10:The end of a明日 触れ合いこのエントリをはてなブックマークに登録

10.触れ合い



「あなた?」
「どうした,起きても大丈夫なのか?」
「気になって、、
勤、どこか美世に似ていなかった?」
「美世に似ている?」
「驚かないのね。分ってたの?」
「歩き方のことか?」
「やっぱり知ってたのね」
「ちょっと、気になってはいたが、」
「いつ頃から?」
「最近でもないが、、
そんなに遠くでも、」
「遺伝とか、、、関係ないわよね?
双子だから、」
「クローンは一卵性双生児だけだ。
二卵性双生児は普通の兄弟姉妹と同じだよ。
だから遺伝子の半分しか共有していないから大丈夫だ。
先生もそう言ってた。
勤と美世は二卵性だ。
関係ないよ」
「一卵性じゃないのね?確かなの?」
「ああ、先生に何度も聞いた。
一卵性双生児は殆ど同性だ。
異性は非常に稀だと言ってた」


「シュシ、こいつ昔の俺のパンク仲間の勤だ」
「シュシです」
「おい、どうしたんだよ、やけにしおらしいな」
「そういう時もあんだよ。
狂人(キョウト)、うるせーぞ!」
「そう、そう、その調子だ」
「一人でよくやれるね。バックの音は?」
「パソコン、今の世はなんでもありよ。
昔がよかったと思うよ」
「何だ!シュシよ。餓鬼が言うことか!」
「偽の音作れるってこと!
60,70年代は生だからね、、
あ、、薫だ!こっちだよ!薫!薫!」
「ごめんね、、遅くなっちゃった。
あ、、こんにちは」
「狂人の友達の勤だって」
「え、、呼び捨てかよ?」
「飾りなんか要らないよ。妹の薫」
「あ、初めまして」

狂人!!!
お、、ちょっと向こうで呼んでるから行ってくらあ。

「薫ちゃんはエキゾチックな顔だな」
「ジジくせー、エキゾチックだって?」
「ジジー?確かに言えてるな」
「薫、狂人のパンク仲間だって、大昔の。
どんなのやってたのさ?」
「バンド名知らないのか?」
「知ってる。“桜散る”だろう。恐い名前だね」
「分るか?」
「過激な奴?」
「“殺せ”はなかったけど、
“やっつけろ”、“闇雲に突っ走れ”、
“同じ穴の豚”、とかはよく歌ってたな」
「戦闘的だね、
好きよ、そういうの。もう、やらないの」
「一過性の飴玉?
その時だけ無性に食べたくなるな」
「何だ、それ。
もしかして要らないギターとかアンプとかが、
だらけて転がってるとか?」
「だらけてるか?Fenderのツインーリバーブのアンプがあるよ。70年代の」
「うわああ!!!勤ちゃん、使わないならさ、私にくれない?」
「ちゃん、なんか使いやがって。
あげるよ」
「うわあああ!最高。
探してたんだよ、70年!!!」
「真空管は交換しろよ」
「お、、もち。ありがとう!」

「勤よ、車動かしてくれ、苦情だ。
裏の俺の横に入れてくれ。
お前のはでけーえからな」
「分った」

狂人は後姿を見ていた。
あいつ、足でも怪我したのか?

「狂人、勤の車って、でかいの?」
「ああ、GMのシボレーAだ。
4,5000はあるな」
「そんなのに乗ってるの!」
「どうしたんだ、そんなに怒って。
ああ、、そうか」
「だって、環境に悪いでしょう!」
「だよな」

「シュシ、来たよ、、、変なこと言わないでよ」
「、、でかいのは駐車疲れるな」
「でしょうが、勤、なぜそんな環境に悪いのに乗ってるの!」
「シュシ、!、」
「どうした?そんなに怒った顔して」
薫がシュシを抑えた
「環境の運動をしているのです。
地球環境に悪いものは出来るだけこの地球から排除しようとしています」
「そうよ!あんた!パンクロッカーだったんでしょう?
ならもっと環境の意識を高めなさい!」
「ああ、悪い、そうだよな」
「何だ、、拍子抜け」
「近いうちに何とかするからさ。
今日は許してくれ」
「残念ね、薫?
言うこと聞かなかったらタイヤパンクしようと思ってたのにね」
「何だよ、それ!」
「狂人も気をつけな。
今、2000だろ。
2500になったらパンクするよ」
「過激だな!」
「シュシは薫ちゃんのお母さんって感じだな、なあ、狂人」
「ああ、言えてるな、、」
「何歳なの?」
「15」
「薫ちゃんは?」
「今言ったろうが。
おない歳なんだよ!悪いか!」
「何怒ってるんだ?」
「シュシ、、」
「気まずくなりそうだな。
これ以上は聞かないよ」
「シュシ、アンプの話、駄目になるよ。
仲良くしないと」
「要らないよ、そんなアンプ」
「シュシが要らないなら薫ちゃんにあげるよ。
薫ちゃんがシュシにあげな」
「ああ、よかった。私はシュシの、」
「薫!いいよ、話さなくて!」
「俺が言わせたか、、悪かった。
償いに送ろうか?どこに住んでる?」
「え、、本当に!
シュシ,よかったね」
「よかないよ。自転車どうすんのさ!」
「積める。タイヤパンクしたいほどでかいから」
「決まったね。
シュシ、頼もう。
見納めになるのよ。
もう乗れないんだから」
「ああ、、その通りだ。
狂人、じゃあ行くわ。又な」
「朝は部屋だ。
夜遅くはここだ、来いよ」
「ああ、じゃあな」
「勤、お前、足怪我したか?」
「いや、」
「そうか、、、、、」

狂人まで、、
どうなってんだ。
俺の歩き方がおかしいのか、、
確かに上手くは足を運べ、、、、
もしかして、、
まさか、、
追い払った。

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

8:キャラメル超特急 決別 上完このエントリをはてなブックマークに登録

上完 Sweet Candy Express

八.Dとの決別



二日後、急な用があったので
ハシシをそのままにして東京の友達に会いに行った。

一週間後、長崎に戻って来るとお袋が言った。
「お前がいない間に臭いのが入っとったあの煙草入れの箱なくなったと。
三つあったたあいね。
夜中、物音がしたたい。
あれは泥棒だったとかね。
泥棒があの臭いのだけ持って行ったっちゃろか?
おかしかね」
「ほんと!」
 
どうなってんだ。
そもそもなぜあの箱にハシシが?
意図的にアミールが入れたとしか、。
この方法でハシシを送っているのか?

翌早朝、お巡りさんが来た。
やはり、泳がされていた。

「俺がいない間に盗まれた」
と、取調室で事情を話した。
信用してくれない。
お袋の説明も駄目だ。
「なんですぐ届けなかったのかね?」
「東京の友達に用があったので
帰ってきてからでも遅くないと」
「福生署で事情聴取されたね」
「とんでもないいいがかりですよ。
俺たちの姿を見て誰かが通報したんです。
頭に来ました」

友達は福生の米軍ハウスに住んでいた。
近くに広大なゴミ捨て場があった。
ジェット機用燃料の残骸が捨てられてあった。

火力が強くてさ、ストーブ燃料としては最高さ、
友達が言った。
仲間5人と取りに行った。
燃料の塊のゴミを数片、車に積んだ。
装甲車2台に分乗した機動隊が出入り口を塞いでいる。
汚いヒッピー姿の五人の男に不審を抱いた、
善良な市民が警察に通報したようだ。

福生署で事情聴取を受けた。

「盗まれたんではないだろう。
福生の友達の所にハシシを持って行ったんだろうが!」
「何を言うんですか!
家にありました!」
 

熊本市上町の安宿の一室で、
二人の若者が100gの塊を眺めていた。
佐伯守と城賢一は、路上で針金細工をしながら日本中を旅していた。

「城、今回も上手く行ったな。
岡本がハシシを置いたまま東京へ行ったんで助かった」
「それにしても俺たちは悪だな。
旅行者だしに金儲けやってんだからな」
「そう言いなさんなって。
彼だってお巡りに気づかれず、俺たちに盗まれなきゃあ100gのハシシがただで手に入るんだぜ」
「警察はアミールとラシッドをチェックしてないのかな?
よく捕まらないな」
「そこんとこはいくらでも手があるみたいだぜ。
偽名を使ったり、間に中継地を入れたりして」
「佐伯、ヘロインはいつ入る?」
「チャワリットの話では、
タイ側が一週間前にクレーム出したから
2か月後になるとか言ってたな」
「それにしても悪知恵が働くな。
中古車、バイクをタイに送っといて、
クレーム出してガソリンタンクにヘロイン詰めて
日本に送り返すんだから」
「返品を殆どチェックしないってのが
まさに日本だな」 


四日後、親父、お袋の説明に納得したのか、
無罪放免で釈放された。

当たり前だ!


それから一月ほどして、キャット・スティーヴンスの名で絵葉書が来た。

耕三、ロシュトーがオタワの仏大使館に出頭して
身柄を拘束された。
大使館の門前で別れたが、
さっぱりしたいい顔をしていたよ。
いつ無罪放免になるのか予測はつかないが、
出てきたら俺たちが力になると言っておいた。
生きていたら、とも付け加えたが。

知り合いの弁護士にそれとなく聞いたら、
20年以上は確実だ、と言ってた。

今回の運びはロシュトーに助けられた。
同じ便でウィニペグまで飛んだ。
税関で麻薬犬が俺のベルトに興味を持って寄って来た。
いつも使っている、臭い消しの石鹸が、
売り切れでチェンマイで手に入らなかった。
バンコクで探したんだが、
チェンマイの特産で売ってなかった。
何もせず、飛行機に乗った。
やばかったよ。
慣れで甘く見てた。

犬が俺に吠えようとした。
その時、ロシュトーが口笛を吹いた。
その麻薬犬、縄を持った捜査官の制止も聞かず
ロシュトーに向かって走り出した。

お陰で税関を無事抜けることができた。
“犬に何をしたんだ”
って聞いたら、
彼がなんと答えたと思う!
今にも摩天楼から飛び降りるような真剣な顔で、
「犬と話せるんだ。
あの犬、ドッグフードが最近、変わったんでな。
食欲無くして落ち込んでた。
慰めてやった」

まったくどこまで本当か?、
信じられるか!


