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With a little help from Stranger                           

上巻

プロローグ KISS&GO
1:解放
2:徹
3:Deep Purple
4:過去との遭遇
5:日記帳
6:ナチ収容所
7:アウシュビッツ強制収容所
8:ピコと徹
9:溜め息
10;火山の神、ペレ
11:スコティ トイレットペーパー
12:アルカイナ
13:ドゴン族の太鼓
14:花子さん
15:ジョセフ メンゲレ
16:水晶の夜・the night of broken glass
17:アルカイナとアルカイダ
18:見張り
19:若いテロリスト
20:マイケル(Mikhail)
21:俺?僕?
22:ゴッドファーザー
23:ワシントンスクゥェア
24:サーフィン好きなお釈迦様
25:可愛い竜巻
26:ハロウィン
27:Charlie Parker
28:もう一人のマイケル
29:決心
30:スーパー小僧
31:ルドウィック

下巻に続く

フィクションです。
今のところ行き先不明です。


主な登場人物

Go 剣持: 元商社マン、現在、風来坊
Kiss: NYに住むTシャツ デザイナー
花子 コルベ: Kissと共にグルーヴィシャツ経営  
徹 コルベ : 不思議な能力を持つ、花子とマキシミリアノ コルベの子ども
山岡鉄二: アロイの片腕・広域暴力団組長・山岡哲司の非嫡出子 マキシミリアノ コルベ:花子のポーランド人の夫
ジョセフ メンゲレ: ドン ゴメスの主治医 
ピコ リード メンゲレ: メンゲレの養女・親友ルーリードの孫 
ルー リード:メンゲレの親友
ルドウィック:メンゲレの親友
マイケル(Mikhail Hashem Abed):20歳のイラク人テロリスト
サルバトーレ アロイ: ボナンノ・ファミリー副ボス
ドン ゴ メス: ガンビーノ・ファミリーボス  
トーマス ブシェタ: NY コロンボ ファミリーボス
ジョン スパーロ: シチリア ディマッジョ ファミリー副ボス
 
注:
NY五大ファミリー:
ガンビーノ、ジェノヴェーゼ、ボナンノ、コロンボ、ルッチーゼ。


[ホロコウスト]
ギリシア語で獣を丸焼きにして神前に供えるいけにえ。
ユダヤ人大量虐殺、ナチスドイツでは、Final Solution(民族浄化、抹殺計画)という。
 


プロローグ:KISS & GO  

俺の名はGO、ハワイ州、オアフ島、ダウンタウンのホノルル警察署内の拘置所でKISSと出会った。
歳も大体30前後、どことなく気が合った、多分、お互い世捨て人だからだ。
程度にもよるが、金を得る手段が環境に悪いなら極力やらない。まともに働きたくない、風来坊にしかなりえない。
生意気なことを言っているが、詰まるところ怠け者だ。
彼の本当の名前は、金太郎・イザベル・デ・スベンソン・スプキ・ムトンバ・ワムトンボ・〜〜この後まだ20ぐらい続くらしい、頭文字とってKISSだと言った。
お祖母ちゃんが薩摩出身の日本人らしい。

「GO、何やったんだ?」
「二人組強盗の片割れに似てるんだってさ」
「何もやってないのか」
「やってないさ!
三日前、夜10時頃、唇に水脹れができたんでクヒオ通りの薬屋に行った。
お巡りがいきなり手錠だ」


日系の小太りのおっさんが、にこにこしながら尋問室らしき小部屋に招き入れた。
それから4時間、名前、仕事、住所、ソーシアルセキョリティ(保険番号)、国籍、なぜここにいるのかなど何度もおなじことを聞かれた。
“何度も言ったように”を何度、言ったことか。
気が狂いそうだったので俺もおなじ質問を繰り返した。
“何度も言ったように”が“何度も言っただろうが”何度も言わせるな“何度もいったでしょう”と語尾変換されて刑事に伝染した。

