8:With a little help. ピコと徹このエントリをはてなブックマークに登録

With a little help from Stranger

8:ピコと徹

ザックの紹介で部屋を見に行った時、ピコが備え付けの棚の後ろの窪みであの日記帳を見つけた。
このベンチで一緒に読んだ。

のこぎりが来るところまで大体同じ夢だと言った。
部屋を諦めた。でも、ピコがどうしても借りて欲しいと駄々をこねた、自殺したメラニーと何か関係があるにちがいないと。
彼女もNY大に通っていたが俺は思い出せなかった。
メラニーは俺より三歳上でピコは5歳違いだ。
ピコが夢の続きを見るのが怖くなってザックに部屋を断ったが彼女の執拗な頼みに折れた。
それから三年余り、月二回、週末に彼女が来て日曜夜に帰る、そんな生活が続いた。

彼女には年老いた医者のお父さんがいてセントラルパーク西に診療所を持っていた。
名前がジョセフ・メンゲレ、あのホロコウストで有名な医者と同じ名前だ。
なぜ名前を変えないのだろうと思った。
ユダヤ人が多い、ここNYで、あの名前で生活するのは地獄だ。
そのことをピコに聞いてみた。
ドイツから移民してきた時、両親はすぐ名前を変えたけどお父さんは変えなかった、と言った。
どうしてそんなしんどい環境に身を置いてるのだろう。
彼に会いたいと何度か言った、でも実現しなかった。
ピコはその度に言い訳をした。
名前があの医者と同じだから?違うとだけ言った。

卒業の時やっと教えてくれた。
自分は養女で実の父親は八歳のとき行方不明になったと言った。
今の養父と実の父親は親友の間柄だったらしい。
行方不明になった原因と養父の職業に関連があるとも言った。
養父、メンゲレはNYマフィア・ボスのお抱え医者なので会わせたくないと言った。
実の父親はマフィアに殺されたのだろうか。

それからあのトレード・センターテロが起きた。
あれがなかったら彼女と一緒になっていただろうか。
お袋を日本に連れ帰った時、ピコは22歳だった。
彼女との関係をどうしたらいいのかわからなかった。
愛し合っていた、でも若かった。
彼女を拘束したくなかった。
大体、先のことなんて、無理だ、不安で、不安で、自分が立っていられるかさえ危うい時に。
当時、彼女の養父も体をこわしていた。
必ず戻ってくるから待っててくれ、とは言えなかった。
どれほど愛し合っていたら言えるのだろう。
そう言えなかったのはそれだけ強くなかったということだろう。

日本に帰る早朝、ケネディ空港から電話をした。
元気な声だった、悲しくなった。
どんな声を期待していたお前は、行かないでくれなんてせがまれたかったか、GOよ。
俺のようにめそめそしたのは駄目だ、こんな男。

一人で喋っていた。
もう電話しないからと言った。ピコは自由だよ、と言った。
どこかで出会えたら声を掛け合おうと言った。
返事も聞かず受話器を置いた。
おい、おい、赤ちゃんのように空港のロビーで泣いていた。
誰も気にならなかったがお袋の目があった。
ひどくおびえていた、涙を一生懸命にこらえた。

電話の声が元気でよかった。これで彼女も踏ん切りがついて新しく前に進める。
こう思えるようになったのは大分経ってからだ。

彼女のことを忘れたことはなかった、忘れられなかった。
あの続きの夢を見ていたらと、心配だった。
二年前まで四年の間、三ヶ月ごとに電話していた。
無言電話が年に一回、後の三回は通りすがりの人に金を払って頼んだ。
それも二年前に止めた。電話を頼んだ人から結婚したようだ、と知らされた。
ひどく悲しかった。めそめそ坊やの淡い自惚れだ。
もしや俺を待っててくれてるのではと。
電話もかけられない馬鹿な男だ。
結婚を知ったのは、事件から立ち直ってピコの元に帰ろうと決心した頃だった。
お袋が亡くなって三年も腑抜け状態だった。
今回もNYに来たのはピコに会いたかったからだ。
今日ここに来たのも後押しを求めたからだ、勇気をくれるのではと。

もう彼女は結婚しているのに、何をめそめそ追いかけてる。

昔と同じベンチ横にある公衆電話を見た。
ザックに会わなかったらここから電話しようと思っていた。

もう忘れよう、ピコのことは今日限りで。
結婚して幸せになれてよかったね。
偽らざる気持ちだった。

部屋に戻ると十時を過ぎていた。
ベッドに横たわっていると徹がノックして入ってきた。
青色のTシャツの胸の辺りで、黒髪が額に降り注いでいる白衣のキリストらしき人物が、GROOVY のロゴが入った十字架の形をしたバスケットリングにダンクシュートをしている。KISSが新しくデザインしたTシャツのようだ。
黒髪から窺っている目が印象的だった、容赦なく、突き放すような、刺すような目だ。
誰かに似ている、?

「GO、メラニーって誰?」
ふいに飛んできた。
徹とキリストをしばらく見ていた。
「徹、なんでそんな名が出てきた?」

何かを言おうとしてドアを閉めた。
その音が答えのように聞えた。
徹は自殺したメラニーのことを言ったのだ。
あのキリストの目は徹だった。
 

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続下はわいーい33:モモこのエントリをはてなブックマークに登録

33:モモ


ホテル横に停めていた車にビーナスが寄りかかっていた。
モモが朝の日差しを浴びている。
美しくて可愛いい、誰が見てもそう思う。
でも、モモはいつも一人だ、知っている限り友達がいなかった。
遠ざけているのか、一人でいることを好む子だった
なぜ自分の素晴らしさがわからないのだろうと、思っていた。
本当のモモは苦しんでいる、この世にいることに苦しんでいる。

「どうしたの!こんなとこに!」
「空港行くんでしょう?連れてって」

否だと言えなかった、言ったらモモが自分を永久に見放す。

「乗れよ」モモが笑った、太陽の日差しも笑っている。
モモの心に、出口に、少し入れたように感じた。
こんな笑顔を見られるなら、なんでも、したい、してやりたい、でも出来そうもない。
あのことだ、今のモモの頭の中には逆スリのことしかない。
平和なのは今だけだ、どうせ喧嘩になる、どうしてもさせないのだから。

モモが助手席に座っている。
幸せだった、ハワイに来て一番に近い。
初めて会って話したときと同じぐらい幸せだった。
多分、彼女は僕のこの気持ちなんか知らないだろう。
戸昼にスーツケースの情報を知らせるのはどうでもよくなった。
今はモモと景色、車の流れる様を見ていたかった。
うわべだけでも同じものを見ていたかった。

「純、私にとってあなたは最高にいい男よ」
過去形じゃなくてよかったと思った、、なぜそう?
「餓鬼から男に昇進したってこと?お世辞でも素直に嬉しいよ。
モモのこと気になって死にそうだったから」

モモが見た。
なんでこんな言葉を、馬鹿だな俺は。
でも出てしまう、彼女の前では。
モモの中に入りたかった、何でもいい、もっと彼女を知りたかった。
嫌なことでも、気に障ることでも、言葉を選んでいたら中には入れない。
何も考えずに、感覚で話したほうが通じる。
モモがそうだからだ。

動いている、モモと二人で、誰もいない。
普段から喋るほうではない。
自分のことなんて誰もわかってくれない、と思っている。
だから言葉を途中で投げ出す。でも、なんとなく彼女の気持ちがわかるときがある。
この前も、途中で言葉が消えた。
僕がわかろうと、理解しようとしているのは少しは通じているはずだ。
真剣に彼女のことを思っている。
それだけでもわかってくれればいいと、思っていた。
もう、そうは思わない。僕は本当に彼女のことが心配だ。
音楽も最近やっていないようだ。
繋ぎ留めていてくれたものもどうでもよくなったのか?
この数日、モモは変なことばかり言った。

動物園の亀を逃がしたい、、海で生活できる人間はわかるのよ、
宇宙人の顔の長さは左右微妙に違うのは普通じゃないから、、
私は地球に住めない宇宙人、、スーツ姿の自分は偽者、別の人間、、私を好きにならない方がいいわ、、
ルイス・エンリケとヤクザを道連れに自爆したい、、
、、、変わるのも、、変われないのも、、

今日のモモは宇宙人のTシャツだ。少し窮屈そうだ。
T-シャツを重ね着している、宇宙人にすがっている。
沢村が見たら桟橋で会ったと気付いてしまう。
薄いジャケットを脱いでモモにかけようとした。
左手が伸びてきた。前を向いたまま知らん振りしている。
手を通してくれということなのか。

肩にかけて左手を取って素手に通そうとした。
かなり際どかった、左手はハンドル、右手で必死なのに知らん振りだ。
こんな従順な彼女を見るのは初めてだ。
幸せだった、こんなことで、でも本当に幸せだった。
スピードを落としたので後続車がバンバーにぶつかるぐらい接近してくる。

なんとか左手は通し終えた。右手は無理だ。
途方にくれてジャケットも肩からぶら下がっている。
横顔が90度動いて僕を見た。
目が濡れていた。

モモがどうしたかったのか、わかった。
このまま遠くに、僕と一緒に遠くへ行ってもいいと、

「純、キスしてくれない」
触れた、止まった、時間が完璧に止まった。
死んだ、体が、脳みそが、僕が死んだ、モモの唇と触れて僕は死んだ。
片思いもここまでやれたら思い残すことはない。

途中で消えた言葉の続き
“、、変わるのも、、変われないのも、、”がわかった。
色弱、字が書けない、シンナー中毒、ではなかった。
“変わるのも、変われない自分も”、いやなのだ、
自分自身が嫌いなのだ。

