13:With a little help. ドゴン族の太鼓このエントリをはてなブックマークに登録

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13:ドゴン族の太鼓

鉄二はマフィア稼業が好きでも嫌いでもなかった、たまたま親父が広域暴力団、山岡組のボス、山岡哲司、お袋がシチリア・マフィアボスの娘、もう生まれる前からレールは敷かれていた。
親父が若い時、命を狙われて逃げた先がシチリア、まさにゴッドファーザーの日本版だ。ハリウッド映画と違うのは、お袋の死は自動車爆弾ではなかった。子どもを助けようとして亡くなったと、詳しくは知らない、誰も教えてくれないからだ。
当時、ニ歳だった、無理な話だ。
だが、30になってもまだ教えてくれないとは、まだ餓鬼扱いのようだ。

玄関脇にあった太鼓を車に運んだ。
おかしかった、揺すると太鼓の中から“ガサガサ”音がした。

真夜中2時過ぎ、NJ(ニュージャージー)チェリー・ヒルに着いた鉄二は、濃い青色のストライプのシャツに白色の絹のスカーフを首に巻いたアロイの前で、眠気眼をこすりながら太鼓の皮紐を解き始めた。
きつく張られていたので解くのは容易ではなかった。
アロイはウォッカマティーネを手に作業を見ている。
「鉄二、今度はドゴン族の太鼓だとよ。ディマッジョもいろいろ考えるな」
「簡単に解けるのには変えてくれないでしょうね。爪、手の皮がメロメロです。
ボス、切ってもいいですか」
「税関もうんざりするんだとよ、解くのにどのくらい時間がかかるか見よう。解いてみな」
「中身なんて開けなくても調べられるでしょう?」
「ヘロインが太鼓の壁にへばり付いてるんだとよ、、音はしないはずなんだがな」

1時間後やっと皮紐を解いた。
中身を作業台の上に開けると、ヘロインが木片、繊維、植物に化けていた。
頭に来たアロイは受話器を荒々しく取った。
ディマッジョの副ボス、ジョン・スパーロが出た。
「何のつもりだ?手品でも見せてえのか?」
「誰だ?サルバトーレか。何をかりかりしてる。
手品だと?何を言ってんだ」
「ヘロインがゴミに化けたんだ!」
「ちょっと待て!どういうことだ?」
「太鼓の中身はゴミなんだよ!木、植物の屑のな!」
「ヘロインはなかったのか?」
「ない!ゴミだ!」
「サルバトーレ、落ち着け!俺がじかに入れたんだ。
間違いない。なんせ初めてのサンプルだ。
特殊な塗料を太鼓の内側に塗ってその中に上手く隠した。壁がヘロインだ。
念を入れてX線で調べたぐらいだ」
「”がさがさ”揺らすたびに中で喚いたぜ」
「中で喚いた?音がしたのか?」
「捕まえてくれ、ってな」
「おかしいな。塗料が剥げ落ちても音はしないはずだ。
そっちで手違いは?」
「ああ、今のとこ、ありゃしないぜ」
「FBIはどうだ?奴らが仕組んだってのは」
「ヘロインでしょっぴけるのにゴミに変えるか!」
「分かった。徹底的に調べるから少し時間をくれ。
おまえもそっちを調べてくれ」 

