続下はわいーい20: 光 このエントリをはてなブックマークに登録

続下はわいーい

続下20:光
  21:命拾い
  22:蟹男
  23:モモ
  24:CIA
  25:これで終わり?
  26:万事休す
  27:ハワイアン
  28:強姦魔 米国
  29:Tommy or お富さん
  30:もしかして、モモは、
  31:免税店・健さん
  32:戸昼
  33:モモ
  34:衝突
  35:ハリケーン
  36:病院
  37:別れ
  38:失踪
  39:モモ
 40:モモとモモ
  41:モモの体温
  42:生き続ける


登場人物

高井ホタル:ミュージシャン
高井モモ:元不良。ミュージシャン
高井千恵子:ホタル、モモの母親
高井直人:ホタル、モモの父親。日系3世
橋本純一:東都ツアーデスク勤務 
橋本明:純一の父親
荒井邦男:暴力団,宮沢組幹部,上村通商専務
上村正一:宮沢組幹部,上村通商社長
荒井君夫:上村通商部長
宮沢寅吉:広域暴力団、宮沢組会長
沢村拓司:ボディガード
マイケル・タケ:舎弟
上山義勝:ダイヤモンドヘッド・エンタプライズ社長
細川肇:上村通商ツアー添乗員
倉田寿子:留学生
結城真理:修道女
戸昼アキラ:グアテマラ・マヤ、キチェ族
ラルフ・ヨハンソン:戸昼の仲間、ココナツ運送勤務
ルイス・エンリケ:ハワイの実力者、武器商人
ダニー・レイボーン:ホノルルアドバタイザ紙、記者

はわいーい20:光


「戸昼、奴ら何もしなかったが300ないぞ」
「明日の会合を優先したんだ、成功だ。
全部が1ドル札でも、2、3万あるだろう」
「馬鹿言え、要求したのは300万$だぞ」
ラルフはバッグを開けようとした。
「サンディビーチまで待て、濡れるぞ」
ラルフが4,5束掴んだ、100$紙幣だった。
「戸昼、100$紙幣だ!」
一時間前まで殺すつもりでいた男の嬉しそうな顔を見た。


1982年、4月3日、政府軍に親父、お袋、お婆ちゃん、親族、皆撲殺された、5歳だった。
日本の旅人、橋本明が命をかけてフロリダ、パームビーチのインディアンタウンに住む親父の友達、マリアノ・イザベルの元に連れてきてくれた。
彼は既にこの世にいなかった。
1980年になってグアテマラから逃げてくるマヤの人達が急増した。
彼らの受け入れ先となっていた友達をグアテマラ軍事政権は快く思っていなかった。
CIAが暗殺に手を貸した、と8歳の頃,聞いた。

1978年からイスラエル・米が支援する軍事政権と左翼ゲリラの戦いが始まった。
マヤの人々は、左翼ゲリラには食料品を奪われ、政府軍にはゲリラを支援していると疑われた。
1978年から1985年まで、7年間で400以上のマヤの村が破壊され、百万人もの人達がキブツ化(注)で、立ち退きを強制された。
1996年までに約20万人が虐殺され、今でも3万5千〜4万人が行方不明だ。
政府軍、ゲリラ、陰で政府軍を支援した米は勿論憎かった。
それ以上にナチスに民族浄化を受けた国、イスラエルが憎かった。
ナチスのようなことを中米でやった。
軍事政権を武器、コンピュータ網の構築で支え、マヤ村を破壊し、マヤ文化の民族浄化を指導した。

広場で明とベンチに座っていた。
明は途方にくれていた。
其の時、修道女が一旦、通り過ぎて戻ってきた。
結城真理、長崎から来ている修道女だった。
13でハワイに行かされるまでの8年間、真理と過ごした。

優しい女(ひと)だった。
修道女なのにマヤという文化を尊重してくれて、宗教を一切、無理強いしなかった。

マヤ独自の文化、伝統、言葉、因習を忘れないようにと地元のコミュニティが運営するマヤ学校に自分を通学させた。

虐殺を逃れてきたマヤの人々は貧しかった。
800万のマヤ人口を持つグアテマラには、言語が22種類もあり、村、部落がそれぞれ固有の文化を持っていた。
フロリダのスペイン、ラテン共同体の人達は同族と見なし、マヤ文化を理解、尊重しようとしなかった。
マヤの人々は貧しく、背が低かったので彼らに差別された。
名前をスペイン語読みに変え、マヤを否定する人が多くいた。
そういう人達に真理は熱心に説いた、自分達がマヤだというアイデンテティを捨ててはいけないと。
彼女の活動に反感を持つグループがいた。
グアテマラ、メキシコの貧しいマヤ村から、15にも満たない少女を連れてきて、強姦したあげく売買していたグループだ。
真理はそのアジトまで行って説教した。
勇気と彼等を更正させなければと、一途さがあった。
彼女の思いは通じなかった。
脅迫状、車の傷、パンク、窓ガラス割りが暴力にエスカレートしていった。

1990年、3月ハワイに来た。
真理は自分を強引にハワイへ追いやった。

あなたは日本語が話せる。
ハワイだと仕事も容易に見つかるはずよ。

二ヵ月後、5月15日に真理が消えた、以来、行方不明だ。
前日の電話が最後になった。
誰が黒幕か分かっていた。
戸昼はマヤでありながらスペイン人になり下がった人身売買グループボスをいつか殺すつもりでいた。


「戸昼、波が高い!
サンディビーチまで行けるか?」
ハリケーンの影響で波が高くなっていた。
3m近くに達していた。
「もう少し沿岸を行こう。
ラルフ、岩が多いぞ、気をつけろよ」
思ってもいない言葉が出た。

カヤックが高波に襲われた。
水中に投げ出された。
最悪だ、カヤックとズボンのベルトを結んでいたロープが両足に絡まった。
どうあがいても自由が利かない。
水中に引き込まれた。
ラルフが背後から現れた。
首を絞める気だ、、
筋書き通りだ、俺が銃で始末するはずだったのに、
負けだ、、諦めた。
Tシャツの襟を掴んで引き上げようとした、、
助ける気か、、、
こいつに助けられようとしている。
金の入ったバッグは多分、流されたはずだ。
ラルフが金を差しおいて俺を助けようとしている、、

「戸昼、カヤックの縁にしがみついてろ!
バッグ探してくる!
サーフボードのロープに結び付けてた。
切れてなきゃ見つかる。
待ってろ!」

午前、二時半、サンディビーチにかろうじて辿り着いた。
波の高さは4mを越え、海は怖いぐらに荒れていた。
何度も流され、溺れかけた、その度にラルフが助けてくれた。
一人では無理だった。

寿子は戸昼とラルフをビーチから見ていた。
お互い、疲れきった体を労りあうようにカヤック、サーフボード、それにバッグをひきずっている。
こんなに親密な二人を見たことがなかった。

「遅いじゃんよ!
2時間もオーバーよ」
「ラルフの親父が水泳のオリンピック選手でよかった!
助けられた!」

二度と親父のオリンピックのことは言うな、とひどく怒っていたラルフが笑っている。
今まで味わったことのない心地よいへこみ具合だった。


キブツ:イスラエル式農業共同体

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

続下はわいーい21: 命拾い このエントリをはてなブックマークに登録

21:命拾い


カヤックの後を追うようにサーフボードが暗闇に消えた。
あの二人は仲間だ。

上山と沢村がスーツケースを開けてチェックしている。
ブリーフケースを取り出して開けた。

これからどうなるんだろう?
殺される?そんなこと、、
七人いる、逃げるのは難しい。

桟橋を俺達の方に歩いてくる人がいた。
モモだ!
何やってるんだ、こんなとこで、
やばい、スーツじゃない、いつもの宇宙人のTシャツに戻っている。
これを着るとモモは無鉄砲になる、
案の定、目が光っていた。
モモが暗殺者に見えた、いや、特攻隊だ、、
死を怖がっていない、なぜだ?
上山と沢村は、書類を確認したのかブリーフケースとスーツケースを素早く閉めた。

「あら、純!
何やっているのよこんなとこで!」

馬鹿、話しかけるなよ、
何考えてんだ、ヤクザだぞ!

沢村が俺を見た。
名前、どうする?
、、モモはやばい、、ピーチだ。

「へい、ピーチ、元気、、」
「何やっているのよ?」
「仕事だよ、お客様、連れて観光中」
「何を観光しているのよ、こんな桟橋で?
海を見に来たの?」
沢村が大きく咳払いをした。
「、ピーチ行くよ、、お客様疲れているようだから、、」

モモが見下したようにヤクザ連中を見ていた。

「誰だ、あの女は?」
「アラモアナ・ショッピングセンターのチョコレート屋で働いている友達です」
「何だ、あのTシャツの胸の字は?
“NOT OF THIS EARTH(地球外)、だと?
背中は宇宙人か?
なんで顔の長さが左右微妙に違うんだ」
「さあ、わかりません」
「あの女は宇宙人か?」
「、、、、、」

動物園横に停めてあった車が、前方20mに見えた。
誰かが名前を呼んだ。
エンジェル・カレンだ。
何でまたエンジェルがこんなとこに、シエラトンホテルが縄張りなのに、、

「あら!純!
何やってるのよ?
もう動物園閉まっているわよ。
誰、この人達?」
「エンジェル、ツアーのお客さんだよ。
食事が終ってホテルに戻るとこ」
「あなた、元気ないわよ?
どうしたの?
体、どこか調子悪いの?」
「大丈夫、元気だよ」

沢村、上山、タケ、七人、全員が好奇の目でエンジェルの体を嘗め回していた。
エンジェルが、ユンケル皇帝ロイヤルをバッグから取り出した。

「純、これ、元気出すのよ。
何かしてもらいたいなら言ってちょうだい」
沢村が大きく咳払いした。
「エンジェル、ありがとう。
大丈夫、もう行くよ。
じゃあね、、、」

