4:はわいーい ホタルとモモ
4:ホタルとモモ
ホタルの声で目が覚めた。
マンガのような整った美しい顔が目の前にあった。
真っ白のキャンバスに、唇は真っ赤、目許は真っ青に自分の顔を描きこんだスチュワデスの顔だった。
「ポークかシュリンプ(海老)?」
モモは一切、肉、魚類を食べなかったので返答に困った。
でもお腹が空いていた。
海老、と答えた。
5分後、首をち切られ、手足をもぎ取られ、背中に数ヶ所傷が見える、無惨な姿の海老がソースの中で窒息死していた。
どんな恨みがあってここまでやれるのだろう。
手をつける気にはなれなかった。
ナプキンでソースをきれいに取ってコップの水でエビの体を清めた。
デザートのプディンの真中にレタスの葉を敷いて、その上に横たえた。
昨日、CNNで、
「ロブスターを食べるのを止めて保護しようという動物愛護運動が始まった」とアンカーが言っていた。
画面では、4人の女性活動家が、魚屋で生きたロブスターを買い取り海まで運んで放していた。
正面からロブスターにキスをしたら、彼らを認めてもいいと思って見ていた。
そこまではやらなかった。
偽者だわ。
仮に海で自分と同じ大きさのロブスターか鮫に遭遇したら、この活動家たちはどうするのだろう。
喜んで餌になるなら認めてあげる。
ホタルとモモの高井兄妹は、午前、6時45分、羽田発、中華航空001便でホノルル空港に降り立った。
ホタルは25歳、モモは20歳の勝ち気な女性だった。
父、日系3世、高井直人の死後、母親、千恵子と日本に戻った。
ホタルは10歳から15歳までの5年間、モモは5歳から16歳まで日本にいた。
二人とも、英語、日本語を母国語のように話すことができた。
ホタルは2年前バークレー音楽院を優秀な成績で卒業した、作・編曲家、ピアニストだった。
父の故郷ハワイで活動していた。
身長183cm、面長で額にヘアバンド、眉は太く両耳に十字架のピアスをしていた。
モモはボストンの高校を卒業したばかりだった。
去年、ボストンを離れハワイで活動中の兄、ホタルと日本で合流してハワイに来た。
モモのTシャツには、《NOT OF THIS EARTH。地球外》の小さな文字が胸に、背中に金銀の2トンカラーで、顔の長さが左右微妙に違った宇宙人の姿があった。
13歳の時から《オズ》というバンド名で横須賀近辺のライブハウスで、ギター片手に週一回活動をしていた。
自分だけのワンマン・バンドだった。
アイドルはジャニス・ジョップリン(米ロック歌手、71年に他界)だった。
モモは次第にシンナーに溺れていった。
4年前、手に負えなくなった母親、千恵子はボストンにいた一人息子のホタルの元に預けた。
「ホタル、モモがシンナーをやっているのよ」
「シンナーを」
「先日、警察で事情聴取受けたわ」
「仲間がいるの?」
「独りよ。
あの子は変っているわ。
音楽やっているかシンナーよ」
「そう、、お母さん、俺が面倒見るかな、、」
ホタル自身、ドラッグから更生した過去があったので、モモを立ち直らせる自信があった。
「あなたも、、そう思う?
モモはここに居ない方がいいって?」
「退学してシンナーじゃあ、、今、16だろう。
その年でシンナーじゃあ、、頭壊れるよ。
退学はシンナーが原因?」
「違うわ、そんなことじゃない」
「お母さん、何か俺に隠している?」
「、、口止めされてるのよ」
「こっちに来るなら俺が知ってた方がいいだろう。
今、音楽は?」
「ええ、ライブハウスでやっているわ」
「相変わらずパンク?」
「さあ、、私、分らないわ」
「シンナーと音楽をやってる16歳か?
珍しい子だね、モモは。
俺が面倒見るよ。
お母さん、口止めされてるのを教えてよ。
絶対に彼女には悟られないようにするから。
約束する」
「あの子、字が書けなくなったのよ」
「字が書けない?
嘘だろう」
「嘘だと思うぐらい、、深刻なの」
「何言ってるの?