約一か月後、ヘラルド・トリビューの英字新聞に
《元ADメンバー、ジャン・メルク・トト身柄拘束》
の記事が載った。


キャラメル超特急
Sweet Candy Express 上 完



参考図書

テロ白書/ アメリカ合衆国政府編  高井三郎訳 ミリタリー・プレス・ジャパン
こころを鍛えるインド/ 伊東武著 講談社
森の回廊/ 吉田敏浩著 NHK出版
麻薬/松本利秋著 かや書房
日本赤軍派/ パトリシア・スタインホフ著 木村由美子訳 河出書房
マイアミ・コネクション/ホ ル エティ マュ コ サホカル セイラ ウォ ルテン 共著  植村修訳 朝日新聞社
SWATテクニック/ 毛利元貞著 並木書房
ナチ占領下のパリ/ 長谷川公昭著 草思社
チャイナ・コネクション/ 森田靖郎著 日本評論社
証拠は語る/ ディヴィッド・フィッシャー著 小林宏明訳 ソニー・マガジンズ 



theme : 連載小説
genre : 小説・文学

11:The end of a明日 続、触れ合いこのエントリをはてなブックマークに登録

11.続 触れ合い



シュシと薫は、勤の車をみて驚いた。
“The end of a明日”設立当時、いつかパンクしようと話していた車だった。

乗り込んで二人は顔を見合わせて笑った
「どうした、意味深長な笑いだな」
「薫、教えてやんな、これ以上乗り続けるとこうなるって」
「勤さん、?」
「シュシと同じで勤でいいよ。
呼び捨てが気持ちいい」
「え、、勤、、言いにくいな。大人に」
「薫、言っていいの!
こんな車に乗ってる奴には。
それにまだパンクの血が残ってるよ」
「まいったな、パンクの血はもうないよ。
パンクする奴がここにいるからな」
「何言ってるの!
冗談じゃないよ。
先に言わないでよ」
「何、、?
何言ってるか分らないな?」
「私たち、この車、いつかパンクしようと言ってたのよ。」
「ほんとかよ?」
「だから、乗らないか乗り換えたほうがいいよ。
軽だね、シュシ」
「都内なら軽も止めて!
電車、バス利用して!」
「はい、はい、分りました」
「薫ちゃんとシュシも双子か?」
「何言ってるの?」
「さっき、二人とも15と言ったろう?」
「あたいの大事な妹、それで充分でしよう?」
「どっちが姉さん?」
「あたいよ、シュシよ」
「やっぱりな」
「何だよ、それ」
「私とシュシも?って、
勤は双子の兄弟がいるのね?」
「ああ、、、、、」
「色んな事情があるんだよ、薫。
それ以上は聞くな。
勤、泣くよ」
「よく分るな」
「私の母親はフィリピン人なの、」
「薫ちゃん、言わなくていいよ。
無理して」
「勤には知っててもらいたいのかな?」
「聞きなよ!
あんがた最初よ。
薫がこんなこと言うなんて。
光栄なことよ」
「母は不法滞在、父は難民のまま死んぢゃった。5歳の時」
「5歳じゃないよ、4歳と10ヶ月」
「ああ、、そうだっけ」
「そうか、、で、兄弟に、、、、養女に?」
「苦労したんだよ、恵美ちゃん。
駆けずり回ってさ。薫を追い出す、ってのもいてさ。
頭に来たよ」
「そうか、、」
「ああ、ここだよ」
「なんか元気もらったな」
「へ、、こんなんでよかったら、、
いつでもあげるよ、勤ちゃん!ね、薫」
「ええ、」
「俺の携帯あげとくよ」
「薫!書きなよ!」
「ああ、ごめん、そういう変なつもりじゃないんだ。
いいよ、じゃあな」
「勤、待ちなよ!
そうじゃないよ、薫!書いて?」
「はい、これ」


薫ちゃんは雰囲気が美世(みよ)に似ていた。
不法滞在のフィリピン人とクルドの難民の子。
昔の俺だったらどちらかというと追い返せに近かった。
いつから、こんな丸く、、なった?


数年前、法務省前にクルド人の家族と支援者達が、
強制退去処分の停止を求めて座り込みをしていた。
その日は、俺が大臣の運転役だった。
迎えに行ったときから機嫌が悪かった。
奥さんに浮気がばれたようだと前日、他の秘書が話しているのを耳にした。

法務省前に着いた。
到着に気づいた支援者、クルド人の家族が走ってきた。

子どもがいた。
日本人以上にきれいな日本語だった。
「だいじんおねがいします。
おねがいをきいていただけませんか?
だいじん!」
まだ小さい、、5歳?

藤山は俺に怒った。
「何でこんなとこに停めた!
あの連中が気づくと知っていてお前は停めたのか?」
「大臣、あの子どもには何か言ってあげて、、」
「何を!
日本は法治国家だ、法律破った連中だ
、勝手に追い返すだけだ。
餓鬼には知らん振りしてろ。
マスコミが見てる」

大臣の背に、ギャングラッパー,Good Boyを見た。
アメリカ属国、日本、トルコの共同体だ。
クルド人にどんなひどいことをしても、
人権にうるさい君主アメリカは属国日本を非難しない。
トルコは政治的、軍事的な重要なパートナーだ。
おまけにイスラムの国、これからイスラム諸国とのガス抜きに政治的な使い道がある。
彼等の言う人権とは、仲良しクラブ内限定だ。
護るのは人ではない、国だ。

クルド人、なんかどうでもいい。


いつもの都合のいい二枚舌だ。
そのハンバーグにまみれた汚い舌で俺の日本が舐められている、無条件でなびく日本の政治家にも、、





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genre : 小説・文学

12:The end of a明日 美世このエントリをはてなブックマークに登録

12.美世



シュシ達が言うとおりだった。
環境に悪い。
しかもアメリカ嫌いの俺がシボレーに乗っているとは、。
遅い就職祝いだと言った。
機密費で買ったのか?
親父は美世の治療費を稼ごうと手を染めたのだろう。
でも、なぜ、その後も?

親父のメモをまとめたファイルを何度が消そうとした。
出来なかった。
組織の人間だ。
このまま闇に葬るつもりだ。
多分、メモリーカードも処分するだろう。
親父には何も期待していなかった。

ファイルの名前を“桜散る”に変えた。
これで決心がついた。
もう削除できない。


数週間、何も手がつかなかった。
体がおかしかった。
親父が来て、医者の電話番号を置いていった。
ファイルは削除したのか、と念を押した。
はい、と答えた。

お袋が何度も電話をしてきた。
病院に行って欲しい、と。
正直、恐かった。

よく夢を見た。
発症する前の美世だ。
こんな顔だった?
薫だ、薫ちゃんだ。
同じ空気だ。

ハーゲンダッツのアイスクリーム、どっち?
じゃあ、
じゃいんけん!
うん!

じゃあいけん!

グーを出した。
同じだ。

じゃあいけん!

グーのままだ。

美世!
どうしたの、、さあ、やるよ。
じゃあい!
どうしたのさ!
もう一回、
じゃあ、、
どうしたのさ!
僕の勝ちだ!
美世の負けーーー!!

テーブルのバニラのカップを鷲づかみした。
まだ、自分のグーを見つめている。

どうしたんだよ!
美世!
怒ってんの?
じゃあ、もう一回だけだよ。
これが最後だよ。
最後だから早いよ。
すぐ出すんだよ。
じゃあいけんパー、

美世のグーをパーでつかんだ。

美世グーだから僕の勝ち!
決まり!

泣き出した。

何だ!
いつもこうなんだから。
いいよ!
じゃあ、バニラあげるよ。
だから泣かないで、、ね、

美世と俺は二卵性双生児だった。
進行性骨化性背線維異形成症、遺伝子疾患、
手術をいくらしても骨組織が増殖を繰り返す難病だった。
筋肉が骨化し、治療なし、
最終的には呼吸が出来なくなり死にいたる、
よく生きて40。

美世は動けなくなっていった。
俺はパンクと喧嘩に狂った。

21の時、この世から消えた。

数分、ちょっと目を離した隙に、
早く気づけば、。
お袋が、何度か同じことを言った。

明け方、外務省から医者が来た。
親父が呼んだ。

溺死ですね、、
確かめるかのようにお袋に聞いた。

俺も、親父も、お袋も、泣かなかった。

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

13:The end of a明日 葛藤このエントリをはてなブックマークに登録

13:葛藤



シュシと薫ちゃんが面会に来た。
「何だよ!入院してるって狂人に聞いたからさ。
どうしたんだよ?」
「ああ、相変わらず威勢がいいな、最高の薬だ」
「で、どうなのですか?」
「ただの筋肉の痛み。
もう退院できるよ。
検査が長引いているだけ」

お袋がドアを開けた。
「あら、面会者?こんなに若い、、」

薫ちゃんを見た。
言葉が消えた。
お袋も、、。

「お袋!紹介する、シュシと薫。
シュシは狂人とこで歌ってる。
薫は妹。
お、、、薫って呼び捨てにしてる」
「私も勤って呼んでいるから呼び捨ての方が気持ちいいわ」
「俺の真似しやがって」
「まあ、、来てくれてありがとう。
あなたにこんな可愛いお友達がいたなんて、
テンプルで知り合ったの?」
「はい、勤が、、」
「シュシ!お母様の前よ!」
「だって、今、薫が!、、、、
はい、勤さんが入院しているとと、、
あ、、噛んじゃった!」
「お互い呼び捨てで行こう。
慣れないことはしない方がいい」
「私のことは気にしなくてね。
どうぞ、呼び捨てでも、様でも」
「はい、では初めから、、、、何だったけ?」
「まあ、、、面白い子達、、ふふ、、」

お袋が笑った。
これで、今年2度目だ。
昔のお袋のようだな,
薫?
そうさせてるのは?