「薬屋から2ブロック先のテリーに行ったな」
「何度も言ったように、行ってない。
なんだ?そのテリーって?」
「何度も言っただろうが、バーだ。
何度も言わせるな!
クヒオ通りで何やってた?」
「何度も言っただろう、唇にできた水脹れの薬を買いに」
「テリーへ酒飲みに行って気が変わったんだな」
「何度も言っただろうが、酒飲めない。
刑事さんは酒強いんでしょうね」
「何度も言わせるな!
酒に溺れてるような顔して。
で、金は?
もう一人が持ってるのか」
「何度も言ったように、何もやってないです!」
「しらばっくれるな。
証拠はある、金以外はな」
「何度も言ったように、俺は何もやってない。
バーで何があったんです?」
「何度も言わせるな。
ここではどうやって食ってる」
「何度も言ったでしょう、物を送るバイヤーの仕事」
「何送ってる?
盗んだものか」
「何度も言ったように、香水、ブランドのバッグ、鞄、コーヒー」
「NYでなんかやらかしてここまで逃げてきて、また一仕事したってわけか。
何度もおなじこと言わせやがって」

日系が去り、フィリピン系のこわそうな、痩せた刑事が入ってきた。
エスピノサと名乗った、キックボクサーっぽい。
歩くとき、つま先が120度開き、顔の右半分が左半分より気持ち下がっている。
体重があれば、K1、プライドで使える。

「テリーってバーで何があったのか教えてくれませんか?」
キックボクサーもにこにこ顔だ。
質問おたくが、って顔だ。
「ミフネしかジャパニーズの俳優は知らんが、おまえはいい俳優になれるぞ。
何があったかおさらいしょうか?
「もうおさらいはいいですよ」
K1戦士は朗読が得意だ。
どぶ水、自己陶水に浸りたがる。
急に立って歩くのと、いきなり表情を変えるのだけはよして欲しい。

「男がテリーに入ってきた。
カウンター内にいた女主人、白人の50前後の女性だが、彼女の所に歩み寄った。
(ここで立つ)
ドアの外に立ってる男見えるか?
(表情、チンピラ風に)
よーく見てみな。
ショルダーバッグを抱えてるだろう、え?中に何が入ってると思う?
ダイナマイトだよ!レジの金、全部このショッピングバッグに放り込んでくれ。
そうしないと爆破するつもりだ、おれは彼に頼まれただけだ。
こんなふうに間の抜けた変な訛りで言った。
ここまではいいな?」
「いいな?って何ですか。
よくないですよ、知らないんだから。
なぜ、いつもそこで話を切るのですか?」
「出入り口のドア横で、男がショルダーバッグを大事そうに小脇に抱え突っ立つているのが彼女に見えた。
(ここで立つ)
5分後、二人組はレジのあり金、4300$持って消えた。
その自称頼まれ屋は、彼女が金をバッグに入れてる間、バーテンダーと間違えられて客に酒を作ってやった。
(表情、バーテン風に)
記憶にあるだろう?」
「ありません」
「バーには20人近くの客がいたのに、誰一人として気づかなかった。
おまえたちはアカデミー賞もらえるぞ。
東洋系の顔、癖のある英語、サングラスの形、青のTシャツ、それにジーパン、まあ決定的なのは唇の水脹れだな」
「何度も聞くけど、俺の役はどっちなんです?」
「何度も言ったように、主役だ、頼まれ屋のバーテンだ。
何度も言わせるな!」
「あなたも助演賞もらえますよ」

KISSの話は余りに馬鹿げていた、今でも嘘だと思っている。
「前の日に食べた牡蠣があたってな。
トイレットペーパー持って遊覧ヘリコプターに乗った。
ボブ・ディランじゃないが、風に吹かれてすいすいと落ちてった。
どういうわけかこの警察の玄関前に落ちたんだ。
運が悪いことに、お巡りさんに当たってな」
「トイレットペーパーがお巡りさんに当たった?」
「お巡りさん、入院してる。
半年前に交通事故に遭ってやっと鞭打ち症が治りかけてたらしい。
三日前が久しぶりの出勤初日で、衝撃で元に戻ったって話だ。
当たったお巡りさんの名前が問題なんだよ、スコット・パヒヌイ。
俺が落としたのはネピアだ。
俺の言ってる意味、分かる?
スコット、可愛らしくスコッティ。
どうだ、あんなことにならなきゃあ最高のジョークだ。
今日、刑が決まった、罰金5000$と一月の公共サービスだ。
公共サービスは住んでる所でいいらしいからNYだ。
GO、俺は明日、出る。
おまえはまだかかりそうだな」
「ああ、下手すると刑務所行きだ」