それから6時間後、
「サルバトーレ、徹底的に調べた。ゴミに変わったのが分からん。
そっちはどうだ?」
「荷揚げ業者から船員にいたるまでな。あんたのシチリアのライバル、インツェリッロ・ファミリーがやったってのは考えられんか。噂ではガンビーノ・ファミリーと手を組んで俺たちと同じことをやろうなんて考えてるらしいが」
「初耳だな。インツェリッロとガンビーノが組むのか。
ガンビーノはコンクリート、ごみ車、ブルックリンの荷降ろしで充分だろう。
まだ勢力を広げようとしてるのか?」
「ああ、強力な組み合わせだ。メデジン・カルテはどうだ?
奴らを取られたら戦争だ」
「じゃあ、コロンビアのカリ・カルテ(コロンビア・カリ市に本拠を置く麻薬組織)も奴らと組むな。
インツェリッロとカリ・カルテはコネがある。昔、俺たちとの戦争で負けたのがコロンビアに逃げた。
カナダ、ベネズエラにもな」
「てことは、このビジネスを始めても俺たちとは同じルートを使わねえってことか」
「そう願いたいな。このルートは俺たちが作り上げたんだからな。
だが参入してきたら、もう甘い汁は吸えないな。
最近メデジンの奴ら金にうるさくてな。コカインの値上げを要求してきた。
実は、サルバトーレ、1週間前にインツェリッロのスパイが見つかった。
絞りあげて吐かせようとしたが殺しちまった。今、聞いた話と辻褄が合うな。
だが、太鼓の情報は流せても中身までは変えられないはずだ」
「ガンビーノが噛んでると見たほうがいいかもな。
きたねえことを考えてやがる。
戦争の準備だけはしとくかな」
「まだ、その段階じゃあねえ。他のファミリーがどっちにつくか読んでからだ」
「手は打つよ。ガンビーノのドン・ゴメスが相手なら勝ち目はない。
ドンを始末すればなんとかなるが。ジョン、戦争になっても地獄の底まで一緒ってことで裏切りはなしだぜ」
「サルバトーレ、その言葉そっくり返すぜ」
「アルカイナの連中はどうだ、何か企んでいないか?」
「奴等はヘロインの元締め、パキスタンルートは一番安全だ、それだけの付き合いだ。深入りしたらとんでもないことになる」
「もう深入りしてんじゃないだろうな、テロ組織との関わり合いだけは御免だぜ」
「アルカイダとは関係ないと言ってたから大丈夫だ。あっちにはいろんな組織があるんだとよ」


翌朝、寝坊したキャシーは玄関に太鼓がないのに気づいた。
徹が持って行ったのね。

学校帰りに徹はキャシーの家に寄った。
母親、エリザベスがいた。
「キャシーは?」
「あなたたちとバンドの練習してると思ったけど違ったの?」
「じゃあ、練習場に行ってみるよ」
太鼓を玄関の入り口に置いておく、と言ってたのに。

アンプ横に太鼓があった。
やっぱり、キャシーは重くて運べなかったんだ。


家に戻ってすぐ電話が鳴った。
「徹、太鼓持って行ったんでしょう?」
「ここにあるよ」
「練習場に太鼓がないのよ」
「だってそこから僕が持ってきたんだよ。ないのはあたりまえさ」
「私の家から持って行ったんじゃないの?」
「う、ううん、君んちになかったよ。
練習所にあったから持ってきたんだ」
「それ、本当に徹の太鼓?」
「もちさ、何を言うんだ!KISSも見たし。そうだよ」
「私の叩く太鼓がないのよ!アンプの横に置いてたのよ!
昨日、家に二つあったの!みんな消えちゃったから私の叩く太鼓がなくなっちゃったの!」
キャシーは泣き出した。
「キャス!泣くなよ!これで君をバンドから追い出そうなんてしないから。
約束するよ。花子さんが帰ってきたらこの太鼓、君にあげていいか聞いてみるからさ」
「本当!徹、約束よ!バンドから追い出さないって!」

キャシーは家に着くやエリザベスの部屋に直行した。
いつものようにベッドに酔い潰れていた。
「ママ、起きて!ママったら、起きて!」
「あら、キャシー、早かったのね。もう学校は終わったの、、、」
「朝あった太鼓がないの、欲しいの。
どこに行ったの、ねぇ、ねぇってば!」
「太鼓?あれはパパのよ。パパが持って行ったわ」

キャシーはどの太鼓が誰のものかもう分からなくなっていた。
花子さんが早く帰って来ることだけを一生懸命に祈った。



KISSが毎日のように見舞いに来てくれた。
もしかして糖尿病以外の不治の病に冒されているのかしら。
身寄りのないロベルトは不安でKISSに哀願した。

「お医者さんに後どのくらいの命なのか聞いて欲しいのよ」
「ロベルト、申し訳ない、俺のせいなんだ」
ペレの神話を一生懸命に何度も説明した。
「KISS,あなたっていい人ね。
そんな馬鹿な作り話をして、、、、気休め言ってくれなくてもいいのに、本当にありがとう。
生まれたときから天涯孤独の身でしょう、だから覚悟は出来てるつもりよ。お願いだから先生に、、」 




