下はわいーい 1:.デビアス ダイヤモンド市場 このエントリをはてなブックマークに登録

はわいーい 下巻


概要(上巻)

18歳でハワイに来た純一、16歳でシンナー中毒、退学したモモ、彼女の兄、ミュージシャンのホタル、3人は偶然、父親同士が友達だったと知る。
二人は不可解な死を遂げていた。ホタル・モモの父親は高速道路でパンク修理中に狙撃死、純一の父親はその6ヵ月後、ひき逃げで亡くなっていた。いずれも犯人は捕まっていなかった。
3人は、広域暴力団のハワイツアーを契機に真相を探ろうとした。

1:デビアス ダイヤモンド市場
2:偽札 Supernote
3:シーカヤック
4:ラルフ・ヨハンソン
5:父さんの死
6:イシル マヤ・キチェ村
7:あわてる沢村
8:マヤ神話
9:アラモアナ
10:サーフィン
11:モモに首ったけ
12:亀のモモ
13:サディスト・沢村
14:キリスト
15:ハリケーン
16:軍事おたく
17:ハイビスカス
18:戸昼はハリケーンの神
19:お見合い
続下20:光
  21:命拾い
  22:蟹男
  23:モモ
  24:CIA
  25:これで終わり?
  26:万事休す
  27:ハワイアン
  28:強姦魔 米国
  29:Tommy or お富さん
  30:もしかして、モモは、
  31:免税店・健さん
  32:モモ

登場人物

高井ホタル:ミュージシャン
高井モモ:元不良。ミュージシャン
高井千恵子:ホタル、モモの母親
高井直人:ホタル、モモの父親。日系3世
橋本純一:東都ツアーデスク勤務 
橋本明:純一の父親
荒井邦男:暴力団,宮沢組幹部,上村通商専務
上村正一:宮沢組幹部,上村通商社長
荒井君夫:上村通商部長
宮沢寅吉:広域暴力団、宮沢組会長
沢村拓司:ボディガード
マイケル・タケ:舎弟
上山義勝:ダイヤモンドヘッド・エンタプライズ社長
細川肇:上村通商ツアー添乗員
倉田寿子:留学生
結城真理:修道女
戸昼アキラ:グアテマラ・マヤ、キチェ族
ラルフ・ヨハンソン:戸昼の仲間、ココナツ運送勤務
ルイス・エンリケ:ハワイの実力者、武器商人
ダニー・レイボーン:ホノルルアドバタイザ紙、記者

 フィクションです。


1:デビアス ダイヤモンド市場

戸昼、ラルフ・ヨハンソン、倉田寿子の3人は、カパフル図書館で借りてきた本、NETを参考に書類を調べた。
 

ルイス・エンリケは1998年まで、アンゴラのダイヤモンド密売に関わっていた。

アンゴラでは1975年、ポルトガルから独立後、MPLA、FNLA,UNITA(注)、3つ巴の内戦が勃発した。
アフリカの米、ソ連による代理戦争、南アフリカ、ザイールなど隣国を巻き込んだ資源戦争だった。
死者50万、数百万が住んでいた土地の立ち退きを強制された。
FNLAは84年に降伏したが、MPLAとUNITAは停戦協定を無視して2002年まで戦い続けた。

UNITAを含めたアンゴラの反政府組織は、ダイヤモンドの密輸で約40億$余りを稼いでいたので和平を望まなかった。
1992年の選挙結果を拒否して、意図的に94年の和平協定に違反した。
内戦当初からUNITAを支援していたCIAに武器調達を依頼した。
CIAは中米(注)と同じように表に出ることを恐れ、ルイス・エンリケを仲買者として武器を調達した。
98年にダイヤモンド禁輸などの制裁を国連によって科せられるまで、UNITAはダイヤモンド原石で代金を支払っていた。
それらの原石は軽飛行機でザンビア、コンゴの国境まで運ばれ、密売ルートでカルフォルニアまで運ばれていた。
その原石の一部を、ルイス・エンリケは宮沢組に卸していた。

UNITAは,1998年の国連決議を無視して1999年、北朝鮮から武器を購入した。
依頼されたのはエンリケだった。
国連の目があった、イスラエルから購入できなかったので、北朝(注)とのコネクションを利用した。

2002年、UNITAの崩壊とともにアンゴラに和平が達成され関係が途絶えていた。
5月にUNITAの残党からルイス・エンリケに連絡があった。

4月にリベリアのダイヤモンドの禁輸が国連によって解除された。
打撃をこうむったシンジケートが、アンゴラ、シオラレオネ、コンゴ、リベリアのダイヤモンドの卸し先を探しているので助けて欲しいというものだった。

ダイヤモンドは2000、2002年のキンバリープロセス(注)の強化で紛争地のダイヤモンドは売買が難しい状態になっていた。
しかも、そこには一世紀以上も世界のダイヤモンド市場に君臨するデビアス社という厄介な問題があった。

デビアス(Dee Beers)社は一世紀に渡ってダイヤ市場を独占していた。
90億$分の原石は、カットされ、磨かれ140臆$に、卸されて280億$、最終的に570億$で売買されていた。
とてつもない巨大市場だった。(2002年)

デビアス社は、アフリカ・ダイヤモンド鉱山の7割を所有し、
全世界ダイヤモンド生産の4割を占め、以前の8割から落ちたとはいえ、
世界の宝飾ダイヤモンド流通の半分以上を押さえていた。
デビアス社が年、10回催す原石内覧会(サイト)が世界へのダイヤ流通の出発点だった。

招かれる業者は世界で120社あり、それらサイトホルダーと呼ばれ会社の半数近くがベルギーのアントワープにあった。
サイトでは、サイトホルダー毎に小箱に入っている原石が用意されていた。
石の形、価格の希望は出せてもその保障はなく、買うか、買わないかの選択を迫られ、2度続けて断るとサイトには招待されない、といわれるほど市場を牛耳っていた。

依然、アフリカの反政府勢力からダイヤモンドを購入しているという、きな臭い噂が流れていた。
それを打ち消すため、2年前、アンゴラ政府系採鉱会社(SDM)の購入分を除きアンゴラでの原石調達を控えると発表した。
そこを突いたのがイスラエルのレバイエフ社とベルギーのオメガ社だった。
両社はデビアスの10倍、税金を掛けれられてもいいからSDM分も含めて原石の独占購入権を手に入れようとアンゴラ政府に働きかけた。
功を奏して、去年、政府と折半出資でアスコープを設立した。
これに対抗してデビアス社はSDMとの独占契約は有効だと反発して原石を徹底的に追跡する作戦に出た。
去年暮れに、アントワープ空港の税関でダイヤ原石の小包2個が差し押さえられた。
荷主はアスコープ。
差し押さえをブリュッセルの商業裁判所に求めたのは、業界の雄デビアス社だった。
カナダ、オーストラリアで新鉱脈が発見され、デビアス社の独占支配体制が揺るぎ始めていた。

ルイス・エンリケが参入しようとした背景には、これらの情勢の変化があった。
日本に送る際は、原石ではないというカモフラージュが必要だった。
カルフォルニアにあるクリスタル・エクスペリメント社がそれを解決してくれた。
原石の表面にフッ化物を真空蒸着して特殊加工をして、模造ダイヤモンドに似せることに成功した。
エンリケは模造ダイヤモンド(ジェバライト・ダイヤモンド)として日本に送る計画だった。
それでもレーナー式宝石鑑定用屈折計(屈折率を計る)、
ダイヤモンド軟X線透視鑑別器、分光器、
などをクリアするのは不可能だったので税関員を抱き込む作戦も密かに進行中だった。

宮沢組は密かに、ダイヤモンドの取り引きが集中しているベルギー・アントワープに数人を派遣して研磨加工技術の習得に当らせていた。
最近、ダイヤモンドが、耐熱性、熱伝導性の高さ、伝導率(不純物を添加することによる半導体化の試みもなされている)の観点から究極の半導体として脚光を浴び始めていた。

エンリケは、シンジケートが提供できるすべての原石を購入する計画だった。
装飾用は原石の2割しか使えなかったが、残りの8割は産業用として使える。
将来、半導体としての価値が極限まで増大すると読んでいた。
日本、米、ヨーロッパ、どこも欲しいはずだ。




ルイス・エンリケと中米:
1977年に誕生したカーター政権(在位1977~1981)の人権政策で、米は1978年にニカラグア、グアテマラ、エルサルバドルに武器輸出できなくなった。
その間隙を突いたのがイスラエルだった。以来、CIAは国際社会の目を恐れ、イランゲートが86年11月、発覚するまで、イスラエルとの仲買をルイスに任せた。

エンリケと北朝鮮;
ルイス・エンリケは1992年,イスラエル(モサド)から極秘に要請を受けた。
イスラエルが北朝鮮の金山ウンサンを開発するから、見返りに、イラン、シリア、リビアにミサイル、スカッドを売らないように北朝鮮に働きかけてくれというものだった。
別のルートで北朝鮮が、よりによってイスラエル外交部と同じような交渉をしていたのが判明して失敗した。
この時、エンリケと北朝鮮政府・高官とのパイプが確立された。

キンバリープロセス(Kimberly Process):2002年、ダイヤモンド原産地証明の義務付け管理制度。

アンゴラ内戦(1975~2002):米、南アフリカ、ソ連、キューバ、ザイール、米ソ・代理戦争、資源戦争。

UNITA:アンゴラ前面独立民族同盟,
米、南アフリカ支援。中、南部・ダイヤモンドを資金源

MPLA:アンゴラ開放人民運動、ソ連・キューバ支援、北部・油田を資金源

FNLA:アンゴラ開放民族戦線、米、ザイール、中国支援。南部、84年、降伏


theme : 連載小説
genre : 小説・文学

下はわいーい 2:.偽札 Supernoteこのエントリをはてなブックマークに登録

2:偽札(Supernote)