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genre : 小説・文学

1:With a little help.解放 このエントリをはてなブックマークに登録

With a little help from Stranger

1:解放

KISSが出た翌朝、刑事のエスピノサが来た。
「犯人が捕まったからおまえは今日にでも釈放される。
昨日パールリッジで二人組が捕まってな、手口がおなじで唇の水脹れもあったそうだ。
テリーの女主人が100%彼らだと証言した。
そっちより似ている、とな。
ダイナマイトじゃなく手榴弾だったらしいぞ」 
「俺より似ている?って、そんないい加減でいいのですか?
ふざけてません?」
「よかったじゃないか、これぐらいで終わって」
「よかったじゃないか、、よくそんな言葉吐けますね。
5日ですよ、あなた達に付き合わされて」
「あのテリーの女主人、これまでにも似たようなことがあってな。
俺達も一応疑ってかかってたというわけだ。
よかっただろうが、誰も出てこなかったら5年は食らいこむとこだった。
素直に喜べ、減らず口が多い。
また災難が落ちてくるぞ」
「なぜ俺に説教じみたことを言うのですか
謝ってくださいよ」
「何!ぶちこんでもらいたいのか」
「唇の水脹れ、俺の見てください、、どうです?五日経ったらこうなります。
水脹れに見えないでしょう?
また主人、嘘ですよ。
あなた達がやることは彼女を捕まえることですよ。
エスピノサさん、テリーの常連なんですか?」
笑った、アカデミー助演賞、確実だ。


日本からのFAXが溜まっていた。
ヴィトンの値段、シャネルの口紅、品番〜〜を当たれ、バイアグラ、メラトニン、
最近はブランド品、薬、こんなのばっかりでうんざりだ。
韓国のなじみの店、三、四軒チェックした。
彼らの商魂はたくましい、どこから手に入れるのか化粧品、香水、ブランドもどきのバッグ、頼んで殆ど手に入らないものはない。
日本のファッション雑誌を手に消費者の好み、トレンドを勉強している。
たいしたもんだ、俺には無理だ、大体、ブランド品の存在自体どうでもいいんだから、そんな奴に限って関連の仕事が来る。
なじみの店はフランスに住む韓国人とコネがあるようだ、インド人とおなじで世界中に同胞が居ると言った。
ただし、国の出身地域で絆は微妙に違うらしい、妨害もありだとか。
複雑だ、俺達の営みは。
この仕事、心が満たされない、限界だな、ここハワイも。

「社長、NY、フランスにも当たってみましたが、ある程度の量買うならなんて言われました。
社長は客の注文もらってから動くのでしょう。
香港に当たったらどうです」
「ないから聞いた」
「社長、今日をもってこの商売から手を引きますので今までどうもありがとうございました」
「急に何だ!GO!
上手く行ってるのに手を引くとはどうしたんだ」
「もう贅沢品、薬、やりたくないです。
今日電話したのは、ここの商売止めてNYに行きますから縁があったらまた」
「NYに行くのか!
あそこはハワイよりなんでもあるから、GO、必ず落ち着いたら住所知らせてくれよ!」
「社長、また、贅沢品、ブランド品、バイアグラ、メラトニン、でしょう。
あんなもん、インターネットで探せるでしょう」


「なぜこここに電話を!」
ジョセフ・メンゲレは、ベッド脇サイド・テーブルの時計に目をやった。
午前一時半だ。
「ドン殺しを忘れたのかと思ってな」
「今すぐ電話を切ってくれ!
娘がいる!
明朝、診療所のほうにかけてくれ」
「こうでもしないとおまえの本心が読めん。
どう始末するのか計画を教えてもらわんとな」
「待っててくれ、娘が寝ているか見て来る」