クラクションの雷が落ちてきた。





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9:With a little help. 溜め息このエントリをはてなブックマークに登録

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9:溜め息

早朝、KISSと徹の声で目が覚めた。

「KISS、もう石戻しといて」
「なんのことだ」
「玄関に二つしかないけど一つはKISSの部屋でしょう?」
「ロベルトんとこだ、プレゼントにな」
「KISS、駄目だよ!人にあげちゃ駄目なんだ!」
「なんだと、なぜだ?」」
「どうしても駄目なの!学校から帰ってくるまでに持ってくんだよ!」
徹が強く言う時は逆らってはいけないのを知っていた。
「わかった、、わかったよ」  

徹が学校へ行った後、居間でコーヒーを飲んでいると、目を赤く腫らしたKISSがアトリエから出てきた。また、徹夜だ。
大食いなのに痩せているのはこれだった、寝不足ダイエットだ。
アーティストというのは悲しい人種だ、はまったら寝食忘れ、時を越え、溺れるようだ。
もう、アップ、アップなのにまだもぐっている。
時計は丸い顔をした数字のそばかすだらけの置物にすぎないか。
代償は命か、、瞬く間とは言わないが長いはずがない。

「今朝、石のこと話してたな」
「ロベルトのとこから回収だ。王子の命令だ。逆らえない」
「徹はどんな子だ。昨日変なことを聞かれた」
メラニーのことをKISSに話した。
「王子には数えきれないほど不思議なことがある。
電話先が心臓麻痺で死にかけてたり火事だったりな。相手は見ず知らずの他人だ。
二年前ジョーンズ・ビーチに行った時もそうだった。波打ち際で遊んでいた少女を見て、“
KISS、あの子溺れるから助けるんだよ“ってな。
そうしたら本当にその子が溺れた。
俺がハワイに行く前も、プラネタリウムに行った帰りにウエスト74丁のコロンブス・アべニューを歩いてたら急にあいつが走った。
70過ぎのお婆さんに後ろから体当たりして突き飛ばした。
びっくりした、なんせ相手はお年寄りだ。そうしたら間一髪、煉瓦が彼女の立っていた場所に落ちてきた。
お婆さん、倒れた時、右手首を折っちまった。
徹は違うものを見てる。花子さんの実家は巫女さん、コルベの父親は修道僧、、、、
コルベは徹のお父さんだ、亡くなった、地下鉄で線路に落ちた子を助けようとしてな、、」

最後の言葉“な”が宙に浮いている。
自分を納得させようと、無駄な努力をしている。
定番の溜め息だ、出るはずなのだが、微かな奴が。
目付きは既に変わっている。身近な、親しい人がいなくなると、誰もがこんな顔になる。
追憶モードになれば、出てくる、否が応でも出てくる。
遠くを見る、窓、窓の向こう、空、海、、、イメージする、そこにいるかのように。
無理してでもイメージする、こんなに悲しい気分にさせてくれた代償だ、イメージぐらい、鮮明な顔、体ぐらい出せよ。
輪郭をたどる、顔、目、口、、涙も、涙は出した方がいい。
こらえない方がいい、そうでもしないとなかなか切り替えられない。
癒しが必要だ、浄化してくれる、少しは折り合いを付けさせてくれる。
親しい人の突然の死だけは御免だ、わかっていたら代わりに死んでもいい。
残されるより先に逝ったほうが、、、理不尽だ、“なぜ”だけが心に巣食って一生、堂々めぐりのメーリーゴーランドの乗客になる。
気の利かない仕打ちをするものだ。せめて数分前、数秒前でも、知らせて欲しい、一言の別れ、感謝を伝える時間は欲しい。

KISSの言葉はコルベで止まったままだ。
それ以上喋らない、当然だ、誰だって御免だ。
もう会えない親しい人のことを赤の他人にその人となりを話すことほど馬鹿げた空虚なことはない。

やっと、KISSから溜め息が出た、やっぱり定番だ、ほっとした。

携帯が鳴った。
「KISS!すぐ来てくれない!お願い!調子が悪いのよ!」

〃ドタン〃

「GO!ロベルトがおかしい!付き合ってくれ!」



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続下はわいーい34:衝突このエントリをはてなブックマークに登録

34:衝突


壁、壁が迫ってきた。
モモが、助手席側が、壁にぶつかる。
右前方にハイウェイ出口が見えたのでハンドルを切って体をモモと壁の間に投げようとした。
切りすぎた、出口脇の左の壁が迫ってきた。

あ、これでいい、よかっ、、

モモが前に飛んできた。

何するんだ!モモ!
駄目だ!そっちにいろ!

左ドアが側壁にぶつかった、滑走した。

ギギギ、ギ、ギギギギギギギギギギギギギギ!!!!

30m先でやっと停車した。
モモの左前部の額から血が流れていた。
僕の腕の中で眠っている、、携帯を、、、。

男が携帯を耳に当てて駆け寄ってきた。
「大丈夫か!
911に電話した!救急車が来る!」

運転席で彼女を抱いて顔を見つめていた。
誰もいない、この宇宙に僕達だけだ、
赤ちゃんを抱いている、大きな、幾重にも殻で武装した、赤ちゃんだ、

電話をしてくれた親切な人が僕より心配そうだ。
“ありがとうございます、大丈夫です、彼女も”
自信があった、大丈夫だと言い切れるだけの、
こんなんで死んでたまるか、絶対にそうさせない、逝かせない、
自信があった、、それに、すがっていた。
10分後、救急車が到着した。
ストレッチャーに横たわっているモモの手を握っていた。
意識は戻ってくれると信じていた。

来た、、来た、、やっぱり来た、握り返してきた。
モモの、心細げな、おどおどした、弱い握力が僕の全身を疾走した、弱いのに外に出ようとあがいている。
これが彼女だ、モモ自身だ。
出ろ、出るんだ!
目が開いた、よかった。
一緒に乗ろうとした、モモがささやいた。

「純、あなたにヤクザのこと頼んだわ。駄目でもいいからできるだけやってくれる、、」
「え、、だって、一緒に行く!ヤクザなんてもうどうでもいい。君が大事だ」
「私は大丈夫、お願い、出来るだけのことはやって、、お願い」

そう言われても、もうやる気はないのに、
でも、彼女がそう願っているなら、、やらないと、
彼女のためなら何でもやると決めてた。

車はなんとか動いた、、もう7時だ、ヤクザはもう着いている頃だ。
無理だとはわかっていた、出来るかぎりのことをやろう、モモが望んでいる。

ハンドルも運転手もままならない、車は頼りなげにエアポートに向かっている。
蛇行するたびにクラクションがこだました。

なぜ僕とハンドルの間に体を投げ出してきた、
僕とおなじ気持ちだった、、
通じた、思いは通じている、でもどの辺りまで、
入り込めないとこに行くには、生きている証を、強烈な証を、
共有しないと無理なのだろうか、
それも運だ、生があればの、、、
でも、それさえ、、、


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genre : 小説・文学

10:With a little help. 火山の神・ペレこのエントリをはてなブックマークに登録

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10:火山の神・ペレ


管理人に鍵を借りてロベルトの部屋に入った。
ソファに横たわっていた、息はあったが呼びかけても応答がない。

あの大きなDEEP PURPLE(英ロックバンド)のステッカー[Smoke on the water・Go fuck DEEP PURPLE(英ロックバンド)](湖上の火事・犠牲者友の会・くたばれディーパープル)が“Smok on” と“the water・Go fuck DEEP PURPLE”の二つに裂かれてぶら下がっている。両端が焦げていた。
KISSがプレゼントしたハワイ島の石がその下にいる、、“ある”ではなかった、、いる、と感じた。

救急隊員がロベルトをストレッチャーに横たえた時、遠くで徹の声がした。
「ハワイの石は絶対に人にあげちゃあ駄目なんだ。
早くロベルトから取り戻すんだよ」

KISSが呟いた。
「徹か、、今朝、変なことを言った、、あれか」
ハワイ島のマナウ・ロア山の三個の石は、サンプルで仕入れたクレージーTシャツ七個の段ボール箱に入れて船便でNYに送った。
見知らぬ土地のものが好きな徹と石の収集を趣味でやっているロベルトへのプレゼントにしようと思っていた。
船便で送ったのは、飛行機ではやばい、と感じたからだ。
不思議な感覚だった、飛行機には乗せないで、と石が囁いたような、。

花子さんがアフリカに発って二日後、荷物が届いた。
港の倉庫からロフトに持ち帰ると徹が出し抜けに言った。
「KISS、部屋に持って行きたくなる、でも、程々にするんだよ。
花子さんに見せたいから帰ってくるまでなるべく玄関に置いといて。この石、いいことも悪いこともするんだ。
本当はここにいない方がいいんだ、でも来てしまったから」
「餓鬼、いいことも悪いこと、何のことだ?来てしまった、誰が来た?」
「説明してもわかるの?僕もわかんないんだよ」
また尻切れトンボだ。到底、理解できっこないとはなから思っている。
大人は経験があるからそうじゃないんだ、この餓鬼、説明しろ、と言いたかった。
現実的でもある、大人は、、徹の言ったとおりになるのは嫌だった。説明されても、多分わからない。

週に数回、彼が寝入った後、部屋に持っていって眺めるのが楽しくなっていった。
癪だったが徹の言うとおりになった。
ロベルトへプレゼントするのが惜しくなってGOが現れるまで決心できないでいた。