「“勤が入院”から、、」
「あ、勤が入院していると聞いて、
アンプ忘れられたら困ると思って」
「アンプ?」
「家にあるアンプこいつらにあげることにしたから、
取りに来たらあげて」
「ええ、分ったわ」
「もう退院できんでしょう?
勤が運んでよ。
あのでかいのでさ。
それまで執行猶予あげっからさ」
「いいよ。退院したらすぐ運んでやるよ」
「約束ね」
「OK」
「お付き合いは長いの?」
「この前テンプルで会ったばかり」
「シュシちゃんと薫ちゃんは兄弟?」
「そうだよ。お袋」
「私はシュシのお母さん、恵美ちゃんの養女です」
「あら、、、そう」
「お袋!
いいだろうが!」
「ええ、、、、いつでもいいからこれからも来てくれない?」
「そんなに長くなるのですか?」
「長くなんないよ!
じき退院だよ!」



「筋萎縮性側索硬化症は
骨格筋を支配する神経細胞に起因する
原因不明の疾患です。
10〜80歳まで広く発症しますが、
大体、40ぐらいで発症する方が多いようです。
神経細胞は刺激があった場合、活動電位で、、
活動電位とは電位の変化のことですが、、
他の細胞に情報を伝えます。
電位の変化の度合いで情報の修飾が行われます。
運動ニューロン病とも呼ばれています」
「ニューロン?」
「ニューロンとは神経細胞の別名です。
それには上位ニューロン、
下位ニューロンがあって、
前者は、大脳皮質の運動神経細胞で
末梢神経に随意運動を促す刺激を送ります。
後者はそれの受け手で骨格筋を支配している末梢神経です。
勤さんの場合、その両方が侵されています」
「神経が侵されているのですか?」
「はい。
進行が早いのが特徴で症状が軽減することはありません」
「症状が軽くならない!」
「はい。最終的に呼吸筋が麻痺します。
発症から死亡までの期間は、
数ヵ月から10年を越えるものまであります」
「薬は!
治療法は!」
「予後の薬は開発されていますが、治療となると、、」
「ないのですか!」
「興奮性アミノ酸の代謝の異常説や、
自己免疫病ではないかと学説はありますが
まだ何に起因するのか特定できない段階です」
「そんなに長くは生きれないと?」
「経過は症例毎に異なりますが、
ご子息の場合は1年が限度かと」
「1年!!!、、、、、、、、、、、、、
、、、、妹、美世の病気とは?」
「症例が少ないのではっきりとは申し上げることは出来ませんが、無いのではと考えられます。
美世さんの病気は骨代謝に関係深い、
たんぱくの遺伝子の突然変異だろうといわれています。
一応、遺伝性病気なので、
もしご両親のいずれかがこの病気の場合は、
何パーセントかの確率で受け継がれていきます。
しかし、ご両親が全く正常な場合でも、
こういう病気のお子さんというのが生まれてくる確率はあります。全てを排除はできませんが、
現段階では勤さんの病気と関連性があるかというと無いに近いと思います」
「そうですか、、、
息子には知らせた方がいいのでしょうね?」
「お父様は何もおっしゃらない方がいいとお考えなのでしょうか?」
「、、、分らないんです。
どうしたらいいのか?」
「時間が限られていますので、、、
私が説明いたしましょうか?」
「、、お願いいたします」


上の空で聞いていた。

「治法は〜〜あ〜ません。
グル〜タ〜ン酸放出抑〜〜剤のリルゾ〜ル〜〜行を〜遅〜すーることは〜〜能ですが
発〜〜後5年〜〜内に呼〜筋が麻痺します。
人工呼〜〜器が必要です。
しか〜、〜痺〜進行〜ます。
アメ〜〜の有名な野〜〜のでル〜〜ゲ〜ック病とも。原因は〜分〜〜せん。
ほんの一部〜〜原〜〜〜伝子が固定れて〜〜ますが、遺〜〜性は見られ〜〜せん。
タン〜〜質、ミト〜ンド〜リ〜アの異常〜〜」



自宅待機中、キャリアの川上は必ず一回は電話を掛けてきた。

武藤隆事務次官が今度JICA(独立行政法人国際協力機構)の総裁になると、
穏やかに言った後、私の言葉に声を荒げた。
「取り決めの件、もう少し時間を頂けますか?
息子が入院していまして、」
「もう少し時間とは?
伸ばす必要は、、ご子息の入院とは関係ないんじゃありません」
「少しだけ伸ばしていただければ」
「松岡さん、知っているじゃないですか。
今更、もうスケジュールを変えることは無理なんですよ。
山本外務大臣の調整は出来ません。
分ってください」
「、はい」
「困りますよ、松岡さん!
取り決めどおりやってください。
ここで我々の意に反することをすると、
どうなるか分りませんよ。
よく考えて行動してくださいよ。
確か娘さんの美世さんは溺死でしたよね?」


警視庁、官邸、外務省の合意は既に出来ていた。
自分との合意も。
業務上横領ではなく詐欺罪にするから
余計なことはしゃべらない。
自白しない代わりに家族の面倒を見る。

自分の逮捕される日を不思議な気持ちで聞いた、
1週間後らしい。
逮捕の日は大臣、事務次官が出省して記者会見をする。
捜査2課は、外務省は協力的だった、と会見する。
もう外務省は捜査の対象から完全に外れる、
と暗にマスコミに示唆する。

勤がこうなる前は従うつもりだった。

まさか、美世の溺死を持ち出してくるとは、
又、ぶれてきた。


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genre : 小説・文学

下:1キャラメル バンクーバーこのエントリをはてなブックマークに登録

下巻、続
キャラメル超特急
Sweet Candy Express                  


この物語はdrugが副次的な主題です。
嫌悪される方はskipを、


概要 
 
耕三とアランは、ロシュトー暗殺の黒幕、駐仏カナダ大使、レジナルド・ダリを、滞在先のNYでコカインオーバードース(吸飲過多)に見せかけて殺そうとする。
二人は、彼のボーイフレンド、クリストファー・リーが、NYチャイナタウン・福建省ボスのコカイン運び屋をやっているのを偶然目にする。
二人はそのコカインを盗むことにした。
仏大使が黒幕で、チャイニーズギャングが殺したように画策した。
失敗したら刑務所行きの際どい作戦だった。

トロントの孤児院で育ったアランは、11歳の時、母親のように面倒を見てくれたカレン族の女性ラムの為に生きようと決心した。
以来、命に関わるような危険な時に、キャット・ステーヴンス(Cat Stevens)の《Wild World》の曲が聞こえてきた。
ラムがこの曲で知らせてくれていると感じた。


1:バンクーバー
2:再会
3:拳銃
4:狙撃
5:手紙
6:復讐
7:NY
8:ブルース・リー
9:小津安二郎
10:チャイニーズ・ギャング
11:パラディウム
12:スキンヘッド
13:ある計画
14:続・計画
15:テキーラ
16:ラッキーエイト
17:コカイン盗み
18:ホームレス
19:コカイン
続下20:殺人
  21:セントラルパーク・ジャングル
  22:旅人
  23:外交問題
  24:捜査難航
  エピローグ

主な登場人物  

岡本耕三: 日本の旅人  
ロシュトー(ジャン・メルク・トト): 元仏極左組織・AD(アクシ ン ティレクト)メンバー
アラン: カナダ人、元ヘロイン運び屋。現在、探偵  
モモ:アランの子ども
マコト:アランの妻
ラム: バンクーバーの孤児院で働いていたビルマ、カレン族の女性 
カルロス・リオン: トロント・ギャングボス  
リュウ・T:童恩正の息子  
レジナルド・ダリ: 駐カナダ仏大使  
クリストファー・リー: NY大の仏人学生
童恩正(トニー・トンエンチャン): NY福建青年ギャングボス。  
陸定駿(ルーリャチュン): NYチャイナタウン・安良堂ゴッドファーザー  
王暁達(エディ・ワンシャオター): NYチャイナタウン・飛龍ギャングボス  
チキート:NY・ラテン ギャングボス
テキーラ(プロ):チキートの部下
佐伯 守: 針金細工、露天商  
城 賢一: 針金細工、露天商 
ラシッド: インド・カシミール戦線メンバー  
アミール: インド・カシミール戦線メンバー  
 


(上巻と一部重複)


空気、水、ミソ汁、ミルク
昨日の新聞とモメントの集合体
信じられるのは一瞬
かなしく
おちこみ
ふるえ
くるおしく
おどって
さけんで
きえたくなる
夕焼け、、、
太陽、、、
おまえの笑顔
キャンディー
スウィート・キャンディだ!


俺はこの10年あまり長崎を拠点に、
週3日から4日、日雇いのアルバイトをして生きていた。
年に一度、東南アジア、インド、ネパールへ予定期間なし、
金がなくなるまでの気ままな旅をするにはうってつけの仕事だった。

いつものように朝7時過ぎ、
三毛猫の小百合ちゃんの尻尾で起こされた。
彼女、なぜかこの時間になると俺の顔を尻尾でたたいて起こそうとした。
それでも起きないと、耳元で恐怖のゴロゴロと鼻息だ。
10m以上離れていても聞こえてくる大きな音だったのでいつも目が覚めた。
ゴロゴロは天性のもので、
鼻息は彼女が生まれてまもない頃、
風呂に入れて風邪を引かせたためだ、、と思っている。
それにしても8年だ、、、長い風邪だ。 

彼女のお尻を数分間ピンピン叩いてやった後、
郵便受けから新聞を取り出した。
邪魔されないように広告のちらしの上に彼女を誘導した。
今日は機嫌がいい、素直だ。
蒲団に腹這いになって三面記事を広げた。

築25年の4階建て、1DK、家賃2万、
ひび割れ、雨漏りあり。
このビルとおなじような記事が相変わらず並んでいる。
今日はおもしろいのがあった。

《針金細工師・麻薬密売に関係》 
全国の祭りを渡り歩き、アクセサリー類を路上で販売していた佐伯守・40歳と城賢一・41歳の二人は、
15年に渡り、大麻、ハシシ、ヘロインを東南アジア、
ネパール、インド各国から不法に取り寄せ独自のルートで売り捌いていた。
彼らの供述から、背後に大がかりな密輸入組織、
並びに麻薬密売組織の存在が明らかになった。
これまで判明しただけで末端価格、
約4億円余りを荒稼ぎしていた。
警視庁はインターポール(ICPO、国際刑事警察機構)を通じて関係各国に数十人の身元を照会している模様。 