書類には、模造ダイヤモンドの売買契約書、基本取引条件協定書、契約期間、原石の原価、各種保険料、支払い条件、運送方法、積込価格、コンテナ貨物、用船貨物、航空貨物、倉庫料、売り手と買い手の権利義務、売り手の責任、クレーム、受け入れ予定税関場所、等がきめ細かに記されていた。


SUPER Zに関する記述があった。
戸昼がにらんだとおり、偽札(Supernote)のことだった。

エンリケは、ピョンヤンのチャングアン(Changgwang Street)通りの政府建物内にあるOffice 39と関係があると記されていた。

Office 39は、キノコ、朝鮮人参から覚醒剤、偽造タバコ、
ミサイル技術、偽札を扱っている非合法活動,部署だった。
同じビルにはOffice38とOffice35があり、前者は39で得た金を管理し、35は誘拐、殺人を行っていた。

金日成が亡くなった翌年、1995年、エンリケは北朝鮮に依頼され、上村商事を通してスイス製のIntaglio印刷機(注)を購入した。
ピョンヤン郊外、ピョンソンにあるPrinting House6で偽札製造に使われた。

それまで、不完全なSupernote偽札に悩まされていた米は、1996年、$100新札を発行した。
特殊な、見た角度で色が変わるインクO.V.Iを使用した。
紙幣の右下の数字がメタリックグリーン、裏は黒になるようにした。
スイスのSIPCAがO.V.Iの製造元で、米は“メタリックグリーンと黒の組み合わせ”色の独占権を買い入れ偽札を阻止しようとしたが、北朝鮮も同じ年に“深紅(magenta)と緑”のO.V.IをSPICAから購入した。
エンリケが仲買をし,上村商事がベトナムにある会社名で買い入れた。
深紅は見ようによっては黒に見えた、偽札作りが続行された。
1998年に完成度の高いSupernoteが完成した。

持ち出しルートは二つあった。
北朝鮮外交官が真札と偽札の比率を半々にしてモスクワ経由で出国し、モスクワ・北鮮大使館がばらまいた。
それと、数千の船が、コンテナに混ぜて東海岸のナジン(Najin)と西海岸のナムポ(Nampo)から持ち出すルートがあった。
国際海上輸送システムにのるため、中国、韓国、日本を必ず経由した。
特に中国では検査がなかったのでフリーパス状態だった。

マカオのBanco Delta Asia以上にBank of Chinaマカオ支店が関わっていたが、中国との関係を考慮してBushは摘発を控えた。

北朝鮮偽札売買価格、偽100$が70$、年、5百万$用意できると文書にあった。


この数時間、もぐもぐしていたラルフの口からバドワイザーの缶の蓋が灰皿に落ちた。
「へえ、たいしたもんだな。
ますます500は固いって気にさせてくれるぜ。
エンリケが北朝鮮と関係があるなんてな。
戸昼、どうやって暴力団と接触する?」

戸昼は既にそのことを考えていた
直に接触するのだけは避けたかったので間に連絡係を置くことを考えた。
橋本純一だった。
彼を窓口にしてラルフを交渉役に使えば自分は安全だ。

東都ツアーズのハワイ現地法人社長は仏系韓国人で、13の時、一人でハワイに来て生活していた戸昼をひどく可愛がってた。
社長自身、13の時、朝鮮戦争の影響でパリで孤独な生活を余儀なくされた過去があったからだった。
ハワイで5指に入る代理店で、22でデスク・チーフになり有頂天になっていた。

純一がウエスタンビーチ・ホテルのツアーデスクに配属されてきた時、日本から来たばかりの18歳の若者に仕事を教え、いろいろと面倒を見た。

約半年前に落とし穴があった。
戸昼は子飼いのスタッフ数人と示し合わせて、会社にばれないようにツアーの売り上げ金やデスクで販売したものを計上せず遊ぶ金として使っていた。
売上金を猫ばばしているのを純一に知られ、仲間に加わるように説得したが失敗した。

黒木に何度か純一の他ツアーデスクへの転属を願い出たが無視された。
あれだけ世話をしてやったのに彼は黒木に直訴した。
おかげで朝、5時半始業の空港荷物スタッフに降格され、以来、寝不足状態が続いていた。
この怒りはまだ納まっていなかった。

「明日一番に純一がいるウェスタンビーチ、ツアーデスクに電話をかける。
問題は金をどうやって手に入れるかだ。
何かないか」
「よく映画なんかで出てくるケイマン諸島とかの銀行に送金させるってはどうだ?
それだと素性は割れない」
「偽名使おうが口座情報なんて知るのわけない。
金を転送してどこで引き出そうがすぐに追手が来る」

寿子がやけにおとなしく書類を読んでいる。
「その純一って子はあくまでも連絡係として利用するの?」
「取次いでもらうだけだ」
「ダイヤでもらう手もあるわよ」
寿子は鼻の穴を膨らませた。
書類の内容を読んでむしろ積極的な気持ちになっていた。
相手が暴力団だろうがもうどうでよくなっていた。
「取り引きは明日だぞ」」
「じゃあ、どうするのよ」
「一番確実な現金でもらうさ。
俺に考えがある」
「明日なんてやっぱり早過ぎないか。
一日で500なんて金できるのか。
これがあればいつでも脅せる」
「そうよ。
時間かけてもっと取りましょうよ!」
「2度と言わないからよく聞けよ。
時間が経てば俺たちなんてすぐばれる。
エンリケが知れば寿子、お前なんてすぐ見つかるぞ。
エンリケが盗まれたの知らないので終わらせるのがベストで安全だ。
金は相手が作れるだけでいい。
スーツケースの持ち主の荒井と上村は暴力団、宮沢組の代表としてここに来た。
大事な契約前にへまをした。
宮沢組の会長に報告せず、自ら解決する道を選ぶように仕向けるのがベストだ。
明日中に取り引きが終わればすべて万々歳だ」
「でも明日って、、」
「寿子、2度と言わんぞ!」
明後日以降はルイスが出てくる。
お前は確実に殺される。
明日の夜決行だ」
「で、どうする?」
「ラルフ、明日は仕事を休んで8時にウェスタンビーチホテル、東都ツアーズデスクに電話しろ。
橋本純一にスーツケースで取り引きしたいと言え。
100万で売りたいってな」
「300にしようぜ」
「俺の計画では300万運ぶには重い。
相手が作れる金でいい。
欲を掻くと失敗する」
「ちぇっ、面白くないな。
100万を3人じゃ割り切れないぞ。
戸昼、勿体振らずにその計画とやらを話せよ。
運ぶのに重くて削られたんじゃたまらないからな」
「寿子も休んで、この文書、コピーしてくれ」
「あ、、、分かった!
コピーでエンリケを脅して金を取るのね!」

注:
Intaglio:イメージを刻んで、彫って印刷できる印刷機。
O.V.I(Optical variable ink):見る角度によって色が変わるインク
2006.7/23 NY Times電子記事参考

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下はわいーい 3:. シーカヤックこのエントリをはてなブックマークに登録

3:シーカヤック


戸昼はラルフと寿子をじらすように深呼吸をしてゆっくり息を吐き出した。
「友達にバリーカヌー社のアリュートシー2型というスピートが出るシーカヤックを持ってるのがいる。
古いが走る。
三つの完全防水ハッチ、二つにばらして車に積むことも可能だ。
金を受け取った後、ラルフはサーフボードで沖に出る。
俺がシーカヤックで待っている。
サンディビーチ(注)まで行って寿子の車に積み替え、ここまで運ぶ。
どうだ?」
「金をお前に渡した後、俺は?」
「サーフでもして遊んで戻ってこいよ。
俺たちは10時過ぎに戻る」
「金はお前達が持つのか、、、?」
「心配か?
じゃあサーフボードでついて来いよ。
サンディビーチなら1時間かからない」
「そうする」
「取り引き場所は日没に近い午後8時、カピオラニ公園にある桟橋のとっ先だ」
「とっ先?」
「カパフル通りの突き当たりじゃない、それから4、500m先の公園内のもう一つの方だ。
ゲイの連中が多い」
「幅が狭い方だな」
「合流地点はダイヤモンドヘッド・ビーチ沖1マイル(約1.6k)
辺りにしたい」
「シーカヤックか?
それで重いって訳か」
「問題はサーフボードだ。
100万がどのくらいの重さになるのかは分からん」
「取れるだけと取ろうぜ。
大丈夫だって、300で行こうぜ」
ラルフが執拗に言い張った。
「そう言ってもな、この書類を見る限りまだ計画段階のようだ。
100を払うかも疑問に思ってるとこさ。
明日の夜まで時間もないしな」
「奴らが会長にへまを報告した方が金は上がるんじゃないか。
エンリケに頼めるからな」
「エンリケが第三者に秘密を知られて計画を進めると思うか。
どこも欲しい。
暴力団に売る必要なんてない。
気がかりなのは、この荒井と上村が保身のために動く人間か、だ。
彼等が手を引いたら終わりだ。
100万、、難しいかもな」

寿子の目が光っている。
「この書類で脅せないの?
FBIに持っていくと言ってさ」
「そうだ!
これで脅せるぜ!」
「今そこまで考えてない。
コピーがある。
いずれ時間をかけて考えよう」
「明日、暴力団から巻き上げて、取引成立させた後、また吹っかけるのね?
それって、、いいよ!
最高よ!」

そのことも考えた。
うまく行けば、かなり踏んだくれる。
しかし、確実に割り出され殺される。
ヤクザが出す金で止めるつもりだった。
コピーは保障のためだけに使うつもりだった。
明日中に取り引きを終わらせるには、相手の用意できる金で手を打たなければ、。
そもそもスーツケース盗みを計画したのは自分だ。
一人では不可能だったので寿子とラルフを誘った。 
これまでに抜き取りを3回遣った。
既にスーツケースの鍵が壊れていたのがあった。
金目の物が入っていなかったので、ラルフが運搬途中に物色したと感じた。