不思議な石だった、夢だ、誘った、とんでもないものを見せてくれた。
いつも怖かった、でもひどく魅惑された、中毒になりそうだ。
インスピレーションが頭の中を跳ね回って寝付かせてくれない、それも無数だ。
追いかけっこをしている、、、そう思っていた。
逃げているのに気づいた、逃げていた、後ろから水だ、滝だ、洪水だ、飲み込まれまいと逃げいるのだ。
飲み込まれそうになると目が覚めた。

夢によく出てくるのは、火(ひ)と水(みず)、それに、キリスト、ブッダ、マホメッドという名前の男達だ。名前が同じというだけで宗教とは関係なさそうに見えた。いつもホームレス、ギャングラッパーの姿で現れた。

公園で焚き火をしていた、その火を何で消すかでいつも喧嘩をした。
マホメッドは小便で、ブッダは雨が降るまで待つと言う。キリストは何もしないと言った。
共通しているのは火を消えそうとすると、小便、雨を飲み込もうと焚き火が巨大な火柱となって襲いかかってくることだ。火と水、お互いひどく憎しみあっていた。
結局、三人は焼かれてしまう。

ギャングの時は、今様のギャングラッパー制服姿だった、ピアス、ケツまでずり落ちたジーパン、たまたま親父の上着を羽織ってアンバランスな姿の自分に魅入ってしまった、ちょっと感覚がずれた子供。
このユニフォーム、最初にやった奴は革新的な人間だ、ノーベル賞ものだ、でも皆がこうじゃあもう看護婦さんのナースキャップと同じだ。
なんで最初にやった奴は現れない、俺がやったと、、、無理か、無理な話だ。
彼らは三派に分かれて、お決まりの殺し合いをやって死ぬ、それも今様だ、いや、大昔からか。

在るときなど、火は人間の格好をしていた、それも醜い乞食の老婆の姿だ。
物乞いをして、その人がいい人間か悪い人間か試している。
金があるのに施しをしない人にはとんでもない仕打ちをした。家、金、財産、ことごとく焼いて無一文にして、これが私の施しだと言った。
以来、最近のTシャツのデザインには必ず、キリスト君、ブッダ君、モハメッド君が出てきた、それに、火と水も。
正直、困惑していた。
俺にどうしろと、どうしてもらいたいんだ、この石は?

ロベルトはトルコ石の収集をやっていたので喜んでくれると思っていた。
そうではなかった、プレゼントした時そんなに喜ばなかった、むしろ戸惑っているように感じた。
これだったのか、この石に何かがあると彼は感じたから。
あの時、GOの言葉に怒って帰れと言ってしまったから機会を逸したのだ。

ロベルトは16丁のベス・イスラエル・メディカル・センターに緊急入院した。

「KISS、インターネットでハワイ島の石のことを調べないか?
徹があれだけ言うんだ、何かあるはずだ」

ロフトに急いだ、KISSが神妙な顔つきで石を持っている。

ネットにハワイ島の石のことが出ていた。
火山の神、ペレが住んでいた。石は体の一部で持ち去った者には執拗な復讐をするとあった。

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続下はわいーい35:ハリケーンこのエントリをはてなブックマークに登録

35:ハリケーン

日航前に椰子の木とCOCONUT運送のロゴが入ったバンが停車していた。多分、あの大男が乗っているはずだ。
戸昼はいない、この時間、ラッシュアワー並みの忙しさだ、のんびり僕が来るのを待っている時間なんてない、、、でも、いた、バンの横で僕のへこんだ、悩ましい車のボディを眺めている。
しかめっつらをしている、大目玉を食らう、でもよかったのだ、これで。
車が衝突したのも、モモがここにいないのも、よかったのだ。
ヤクザはもうチェックインして搭乗ゲートに入っている。
荷物も既に遥か彼方だ。
戸昼だって諦めざる得ない状況だ、これで彼等もCIAの蚊帳の外だ。
まだ書類が残っている。
上手く行けば週刊誌にでも持ち込めばそれなりのインパクトをヤクザに与えることが出来る。
その場合、日本政府はどういう立場に陥るのだろう?
CIAとヤクザが間接的に繋がっていたなんて、また国益とかなんとかの話になるのだろうか、アメリカとの関係を考慮して政府が圧力をかけたり。

戸昼がこちらに向かってくるのを眺めながら携帯を取って、救急隊員がモモを搬送すると教えてくれたトリプラー メディカル センター(Tripler Army Medical Ctr)に電話をした。
繋がらなかった、ホタルさんの携帯も駄目だ。

戸昼がやって来た。
他のエアポートスタッフがてんてこまいしているのにどこ吹く風って感じだ。右手を顎に当てて、僕の車のかわいそうな左前部の裂傷を眺めている。
当然、怒っていると思っていた、でも幽体離脱に成功した目は笑っている。
どうしたんだこの車の傷は?なんて野暮なことを聞くような人ではない。
親父に助けられた恩義が僕たちの仲を急速に接近させたのかもしれない、彼が兄貴のような気持ちになっていた。
僕が口を開いた。

「事故っちゃって、このとおりです」
「、、、、、、、、」
チーフの目だけ優しい。
「すみませんでした。スーツケースの情報連絡できませんでした」
戸昼がポケットからハンカチを差し出した。
「生き延びたな、純一。左肩が日の丸のようだぞ」
左こめかみ辺りから流れ出た血がTシャツの左肩を赤く染めて凝血していた。
こんなに切れていたなんて、
「で、彼女はどうなんだ?」
モモが乗っていたのをチーフは知っていた。
「、、病院です。意識は戻っていたので大丈夫だとは、、」
「今、電話してみな、、」

なぜ知ってるんだ?なぜスーツケースのことを先に言わないのだ。
病院にすぐ繋がった、何度やっても駄目だったのに。モモは検査中だと言った。
「純一、親父が俺達に味方しているぞ。奴ら搭乗ゲートで足止め食らってる」
「え、、本当ですか!なぜ!」
「ハリケーンが日本側に進路を変えたので離陸できない状態だ。様子を見ているが今日は飛べない」
「だって、風そんなに?」
「ここは昨日よりおさまっているが日本側はアウトだ。お笑いだな、俺に感謝しろ。俺の名前、戸昼ってのはマヤではハリケーンのことだ。さあ、やるぞ!スーツケースの情報は?俺がゆっくりヘロイン入れてやる」

なんだ、まだ終わっていない、まだやる気なのだ。
僕の気持ちを察したようだ。
「純一、5gのヘロインじゃあたいして刑務所には入らないだろうが、あの書類が表に出たら面白いことになると思わんか。そう簡単には日本に帰れんぞ」

そういうことだったのか、戸昼は怖い人だと改めて思った。
細川さんが免税店で買ったスーツケースに丸印をしたパンフレットを手渡した。
チーフが楽しそうに言った。
「お前、これからヤクザのホテル確保だな」
そうだ!今日帰れないなら彼らの泊まるホテルを探さないと!大変だ!
社長と沢村のスーツケースに入れた荒井の服を教える時間なんて無理だ。
チーフは人が困っているのを見て楽しむようなところがあった、それを帳消しにする優しさも持ち合わせていた。
なんでもお見通しだ。
「純一、安心しろ。沢村と社長のスーツケースにヘロイン分けて入れてやるよ。
それで当分、足止めを食う」

モモが搬送された病院に向かった。この車にも病院が必要だ。
チーフの別れ際の言葉どおりになれば最高だ。
「ヘロイン入れたらすぐ警察に通報する。あいつらのホテル、刑務所になるから一生懸命探さなくてもいいぞ」

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11:With a little help. スコティ トイレットペーパーこのエントリをはてなブックマークに登録

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11:スコティ トイレットペーパー

「あの石はハワイ島のマウナ・ロアだろう?」
「そう、溶岩だ」
寝不足で充血している目だけが輝き、その他のパーツはとうにヘドロだ、生気がない。
脳ミソ・モードは既にTシャツにペレの神をデザインしようと走り始めている。
ロベルトがこんなことになっても懲りていない。

ドア向こうから大きな声がした、徹の声、まさか正午前に帰ってくるはずは、、徹だった。
すっ飛んできた、ドアが回転ドアのように揺れている。
「どうだったの、ロベルト!」
不思議な子だ、どうして知っている。何を感じているのだ?

いくら先延ばししようが徹は容赦しないだろう、その覚悟をする時間がKISSにはもう少し必要なようだ。ばつが悪そうに携帯を持って自分の部屋に向かいながら言った。
「ロベルトは16丁のベス・イスラエル・メディカル・センターに緊急入院した。電話してみる」
KISSのTシャツの背中で三人の若者が跪いてお天道様に祈っている。その一人が彼によく似ている。

「徹、あの石がペレの体の一部だって知ってたか?」
「ペレって?」
「ハワイ島に住んでいる火山の神様だ。溶岩はペレの体だから黙って持ち去った人間に復讐するそうだ。不運なこと、病気、事故とかな、死んだ人もいるらしい」
「あの石、水が嫌いでしょう?」
「そこまでまだ見ていない、どら、、、」

KISSが部屋から出てきた。
「ロベルトは大丈夫だ、持病の糖尿病が悪化した。数週間で元気になるらしい」

「ペレはタヒチ生まれで、姉さん、ナマカオカハイの旦那を誘惑したので親父に追ん出されたとある。それからハワイをふらふらしていたようだな。
マウイ島でその姉さんに殺されているな。マウナロアで神になった。
気性が激しい性格の女性のようだな、しかも恐いな。醜い老婆に化けて人間を試すそうだ。悪い人間には罰を与えると書いてある」
KISSの声がうわずった、唾を飲み込もうとして喉チン子に引っかかったようだ。
「、、GO、老婆に化けるって!」
「らしい、乞食になって試すとある。金持ちのくせに何もくれなかったら財産を取り上げるそうだ」