いつのまにか小百合ちゃん、俺の腰の辺りに寝転がっていた。
こうなると、大変だ。
どかそうものなら背中に爪を立てる。
困った、お姫さんだ。

電話が鳴ったので受話器を取ろうとした。
やられた。
少し浅いが適当に痛い。
バンクーバーで探偵稼業をしているアランの声が響いた。
「耕三、起きてたか」
「どうした」
「ぶらぶらしてるならこっちに来れないか。
ロシュトーが昔の仲間に狙われているようなんだ」
「狙われてる?
俺が行って手助けになるか?」
「ロシュトーはボディガートを雇う気はない。
殺されるのを待っているようにも見える。
警察は駄目だし、俺たち以外、誰もいない。
できるだけ早く来てほしいんだが」

旅に出るときは、大家の浜田のお婆ちゃんに小百合ちゃんを預けていた。
大家にはディカプリオという9歳になる黒猫の息子がいた。
8歳の小百合ちゃんとは恋仲だったが、
最近、浜田光夫から浜田ディカプリオに改名してなぜか彼女によそよそしくなっていた。
カタカナの名前になって優越感を持ったようだ。
あんな中身のない猫なんか気にすんな、
と小百合ちゃんに諭して、3日後、バンクーバーに向かった。
 

仏極左組織AD(アクション・ディレクト)元メンバーだったジャン・メルク・トトことロシュトーは、
カナダ・オタワにある仏大使館に出頭した。

仏の刑務所で刑に服した後、カナダ・バンクーバーに渡り、アンドリュー・キャラハンという名で密かに生活していた。仏、カナダ両国政府の密約によるものだった。

ロシュトーはAD・革命細胞の情報を交換条件に、
刑期の短縮、釈放後のカナダ移住の司法取り引きを仏政府と交わした。
カナダ側の見返りは、カナダおよび仏国内のケベック州・分離独立を目指す過激派、及びその支援組織の情報を仏政府から得ることだった。
すべて、ロシュトーの思うようにことは運んだ。
しかし、カナダ移住に関して但し書きが添えられていた。

《ジャン・メルク・トトことアンドリュー・キャラハンに不測の事態が生じようともカナダ政府、警察は一切関知しない》

元テロリストに移住の権利を認めたが、
身を守るのに警察を当てにするなということだった。
先週、差出人の名前、住所が書かれていない一通の手紙がモントリオールから届いた。

『 親愛なるアンドリュー・キャラハン(Dear Andrew Callaghan)  
Francoise de Rocher  
Gustave Galle  
Stella Kupferberg 
Marjorie Graham   
Peter Paul Matsys  
Antoine Sanzio  
Jhon Ricardo               
Jacqueline Morton  
Thomas Malsberg  
Jean Francois Seurat  
Donald Kauffman  
Rino Dussi  
Rosalyn Stern  
Gregory de Rocher  
Bernice Melvin  
Robert Brock  
Jean Louis Imbert  
Pierre Ducasse  
Monique Gagnaire  
Claude Buonarroti 

ジャン・メルク・トト、これらの名前はおまえの情報でなんらかの苦しみ、被害を被った、AD、革命細胞、
およびケベック州分離独立過激派組織メンバー、
協力者、計20名の名前だ。
殺し屋を既に送った。
この復讐は、おまえの死をもって償われる』

 
1.バンクーバー、


運び屋を卒業したアランはガスタウン(GASTOWN、バンクーバー)で探偵事務所をや っていた。
ロシュトーの部屋を訪ねた。

月に三、四日、仕事が遅くなったときなど、
彼の3LDKの使っていない部屋をホテル代わりに利用していた。
ロシュトーは、昼間、コンピユーター,
夜は酒を飲む生活をしていた。
完全に”おたく”さんだ。
部屋に閉じ込もりがちな彼の様子を見るには好都合だった。

数か月に一度の割合で、家族が住んでいるウィスラーにロシュトーを連れて行った。
スキー、ゴルフ、スポーツにはまるっきり興味がないようで、いつも娘のモモの相手をして遊んでいた。

アランがドアを開けたとき、彼は既にできあがっていた。
二、三杯付き合った後、
居間のソファに寝込んでしまったのでベッドルームまで運んだ。
たまたまベッド脇サイドテーブルの上に広げられてあった手紙の最後の行が、アランの目に入った。
手紙の消印の日付は10日前だった。
彼は一週間近くも放置しておいたのだ。

翌朝、午後近くになって起きてきたロシュトーに手紙のことを訊ねた。
「なぜすぐ連絡してくれなかった?」
「、、、何を?」
「ベッド脇の手紙」
「、、見たのか、、
あれはジョークだと思っている」
「まったく、、、自分の命がかかってるんだぜ。
今まで何も起きなかったのが不思議なくらいだ。
なぜケベック州分離独立過激派の名前が?」
「俺の移住の見返りとしてカナダ側が要求してきた、
と弁護士が言ってたな」
「警察は相手にしてくれないんだな」
「身から出た錆びだ。
俺がやったこと自体、誉められたことじゃない。
文面の中に何人か知人がいる。
彼らは俺よりひどい目に遭っただろうな。
信用はもちろんのこと、
職、地位を追われて自殺した人も何人かいると聞いた」
「遺産が入ったんで金はあるんだろう。
それで耕三を呼ぶよ。
何かうまい手がないか考えよう」
「好きにしてくれ。
あの世には持って行けないからな」
「もう棺桶を注文したような言い方だな。
今夜から俺ここに泊まるよ。
いいだろう?」
「好きにしてくれ」
「外出は耕三が来るまで控えてくれ。
当分、食事は出前になる」

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14:The end of a明日 闇の中へこのエントリをはてなブックマークに登録

14:闇の中へ



詐欺罪でも、
勤にはもう会えない.
表にさらけ出して欲しいのだろうな、
マサコは、どうなる、
刑事事件になるのだろうか、?
まだ、5年しか経っていないのか、、


夜遅く、川上から2度目の電話が掛かってきた。
「ご子息のことで、明朝、
9時に省へ来て頂けませんか?」

誰が、、先生が話したのか?


公安の二人は勤の部屋に入った。
手際よく作業を始めた。
パソコンと記録媒体、CD,DVD,
メモリーステック、カードの収集に分かれた。
「VAIOですね。
藤山事務所に退職後まだあるノートが東芝だったので、
てっきり東芝だと思っていましたが」
「早くやれ。
本人以外の人間が気づかなければいい。
発見を遅らすカモフラージュ以外の何ものでもない」
「ファイル入ってますね」
「5,6個、適当にファイル選んで名前だけ入れとけ。
何も無いと怪しまれる」
「はい、桜散る、ってのがありますね。
これと、、」

15分後、重くなった袋とパソコン、
その周辺機器を持って車に向かった。

「驚きました、こんな時間に呼び出されるなんて」
「急ぎだ。
今夜中に終えろ、との指示だった」
「なぜ、法務省外局の公安調査庁を使わずに
我々、警視庁公安を使ったのですか?
公安調査庁の方が官邸、関係省庁に近いはずですが」
「我々の方が都合がいいのだろう。
情報をどこにも提供しないから、知らないで通せる」
「警備局からですか?
相当、上が?」
「明朝も二人増員された。
我々は6人になる。
それとは別に二人が動く。
計8人になる」
(注:警察庁警備局:公安警察を指揮・管理)


「どういうことんだ、、届いてないじゃないか?」
「あの、、どちら様で、、」
「君!!私の声を忘れたのかね」
「ああ、藤山大臣、、どうも申し訳ありません」
「松岡君、どうしたんだね!念を置したはずだ、
独の羽根布団、、あれだけ言ったのに」
「え、、届いていませんか?」
「君、!!!!」

2003年、恋済首相、ヨーロッパ外遊の際、
大使館員総出で高級羽根布団の荷造りをした。
閣僚、有力政治家への土産だった。
勿論、機密費を使った。
それが藤山大臣の親戚には届かなかった。
2種類の高級ワインと羽根布団、この時は贈り先が特に多かったので混乱した。
大使館員が大臣の親戚の住所を間違えた。
勤の話では、2、3日、機嫌が悪かったらしい。

ノンキャリアが出世するにはキャリアの後ろ盾が必要だった。
金をキャリアに提供できるノンキャリアほど出世できた。
武藤隆・前事務次官・斎川俊行・内閣官房参与、田中五郎・米大使、3人が工作してアフリカ、タンザニアの日本大使館移動の話を撤回させた。
任期4年のポストが6年になった。

偉くなりたかった、美世の医療費で金も必要だった。
この外務官僚主流派3人の庇護を得ようと手段を選ばなかった。
ゴルフに始まり、縁談、結婚、世話、マサコが斎川の子どもの子守りまでやった。
自分も麻痺していた、数千万の金を私用に使った。



男は松岡行俊の後を歩いた。
今日、午前中で、松岡行俊、関連の件はすべて終了すると告げられた。
公安調査局(外務省外局)と警視庁公安部は仲が悪い。
公安部員6人使ってまで外務省の人間を?、、、
やはり腑に落ちない。
誰だ?
警察庁警備局を動かした人物は、、?