こいつらはいい気なもんだ。
明日以降も金を踏んだくれると思っている、、命と代償に。

死に何度か直面したことがあった。
幼いころ、兵隊に追われてグアテマラ、マヤ、イシルの部落から必死で逃げた。
お父さん、お母さんは殺され、一人になってしまった。
あの、日本の旅行者がいなかったら自分はこの世にいない。
空のバックバックに自分を押し込んで軍のチェックポイントを通過した。
彼は命がけだった。
自分などに関わらなかったら、日本から来た旅行者で簡単に通過できたのに、自分が見つかった時、何度も、殴られ、蹴られ、聞いてて恥ずかしいぐらい哀願していた。
それまでして助けてくれた。


「明日の分は300で行くぜ。
どのくらい出せるか様子を見るためにな。
戸昼、合流地点だが、辺りは暗い。
上手く落ち合えるか心配だ」
「じゃあ、合流地点はお前が決めろ」
「そう怒りなさんなって。
ダイヤモンドヘッド沖はあの時間、まだサーファーがいる可能性がある。
いっそその先のブラックポイント(ワイキキ沖)にしようぜ。
ブラックポイント南東約2マイル(2.6k)地点」
「ああ、いいよ。
おさらいしよう。
明日、寿子は休んで書類のコピー、夜、サンディビーチで待機。
俺たちは9時前後に着く。
俺は疑われるから休めないが口実作って早退する。
朝8時以降になるか、、。
ラルフは8時に純一に電話して取り引きしたいと告げる。
金がいつまでに用意できるか10時に電話をすると言って切れよ。
彼の携帯番号を聞いて、それを窓口にすると言う」
「デスクにはその橋本純一しかいないんだな」
「多分もう一人スタッフがいるはずだ。
スーツケースの件だと言えば純一が出てくる。
奴がデスクのチーフだ」
「ウェスタンビーチの東都ツアーズに電話したら、戸昼、あなた怪しまれるんじゃないの?」
「ラルフが純一にスーツケースにウェスタンビーチ・東都って書かれたテープが付いてたって言えばいい。
なあ、ラルフ?
荒井と上村って漢字で書いたぐらいだ。
パンチパーマがどんなのが付いてたなんて覚えてないさ」
「その東都と書かれたテープはいつも付けてるの?」
「ウェスタンビーチ・ホテル滞在者に付けてる会社の正規のテープだ。
家の会社の人間がやったと思わせる。
あんなテープ、誰でも入手可能だ。
調べても分からんよ。
パンチパーマが女性にスーツケースを預けたと言ってるはずだ。
これで寿子は安全圏だ。
あのチャイナ便の時、荷物係は男しかいなかった。
俺もセーフってわけだ」
「面白くなってきたわね。
昼間、私は何をやったらいいの」
「純一との連絡はラルフがやる。
ヤクザに日本人が関わっているのを知られたくない。
パンチパーマに出くわしたらやばいし。
とにかく、皆ここで待機だ」
「分かったわ」
「サンディビーチは俺のダッジのトラックを使ってくれ。
まあ、、車は明日、また考えよう。
ラルフ、お前は当分、仕事休め」
面白くないって顔だ。
「ボス気取りだな」
「何か気に食わないことでもあるのか。
何か考えがあるなら言えよ。
いい計画なら喜んで従うぜ。
俺の計画で行くなら金を手に入れるまで我慢しろ。
それから電話は絶対に公衆電話を使えよ。
ハワイ大近くのアパートに帰らず当分ここにいろ。
ここだとシーサイド、ウェスタンビーチホテルまで歩いて7、8分だし、
ボックス型の公衆電話もクヒオ通りに出たらあるしな。
寿子の住んでいるバニヤンホテルまでも数分だ」
「へへへ、戸昼ボス、分かりました。
公衆電話はすぐこのビル出た所に2台あるしな」
「あれは使わないでくれ。
お前も知ってるとおり、売人、娼婦、ジャンキーがいつもぶらぶら暇持て余してるから聞かれたら事だ。
クヒオ通りのボックス型を使うか、運河脇の人通りがないのを使ってくれ」

注:
サンディビーチ:オアフ島東部、ワイキキから車で約40分。


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下はわいーい4: ラルフ このエントリをはてなブックマークに登録

4:ラルフ・ヨハンソン


日本人旅行者が溢れているカラカウア通りから僅か2ブロックしか離れていないのに、戸昼が住んでいる、アラワイブルーバードに面したアパートの住人は白人が多かった。 
夜半、月に数回、パトカーのサイレンが鳴り響くような所だった。

ラルフがあごを数回振っただけで何も言わなかったので戸昼が強い口調で言った。
「奴らに聞かれたら金ぶんどられるぞ!
いいな!
そこの公衆電話は使うな」

零時の時報だ、寿子が腰を上げた。
「何を二人とも張り合ってるのよ。
ラルフ、あんた餓鬼みたいなこと言わないでよ。
相手は暴力団よ。
戸昼の計画なんだからボスでいいじゃない。
お金は3等分するんだから取るまでは喧嘩も何もなしよ!
約束して!」
「分かった。
約束する」 
こいつは寿子に惚れてるのかいつも従順だ。
「行くわ。
そうそう、今日あのパンチパーマがウエスタンビーチホテル内を歩いているのを見たのよ」
「ガングロでもいいからばれないようにしてくれよ。
明日、9時までにここに来てくれ
10時が2回目の電話だ」
「分かったわ」

ラルフがボールペンを口にくわえ、書類を見ている。
こいつと話すのはもううんざりだった。
ディスコで顔を合わせる程度で深い付き合いはなかった。
いつも顔に痣を作っていたので、どうしたんだ、と聞いたのが始まりだ。
その度に、喧嘩をした、と言った。
一月ほど姿が見えなかった。
喧嘩して入院していた、と。
こいつの喧嘩の説明はいつも同じで腑に落ちないものだった。
夜中、歩いているといきなり4人の男に後ろから襲われ、意識が戻ると道路に横たわっていた。
なぜ襲われたのかまったく記憶がない、と。
何回、聞いたことか、大男なので喧嘩を挑まれたと解釈していたが、何かあるようだ。
 
ふとある事を思い出した。
以前、ディスコ帰りに車で送ったことがあった。
クヒオ通りとカラカウア通りが交差する所にある小さな公園内で、一見して娼婦とわかる男女4人が怒鳴りあっていた。
「ちょっと停めてくれ」
一目散に彼らめがけて走り出した。
いきなり男二人を殴り倒した。
それだけでは終わらなかったので驚いた。
止めようと走ったが間に合わなかった。
鼻血まみれの彼女らの顔はひどい形相で、まだ殴りかかろうとしていたラルフの巨体を車に戻すのに一苦労した。
翌日の新聞に、娼婦の顎の骨が折れ、全治2か月とあった。
被害者が娼婦だったので警察が真剣に捜査をしなかったのだろう。
たまたま、ディスコが変装大会の日だった。
ラルフはゴジラのぬいぐるみ、俺がフランケンシュタインの面をかぶっていたので身元がばれなかった。
その時は深く考えずに笑い飛ばした。
それがきっかけで運送会社で働いていたラルフを仲間にした。

ベッド脇の目覚まし時計は2時10分前だ。
ラルフの逆三角形の大きな後ろ姿が目に入った。
ボールペンを食べ終え、今度はホッチキスをくわえている。
先祖はバイキングの末裔、親父はドイツの水泳の元オリンピック選手、遺伝子をよく自慢していた。
最初に会った時の髪型がモヒガン刈りだったのを思い出した。

後悔し始めていた。
こいつと数時間一緒にいるだけで疲れを感じる。
体の大きさに比べて異様に小さいラルフのスキンヘッドの後頭部を見ながら、起床まで2時間余り、どうやって過ごそうかと考えていた。


デスクに寄って荷物の連絡が何もないことを確認して、11時前に純はホタルの部屋に着いた。ホタルもモモも神妙な顔をして待っていた。
「参りましたよ。
ホタルさん、今日一日、散々でした。
長いのなんのって」
「スーツケース2個、行方不明なんだって」
「普段なら遅くても5時頃までには出てくるのですが、今回は他社の荷物スタッフに間違えて預けたみたいで見つけ出すのにどのくらいかかるか。
添乗員、下着類からいろいろ買わされて泣きが入ってましたよ」
「荒井邦男と上村正一のだろう」
「よく分かりましたね。
荒井邦男と社長の上村正一のです。
荒井邦男は最初、名前が部長の君夫になってたんですよ。
《うえむら》が《かみむら》になってたり」
「スーツケースは出てきそうか?」
「滅多になくなるって事はないですから。
遅くても明日の午後までには出てくるんじゃないですかね」
「純が今着ているアロハが東都ツアーズの制服よね」
「何だよ、モモ、いきなり。
いつも見慣れてるだろう」
「空港でロドマンのイラストの入ったTシャツ姿のパンチパーマの男が、行方不明のスーツケース2個を若い女性に渡したのを見たって言ったでしょう。
もっと紺色に近い、と思ってたけど似ている」
「でもね、今朝の中華便の荷物スタッフに女性スタッフはいなかったんだ。
彼女は家のスタッフじゃないよ」
「間違えて渡すことはよくあるのか?」
「いえ、僕の知る限りまれですね。
荷物スタッフが滞在ホテルの荷札を間違えたり、運転手がミスして滞在ホテル以外のホテルに運んだ例は何回もありますが、今回のように他社のスタッフに渡すなんて今まで聞いたことがありません」
「モモ、彼女が受け取りに行ったようだったか?」
「ええ、係って感じで自然に見えたわ。
パンチの人と親しく話していたし」
「グループ専用・到着口に東都のスタッフはいないのか?」
「いなかったのか気づかなかったようですね。
他社のグループが多いと気づくのに時間がかかります」
「だって、あの2個税関を通ってないのよ」
「え、、、!そうなの!」
「別の係りが誘導して税関過ぎたところで渡したの」
「じゃあ、、おかしいじゃん」
「重要なものが入ってたんだ、ドラッグか、余分な金か」
「パンチの人、大きなグループに巻き込まれちゃったの。
他のメンバーもいないし。
何度か人の流れに逆らって立ち止まってメンバーが来るのを待つ素振りをしていたけど、
結局、待合室で待つことにしたのよ」
「その女性はどんな感じだった?」
「ハウリー(白人)じゃなかった。
日系で私と同じぐらいの年格好。
会えば分かると思う」
「もし出てこなかったら空港で見てもらおうかな。
でもしゃくだな。
彼女のほうから近寄っていったなんて。
まるで詐欺みたいじゃん」 