沢村が俺のけつを蹴って車に押し込んだ。
エンジェルが心配そうに見ている。
沢村の顔にゴキブリがたかっていた。
「誰だ、今の?娼婦か?」
「いえ、姉貴です」
「娼婦が姉貴か、お前は陰で何やってるかわからんな」

逃げたかった、でもどうやって、、
思いついた、これで当分、殺されない、、

「あの大男、見たことがあります」
「どこで?」
「去年マウイ島で見かけました。
タクシー運転手をやっていました」
「タクシーの運転手?」
「2メートル近いアフリカンアメリカンはハワイでは珍しかったので」
「白人ではないと思ったがやはり黒人だったか」


マクドナルドを曲がった、シーサイド・ホテルまで300mだ。
通りでホタルさんが誰かと話していた。
通り過ぎてホテル前に着いた。

「おい、純君!」
誰だ、この声は?
細川さんだった。
なぜ、こんなとこに、大嫌いな沢村がいるのに、

「なんだ!添乗!何の用だ?」
「いえ、丁度、あなた方が見えたものですからご挨拶をしようと、、
どうもすみません」
「橋本、行くぞ」
「細川さん、どうも」

細川さんは俺の手を取って何度も振った。
大丈夫、私が付いている、と目が言っていた。


十分程して、専務と社長、上山、沢村が隣の部屋から出てきた。
その間、マイケル・タケが同情の目で俺を見ていた。
沢村の目が俺の顔から鳩尾辺りを二回、往復した。
殴りたくて、蹴りたくてしようがない、って顔だ。
わざと唾を飛ばしながら言った。

「橋本、黒人の大男、見ればわかるんだな?」
「100%ではありませんが、多分、、」
「マウイ島のタクシー運転手だよな?」
「似ていました」
「橋本、行方不明のスーツケースを届けに来た人に謝礼を渡した。
何を言ってるかわかるな」
「はい、わかります」
「今夜のことはすべて忘れろ。
大男のことは後でじっくり聞く」

マクドナルドに行った。
閉店ぎりぎりセーフだった。
ホタルさんモモがいる308に行けなかった、ヤクザが跡をつけているはずだ。

テークアウト袋を手に部屋へ向かった。

モモ、エンジェル、細川さん、、
なぜ声をかけられたのかわかった。

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

続下はわいーい22: 蟹男 このエントリをはてなブックマークに登録

22:蟹男

森の動物達は木の人間に会いに来た。
俺達は行く所がない。
住めないようにしたのは、お前達のせいだ、
俺達を追いたて、苛めたから、洪水、松脂の雨が降ってきた。
さあ、皆食べてしまおうぜ。

犬、鳥、鍋、釜、うす石までもが叫んだ。
お前らを焼いて叩きのめしてやる
俺達がされたことをやってやる。
もうお前らは人間じゃない。
木の人間達は森に逃げた。
山、洞窟、逃げ場所はことごとく彼等を閉め出した。
顔は押しつぶされ、ずたずたに切られ、猿になった

空と地表だけだった、太陽,月はまだ見ることが出来なかった。
ブクカキスが現れた。
木の人間達が滅びた後、現れた鳥の悪魔だ(禿鷹?)。
ほんとうの太陽も、月も、星も、まだ見えないのに、
自分が偉大だ、太陽だ、月だ、と大声で叫んだ。
ブクカキスの二人の息子、地震の神、シパクナとカブラカンも親父にならって、力を誇示し、山を勝手に動かし、周りの山々は戦々恐々としていた。

ウナプとイシバランケ双子の兄弟が現れた。
彼らはほんとうの神だった。

(by Popol Vuh)



隣のホタルさんとモモの部屋から声が聞こえた。
帰っていた?
ノックしてみた。

モモが笑っている。
「お帰り、体はまだつながっているようね」
俺のおでこに手を置いた、お袋のつもりだ。
「危ないだろう!
あんなとこに一人で来て!
何だよ、あの目は!
相手はヤクザだぞ」
「言いたいのはそれだけ?
入りなさいよ、エンジェルはいないけどダニーが来てる」

ホタルさん、それに初老の男性がいた。
新聞記者のダニー、とホタルさんが紹介した。
ああ、モモのお父さんの葬式で俺の親父と話した人だ。
「良かったな、無事で」
「ホタルさん、シーサイド・ホテルの手前にいましたね」
「ダニーからホテルに向かったと連絡があった」
「ずっと俺達を見張ってたの?」
「サーフボードで海に逃げるとは予想外だった」
「モモとエンジェルが俺に声をかけてきたのは計画だったのでしょう?」
「知り合いに見られたらヤクザも考慮するだろうと思ってね。
シーサイド・ホテル前にも俺を含めて10人待機していた」
「そうでしたか。
エンジェルは?」
「仕事に戻ったよ、よろしく言ってた。
車に乗るとき、純がお尻を蹴られた、ってひどく心配してたぞ。
何事もなくて良かった」
「行方不明のスーツケース届けてくれたので謝礼を払った、
今夜のことはすべて忘れろ、と沢村に言われました。
あの大男がマウイ島のタクシー運転手に似ていると、殺されないように嘘をつきましたよ。
今、思えば緊迫感がなかったですね」
「エンリケに動きがないから手荒なことをしない、ダニーの読みが当たった。
純、今夜あったことを話してくれ。
書類は?」
「上山、ここ現地の暴力団です、彼と沢村が確認してました、、
そこに丁度、モモが現れたんですよ。
モモ!
相手はヤクザだぞ、もう少し目をなんとかしろよ。
見下したように睨んでんだから」
「また怒った、純、相手は敵よ。
お父さんを殺した連中よ。
あなたのお父さんも彼らに殺されたのよ!」
「あの場であの目はないだろう!」
「純、モモ!
あとで喧嘩しろ!
先を続けてくれ」
「、、スーツケースも渡りました。
すべてあったんだと思います、何も言ってませんでしたから」
「ダニーどう思う?」
「当然、書類をコピーしてるはずだ。
彼らに接触したいな。
純君、男の特徴とか何か気付いたことはないか」
「顔を黒く塗っていましたがハウリー(白人)です。
心当たりがあります」
「知ってる男か?」
「ウェスタンビーチのローディングドック(荷物置き場)で数回、見かけたことがあります。
多分、空港から荷物を運ぶ仕事をしています」
「それなら探せる!」
「もう一人、カヤックで沖から見ている男がいました。
大男の仲間だと思います。
サーフボードより先に消えました。
その男が誰か知ってます」
皆が大声を上げた。
「純!わかるのか!」
「チーフです、以前の。
今はエアポート配属ですが、戸昼と言います」
「戸昼?
日本人か?」
「マヤです。
グアテマラのキチェ族だと言ってました」
「ホタル、ヤクザは明後日、日本に帰る。
時間がない、接触しよう。
住まいは?」
「ここから歩いて10分、近いです。
アラワイ運河沿いに住んでます」
「アラワイ運河!
今、0時10分か、彼らを途中まで捕捉してた。
暗闇と波で見失ってしまった。
一応、ワイキキから西と東の沿岸沿いを二手に分かれて調べているが、今のところそれらしき姿はないと連絡があった。
アラワイ運河沿いに住んでいるなら西に向かった公算大だな。
姿があってもいいはずだが」
「ダニー、アラワイ運河はないよ。
近すぎる。
東だよ、ビーチが多い。
カアラワイビーチ(Kaalawai)、カハラビーチ(Kahala)、ワイアラエビーチ(Waialae),ワイルペビーチ(Wailupe)、カワイカイビーチ(Kawaikai)、クリオウオウビーチ(Kuliouou)、コケビーチ(Kokee)、ココ カイビーチ(Koko kai)、ハナウマ」
「兄さん、その先のサンディビーチだと思うわ」
「モモ、サンディビーチはないよ。
岩が多くて危険だ、まして夜だ」
「だからよ。
あのサーフボードの大男、海に慣れていたわ。
バッグ背負った姿は蟹だったわ」
「何、蟹男かよ?
モモ、なんだよ」
「純には分からないわ。
海で生活できる人間はわかるのよ」
「何だよ、それ?」
「わかった、二人とも、、
純、戸昼と仲がいいのか?」
「どちらかと言えば悪いです。
俺が空港に追いやったようなものですから」
「ダニーどうする?」
「戸昼に会おう、それしかない。
ヤクザ連中は明日、エンリケとハワイ島で会うはずだ。
300万$も払った書類の内容が分かれば多分エンリケを捕まえられる」
「エンリケとヤクザの会合は成功してもらった方がいいね?」
「そうだ」
「300万$なかったようですよ。
大男が重さがないとか、言ってました」
「わざと連絡してくるように仕向けたんだ。
会合が終れば本気で捕まえる気だ。
純君、これから戸昼の住んでいる所まで連れて行ってくれ」
「ダニー、帰ってきてると思うか?」
「モモが言うようにサンディビーチまで行ってたら無理だ」
「ワイキキの海は凪いでたけど、ハリケーンの影響で外海はもう荒れているはずよ。
蟹男でも難しいかもよ」




theme : 連載小説
genre : 小説・文学

続下はわいーい23: モモ このエントリをはてなブックマークに登録

23:モモ

ホタル、ダニーと戸昼の部屋に向かっていた。

海で生活できる人間はわかるのよ、どういう意味だ?
モモは自分を本当に魚だと思っているのか、、
一緒に泳ぎに行くと、いっも海面に浮いて空を見ていた。
数時間もその状態だ、やがて沖に流され、見えなくなる。
最初ひどく驚いた、それがモモのリラックス法だと知った。
海がないと、海面で揺られていないと、生きていけないようなことを言った。