theme : 連載小説
genre : 小説・文学

14:With a little help. 花子さんこのエントリをはてなブックマークに登録

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14:花子さん  

徹の母親、花子さんがアフリカの旅から帰ってきた。
黒髪を後ろで束ね、顔は面長、頬に徹と瓜二つのそばかすがある。
目はマイナス15度にも冷えあがった夜明け、そこだけ太陽の日差しにそっぽを向かれ、取り残されて数日も屋根から垂れ下がっているつららのようだ。
しがみついているわけでもなく、ただ垂れ下がっているだけなのに、先は鋭くとがって透き通っている。芯が強そうだ。

肩にバック・パック、ジーパンにアーミーコート姿、旅人がそうであるように戦場から今帰ってきたような雰囲気とエネルギーに溢れていた。

「あなたがGOね。ハワイではKISSが世話になってありがとう」
テレビの上の太鼓を見て含み笑いした時、右口元に恥ずかしそうにえくぼが現れた。
神様も粋なことをするものだ。
「徹へのプレゼントなの。いい音がするでしょう?」

勢い良くドアを開けて徹が花子さんの胸に飛び込んできた。
「花子!お帰り!」
「徹、元気そうね。キャシーはバンドに入れてあげたんでしょうね?」
「もちだよ!楽器弾けないからパーカッションやってる。あの太鼓、キャシーが使ってもいいでしょう?」
「ええ、あなたへのプレゼントだからお好きなように」

ロベルトを見舞ってきたKISSが帰ってきた。
花子さんがいるのを見て、右手がドアの取っ手に張り付いたままだ。顔が赤い、彼女が好きなのだ、だけど言えない、って感じだ。
いい年してこうなるとは、想像していなかった、自分もあまりそう言えない立場だが。

話は俺とKISSの出会いに移っていた。ペレの神のことを徹が話している。
あまり触れたくないことだったので俺達は顔を見合わせて貝になろうとしていたが、徹はそうさせる気はないようだ。
花子さんが俺を見た。「GO、何のことなの留置所って?」
KISSが話そうとしないから回ってきた。好きな女(ひと)の前で、トイレット・ペーパーを落として捕まったなんて誰が言えよう。彼の同意を得てホノルルでの出来事を話した。

「あなた運が悪いわね。なぜ話してくれなかったの?」
「ハワイから帰ってきて二日後にはアフリカだろう。話す時間なんてなかった。
罰金5千$はもう払った。公共サービスは後二時間で終わりだ」
「公共サービスは何をやっているの?」
「朝早くから公園の清掃」

徹が納得したように声を上げた。
「おかしいと思ってたんだ、徹夜のついでにお仕事していたんだ」

徹が自分の部屋からマウナ・ロアの石を持ってきた。よかった、これでKISSが解放される。
自分で落としておいて助け舟を出す、しぶとい子どもだ。
「うわあ、すごいエネルギーね。これがマウナロアの石ね?」
「ここまで運ばれて来てエネルギーが増したんだよ。KISSは気付いてないんだ。臭い靴下に包んで送ってたんだから。代わりにロベルト叔父さんが倒れたんだ」
「え、ロベルトが倒れたの!」
「糖尿が悪化して後二週間ぐらい入院が必要らしい。俺のせいだよ、プレゼントにその石あげたから」
「ああ、、、聞いたことがあるわ」
「そうなんだよ、いろんなことが起きたんだよ。KISSが捕まったり、ロベルト叔父さんが倒れたり。でも二人がハワイで会えたのはペレのおかげだよ」

最後の言葉は信じられなかった、もしそうなら俺が濡れ衣で捕まったのもペレの仕業ということになる。見透かしたように徹が言葉を続けた。
「GOも捕まったでしょう。でも結局何も起きなかったでしょう?そして今ここにいるでしょう。
すべてそうなってたんだ、ペレが仕向けたんだよ」
言葉が無かった、確かにここに来る気になったのはKISSと出会ったからだ。