徹がKISSを見ている、餓鬼大人だ、この子に俺達は太刀打ちできない。
KISSは動物園の虎にいきなりオシッコを引っかけられたような顔つきだ。

「徹、あったぞ!お姉さんのナマカオカハイは水の神だ。
だから水が嫌いなんだ。火山の神と水の神か、、ロベルトのステッカー半分に千切られてぶら下がっていた、両端が焦げて、、火の神だからペレが燃したのかな」
KISSが今度はブルッと身を震わした、ゴリラのくせにチンパンジーの赤ちゃんのようだ。
「KISS、見た夢によく似ているでしょう?」
徹の言葉に凍りついた、ゴリラが蚊になった。
「GO、ロベルトのステッカー千切れてたの?」
「“Smoke on”(注) と“the water・Go fuck DEEP PURPLE”に裂かれていたよ。あれは“湖上の火事”の意味じゃあないかもな。
Smoke onとthe waterに分けたらどうだ。
Smokeには撃ち殺す、消す、って意味がある。“姉さんを殺す”と読めないか。
“DEEP PURPLE”も海水って連想も出来ないではない、、DEEP PURPLEをぶっ潰せだ」
「なぜ、ロベルトに災難が行って俺には来ないんだ?」
徹が諭すように言った。
「ハワイで何もなかったの?それでもKISS懲りないからロベルトに行ったんだよ」
「ハワイで、、」

俺とKISSは顔を見合わせた。
遊覧ヘリコプターからトイレットペーパを落として、運悪く交通事故でむち打ち症が治りかけていたお巡りさんに当たってしまい、またむち打ち症に逆戻りしたって話のことか、それでKISSは罰金5000$と一月の公共サービスの判決を受けた。
「トイレットペーパー落とした時、石は持ってた、、よな。拘置所であの石をお手玉していたからな、KISS?」
「俺が逮捕されたのは石の仕業か?」
「トイレットペーパ落としてむち打ち症の人間に当たるなんて、、おまけに当たったのはお巡りさんだ。これでやっと信じる気になった」
「、、彼の名前はスコット、スコティだ、、ありえないよな」

徹が射るような目で二匹の蚊が納得し合うのを見ていた、蚊は正月を越せないんだよとでも教えているように。

注:
DEEP PURPLE:
ディーパープル・英ロックバンド
Smoke on the water・Go fuck DEEP PURPLE:
湖上の火事・犠牲者友の会・くたばれディーパープル
Smoke on the water:
ディーパープル、1972年,Machine Head(糸つむぎ)アルバムに収録された名曲。アルバムはHeavy Metalのさきがけとなった。
1971年、12月、スイス、モントレー、Frank Zappa(米コンポーザ)のコンサート中(カジノ)客の火遊びが原因でカジノが全焼。たまたま、そのカジノでレコーディング予定だった彼らが対岸で火事を眺めながら作った。(参考:ウィキペディア)

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genre : 小説・文学

続下はわいーい36:病院このエントリをはてなブックマークに登録

36:病院


風もそんなにないのに日本行きの飛行機が飛ばない、こんなことってあるのだ。
後続車が迫ってくる、僕の気絶寸前の車は彼らの追い抜く風で吹き飛ばされそうだ。
皆、何やってんだ、って顔つきで眉間に谷間を作っている。
故意にぶつかるぐらいに接近してくるドライバーもいる。
皆、追われている、何かに、、追っかけているつもりで、、。

チーフに書類がどうなったのか聞きそびれてしまった。もう手に入れたような感じで話していたので大丈夫だろう。
ヤクザなんて、親父の仇なんて、もうどうでもよくなっていた。
無事、日本に彼等が帰って欲しいとさえ思っていた。
事故の影響だろうか、すべてがつまらなく見える。
チーフは親父に恩義があるというだけでどうしてここまでやるのだろう?
すべて自分のせいにしていいと言った、刑務所、、死ぬことさえどうなってもいいと思っている。

なぜ僕達は生きている?
よく言われているように、生かされている、というのが多分正しいのだろう。
でも、チーフ、モモみたいにそう思っていない人がいる。
一見強そうだけど、もろそうだ、、預けたほうが楽だ、でもそれができない人がいる。
生きるって、、僕達は精子、卵子間の競争を勝ち抜いたエリートだと言う人がいる。
だからどうなのだ、、精一杯生きろ、目標を持て、人の為に、、、どんな理由、動機づけも許される。
騙すのも、争いも、殺し合いも、生き永らえることで正当化される。

おでこの血が固まって変な感じ、ハエだ、虫だ、あのねばねばしたテープが僕だ。
彼等は身動きできなくなって久しい。
モモが心配だった、でも、この前までの彼女とおなじなら、と感じている自分もいた。
事故で何かが変わったのだろうか、違った自分にめぐり合えただろうか。
チーフとおなじだ、自分なんかどうなってもいいと思っている人種だ。
エキセントリックな子だ、魚、肉類は一切食べない。
レストランで僕がステーキを注文すると不機嫌になった、それで何度か喧嘩した。
マクドナルドの包装紙を見ただけで喋らなくなる。
生き物には異常なほどの愛情を注いだ。部屋にいないときは、海で波間に浮かんでいるか、動物が保護されている施設で雑用のボランティアをやっている。
あんなに好きなのに犬、猫、動物は飼っていない、なぜだろう?

判を押したような、いつものハワイの晴れ天気なのに病院の方角に虹が三つも出ていた。
追い抜いた車が嫌がらせだろうか、数秒、僕の前で極端に速度を落としては走り去る。

なぜ動物を飼わないのかがわかった、、、
彼等を最後まで看取ってやる自信がモモにはないのだ、それか、、。
この世界でモモは何もやらないことがベストな生き方だと思っているのか。
確かに、地球はもう駄目だ、生き残れないだろう、でも僕達は今生きている。
まだ可能性がある。
こんないい天気なのに飛行機は飛ばないし、虹だって三つも同時に出る、自然がこうだ、こんな粋なことをしてくれる。
僕らが一つになれば地球の寿命を延ばすことなんてそれより簡単だ。

病院のロビーの時計の針が八時を指していた。
今日、仕事をやるつもりだった、でもそんな気持ちにはなれない。モモウィルスが伝染したようだ。

“集中治療室にいる”看護婦さんの言葉にびっくりした。
“ルティーンよ。交通事故の患者さんは皆チェックするの”
青ざめた僕を慰めてくれた。

二階の集中治療室前にホタルさんが備え付けのソファに座っていた。
「ホタルさん!どうです!」
「お、、純!まだ検査中だ。どうした、そのおでこ、モモと一緒にエアポートに?」
「シーサイドホテルに停めていた僕の車の横で待っていました。ごめんなさい、こんなことになって」
ホタルは、ただ、頷いた、何度も、答えを探している、、、そうではなかった。
「純、ごめんな、巻き添えにして」

知っていた、何がハイウェイであったのか、モモがなぜこうなったのか、知っていた。
曇天のホタルさんの顔を見るのは初めてだ。




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genre : 小説・文学

桜井さん・短編このエントリをはてなブックマークに登録

桜井さん

学生時代、行きつけのジャズ喫茶で、ジョン・コルトレーンのAFRO・BLUEとNAIMAをリクエストする六〇前後のおじさんがいた。
目を閉じ、口を少し開け、顔は恵比須さんのようだった。
この二曲を聴き終えるといつも出ていった。

偶然、山谷で半年振りにおじさんを見かけた、何かがおかしかった。
頭は振り子のように揺れている、車のクラクションで飛び跳ね、通行人にぶつかっては怒鳴られている。
逃がれようと、すべてから、逃れようと必死だ。

いたたまれなくなって話しかけた、自分自身からも逃げようとしている、そんな人に。

右足を引きずって駆けている、でも僕の歩く速度だ。
ああ、危ない、車だ。
何も眼中にない、自分自身さえないかもしれない、ただ空気のなかで漂っている。

近くのビル工事現場から大きな音がした。
すごい形相だ、一目散に走り出した、右足が地面を離れることはなかった。
その分、上半身は異常な速さで前後、上下している。
1キロ近く、間をおいて悟られないように付いていった。

ゼーゼー息を吐きながら公園のベンチに腰掛けている。

ラムネを買って、AFRO・BLUEのメロディーを口ずさみながら差し出した。
僕の顔を透かして遠くを見た。
このメロディがなんだったのか考えて、いる、ようにも見える。
数回トライして様子を見た、表情に変化はない。

NAIMAを口ずさんでいると五〇前後のおばちゃんがやってきた。
「おばちゃん、おじさん半年前と感じが違うんだけどどうしたのかな?」
「前はそうでもなかったのに最近おかしくなったのよ。週に何日か働いて好きな競馬やらパチンコやってたんよ。今日もうけたからおばちゃんこれあげるって、チョコレートやら煙草くれてたんよ。
それがね、こうなったんわ仕事で山に行ってからよ。あたしも心配で仲間の人に訊いたの、“あんたたち桜井さんに何かしたんじゃないの”そしたらね、仕事で使ってたダイナマイトの音聞いたとたん、桜井さん駆け出したんだって。
そんとき八mの崖から落ちたらしいんよ。でも、それじゃなくってね、ダイナマイトの音が原因らしいんよ。
なんでも、軍隊で大砲を撃ってたらしいんよね、砲、撃、、手?弾を込める?そのためらしいんよ。
ダイナマイトの音で、昔の嫌な記憶が呼び起こされたんだろって、お医者さんが言ってたらしいんよ。ほんと、あんた悲劇よ!身寄りがいるのかわからへんし」
 
おばさんは一気にしゃべると溜め息をはいた。眉間にしわを寄せて、桜井さんを心配そうに見つめている。
おじさんは瞬きもせず、まだ遠くにいる。
 
もう一度AFRO・BLUEを耳元でサックスの音に似せてトライした。
駄目だ、もう桜井さんはあのリクエストしていた頃とは繋がっていない。
無性に腹立たたしくなった。
今更なんになる、半年前に戻っても。

おばちゃんに会釈して行こうとした。

AFRO・BLUEのフレーズが音をはずして聞こえてきた。
まだ俺たちの世界と繋がっていた。
いっしょに歌った。
桜井さんは、目を閉じて、口を半開きにしてあの恵比須顔だ。
半年前がなつかしい、、
僕にもいろいろあったからひどく嬉しかった。

なぜコルトレーンのこの二曲が好きなの?
何を見てるんだよ、おじさん?
 