「純!どこだ?」
「あ、、、ここの奥です。
俺、見てきます」

アラワイ運河からワイキキ側に20mほど入った、二階建ての戸昼の部屋は暗かった。
ドアをノックした、応答はなかった。
ダニーを残してホタルさんが俺を部屋まで送ってくれた。
戸昼が現れたら連絡する、と戻っていった。
ダニー、ホタルさん、モモ、皆、真剣だった。

2時、近い、モモはうつ伏せでソファに伸びていた。
背中のT-シャツの宇宙人までもがこの機会を逃さないと真剣な顔だ。
モモの言葉がまだ気になっていた、、
海で生活できる人間はわかるのよ、、
ヤクザを見たあの目つき、特攻隊、切迫感があった。

「背中の宇宙人、やけに元気そうだ」
「これからどうなるのか興奮している」
「T-シャツ何枚あるの?」
「この、、?50枚かな」
「どうして背中の宇宙人の顔の長さは左右微妙に違うデザインになったの?」
「普通じゃないから」
「何が普通じゃないの?」
「私よ、、、、」
「モモはやっぱり宇宙人だったのか」
「地球に住めない宇宙人よ」
「住んでるじゃない」
「だから顔か左右違うの」
「同じ長さのT-シャツはないの?
あるなら見せてよ」
「もうない、処分したわ」
「昨日からとんがっていないか、、」
「とんがっている?
純、何それ?変な言葉。
とんがっている、、、」
「ホテルのスーツ姿のモモ、綺麗だった。
俺びっくりした、宇宙人のT-シャツ姿のモモしか見たことなかったから」
「偽者、私じゃない」
「モモだよ、綺麗だった」
「あれは私ではない、あんな、、おどおどしていないわ」
「何言ってんだ!
可憐で最高に綺麗だった、“おどおど”なんて、なんでそんな言葉が出てくるの?」
「あれは自分じゃないわ。
別の人間よ」
「何言ってんだ。
あれは、あれも、モモだよ。
本物だよ、モモ!」
「あなた、スーツ姿の別人に恋したの?」
「スーツのモモ、今、宇宙人のT-シャツのモモ、おなじ人に恋してる」
「私を好きにならない方がいいわ」
「もう遅いよ、メロメロだ」
「、、変わるのも、、変われないのも、、」
「何でも言えよ、どんなことでもするから」
「ルイス・エンリケとヤクザを道連れに自爆したい」
「何!」
「嘘、ごめんなさい、自爆なんて、、」
「どうしたんだ」
「、、純、、私、、、」
「何だよ、言えよ」
「、、、ありがとう、、、、気にかけてくれて、、」


戸昼は部屋に戻ってこなかった。

7時半にデスクへ行くと細川さんがいた。
「昨夜はどうだったの?」
「無事、お金渡りました。
俺もピンピンでこのとおりです。
どうも心配かけました。
わざわざ、シーサイド・ホテル前で待っていてくれたんでしょう?」
「私にやれることはあれぐらいしかないから、よかったね、何事もなくて」
「細川さんにホテル前で会ったからです。
どうも有難うございました。
「よかった、よかった。
やっと、私らのお勤めも最終日になったね。
明日で私は終わりだ。
予定通り飛行機、飛ぶよね?」
「今朝のニュースでは、ハリケーンの影響はないと言ってました」
「さあ、最後のリムジン・オフフ島一周ツアーだ!」

既に上村通商の他のメンバーはデスク前に集合していた。
リムジン、4台もホテル前で待機していた。
集合時間の8時を過ぎても、専務、社長、沢村、タケの姿がなかった。
細川さんが3301に電話を入れた。
「沢村様、お早うございます。
8時でございます。
オアフ島一周ツアーのリムジンが待っていますが」
「他の連中は?」
「もう皆様、お待ちになっています」
「俺達は行かん、添乗、よろしくやってくれ」

空港に電話してみた。
戸昼は休んでいた。

11時、ダニーから電話があった。
「ホテルを張り込んでいる仲間から連絡があった。
迎えに来た上山の車で、専務、社長、沢村、タケが出ていったそうだ。
ハワイ島だ、エンリケに会う。
ちょっと待って、、、、、、どうした、、ホタル、、、、、」
「、、、、、、、、、、、、、」
「純君、今、男が来た、、、身長170ない、、あ、、多分、、戸昼だ、、部屋に向かっている。
、、、、そうだ、、部屋に入った」
「純君、来てくれ。
ホタルより知り合いの君の方が安全だ」
「すぐ行きます」



theme : 連載小説
genre : 小説・文学

続下はわいーい24: CIAこのエントリをはてなブックマークに登録

24:CIA

戸昼の部屋をノックしようとした、モモがいきなり現れた。
「何やってるんだ、危険だよ」
「私も一緒に」

ドアが開いた、戸昼が立っていた。
「やっぱりおまえか?
純一、何の用だ?」
「チーフ、書類を見せて欲しい」
「書類?」
「昨日の夜、金と交換したでしょう?
チーフはカヤックに乗って沖から見ていた」
「、、、、この女は?」
「親しい友達です」
「純一、カヤックなんて乗っていない。
昨夜は友達のとこだ」
「チーフでした!輪郭がチーフだった。
どうか書類を見せてください。
警察沙汰にはしませんからお願いします」
「まあ、中に入れよ。
散らかってるぞ、俺も今、帰ってきたとこだから」

窓際に寝袋が二つ、居間のテーブル下に押しつぶされたビール缶、引き裂かれた皮の断片が転がっている。
戸昼はソファを指差した。
「純一、なぜ書類を見たい?」
「ある男を捕まえたいのです。
書類に何が書かれているか知りたいのです」
「私のお父さん、それに純のお父さんを殺した人間を捕まえたいの!」
「ルイス・エンリケにおまえ達の親父は殺されたのか?」
「モモのお父さんはロスのハイウェイで、俺の親父はひき逃げです」
「純のお父さんの明を殺したのはヤクザ、書類を持っていた連中よ!
エンリケの指図で彼らが殺したのよ!」
「アキラ?純一、おまえの親父の名前はアキラというのか?」
「はい」
「橋本、、、橋本アキラか?」
「はい、そうです。
モモのお父さんが1989年、親父は半年後でした。
犯人はどちらも捕まっていません」
「おまえの親父さんが亡くなったのは何年だ?」
「1990年です、、5月15日です」
「1990の5月15、、純一、親父さんの写真は?」
「あります」
写真を財布から取り出して戸昼に差し出した。

写真を手に、しばらく見ていた。
チーフがおかしい。
左手が鼻から上を覆った、そして、左右に動き出した。
やがて、右手でジーパンのベルトから顔を覗かせていた、いつも大事そうに扱っていたキーホルダーを抜いた。
改めて見ると大きかった、11cmはある。
左手はまだ額を往復している。

「純一、おまえの親父が俺にくれた」
「親父が、」
「おまえの親父に5歳の時、助けられた。
グアテマラのキチェ村からフロリダまで連れてきてくれた。
俺のアキラはおまえの親父からもらった」
「、、、、、、」
チーフが顔を上げた、目がうるんでいた。
「17年も前に、、1990年か、、真理に追いやられてハワイに来た年だ、俺は3月に来た。
連絡した、、手紙はいつも戻ってきた。
5月終わりから書いたんじゃなゃ、、届きっこないよな、」
「親父が亡くなって長崎の実家にお袋と戻りました」
「アキラはフロリダで真理、結城真理という修道女に俺を預けた。
1990年、5月15日から行方不明だ、、月と日にちまで一緒だとは」
「家のお父さんのお葬式に明が来たの、暮れの12月よ。
あなたが3ヶ月早くここに来ていれば会えたのに、戸昼、助けてちょうだい!
書類を見せて!
ルイス・エンリケとヤクザを捕まえたいの!」
「無い、、無くなった」
「ここにあったのですか!」
「二部コピーがあった、昨夜、9時に出るときはな」
「誰が、、チーフの仲間では?」
「彼らじゃない、二人は無理だ」

帰りの車の中は重苦しかった。
戸昼から書類の内容を聞かされただけに皆ひどく落ち込んでいた。
いや、モモだけは元気だった。
「何をがっかりしているのよ。
まだ何か出来るはずよ、考えましょうよ?
これからハワイ島に行ってエンリケに会いましょう!」
「モモ、無理言うな、会ったとして何を言うんだ」
「でも、このままでいいわけないでしょう?」
ホタルがモモの頭をやさしく小突いた。
「純だけが戸昼に会う予定だった、勝手な行動しないように。
でも、一体、誰が?
9時に出たときはあった、俺達は1時前には戸昼の部屋を見張っていた。
ヤクザか?、ヤクザじゃない、、
エンリケか?エンリケじゃない。
ダニー?」
「もっと大きな力だな、警察、FBI、、CIAとか」




theme : 連載小説
genre : 小説・文学

続下はわいーい25: これで終わり?このエントリをはてなブックマークに登録

25:これで終わり?

