると」
「難しいですね、、7万では、、失礼ですがご職業は?」
「会社員たい、清掃関係の卸し問屋の」
「清掃ですか!
はあ、、それなら可能性がありますな、、」

おかしか不動産たい。
眉間にしわ寄せて考え事しとる。
「可能性があるとですかね?」
「実は、7万でお部屋があります、、が、、見に行かれますかね」

最後の“ね”のトーンがやけに落ちた。
不吉なことでもあるっちゃろか?

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