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12:消えた荷物

父さんの死と関わり合いがあるかもしれない、とホタルさんに聞いて上村通商に真剣に取り組めなかった。
滞在予定者の名前までチェックしていなかった。

もう3時を過ぎていた、朝が早い空港スタッフはもういないだろう。
応答がなかったのでオフィスにかけて、受話器に出た明美に名簿のことを聞いた。
「明美さん、ちょっと調べてもらいたいんだ。
空港スタッフが持っていた今朝001便の到着リスト、24番はUemuraになっていたか確認して欲しい」
「純君、どうしたの?
私が昨日、作成した最終リストを皆に配ったのよ。
ちょっと待ってね。
間違いないわよ。
Uemuraになっているわ。
問題があったの?」
「シーサイド・ホテルの滞在名簿がKamimuraになっていたんだ」
「これ、例の暴力団のツアー?
やだー!
黒木に連絡したの」
「携帯に何度掛けても繋がらない」
「部長の本沢さんなら社長と何か話していたからいるわよ」
「いいよ、今のとこは。
明美さん、001便の空港スタッフの個数報告書Faxしてくれる?」 

純は送られてきた報告書をチェックした。
それには、001便の客の名前と滞在ホテル名、到着時に空港スタッフが確認したそれぞれの荷物の個数が書かれてあった。
Uemura・ShouichiとArai・Kimioの荷物は0になっていた。
間違えてウェスタンビーチホテルに運ばれた可能性を考慮してベルデスクに聞いてみた。
余った荷物はない、との返事だった。

空港からスーツケース等、荷物の運搬を委託している運送会社ロバーツに電話をした。
001便の荷物を担当した運転手が、ホタルに何個のスーツケースを落としていったか、リストを至急Faxで送ってくれるように頼んだ。
5分後に送られてきたFaxには、シーサイド・ホテルは0と書き込まれていた。
到着時に空港スタッフが確認した個数と運送会社の記録とを照合してみたところスーツケースの個数は合っていた。
通常、空港スタッフが乗客の滞在先ホテルをチェックした後、名札にホテル名を記入することになっていた。
仕事を終えて帰宅していた担当のスタッフに問い合わせたところ、今朝のOO1便にシーサイド・ホテル行きの荷物はなかったと言った。

既に到着から9時間近い、まだ空港内にあるとは思えなかったが、一応、空港担当のマネージャーを携帯で呼び出してチェックするように頼んだ。
 
考えられることは、別の旅行代理店が間違えてどこかのホテルのローディングドック(荷物置場)に運んだのか、荷物に紛れ込んで新たな目的地に旅行中なのか。

東都ツアーズはホノルル市内に8ヵ所のツアーデスクを持っていた。
それぞれ10から15のホテルを管轄下に置いていた。
同じ001便で到着した客の滞在ホテル先、担当ツアーデスクに余分なスーツケースがないか捜索願いを出した。
 
心配そうに横で成り行きを見守っていた細川に経過を説明した。
「各ツアーデスクに捜索願いを出しました。
今は待つしかありませんが解せないことがあります。
空港で家のスタッフが001便のお客さんから預かった荷物の個数と運送会社が運んだ個数が合っています」
「どいうことだ?」
「考えられることはどこか他社の荷物に紛れ込んだかもしれません。
社長に税関出てスーツケースを家のスタッフに預けたか確かめていただけませんか。
それと色、形も」

急いで探さないといけないのに、細川は予約名簿のことをまた言った。
「なぜ前もって社長と部長の名前をホテルの滞在者リストと確認しておかなかった!
名前が違ってたんだ。
大変なことになるとこだった。
さいわい君んとこの桜井課長がうまくやってくれた」
「滞在予定者、名前の確認を怠った僕のミスです。
申し訳ございません。
社長がUemura・Shouichi、部長がArai・Kimioと最終確認しましたが、なぜホテル側の滞在者の名前が違ってたのだろう、、」 

細川は手元にあるブリーフケースから中山通商グループツアー申込書と東都ツアーズ・ホテル予約発注書を取り出して名簿のスペルをチェックした。

予約発注書がKamimura Shouichiになっていた。
スペル間違いをしたのはこっちか。 
まったくやってくれるな。
家のほうの間違いか。
怒った手前ひどく罰が悪かった。
もう終わったことだ。
知らん振りを決め込もう。
それよりこれから社長たちの所へ行って事情説明だ。
嫌だな、、満腹なトラにおでこを撫でられた方がまだいい、、。

トーンの低い沈んだ声になっていた。
「変なツアーだな。
部長の荒井君夫が荒井邦男のパスポートを持ってるなんて」
「名前とパスポートが違うのですか?」
「純君?
だったね、、このグループ、暴力団というの知ってたの?」
「ええ、」
「君もやらされた口か、、、
シーサイド行って事情説明してくる。
荷物の個数、色、形もね。
あ、、それから部屋変ったから、3301と3302になった。
何かあったら連絡くれ」

太陽がまぶしかった。
平和なワイキキだ。
水着姿の4人の幼い子ども達が、自分達の背丈の3倍もあるサーフボードをふらふらしながらビーチに運んでいる。
ずり落ちるパンツを上げようと一人が立ち止まる度に、3人は顔をしかめた。
ホテルに入る手前で振り向くとずり落ちた。
パンツは足首でもがき、可愛いお尻が誇らしげに揺れている。
幼い笑い声が追っかけてきた。

ノックをしてシーサイド・ホテル3301号室に入った途端、部長の雷が落ちた。
羽田からここまで、部長の荒井君夫こと荒井邦男の肉声を聞くのは初めてだった。
石原裕次郎とフランク永井を極限まで怒らせて足して2で割ったような雷声だ。
ただ、顔が限りなくゴジラに近かった、おでこの痛みが、スーッと、気持ちよく消えた。
「スーツケースは!!」
表向き上村通商は社長が上村正一、専務が荒井邦男になっていたが、実際は逆で関西広域暴力団宮沢組から出向している荒井邦男がボスだった。

宮沢会長の命を直に受けた荒井邦男は、秘密裏にある人物に会うためローマ字では判別しにくい部長の荒井君男になりすましてハワイへ来た。
そこまでしたのに簡単にフロントで知られてしまって苦々しく思っていた。
おまけに荷物が届いていなかったので怒りが爆発した。

おでこに代わって胃がきりきりし出した。
細川は胃を宥めるような口調で言った。
「まだここには届けられていないようです。
一応、社長様と部長様のスーツケースの数、色、大きさ、特徴などをお教え願えますか?」
やけに落ち着いた細川の口調に部屋にいた皆が少なからず驚いた。
社長の目配せを受けて沢村拓司が口を開いた。
「俺の荷物は!」
「はい、ウェスタンビーチの方に、そちらの女性様方の荷物も。
後でこちらに運ばせます」
「ということは社長と部長のだけが着いてないのか?」
「はい、そういうことになります。
個数、色、形を教えて欲しいのですが」
「2個で色は紺色と黒だった。
マイケル・タケが社長と部長の荷物係だ。
奴をここに呼んだほうが早い。
あんた、呼んできてくれ」
荒井邦男が不機嫌そうに言った。
「彼女らをウェスタンビーチへ連れてけ!」
 


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