綺麗じゃあないけど書いてるじゃない。
手紙だってここにあるし」
「手が緊張して思うように動かせないのよ。
テストは零点。
答えが分っていても書けない。
この2年間、毎日字の練習をしてた。
でも駄目だった。
モモは一生懸命やった。
よくやったのよ」
「、、原因は?」
「分らない。
教則本が引き金になったのかな、
字の練習し出してすぐだったから。
私の勝手な推測だけど、自分の字を否定した代償なのかしら。
人間って、デリケートね」
ホタルの住むボストンに向かった。
スチュワデスが入国カードを持ってきた。
モモは身構えた。
書くしかなかった。
時間をかけよう。
たった数行だけよ、、、。
なんとか、、書き上げた。
ああ、アメリカ国籍を持ってた。
書く必要なかったわ、、。
これだけで自分をみじめに感じた。
もう、なんでも、書くのを避けていた。
お母さんがいると書いてくれた。
でも、書かなければいけない状況に何度も遭遇した。
自分の名前さえ、、、満足に書けない。
航空券の購入、役所、パスポート、、それら簡単な記入なのに、、できなかった。
特に人前ではまったく書けなかった。
相手は平静を装うと努めているのが見て取れた。
え!この子、字が書けないの。
最後には見下したような表情に変わっていた、本人はそれに気づいていない。
人間って、みんな、そうなのよ。
何か、相手ができないことを見つけたら馬鹿にするのよ、。
嫌だ、、馬鹿にされたくない。
字が書けないの隠そう。
ボストンで一緒に生活し出して、独りよがりの音だと感じていたモモの音が劇的に変化していた。
思うように字を書けなくなって、弱者の気持ちを理解できるようになったからなのか、音の情感が拡がっていた。
地元の高校に入れ、シンナー、ドラッグから更正させた。
シンナーをやっていた原因は想像していたとおりだったので簡単に抜け出せた。
自分と同じ、音楽をやる為だった。
詰まると、逃げ道を探す。
逃げ道で得たもの、作り出したものがつまらない、と気づかせればいいだけだった。
字のことは知らん振りをとおした。
全て、自分のことは自分でやるように仕向けた。
モモは悟られたくないのか、一生懸命に書類、手紙、、書いていた。
この分なら克服できるとホタルは確信した。
救いは、アルファベットの方が日本の文字より変化が少ないことだった。
ホタルの声で目が覚めた。
マンガのような整った美しい顔が目の前にあった。
真っ白のキャンバスに、唇は真っ赤、目許は真っ青に自分の顔を描きこんだスチュワデスの顔だった。
「ポークかシュリンプ(海老)?」
モモは一切、肉、魚類を食べなかったので返答に困った。
でもお腹が空いていた。
海老、と答えた。
5分後、首をち切られ、手足をもぎ取られ、背中に数ヶ所傷が見える、無惨な姿の海老がソースの中で窒息死していた。
どんな恨みがあってここまでやれるのだろう。
手をつける気にはなれなかった。
ナプキンでソースをきれいに取ってコップの水でエビの体を清めた。
デザートのプディンの真中にレタスの葉を敷いて、その上に横たえた。
昨日、CNNで、
「ロブスターを食べるのを止めて保護しようという動物愛護運動が始まった」とアンカーが言っていた。
画面では、4人の女性活動家が、魚屋で生きたロブスターを買い取り海まで運んで放していた。
正面からロブスターにキスをしたら、彼らを認めてもいいと思って見ていた。
そこまではやらなかった。
偽者だわ。
仮に海で自分と同じ大きさのロブスターか鮫に遭遇したら、この活動家たちはどうするのだろう。
喜んで餌になるなら認めてあげる。
ホタルとモモの高井兄妹は、午前、6時45分、羽田発、中華航空001便でホノルル空港に降り立った。
ホタルは25歳、モモは20歳の勝ち気な女性だった。
父、日系3世、高井直人の死後、母親、千恵子と日本に戻った。
ホタルは10歳から15歳までの5年間、モモは5歳から16歳まで日本にいた。
二人とも、英語、日本語を母国語のように話すことができた。
ホタルは2年前バークレー音楽院を優秀な成績で卒業した、作・編曲家、ピアニストだった。
父の故郷ハワイで活動していた。
身長183cm、面長で額にヘアバンド、眉は太く両耳に十字架のピアスをしていた。
モモはボストンの高校を卒業したばかりだった。
去年、ボストンを離れハワイで活動中の兄、ホタルと日本で合流してハワイに来た。
モモのTシャツには、《NOT OF THIS EARTH。地球外》の小さな文字が胸に、背中に金銀の2トンカラーで、顔の長さが左右微妙に違った宇宙人の姿があった。
13歳の時から《オズ》というバンド名で横須賀近辺のライブハウスで、ギター片手に週一回活動をしていた。
自分だけのワンマン・バンドだった。
アイドルはジャニス・ジョップリン(米ロック歌手、71年に他界)だった。
モモは次第にシンナーに溺れていった。
4年前、手に負えなくなった母親、千恵子はボストンにいた一人息子のホタルの元に預けた。
「ホタル、モモがシンナーをやっているのよ」
「シンナーを」
「先日、警察で事情聴取受けたわ」
「仲間がいるの?」
「独りよ。
あの子は変っているわ。
音楽やっているかシンナーよ」
「そう、、お母さん、俺が面倒見るかな、、」
ホタル自身、ドラッグから更生した過去があったので、モモを立ち直らせる自信があった。
「あなたも、、そう思う?