まだベンチでNAIMAを歌っていた。

桜井さん、もう大丈夫だよ、そんなに歌えれば、、
音もはずれていないよ。

振り返ると僕を見ていた。
夕日が差した、僕と桜井さんだけを照らしている。
恵比寿さんの目は光っていた、あの頃より恵比寿顔だ。




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genre : 小説・文学

野良犬リキ・短編このエントリをはてなブックマークに登録

野良犬リキ

僕達は同じ所で生まれた。そこは長崎県の佐世保市から船で約一時間半ほどの炭坑の島だ。
最盛期には人口、約三万、戦後、黒いダイヤともてはやされた頃に戦地から引き揚げてきた人々が、夢と職を求めてまさか30数年で廃山になろうとは思わずここに住み着いた。

八歳の夏、彼とよく遊んだ。
今、思うと不思議だ、その夏の四ヶ月間だけ僕達は友達だった。
名前は孝、近所のおばさん達の敵だった。干している洗濯物で手を拭いたからだ。
僕もなぜそんなひどいことができるのか理解できなかった。
白地の大きなシーツが特に好きで、そのときは拭き方が違った。
両手を拡げてシーツの真ん中に置いて、掴んで、右に、左に、上に、下に時間をかけてひねっている。
何かを描いているように見えた。描き終えて、風に揺られてはためいるのを眺めて恍惚としている。
何が見えているのだろう、洗濯した白いシーツにひどいことをするものだ、ぐらいに思っていた。

シーツが強風に煽られてパタパタと踊り狂った、孝が描いたへんてこなものが躍動した。すごかった、孝の旗だ、滅茶苦茶に飛び跳ねて踊っている。
彼の行為がほんの少し理解できた。おばさんの雷声が落ちるまで僕も見とれていた。
こっぴどく叱られ、何度もお袋に連れられて謝りに行ったのを覚えている、僕は眺めていただけなのに。

彼にはリキという一歳と少しの雑種の犬がいた。
“今からおもしろい遊びをやるから”と呼びに来た。
二メートルほどの釣り竿を右手に持っている。

孝が猫を見つけるや走り出した。僕もリキも何が始まるのか分からない、後を追った。
リキを猫にけしかけた、塀の上に逃げると釣り竿で猫をたたき落とした。
彼は嫌々ながら主人の命令に従っている。
“こんな遊びおもしろくないよ”
“リキを猟犬にしたいから止めない”と言った。

僕はそれから一週間ほど彼から遠ざかっていた。
偶然、彼らを見かけた、それはエスカレートしていた。
孝は釣竿の先に釘をくくりつけて歩いていた、リキが猫の爪にかなわないので助けるつもりだ。
あのとき、毅然とした態度で彼を止めていればあの事故は起きなかった。

僕は少し離れて見ていた。
訓練が始まった。
リキは猫を追いかけている、精彩がない、嫌々だ。
目は伏し目がちに“こんなひどいこともう止めよう”と孝に哀願している。
リキが怖じ気づいたと見てひどく叱った。

一匹の猫を追いつめた。孝が猫を塀から地面に落とそうと釣竿を突き立てた。先端の釘が猫の左手に刺さった。
悲鳴をあげて宙を跳び、鋭く爪を立てて、孝、目がけて飛んできた。
孝の叫び声と同時に血が地面を走った。
右耳から頬にかけて、長さ五センチ以上の傷となって残った。
皮膚は深くえぐられ、切断された神経の一部が顔の表情を大きく変えた。
それ以降、彼は家に閉じこもるようになり、学校にも来なくなった。

年が明けて、早朝、蒲団に入っていると、おふくろが、
“今日、孝君の家、ここを出て神奈川に行くのよ”と何げなく言った。
彼は評判が悪かったので黙っていたのだ。

桟橋へ走った。
もう蛍の光が鳴っている。
船は出ようとしていた、かろうじて青、黄、白のテープが船の進行を妨げている。
やがて、それらも、一つ、一つ、力尽きて波間で溺れていた。
孝の姿を探した、見えない。

船と並走した、もう50メートル程離れてますます遠ざかっていく。
走るのを諦めたとき、孝がデッキに現われた。
しゃくりあげている、頭が上下に揺れ、両手で顔を覆っている。
「孝!」
僕に気づいた、、何かわめいた。
泣き声じゃあ聞き取れない。
「リが、、、、リキ、、、、リ、、、」
そこまでだった、聞こえたのも、見えたのも。
船は進路を右にとって、対岸越しにマストだけ覗かせながら消えていった。
リキはどうしただろう、連れて行くなんて、、無理だ。

半年後、僕は片道二時間かけて魚釣りに出かけた。
人気のない海岸を歩いていると20匹ほどの野犬の群れに出くわした。
よちよち歩きのころ尻をかまれて以来、犬がこわい。小犬でさえ僕の恐怖心を読んで威嚇する。好きなお祖母ちゃんに会いに行けなかった、途中、鎖に繋がれた大きな犬がいたからだ。こわくないのはリキだけだった。

こちらに向かってくる、20匹、足がすくんで動けなくなった。
釣竿を構えて小石を集めた。
黒い一匹が行く手をさえぎるかのように集団に振り向いて唸った。
小さな体で群れに向かっている。それは僕の必死な叫びのようだった。
それまで僕の方に向かって来ていた群れの方向が変わった、僕を遠巻きにして通り過ぎていった。

あの唸った犬が僕の方に尻尾を振りながら駆けて来る。
恐くなって身構えた、、茶だったのにどす黒く汚れたリキだった。
あの事故以来だ、孝を伏し目がちに見ていた頃のリキではなかった

「リキ!ありがとう、小さな体で助けてくれて!覚えていてありがとう!」
僕の顔を嘗めて離れようとしない。
僕が離そうとしなかったのかもしれない、抱き合ってかなりの時間が過ぎた。

子供心に、そのとき流れていた、時間も、空間も、何事にも束縛されず、僕とリキが望めば、思うままに創りだせるところにあるように思えた、そうなればいいと。
閉山で友達はいなくなった。誰もいない学校に行くのはいやだ。僕のまわりの炭鉱住宅は空き家だらけだ。
こわかった、みんないなくなるようで。

彼はそれをいとも簡単に断ち切った。
すがろうとしていた僕は取り残されてしまった。

一度も振り返らなかった、一目散に群れが去った方向に駆けていった。
前に向かって、前に進むしか道がないのを知っていた。
その後姿がとっても優雅で、とっても自由で、風にはためいていた、あの孝の旗と重なった。

リキだった、あの孝の、旗の真ん中で飛び跳ねていたのは。

それから半年後、僕も炭鉱の島を出た。
リキは強かった、僕より、孝より。



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genre : 小説・文学

一:何でそうなるのよ(短編)このエントリをはてなブックマークに登録

一:何でそうなるのよ(短編)

インドのブダガヤデで、沖縄を旅していた頃知り合った和夫に出会った。
こんなとこで、ありえるのか、、ありえるのだ。

「野生の馬・カゼ覚えてるか?アラグスクで俺に慣れてた野性の馬さ」
その馬には強烈な印象があったのですぐ思い出した。
「よく覚えてる、リーダだったからな」
「俺アラグスク出て石垣からすぐ黒島(石垣島南西、18kmに位置する)に行った。
そこで偶然カゼに出会ったんだ!信じられるか!
どうやって黒島まで来たのかわからない。俺を追っかけて来たようでさ」

カゼはもう溺れ死んだと思っていた。 

旅していた。最初から金の無い旅だったので、旅先で適当なバイトをしては動いていた。
沖縄の西表島で金が底を尽き石垣島に出てきた。たまたま散歩中に見かけたバイト広告をたよりにその事務所へ向かった。
50過ぎの男がオリオンビールの缶を手にかつ丼をまずそうに食べている。
「バイトの広告を見たのですが」
「あんた、酒は?」
「飲めません」
「嘘ついとるとは思わんけど、あんたの顔見りゃ相当飲めるんと違うんかね」
「よくそう言われますがまったく飲めません」
「顔がどす黒いね。酒焼けではないんかね」
「ここに来る前、二ヶ月ほど西表島で道路工事のバイトをやってましたから。なんなら、そのビール少しもらえますか。
顔が赤くなるので飲めないのが分かります」
「あんたうまいこと言って、ただでビールを飲もうなんて」

席を立って出口に向かった。男は早口でしゃべりかけた。
「あの島は孤島でね。昔いろいろあったもんで酒を飲めない人を探してんすよ。契約は三か月、金は月六万、食事はすべてこっちもち。仕事は牧場のバイト。やりますか?」

ドアの把手に手を預けたまま振り向いた。
「まあ、こっち来て座ってくださいよ。気に触ったら堪忍してくださいな
じゃあ、あなたさんがよければバイトお願いしますよ。
あそこは牛以外、女もパチンコも何もありゃせんのでね。それでもよかったら」 