「恐ろしい神様のようだけどいいこともやるのね。今でも旅行者が黙って持ち帰った何千もの石がハワイ島に送り返されているそうよ。世界中で火山が噴火した時、ペレの亡霊を見た、って報告もね」
「GOがこの前言ってたが、神様なのになんで化けて人を試すんだ?」
「同じ境遇に落として考えさせたいのでしょう。強烈だけど」
「神様がやることじゃあないな」
「KISS、言葉を慎んだほうがいいぞ。ここにいるんだからな」
「そう。素直に受け入れなさいよ。ペレの神はそうなのよ。あなたの落としたトイレット・ぺーパーがたまたまお巡りさんに当たったのも関係があると思いなさい。マウナ・ロアは約50万年前に火山活動のピークを終えたのよ。でも当時よりどんどん山自体は沈んでるの」
「なぜ沈むの?」
「その溶岩の重みで海底がたわんだの。マウナ・ロアの横にあるマウナ・ケアなんて、この40万年で、千Mも沈んだのよ」

花子さんは旅の垢をシャワーで洗い流した後、アフリカの旅のことを話した。
「俺の先祖様は?」
「スプキ・ウッチャパイ・ラッパなんて、似たような名前が多いのよ。村の名前だけじゃあ。
もう少し情報が無いと無理ね」
「詳しくひいお祖母ちゃんに聞いときゃあよかった。サハラ砂漠はヒッチハイクしたのか?」
「ええ、夢だったからやったわよ。でも大変だったわ。うまくトラックをヒッチしたの。向こうの夜は運転手が毛布を体に巻いて運転するぐらいとても寒いの。私の寝袋はそんなに暖かくなかったから足だけその毛布の端に入れてたのよ。そうしたら運転手が触ってきたの。それが嫌で足を毛布から出すでしょう。でも寒いからまた入れたわ。そうするとまた触ってくるのよ」
「ふざけた野郎だな。何ともなかったのか」

KISSの耳まで紅潮した。
「足を触られた以外はね。でも、あの運転手はいい人だったのかな、と今感じてる。あれは変な下心じゃなくて、ただ私の足を温めてやろうとしてたのかなって。過剰反応で気持ちを汲み取れなかったの。 気持ちが通じ合うって難しいわね。
アフリカは初めてだったからわくわくしてた、旅の始はね。でもだんだん落ち込んじゃった。
今でもヨーロッパのエゴがアフリカ人を殺してるってとこね。今の紛争のもとは結局ヨーロッパ植民地時代の都合のいい国境の線引きにあるの。国境線が直線の所がたくさんあるわ。そもそも人為的な配慮なんてなかったの。ヨーロッパ人がアフリカに行って現地人に会った時、ヒトかサルか分からなかった、なんて書いてある本があるぐらいよ。幼児の頃から自分たちの宗教、文化が優れているという狭い観念の枠組みが形成されているからアフリカ人を劣った人種としか見れないのよ」

気になっていたことを聞いた。
「花子さんの旦那さんはポーランド生まれだったの?」
「ええ、」
「徹を前にして悪いけど先祖にそういう人がいたの?」
「この子のパワーのことね。ええ。彼の母方の家系にいたらしいわ。中世ヨーロッパで魔女狩りがあったのは知ってるでしょう。精神病院に入れられたり殺された人たちの中にはそういう不思議な力を持っていた人がたくさんいたんですって。教会が彼らを恐がった、ってお母さんが言ってた。
普通の人より少し広い常識を超えた世界に住んでいるから排除されるのよ」
「恐い話だな、、俺達が知らない世界の秘密を喋って閉じ込められてたんだ」
「ええ、GOの言うとおりよ。私達はとっても小さな世界に生きているの。それが少しでも広くなるともう駄目ね。常識を失ったと見なされるか命を落とすわ」
「そういう能力を持ってると、どうなんだろう?自分が優れているとか偉いとか思わないのかな?」
「宗教興してお金集めに奔走するのかな。それが普通の最悪のパターン。ただ活用してないだけでみんなそういう力を持っているのに」