ブクカキスは木に登って好物の黄色のさくらんぼを食べていた。
ウナプとイシバランケ兄弟は、木の上で食べているブクカキスに吹き矢を放った。
ウナプの吹き矢が丁度、顎に当たりブクカキスが木の頂上から転げ落ちた。
上にのしかかろうとしたが、逆に腕を捻じ曲げられ裂かれてしまった。

ブクカキスは腕を持ち帰った。
歯が緩んで痛くて、話すことも、満足に食べることもできなかった。

ウナプとイシバランケは、老人と老婆と共にブクカキスを訪ねた。
痛いのは虫のせいです、歯に巣食った虫を取ってあげましょう。
歯を抜いた
この際、目も治してあげましょう。
威厳のある目、装飾品、自慢していたものをことごとく抜き取り、代わりにとうもろこしの粉を詰めた。

ブクカキスは以前の力を無くした、やがて亡くなった。
老人と老婆は腕を取り戻してウナプの体に戻した。
(by Popol Vuh)



「明との関係を考えると、戸昼が嘘を言っているとは思えない。
二日前のヤクザのハワイ到着から知っていた、いや、以前からか、、。
ただ誤算があった、、盗まれた。
一連の出来事を考えるとCIAなら可能だ」
「ルイス・エンリケが教えたの?」
「ネガティブ、戸昼の話では書類に書かれてあったことはCIAには面白くないことだ。
表に出れば、CIA(注)が偽札偽造していたとばれる。
北朝鮮、コントラ、中米武器輸出、ルイス・エンリケ(注)との関係が暴露される恐れがある。
それにアフリカ・シンジケートとのダイヤモンドの取引、キンバリープロセス(注)に背くものだ。
表に出たら合衆国は国際社会から総すかんを食う。
エンリケが勝手に動き出したので国はあわてていると見えるのだが、、」
「取引、そのものをご破算にしないとやばいだろう」
「そうだ、このままじゃあな。
どうするのかな、、ただ今までは見守っていたが戸昼の部屋から盗んだということは腰を上げたのかな。
なんせ、ヤクザの到着から今日でまだ三日目だ。
急な展開に対応が遅れたんじゃないかな」
「俺達の動き、桟橋の取引からすべて知っていたのですか?」
「戸昼の部屋で話したこともすべて盗聴されていたと考えるのが妥当だ」

皆、顔を見合わせた。
ホタルの、この部屋も盗聴されている可能性があったからだ。
モモがFMをかけた。

「後で、人を呼んで盗聴されいるかどうか調べる」
ダニーが力なく言った。

書類がなくった、、CIA、、
結局、父さんの仇も、何も出来なかった、、すべてこれで終わり、、


ダッジの座席下に隠してあった包みを確認した。
5gのヘロインは無事だった。
それにしても誰が盗んだ、、
すべてお見通しだった、やっぱり、、CIAか?
こんなことありか、そうなら俺達も狙われるか、、
書類が無くなったんで見過ごしてくれるのか、、

戸昼はラルフの部屋に向かった。
小細工をする気も起きなかった、もうどう動こうが相手はお見通しだ。

ラルフと寿子は金を3等分に分けて待っていた。
律儀なことだ、猫糞してよかったのに。
大声を出さないようにと、言おうとした、遅かった、寿子が有頂天だ。
どう足掻こうが歯が立つ相手じゃない、どうでもよくなった。
「戸昼、全部で150万$!」
50万$ずつよ!
やった!」
「ラルフ、FMでもなんでもいいから音かけてくれるか。
あまり意味ないとは思うが、、」
「音、?、何だよ、戸昼、やったな!
おまえのおかげだ、礼を言うぜ」
「ラルフ、音かけてくれ、なんでもいい」
「何だ、そんな小声で、どうした?喜べよ」
「FMでいい、なんでもいいからかけてくれ」
「小声で何だ、、戸昼、」

ラルフがしぶしぶFMをかけた。
「楽しい気分を害して悪いが知らせることがある。
コピーした書類、二部、消えた。
あまり大きな声を出さないように頼む。
盗聴されてる」
「盗聴?、、、書類は無くなったの?」
「一体、誰だ」
「お見通しだったんだ、、すべて。
空港で寿子が盗んだのも、ラルフが運んだのも、すべてな、、」
「誰なのよ、、そんなこと、誰が出来るのよ?」
「取引も知ってたのか!」
「大きな声を出すな、、出しても一緒か、、
すべてだ、今も見張ってるはずだ」
「おい、戸昼、悪い冗談よせ。
FBIとかCIAしか出来ないぜ、、、、、まさか、、そうなのか」
「CIAの公算大だ。
エンリケとCIAの長い付き合いからするとな」
「どうするのよ、、」
「俺達が盗んだのエンリケは知ってたのか、、
CIAに俺達を監視させていた?」
「違うな、、エンリケと繋がっているとは思えない」
「私達、どうなるのよ?
もう狙われてるんじゃない」
「まだ、生きてるよな、、
ここに押し入ってきてもおかしくはないんだが、、
ただ、、書類の内容を知っているのは俺達だけじゃない。
純一が現れた、新聞記者と一緒に、計4人、彼等にも話した。
それが救いだな、、今んとこは」



ルイス・エンリケと中米:
1977年に誕生したカーター政権(在位1977~1981)の人権政策で、米は1978年にニカラグア、グアテマラ、エルサルバドルに武器輸出できなくなった。
その間隙を突いたのがイスラエルだった。以来、CIAは国際社会の目を恐れ、イランゲートが86年11月、発覚するまで、イスラエルとの仲買をルイスに任せた。

エンリケと北朝鮮:
ルイス・エンリケは1992年,イスラエル(モサド)から極秘に要請を受けた。
イスラエルが北朝鮮の金山ウンサンを開発するから、見返りに、イラン、シリア、リビアにミサイル、スカッドを売らないように北朝鮮に働きかけてくれというものだった。
別のルートで北朝鮮が、よりによってイスラエル外交部と同じような交渉をしていたのが判明して失敗した。
この時、エンリケと北朝鮮政府・高官とのパイプが確立された。

エンリケと偽札:
金日成が亡くなった翌年、1995年、エンリケは北朝鮮に依頼され、上村商事を通してスイス製のIntaglio印刷機(注)を購入。
その後も、密かに北朝鮮のために最新印刷機を購入、いずれもCIAが裏で工作。
ピョンヤン郊外、ピョンソンにあるPrinting Housで米$偽札偽造。
CIAは、ワシントン郊外で偽造していに偽札をカモフラージュするため北朝鮮を利用。
現在、流通している大半の米、50,100$偽札はCIA製。
資金不足のため(以前と違い、議会の承認なしで自由に使えなくなった)。

キンバリープロセス(Kimberly Process):
2002年、ダイヤモンド原産地証明の義務付け管理制度。ダイヤモンド資金が、アフリカ諸国の内戦、武器調達に使用されるのを防ぐための制度。


CIA偽札疑惑:
2007年1月7日の日曜版、独、フランクフルトの新聞、FAZ・アジア版にCIAがワシントン郊外のCIA施設内で$50,$100偽札偽造の記事。米政府、沈黙。


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genre : 小説・文学

続下はわいーい26: 万事休すこのエントリをはてなブックマークに登録

26:万事休す


午後四時、ヘリがハワイ島、コナにあるルイス・エンリケの邸宅を数キロ先に捉えた。
パイロットがレシーバに二言、三言、話しかけるや大きく転回した。
どうした、沢村がパイロットに尋ねた。
「引き返せと、指示を受けました」
「誰からだ!」
「家の会社です。
詳しいことはわかりません。
とにかくホノルルに戻ります」
「何だと、、この強い風か?」
「いえ、違います、このぐらいの風は問題ありません。
申し訳ないんですが、ホノルルに戻ります」


盗聴ハンターがバグ(盗聴器)を三個、持ち帰って20分後、ダニーの興奮した声が受話器で響いた。
「ホタル、ルイスに何かあったようだ!
邸宅内から何かが爆発したような鈍い音があったと連絡があって救急車が来た。
警察官も一緒らしい」
「ヤクザは?」
「いや、車、ヘリの出入りはなかったらしい。
3時過ぎにヘリで発ったからもう邸宅に着いてもいい頃だが、、
何があったのかわかり次第、連絡する!」

20分後、
「ホタル!ルイス・エンリケが死んだ、暗殺された。
病院に運び込まれたが駄目だったらしい。
家の支社の調べでは体は原型を留めてなかったそうだ。
狙われた、CIAだ」
「死んだ!」
「手間は省けたが汚いやり方をするものだ」
「そこまでやるの、、、」
「今までの関係を清算したかったのか、自分達がリクルートしたのに」

死んだ!モモと純が横で叫んだ。

「、ダニーこれまでか、、」
「明を殺したヤクザ連中が残っているじゃないか、まだ終わりじゃない」
「彼らも狙われてるんじゃ?」
「海上でヘリ爆破させれば簡単だろうがタイミングが悪い。
ルイスとヤクザの関連がクローズアップされるのは目に見えてる。
司法の場で悪行を暴けるのはヤクザ連中しか残ってない。
彼らには生きていてほしい」

30分後、
「ヤクザ連中、無事だ。
数分前にホノルル空港に着いたそうだ、まだ脈がある」
「だって帰国は明日だ!」
「ホタル、諦めるな。
連中、書類を持っている。
まだルイスの死は公表されていない。
ルイスと直人(ホタル・モモの父親)はハワイアンのヒットメーカーだった、、、
有名人だから時間の問題だな。
なんとか盗む!
家の車ぶつける!」
「そんな、ハイウェイで危ないぞ!」
「ホタル、エンリケの死を知ったらどうするか考えてみろ!」
破棄するぞ、その前になんとかするんだ!」


五人はホノルル空港で、待機していた上山のリムジンに乗り込んだ。
ルイスエンリケと連絡が取れなくて、専務の苛立ちは最高潮に達していた。
「一体何があった!
なんで携帯からすべて繋がらない!
沢村、テレビを点けろ、ニュースチャンネルだ!」
上山の運転手がリムジンのテレビのスイッチを入れた。
「一体、何があった?誰か考えは?」
「ルイス・エンリケ、書類の紛失、知ってたんですかね?
やばいと感じて、」
「上山、彼とは20年来の付き合いだぞ!」

