10:はわいーい 憂鬱な暴力団ツアー
10:憂鬱な暴力団ツアー
《上村通商ハワイツアー御一行様》のサインを手に、純はウェスタンビーチ・ホテル玄関前で到着を待っていた。
総勢、10名、3泊4日のグループ日程表を改めて確認した。
「純、他の仕事はいいからグループが帰るまで付きっ切りで世話をしろ。
本社、総会屋担当重役から電話があった。
上村通商は関東で、一、二を争う総会屋と関係があるらしい。
何があっても円便にツアーを終わらせろよ」
当然、黒木自身が担当すべきなのに、、彼の保身が見て取れた。
ただ、気になることがあった。
天候が荒れる、と予報が出ていた、ハリケーンだ。
このまま速度が遅いと上村ツアーには問題ないんだけど、、、。
社長の上村正一と専務の荒井邦男は、ウェスタンビーチ・ホテル前にあるシーサイド・ホテル、
添乗員と社員8名はウェスタンビーチ泊、日程はハードで、自由行動は最終日の夜だけだった。
朝6時45に到着後、コオリナのゴルフ場に直行し、午後3時にホテルへ。
午後7時にフロントに集合してタンタラスの丘へ行き、それから”田中オブ東京”で夕食。
翌日は、3名がハワイ島巡り。
残りは、ヘリコプターツアー、潜水艦ツアー、ゴルフに分かれ、夜,全員で夕食。
最終日は、リムジンでオフフ島一周、夜は自由行動、翌早朝、帰国。
3日前に添乗員の細川肇が電話で、8名の部屋割りに注意するよう何度もくどいほど言った。
昨日、FAXで送られてきた部屋割りが変っていた。
この1週間で3度の変更だ。
細川さんもこのツアーを押しつけられたのだろう。
コオリナのゴルフ場から一行を乗せたマイクロバスがウエスタンビーチ・ホテル玄関前に到着した。
その後にリムジンが一台続いていた。
やつれた顔に眉間に皺を寄せた40代後半の男が、黄ばんだハンカチを額に当ててバスから転げ落ちるように降りてきた。
添乗員の細川は、やっと災難から救出されたような心境だった。
暴力団だけにここまでかなり気を使っていた。
治りかけの胃潰瘍がまた悲鳴を上げ始めていた。
ホノルル空港のトイレで見た薄い頭が、心なしかまた面積を広げたように感じた。
今回の仕事は誰もやり手がなく部長から直々に命じられた。
経営不振でリストラせざるえない状態だ、暗に今回の君の働きによってはリストラ対象者から外してもいい、そんな口調だった。
彼らの相手をするのは生易しいものではなかった。
気に食わないことがあるとすぐ呼びつけられた。
特に木村俊造の世話をしている、一番若いマイケル・タケには辟易していた。
協調性というものが全くなかった。
集合時間には現れず、探すといつも女性を口説いていた。
しかも日本語でだ。
コオリナのゴルフ場で、キャディにちょっかいを出して周りのひんしゅくを買った。
運悪く、彼女の夫がフロントで働いていたので、細川は平身低頭、謝った。
張本人は別の女性を口説いていた。
「細川さんですか。
東都の橋本です。
よろしくお願いします」
細川は挨拶もそこそこに、
「鍵出来てるよね。
社長と専務の部屋、問題ないね」
「ええ、すべてチェックしておきました。
社長と部長は目の前のシーサイド・ホテル35階のスウィート3501と3502です。
すぐチェツクインできます。
部屋からダイヤモンドヘッドとワイキキビーチが見えます。
後の8名はここウェスタンビーチ・ホテルになります」
「部屋の割り振りはFAXどおりにやってくれた?」
「ええ、やっておきました。
チェックインどうしますか。
シーサイドのフロントちょっと横柄なので僕が社長のチェックインをやりましょうか?」
「いや、いい!
私がやる。
後は頼んだよ。
名簿2番の沢村拓司さんは社長の部屋に泊まるから余分なベッドあるよね?」
「はい、部屋は3LDKになっていますから問題ないと思います」
純が言い終わらないうちに細川はリムジンに駆け寄った。
見苦しいほど頭を下げている。
勢いよく開いたドアの角が、細川さんの左側頭部で悲鳴を上げた。
頭をさすりながら何事もなかったかのように、
「社長様、専務様、沢村様、皆様、どうぞこちらへ!」
痛さで顔は引きつり、強盗に命乞いをしているようだ。
純は噴出しそうになるのを堪えた。
3人に続いて若い女性が二人降りてきた。
何だ、彼女らは?