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genre : 小説・文学

15::With a little help. ジョセフ メンゲレこのエントリをはてなブックマークに登録

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15;ジョセフ・メンゲレ

深夜、変な電話がかかってきた。学生時代の親友、GOの彼女の親父からだ。ジョセフ・メンゲレ、あのナチのホロコウストで有名な医者と同じ名だ。

「君がボナンノ・ファミリー、副ボス、サルバトーレ アロイの部下だということは知っている。私の名はジュセフ メンゲレ、ガンビーノ・ファミリーボス、ドン ゴメスの主治医だ。これから伝える事を君のボスに伝えて欲しい」
「ガンビーノ?ドン ゴメスの主治医のあなたがどうして俺なんかに?」
「娘の知り合いの親友がマフィアになった、と聞いたことがある」
「娘?、、、メンゲレ、、、娘というのはピコのことか?」
「サルバトーレ アロイに伝えて欲しい。中米のエルサルバドルで君らの大事な商売仲間、メデジン・カルテとラスベガスのガンビーノ一派が接触した。メデジン・カルテは君達を裏切るつもりだ」
「ちょっと待て、どうしてそんな大事な情報を俺に?」
「とにかく伝えて欲しい。私は誰の見方でもない、信用して欲しい。ドンを殺すこともいとわない」
「ドンを殺す、、そこまで俺を信用、、」

電話は切れていた。
ドンを殺す、、信用して欲しい、、、ガンビーノのボスの主治医をどうして信用できる?
ピコの親父、、そう言えば,GOが言ってたな、ドイツから移民してきた時、両親はすぐ名前を変えたのにメンゲレは変えなかった、と。
ユダヤ人だらけのNYでジョセフ メンゲレ、、冗談だろうが、地獄の名だ。
なぜだ、調べてみるか。

四日後、情報屋から電話があった。

「鉄二さん、レポート作成して明日お持ちします」
「急ぐ、レポートはそれでいいが今、概略だけ教えてくれ」
「はい、分かりました。
ジョセフ メンゲレの父親ホフマンはロケット工学の研究者で、ノードホーセンにあった有名なミッテルワーク地下ロケット工場で、V1、V2ロケットの研究に携わっていました。
その工場は巨大なトンネルとさまざまな驚くべき施設を備えていてそれらを建造する労働力確保のため近くにドラ収容所が作られ、ユダヤ人、スラブ人、ジプシー、ロシア人など多くの囚人が過酷な労働を強いられたそうです。毎日100人近くが死んだといわれています。
それら過酷な労働を指示した一人に後のアメリカ宇宙開発、サターンV号月ロケット開発責任者のアルトゥーア・ルドルフ等がいました。
彼等、ミッテルワークの科学者達は、14トンにも及ぶ研究資料と頭脳を交換条件に米に移住したい旨を伝えよう、と進駐してきた米軍を工場前で待っていたそうですよ。彼等は戦争犯罪人ですよ。
しかし、罪に問われることもなく戦争終結当時、ロシア、仏、米の三国間で優秀な頭脳を求めて誘拐もどきの争奪戦が行なわれました。彼らがナチスであろうが、戦争犯罪人であろうがどうでもよかったんですよ。
メンゲレの父親を含めた航空工学の科学者、技術者、2500人のうち、1945年までに25%がロシア、8%が仏、12%が米に移住しました。
メンゲレ一家も罪に問われることなく、1945年、合法的に米に移住しています。
1946年、米政府はペーパークリップ計画(トルーマン大統領が承認したドイツ人、科学者、技術者、利用計画)なるものを作って、1948年までにナチスに協力したドイツ、オーストリアの科学者、技術者を含めてすべてを受け入れています。その数は1600人にものぼるといわれています」
「ちょっと待て、概略だけだ。あなたがユダヤ人だというのは今聞いて分かった。同情するよ、概略だけ欲しい」
「申し訳ありません。メンゲレは四人兄弟の末っ子として、1932年ベルリンで生まれています。
65年、NYのロウア・イーストで堕胎の手術をして捕まっています。
その頃、駆け出し時代のドンと知り合ったようです。しかし、去年、主治医として復帰するまで一家から離れていました。
ドンは1998年に自動車事故で長男を亡くしました。長男の過失ということでそのドライバーは不起訴処分になっていますが、四ヶ月、行方不明になっています。
当時、かなり大きなニュースになりました。前の子ども三人は女の子、やっと生まれた長男でした。そのドライバーがメンゲレのハイスクールの親友でルー・リードという名です。
当時のクラスメートの話では、親しい仲だったようです。メンゲレも彼と一緒にドンに謝りに行っています。
行方不明後ゴメスから離れました。しかし、ドンの執拗な頼みで去年、主治医として戻っています。
家族構成はピコという29歳の養女がいるだけで親族はなし、独身です。
彼女の実の父親がその親友のルーリードです。メンゲレが引き取りました。
母親は既に他界していて、、あなた方の抗争の巻き添えで流れ弾で亡くなっています。その時、養女も右足に銃弾を受けていて後遺症が今も残っているそうです。当時、6歳でした。結婚していたのですが離婚してメンゲレと暮らしています。
鉄二さん、これぐらいですね。もし時間をいただけたらまだ何か出てくるとは思いますが、、」
「概略のレポートは明日届けてくれ。調査は続けてくれ」
「分かりました。余談ですが、ジョセフ・メンゲレの名前は我々ユダヤ人にとって悪魔なのですが、この医者は違いました。彼を知る人で悪く言う人はいません、慕われています」