ルイス・エンリケの名前がテレビから飛んできた。
続いて、彼の写真と往年の彼のハワイアンのヒット曲が流れた。
原因不明の事故で亡くなった、とアンカー言った。

沢村が声を荒げた。
「運転手!
空港からついてきてる不審な車はないか!」
「、、三、四台、、空港から一緒です。
まだ、、つけてるかどうかは」
「次の出口でハイウェイ出ろ、空港に戻れ」

「空港からの車が二台ついてきます」
「専務、どうします?」
「皆で書類、契約書を千切れ、一センチ以下だ。
早くやれ!
床に落としたのは回収しろ!
運転手!速度ぎりぎりまで飛ばせ!
空港とワイキキを俺が言いというまで往復しろ!」
「千切るんですか?」
ここまで一言も喋らなかったタケが思わず口を滑らせた。
「ガソリンぶっかけて書類と一緒に燃してもらいたいか、タケ?
車の中でよかったな」

40分後、人力でシュレダー化された書類が、タケのアロハシャツ、T-シャツ、ズボンに集められた。
タケはパンツ一枚になって、なぜ用もない自分が連れてこられたのか理解した。
「沢村、タケ、車が少ないの見計らって雪降らせろ。
ここの住人に雪、見せろ。
車はまだつけてるか?」
「はい、ついてきてます」

それから15分間、ワイキキのハイウェイに粉雪が降り注いだ。

日本に帰れるのか不安だったが、専務は奥の手を考えていた。
このまま日本に帰っても組にはとやかく言われない。
書類紛失のヘマもすべて消える。
ブラックリストに載ってる身だ、移民局に出頭すれば強制送還だ。
だが、ルイスを殺した連中は、そうさせてくれるのか、、、、


「駄目だった、速度が、、
ぶつけることが出来なかったそうだ。
ハイウェイで白い粉が舞った。
紙片だ、書類だった。
あんなことするとは」
「切り刻んで捨てた?」
「司法の場では無理なのか、ヤクザ連中だけでもなんとか捕まえたい。
もうこんな機会は訪れない」

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

続下はわいーい27: ハワイアンこのエントリをはてなブックマークに登録

27:ハワイアン


「書類がなくなったのはCIAの仕業とはどういうことだ?
エンリケと繋がってないのか?」
「俺達を泳がせるか、ここまで?
新聞記者の話では、ヤクザはエンリケとの会合にハワイ島へ出かけたそうだ」
「どうなってんだ?」
「別々に動いているように見える。
俺の部屋は荒らされてなかった、コピーが二部しかないのを知って盗んだ。
盗聴は、多分、寿子がエキストラのコピー二部して、俺達がここに来ている間だな。
俺は二部残すと寿子に言った」
「何処に置いてたの?」
「机の引き出し、探さなくてもすぐわかる。
純一、新聞記者にも書類の内容話した、盗聴でもうそのことを知ってるはずだ。
どうだ、ラルフ、寿子、奴らに改めて知らせないか、もし盗聴していなかったらまだ書類持ってると思ってるぜ、殺されるぞ。
大きな声で一緒に言え、
“もう書類もないし、純一、新聞記者、四人に洗いざらい書類の内容話した”ってな。
三部合唱にするか?」
「馬鹿、戸昼、あなた何考えてるのよ?」
「いいから言え。
ラルフ、FMのボリューム下げろ、0でもいいぞ」
「馬鹿、お前!」

戸昼はFMラジオのスイッチを切って、ラルフに邪魔されないようコンセントを抜いて叫んだ。
「よく聞け!CIAさんよ!
お前達が盗んだ二部がすべてだ。俺達はもう書類持ってない!
純一、新聞記者にも書類の内容話した!
俺たち盗聴しても追いかけてもつまらんぞ!
もう何もせん、引き下がってくれ!」

ラルフがFMのコンセント、スイッチを戻した。
「全く、何てことやってくれんだ、戸昼よ」
「いい加減にしてよ、私達どうなるのよ?
CIAならもう駄目なんじゃないの」
「だから今言ったろう、何もするなってな。
これからどうするか考えろ」
「俺はスウェーデンのお袋の実家にでも隠れるかな」
「私、日本に帰る。
あなたはどうするのよ?」
「ヤクザとエンリケ潰す」
「何言ってんだ、戸昼」
「餓鬼の頃グアテマラからフロリダまで連れてきてくれた命の恩人が死んだと聞かされた。
恩人は純一の親父だった、エンリケの差し金であのヤクザ連中に轢き逃げで殺された」
「純一の親父と知り合いだったのか?」
「わずか数か月だったがな。
純一が連れてきた兄弟の親父と一緒にエンリケと闘っていたそうだ。
彼らの親父の名は、ナオト、知ってるか?
“ルイスとナオト”の名でハワイアンのヒット曲がたくさんある」
「驚いたな、“ルイスとナオト”あのコンビか?
20年以上、いや、それ以上も前の話だ。
ナオトは殺されたんだよな?
確か、カルフォルニアのハイウェイで銃撃された死体が発見された」
「ロスだ、当時、エンリケの悪行を暴こうとしていたらしい、俺の恩人も一緒に」
「エンリケか?」
「新聞記者の話では、ロスのラテン・ギャングを使った」
「何でもありの世界だな。
お前はエンリケとヤクザどうしたいんだ?」
「ヤクザ連中は明朝、帰国だ。
時間がない、まず奴らをなんとかしないと」
「何言ってるのよ!
戸昼、あなた狙われてるのよ。
逃げなさいよ」
「今日をもって俺達は解散だ。
日本に帰るなり、スウェーデンに行くなり好きにしろ。
CIAが俺達チンピラにちょっかい出さないほうに賭けるがな。
おかしいな、この局、古いハワイアンかけたか?
“舞うイルカ(Flying dolphin)”にさっきは“たそがれのワイキキ(Twilight Waikiki)”
歌ってるのはエンリケだ」
「ロック専門のはずだ、もう四曲目だ、“ルイスとナオト”のだ」

ラルフがFMをニュースに合わせた。
ルイス・エンリケが事故死した、と報じていた。

「おい、戸昼どういうことだ!」
「エンリケが死んだの?私達は!」
「排除した、、あの書類だ、表に出る前に処分しないとやばい。
書類、持ってる限りヤクザ連中も殺されるぞ」

寿子がもじもじしている。
ノートに走り書きした。
“書類があるのよ”

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

続下はわいーい28: 強姦魔 米国このエントリをはてなブックマークに登録

28:強姦魔、米国

ブクカキスの長男、シパクナは魚、蟹が大好物だった。
ウナプとイシバランケ双子の兄弟は、植物、石で偽の蟹を作った。

シパクナは蟹、魚を見つけることがきず、二日間、何も食べていなかった。
兄弟はシパクナをそそのかした。
あの谷に大きな蟹がいたよ。
もう少しで捕まえられたのに噛まれた。
僕たちはもう御免だ。
お腹が空いているんだろう、場所を教えてあげる。
捕まえたら君のものだ。
ほら、あそこだ、大きな音を立てているだろう。

駄目だ、穴から下だと上に逃げる。
上から攻めてみるか。
シパクナは穴に頭から入っていった。

丘が地すべりを起こして彼の上に落ちた。
もうあがってくることは出来なかった。
そして、シパクナは石になった。

(by Popol Vuh)


戸昼は寿子が走り書きしたノートを手に、声を出した。
「何だ、100$札だけじゃないのか、10、20、50$札もあったのか」
目をこすりながら、二、三度叩いた。
盗聴だけじゃない、カメラがあるかもしれない。
「小声で話せ、書類は話すな後だ。
じゃあ!どうする、ラルフ、寿子、俺は部屋に戻る」
「ここに一人は御免だな、お前の部屋に行ってもいいか?」
「ああ、もちだ。寿子は?」
「私もそうするわ」

ラルフの部屋を出て、通りから純一に携帯をかけた。
「純一、エンリケが亡くなったな」
「チーフ無事ですか!
爆発音がして遺体はひどい状態だったらしいです」
「ヤクザ連中は?」
「シーサイド・ホテルに帰ってきました」
「あいつら無事なのか」
「エンリケが亡くなったからハワイ島に行かなかったようです。
ハイウェイで書類、千切って走っている車から舞いたそうです」
「ハイウェイで?」
「ええ、尾行していた車から連絡がありました。
別に尾行している黒塗りの車があったそうです。
CIAではないかと言ってました」
「奴らも書類、千切ったの知ってるのか?」
「と、思いますが、チーフ、コピー何部渡したのですか?」
「一部だ」
「じゃあ、千切ってますね」
「純一、盗聴器を探し出すエキスパート知らないか?
俺の部屋をクリーニングしてもらいたい。
あの新聞記者なら知ってるだろう?」
「あ、、そうです!ホタルさんのこの部屋、盗聴されていました。
すぐ頼んでみます」
「純一、書類が一部ある。手に入れたら連絡する」
「え!本当ですか!」
「それとは別に、盗聴器が見つかり次第、携帯にかけるから待機しててくれ。
ヤクザに渡したコピー三部だと言うから合わせろ」
「わかりました、早速ダニーに電話します」
「40分後には部屋にいる。あまり意味ないとは思うが、
電気、電話工事を装ってもらいたい」


ダッジも盗聴されている可能性があったので当たり障りのない話をした。

盗聴ハンターがバグ(盗聴器)を二個見つけ出した。
見たこともない新しいタイプだと言った。
戸昼は礼を言って盗聴器、一個をもらった。

ラジカセをFMに合わせて、盗聴器を手にトイレへ向かった。
純一を呼び出した。
「純一、どうだ、動きは?エンリケが亡くなったな」
「ヤクザはハワイ島から途中引き返してきたそうです」
「ヤクザの書類はどうした」
「エアポートとワイキキ間を往復しながらハイウェイで千切って舞いたそうです」
「コピー三部も車の中で千切ったのか!
ご苦労なことだな」
「昨日の夜、荒井専務が上山に一部保管を頼んでいました。
まだ二部は残っているはずです」
「その書類、欲しいな、、明日のヤクザの便は?」
「JAL75便、9時発です」
「なんとかしたいな、純一」