俺は西表島の道路工事で得た金をほとんど遣い果たし、千円しか持っていない。
日給、四千円のバイト、一泊二千円の民宿代、週、四日以上働かない。これで金が貯まったら奇跡だ。
「島の名はアラグスク島(新城島)ち言います。石垣から船で三時間ぐらいかかりますか。西表島の南東約七Kmの所にあります。アラグスクは島が二つありましてな。
上地島(かみじ島、面積一.八km)と牧場のある下地島(しもじ島、面積一.六km)に分かれとります。
距離はそうですな約四、五〇〇mもありますかね。
上地島には小さな村と電話がありましてな。緊急のときは唯一それが外との通信手段になりますたい。
島の人口は五〇人もいますかね。大体そんぐらいと思いますたい。
下地島には五百頭近い雌牛と六頭の種付け牛、それにアルバイトの五人と食事の世話をする老夫婦の計七人がいましてな。
週に一度、食料を運んで来る船と大潮のとき歩いて渡れる上島以外はまったくの孤島ですたい。
その連絡船も波が荒いと来んですたい」

そこには五人の若者がいた、その一人が和夫だった。契約三か月のうち、一月を残していた。

theme : 短編小説
genre : 小説・文学

二:何でそうなるのよ(短編)このエントリをはてなブックマークに登録




仕事は楽しかった。朝七時に起床して老夫婦の用意した缶詰め主体の朝食を食べた後、日産のおんぼろトラックで一キロ先の牧場センターに向かう。
運転は一番下手な奴に任せて俺たちは荷台でジェットコースター遊びだ。もちろん、免許証、持っていないのを選ぶ。
道中は珊瑚、岩の突き出たひどいでこぼこ道だった。
俺たちの体は痣だらけで、よく荷台から放り出されて岩に叩きつけられた。不思議なことに誰一人として怪我をしない、覚悟ができていたからだろうか。

センターには、約百m四方の柵、水飲み場、種牛の牛舎、倉庫などがあり、そこを囲むような形で珊瑚でそれぞれ境界線を囲った牧草地が五つ、扇状にあった。
毎日、順繰りに五百頭余りの牛を放牧していた。

牛をまずセンターの柵に集めるのがここでの最初の仕事だった。
缶詰主体の食事はいただけなかったが、朝一番に大声を出して牛を追い立てるというだけで、ここでの健康は約束されていた。
柵に五百頭余りの雌牛を集めた後、発情した牛を気長に待つ、他にやることがない。
カウボーイは暇な職業だと思った、西部劇では、これで馬なんだからほとんど遊びに近い。

発情した牛は相手が雌牛だろうが背中に乗ろうとする。
ここでカウボーイは動く、ここのカウボーイはかっこよくない。
二メートル程の棒の先端にロープで輪を作って無様に走る。
狭い空間に閉じ込められている五百頭もの牛の間を走り回るのは容易ではない、しかも地面に平らな所はなく到る所、珊瑚、石が突き出ている。
何度もけつまずいて牛にぶつかって踏まれそうになった。
雨の日などぬかるみに足を取られて滑った。
もうカウボーイにはなりたくない。
牛はおだやかな?動物だった、彼らの足元で怖がっている自分がこっけいに思えるぐらい知らん振りしている。

種付けは楽しいものではなかった。
なんとか五人がかりで発情した雌牛を捕まえて、珊瑚を二mほどの高さに積み上げた約10m四方の囲いに入れて首だけ囲いからのぞかせ、身動きできないように角をガジュマルの木に縛りつけた。
首の後ろは柵の中、みんな一様に不安そうだ。

それから軽く見積もっても六百キロはある種付け牛を牛舎から連れて来る。
若いのと年老いたのが、それぞれ三頭ずついた。
後者はやたら前戯が長い、人間と同じだ。
七三の割合で若いのを極力選んだ、当たり前だ、他人?のをのんびり見るのは勘弁してほしい。
年の功か、なぜ自分たちにお呼びがかからないのかを彼らも知っていた。
だから非常に、異常に、柔順だった、囲いに行くまでは、もちろん表面だけ、気持ちはとうに他所へ跳んでいる。
体は今にも破裂して数百人分のステーキが焼けるぐらい興奮している。
それを理性で?、彼らにもあるのだ、コントロールしようとあがいている。当然、俺たちと同じで女性を前にできるものではない。
彼らには悪かったが、あのアンバランスな躍動感は笑えた。
巨体のバレリーナ、白鳥の湖でもなんでも踊れそうだ。

種付け牛の歓喜の表情とは対照的に無理矢理、犯される雌牛はかわいそうだ、悲惨だった。
そのイメージも早朝出くわす、生まれたばかりの子牛を連れた母牛を見て徐々に薄れていった。

契約が三ヶ月なので人の入れ替わりが結構激しかった。
後二週間で契約が切れる斉藤さんという旅人がいた、一番の古参だ。
彼がその年老いたバレリーナの踊りを見たさに悪ふざけをやった。
囲いに入れる寸前に上演中止を告げるのだ、彼らの落胆は想像を絶した。
牛舎に帰る姿の痛々しいことといったら、捻挫したバレリーナどこじゃない、引退を告げられたに等しい姿だ。
俺はいい加減な人間だったので止めようとはしなかった。
でも、和夫にはそれが許せなかった、力づくで鼻輪を奪って囲いに誘導した。

いい加減な奴ほどよくしゃべる、俺のことだ、、和夫は無口、無駄口をたたかない、ただ行動に移す。
曲がったことは大嫌いだ、融通がきかない、真面目一筋、そのため皆からよく思われていない。何をやるにしても説明しようとしない、、嫌われて当然だ。
動物だけは彼を理解していた。荒れていた牛は彼の一言でおとなしくり、カラスがよく彼の肩にとまっていた。

斉藤さんの出発前夜、浜で二人は殴り合っていた。
喧嘩に改めて感服した。痛さは瞬間、お互いの心に刻み込まれるものは生きている限り残る。
二人は拳で言い合って、体をぶつけてお互いを解り合おうとしていた。

精魂尽きて起き上がれなくなった頃仲裁に行った。
誰も何もしゃべらなかった、言葉はいらない世界だ、誰かの世界に近い。

斉藤さんの見送りに、もちろん、顔が痣だらけの和夫もいた。
“和夫、お前にはもう会いたくない、だが、見かけたら声はかけれよ”
この言葉だけで二人は十分解り合っていた。

この島には二十頭あまりの野性の馬がいた。彼らは二つのグループに分かれ、雌馬の争奪にあけくれていた。
カゼが率いる十五頭と若い黒がリーダの五頭だ。
たまに出くわす二頭の戦いは熾烈を極めた、KI、プライドどこではない、ルールなしの死に物狂いだ。
体力のある若い黒が勢力を伸ばそうとカゼに挑んでいたが、無駄な動きが多くて経験の差でいつも打ち負かされていた。

毎日、昼前、一族を引き連れてカゼがセンターの水桶目がけて来た。
彼らの迫力と勢いに水を飲んでいた牛は先を争って逃げる、まるでギャング団の襲来だ。
俺たちには近寄ろうともしないのに、怖くて近寄れなかったのだが、カゼは和夫にだけは気を許した。
彼がセンターに来るのは水と彼に会うためだ、と気づいた。
いつもどこにいるのか探していた。
和夫が呼ぶと一目散に走ってきて頬擦りだ、気性の荒い野生の馬がメロメロになる、理解できなかった。

和夫が去り、俺も後一週間でここを出るという頃、雌馬を従えて水を飲みに来るようになったのは黒だった。
彼はすべての雌馬を従えていた。
カゼは戦いに負けたのだ。

それから二日後、台風の接近のため柵のチェックに行った浜で横殴りの雨と強風に打たれて戦っている二頭の馬に出くわした。
この数週間で形勢は逆転していた。
カゼは挑むのをあきらめて浜の方に駆けていった。
おんぼろトラックで後を追った。

砂浜を突き抜けた、、海に向かっている。
どうした!
上島に向かって海に飛び込んだ。
何やってる!無理だ、こんな強風、流れではたどり着けない。

案の定すごい勢いで流された。
かすかに見え隠れしていた頭も瞬く間に波間に消えた。

この島でカゼの生きる場所はもうなかったのだ。
和夫のいる黒島に行こうと、あの台風を利用したのだろうか?