女性はいないはずだけど、。
細川さんが左手でおでこを撫でながら純を睨んだ。
右手人差し指を口元で激しく振った。
社長は60代、専務は50前後で凹凸の激しい顔をしていた。
沢村は30代前半の筋肉隆々の男で、ボディガードだろうか。
シーサイドホテルに向かった細川さんを見送った後、マイクロバスから5人が降りてきた。
沢村さんは向こうに行ったから、7名のはずだ、おかしいな、。
そうか、あの二人の女性か?
ローマ字で書かれた名簿リスト順に名前を呼んだ。
1番の木村俊造が60過ぎで、2番がボディガードの沢村拓司、3番と4番と5番が40前後。
6番が20代のパンチパーマでデニス・ロドマン(元NBAの悪童選手)のはでな顔写真入りのTシャツを着ていた。
口、鼻、顔の大きさがよく似ている。
「タケミツ ヒロシ様」
名前を呼んだ時、猛烈に文句を言った。
「なんだと!
いい加減にしろよ。
俺の名はマイケル・タケ・ミツヒロだ!」
「ああ、どうもすいませんでした。
読み方を間違いました」
その後、7番の坂上一郎と8番の戸川正雄の二人を呼んだ。
返事がない。
皆、知らんぷりしている。
やっぱり、先程の女性達だな。
2階にあるツアーデスクへ先導しようとした時、マイケル・タケから横槍が入った。
「疲れてんだ。
まっすぐ部屋に案内しろよ」
「簡単にホテル内のことを説明したいのですが」
「そんなんはいい。
部屋だ!
案内してくれ」
「分かりました。
デスクで鍵をお渡ししますからどうぞ」
「お前の後を付いていかんといけんのか。
疲れとんじゃ、まとめてここに持ってこいや!」
純は鍵を取りに2階のデスクへ走った。
もうどうにでもなれ、って心境だ。
これから確実に起きる問題の尻拭いをするのは自分だ、憂鬱な気分になった。
ロビーで鍵を渡した後、部屋がある29階まで案内した。
それぞれの部屋に荷物が届いているのをチェックした後、デスクに戻った。
リムジンに乗っていた女性の荷札には、それぞれ坂上一郎と戸川正雄と書かれていた。
《上村通商ハワイツアー御一行様》のサインを手に、純はウェスタンビーチ・ホテル玄関前で到着を待っていた。
総勢、10名、3泊4日のグループ日程表を改めて確認した。
「純、他の仕事はいいからグループが帰るまで付きっ切りで世話をしろ。
本社、総会屋担当重役から電話があった。
上村通商は関東で、一、二を争う総会屋と関係があるらしい。
何があっても円便にツアーを終わらせろよ」
当然、黒木自身が担当すべきなのに、、彼の保身が見て取れた。
ただ、気になることがあった。
天候が荒れる、と予報が出ていた、ハリケーンだ。
このまま速度が遅いと上村ツアーには問題ないんだけど、、、。
社長の上村正一と専務の荒井邦男は、ウェスタンビーチ・ホテル前にあるシーサイド・ホテル、
添乗員と社員8名はウェスタンビーチ泊、日程はハードで、自由行動は最終日の夜だけだった。
朝6時45に到着後、コオリナのゴルフ場に直行し、午後3時にホテルへ。
午後7時にフロントに集合してタンタラスの丘へ行き、それから”田中オブ東京”で夕食。
翌日は、3名がハワイ島巡り。
残りは、ヘリコプターツアー、潜水艦ツアー、ゴルフに分かれ、夜,全員で夕食。
最終日は、リムジンでオフフ島一周、夜は自由行動、翌早朝、帰国。
3日前に添乗員の細川肇が電話で、8名の部屋割りに注意するよう何度もくどいほど言った。
昨日、FAXで送られてきた部屋割りが変っていた。
この1週間で3度の変更だ。
細川さんもこのツアーを押しつけられたのだろう。
コオリナのゴルフ場から一行を乗せたマイクロバスがウエスタンビーチ・ホテル玄関前に到着した。
その後にリムジンが一台続いていた。
やつれた顔に眉間に皺を寄せた40代後半の男が、黄ばんだハンカチを額に当ててバスから転げ落ちるように降りてきた。
添乗員の細川は、やっと災難から救出されたような心境だった。
暴力団だけにここまでかなり気を使っていた。
治りかけの胃潰瘍がまた悲鳴を上げ始めていた。
ホノルル空港のトイレで見た薄い頭が、心なしかまた面積を広げたように感じた。
今回の仕事は誰もやり手がなく部長から直々に命じられた。