松岡は、丸の内線、杉並区役所前の出入り口から地下鉄に入った。
男は携帯を取った。

今、入り口だ。
運転間隔は1分50秒、短い。
皆に再確認しろ。

松岡行俊は南阿佐ヶ谷駅、丸の内線地下一階のホームに着いた。

通勤客に混ざって、普通のOL姿の女性が4人とサラリーマン風の男がホームに立っていた。
松岡はホームの荻窪側で丸めた新聞の見出しを見ている。

5人はそれとなく周りを囲んだ。
少し、ホームから遠かった。
女性公安の一人が声を掛けた。
「勤秘書のことでお話をしたい方があちらにおられます」
「え、、、勤のこと」
男は微笑んで頭を下げた。

ホームの線路側に誘導した。

電車が入ってきた。
 
松岡の後ろの女は軽く押した。
同時に、横の女が松岡の鞄を奪った。

マサコは、行俊が出た後、バスで病院に向かった。

公安の2人は無人の家に入った。
松岡行俊の書斎をチェックした。
1時間後、2個の段ボール箱を抱えて表に出た。



地下鉄で4人の女性公安と別れた2人は、新たな指示を受けた。
「押収したパソコンからファイルが発見された。
病院の松岡勤を監視するように」

「任務続行ですか?」
「ファイルが入ってたそうだ」
「松岡がどこか別の場所に隠していると?
接触しろと言われそうですね」
「病院か、厄介だな」


もう1時じゃないか。
お袋は何やってんだ。
新聞買うだけなのに、、

2時過ぎ、先生が来た。

「勤さん、お父さん様が亡くなられました」
「、、、、、、、、、、」
「今朝、地下鉄で電車に轢かれたそうです」
「、、、、、、、、、う、、、、、」
「勤さん、大丈夫ですか?」
「、、、、、、、、お袋は、、」
「お父様の病院に、」



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2:再会



バンクーバー・ダウンタウン南東、
ビーチ通り4階建てマンション3階にあるロシュトーの部屋で再会した。
2年前ロシュトーが釈放された時、以来だ。

アランの両肩と上腕部の筋肉が,スーツから小踊りして出ていた。
ロシュトーは目、顔、腹、体中が運動不足だ。

殺し予告の手紙を見た。

「心当たりは?」
「昔の仲間かもな」
「公にはロシュトーはまだ務所の中だ。
情報が漏れない限りここの住所を探し出すのは難しい」
「名前の番号は?」
「仲間と区別するためにロシュトーが付けた」
「昔の仲間とケベック過激派に繋がりはあるのか?」
「同士だと思ったことはない。
向こうも同じだろう」
「どれが仲間でどれがケベックか分かる?」
「13から20は知らんな」
「ケベックか。仏がカナダ側に与えた情報だな。
他には?」
「1から12の名前の順序が、仏で弁護士と検察に見せられたのとは違う」
「よく覚えてるな」
「仲間を売ったんだ」
「じゃあ、この手紙の順序に記憶は?」
「オタワの大使館で尋問された時のA4の順だな。
口述筆記したのを見せられた」
「オタワ?」
「ああ」
「お前が言った名前を、尋問者が口述筆記した時の順序?」
「ああ」
「他には?」
「スペルの違うのがあるな。
2番はGalleではなくGale。
7はJohn、9はTomasだ」
「分らなくなってきたな。
仏で弁護士、検察に見せられたリストのスペルは?
正しかった?」
「俺が指摘したからな。
仏での尋問の時、間違っているのに気づいた」
「間違いを指摘したのは仏に送られてか?」
「ああ」
「なぜ、オタワの尋問の時、言わなかった?」
「そこまで見るか。
その気になるか?」
「お前、誰が出したか心当たりがあるんだろう?」
「、、、、」
「ロシュトー、お前、命を狙われてんだぞ」

アランが早口で言った
「尋問者の名は?」
「レジナルド・ダル(Reginald Dalle)だったか」

「アラン、その男を調べられるか」
「お安い御用だ」 

アランは居間の隅のロシュトーのパソコンをしばらく見ていた。
公衆電話が無難だと思ったのか部屋から足早に出ていった。

アランの情報源は、トロント・マフィア・ボス、カルロス・リオンだった。
トロントの孤児院で、8歳年上のカルロスはアランを弟のように可愛がった。 


バンクーバーの建設現場で働いていた。
偶然、信号待ちで止まったリムジンから自分の名前が飛んできた。
「おい、黙って後ろに乗れ!」
黒くシールされた後部座席の窓ガラスが下がった。
男に見覚えがなかったので仕事を続けた。
男がリムジンから降りてきた。
「世話が焼けるな。
アラン!俺だ。
カルロスだ!
最後に会ったのはお前が7、8歳だったか。
覚えてないか!」
「、、、、、カルロス兄さん!」
「もう何年だ、、10年ぐらいになるか。
3、4年前だったか、そろそろ出る頃だと会いに行ったんだぞ。
ラムが死んでから行方知れずだと聞かされた」 

その夜、カルロスの部屋で食事をしながら、
ラムのこと、孤児院を脱走してから7年余りの孤独な生活を話した。
カルロスはトロント・マフィアのいい顔になっていた。
「まともな仕事じゃないが俺の仕事を手伝わんか」
「ラムのために何かしたい。
ビルマのカレンに行こうと決めた」

その後、アランはカルロスの再三の忠告を無視して、
カレン独立資金を得るためヘロインの運び屋を始めた。
カルロスが、パスポート、卸し先など最大限、危険を回避する措置を講じてくれた。


「銃もボディガードも必要ないって言ったらしいな」
「手紙はジョークだ。
耕三、アランのいうボディガードが誰だか聞いたか?」
「いや」
「マフィアだぞ」
「マフィアに護衛されるのは嫌か」
「とにかくジョークだ。
護衛は必要ない」
「お前、殺されるのを待っているのか?」
「馬鹿な。
俺は自首までして10年も務所に入ってたんだ。
自由になるためにな」
「釈放後、子どもに会ったのか?」
「、、、子ども?、、、いや」

オタワで出頭した時、ロシュトーには5歳になる女の子がいた。
彼の妻は、パリ工科大学院で素粒子の研究をしていたロシュトーが、
AD、革命細胞のメンバーだったとは逮捕時まで知らなかった。
面会に来ることもなく、署名が必要な離婚同意書だけを送ってきた。
釈放後、ロシュトーは彼らの居場所を探さなかった。

「友人、知人、多くの人を売った。
償わんことには前に進めん。
しかし、どう償っていいのか分からん。
司法取り引きすべきではなかった。
潔く30年の刑に服すべきだった」
「30年だったのか?」
「銀行強盗。
NATO(北大西洋条約機構)施設、
軍事関連企業の建物の爆破。
巻き添えで不具の体になった人が数人いると聞いた。
殺しだけはやらなかった、いや、間接的にやってたな。
そのうえ、仲間、親しい人、世話になった人を売った。
タイであんたたちに会って出直そうと決心した。
その後だ!
保身のために売ったのは。
後悔なんて昔はしなかったのにな。
耕三、正直に答えてくれ。
自分だけのために生きてきた俺を許せるか」
「家族、知人が犠牲になっていたら許せないな」
「こんな俺をガードしてなんになる」
「殺されるのを待っているのか?
償おうという気があるなら生き続けろ。
何ができるか探し出せよ」
 

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下:3キャラメル 拳銃 このエントリをはてなブックマークに登録

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3:拳銃



「面白いことが分かった。
レジナルドは、1ヶ月前、43歳でカナダ大使に任命されたばかりだ。
カナダ・オタワ仏大使館在職中、
極左組織AD元メンバー、ジャン・メルク・トトの逮捕に多大な貢献。
その功績により外務省エリートコースを歩む。
一男一女の子どもがいるが妻とは離婚。
ワシントンDC、ニューヨーク、ローマ、前赴任地のブラジルに男の恋人が存在」
「ロシュトー、この男はどんな奴か憶えてるか?」
「大使館で一週間そこらしか接触しなかったのでな。
俺のためによくやってくれたと記憶してる」
「お前、何か隠してないか?」
「司法取り引き、カナダ移住を持ちかけられた。
仏に護送された後はすべて彼の予測どおりにことが運んだ。
たいした奴だと感心した覚えがあるな」
「司法取り引きはこいつの案か!」 
「ケベック過激派の件は知らんが、他はな」
「耕三、黒幕がこいつなら辻褄が合うよ!
ケベックの件はレジナルドがカナダ政府に貸しを作ったんだ。
大使に任命されたのもカナダ側の意向が働いた可能性も否定できない。
昔の組織かケベック過激派にロシュトー暗殺を依頼をした」
「なぜ依頼した?
むしろ、レジナルドが一人で暗殺を仕組んだ、どうだ?
そもそもこいつの案だ、それを知ったらレジナルトを生かしておくか、特にケベック過激派は許さないだろう。
ロシュトーさえいなくなれば安全だ」
「確かにな。
でも、なぜ警告してきたんだろう。
殺すには警告なしのほうが簡単だろう」
「ロシュートの性格を見抜いているんだ。
警告されてドタバタ逃げるような人間じゃないってな。
殺されるのを待っているんじゃないかともな」

ロシュトーが俺の顔を見て、くっくっ、と笑った。
笑ったのを見たことがなかったので俺たちは目を丸くした。

「耕三、いい線行ってるが殺し屋は相当の腕利きだと思う。
警告は関係ないぐらいのな」
「アラン、情報屋はマフィアか」
「ロシュトーに聞いたか。
トロントに知り合いのマフィアボスがいる。
昔同じ孤児院にいた。
ロシュトーは馬鹿にしているけど、裏の情報量は警察以上だ。
それはいいとして、耕三、拳銃を使えるか?」
「いや」 

アランは隣の部屋から重そうなバッグとチョッキを持ってきて床の上に置いた。
中には、大小様々な拳銃、自動小銃が入っていた。

「耕三は軽いグロック17がいいだろう。
これは引き金を絞らない限り安全装置が解除されない」
「待て。
難しいことを言うな。
銃が必要なのか?」
「俺と交互でロシュトーをガードするんだ。
殺し屋がこの部屋に押し入って来たらどうする?
丸腰じゃ来ないだろうからな」 

銃を受け取った。
思っていたほど重くない。

「重さ、約六〇〇gちょっと。
部品にプラスチックが多く使われているから軽い。
昔は、空港のX線探知機も感知できなかった。
引き金を絞らなけれ、、」
「ちょっと待った。
もう少し分かりやすく言ってくれ」
「この引き金に指を添えない限り暴発の心配はない、
ってことだが、
なぜか暴発事故は起きてる。
なぜだか分かる?」
「アラン先生、分らないよ」 
「耕三君、いい。
ホルスターから引き出す時に反射的に触って暴発するんだ。
人為的なミスなんだ」