ブダガヤなんかで出くわしたせいか和夫は以前よりはしゃべった。
少しは彼もいい加減な大人になった、と思っていた。

ネパールのカトマンズで、民宿で一緒に泊まった米人のとばっちりを受けて二ヶ月余り、刑務所に入っていた、と言った。
早朝、民宿に踏み込んできた警察官二人に賄賂を払わなかったからだ。当のハシシを持っていた米人は賄賂、百$払って放免されていた。

人力車の叔父さんが、手に五ルピー(20円?)紙幣を持って和夫に何か話しかけた。
彼は知らん振りしている。
とうとうお巡りさんまで来た。
彼の説明によると“このジャパニーズが余分にお金を払ったので返したい”と言っているらしい。
和夫はいつものように何もしゃべろうとしない。
これじゃあ、刑務所に入っていたのも納得だ、昔と変わっていない。
「どうしたんだ!五ルピー払いすぎたんだとよ。早く受け取れよ」
「彼の子供にあげたんだからほっとけ、いいんだよ」

もう周りは人の山で大騒ぎになっていた。
こんなことで、人力車の叔父さんも叔父さんだ、二十円だろう、黙ってもらっとけばいいのに、、
あ、同類なのか、、和夫と、、、

みんなうんざり顔だ。
受け取れないと、執拗に言い張る叔父さんの手の中で五ルピー紙幣のガンジーだけが笑っていた。



theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

続下はわいーい37:別れこのエントリをはてなブックマークに登録

37:別れ


モモを愛している、でも、この気持ちは多分、永くは続かない。
些細なこと、マクドナルドも、ステーキも諦めないといけない、食べると小言だ。
こんな愛とはまったく関係のないことが積もり積もって引き金となって逃げ出したくなる。
程度の差に関係なく、気に食わないこと、目障りなこと、して欲しくないこと、、愛し合っていてもお互い誰もが相手に持つもの、、機嫌が良ければ見過ごせ、許せることも、、機嫌がいい?、、なんて馬鹿な表現だ、、それらに目をつぶし通すのは到底無理だ。
何を僕は考えているのだ、、病院で、、、、
別れたほうが楽だ、でもそう簡単じゃない、その他すべてを愛しているのだから。二つを天秤にかけれたら、そんな、、、、どうしたら愛を永続させることができる?
美味い物はいくらでも食べれる、別の置き場にそれらを置けれたらいいのか、でも、感情は、それに、、、、愛の別腹か、、モモを本当に愛しているのだろうか、、そうでないからこんなことを、、。

ぶつぶつ言っていたのだろう、ホタルさんが見ていた。
僕達に言葉はなかった、今モモにしてやれることが、何をしたらいいのか、わからなかったからだ。
ホタルさんは最高の兄さんだ、モモに対する態度、言葉はいつもやさしかった。
逆スリをやるといった時、足を叩いたあの表情が僕は大好きだ。
命をかけてもやらせない、どういって言いかわからないぐらいの、どうしようもない強い愛情を感じた。
あの時、モモも素直に謝った。
この二人の心は繋がっている、、なのに、、どこまで繋がればいいのだ、、
相手がどうこうと、、?彼女自身に委ねられる、、世界、社会と折り合いをつけていく方法、方便を探さないと、、、何か僕にやれることは、手助けできるようなことは、、、
ホタルさんがまた見た。
何を考えているのか見透かされているように感じた。
取り繕うように声をかけた。

「ホタルさん、何度も電話しました。どこかに行ってたのですか?」
「早朝からダニーと彼の知り合いの地方検事に会いに、込み入った話になるので電源切ってた。書類が出てきた時の対応を相談しにね」
「そうでしたか」
「書類は大丈夫なのだろうか?」
「今朝、空港で戸昼に会ったのですが聞きそびれてしまいました」

治療室から看護婦さんが出てきた。
「検査が終了したわよ。今夜は泊りね。明日、最終の結果が出るから何もなければ帰れるわ」
「会えますか、、」
「ええ、どうぞ」
治療室入り口でホタルさんが振り向いた。僕が立とうとしなかったからだ。
「純、どうした?来ないのか」
「僕がここにいるのは伝えないで欲しいのですが」
僕の目を見ている、目を細めて大きく頷いて入っていった。

集中治療室前から一階、受付横のソファに移動した。

会うのが怖かった、僕と一緒に死のうとしたのに生き残った。
今、モモが何を考えているのかわからない、僕を道連れにしようとした自分を責めていそうで会えなかった。
臆病になっていた。

十数分後、ホタルさんが受付に降りてきた。
「検査の結果は今のところ異常なしだった。明日、最終的な結果が出るけど元気だったよ」
「僕のことを何か?」
ホタルは嘘をついた。
「純は大丈夫かと聞かれたよ。もちろん元気で仕事してると言っておいた」
実際は、モモはホタルの顔をみて泣きじゃくった。

周りが飛んでいく、彼方に飛んでいく。
すぐ横を塊が滑走する、塊の中の生き物はみんな前しか向いていない、危ないから、なぜそんな危ないと知ってて乗っているの?
私は動かない、動けない、速すぎて、ついていけない、違う、ここは私の世界じゃない、、
純が座っている、、でも、おかしい、、違う世界に住んでいるのにこの私を受け入れようとしてくれてる、、純、ありがとう、、キスして欲しいと、言った、勝手にキスがしゃべった、純が大好きだからしゃべったの、、あなたと一緒に、あなたとおなじ世界に行きたかったから、、、でも無理なのよ、、純、どうしても無理だわ、、

「純、ありがとう。もう大丈夫だよ、今夜は俺がいるから」
ふと、衝突した時の自分の姿がロビー・ガラスの回転ドアを行き来した。

ここにいないと、一緒に行こうとした自分は嘘になる。
モモがキスして欲しいと行った時、運転なんてどうでもよくなっていた。
彼女とどこまでも行くつもりでいた。
時間は止まり、僕のすべてが、体が、脳みそが、死んだ、モモの唇と触れて僕は死んだ。
やはり僕はモモを心から愛している。
「いえ、ずっとここにいます」

携帯が鳴った。
「純一、今、警察に電話した。ヘロイン上手くスーツケースに入れたから安心しろ。
書類は一時間前、東都ツアーズの本社にお前宛に仲間が預けたからすぐに取りに行け。
ヤクザがしょぴかれたらCIAが動くぞ」
「会社ですか!」
「お前の部屋宛には送れないよ」
「会社、今日ずる休みしました。多分、僕、首になります」
こんな時になんて間抜けなことを、、、自分が嫌になった。

「好都合だろう首になると思って来ましたと、ゴマすり黒木に言え。とにかく書類うまく使ってくれよ。俺達は後45分でハワイを出る」
「え!そんな急に!」
「純一!CIAはヤクザが日本に帰るとまだ思っている。警察にしょっぴかれたのを知ったら総力で動く。今から一時間以内にとにかく東都のワイキキ本社に行って書類受け取れ。俺達三人はこれから別々に本土へ飛ぶ」
「本土へ!どこへ行くのですか?」
「俺はベガス(ラスベガス)だ。着く頃には感づいて待ってるかもな。当分、、いやこれからもか、、CIAと追いかけっこだ」
「もうハワイには、、」
「、、、アキラがお前の親父だと早く知ってたらな」
「チーフ!どうするんです!これから!」
「アキラがフロリダまで連れてきてくれた後、育ててくれた修道女、真理の恩返しが残ってる。お前の親父がひき逃げで殺された90年5月15日、同じ日に彼女も行方不明になった。
フロリダで少女の人身売買をやっているラテンに成り下がったマヤ・ギャング団のボスの仕業だ。そいつを殺さないと生きていけない」
「チーフ、もういいじゃないですか!親父も真理さんもそんなこと望んでいませんよ!」
「彼らは関係ない。今、お前に電話している俺自身の、なぜここにいるのか、という問題だ」
「チーフ、止してくださいよ!お願いします!」
「純一、彼女どうだった?病院に行ったんだろう?」
「どうだったって、、、今日は入院ですが何事もなければ明日帰宅できそうです」
「あの子を好きならお前の出来ないことでもなんでも受け止める覚悟をしろ」
「どういう意味です!」
「愛してるなら愛されるように努力しろということだ。彼女の嫌なことは一切やるな、すべてだ、歩き方がそうなら変えろ。そうすれば嫌なことがそうじゃなくなる」

なぜ、戸昼は僕が感じていたことを知っているのだ。
「嫌なことがそうじゃなくなるって!」
一瞬間があいた、それに小さな溜息のような、、、こんな強い人が、、吐くんだ。
「、、、気づいてくれればだがな、、変わるよ、、、
搭乗アナンスだ、純一、あばよ、元気でな。すぐ走れ!本社に走れ!」

ホタルさんの車でワイキキ・東都ツアーズ本社に向かった。

チーフの恋人は日本からの出向社員に付いて去っていった、と誰かに聞いた。
まだ愛しているのだろうか?
女性関係のうわさを聞いたことがない。
ああ言うのだから、恋人のすべてを愛していたのだろう、嫌なことも一切やらず、、
それなのに、、、、
ああ、、彼女に伝わらなかった?、、気づいてくれなかったのか、、



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38:失踪

ホタルさんの指示でカピオラニブルバードにあるホノルルアドバタイザー社に向かった。

ダニーが玄関にいる、せわしなくおなじ所を行ったり来たりしている。
まるで動物園の熊だ、歩幅は等間隔、踏む位置まで同じだ。

僕が差し出した書類に目が、全身が、釘付けになった、背中を後ろからナイフで刺されても多分気づかない。
あの温厚なダニーが人を殺しかねないぐらいに血走っている。
書類を受け取るや、一言も発せず駆け足で中に入っていった、まるで老いたダンプカーだ。

玄関前で取り残された僕はおかしくなって笑った、余りに今の僕の気持ちと差があったからだ。それに、一言もないなんて、、、。

それだけ苦しんできたのだ、思い入れの深さを改めて知った。
20年以上も前からエンリケを追及していた、行方不明、不慮の事故で亡くなった友人、知人も多いと聞いた。ダニー自身、体の右半分に麻痺が残っている。
後姿はまるで長さの違う竹馬に乗って走っているようだった、こんなに悪かったのだ。
もう笑えない、笑った自分が恥ずかしくなった、すぐ反動が来た。
こんなとき、刻の流れは遅い、親父の顔が出てきた、三歳だ、覚えていない、、写真の親父、、。

車に乗り込もうとした時、老いたダンプカーが走ってくるのが見えた。
大きな声で叫んでいる。
“ジュン!!コーヒーで乾杯だ!!”
美しくない走り、でもオリンピックの100M走の選手より躍動していた、傾いだ体が鼓動している。
手に紙コップを持っている、思ったとおりになった。
紙コップ持って走ってはいけない、新聞記者なのに知らないなんて。