ジョセフ・メンゲレの相手は、NY五大マフィアの一つ、コロンボ・ファミリーボス、トーマス・ブシェタだった。
2年前に執刀したブシェタ夫人の心臓バイパス手術が縁で知り合った。
ガンビーノ・ファミリーボス、ドン・ゴメスの主治医だったメンゲレは、ブシェタがドン・ゴメスを殺したいほど憎んでいるのを知った。
できるだけ多くのマフィアを道連れにしたかったので都合が良かった。
ガンビーノとコロンボだけでは満足できない、五大ファミリー全てを潰さないと。
それがドン殺しを延ばしていた理由だった。
しかし、好機は訪れず、ブシェタと約束した期限が3ヶ月に迫っていた。
最近、ガンビーノ・ファミリー内で変化があった。
上手く行けば、ボナンノ・ファミリーも巻き添えにできる。

これまで、ルドウィックとルー・リードという2人の親友がいた。
ルドウィックはベルリンにいた頃の親友だった。
目の前でナチ親衛隊に両手首を後ろから捻じ曲げられ、首を前方に押さえつけられて連行されていった。
6歳だったメンゲレに当時の社会情勢は理解できなかった。
凍てつく早朝、妙に血色のいい親友の素足をただ見つめていた。
あのときは何もできなかった、、親友ルー・リードの復讐をする、ルドウィックの分まで。

65年、ロウア・イーストで、ドン・ゴメスが孕ました女性の堕胎手術をして知り合った。
違法の堕胎手術で警察に捕まったとき、ゴメスが世話してくれた腕利きの弁護士のおかげで無罪放免になった。
ゴメスの地位がガンビーノ・ファミリー内で上がるにつれ、メンゲレの待遇も良くなっていった。
マフィアは血縁間の結婚が多かったので、心臓発作、精神障害、IQの低い子供が多かった。
それらもメンゲレの存在価値を高めた。

ドンの邸宅の近くに、米での唯一の親友、ルー・リードが住んでいた。
20年も前のことだ。
その親友が、ドンの12歳の一人息子を車で轢いてしまった。
まったく不可抗力の事故だった。
長男はローラースケートに乗れないのに、粋がって横断歩道がない道路を渡ろうとして事故にあった。
検察はルー・リードを不起訴処分にした。
メンゲレは友に付き添ってドンに謝罪した。
それですべてが終わったと思っていた。
しかし、事件から四ヵ月後、忽然と友が消えた。
当時、ドン夫妻はフロリダに休暇中だったが誰の指図かは明白だった。  


「ドン夫人、カテリーナは5月に尻の脂肪を取る整形手術を受ける。
約一月フロリダの病院に入院する予定だ。
ドンを爆破させることができる、私しか知らない秘密だ」
「爆破させる?何だそれは」
「申し訳ないが言えない。
7月始めまでには片をつける」






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genre : 小説・文学

2:With a little help.徹 このエントリをはてなブックマークに登録

With a little help from Stranger

2:徹

親父は米系の銀行に勤めていた。
2001年、9月11日、貿易センター・テロで帰らぬ人になった。
3年間のデンバー転勤からNYに戻ってきて三ヶ月目のことだ、
商社に勤めていた俺は、毎日、会えると喜んでいた。
何もかもが変わった、、陳腐な言い方だ。
まさか、そんな世界があるとは、という意味だ。
縁がない、他人事のように思っていたからだ。
一寸先は闇だ、誰にでも起こりえる。
幼い子が朝起きると大人になっていて、家族皆が消えていた、この方がまだシビアか。
親父の元に行きたいと、お袋が言う。
あれほど元気で何事にも前向きだった快活な女(ひと)が、いとも簡単に壊れ、ゆがんでいく姿を目にして怖くなった。
彼女のすべてが、あの日で止まってしまった。
会社を止めてお袋を日本に連れ帰った。
駄目だった、場所が変わればなんて嘘だ、あの世の親父と会話し、一緒に住んでいる人間には。
相槌を求められる、俺も壊れていった。
親父んとこに行こうか、、、
姿はないが一緒に生活しているのに、そう考えていた。