「寿子、どこにある?」
「盗聴器は?」
「トイレでロック聴いてる」
「バイト先オフィスの私のロッカーの中。ごめんなさい」
「いや、感謝したいぐらいだ、場所は?」
「免税店の裏、歩いて20分で行ける。
でも、この時間入れないわ、閉まってる。
朝の8時オープンよ」
「8時、、ヤクザ連中は9時だ。何とか入れないか?」
「無理よ、もうオフィス閉まっている」
「戸昼、どうする気だ。
もうエンリケは死んだ、ヤクザは明日、帰国だ。
書類にちょっかい出したらCIAが出てくるぞ」
「ラルフ、俺の望みはそれだ。
奴らとエンリケの関係をばらす」
「お前,殺されるぞ」
「貸しがあるんでな。中米の歴史は奴らに作られた。
このアメリカという国だ、手先がCIAだ。
俺達は強姦され続けてきた。
勝者ボケに敗者の強いとこも見せんとな。
とことんへこましてやらんとな。
お前たちは逃げろ、ここからは俺と一緒だとやばい」
「でも、この50万ドルどうしたらいいのよ?」
「銀行に預けろ」
「また、そう簡単に言うけどどうやって?
いきなり50万$持って行くの?おかしく思われない」
「何悩んでる、寿子、これはお前の金だ、堂々としろ。
Bank of Hawaii でも日本の銀行でもどこでも行け」
「戸昼、そうなの、そんなに簡単なの?」
「好きにしろ、とにかく明日、銀行に持ってけ。
聞かれたら盗んだとでも言え」
「まあ、、ひどい」



theme : 連載小説
genre : 小説・文学

続下はわいーい29: Tommy or お富さんこのエントリをはてなブックマークに登録

29:Tommy or お富さん


双子の兄弟はブクカキスの次男カブラカンに聞いてみた。
とてつもなく高い山があって、鳥がたくさんいるのに捕まえることができないんだ。
君は山を低く出来るって本当なの ?
ああ、もちさ、お望みしだいだ、俺は地震の神だ、低くして平地にでもな。
頼むよ、ほら、あそこだ、太陽が出ている所。
僕らが案内するよ。
僕らの真ん中を歩いて欲しいんだ、そうしないと吹き矢を撃てないから。
カブラカンは、鳥に息を吹きかけるだけで落ちてくるのを見て驚いた。

鳥をあぶる前に兄弟は地表の石灰をこすり付けた。
空腹のカブラカンはしたたる肉汁、香ばしいにおいに我慢できなかった。

目当ての高い山に着く前にカブラカンの体はおかしくなっていた。
体が麻痺して立つことさえできなかった
兄弟は手を後で縛り、足と首を一緒に縛って生き埋めにした。
カブラカンを土になった。
(by Popol Vuh)


ルロイ・島岡は悩んでいた。
上村通商専務、荒井邦男を日本に帰していいものか。
エンリケとの関連事項は根こそぎ消し去れ、それがCIA上層部の指示だった。
戸昼の盗聴器から、ハイウェイでばら撒かれた以外にコピーが三部あり、上山が一部保管しているらしいと、報告があった。
Direct TV(ケーブル・テレビ)制服姿の男が戸昼の部屋に入っていった、とも。

マヤ・キチェの戸昼の命の恩人が東都ツアーズの橋本純一の父親、
兄弟の父親もエンリケとヤクザに殺されたと、この前、盗聴器で言っていた。
あのマヤがヤクザを始末させようと偽の情報を流したとしてもおかしくない。
荒井邦夫ら五人を始末しても残りの六人のグループツアーは、、
帰国まで12時間、、
会うか、、コピー確認して日本に帰すか、上山も、ダイヤモンドエンタープライズ潰して。
チンピラ三人には金が残る、これで収まるだろう。

「専務、電話です。
ルイス・エンリケの知り合いだと言ってます。
今から伺うと」
「、、、、、、、」
「一人で来るそうです。
専務以外は席を外せと、言ってますが。
どうしますか?」
「外せ?だと、、、わかった、と伝えろ」

ドアを開けた荒井はルロイ・島岡を見た、思ったとおりの制服姿だった。
こいつらが黒のスーツが好きなのは葬式に出やすいためだと、改めて思った。
黒い帽子を手に、入ろうともせず突っ立っている。
ソファに座って眺めていた。
こいつら糞ハリウッド映画の見過ぎだぞ、自然に振舞えばいいものを役者気取りか。
こいつは誰だ、あいつか、最近、日本のCMで稼いでる奴だ、
逃亡者にも出てたな、、トミーリージョーンズ(Tommy Lee Jones)だ!
そっくりだ。

「トミーさん、何もありませんよ。
どうぞ入ってください」
「トミー(Tommy:注)?私の名前ですか、
そういえば昔、トミーというロックオペラがありました。
ある事件で聴覚、視覚、言葉をしゃべれなくなった子供の話しでしたが、ピンボールのカルト英雄になりました」

何の話だ、ロックオペラ?変わった野郎だ。
トミーでとおす気か、日本だとお富さんか、、

「荒井邦男さん、よく合衆国に入れましたな?」
「お富さんはエンリケの知り合いですか?」
「お富さん、、?
彼とは事業を長くやっていました。
30年近い、そんなに長くなると綻びが出てくるようですな。
あなたの会社も彼とは長い付き合いのようですが、我々はそれより長い。
彼の父親が仕えていたニカラグアのソモサ時代からだ」
「どんなご用件で?」
「コピーがあるならすべて出しなさい」

口調が変わった、日本のヤクザに向かって命令形だ。
こんな口の利き方をされるのは入国拒否されて以来だ、こいつらの土俵じゃなかったら。
アメ公め、俺達を嫌ってるな。
日本にあるエンリケ関連の書類ばらす、とでも脅すか、北朝鮮、関係のもすべて。
世界のブランドCIAでも相手にできるとこ見せるか。

「命令ですか、ありませんよ。
ご存知だと思ってましたが車から書類とコピー千切ってばら撒きました。
あれがすべてです。何も残ってません」
「上山も明日中に帰国します。
彼の会社、エンタープライズは消えます。
チンピラ三人の金は彼らのものです」

何だと、勝手に話進めやがって。
「、、、、、、、、」
「何か不満でも、あなた達のヘリは無事でしたな。
明日で十分、満喫したハワイツアーも終わりですな」
「お富さん、日本には今回の件、その他、北朝鮮の偽札造りのコピー機輸出などあなたの会社関連のものがたくさんあるのですがね」
「そのことに関して伝えます。
もしあなた方が無事、日本に着けたらですが、
日本にある、すべてのルイス・エンリケ関連書類、記録、削除してもらいます。
確認のため家の者が伺います」
「拒否したら」
「宮沢組、組長の座をそんなもので捨てる馬鹿はいないでしょう。
これを縁に、我々の会社と何か出来るかもしれませんよ」


「純一、もしヤクザが何事もなく日本に帰るようなら考えがある。
ヘロインが5gある、奴らの盗んだスーツケースに入っていた残りだ。
明日、荒井のスーツケースに入れて空港で警察に通報する。
荒井は新しいの買ったんだろうな?」
「え!ヘロイン入れて?、、わかりました、細川さんにチェックしてみます」
「純一、腹くくれ、親父の仇を討てる最後だ。
荒井だけでもここの刑務所に入れる。
問題はヘロイン入れる時間があるかだ、奴ら、空港はリムジンだろう?」
「そうです、丸さんが運転手です」
「リムジンの場合、荷物は客と一緒だよな。
純一、添乗員に頼んで荷物、通常どおり家の荷物係が運ぶから四時間前にドア前に出すように言ってもらえ」
「チーフ、無理ですよ。
誰が頼んでも駄目です、絶対にやりませんよ」
「お前、短時間でスーツケース開けることは、、できないよな。
あの新聞記者さんだな、口の堅いエキスパートを探すように言ってくれ」

注:
Tommy:The Who(英、ロックバンド)のPete Townshend のロックオペラ、人間の再生を描く。

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genre : 小説・文学

続下はわいーい30:もしかして、モモは、このエントリをはてなブックマークに登録

30:もしかして、モモは、、

ホタルとモモが見つめている。
「戸昼は何だって?書類は?」
「書類のことは何も言ってませんでした。
盗んだスーツケースに入っていたヘロイン5gを専務のスーツケースに入れて
逮捕させるそうです」
「ヘロイン、、そんなのまで持って来ていたのか」
「スーツケース新しいの買ったか細川さんに聞いてみます」