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genre : 小説・文学

下はわいーい5 父さんの死このエントリをはてなブックマークに登録

5:父さんの死


宮沢組と敵対する暴力団が仕組んだのか。
ホタルは気に食わなかった。
「一つ質問していいですか?」
純が真剣な顔だ。
「僕の父さんの死が上村通商ツアーと関係あるかもしれない、とホタルさんは言いました。
今、教えてくれませんか?」
「父の友人の新聞記者から電話があった。
名前はダニー、上村のハワイツアーを知っていた。
純のお父さんのことを話したら覚えてた」
「そうですか、、」
「俺たちの父親は、18年前、LA(ロサンジェルス)の高速道路上でパンク修理中に狙撃された。
容疑者は今ハワイ島に住んでいる。
名前はルイス・エンリケ、裏社会で絶大な力を持っている。
ルイスの父親、マリオ・エンリケは1979年、ニカラグアにサンディスタ社会主義政権(注)ができるまで、
43年間も続いたソモサ一族,独裁政権内で非合法活動を取り締まるボスだった。
ソモサ一族は国全体の2分の1、3分の1の富を私物化したとんでもない奴等だ。
米とCIAが支えた。
利益のためなら、人が死のうが、苦しもうが関係ない、米の建国以来持つDNAだ。 
純はコントラ事件を知ってるか?」
「いえ、知りません」
「当時の米大統領、レーガンはイランに極秘に武器を売却してその代金を、オリバー・ノース中佐がコントラ(米が全面支援するソモサ残党・ニカラグア反政府ゲリラ)へ横流ししていた。
70年後半、80年代、カーターの武器禁輸などで米は武器を中米に売れなくなった。
間隙をついてイスラエルが入ってきた。
何でも売った、ナパームから潜水艦、ニカラグアの武器の98%がイスラエル製だ。

グアテマラは最悪だった。
民族浄化を受けた国が、ナチスのようなことを中米でやった。
軍事政権を武器、コンピュータ網の構築で支え、マヤ文化の民族浄化を指導した。
マヤの人々は、左翼ゲリラには食料品を取られ、政府軍にはゲリラを支援していると疑われた。
1978年から1985年まで、7年間で400以上のマヤの村が破壊され、百万人もの人達がキブツ化(注)で、立ち退きを強制された。
1996年までに約20万人が虐殺され、今でも3万5千〜4万人が行方不明だ。

82年に父親、マリオが不慮の事故で亡くなったので、CIAは息子ルイスに目をつけた。
以来、CIAと繋がっている。

エンリケと宮沢組も長い付き合いだ。
会長の宮沢寅吉が内部抗争から分裂した山崎組に対抗するため密かに武器買い付けのためハワイに来た1987年、FBIの囮捜査で捕まった。
エンリケは有能な弁護士を米中からかき集めてFBIの囮捜査の違法性を訴えた。
この国の弁護士は金のためなら操作して無罪にできる。
2か月後、無罪放免された。

バブル期、三菱地所がNYのマンハッタンにあるロックフェラーセンターのオーナー会社の株式の51%を1200億円で買った。
住友不動産、三井不動産も市価の5%以上も高い法外な値段でNYの666オフィスビル、エクソンビルを買った。
物色に来ていた荒井邦男に市場価格より5〜15%も高いから今は買うべきではないと強く忠告したそうだ。
彼らの関係は思ったより深い。
荒井邦男が偽装までしてここに来たという事は何かが動いている。
ブラックリストに載っているのに入国はフリーパスだった。
イミグレに誘導され、何もないブースを素通りしてね」
「フリーパスだったの!」
「エンリケだ、買収だ。
葬式の時、ダニーは酒飲みながら純のお父さん、明さんと夜通し話したそうだ。
親父の死から半年後に亡くなったと言ったらひどく驚いた。

3人でエンリケと会った時、明さん、エンリケの父親がニカラグア・ソモサ政権の幹部だったと知って口論になって殴りかかったんだ。
銃を持ったボディガードの目の前でね。
中米を旅行したことがあったので情勢をよく知っていた。
ソモサ政権を“くず政権”と呼んだからだ。
グアテマラからフロリダまで、マヤの5歳の子どもを連れて危険な旅をしていた。
世話になった人の子どもで、銃口を突きつけられ相当危なかったようだ。
明もエンリケの差し金で宮沢組に殺されたと思って間違いないと言った。
部下の前で殴りかかられ、面子をつぶしたエンリケが付け狙っていたらしい。
家の親父がなんとか説得して帰国させたんだ。
その時、今度ハワイに来たら殺すとエンリケに脅されたそうだ」
「そうですか、、」
「当時、エンリケを追及していて、行方不明、不慮の事故で亡くなった人が多い。
ダニーも右半分の麻痺がひどくなっていた」
「エンリケが?」
「親父達と一緒にやってたからね。
明は直人の兄貴みたいだった、と言ってた。
気骨のある人だったんだな」

注:
サンディニスタ政権:
1961年、トマス・ボルヘ、カルロス・フォンセカ(1976年戦死)によって創設。
1963年、ソモサ独裁政権に対する武装闘争を開始。
1979年、6月、ニカラグア左翼政権樹立。
米はニカラグアのキューバ化を恐れ、ソモサ残党を中心とした右派反政府ゲリラ“コントロ”を支援。


注:
ニカラグア:
父、アナスタシオ・ソモサ・ガルシア(暗殺)、長男ルイス・ソモサ・デバイレ(病死)次男アナスタシオ・ソモサ・デバイレ(パラグアイで暗殺)
3代に渡り(1936〜1979)国を私物化。
一貫して、米は積極的に支援。

コントラ事件:
1986年、11月、発覚。

キブツ:
イスラエルの農業共同体、コミューン

下はわいーい6: イシル マヤ・キチェ村このエントリをはてなブックマークに登録

6:イシル マヤ・キチェ村


風土病で道路にうずくまった。

目が覚めた、ベッドの上だった。
ベッド脇で子どもがグアテマラコーヒー(濃縮したコーヒー)にお湯を注いでいる。
男が子どもの頭を撫でながら受け取った。
トヒルの父親、リカルドに助けられた。
熱、異常なだるさ、脳みそはカビだらけ、食欲はなく完璧に体がおかしかった。
イシルのマヤ村に4か月いた。

1982年4月3日、村がグアテマラ政府軍の強襲を受けた。
数時間前に、会合があるから皆、教会に集まるように、と知らせが来た。
トヒルを俺の布団に入れ、あるだけの服を被せて、マリア、お祖母さんと出て行った。
「明、ここらの村は会合と言われ集まったとこを襲われている。
何かよくないことが、、、。
行かないと兵隊が見に来る。
何かあったら、明、フロリダの友達のとこにトヒルを連れて行ってくれないか」

夜遅くなっても帰ってこなかった。
教会の中は死体の山だった。
リカルド、マリア、村民100人以上が、、なただ、兵隊どもは撲殺した。

トヒルをバックパックに入れて夜半、村を出た。

大きな町のチェックポイントでは、ヘブライ語が聞こえた。
兵隊が寄ってきた。
「ハポネス(日本人)?」
「シー、旅行中です」
「大きなバックだな、何かくれよ」
5人に囲まれた。
バックパックを触ってきた。
「何も、、時計があります!
これで!
これで勘弁してください!
セイコーです!」
「勘弁してくれ、、、何が入ってる。
開けてみろ」
「ネックレスも、、ブレスレットも、、どうぞ、急いでます!
バスに間に合わないので、、」

トヒルが見つかってしまった。
殺す、と言う、5歳になったばかりの餓鬼だ。
銃口が目の前だ。
俺は狂った、
何でもやった。
地面に頭をつけた。
何も悪いことはしていません!
この子は孤児です!
誰も身寄りがいません!
お願いです!
助けてください!
泥が飛んできた。
ぼこぼこにされた。

小さな舌が左瞼で遊んでいた。
兵隊が遠くで笑っている。
素っ裸、、だ。
「どうした、トヒル!
服は、、何かされたのか!」
「アキラ、血が止まんないの」
“の”が、トヒルお母さんに言い聞かせられたようで、
場違いで可愛かった。
落ち着いた餓鬼だ。
お父さん、お母さんのことを何も聞かなかった。
何があったのか知っていた、、マヤの子は強いな。
体中、綺麗な赤の包帯もどきが巻かれていた。
パンツを脱いでまで、、やっぱり子どもだ。
トヒル製作のフランケンシュタインだ。
緩んでずり落ちている。
よかった、。

兵隊達は俺たちが行くのを見もしなかった
5歳の餓鬼の、小さな手、足、壊れそうな素っ裸の体を
見て、殺せる奴はもう人間ではない。

フロリダでリカルドの友達を探した。
ここにはグアテマラから逃げてきたマヤの人達が住んでいた。
リカルドの友達は亡くなっていた。
暗殺されたという噂だ。
トヒルを抱えて途方にくれた。

日本に連れて帰るか、、

日本語か聞こえた。
同郷の長崎の人だった。
私が引き取ります、修道女が言った。


「ダニーから面白いことを聞いた。
前からエンリケは、ドル紙幣偽造・印刷機を購入して北朝鮮に運んだと疑われていた。
だが、出回っている偽紙幣、大半はCIAが製造したものだと噂があるようだ」
「お兄さん、何、それ!」
「カモフラージュだ。
北朝鮮の数は微々たるもので、殆どがCIA偽造だと、」
「おかしいでしょう。
自分の国のお金を偽造するの!」
「議会だ。
昔と違って議会の承認なしで金を使えなくなった」
「そうなのですか、、」
「今年、1月、ドイツの新聞(注)にCIA偽造関連の記事が載ったそうだ。
以来、米政府の反応はない。
エンリケはあの機関の手先だ、何でもやる。
意図的に北朝鮮に偽造させて、CIAが利用している可能性があると、ダニーが言ってた。
純、今回のツアーは必ず何かある。
時間、関係なく連絡くれ。
モモと俺はいつでも動ける」
「純、危険だけどがんばろう。
お父さん達の無念を晴らすのよ」