三人家族、一心同体、励まし、慰め、助け合う、なんて言葉は必要なかった。
彼らの存在自体が答えだった。
こんなにあっけないものだとは考えてもいなかった。
でも、そうなのだ、家の家族は三人で一人だった、当然こうなる、、でも、誰がこうなるなんて。
前触れもなく、一瞬でもぎ取るなんて、、ないだろう。

お袋は、2002年、9月10日に亡くなった、浴槽だった。
一緒に行くつもりでいた、一日、先を越されてしまった。
お湯の温度をチェックしていた俺の目を正面から見た。
久しくなかったことだ。

お父さんがしつこく言うのよ、、
あなたの名前はGO、
振り返らず前に進むGO、
、ほら、、いい名前だろう、、って、、
あら、また、、、
あなたの名前はGO、、
振り返らず前に進むGO、
ほら、、いい名前だろう、、って
あ、また言ったわ、、
あなたの名前はGO、
振り返らず前に進むGO、
ほら、いい名前だろうって、
あなたの名前は〜〜〜

お風呂場でも繰り返していた。
最後の言葉になった。


KISSの住所へ向かった。
チャイナタウンに近いトレベッカは、昔、酒、雑貨類などを貯蔵する倉庫街だった。
今はロフトに改装されて住居となっている。

あの事件以来、NYを避けていた。
彼を出しにNYに来た、彼のキャラクターが救いだった。
迷惑に思わないだろうか。
ピコに会いたかった、鉄二に、だが、まだ会えない。
6年ぶりのNYはしんどかった。
足が、馴染みの通りを、親子連れを、思い出を避けている。
KISSの住所近くに来て歩けなくなった。
こんな風でここに住めるのか、30にもなって餓鬼だ。
NYにはまだ来てはいけなかった。

ペン・ステーション(ペンシルバニア駅)に行こう。
どこでもいいから出よう。

おーいGO!GO!
何やってる!
待ってたんだぞ!

まさか、KISSだった、子供と立っている。

ドア脇にゴルフボール大の石が三つ転がっている、ホノルル警察でKISSが御手玉していた石だ。

「何考えてた、300mも先から見てたのに俺達が立ってるの見えなかったのか?
来るのかと思ったら逆戻りしやがって?」
「通りを間違えたかと」

子供がしゃべった、頬に可愛いそばかすがある。
日本人の顔立ちだが、どことなく違う。
ヤンキースの野球帽から直毛の黒髪が腰の辺りまで伸びている。
真赤なバスケットシューズに膝頭までのジーパン、黒色のTシャツの胸の辺りで、ゴールド色のお釈迦さんが夕日を背景にサーフィンをしている。
女の子だと思っていた。
「徹、これがGOだ、ハワイでお世話になった」
「お世話になったの?変なお世話」
「何だと!この餓鬼!」
「徹は日本人か?」
「お母さんの花子さんは日本人さ。父さんはポーランド人、僕は地球人。
ねえ、僕の隣の部屋使いなよ、アップタウンしか見えないから」

アップタウンしか見えない、どういう意味だ。
貿易センター側を見せたくない、なぜ徹は、

「ありがとう、そうさせてもらうよ。
通りに出て俺を待ってたのか?」
「この餓鬼が言い出したら断れんのさ。王子様で権力握ってるからな」
「花子さんいないからKISS、だらけっぱなしさ。
性分、仕方ないけどね」
「おまえの面倒見てるんだぞ!大人に向かって7歳の餓鬼が言う言葉か!」
「ほら、本気で怒っては駄目だよ、子供だよ、相手は」
「自分で子供だと言う餓鬼がどこにいる?」
「いつもこんな調子で怠け者なんだ。
花子さんの荷物、まだ取りに行ってないんでしょう?」
「行くよ!今日、行く、行く」
「花子さんは?」
「アフリカ旅行中、じき帰ってくる」
「俺はここに居ていいのか?」
「今朝、王子様、ベッドのシーツから何から、おまえの部屋、掃除してたぞ。
召使いが増えるんで喜んでる」