ロシュトーが俺たちのやりとりに一瞬、にたっ、と笑った。
先程の笑いといい、今まで、心底から笑ったことがあるのだろうか。

「耕三のは引き金の重力を少し重くしてるからその点は心配いらない。
その重さに慣れてくれ」
「ロシュトーは?」
 
アランは目と眉毛の間隔を広げ、両手の平を上に心持ち挙げた。

「必要ないらしい」
「経験から言わしてもらえば、
狙われていたら逃れるのは無理だ。
自信があるから警告してきた。
それなりの人間を送り込んだってことだ」
「ここに踏み込まれたらどうする。
丸腰じゃあ俺たちにも危険が及ぶってことだ」
「巻き添えか、、、?
ああ、そこまでは考えてなかったな、、、、。
アラン、ベレッタはあるか」
「イタリア製じゃないけど、ベレッタUSA・M21Aがある」
「それでいい」
「よし、じゃあ耕三は銃の練習が必要だな。
明日やろう。
手配しとく。
それからこの部屋に8か所、スミス&ウェスタンM36・チーフスペシャルを隠してある。
確実に作動するという点でリボルバーにした。
安全装置はかかってない。
気をつけてくれ。
引き金を引けば弾が出る。
キッチンに2か所、あそこのキャビネット横とシンクの下。
居間のテレビ横のプラントの後。
ステレオ・スピーカー横。
トイレ便器の裏。
それに自分たちの部屋ドア脇の額縁の裏に一丁ずつ。
場所を覚えて後で確認しといてくれよ。
部屋は、ロシュトーの部屋と居間を挟んで、
耕三は右、俺は左を使う。
もう一つ、防弾チョッキがある。
鋼鉄の10倍近い強度があるスペクトラ繊維というのでできてる。
ライフル、マグナムなどは無理だが中枢器官を通常の弾薬からは守ってくれる。
耕三はなるべく着用するようにしてくれ。
ロシュトーにはこれより優れたチョッキを着てもらいたいんだが嫌なんだよね」
「、、、」
「分った、以上」
「それにしてもいい眺めだな。
正面は公園か?」

アランが席を立って前方を指差した。

「バニアパークって名だ。
左の建物がバンクーバ博物館、右が海洋博物館だ」

ロシュトーの部屋は、居間を含め四部屋ともイングリッシュ湾に面していた。
約400m先にバニアパークが見えた。
イングリッシュ湾の南岸はキッラノとも呼ばれヤッピーが多く住んでいた。
特にW4丁沿いには、エスニックレストランや流行に敏感な店が並んでいた。

翌早朝、俺はアランの知人の指導で銃の練習に行った。

ハラード橋たもとのアクアティクセンター脇で高速ボートに乗り、
バンクーバ・アイランドとの中間地点の洋上で、
グロック17とスミス&ウェスタンM36チーフスペシャル、2丁の拳銃を練習した。
自然体で構える、
実戦では照準サイトを使わず標的をエリアで捕捉する、
と教わった。

それから二日が無事過ぎた。
その夜、出前のピザを食べた後、アランが嬉しそうに言った。
「明日、娘のモモの誕生日なんで午後ウィスラーに一旦戻るよ。
明け方早く戻ってくる。
帰りにしこたま食料品を買ってくる」
「日本から何か買ってくるんだったな。
何歳になった」
「3歳だ。
3人で行けたらマコトも喜ぶんだが」

ロシュトーが紙包みを持ってき珍しく神妙な顔付きで言った。
「モモにあげてくれ。
マコトには今回のことを言わないでくれ」

アランは5年前、日本人の留学生、坂本マコトと結婚した。
ガスタウンで3人のチンピラに絡まれている彼女を救ったのが出会いだった。
意志の強い、聡明な女性で、3歳になる一人娘、モモがいて暖かな家庭を作っていた。
彼らの住居はウィスラーにあったが、
ガスタウン(バンクーバー)に探偵事務所を持っていた。
裏組織に知人が多かったので仕事は繁盛していた。
今でもカレン族に全収入の数%を送金していた。

「耕三、明日は頼む。
一歩も外に出ないようにな。
一応、このビル前に一人、張り付けとくよ。
この紙にそいつの携帯を書いておくから何かあったら呼んでくれ。
名前はぺぺ。
マフィアじゃない。
元警官で頼りになる男だ。
それから出前はこのリストの中から選んでくれ。
同じ人間が運んでくるように言ってな」
「誕生プレゼント、モモに何か買っといてくれよ」
「マコトが変に勘繰るから、耕三が来てることまだ言ってないんだよ」
「頼むよ。
俺の名はいいからお前からということで」 




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15:The end of a明日 桜散るこのエントリをはてなブックマークに登録

15:桜散る



親父が自殺、、
あのカードは、、、

携帯を取った。
薫に掛けていた。
シュシが出た。

「薫」
「誰?薫いないよ。
又、携帯忘れて学校行ったのよ」
「シュシ」
「勤?
珍しい。
薫に何の用?
ああ、、はあ、人目惚れしたな。
薫、優しいもんね。
勤ちゃん!
分るよ」
「シュシ、、」
「どうしたの?」
「頼みがある?」
「どうしたのさ!そんな声で!」
「たの〜みが〜」
「勤!
どうした!
泣いてるの!」
「、、、、、、」
「勤!どうしたのさ,言ってみな」
「、、シュシ、、頼みがあるんだ」
「ああ、何でも言って!」
「俺の部屋行って、パソコンに“桜散る”ってファイルがある。
DVDにコピーして預かっててくれ」
「“桜散る”のファイルね」
「部屋の鍵は、一階駐車場、番号502のとこにある。
壁側の花壇にレンガが五つある。
右から2番目の裏の窪みの中だ」
「502のレンガ五つ、その右から2番目の窪みの中?」
「住所は、、」
「パンクするつもりだったから知ってる。
カサ・デ・ソルの何階よ!
、、5階の、、2号室でいいの!」
「502、そうだ」
「勤、泣くなよ。
後で行くから」
「シュシ、今日は来ないでくれ」
「何だ!
どうしたのよ!」
「明日にしてくれ」
「ああ、、分ったよ」


なぜ自殺を、、
お袋は何やってる、
電話ぐらいよこせ、
どこの病院だ、

携帯が鳴った。
「勤、お父さんが、、、、」
「聞いたよ〜お母さん、大丈夫?」
「、、ええ、、」
「そっちに行く、どこ〜病院?」
「勤〜〜〜お父さん見ても分らないよ〜〜。
それでも〜〜?来る〜」
「そんな〜」
「修復してくださる〜」
「お母さん!
お母さん、、、、、!」
「ああ、、ごめんなさいね。
お化粧して下さるそうよ。
終わり次第〜家の方に〜運んで〜」
「お母さん!
お母さん!」
「ごめんなさい、勤、お家でお父さんの帰りを待たない。
もう少しいて、お母さんは家に帰るから〜〜」
「じゃあ、行くよ、、それまで大丈夫だね?」
「え、、、」


「勤、“桜散る”のファイル何も入ってないよ」
「何も!
そんなはずは!」
他にファイルは?」
「えーと、猫のJACKと、、ああ、これも何も入ってない。
ああ、、あと3つも、、何もない。
名前だけ」

親父は殺された?

「シュシ、早くそこを出ろ!
早く!」
「どうしたんだよ」
「シュシ、もういいから早くそこを出ろ!」
「何だよ、泣いたと思ったら、今度は命令かよ」
「出るんだ!
シュシ、早く!」
「分ったよ」
「出たらすぐ電話くれ」
「分ったよ」
「早く!シュシ」
「分ったって!」

親父は殺されたんだ。


「勤、どうしたんだよ?」
「出たんだな?」
「ああ!」
「シュシ、頼みがある。
聞いてくれるか?」
「いいよ、何?」
「親父が今朝亡くなった。
お袋が心配なんだ」
「え!で、言って、どうしたらいい?」
「俺もこれから行く。
後で薫を連れて家に来てくれないか。
お袋の親戚は誰もいない」
「ああ、分ったよ」
「薫は5年前に亡くなった妹、美世に似ている。
お袋もそう感じたはずだ。
頼むよ!」
「OK、、分ったよ」

ファイルはあるはずだ。
無くなるはずは、、
何かの間違いだ

何だ、立ち上がることさえ出来ない。
どうした、勤、どうした。
何やってるんだ。
そら、歯を食いしばれ。
立ち上がるんだ。
さあ、
行くんだ、さあ、、。

車にたどり着いた。
スポンジの上を歩いていた。
床が、コンクリが、地面が、やわらかい。
どうしてもめり込んでしまう。
足が上がらない。
もう感覚さえ、、狂ったのか?


公安二人が乗った車は、勤のシボレーの真後ろに駐車していた。
夢遊病者のような足取りで男が歩いて来た。
目を疑った。
松岡勤だ。
シボレーに乗り込んだ。

指示を仰いだ
5分後、折り返し電話が来た。
「拉致して川口ジャンクションで降りて東北自動車道、
石神の高速道路陸橋の上から落とせ。
自殺者が多い。
カモフラージュできる。
昨夜の情報では、松岡はそんな長くは生きれないそうだ。
それから、松岡の妻は先程、病院を出た」


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下 キャラメル超特急
Sweet Candy Express

4:狙撃 



9時半、男はバンクーバ博物館脇を通って、対岸、約422m先にある標的の部屋が見渡せる場所に着いた。
いつものようにマルセイユの代理人が、
地元マフィアの助手を用意していたので、
ここまで仕事はスムーズに運んでいた。

強化プラスチックケースからマクミラン社のM86SRを取り出した。
時間をかけて組み立てた。
命中精度を高めるため発射時のガス圧を100% 利用できるように加工した、7.62×51mmライフル弾を薬室に納めてチャンスを窺った。

マルセイユにいる代理人を通して今回の依頼がきた。
男は19のとき、平和ぼけした日本に嫌気が差し、外人部隊に入ろうと仏へ渡った。
現在、38歳、13年余りをアフリカで過ごした。
この仕事を始めてまだ5年にも満たなかったが、
既に殺し屋として世界で5指に入る腕前を持っていた。
特に狙撃手として外人部隊では伝説的な人物で、1500m先の標的を1インチの誤差で狙い撃ちすることができた。
男はその噂を嫌い、ある日、忽然とアフリカから姿を消した。