翌朝、8時、デスクに電話があった。


注:
2007年1月7日の日曜版、独、フランクフルトの新聞、FAZ・アジア版にCIAがワシントン郊外のCIA施設内で$50,$100偽札偽造の記事。米政府、沈黙。

FAZ(Frankufurter Allgemeinen Sonntagszeitung of Frankfurt):
独、保守系新聞。1949年設立、発行部数一日、38万。
(参:ウイキペディア)

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genre : 小説・文学

下はわいーい7: あわてる沢村このエントリをはてなブックマークに登録

7:あわてる沢村

「昨日、たまたまウエスタンビーチホテルの東都ツアーズと書かれたスーツケース2個を空港で拾った。
さぞ持ち主は困ってると思ってな」
「え!助かりました!
探していたのです!
どこにあるのか教えてください。
すぐにでも取りに行きます」
「勿論返すつもりだ。
そこでだ、持ち主に伝えろ。
今日中に300万$と交換に渡す」
「300万$!」
「そっちの携帯番号と名前を教えてくれ。
あんたが窓口だ。
連絡はその番号にする。」
「え、、300万と交換、ですか」
「携帯と名前!」
「×××××××××。
橋本純一です」
「1時間後、9時に連絡する。
それまでに返事を聞いとけ」
「もしもし!
もしもし!!」

300万$、どうなってる。

ホタルさんに電話した。
「純、ここにいる。
連絡くれ。
待ってる」

添乗員の細川さんが来た。
東尋坊で徹夜したような顔だ。
「スーツケースが見つかりました!」
目が太陽になった。
「ほんとに!!!」
「今、電話がありました。
300万$と交換に渡すと」
命綱が切れそうだ、細川さんが宇宙の彼方に飛んでいく、、
「300万、、、、」
「どうしましょうか?
僕の携帯番号を窓口にするそうです。
9時までに返事が欲しいと言ってました。
、、、、、、
細川さん、、ほそかわさん!
シーサイドに電話しましょうか?」
「300万、、ドルで、、」
「はい、、シーサイドに電話を、」
東尋坊に引返しそうだ。
「僕が電話しましょうか?」
「いや、、私がやる。
君には迷惑かけたからね」
決心した。
飛び降りる気だ。
絶壁に立って心地よさそうに見える。

「部長、お早うございます。
添乗員の細川です。
実は、、」

あ、、沢村に言われていた。
社長、部長には話すな、、

受話器を奪った。

「部長様、沢村様はそちらでしょうか!」
「、、誰だ、?」
細川さん、気づいてくれた。
受話器を渡した。
「部長、沢村様をお願いします」
「おい!
沢村!!」

「沢村だ。
見つかったのか?」

上村グループ・メンバーがデスク前に集まってきた。
6人全員いた、ヘリコプターツアー、潜水艦ツアー、ゴルフ、それぞれ二人ずつ。
米山雅美と本沢忍の姿があった。
社長、部長、沢村、マイケル・タケの不参加を伝えた。
ジェニファーは今日も休みだ。
細川さんが見ていた。

「純君、相手の言ったことを沢村様に、、
私がオプショナルツアー送り出すから」

「はい、代わりました、橋本純一です」
「どんな奴だ!」
急に小声になった。
部長がそばにいる。
「日本人か?」
「いえ、ネーティヴ(母国語)の英語でした」 
「さんびゃくまんえんとこうかんだと、」
声が聞き取れない。
旦那の前で不倫相手と話している。
わざと大きな声で言った。
「ドルです!
300万ドル!
です!」
「何、、、、」
消え入るような声になった。
怒りを押し殺した、ため息がしゃべった。
「ぅふ、、、、、、、、、、、」
沢村があわてている。

細川さん以外、もう周りには誰もいない。

後で殴られるな、、
かまわない。
父さんの敵だ。

「相手は1時間後に返事を聞きたいそうです!
1時間後です!
9時に電話がかかってきます!
沢村様!
さんびゃくまんどる!!
ドルです!
僕の携帯に掛かってくることになっています!
さんびゃくまんえんではないです!!
さんびゃくまん!
どるですよ!!
さんびゃくまんどる!!」

はしもと、、このやろう、、。
ハワイの蚊は日本語をしゃべれるのだ。 

細川さんが最高の笑みで親指を突き挙げた。
昨日、車のドアでぶつけた左のおでこも恵比寿顔だ。
これなら自殺志願者に説教できる。
いろんな顔を持っている人だ。
添乗員より役者が向いてますよ、、
思わず言いそうになった。




theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

下はわいーい8: マヤ神話このエントリをはてなブックマークに登録

8:マヤ神話


ブリーフケースに入れておいた契約概要を読んだな。
300万$、、専務に洗いざらい話すか、、。
居間でコーヒーを飲んでいた。
若造の話を聞いたはずなのに、、態度が普段と変わらねぇ。
コーヒーカップが手榴弾のようだ。
飛んでくるな、、
それに手が伸びる度に冷や汗が出た。

正面に立っていた。
今、手榴弾は手の中だ。
「300万$で取り引きしたい?」
「はい!申し訳ありません」
「タケがスーツケースに入れたのを知らなかったではすまされん。
時間がなかったにせよ、お前のブリーフケースに押し込むことはできたはずだ」
「はい!そうであります」
「連絡方法は?」
「一時間後、東都ツアーズの若者の携帯にかけてくるそうです」
「あの若造か、、
携帯を取り上げてお前が直に話せ。
今日中に取り引きしたいと言ったのか?」
「はい!」
「どこの組だ!」
「分かりません!」
「言葉は?」
「英語だったそうです。
米人のようであります」
「集まらんと言って引き延ばせ。
これからお前が連絡時間、すべて指定しろ。
絶対に相手のペースに乗るな。
いいな!」
「はい!」
「正午に電話しろと言っとけ。
あの東都の若造もぐるか調べろ」
「はい」

最後の“はい”で力が抜けた。
ドアまで20m、匍匐前進した。
後ろから手榴弾が飛んでくるのに、、。
ドアのノブに手が届いた。
飛んできた。

沢村、ハワイの海の中は住みやすいぞ。
 
あの若造とぼんくら添乗員が座っていた。
まだ冷静だった。
顔に傷はやばい、、
歩きながら右、左の順に靴を脱いだ。
靴下をむしり取った。
どうしても素足で蹴りたかった。
今、慰めてくれるのは感触だけだ。
若造は悟った顔をしている。
これで慰められる。
鳩尾に、ありったけの大声を出して2発見舞った。
変な音がした、、
折れたか、、

若造はうずくまっている。
倒れなかった。
目をかっ開いて睨んでいる。
意外と骨のある餓鬼だ。
気持ちがすっきりした。

「添乗、タケを呼び出せ」
「はい、、、、、、、、、、、、
タケ様、沢村様に代わります」
「すぐにICレコーダーもってこい。
専務の部屋だ」
取り引き相手の声を録音するつもりだった。

二人とも鳩尾の辺りに厚さ3センチのガイドブックを入れていた。
細川さんのアイデアだ。

携帯を取られてしまった。
困った、、
これじゃあ蚊帳の外だ。

ホタルは300万$の取り引きを持ちかけてきた、と聞いて、自分の推測が正しかったと確信した。
ルイス・エンリケと宮沢組は何をしようとしてる、。
スーツケースの中身を見たい。
宮沢組と敵対する暴力団の仕業か、それともルイス・エンリケのライバルか。 
取り引きは今日だというのが気になった。
巨大な相手に余りにも性急過ぎた。
どうしたらいい。
モモと二人でシーサイドホテル見張るか、、
危険だな、、。 
純の連絡を待つしかないか。 


橋本純一の声ではなかった。
「東都ツアーズの橋本と違う。
誰だ?」
「いい度胸だな。
そっちの名前は?」
「東都の橋本に代われ。
取り引きなかったことになるぜ」
「名無しのごんべぇさんよ。
彼がお前達とぐるじゃないって保障はないわけだ。
取り引きしたかったら諦めろ」
「こっちも諦めてもいいんだぜ」
「俺たちは慰安旅行で来てる。
日本国内でも300万$、一日じゃあ無理だ。
スーツケースを返してくれたらそれ相応の礼はする。
どうだ?
ここは天国ハワイだろうが。
いざこざは合わないだろう」
「取り引きは今夜だ。
今日中に300万$掻き集めろ。
ルイス・エンリケに頼め。
簡単だろうが」
「そっちの名前を教えてくれ」
「xとでもしとこうか」
「xさんよ。
3時間後の正午に連絡くれ。
どれくらい金が集まりそうか知らせる。
それで手を打ってもらうしかないな。
なんせ、日本から送金なんて知れてるからな」
「お前の英語は聞き取れん。
今度、電話した時、橋本を出せ!
いいな!」


9時半過ぎ、戸昼は早退して部屋に着いた。
寿子がおかしい。
ラルフはいない。
「どうした、ハイか?」
「スーツケースのカバーの裏に包みがあったのよ、四つ。
これ、覚せい剤じゃない?」
ヘロインだった。
20グラムはある。
「ヘロインだ、寿子、吸ったのか」
「、、、、、」
「いいか、俺の前でドラッグはやるな!
お前がいつ死んだのかも分からないトンマな幽霊になりたかったら別だ。
果てまでさ迷え、ドラッグ求めてな。
ラルフにはしゃべるな、いいな!
もう、忘れろ!」

トイレで寿子に背を向けた時、一袋ズボンのベルトに挟んだ。
三袋をトイレに放り込んで流した。

「ラルフは?」
「電話しに行ったきり帰ってこないわ」
「もう10時近いぞ」
「ラルフ、9時に2回目の連絡をしたわよ。
10時だって言ったのに。
言うこと聞かなかったわ」