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genre : 小説・文学

3:With a little help. Deep Purple このエントリをはてなブックマークに登録

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3:Deep Purple

「王子様がうるさいから花子さんの荷物、郵便局に取りいく。
付き合うか?」
「そうか、、」
「GO行こうよ!僕も行くからさ」
「、、、じゃあ、そうするか」
「おまえ疲れてそうだな。ここにいてもいいぞ」
「大丈夫だよ、GOは僕のような餓鬼じゃないからさ」

なんだこいつは、見透かされている。
「行くよ、餓鬼じゃない、徹とは違う」

郵便局らしき建物が見えた。

前に並んでいる眼鏡をかけた30前後の男性が中年の女性と話している。
「ああ、そうですか、娘さんはアラバマですか。
私も昔住んでいました。人が親切なんですよね」
「あら、そう!娘夫婦に去年、子供ができたので何度か行ってるのよ」
「おめでとうございます。主も喜ばれていますよ」
「あら、あなたもカトリック?」
「ええ、身、心、すべてね」
「まあ、うれしい。そこまで言ってくれる人は珍しいわ」
「私の信じる、ジョセフ・スミス、ぺテロ、パウロ、この三人だけがイエス・キリストから神権をいただいた者で他のキリスト諸教会は神の力ではなくて人間の力によって作られたものです。だから私は真のキリスト教徒です」
「誰ですって?ジョセフ・スミス?
誰なの?何が真のキリスト教なの」
「モルモン教ですよ。神の選民だけが住むこのアメリカで知らないなんて。
この地に天国が再現されるのですよ、教義は、、」
「まあ!私はカトリックですよ!あなたたちのことを聞いたことがあるわ!
一夫多妻とか、黒人はカインの末裔だとか、、、」
「たしかに一夫多妻を認めている時期はありました。
それは旧約聖書のモーゼの五書に原始キリスト教時代の族長たちが神の許可によって二人以上の妻を持っていたとあったからなのです。
それは思想として生きていても現実にはありません。
重婚罪になりますからね。それに黒人のカインの件も公民権運動、以来はずしています」
「とんでもないわ!時代に合わせて変えるような宗教なんて私は認めません!」
「よく言いますね。旧約聖書39編にしても、6〜7年はかかっているのですよ。
その時代にそって変えているのです。
創世記のまったく違う天地創造の物語だってあるでしょう?」
「聞きたくないわ。もう私に話しかけないで!」

KISSが顎を撫でながら小声で言った。
「お笑いだろう、俺には結幕がわかってた。
この国の連中は宗教に関しちゃまず喧嘩別れだな。
自分を守る砦だから絶対に相手の言い分を聞こうとしない。
新約聖書にしても60年かそこらかかってる、元はギリシア語だろう。
誰が訳したのかは知らねえが、え?訳した学者の気分にもよるし、そいつの知識の深さにもよる。聖書の内容自体はどうだ?権力者の都合のいいように手を加えてないか?
伝わる過程で地域の文化、信仰などをつまみ食いしてないか?
確かなのは最初のキリストだけがまともだってことだ、後は烏合の衆よ。
信者が多くなりゃあ維持するシステム、リーダーが必要になる。
もう堕落しかねえと思うがな」

女性はまだ怒りで顔が紅潮している。
順番が来ると逃げるように窓口に走った。
男も怒っていた。“DAMN IT!(畜生)”。

「GO、宗教って複雑だね。反対のことをやるんだね」
「反対、、そうだな、」

KISSが黒人の局員に通知表を手渡した。
30秒後、局員が大きな太鼓を持って現れた。
でかい、とてつもなくでかい。
局員は2、3度、優しく叩いた。
音に興味を持ったのか耳を太鼓に近づけて揺らしている。

徹も俺も太鼓の大きさにびっくりした。
表面が直径60cm、高さが70cm、底の直径も40cmはある。
太鼓の表面と底辺を5mm程の皮紐で約1cm間隔できつく縛ってあった。
「この太鼓いい音がする。
ナイロビからか、、あんたミュージシャンか?」
「この餓鬼が音楽やってる」
「良かったな、坊や、これいい音するぞ」
「ドゴン族の太鼓だよ、花子さんに頼んでたんだ」
「あんたは生まれはナイロビか?」
「先祖にドゴン族がいてな。まだ向こうに親類がいるはずなんだ」