風は無風に近かったが、
対岸422m先の標的まで海上を飛行するので、秒速数mの北西の風を考慮した。
距離があったので的を数インチ外すだけで加工弾といえども即死は不可能だった。
依頼人は、標的の即死を第一条件に挙げていた。

ここまで二週間以上が経っていた。
最初の一週間は、数種類の狙撃銃の選択、
およびポイント修正に費やした。
気象条件が同じバンクーバ・アイランド・デュークポイントで試し撃ちをしていた。
試行錯誤の結果、狙撃スコープはレオポルド社のM3、
狙撃銃は500m先まで狙い撃ち可能なM86SRに落ち着いた。
この十日余りは気象条件との闘いだった。
デュークポイントで試射に成功した時と同じ、風、湿気、空気が絶対条件だった。
それらの感覚を、指、体に覚え込ませた。
雨、風がある日、以外、毎日ここに来ては腹這いの姿勢で狙撃チャンスを窺っていた。
ここまで運がなかった。
周囲の目があったのでなるべく早く片を付けたかったが、忍耐強くなじみの風を待つしかなかった。

日本レストランから助手がテイクアウトしてきた太巻き寿司と緑茶が入ったポットを紙バッグから取り出した。
長丁場になるとき、この二つは必需品だった。
アフリカでも緑茶は手に入ったが日本のものには到底、及ばなかった。
外人部隊を除隊して仏に戻った時、日本レストランで飲んだお茶の旨さに目覚めた。
それまで日本人だと自覚したことが無かったので、
改めて自分のアイデンティティを認識した。
以来、一日、20杯以上、月にして約800g以上のお茶を飲んでいた。
もうそれなしでは生きていけなかった。

しかし、今ポットの中にあるのはティーバッグのお茶だ。
不味さに放り投げた。
ここで手に入る最高級の緑茶を選べ、とあれだけ口酸っぱく言っておいたのに。
助手の不手際に腹が立った。

落ち着こうと太巻きに神経を集中して頬張った。
手に米粒が付いた。
紙バッグを空けた。
日本製の湿ったティシュが入っているとばかり思っていたのに、
手術用の手袋しかない。
非常時だ。
引き金にかかる指の感触を手袋では感じ取ることができない。
指示したとおりにやっていない助手にまた怒りが込み上げてきた。
太巻きまで不味くなってきたので辺りに放り投げた。
駄目だ。
こんな乱れた気持では遂行できない。

仰向けのまま夜空を見上げた。

30分後、海水で手を洗った後ポットの湯をかけた。
怒りは納まったが手の感触は戻ってこなかった。
水道の蛇口を求めて博物館に向かった。
手を水で洗えなかったら中止するつもりでいた。
トイレに蛇口があった。

時間を食ってしまった。
もう11時過ぎだ。
標的は毎夜1時頃まで居間で酒を飲むのが日課だった。
この2、3日、見知らぬ男が隣の部屋にいた。
もう一人の男が見えない。
幸い標的はいつものように窓脇ソファに座わっていたので、首から上を確認することができた。

後頭部、真ん中に照準を定めて約1時間近くが過ぎた。
標的の頭の揺れの間隔を計るのが習慣になっていた。
グラスにアルコールを注いでいるのだろう、頭が約20分おきに見え隠れした。
それから20秒ほど少し揺らいで止まった。
4、5五分後にまたかすかに揺れた。
その繰り返しだった。
グラスに注いでしばらくして頭の揺れが止まる60秒後から120秒の間に、
なじみの風が吹くことを祈って引き金に指をかけて待った。

その風はなかなか来なかった。

もう12時40分を過ぎていた。
今夜もチャンスは後一回あるかどうかだ。
ほどなく標的の頭の揺れが止まって1分半が過ぎた。
最後のチャンスだ。
諦めかけた時、一瞬なじみの風が引き金の指と左頬を舐めた。
男は無意識に引き金を絞っていた。 

標的が倒れたのを確認して銃をケースにしまった。
海洋博物館の浅瀬で係留している高速ボートに足早に向かった。

助手がボートを出して10分後、鳩尾に蹴りを4発入れた。
助手が泡を吹いている横で、ケースから狙撃銃を取り出して分解しながら海へ投げ入れた。


”ビシッ”という音が居間から聞こえてきた時、時差ボケでベッド上にいた。
ロシュトーは口を半開きにしてソファに頭をもたれて座っていた。
首の少し上の後頭部から血が溢れ瞬く間にソファを染めていった。
もう脈はなかった。

ペペを呼び出した。
「ロシュトーが狙撃された!
弾丸はバニアパークから飛んできたとしか考えられない!
すぐ行って不審者、車がないか調べてくれ。
ライフルを隠す何か持ってるはずだ!」
「分かった!」 

アランに電話をした。
既にスタンレーパークに達していた。 
10数分後、息を切らして部屋に入ってきた。
俺たちは顔を見合わせる以外何もできなかった。
アランが、ロシュトーの座っているソファから右70度の角度で壁にめりこんでいる無傷の弾丸を見つけた。
窓ガラスを貫通してロシュトーの後頭部を抜けたのだ。
「距離があって速度が落ちてたんで後頭部を貫通したのに無傷だ」

警察が来て一通りの調べをした後、司法解剖のためロシュトーの遺体を運んでいった。
彼らの態度には熱心さは見られなかった。

ペペが戻ってきた。
「駄目だった。
車、人、皆無だ。
わずかの差だったと思うが。
彼は?」
俺は首を振った
「博物館脇の対岸にこの部屋を見渡せる所があった。
狙った奴は腹這いになってたんだろう。
ライフルを支える脚の穴と草が倒れている箇所があった。
それからこれだ!」
ぺぺは、胸ポケットから煙草の空箱を取り出した。
中に奇妙なものがあった。
「紅茶の紙バッグ?
何だこの黒いのは?
ライスが付いてる。
海苔のようだ。
このにおいは緑茶だ。
この黒いのは海苔だ。
巻寿司か手巻きか?」
「くまなく辺りを調べたが発見できたのはこれぐらいだ。
パトカーのサイレンが聞こえてきたんでおさらばしたが、この他は何も出てこないと思うよ、日中でも。
紙バッグはまだ湿っぽいし、ライスもシーウィード(海苔)もまだ軟らかいから犯人が置いていったのは間違いないと思うけどね」
「寿司と緑茶。
嫌な組み合わせだな。
殺し屋は日本人っぽいな」
「アラン、この二つ持ってきてよかったかな?
警察に渡すべきだったか?」
「いや、渡しても何もできゃしないし、やらないさ。
ペペ、今夜はありがとう」

4、500m先にある標的を狙撃できる殺し屋は、この世界にどのくらいいるのだろう?

アランは殺し屋の情報を得ようとカルロスに頼んだ。
「狙撃した場所にグリーンティー(緑茶)の紙バッグとシーウィードの付いた寿司があったんだ。
その関連も調べてほしい」
「アラン、この手の殺し屋を突き止めるのは難しいぞ。
そのつもりでな」 


男は早朝5時過ぎシアトル港に着いた。
カフェテリアに入って公衆電話からある番号を押した。
「3時間前に終わった」

男の相手はマルセイユの代理人だった。
代理人は国際電話を掛けて留守電に「3時間前に終わった」と告げた。 

留守電話の主は、一月前に着任したばかりの駐カナダ仏大使、レジナルド・ダリだった。

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16:The end of a明日 マサコと恵美このエントリをはてなブックマークに登録

16:マサコと恵美



「余命がない人間を殺すのですか?」
「公安に入って何年だ?」
「2年弱です」
「まだ読めないか。
昨夜からの急な作戦がそれだ」
「松岡勤の病気ですか?」
「死を宣告されたんだ。
何やるか分らん。
父親も息子の病気で何か変化があったのかな」

シボレーはマンションに向かっていた。
「予想外の行動だな。
父親の死に疑問を感じたか?」
「あのファイルですか?」
「そうだな」
「どのように?」
「マンションの後、母親の待つ家に行くはずだ。
車に乗り込む時にしよう」

携帯が鳴った。

「時間はあるか」
「はい、」
「指示が一部変った」
「はい」
「シボレーはマンションに駐車しておけ。
拉致した後、北尾は松岡になりすまして新宿駅までタクシーに乗れ。
松岡の部屋で適当な服を選んで着替えろ。
新宿駅で北尾をピックアップして川口へ行け。
川口ジャンクションは使用するな。
首都高、王子北で降りて下を行け。
北尾は川口駅前から石神までタクシーに乗れ」


「そこまで偽装を?」
「事実を残す。
使えなくてもな。
今回も、他殺の線が出てきたら、公安部員が警察に通報するようになっているはずだ。
新宿で見た、別のが京浜東北線に乗っているのを見た、とな。
タクシーの運転手の大まかな証言が加わればうやむやで終わる」
「通報だけで信用を?」
「尋ねられたら身元も明かすはずだ」
「公安と分るのでは?」
「そこまでは分らんし、調べんよ」
「ビルと高速、どう違うのですか?」
「今、世論の批判に外務省が神経を尖らせている。
父親と同じ日に息子が自殺だ。
とにかく、間に時間を置きたいだろう。
上手く行けば、身元が割れるのに1、2週間はかかる。
相手は車だからな。
服はなるべく黒い色を選べ、下着も。
上手い具合に今夜は雨になりそうだ」


パソコンの前に座った。
違った、変っている。
東芝だ。
“桜散る”があった。
入ってるはずがない、真っ白だ。
もう駄目だ。
親父はメモリーカードを処分した。
何も残ってないんだ。
このまま終わりなんだ。