困った奴だ。
こいつらは、マヤ・キチェ神話に出てくる不完全な人間共のようだ、、。


注:
マヤ神話では
人間は最初、泥で、次に木で創造された。
いずれも失敗作だった。
泥は動けなくて話せなかった。
木は、話せたが、心、血が通ってなかった。
白と黄色のとうもろこしを体に、手足をとうもろこしの粉で作って人間になった。
(参:Popol Vuh)

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

下はわいーい9: アラモアナ このエントリをはてなブックマークに登録

9:アラモアナ

バイキングが帰ってきた。
上機嫌だ。
「なぜ俺が帰ってくるのを待てなかつた」
「2時間も待つ必要ないと思ってよ」
「どうなってる?」
「300万要求したぜ。
正午に返事がもらえる。
東都ツアーズの橋本じゃなく沢村ってのが出てきた」

2mの巨人を殴ろうかと思ったが我慢した。
こいつはおれみたいなチビを屁とも思っていないだろうが、
「ラルフ、よく聞け。
直に相手と話すってことは身元を明かしているようなものだ。
お前の声を録音してエンリケに渡せば、数日でお前は宙だ。
だから純一を間に置けと言った!」
「言ったさ、英語聞き取りにくいので橋本純一に代われとな
次回は橋本が出てくる
正午に金の返事が聞ける!」
「他に何を話した?」
「300万、無理だと言うからよ、ルイス・エンリケに頼めと言った」
「エンリケが出てきたら終わりだ!
さあ、立てよ!
今からアラモアナ・ショッピングセンターに行く。
さあ!」
「アラモアナへ!
何で!
電話はクヒオ通りからできるぜ」
「この時間、俺はここには存在していない、仕事中だ。
お前達もいるし、ここらの住人にこそこそしてるとこを見られたくない
ワイキキを離れる」
「まだ11時だぞ」
戸昼は無視した。
「寿子、ここに居ろよ。
動き回るな」
「コピーしないといけないんでしょう?」
「ああ、そうだったな、気をつけろよ」

戸昼にはどこか不気味なところがあった。
どんなことがあっても他人に妥協しない。
ペースにはまっている、と気づいた時は遅かった。
マヤのキチェ族ってなんか怖いわ。
しぶしぶ席を立って戸昼の背中を苦々しく見ているラルフと目が合った。
170cmにも満たないチビにこの様だ、もう少しの辛抱だ。
そう言っていた。
チビと2m、背丈以上のわだかまりが見えた。

20分後、アラモアナショッピングセンター2階駐車場脇の公衆電話の受話器をラルフに渡そうとした。
受け取ろうとしない。
「戸昼、俺の声はもう録音されてるよな。
今度はお前が話せよ。
リスクも金も平等で行こうぜ」

今日の太陽は糞暑い。
おまけに蒸した、ハリケーンの影響だ。
駐車場が真っ白でまぶしい、ありったけの黒のペンキをぶちまけたいぐらいだ。
その中にこいつを放り込んで泳がせたい。
こいつは昨日寝なかった。
書類とにらめっこをしていた。
それなのに、寝すぎたような顔をしている。
体力じゃあバイキングに敵わない。

「お前が最後話したんだ。
連続ドラマの主役がそう簡単に降りるな。
話せよ」
「リスク、金は平等で行こうぜ」
「純一が出たら俺だとばれる。
計画はおじゃんだ。
お前が出るしかない」

独断でやろうとしたからこんな羽目になったのに、リスクは平等だと。
ラルフは考えている。
整理がつかないようだ。
もう少し待つことにした。
直に相手と話すのだけはごめんだ。
「ラルフ、スターバック行ってコーヒー買ってこいよ」
「電話は?」
「約束通り12時にしよう。
純一が出たらどうなるか、少し考えろ」
「俺が行くのか?」
「嫌か?」
このチビ捻りつぶすぞ、って顔で立ち上がった。

沢村は電話の後、専務にどう説明していいのか悩んでいた。
聞き取れないから代われ、、自信が揺らいでいた。
外大出て、NYの極真空手道場に3年いた、これまでルイス・エンリケと専務の通訳をやった、
ふざけやがって、、。
しかし、、聞き取れないんじゃ、、若造に頼むしかないのか、、
専務に馬鹿にされるな。

「沢村、どうした、ゴキブリ食べたのか」
「いえ、東都の若造にしか話さないと言われました。
俺が出たら終わりだと、録音されていると感じたようです」
録音、、とっさに出た。
うまいこと言った。
「何だと、あれだけ言ったのに相手のペースにはまってるじゃないか。
どうする、沢村!
この色気のない磁石、生贄にしてルイスに差し出して金を工面してもらうか」
何を言ってるのか、分からなかった。
「お前が動く度に、ひょこひょこ内股で遠ざかるタケのことだ」

神妙に立っていたタケは震え上がった。
顔、体、どこもかしこも痛かった。
顔は原型を留めていない。
専務に社長、沢村、3人が見ている。
これで殴られたら、もう原型には戻らない。
大問題だ、女にもてなくなる。
まだ23だ。
やり直しがきく。
本気でヤクザから足を洗おうと考えた。
「タケ、今のお前はB級映画の怪獣か幽霊だ。
女なら使い道があるのにな。
金玉引き抜いて女になるか」
「いえ!
勘弁してください!」
「、、、沢村、電話、お前が出ろ。
東都の若造はいい。
金は無理だと言え。
今度の時間は2時を指定しろ。
書類を持って来い、と言え。
それだけでいい」

値切られて最終的には50万$ぐらいになると予測していた。
300万というとてつもない金をラルフが要求したので、ルイス・エンリケに相談する可能性があった。
気に食わなかった。
しかし、連絡係の純一と話せるのはラルフしかいない。
取り引きが終わるまでの我慢だ。

theme : 連載小説
genre : 小説・文学

下はわいーい10: サーフィン このエントリをはてなブックマークに登録

10:サーフィン


12時になった。
ラルフはどうしてもリスクを平等にしたいらしい。
「橋本の声なら俺が出る。
沢村ならお前だ」

ラルフが受話器を耳に当てた。
宙に投げた。
“xか”声が浮いて悲鳴に変わった。
ガチャーン!!
「戸昼、受話器をどうして取らなかった」
「、、、、、、、、」
「しようがないな」
プッシュボタンを押して沢村の声を確認して戸昼に手渡した。
「xさんよ、どうしたんだよ!
電話線に弾ぶちこんだのか!」

きついテキサス訛りで早口で喋った。
「東都の橋本じゃないから切る」
「待て!待て!待て!待て!」
「橋本を出せと言ったはずだ!
今度3時に電話する。
また、お前なら取引は終わりだ!」
「おい、待て!待て!待て!!」

ラルフが糞を踏んづけたような顔だ。
「何だよ、やけに早いじゃないか。
300万、なぜ念を押さなかった」
「交渉事はちまちま同じことを言わないことだ」
「、、今の声が沢村だ。
戸昼、録音されたな。
これでお相子だな」
ラルフが楽しそうだ。
こんなことで楽しまれちゃあ、馬鹿な奴だ。

荒井邦男と上村正一は無表情でソファに座っていた。
初老のマネキンは珍しい。
タケは、傍観者の目だ。
人が目の前で殺されようが殴られようが関係ない、でも見たい。
「待て、待て、待ての沢村よ、やけに早かったな。
ハワイに来て日本語忘れたか?」
「申し訳ありません
東都の橋本じゃない、と切られました。
今度3時に連絡があります。
橋本が出なかったら取引は終わりだと言われました」
「強気だな」
「9時にかけてきた声と違います。
こいつは肝が据わっています。
3時に東都の若造を出さないとやばいです」
「最初の声と違うのか?」
「はい、別人です」
「、、相手は何人だ?」
「タケが騙された空港の女を含めると今のところ3人です。
なあ、タケ?」
「はい!」
「一体、相手は何人だ?
英語か?」
「はい、訛りがありましたが、」

荒井はリスクを考えていた。
今夜で取り引きが終われば宮沢会長、ルイス・エンリケに失態を知られない。
諦めかけていた会長の椅子も可能になる。
300万$は用意できた。
バブル後期に債券取り立てで面倒を見た業者が数人いた。
「3時の電話は東都の若造を出せ。
沢村、タケ、社長に住所リストもらって金を集めて来い」 


アラモアナからの帰り、キャロル・キング(Carole King)のYou’ve got a friendのCDを放り込んだ。
無造作にこの曲が手に載った。
丁度よかった、今ラップは御免だ。
ラルフが一緒に歌いだす。
歌が上手いと思っている音痴ほど愚かな奴はいない。
この曲の友達は暇人だ、夢物語だ、きれいごとだ。
こんな親身になって心配してくれる友達って、、本当にいるのだろうか?