「純君、社長は買ったけど、専務はスーツケース買ってないよ。
必需品は社長と沢村のスーツケースに入れるようだよ」
「買わなかったのですか?」
「二日ぼっちだからじゃないの。
三日分の下着、シャツ、上下のズボン、結局、沢村が選んで私が買わされた。
下着、一回、着ただけで捨ててるんだよ、頭にくるよ。
何かあったの?」
「いえ、細川さん、いよいよ最後ですね」
「100万近く自腹になりそうだよ。
会社は払ってくれそうもないし。
彼らのことだ、苦情出されたて私は首だ。
客がああだとこの商売はつらいね」
「明日、僕も6時にはシーサイドホテルに行きます。
どうも、いろいろありがとうございました。
今言っといた方がいいみたいなので」
「純君、こちらこそ、ヤクザのグループ扱わされたお陰で君に会えた。
ヤクザの嫌な思い出は君と会えたことで帳消しだ。
また来るよ、会社は違うだろうけど」
「待ってます。落ち込んでいるのではと思ってたので安心しました」
「何を言うんだね、純君、ドアにぶつけたおでこも治ってきている。
人間、捨てたもんじゃない。復元力があるってこと。
会社も人間と一緒で縁だよ、出会った人が悪かったと同じでね、
勤めた会社が合わなかった」
「もし上村通商グループが無事、日本に帰れなくても細川さんには影響ないですよね」
「変なことを言うね、例のお金に関連することなの?
私はもう首の身だ。
彼らがここで終身刑になっても構わない、、
いや、むしろそうなってもらいたいぐらいだよ。
あの渡したお金どうなるのかな、何か動きはないの?」
「何もないです。
現地のヤクザが探すのではないでしょうか」
「そうだよね、300万だもんね。
そんな大金、よく簡単に集められるよね。
でも、金があるだけで中身があれじゃあ生きててもつまらない。
金と人間性は反比例するね、これ、細川の反比例の法則ってね。
純君、ハリケーンはどう?」
「予報では進路を日本側に変えない限り大丈夫だと言ってました。細川さん、明日、六時にホテルに行きます。
お休みなさい」


「社長は買ったけど、専務、スーツケースを買ってないそうです」
「私がポケットに入れる」

誰が言ったのか想像つかないぐらいモモが平然としている。
「何を言うんだ、モモ!」
「お兄さん、私にやらせて器用だから出来る」
「モモ、ヘロインを入れるんだぞ、失敗したらどうなるか考えてみろ。
空港は警官だらけだ」
「私、エキスパート、出来るからやらせて!
もう12時よ、飛行機は9時でしょう?
チェックインまで時間がないわ」

エキスパートだと、スリだったのかよ。
俺は相手にしなかった。
「戸昼に電話します」


「チーフ、駄目です、専務、スーツケース買っていません」
「何だと、、じゃあどうするか?
ポケットに押し込むしかないな、新聞記者に聞けよ、純一」
「あのグループならどのスーツケースでもいいんじゃないですか」
「荒井が知らない、と言ったら拘束されるだけだ。
持ってるとこを捕まえないと」
「ダニーに聞いてみます」

ホタルが既にダニーと携帯で話していた。

「ダニーは協力できないと言ったよ。
ホノルルアドバタイザーの新聞社がそんなことをやったら潰れる。
当然だな、もうここまで深入りしている。
仮に、ダニーが会社辞めて、個人で協力したとしても新聞社の関与は取り沙汰される。
駄目だな、社長か沢村のスーツケースに入っている荒井の服に入れるのがベストだ、
どれが荒井のか分かればいいんだが」
「だから、私がポケットに入れるって!
任せて、絶対出来るから!」  

俺も、ホタルさんもモモを無視した。
ひどく応えたのかモモはどんでもないことを言った。
「私が昔シンナーをやっていたからヘロインを欲しがっていると思ってるんでしょう!」

何を〜〜〜〜!
俺が言う前に、ホタルさんの右手がモモの足を叩いた。
「馬鹿!そんなこと思ってない!
何てこと言うんだ!
モモ、俺達がそんなことを考えっこないだろうが、信用できないのか!」
「ごめんなさい。
でも、やらせて、どうしてもやらせて!」
「いいか、モモ、相手はヤクザだ。
顔を知られたら一生追っかけてくるんだぞ。
仮に上手く行っても、その内、荒井は出所する。
それにCIAがいる。
彼らはすべて見ているんだぞ。
変化がないのを見れば、彼らはヤクザをこのまま帰国させる気だ。
ダニーの話では、夜、黒スーツの男がシーサイドホテルに入っていったそうだ。
バーバーズポイント(Barbers Point.空軍基地)の人間らしい。
ここは表向き観光地だが、実質、軍事基地だ。
CIA、軍関係者、うようよしている。
何があってもおかしくない、彼らはどうとでも出来るんだよ、モモ。
だから駄目だ」
「でも、やらせて!
宇宙人のT-シャツがあるから大丈夫、やれる!」

また、なんてことを言うんだ、モモは。
前のデザイン《NOT OF THIS EARTH・地球外》と背中、金銀の2トンカラー、顔の長さが左右微妙に違った宇宙人の姿、、
これがあるからやれる?
確かにこのT-シャツ姿のモモは特攻隊員だけど、、狂ってる。
また、おなじことを言った。
「このまま,帰すの!
お父さん、明の仇よ!
絶対に帰さない、私、一人でもやる!」

目が、、モモの目が尋常じゃなかった、、
どうして、ここまで、、
海で生活できる人間はわかるのよ、と、この前、言った。

どうなってもいい、と、、どうして、、

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31:免税店・健さん

「モモ、どうしたの?今までのモモじゃない。
なぜそんな危険なことをやりたいの?」
「純はこのまま帰す気?帰ったらもう何も出来ないのよ。
あなたのお父さんが彼らに殺されたのよ」
「モモ、駄目だ、忘れろ!絶対に俺が許さない。
最近、楽器にも触っていないようだし、どうした?
何を思いつめてる?教えてくれ、モモ」
「、、、、、、、、、」
「俺達がやれることは十分やった。後は運に任せる」
「お兄さん、何をやったの、何もやってない。運って、何に任せるの?
何もしなかったらこれで終わりでしょう?」

モモの言うとおりだ、何もやっていない。
どうしたらいい、逆スリは駄目だ。
社長か沢村のスーツケースに入れた荒井の服に忍び込ませるしかない。
でも、時間がない、鍵を開けても、どれかわからない荒井の服にどうやって入れる。
モモはまだ自分でやるつもりなのか、目がぎらぎらしている。

「ホタルさん、どうします」
「止めよう。仮に上手く行っても荒井がどのくらい刑務所行きになるのか。
たった5gだ、キロじゃない。売買用でない場合はたいした刑期にならない。
新聞沙汰になるからアルマニのスーツを求めるハイエナ弁護士連中が名前を売ろうと集まってくる。上手く司法取引して強制送還で終わりだ。リスクが多い。
モモ、わかっただろう。5gじゃあ知れてるってことだ。
モモが捕まるリスクとヤクザの刑期とは釣り合いが取れない、死刑でも何でもね」
「ホタルさん、戸昼に電話します」


「チーフ、ホノルルアドバタイザーバのダニーは駄目でした。
新聞記者がヘロイン入れるのに加担できない、会社潰れると、止めましょうか?」
「何も奴らに起きてないんだろう?このまま帰すのか?」
「仕方ないですよ」
「俺は明日、仕事に出る。純一、期待してろ」
「チーフ、止しましょうよ!
昨夜、男が専務の荒井を訪問したそうです。
ホタルさんの話では、バーバーズポイント(Barbers Point.空軍基地)の人間らしいです。
CIA、軍、が彼らを見張っていると。危険ですよ、チーフ」
「荒井が何を着ていたかわかるか?
到着時、ベージュのブレザーみたいなのを着ていたよな」
「え!チーフ、、」
「いいから言え!純一、ポケットがある奴だぞ!」
「、、、、、細川さんが買ったのは多分捨てていくし、他は、、」
「何ぶつぶつ言ってる」
「部屋ではナイキのロゴが左胸にある白のゴルフベストを着てました。
右胸に小さくGod fatherのロゴ 、その上に健さんとあって男のイラストがありました」
「God father、何だそれ、古い映画だな。健さんって誰だ?」
「多分、昔、ヤクザ映画のカルトヒーロの高倉健のことだと思いますが、イラストが別人でした」
「お前、今日仕事か?朝、七時前にエアポートに来れないか?
早い方がいいんだが、奴ら四十分には着く」
「行けます。六時四十分前に行きます」
「社長と沢村のスーツケースを聞いとけよ」


「戸昼はやる気なのか?」
モモが目の前にいた。戸昼は止めると、言いたかったが会話の内容を聞いていた。
「わかりません、明日、仕事に出るそうです」
「東都ツアーズのエアポート勤務だよな」
「はい、上村通商の面倒をエアポートで見ます」
「純も行くのか?」
「はい、荒井の服とスーツケースを見てもらいたいようです」
「戸昼はスーツケースに入れる気か?鍵は?こじ開けたら疵が残る」

朝、三時に目が覚めた。こんなんじゃあ眠れない
外は風が強くなっていた。ハリケーンの進路が特定できないと、テレビで予報官が言った。
空港に確認すると平常どおり離着陸は許可されていた。
四時まで時計と睨めっこをしていた、待ちきれない。
細川さんに携帯をかけた。
モモの言うとおりだ、親父の仇だ、今しかない。
ヘロインを入れる、、刑期なんて関係ない、その気になっていた。

寝ている、、切ろうとした、、声が低く唸った。
「う、、、、、、」
「細川さん、橋本純一です」
「、、、、、、純君?」
「細川さん、こんなに早く起こしてしまってすみません。どうしても知りたいことがあって」
「純君、、どうしたの?もしかして飛行機、飛ばないの!」
「いえ、今のところ問題ありません。別のことでお聞きしたいことがあって、
専務は滞在中どんな服装していたか教えていただけませんか?」
「服装、、、変なこと聞くね」

事情を話すしかないと思った。
やはり細川さんの助けがいる、それに上手くいけば迷惑をかける。
ヤクザとはいえ、人を罪に陥れる行為だ、許されることではない。
断られて当然だ。そうなったら、止めるよう、チーフに言おう。
親父のこと、これまでのことをすべて話した。