部屋を出た。
車に乗ろうとした。
羽交い絞めにあった。
何か匂ってきた。


勤の帰りを待つ間、シュシと薫は、マサコを手助けした。
訃報を聞いて駆けつけた知人、近所の人々、電話の対応に追われた。
マサコには体力も気力も残っていなかった。

5時過ぎになっても勤は帰ってこなかった。
「シュシちゃん、薫ちゃん、今日は御免なさいね。
もう勤が来るとは思うけど、それまで対応お願いできるかしら」
「ええ、勿論です。
お母様、横になりませんか?
ここはシュシと二人で出来ますから」
「ありがとう。
じゃあ、、お願いするわ」
「お腹は空いてませんか?
シュシ、ビーフン作るの美味いのですよ」
「そうよ、マサコちゃん、私、銀座にお店出せるぐらいの腕よ」
「ありがとう」
「じゃあ、シュシ、お母様、寝かせてくる。
さあ、お母様、」
「はい、ありがとう」

薫はマサコの肩を抱いて寝室に向かった。
マサコは泣き出した。
涙が止まらなかった。
「ああ、薫ちゃん、、ごめんなさいね、、」
「お母様、さあ、入って、布団の中に」

7時を過ぎた。
テレビのニュースで松岡行俊の事件を報道した。
「薫!
お父様だよ、自殺だったんだよ!」
「ええ、、!」
「恵美ちゃんに電話する。
私たちじゃあどうしたらいいか分らないもん」
「そうね」

「お母さん、松岡行俊という外務省の役人が自殺したニュース見た?」
「今、やってたわね」
「今、その松岡行俊さんのお家にいるのよ」
「そのお家に?」
「体の弱いお母さんが一人なの。
勤を待ってるのに帰ってこないのよ」
「勤さんって?
この前、薫と病院に見舞った、、息子さんだったの?」
「うん、帰ってこないのよ。
看護婦さん、3時頃、病室に居なかったって。
あたしが話したのが2時半過ぎよ。
マサコさんは3時前に話したって。
家に来るって、言ったのよ」
「4時間も経っているの?
おかしいわね」
「お母さん、マサコさん、体調が心配で。
人は来るし、電話は鳴るしで薫と二人じゃあどうしたらいいか。
助けてよ?」
「すぐ行く」
「お母さん、警察に事故の問い合わせてして。
名前は松岡勤、車はGMのシボレーよ。
それから勤のマンション、カサ・デソル、502号室と駐車場にシボレーがあるか確かめるように言って。
もし無かったら病院の駐車場をチェックするように」
「分ったわ、車種はシボレーね。
マンションの名前はカサ・デ・ソル?」
「そう。502号室よ」
「シュシ、マンションの住所と車のナンバー、、それに病院の名前教えて頂戴。それと、、そこの住所!」



恵美は、寿司弁当を買ってきた。
警察に松岡勤の情報はなかった。
マンションと病院の駐車場は、後で連絡する、とのことだった。

薫とマサコの寝室に向かった。
ドアの音に反応しなかった。
天井を見ていた。

「大丈夫ですか?」
「あ、はい、、」
「お母さんの恵美ちゃんです。
来てくれました」
「どうも申し訳ございません。
こんな時に、、、勤は、、まだ、」
「ええ、、」
「そうですか?
どうしたのでしよう?
、、もしかして、、、」
「もう帰ってくるでしょう。
お腹空いているでしょう?
寿司を買ってきました。
どうぞ。
薫、お茶を持って来て」
「はい」
「御免なさいね、ご迷惑をお掛けして」
「何を言うのですか?
気になさらないで。
まず、お腹を一杯にして元気になりましょう。
その内、勤さんも帰って来るでしょう」

「薫、マサコさんの食事手伝ってあげてね」
「はい」
「後のことは大丈夫ですからね。
安心してお休みくださいね」

食べやすいように、寿司を半分に切って口まで運んであげた。
マサコの口から何度か落ちた。
その度に自分の口に含んだ。
それを見てマサコは少し元気になった。
お茶碗のお湯を、ふーふーして、温度を下げた。
濡れたタオルで手を拭いてあげた。
寝癖の付いた髪を直した。
マサコはその間、ずっと、泣いていた。

自分がやっていたように看病されるなんて、、


恵美は手際よく慰問客を捌いた。
10時を過ぎた頃、やっと落ち着いた
車は勤のマンション駐車場にあったが部屋には居なかった、と通知があった。
マサコに尋ねられたので伝えた。

どこに行ったの、あなたは、?

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完..17:The end of a明日 桜三分咲きこのエントリをはてなブックマークに登録

17:桜三分咲き



「親子が同じ日に自殺ですか?」
「父親の自殺に落胆して、余命のない息子が自殺する。
おかしいか?」
「、、、、、、、、」
「どうだ、体の隅々までチェックしたか?」
「はい、何も持っていません」
「黒のt-シャツとパンツだけでいい」
「え?」
「雨も味方してくれる。
よし、じゃあ、落とすぞ。
そっち持て」



恵美は一人、居間に居た。
シュシも薫もソファで横になっていた。
マサコが気になって見に行った。

「起きていらっしゃたのですか?」
「あ、恵美さん?
、、ありがとうございます。
今日は本当に助かりました」
「どうですお体は?
何か欲しいものはありませんか?」
「、、大丈夫です。
ありがとうございます、、、勤は、、」
「まだ、、」
「そうですか?、、、、」
マサコは涙をぬぐった。
「勤はもう帰ってこないもしれません」
「そんなこと、、待ちましょう?気長に」
「あの子は病気で、もう長くはないと、、」
「、、そうなの?
そんなに重い病気だったのですか?」
「後1年と、、」
「そう、、待ちましょう、マサコさん。
きっと帰ってくるわ」
「こうなったのも、私が娘を、、、、罰が当たったのね、、」
「何を言ってるの、マサコさん。
さあ、寝ましょう?ね、」
「5年前、娘が溺れているのに何も、、、、、」
「さあ、、マサコさん!
寝ましょう」

恵美はマサコを横にした。
自分のバッグからアスピリンを取ってきてマサコに与えた。

2時を過ぎていた。
シュシ、薫はよく寝ていた。
マサコが心配だったので添い寝した。

マサコの声がした。
「恵美さん、私、5年前に娘、美世を助けようとしなかった。
美世は体が骨のようになる難病でした。
毎年、毎年、動けなくなっていった。
5歳からずっと、、、思春期も、、
家に閉じこもっていた。
美世に、、
もう、、
何も、、なかった。
何も、。
、、体も、、
どこも危なかった。
気をつけていないと、、。
いつも一緒にお風呂に入っていた。
、、、、どうしても一人で入りたいと、、
どうしても、、。
溺れていた、。
何もしなかった。
、、ただ見ていたのよ、、。
水の中に顔を入れてた、、。
出して、、、
また、、。
見ていた、、、。
私、それを見ていたの。
、水の、、音が、、
しなくなって、、。
それでも、、、
何も、、、、」
「さあ、マサコさん、休みましょう?
少しでも睡眠を取りましょう」


昨夜未明、埼玉県川口市内の東北自動車道下り線で、8人のドライバーから
「人か動物か分らないが、何かを轢いた様だ」
との通報を受けて埼玉県警、高速隊が本線、川口市石神付近の下り線を調べたところ、石神付近に3、400mにわたって肉片が散乱していた。
当初、動物の死骸だと見られていたが、道路の洗浄中、服の破片が見つかり、現場検証の結果、人間が轢かれたものと判明した。
昨夜は雨で、本線上は視界が悪く、人が目撃された情報も寄せられておらず、本線500m上、川口ジャンクション側高速道路陸橋から飛び降り自殺したとみて調べている。
その為、昨夜、3時から6時間にわたって本線の川口ジャンクション〜浦和料金所間が閉鎖された。
県警は、通報した車以外に、数十台の車に轢かれていたため遺体の損傷は激しく、性別、年齢、身元の確認は困難だ、との談話を発表した。
なお、高速道路上で車から遺棄された可能性も考慮している模様。



2日後、松岡行俊のご親戚を見送った後、恵美とマサコは、
身元不明遺体のDNAと照合するため警察署に向かった。
幸い、恵美の機転で松岡行俊のDNAも提出することが出来た。

この1週間、恵美、シュシと薫はマサコの家で寝泊りしていた。
マサコの体調は幾分、良くなっていた。

「狂人、軽に変えたの?」
「環境にうるさいのが居るからな、
少し目覚めたのよ」
「狂人、あんた、偉いよ。
素直に聞いてくれるんだから」
「餓鬼に言われたくねえ言葉だな」
「これだよ。
勤のアンプ、FENDER・ツインリバーブよ」
「シュシ、バッチリだな。
これでお前の音がますますヘビーになりそうだな。
これ、勤が一番、気に入ってた奴だ。
親父さんのプレゼントだった」
「え、、そうなの?
もらっていいのかな?
ちょっと待って、マサコちゃんに聞いてくる」

「シュシ、いいわよ。
勤もお父さんも喜ぶは〜〜〜」
マサコは嗚咽した。
シュシはマサコを強く抱きしめた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「う、、うん。
こっちこそ、、ごめんなさいね、シュシ。
、、、、、、狂人が運んでくれるのね」

「よし、じゃあ、やるぞ」
「ええ、」
「狂人、持ち上げてよ」
「おっしゃ!あれ、シュシ、何かあるぞ。
あ、メモリーカードだ、、、」
「、、これ、もしかして。
私のよ!勤が言ってたから、、、、」
「そうか、ほれ、」

電話が鳴った。

マサコが泣き崩れた。





「薫、どうする。
すごいこと書いてあるよ。
機密費のことだよ。
勤のお父様の」
「勤は殺されたのね、お父様も」
「あの時、これをコピーしてくれと言ったのよ?
これが”桜散る“よ!
殺した奴が奪ったのよ!
勤、これを公表したかったのよ!
薫、やろうよ。
勤とお父さんの仇を取ろう」
「ええ!、、方法は?」
「100枚でも1000枚でもコピーしてマスコミに送ろうよ。
身元分らないように」
「恵美ちゃん、マサコちゃんにも内緒よ!
私とシュシだけ」
「住所も文章も書かせてほしい。
薫、お願い。
私、書きたいの。
書かせて!
ね、!」


“松岡行俊、勤、親子は殺害されました。
この中に証拠が入っています。
どうか悪い人たちを捕まえてください”
         
    桜三分咲き




:なお、シュシのタイヤパンクは続いているようです。
5000cc以上の車に限定したようですが:

   
完   おさむ



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