寿子がコピーした書類が無造作にテーブル下の床に転がっていた。
「どうだったの?」
ラルフが得意そうだ。
「9時に俺が300万要求した。
一人100万$だぞ。
寿子、感謝しろよ」
「で、今度の電話は?」
「戸昼が話したからよ、進展なしだ」
「戸昼、どうしたのよ」
口を開くのが億劫だ、こいつらの口にテープを5重に巻きたい。
「純一の声じゃなかった」
「で、、」
「それだけだ。
今度3時にかける。
純一が出なかったら終わりにする」
ラルフの頭にバイキングの角が生えた。
「終わりにはしないぜ!
感触は悪くない」
「何かあったの?」
「相手が橋本じゃあなかっただけだよ。
9時の男だった。
300万の一言もなく戸昼が勝手に切った」
「戸昼が話したの?
計画では、ラルフが話すんじゃなかった?
何があったのよ?」
ラルフが冷蔵庫からコナビールを取り出した。
「ラルフ、俺にもビールくれ」
「、、、、、、戸昼、これからの予定を教えて」
「3時にラルフが電話する。
沢村が出たら俺が話す。
出方によっては取引を止める。
純一が出てきた時は、夜の10時が取り引き時間だ」
「変わったのか、8時じゃないのか?」
「遅いほうが好都合だ。
8時のカピオラニ公園はまだ人が多い。
知り合いに出くわしたら終わりだ。
ラルフが桟橋で金と交換してダイヤモンドヘッド沖3k、ブラックポイントにサーフボードで向かう。
俺は離れてカヤックで付いていく」
「なんだ、ブラックポイントで落ち合わないのならそのままサンディビーチに行こうぜ」
「ワイキキから見えないとこまで沖に出ないとな、方向が分かったら奴ら車で追っかけてくる」
「俺が金持って遁ずらすると不安になったか」
「ラルフ、こんな時に何を言ってるのよ!」
「よく分かるな、それが一番だ。
2番は、10時過ぎの海上は暗い、見失う恐れがあるからだ。
3番は、3k沖合いに出なくてもビーチが見えなくなったらサンディビーチに行ける。
ラルフ、まだ何かあるか?」
「戸昼、いいから続けてよ」
「カヌーはカパフル図書館脇のアラワイ運河に友達が午後6時までに運んで置いといてくれる。
9時半過ぎ、俺と寿子は俺のダッチでカヌーをカピオラニの水族館裏まで運ぶ。
寿子はラルフがサーフボードでビーチを離れたのを見届けてサンディビーチに向かってくれ。
俺は、水族館から3、400m離れた海上から成り行きを見ている。
大体、10時30過ぎに俺たちはワイキキを離れる。
サンディビーチには、夜中、12時前後に着く。
二人ともなるべく目立たないようにな。
特にラルフ、なるべく人に会わないようにな。
寿子はカピオラニでパンチに見つからないようにな」
「300万$、どうやってサーフボードに載せよう、、
濡れないようにしないと、、」

ラルフは、もう300万$背負ってサーフィンしている。
ご苦労なことだ。

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genre : 小説・文学

下はわいーい11: モモに首ったけ このエントリをはてなブックマークに登録

11:モモに首ったけ

モモから電話だ。
細川さんは9時前からいない。
40分以上になる、長いトイレだ。
連絡時間、近くになって逃げた。

「純、今デスク前の公衆電話よ」
「え、、、」
後姿の女性がいる。
右手が肩でお辞儀している。
背中に金銀の2トンカラー、顔の長さが左右微妙に違った断食中の宇宙人の姿がない。
こっちを向いた。
《NOT OF THIS EARTH(地球外)》の小さな文字が胸にない。
毎日のように着ている宇宙人のt-シャツじゃない、結構まとも、、ベージュのスーツ姿だ。
これが、モモ、、こんなにきれいだった、、
宇宙のビーナスだ。
あれ、やっぱりいつものモモだ。
サンダルを履いてる、え、色が少し違うぞ、緑と赤。
ああ、そうか、モモは色弱だ。
色違いのサンダルにスーツ、違和感がない。
何でも自分のものにしてしまう。
かわいい、、
惚れたどこじゃないな、モモの為なら何でも出来る。

「ここは危険だ、モモ」
「9時の連絡はなかったの」
「携帯取られて蚊帳の外さ」
「やっぱり、兄さんが言ったとおりだわ。
純、シーサイドの玄関がよく見える部屋ない、無理でも頼みたいな」
「なんとかする。
どこで待ってる?」
「ここのソファならデスクから離れているからいいでしょう。
真面目に仕事しているか見てる」
「そんなのんびりした事言うなよ。
一目惚れされて見つめられるのは慣れてるけど話しかけるなよ」
「お馬鹿さん、見てるだけ!」
「知らん振りして座っていて、取れたら足思いっきり蹴るからフロントに行って」
「まあ、、」

ビーチ側、左80度の角度でシーサイド・ホテル玄関が見渡せる最高の部屋、308が取れた。

モモが見ている。
スーツ姿に戸惑いがあるのか少し青白い。
叫びたくなった、
大丈夫だ、モモ!
決まってる!
目に焼き付けなければ、宇宙人のt−シャツ姿に戻る。
ビーナスが動いた。
目の前で机を蹴った。
「純!どうなったのよ!」
「ああ、モモビーナス」
「何よ!」
「最高の気分、得しちゃった。
モモの為なら何でもする、死んでも、、」
あ、言ってしまった、、。
「何言ってるの!」
「308!
フロントで僕の名前言って!」

モモが字を書けなくなって高校を退学したのを聞いていた。
書いているのを見たことがなかった。
後を付いていった。
デスクは無人だ、どうでもよかった。

ロビーから遠巻きに見ていた。
書いている、、
一生懸命、書いている。
フロントのタニアと目が合った。
人差し指を口元で立てた。
両手でハートマークを作って投げた。
笑っている。
書き終えた。
少し時間はかかった、でもおかしくない。
タニアの態度は自然だ。
よかった。
少しぎごちない歩きのモモの後ろ姿も決まっていた。

11時過ぎ、ホタルさんから電話があった。
「純、携帯取られたんだってな」
「ええ、あれから僕の携帯にかけました?」
「いや、かけていないよ。
動きは?」
「携帯取られて音沙汰なしです」
「8時の電話では純を連絡係りにすると、言ったのか」
「ええ、何かあったら連絡しますから動きがあったら僕にもください。
仕事、放り出してかけつけます」
「OK、俺とモモは308にいる」


300万は多すぎる、だがバイキングのこいつのことだ、
金にサーフィンさせて泳ぐはずだ。
珍しい、今朝から口に何もくわえていない。
興奮して忘れたか。
寿子に大声で言った。
「寿子、インターネットでドル紙幣が何gになるのか調べてくれ」
「ああ、そうね
、、どれ、どれ、、、
あったわ、ドル紙幣一枚が1gの重さだってあるわ」
「と言うことは、300万$が300万gか、100$紙幣なら3万g、、30kだ。
戸昼、たった30kだぜ!
運べるぜ。
500万にするか、たった50だ!」
「ラルフなら50k可能よ!」
こいつらはラルフが風船だと思っている。
「ラルフ、お前、体重は?」
「100kだ」
「外海は荒れる、背負ってボードか?」
「ドル様がサーフィン、俺は泳ぐ」
「ハリケーンが来ているの知ってるだろう」
「明後日だろうが」
「海を見たか、波がちがう。
お前みたいなハリケーン好きな馬鹿なサーファもいるしな。
ドルがサーフィンしてるとこ見られちゃあまずい」
「その時は海中に隠す」
「本気で言ってるのか」
「俺の親父は水泳オリンピックの選手だ」
「当時は外海がプールか?」
「鮫なんかに金は使わせないってことよ」

馬鹿な野郎どもだ、せいぜい10kがいいとこなのに、、
もう、取引はどうでもよくなっていた。
抜けるか、こいつらどうするだろう。
駄目だな、、簡単に捕まって俺のことを洗いざらい話す。

「カヤックはきつい、30kでもな。
せいぜい10だ。
サンディビーチまでたどり着けるか心配だ」
「じゃあ、サンディビーチやめようぜ。
ワイキキに近いとこにしようぜ。
夜、遅い、大丈夫だ。
奴らに分かりっこない。
ダイヤモンドヘッドビーチパークにしようぜ。
カピオラニ公園から目と鼻の先だ」
「駄目だ!
ワイキキは駄目だ!
妥協してハナウマまでだ。
寿子、サンディからハナウマに代わる可能性もあると思っててくれ」
「500万で行くぜ」
「好きにしろ。
電話するのはお前だ。
ハリケーン波乗りのサーファーが必ずいる。
その時はどこまでも沖に出る。
そのつもりでな」

リスクは平等だ、笑わせる、これで、もう俺に電話しろ、とは言わない。
下手すると終わりになる。
上手く行った。
俺は消えていたかった。
純一を口実にラルフに電話させた。
奴が、電話、金の受け取り役、主役だ。
自分が話すなら純一を間に置く必要がないのに筋肉マンは気づくか。
まあ、いいさ、ヤクザに言ってしまった。
どうせ純一が金の運搬役だ。

注:
ハナウマ:ワイキキから東、25分弱のドライブ
サンディビーチ:ワイキキから東、40分。

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genre : 小説・文学

下はわいーい12: 亀のモモ このエントリをはてなブックマークに登録

12:亀のモモ 


グループ・ツアーの旅行者がバスから降りている。
ここには太陽が住んでいた。
空は真っ青、毎日がこうだわ。
雨、水が欲しくて気が狂いそうになるときがあった。
そんなとき、モモはあることをやった。
目をつぶって大雨に打たれている自分をイメージした。
人ごみの中であろうが、誰もいない野原であろうが、公園であろうが、場所はどこでもよかった。
険しい顔をした人が目の前にいることも、クラクションの音で邪魔されることも多々あった、道路の真ん中だった。 
小指ほどのプラスチック容器に水を入れて持ち歩いていた。
こめかみに一滴落とすだけで大雨にできた。

幸い、すぐ目の前の海に逃げるこができた。
殆ど毎日、逃げていた。
仰向きで波間に揺れながら、魚に、亀になった。
そのまま寝てしまい、2,3k沖に流されるのはいつものことだった。
亀さんになりたい、と思っていた。

ホノルル動物園に亀のモモがいた。
いつも一人でいた、、ビーチの方を見ていた。
孤高の芸術家のようだった。
彼女が苦しんでいるのを知っていた。
潮風が数百m先に大海原が広がっているのを教えていた。
さあ、逃げるんだよ、と後押しした。
でも諦めていた。
もう一生、自由になれないと、。
モモは亀のモモと約束した。
必ず海に出してあげる、一緒に行こう、
純に手伝ってもらえばなんとかなるわ、、