「純君、私がやれることなら手伝うよ」
ほっとした、でも、こんなことに巻き込んでいいのかまだ自問していた。
「ありがとうございます。もし何かあったらすべて関与していない、知らないと否定してください。僕達もそう言いますから」
「わかった。出来るだけのことをやろう。
ポケットがあるのね、、ベージュのブレザー、白いベスト、私が買った茶色の上下のラルフローレンの夏用のスーツに、ルイジのワイシャツ、、」
「細川さん、ルイジですか?」
「そう、ルイジ、300$もするシャツだよ、そのぐらいかな、まだ何かあったような気がするけど」
「社長も同じものを買ったのですか?」
「ルイジのシャツだけおなじだ、白。社長のローレンのスーツは青だから違う」
「部屋ではシャツに白いベストでしたよね」
「そう、健さん、高倉健のベスト、でもあのイラストは荒井自身だよ」
「そう言われてみれば、」
「でも、どうやってスーツケース開けるの?
私が買った社長のは最新式だよ。短時間で疵なしで開けるなんて無理じゃないかな」
「細川さんが買ったのですか?」
「そう、何から何までだよ。
純君、閃いたんだけどいっそのことおなじスーツケース買って入れ替えたら」
「何処で買いました?」
「免税店、ワイキキの、、ああ、確か八時オープンだ、駄目だ」
「メーカーわかります?」
「カタログ持ってるよ。社長が選ぶと言われたのでね、、ちょっと待ってて」
「エアポートにも免税店ありますよね」


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続下はわいーい32:戸昼このエントリをはてなブックマークに登録

32:モモ


その後すぐ戸昼に電話してスーツケース工作のことを話した。
「純一、添乗員に荒井達とスーツケースを離すように言え。
彼らだけ日航前で降ろして持たせるな。東都の人間が運ぶと言え」
「変に思いませんか?」
「変どこじゃないことをやろうとしてるんだぞ。
勝手に思わせとけ。
あの人込みだ、スーツケースぶっ壊して入れ替える場所がないんだよ!
事務所内は無理だしな、誰かいるし、運ぶ時間もない。
ラルフの会社のバンだな、、。
純一、椰子の木とCOCONUT運送のロゴが入ったバンを日航前から20m先辺りに駐車しておくからそのすぐ後ろに駐車するように丸さんに言え」
「バンの中で?丸さんが見ていますよ」
「俺がなんとか丸さんを離す、いいな!」
「CIAも見てます」
「やるしかないんだ、純一!
最後のチャンスだ、腹くくれと言っただろうが。
スーツケース持ってどこで壊せってんだ、場所がない。
5分、10以内にやらないとヤクザが変に思う。
お前はロビーでヤクザ連中の機嫌を取ってろ」
「ココナツ運送の大男を沢村が見たらすぐわかりますよ」
「奴は壊し屋だ、バンから外に出ない」
「チーフ、上手く行ってもヘロイン5gじゃあ刑期はそんなに多くないようですよ。
ホタルさんはリスクが多いと言ってました。様子見ませんか」
「純一、刑期なんてどうでもいい。
殺人者を弁護士が無罪に出来る国だ、司法には期待していないよ。
あいつをどうしてもこのまま帰したくない。
刑務所に入れたい、それが一日、二日でもな。
ケツでもこの国の悪に掘られたら最高だ」
「仮に捕まったら、と考えたことありますか?
添乗員の細川さんに事情を話しました。
他人にも迷惑をかけそうなのでやらないほうがいいのかなと、、」
「お前なんだ、怖気づいたのか!
親父が何された、あいつらにひき逃げされたんだろうが!
捕まったら、俺が全部かぶる。戸昼が仕組んだと言え。
お前の親父が生き返らせてくれた死んだ体だ」
「CIAが見ています。
何も起こらないのはこのままヤクザに帰ってもらいたいからじゃないでしょうか」
「アホ!何度、同じことを言わせるんだ、純一!
CIAが見ていようが関係ない。お前たちは知らないと言え!」
「はい、わかりました。なるべく早くエアポートに行きます」
「純一、駐車の件はそのとおりにしろよ!
スーツケースの情報わかり次第、携帯にな!」

すごい剣幕だった。
戸昼は怖い、とことこやる気だ。
どうなってもいいようだ、どこか似ていた、、モモに。


五時四十分にシーサイドに行くと、細川さんの背中が見えた。
コーヒーを飲んでいた。
やっぱりこの計画は駄目だ。他人を巻き込んじゃ駄目だ。
「細川さん、あんなに早く電話してすみませんでした。
上村グループの帰国のことも何もやらなくて御免なさい」
「何言ってるの!問題ないよ。
六時にウエスタンビーチ泊まりのグループもここに集合する。
ほら、これだよ、私が買ったの、ベージュの品番#####。
持ってていいよ」
「すみません、こんなことに巻き込んで。
まだ決心がつかなくて、細川さんに断られたら止めるように言うつもりでした」
「純君、一人じゃないの?」
「死んだ親父の知り合いがいます。
今から僕、エアポートに行きます」
駐車の件とロビーでヤクザと出来るだけ一緒にいるようにお願いした。
「わかった、さあ、早く空港行ってスーツケースあるか探したほうがいい。
彼らがもう降りてくるよ」
「細川さん、日航前で降りて彼らから絶対に離れないでくださいね」
これぐらいしか出来ない。空虚な言葉だ。
「了解した。ハリケーン大丈夫?風かなり強いよね」
「今のところは」
「そう願いたい。もう一日、付き合わされるのだけは勘弁してほしい」
細川さんはハリケーンではなくて別のことで不安そうだった。

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33:モモ


ホテル横に停めていた車にビーナスが寄りかかっていた。
モモが朝の日差しを浴びている。
美しくて可愛いい、誰が見てもそう思う。
でも、モモはいつも一人だ、知っている限り友達がいなかった。
遠ざけているのか、一人でいることを好む子だった
なぜ自分の素晴らしさがわからないのだろうと、思っていた。
本当のモモは苦しんでいる、この世にいることに苦しんでいる。

「どうしたの!こんなとこに!」
「空港行くんでしょう?連れてって」

否だと言えなかった、言ったらモモが自分を永久に見放す。

「乗れよ」モモが笑った、太陽の日差しも笑っている。
モモの心に、出口に、少し入れたように感じた。
こんな笑顔を見られるなら、なんでも、したい、してやりたい、でも出来そうもない。
あのことだ、今のモモの頭の中には逆スリのことしかない。
平和なのは今だけだ、どうせ喧嘩になる、どうしてもさせないのだから。

モモが助手席に座っている。
幸せだった、ハワイに来て一番に近い。
初めて会って話したときと同じぐらい幸せだった。
多分、彼女は僕のこの気持ちなんか知らないだろう。
戸昼にスーツケースの情報を知らせるのはどうでもよくなった。
今はモモと景色、車の流れる様を見ていたかった。
うわべだけでも同じものを見ていたかった。

「純、私にとってあなたは最高にいい男よ」
過去形じゃなくてよかったと思った、、なぜそう?
「餓鬼から男に昇進したってこと?お世辞でも素直に嬉しいよ。
モモのこと気になって死にそうだったから」

モモが見た。
なんでこんな言葉を、馬鹿だな俺は。
でも出てしまう、彼女の前では。
モモの中に入りたかった、何でもいい、もっと彼女を知りたかった。
嫌なことでも、気に障ることでも、言葉を選んでいたら中には入れない。
何も考えずに、感覚で話したほうが通じる。
モモがそうだからだ。

動いている、モモと二人で、誰もいない。
普段から喋るほうではない。
自分のことなんて誰もわかってくれない、と思っている。
だから言葉を途中で投げ出す。でも、なんとなく彼女の気持ちがわかるときがある。
この前も、途中で言葉が消えた。
僕がわかろうと、理解しようとしているのは少しは通じているはずだ。
真剣に彼女のことを思っている。
それだけでもわかってくれればいいと、思っていた。
もう、そうは思わない。僕は本当に彼女のことが心配だ。
音楽も最近やっていないようだ。
繋ぎ留めていてくれたものもどうでもよくなったのか?
この数日、モモは変なことばかり言った。

動物園の亀を逃がしたい、、海で生活できる人間はわかるのよ、
宇宙人の顔の長さは左右微妙に違うのは普通じゃないから、、
私は地球に住めない宇宙人、、スーツ姿の自分は偽者、別の人間、、私を好きにならない方がいいわ、、
ルイス・エンリケとヤクザを道連れに自爆したい、、
、、、変わるのも、、変われないのも、、

今日のモモは宇宙人のTシャツだ。少し窮屈そうだ。
T-シャツを重ね着している、宇宙人にすがっている。
沢村が見たら桟橋で会ったと気付いてしまう。
薄いジャケットを脱いでモモにかけようとした。
左手が伸びてきた。前を向いたまま知らん振りしている。
手を通してくれということなのか。

肩にかけて左手を取って素手に通そうとした。
かなり際どかった、左手はハンドル、右手で必死なのに知らん振りだ。
こんな従順な彼女を見るのは初めてだ。
幸せだった、こんなことで、でも本当に幸せだった。
スピードを落としたので後続車がバンバーにぶつかるぐらい接近してくる。

なんとか左手は通し終えた。右手は無理だ。
途方にくれてジャケットも肩からぶら下がっている。
横顔が90度動いて僕を見た。
目が濡れていた。

モモがどうしたかったのか、わかった。
このまま遠くに、僕と一緒に遠くへ行ってもいいと、

「純、キスしてくれない」
触れた、止まった、時間が完璧に止まった。
死んだ、体が、脳みそが、僕が死んだ、モモの唇と触れて僕は死んだ。
片思いもここまでやれたら思い残すことはない。

途中で消えた言葉の続き
“、、変わるのも、、変われないのも、、”がわかった。
色弱、字が書けない、シンナー中毒、ではなかった。
“変わるのも、変われない自分も”、いやなのだ、
自分自身が嫌いなのだ。

クラクションの雷が落ちてきた。





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