ピコが離婚していたとは、知らなかった。




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16:With a little help.水晶の夜このエントリをはてなブックマークに登録

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16:水晶の夜


1938年、11月9日の夜、17歳のユダヤ系ポーランド人学生・グリーン・スパンは、両親がフランスから追放されたことに逆上してドイツ大使館下級職員を殺害した。

日付の変わった10日、午前1時20分、ナチ親衛隊将校、ラインハルト・ヘイドリッヒは、全ドイツにユダヤ人逮捕と財産没収の司令を出した。
《THE NIGHT OF BROKEN GLASS(水晶の夜)》が起こった。
「ユダヤ人逮捕は暴漢から守るためだ」役人達はうそぶいた。

ここまでヒットラーは、段階的にユダヤ人を追いつめようと綿密に計画を立て国民の共感を得られるように5年もの歳月をかけた。

1941年、9月、ルドウィックが胸に《JUDE》の文字が真ん中にある六つ星の奇妙なペンダントを付けていた。
「ルドウイック、何、それ?」
「法律で決まったんだって。ユダヤ人はこのペンダントを着物に付けなきゃいけないんだ」

お母さんの、親友に接する態度が変化した。
これからはあまりユダヤ人とは親しくならないようにね。
父さんはノードホーセンのロケット工場で仕事をしていたのでほとんど家にいなかった。
たまに帰ってきても、夜遅くまで酒を飲んでお母さんと大きな声で話していた。

「巨大な実験用のトンネルがやっと完成間近だ。彼らがサボタージュを組織したんで 六ヶ月も遅れてしまった。ユダヤ人は働かん。膝が痛い、腰が痛い、とか言ってな。そういうゲス野郎は殴る蹴るだけじゃ駄目なんだ。見せしめに首吊りにするんだがそれでも効果がない。彼らはもともと怠け者なんだ、畜生以下のな」 

或る日、ルドウィックが信じられないことを言った。
「ハンガリー、チェコ、ポーランドのユダヤ人が収容所に連行されたまま誰も帰って来ないんだって。
自分の墓穴を掘らされて殺されているって噂なんだ」
「人間がそんなことを、、僕は信じないよ」  

ルドウィツクと家を抜け出して未明のベルリンの街に出た。
至る所で、兵隊と市民がユダヤ人の家、店、ユダヤ教の教会を襲っていた。
路上に散らばったショーウィンドウのガラス破片を片付けようと、箒を手に少年が店から出てきた。
同じ学校に通っているダフィーだ。
虚ろな目は路上に散在したガラス破片に注がれ、周りで囃し立てている群集の存在は眼中にない。
かろうじて枠にはまった、今にも崩れ落ちそうなショーウィンドウの破片に映った、彼等と違う歪んだ自分の姿に安堵して笑っているようにも見えた。 

誰かが投げた石がダフィーの額に当たった。
額を右手で押さえ、地面にひざまずいたのを見て、暴徒と化した群集は彼に容赦なく襲いかかった。彼等の中には知っている人がたくさんいた、やさしいと、、思っていた人達も。
僕達は逃げるようにその場を離れた。何もできない無力な自分達にそれは拷問に等しかった。
放火されたユダヤ教会の炎が憤怒の光を群衆に投げつけ、焼け焦げた臭いを吹き付けようと必死に抵抗していた。ただ、それだけがナチス、群衆に戦いを挑んでいた。