モモのスーツ姿、似合わないな。
宇宙人のt−シャツ姿がいいや、でもサンダルの色違いはやっぱりモモだ。
大きくなった、もう20歳か、
シンナー中毒で一時はどうなることかと思った、ここまで生き延びてよかった。
ボストンに来た頃はひどかった。
ケシの花だ。
アンバランスで、そよ風でも倒れそうな、ひ弱な子だった。
消極的で、何もやろうとしなかった。
小さい頃はよく絵を描いていたのに中学生になって描かなくなった。
自分が色弱だと知った。
色の違いを言えなくて馬鹿にされた。
字が書けなくなってコンプレックスが増幅した。
ただ、音楽に興味を持っていたので救うことが出来た。
音楽仲間とのセッション、コンサートにはどんな時でも必ずモモを連れ出した。
目が輝き始めた。


12時半になって、シーサイドホテルからパンチパーマと男が出てきた。
あれがボディガードの沢村か。
玄関前のタクシーに乗って消えた。
まさか、こんなに早く動くとは、ホタルは跡をつけるのを諦めた。

ホノルル・アドバタイザーの記者、ダニーに電話をかけた。
今朝、事情を話し、親父と共にルイス・エンリケに挑んでいた当時のスタッフに手助けを求めたい、と伝えていた。
当時のスタッフで不可解な死、行方不明、ダニーのように体の自由を奪われた人は10人以上いた。

「ダニー、彼らが動いた。
今、ウエスタンビーチ308からシーサイドを見張っている。
俺とモモ、二人じゃあ動けない。
ここの駐車場に誰か待機していてもらえないか」
「アドバタイザーの独占記事ということでいいな。
それだと上を説得できる」
「もちろん。
帰国は明後日だから2,3日頼むよ。
エンリケの情報は?」
「ハワイ島から動いていない。
ブラックリストに載っている荒井を入国させたぐらいだ。
エンリケに繋がるはずだが、、。
今のところヤクザ側の都合で動いているように見える。
仮に両者が会う予定があるならハワイ島に行くはずだ。
、、エンリケの飛行機だな、、見張らせよう。
これからと明日の彼らの予定は?」
「社長と専務、沢村は今朝のハワイ島巡りに行かなかった」
「ハワイ島?
キャンセルしたのか?
「昨夜、キャンセルじゃなく乗らないと純に言ったそうだ。
スーツケース紛失したからだろう」
「記録だけ残しておきたかったのかな。
ホタル、ハワイ島はカモフラージュっぽい。
明日、行く公算大だな」
「今夜は8時に全員夕食になっている。
レストラン名はない。
東都ツアー、添乗員はケアしていないらしい」
「ワイキキのヤクザか、エンリケに会うのか?
300万との交換は多分、今夜だよな。
夕食に専務、社長、沢村が出なかったら相手はエンリケじゃあない。
ホタル、可能ならチェックしろと純に言っといてくれ」
「分かった」
「明日の彼らの予定は?」
「リムジンでオアフ島一周、夜は自由行動になっている」
「キャンセルした?」
「いや、純からまだ情報がない」
「300万要求されているのにエンリケに動きがない。
荒井邦男とは30年来の付き合いだ。
彼に頼めば簡単に終わる。
ホタル、どう思う?」
「エンリケに知られたくない」
「そうだな、、都合が悪い何かだな。
了解した。
30分以内にウエスタンビーチ駐車場に配置する。
それから、もう一つ動きがある。
ブッシュが北朝鮮と馬鹿なことをやり出した。
任期切れ近くになって、成果なしの最悪の大統領のレッテルを貼られたくないのであせっている。
下手すると北とアホな条約結ぶ。
それと関連しているのか、CIAとエンリケの間が最近おかしくなっている。
今年、1月、新聞(注)にCIA偽札偽造の記事が載ってから徐々に悪くなっていた。
ブッシュとCIAはエンリケをスケープゴートにしたいと考え始めてるぞ」
「ダニー、エンリケの尻尾なんとか掴みたい」
「不思議な縁だ。
この17年間、何もなかったのに明の息子と偶然会って動き出した。
直人と明が息子達が大きくなるのを待って仕組んだようだ」

1時過ぎ、ダニーが手配した男からウエスタンビーチの駐車場に待機している、と電話があった。

2時前、沢村とマイケル・タケが戻ってきた。
マイケル・タケがケース3個と格闘している。
沢村の姿はない。

注:
2007年1月7日の日曜版、独、フランクフルトの新聞、FAZ・アジア版にCIAがワシントン郊外のCIA施設内で$50,$100偽札偽造の記事。米政府、沈黙。

FAZ(Frankufurter Allgemeinen Sonntagszeitung of Frankfurt):
独、保守系新聞。1949年設立、発行部数38万、148カ国で購読化。
(参:ウイキペディア)




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genre : 小説・文学

下はわいーい13: サディスト・沢村 このエントリをはてなブックマークに登録

13:サディスト・沢村



沢村さんは地元のヤクザ・上山から受け取った、それぞれ100万$ずつ入ったケース3個をエレベータ内から見ていた。
大儀そうにstopサインを押している。
タケ、早くもってこい、待てないぞ。
冗談だろう、3個とも俺が運ぶのかよ、俺の体力じゃあきつい。
下まで運びます、上山の舎弟が言った。
力自慢のタケが運びますので、沢村さんが言った。
無理だと感じた舎弟が手を貸そうとした。
沢村さんが睨んだ。

タクシーにケースを載せた時、顔だけが異常にメタボリック風船太りした案山子の腰は80度曲がっていた。
これじゃあカラスに同情されそうだ。

3301室、ドア前になんとかたどり着いた。
案山子の腰は70度近くまで曲がっていた。
沢村さんがケースをひったくった。
ドアを開けながら大声で言った。
タケ、俺ばっかりに運ばせやがってて!
お前も運べ!
どうなってるの、もしかして自分一人で運んできたように見せかけてるの?
思いっきりへこんだ、60度まで曲がった。
悪の自分がまともに見えるから不思議だ、ここまではやれない。
沢村さんがサディストだという噂は本当だと確信した。
大学時代、空手の合宿で夜中、布団に忍び込んでは下級生の体を触っていたらしい。
上級生、しかも滅茶苦茶、強かったらしい。
拒否したら翌日、歩けないぐらいぼこぼこにしたそうだ。

専務が開けるように指示した。
沢村とタケは100$紙幣をチェックした。
「今何時だ?」
「2時15分です」
「タケ、100$紙幣小さくしてこい」
もう動けませんよ、そんな無理ですよ、、、なんて言えなかった。
金が憎らしくなったのは初めてだ。

専務が受話器を取った
「上山、あるだけでいいから100$紙幣以外の小さい紙幣にしてくれ。
思ったほど重くないんでな。
今持たせる」
「分かりました。時間は?」
「7時」
「できるだけやってみます」
「おい、タケ、一つ持ってけ。
なんだそのだらしない格好は、タケ、しゃきっとしろ!
最近の枯れススキにはリンゴが生るのか?」

リンゴ、、枯れススキ、、?
この専務、何言ってる全く分からない時がある。
ヤクザは皆こうだ、独りよがりの世捨て人だから言葉も世捨て言葉になる。
何言ってんだか、俺も分からなくなった。
重いな、あ、痛ぇーー。

ルイスに頼むか、、会長の座が遠ざかる、、
専務の荒井邦男は、エンリケに相談しようかまだ迷っていた。
書類、コピー全て回収しなければいずれ表に出てくる。
今夜、駄目だったら上山に助っ人頼んで沢村、タケ残して奴らを探させるか。
俺もケツの穴が小さくなった、また堂々巡りだ。

沢村がICレコーダーに吹き込んだ相手の声を再生した。
「この声は何番目だ?」
「9時にかけたきたXです。
8時に東都の若造にかけたのもこいつだと思われます」 
12時の20秒にも満たない会話を再生した。
「もう一人がこいつです。
口調からして手強そうです」
「なあ、沢村、何か気づいたことは?」
「連絡相手は東都の若造に執着しています」
「なぜだ」
「はい、当初、声を聞かれたくなかったのでしょうがもう録音されているのに感づいてますね。
顔を我々に知られたくないので金の運搬役にでも考えているのでしょうか」
「若造はグルだと思うか?」
「違うと思いますね。
グルなら指定しないでしょう。
むしろ遠ざけておきたいでしょう」
「3時の電話でコピー全て持ってくるように言え。
さもないとエンリケに伝える、と言え」
「そこまで踏み込んでいいのですか?」
「もう中身を読んでる。
相手はハワイの米人だろう。
ルイスの怖さを知っているはずだ。
沢村、東都の若造を呼べ」


細川さんにデスクを頼んでシーサイドに向かった。
ロビーでホタルさんに連絡した。
「今、沢村に呼ばれてシーサイドの3301に向かっているところです」
「今、2時半か、、連絡があるのかな、?」
「3301に缶詰にされたらどうしましょうか、連絡?」
「危険だから連絡要らない。
純、何もやるな。
数分前、パンチパーマがケース一個持って出かけた。
仲間が跡をつけている」
「そうですか、じゃあ行きます」
「気をつけろよ。
お兄さん、代わって、、、
純、無理しないでね」

沢村が不思議そうに見ている。
今朝、あれだけ力一杯蹴ったのに平気な顔をしているからだ。
「3時に相手から電話がある。
名前だけで何も言うな。
聞き流せ。
質問は俺が答える」
「僕が出るのですか」
「御指名だ」

今朝の怒りがまだ収まっていない。
間合いを計るかのように首から上が揺れている。
まるでコブラだ。
靴と靴下、脱いで蹴りたそうな顔つきだ。
多分、俺達、二人だけだったら飛びかかってくる。
準備は出来ていた。
腹に今朝と同じガイドブックを忍ばせていた。
ばれたら半殺しにされるな、、


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下はわいーい14: キリスト このエントリをはてなブックマークに登録

14:キリスト


ヤクザがエンリケに話していたらOUTだな。
もう、手下が探しているかもしれない。
戸昼はパスポートと金の入ったバッグを浴室、天井裏に隠した。
エンリケが関わっていると感じたらコピーを持って逃げるつもりだった。
コピーは一部しかない、もう2、3部欲しい、、

「ラルフは3時に何を言うのよ?」
「金の確認だけでいい。
300万用意しろと言った。
500だと言ってみろ、相当怒るぞ。
信用もなくなる」