経営不振でリストラせざるえない状態だ、暗に今回の君の働きによってはリストラ対象者から外してもいい、そんな口調だった。
彼らの相手をするのは生易しいものではなかった。
気に食わないことがあるとすぐ呼びつけられた。
特に木村俊造の世話をしている、一番若いマイケル・タケには辟易していた。
協調性というものが全くなかった。
集合時間には現れず、探すといつも女性を口説いていた。
しかも日本語でだ。
コオリナのゴルフ場で、キャディにちょっかいを出して周りのひんしゅくを買った。
運悪く、彼女の夫がフロントで働いていたので、細川は平身低頭、謝った。
張本人は別の女性を口説いていた。
「細川さんですか。
東都の橋本です。
よろしくお願いします」
細川は挨拶もそこそこに、
「鍵出来てるよね。
社長と専務の部屋、問題ないね」
「ええ、すべてチェックしておきました。
社長と部長は目の前のシーサイド・ホテル35階のスウィート3501と3502です。
すぐチェツクインできます。
部屋からダイヤモンドヘッドとワイキキビーチが見えます。
後の8名はここウェスタンビーチ・ホテルになります」
「部屋の割り振りはFAXどおりにやってくれた?」
「ええ、やっておきました。
チェックインどうしますか。
シーサイドのフロントちょっと横柄なので僕が社長のチェックインをやりましょうか?」
「いや、いい!
私がやる。
後は頼んだよ。
名簿2番の沢村拓司さんは社長の部屋に泊まるから余分なベッドあるよね?」
「はい、部屋は3LDKになっていますから問題ないと思います」
純が言い終わらないうちに細川はリムジンに駆け寄った。
見苦しいほど頭を下げている。
勢いよく開いたドアの角が、細川さんの左側頭部で悲鳴を上げた。
頭をさすりながら何事もなかったかのように、
「社長様、専務様、沢村様、皆様、どうぞこちらへ!」
痛さで顔は引きつり、強盗に命乞いをしているようだ。
純は噴出しそうになるのを堪えた。
3人に続いて若い女性が二人降りてきた。
何だ、彼女らは?
女性はいないはずだけど、。
細川さんが左手でおでこを撫でながら純を睨んだ。
右手人差し指を口元で激しく振った。
社長は60代、専務は50前後で凹凸の激しい顔をしていた。
沢村は30代前半の筋肉隆々の男で、ボディガードだろうか。
シーサイドホテルに向かった細川さんを見送った後、マイクロバスから5人が降りてきた。
沢村さんは向こうに行ったから、7名のはずだ、おかしいな、。
そうか、あの二人の女性か?
ローマ字で書かれた名簿リスト順に名前を呼んだ。
1番の木村俊造が60過ぎで、2番がボディガードの沢村拓司、3番と4番と5番が40前後。
6番が20代のパンチパーマでデニス・ロドマン(元NBAの悪童選手)のはでな顔写真入りのTシャツを着ていた。
口、鼻、顔の大きさがよく似ている。
「タケミツ ヒロシ様」
名前を呼んだ時、猛烈に文句を言った。
「なんだと!
いい加減にしろよ。
俺の名はマイケル・タケ・ミツヒロだ!」
「ああ、どうもすいませんでした。
読み方を間違いました」
その後、7番の坂上一郎と8番の戸川正雄の二人を呼んだ。
返事がない。
皆、知らんぷりしている。
やっぱり、先程の女性達だな。
2階にあるツアーデスクへ先導しようとした時、マイケル・タケから横槍が入った。
「疲れてんだ。
まっすぐ部屋に案内しろよ」
「簡単にホテル内のことを説明したいのですが」
「そんなんはいい。
部屋だ!
案内してくれ」
「分かりました。
デスクで鍵をお渡ししますからどうぞ」
「お前の後を付いていかんといけんのか。
疲れとんじゃ、まとめてここに持ってこいや!」
純は鍵を取りに2階のデスクへ走った。
もうどうにでもなれ、って心境だ。
これから確実に起きる問題の尻拭いをするのは自分だ、憂鬱な気分になった。
ロビーで鍵を渡した後、部屋がある29階まで案内した。
それぞれの部屋に荷物が届いているのをチェックした後、デスクに戻った。
リムジンに乗っていた女性の荷札には、それぞれ坂上一郎と戸川正雄と書かれていた。
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