ユダヤ人は無力だった、いや、無力の言葉は適当ではない。ユダヤ人抹殺に情熱を持ち、それを法制化した国に立ち向かう術はあるのだろうか。ファシズムが、民族優越主義、憎しみ、暴力へとエスカレートして行く現状に、メンゲレは人間の内に潜む狂気に打ちのめされていた。もう人間を信じられなくなっていた。
 
早朝、家のドアを激しく叩く音で目が覚めた。
ドアを開けると、パジャマ姿のルドウィックが全身を震わせて裸足で立っていた。
ナチスの親衛隊員が鬼のような形相でこちらに走ってくる。
「ジョセフ、、ぼく、、、」
「どうしたの!、、ルドウック!」
二人の親衛隊が彼の両手、髪の毛を後ろから乱暴に鷲づかみした。
「ルドウックに何するんだ!」

平手が飛んできた。
後頭部を強く上から押さえつけられたルドウィックの逆さ顔が、床に倒れた自分を見ていた。

ジョセフ、、
ルドウィック、、

噂に過ぎないと思っていた、でも、現実に起こっていた。
なぜこんなことが出来るの、人間って、、残忍だ。
もう生きていてもつまらない、ルドウィック、僕もすぐ君んとこに行くよ、待ってて。


76年余りの人生は、ジョセフ・メンゲレという名前のおかげでひどかった。
大戦後の独移民で苗字がメンゲレでは何かと不都合な事が起こるにちがいない、と親父達は苗字を変えた。当時、15歳の自分にもそれを強要した。
ナチスと両親をひどく憎んでいたので拒否した、自分だけは人間でいようと心に決めていたからだ。
自分のアイデンティティを大事にしたい、格好いいことを昔、親友のルーリードに言ったことがあった。
そうではなかった、本当は否定したかった。しかし、ホロコストの罪を思うとできなかった。
ルドウィックが連行されていった時、何もできなかった自分が恥ずかしかった。
ジョセフ・メンゲレの名前を聞いて、怒り、殴りかかってくる人達の気持ちが少しでも和らぐのなら、なんでも甘んじて受けるつもりだ。ナチス、父親、自分と同じ名前の悪魔がやったことを思えば当然だ。

移民後、登校初日から、「ナチス!」とクラスメートが罵った。苛めは日常的だ、ユダヤ系の教師達は理由もなく自分を小突き殴った。
その時、自分を庇い、助けてくれたのが二歳年上のユダヤ系アメリカ人、ルー・リードだ。彼は体を投げ出して代わりに、蹴り、拳を受けた。彼と出会って、人間に微かな希望を見い出した。

この名前で医療関係の仕事を見つけるのは難しかった。ドン・ゴメスと出会わなかったら今でもロウア・イーストで堕胎の手術をしていただろう。
65年、彼のガールフレンドの堕胎手術をして知り合った。
違法の堕胎手術で警察に捕まった時、ファミリー内でいい顔になっていた彼が世話をしてくれた腕利きの弁護士のおかげで無罪放免になった。
しかし、1998年、その親友が、ドンの12歳の一人息子を車で轢いてしまった。長男はローラースケートに乗れないのに横断歩道がない道路を渡ろうとして事故にあった。
検察がルー・リードを不起訴処分にした四ヶ月後、忽然と親友が消えた。
誰の仕業かは明白だった。以来、ファミリーから離れていたが去年、ドンの主治医に復帰した。
75にもなっていたが目的ができた、ゴメスを殺さないことには、、死ねない。  
あの時は何もできなかった、凍てつく早朝、妙に血色のいい親友の素足をただ見つめていた、目の前でナチ親衛隊に両手首を後ろから捻じ曲げられ、首を前方に押さえつけられて連行されていったルドウィックの素足を、、。


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genre : 小説・文学

dorock修

Author:dorock修
物語,音楽をとおして何かを共有できないか、心に入り込めないか探っている者です。
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