玄関でこけた、美しく躍動しながらこけた。
紙コップからコーヒーが吹き出た。
無様に大理石の廊下を滑った、、笑っていた、ダニーは笑みを浮かべていた、、
ほとばしるコーヒーと一緒に滑走しながら。
悪いのはコーヒーだ、コップの中で飛び跳ねたからだ、ダニーはバランスをくずす。

抱き起こした時、コーヒー目が潤んでいた。
僕とおなじことを言った。
“ジュン、コーヒーがこんなに跳ねちゃあ誰でもこけるよな” 

モモは無事、翌日退院した。
僕は最終結果を聞いて病院を後にして部屋に向かった。
会えない、モモにはまだ会えなかった。
会社には当分休みたいと、昨日、書類を取りに行った時伝えていた。
ヤクザは警察に身柄を拘束されている、とホタルさんから聞いた。

物音がした、二人が帰ってきた。
隣に住んでいるのだ、行かないわけには、でも、勇んで行ける状態じゃない。

ホタルさんがドアを開けた。
モモはソファに座っていた、ぼやけていた、はっきりと見ることが出来なかった、でも元気そうだ、耳から出血していたのに包帯も何もない。
むしろ、おでこがフランケンシュタインになっている僕のほうが重病人だ。

僕は彼女の口に真っ直ぐ突進した。
キスをしようとした、していた、、そうじゃない、しようと誰かがしていたけど頬に口がぶつかってしまったのだ、、どっちの頬だったかも定かじゃない。
でもよく突進できた、僕ではない、誰かがやったのだ。
それからは何も言えなかった、ホタルさんが話している、頭に入らない。
モモの顔を見ることができなかった、見てしまったからだ。
頬にぶつかった時、一滴だけ雫が僕の鼻先に落ちた、僕には滝のようだった。

僕達はお互い顔を見合わせることもなく座っていた。
ホタルさんが書類のことを話している。
あれだけ執拗に関わり合おうとしていた、モモが、いや僕も、ヤクザがどうなろうがどうでもよかった。
これだけが今の二人が共有しているものだ。
モモが疲れているように見えたので席を立った、僕も疲れていた。

心から右の頬に純一がキスをした、誰かじゃない、僕だ。
思いをすべて込めた、祈りに近い、、これしかできない。
滝が大洪水になった。
強く抱きしめた、骨が折れるぐらい、全身で、持っているもの全部を出した。
僕のエネルギーを彼女に注ぎ込もうと、思いっきり抱きしめた。
モモの体温、心臓の鼓動、、確かめておきたかった、彼女が潰れて消滅しそうだったので。
モモは痛いとも何も言わなかった、ただ身を任せてくれた。
護ろうとしていた僕が彼女を潰そうとしている、おかしかった、でもこの瞬間、彼女は僕のものだ。
彼女の嗚咽と僕の心臓がシンクロした、嬉しかった、、
、、、哀しくなってきた、もう最後のように感じた、、嗚咽なんかしない、、
嬉しかったら、、幸せだったら、、

部屋に戻って、モモの涙に濡れたTシャツを胸に抱いて横になった。
あの、モモの制服、勇気をくれる宇宙人のTシャツを着ていなかった。
宇宙人に頼らなくても生きていけると、、やっぱり変わった?あの事故で。

夜半、隣から物音がした、ドアが閉まったような音だった。
部屋から廊下を覗いて見た。誰もいない。

早朝、壁を叩いていた、ホタルさんが壁を叩きながら何度も叫んでいた。
聞き取れない、涙声だ。

純!!!モモがいない!!!来てないか!!!

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続下はわいーい39:モモ亀このエントリをはてなブックマークに登録

38:モモ亀

ドアは開けっ放しだ、ホタルさんはまだ壁を、力なく、叩いて、、さすっていた。
強い人だと思っていた、こうなる、身近に感じた。
こんな時に傍観者だ、冷静だった。
モモがいなくなった、驚いていなかった。

僕の、モモの涙で水浸しになったTシャツ、、あの大洪水は別れの涙だ、、だから起きていた、あのドアが閉まる音がした時も。

ホタルさんを宥めている、逆のはずなのに。
大粒の涙がこぼれていた、流れるままに任せて拭おうともしない。
表情は穏やかになっていた、涙だけがひどく悲しんでいる。
涙に生命力、、生きていた、どんどん出ている。
ホタルさんの顔が能面のようだ、冷めた、涙を流す能面、隠そうとも、抑さえよとも、拭おうともしないのだから。

散歩に、飲み物でも買いに、、馬鹿なことを言っていた、この静寂を消そうと、どんな言葉でもよかった、ないのだから。
ホタルさんの拳の手が開いた、皺くちゃの、丸まった紙が弾けるようにこぼれ出た。
少しずつ膨らんでいる、モモが今にも出てきそうだ。

“お兄さん、ありがとう。お母さんを頼みます”

モモの字だ、書けるじゃないか、、モモ、こんなに綺麗に。

“純、モモの部屋にプレゼントがある”
クリスマスプレゼントみたいに言った、涙に埋もれたサンタクロース、ひげで見えないはずなのに、、陳腐な、場違いな言葉、、すべてが、、当然だ、その世界にいないのだから。


Tシャツだった、NOT OF THIS EARTH(地球外)の小さな文字が胸に、背中に金銀の2トンカラーで顔の長さが左右微妙に違った宇宙人の姿、その上に文字が、、
“純へ、愛、、、、、、、、、、、、、、、、、、、”
愛の横の句点は何の意味かすぐわかった、愛が20、僕達はおなじ日に生まれた、87年の4月1日、エイプリルフール。

“モモはそのTシャツがないと駄目だった。外観は勝気にそうに見えたけど弱かった。
ボストンに来た時、シンナー中毒で死んでた、16なのに。
閉じこもって外に出ようともしない。ビデオを借りた、、1000本にもなるかな。
ETの映画を見て一生懸命デザインしていたよ。子供達に助けられて宇宙に帰っていく姿、、だぶったのかな。
顔はずれていなかったのに、卒業まで一人でボストンにいた時変えたんだな。
なぜなんて、聞かなかった。あれを着れば元気になる、それがすべてだった“

僕はモモに聞いたことがある。
“どうして背中の宇宙人の顔の長さは左右微妙に違うデザインになったの?”
“普通じゃないから”
“何が普通じゃないの?”
“私よ、、、、“
“モモはやっぱり宇宙人だったのか?”
“地球に住めない宇宙人よ“
“住んでるじゃない”
“だから顔か左右違うの”
“おなじ長さのT-シャツはないの?
“もうない、処分したわ。スーツ姿の自分は私ではない、あんな、、おどおどしていないわ。別の人間、偽者よ。私を好きにならない方がいいわ”

「昨日、モモはTシャツを着ていませんでした」
能面が少し間をおいて口を開いた。
「、もう必要と、、これだったのだ」
モモがいなくなって当然、、僕達はおかしい、モモを探そうともしていない。
別れの言葉、もう葬式だ。

僕の携帯が、坊さんの声じゃない、、いきなり響いた。
怖くて取れない、ホタルさんを見た、まだ葬儀中だ。
何かあればここにかかってくる、僕のじゃない。
少し冷静になっていた。

「純一、俺だ、書類、いつ表に出る?早く公開して欲しい。CIAに追い回されるのは御免だ」
「、、、、」
「純一!純一だろう!」
「ええ、、チーフ、、」
「どうした、あの世で風邪ひいて歌ってるような声だな。ヤクザはどうなった?」
「、、、、、、」
「、、モモがいなくなって、、」
「いなくなった?」
「、、はい、、」
「、、もう少し時間が要ったのにな。彼女ならお前をわかってくれると信じていた、、進展が速すぎるな」

ダイヤモンドヘッドを太陽がいじめている、焦がさんばかりに光が降り注いでいる。
干からびそうだ、、形が何かに似ている。
ホノルル動物園の柵を数人が工事している。

「チーフ、ヤクザは拘留されているそうです。書類は早く公開するようにダニーに頼んでみます」
「ラルフと寿子に連絡がつかない、、例のスーツケースの仲間だ。
それぞれロスとバンクーバーに飛んだ」
「チーフ、携帯番号教えてくれませんか?」
「##########、たまには連絡くれるか」
「はい、わかりました」
「純一、彼女のことは諦めるな。100%戻ってくると信じてろ、疑念は入れるな。
そうすればいいことがある、これは俺が会得した極意だ。
お前の親父,アキラは俺のことが心配で心配でたまらなかった、軍のチェックポイントを通るたびに体、声は震えていた、俺のことを思ってだ。
俺は100%、200%信じた、信じていた、何事も起こらないと、それで生き延びた。戻ってくると信じろ!疑念を挟むな!わかったか!」
「はい!」

直立不動、兵隊のように大声で背筋を伸ばして叫んでいた。

チーフと話している間、ホノルル動物園が気になっていた、動物園の柵を工事している。
今なら簡単に入れそうだ、、
ダイヤモンドヘッドの形、、亀だ!
柵だ!モモだ、、、亀のモモだ、、

四、五日前、モモが言った。
“これが終わったらやってもらいたいことがあるのよ。
だから無事でいてもらいたいの“
“何?それって”
“動物園の亀を逃がしたいの。
あなたの助けが必要なの、一人じゃ無理なのよ“



一月一日、午前零時、究極の民主的な時間です。
この天体に住むすべての人にとって、一つになれる、記憶に残せる、誓いを新たにできる時間です。
アルカイダ、ブッシュ、、私たち、
この、唯一、共有できる時間を“世界平和の時間”として心に刻めば、少しは争いが減るのでは、、
来年の大晦日まで、心から、いいお年を、
                     dorock修

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