モモはここに居ない方がいいって?」
「退学してシンナーじゃあ、、今、16だろう。
その年でシンナーじゃあ、、頭壊れるよ。
退学はシンナーが原因?」
「違うわ、そんなことじゃない」
「お母さん、何か俺に隠している?」
「、、口止めされてるのよ」
「こっちに来るなら俺が知ってた方がいいだろう。
今、音楽は?」
「ええ、ライブハウスでやっているわ」
「相変わらずパンク?」
「さあ、、私、分らないわ」
「シンナーと音楽をやってる16歳か?
珍しい子だね、モモは。
俺が面倒見るよ。
お母さん、口止めされてるのを教えてよ。
絶対に彼女には悟られないようにするから。
約束する」
「あの子、字が書けなくなったのよ」
「字が書けない?
嘘だろう」
「嘘だと思うぐらい、、深刻なの」
「何言ってるの?
綺麗じゃあないけど書いてるじゃない。
手紙だってここにあるし」
「手が緊張して思うように動かせないのよ。
テストは零点。
答えが分っていても書けない。
この2年間、毎日字の練習をしてた。
でも駄目だった。
モモは一生懸命やった。
よくやったのよ」
「、、原因は?」
「分らない。
教則本が引き金になったのかな、
字の練習し出してすぐだったから。
私の勝手な推測だけど、自分の字を否定した代償なのかしら。
人間って、デリケートね」
ホタルの住むボストンに向かった。
スチュワデスが入国カードを持ってきた。
モモは身構えた。
書くしかなかった。
時間をかけよう。
たった数行だけよ、、、。
なんとか、、書き上げた。
ああ、アメリカ国籍を持ってた。
書く必要なかったわ、、。
これだけで自分をみじめに感じた。
もう、なんでも、書くのを避けていた。
お母さんがいると書いてくれた。
でも、書かなければいけない状況に何度も遭遇した。
自分の名前さえ、、、満足に書けない。
航空券の購入、役所、パスポート、、それら簡単な記入なのに、、できなかった。
特に人前ではまったく書けなかった。
相手は平静を装うと努めているのが見て取れた。
え!この子、字が書けないの。
最後には見下したような表情に変わっていた、本人はそれに気づいていない。
人間って、みんな、そうなのよ。
何か、相手ができないことを見つけたら馬鹿にするのよ、。
嫌だ、、馬鹿にされたくない。
字が書けないの隠そう。
ボストンで一緒に生活し出して、独りよがりの音だと感じていたモモの音が劇的に変化していた。
思うように字を書けなくなって、弱者の気持ちを理解できるようになったからなのか、音の情感が拡がっていた。
地元の高校に入れ、シンナー、ドラッグから更正させた。
シンナーをやっていた原因は想像していたとおりだったので簡単に抜け出せた。
自分と同じ、音楽をやる為だった。
詰まると、逃げ道を探す。
逃げ道で得たもの、作り出したものがつまらない、と気づかせればいいだけだった。
字のことは知らん振りをとおした。
全て、自分のことは自分でやるように仕向けた。
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