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8:上村通商ハワイツアー

「純、頼みがある」
「何でしょう?」
「上村通商グループの情報を出来るだけ教えてくれないか。
訳は言えないがいずれ話す」
「分りました」
「今まで黙っていたが、俺の親父と純のお父さんの死は関係があるかもしれない」
「、、、、、」
「まだ分らない。
真相を知りたい」
「上村通商も関係があるのですね?」
「それを確かめたい。
5日後の10月1日、6時45分、羽田発、中華航空001便で来るんだよね」
「そうです」
「俺とモモは同じ便に乗ってくる」
「え、又、日本に?」


ホタルとモモは上村通商社長、上村正一と専務の荒井邦男の後方、15mほど離れて移民局に向かった。

荒井邦男は広域暴力団、宮沢組会長、宮沢寅吉の片腕だった。
以前、NY入国を拒否されていた。
ブラックリストに載った宮沢組の幹部が入国できるはずがない。
彼らは外国人(foreigners)のサインのあるブースに向かった。 

50前後の移民官が二人に近寄って握手をした。
案内するような仕種で何事か話しながらブースのない通路を通り過ぎた。
「モモ、思ったとおりだ。
おかしい。
フリーパスだ」
「ひどいわ。
堂々とあんなことをするなんて」
「上も買収されてる。
さあ、行こう。
こうなったらあの二人の荷物をチェックしたい。
大事なものが入っている可能性がある。
ほら、メンバーが来たぞ。
パンチパーマもいるぞ。
行くぞ」
「彼らが税関を通過できるか見なくていいの?」
「下っ端はブラックリストに載ってない」 

二人は、ナンバー22荷物受け取り場所で、コンベヤーで流れる自分達の荷物を何度か見過ごした。
向かいに立っている、Tシャツ胸一面にデニス・ロドマン(注)の顔のイラストが入ったパンチパーマの男を観察した。
ツアーメンバーと一緒にパンチパーマの男はコンベヤー脇に立っていたが、流れている荷物には目もくれず辺りをきょろきょろ見回していた。

「モモ、今度,荷物を取るぞ。
彼の態度がおかしい」
「あのTシャツは何か意味があるのよ。
パンチ(パーマ)のやくざがNBAの悪者プレーヤーのロドマンのTシャツを着ているのがおかしいと思ったの」
羽田出国時のモモの言葉が的中した。
ズボンのベルトが悲鳴を上げている税関員が近寄ってきて何事か彼に話しかけた。
メンバーと添乗員から離れ、ショルダーバッグだけを持って税関に向かった。
羽田空港で彼がチェックインした時に預けた、上村と荒井と漢字で書かれた2個のスーツケースを持っていない。
「モモ、先に行って後を追え!
あの2個のスーツケースがどうなったのか知りたい。
荒井、上村は手ぶらだった。
俺は他のメンバーと一緒に出る」

パンチが持っていたコンピュターゲームに若い税関員が興味を持った。
たどたどしいしい日本語で質問をしていた。
モモはすぐ後ろに立つことができた。
ベルトが悲鳴を上げている先程の税関員が早足でやってきた。
喘ぎながら若い税関員を睨みつけた。
「マーク!
彼はいいんだ!(Let him go!)」 

モモは税関を通って続いた。
パンチは先程の税関員に案内されて部屋に入っていった。
数十秒後、羽田空港でチェックインしたときに預けた2個のスーツケースを引きずって出てきた。
メンバーを待つつもりなのかしばらく佇んでいた。
人の流れに逆らうように立っている自分に嫌気が差したのか歩き出した。
 
他のグループに混ざってグループ到着ゲートに着いた男は、入り口脇でスーツケースに腰掛けた。
グループツアーの人混みでロビーはひどく込んでいた。
しばらくして、ツアー会社の制服を着た女性が話しかけた。

純の会社かしら、、
彼等もぐるなの?

何事か身振り手振りで楽しそうに話していたパンチは、スーツケースを女性に手渡した。
しつこく彼女に言い寄っている。
何かを書いてメモを渡した後、彼女は投げキスをしながらスーツケースを持って行った。
 
一般到着ゲートに向かったモモは途中、上村通商グループのメンバーとすれ違った。
添乗員の姿が見えなかった。
ホタルが待っていた。
「どうだった?」
「あの太った税関員がパンチパーマを部屋に案内して例のスーツケース2個を渡したわ。
純の会社の女性がパンチから荷物受け取ったわ」
「荷物は純の会社が運ぶのか?
不用心だな、大切なものが入っているなら、、」
「暴力団の幹部があんなに簡単に入国できるなんて。
兄さん、ルイス・エンリケが裏で動いてるのね」
  

ルイス・エンリケと宮沢組の関係は1987年、宮沢組会長、宮沢寅吉が内部抗争から分裂した山崎組に対抗するため密かに武器買い付けのためハワイに来た時から始まった。 
宮沢会長がFBIの囮捜査で捕まったとき、ルイスは有能な弁護士を米中から集めて囮捜査の違法性を訴えた。
その作戦が功を奏し、2か月の拘留の後、会長は無罪放免された。
その後、『日本列島を売れば米国が4個買える』といわれたバブル期の89年にマウイ島にあるホテルの買収目的で訪れた荒井邦男に、ルイス・エンリケは市場価格より5〜15%も高いから今は買うべきではないと強く忠告した。
丸の内の大家、三菱地所がNY、マンハッタン、ロックフェラーセンター・オーナー会社の株式の51%を1200億円で買った年で、遅れをとるまいと住友不動産、三井不動産が市価の5%以上も高い法外な値段でNYの666オフィスビル、エクソンビルを買った頃だった。
当初、荒井は苦々しく思った。
今となってはそれが正しかったことが証明された。
ルイス・エンリケと宮沢組の関係は以前より深くなっていた。

ホタルは、いずれ彼らが動くと期待してこの数年、密かに見張っていた。
3か月前、上村通商がハワイツアーに行くようだとの情報を得た。
東京でツアーを企画した旅行代理店、スカイ・ツアーズの社員を装って、ツアー参加者の人数、名前、彼らの日程、滞在ホテルなどを調べた。
 
当初、宮沢組から出向している荒井邦男専務の名前が名簿になかったので慰安旅行だと思っていた。
出発当日、名簿に載っていた部長の荒井君夫の姿がなかった。
代わりに、荒井邦男の姿があった。
意図的に君夫になりすましてハワイに行こうとしているように見えた。
「上村通商グーループ・メンバーはフルネームのアルファベットで書かれていますが、AraiだけはArai.Kになっている」
と中華航空カウンター内の女性が言った。 
運良く、ファーストクラスにキャンセルがあったので、モモをエコノミーに残して変更した。

宮沢寅吉の片腕、荒井邦男が別人の名前をかたってハワイに行くということは、裏で何かが動き出したに違いない。
父を殺したルイス・エンリケに復讐するためにホノルルへ戻ってきた。
相手は想像もつかない巨大な力を持っていた。
モモと二人で立ち向かえるだろうか。

デニス・ロドマン(Dennis Rodman):元NBAの選手。悪役、トラブルメーカー。


theme : 連載小説
genre : 小説・文学

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