「この太鼓、重いな、GO、友達、紹介するよ。ついでに休んでこう」
その友達は、キャナル通りから数ブロック、アップタウン寄りのリトル・イタリーに住んでいた。
「KISS、そこの角だから僕キャシーのとこに行くよ。
GO大丈夫だね、もう?」
徹に頷いていた。

居間の壁に大きなステッカーがぶら下がっている。
“Smoke on the water(湖上の火事)犠牲者の会・Go fuck DEEP PURPLE(英ロックバンド)くたばれ、デーパプル“
「あら、珍しいわね、KISS、ハワイに行ったって聞いたけどなぜ行く前に知らせてくれなかったの。ワイキキの友達の住所を教えてあげたのに。
ボーイ・ジョージ(英ロック歌手)のそっくりさん役でショーに出てるのよ。
あら、ごめんなさい。お友達?紹介してよ」
「ロベルト、ジャパニーズのGO。こっちはロベルト」
「お目にかかれて嬉しいわ。さあ、座って、何か飲み物を作るわ。
ワインでいい」
ロベルトはやけに尻を振る、まるで歩くオットセイだ。

「あのステッカーは?」
「デープパープルを訴えてる。とっくに消えちまったがな」
「Smoke on the water(湖上の火事)、あの有名な曲か?
デープパープルの?」
「あれで、精神障害を起こしたそうだ。
犠牲者が全米で200人いるそうだ」
「精神障害?」
「あの曲だけは聴きたくないらしい。できればこの世から葬り去りたいらしい」

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4:With a little help.過去との遭遇このエントリをはてなブックマークに登録

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4:過去との遭遇


顔が真っ白、目がブルー、唇が真っ赤な人形が、ワイングラスを手に突然、現れてしゃべった。
「その太鼓はもしかして私へのプレゼント?」
「悪いが違う。花子さんがアフリカから送ってきたんで郵便局から今取ってきたとこさ。
遅くなったけどこれあげるよ」
 
ジーパンのポケットからゴルフボール大の石をテーブルに置いた。
KISSの部屋のドア脇にあった石の一つだった。
「ハワイ島の石だ」
「溶岩ね、ただの石のようには見えないわ。
ありがとう、KISS」
「GOがあのステッカーの意味がわからないらしい」
「ジャパンでは被害がなかったのかしら。
マスコミを利用して大衆にこの被害の深刻さを知らせないと風化してしまうわ。
あの憎いディーパープルの“湖上の火事(Smoke on the water)”が引き起こした事件よ」
「あの曲は古いロックだけど決まってると思ってた」
「まあ!あなたも、許さないわよ!」
「ロベルト、GOはただ素直に意見を言っただけだ、そう向きにならないでくれ。
事情を話せば理解してくれるよ」
「ミッドタウンのブロードウェイで楽器店をやってた。
“湖上の火事”が忘れもしない72年に出たわ。
それからよ、私達が原因不明の頭痛に悩まされ始めたの、
医者はただの偏頭痛ですって!
当時、NYすべての楽器店の従業員が偏頭痛で苦しんだのよ。
全米で数万、全世界で数10万はいたでしょう」

読めない、ロベルトが何を言っているのか。
35年間、偏頭痛で悩まされているのだろうか、
この曲がどう関係あるんだ。
生まれる前の話だ、自分に関係ないことだと適当に聞いていた。

ロベルトが俺を睨んでいた。
「あなた、35年も前のお婆さんの馬鹿げた話だと思ってるわね」
「ごめんなさい、真剣に聞いてませんでした」
「人の話を聞けるぐらいの余裕は持ちなさいよ。
自分だけが苦しんでると思わないで」
「はい、すみませんでした」
「ロベルト、怒らないでくれよ」
「KISS、今日は帰って、もう話したくない」

怒らせてしまった。
確かにいい加減には聞いていたが、なぜそこまで、
いい加減に聞いていた、、これだ俺の問題は。
KISSの言葉で少し楽になった。
「ロベルト、昔のことを思い出して頭が痛くなったのだろう」
「悪いことしたな、徹といい俺の気持ち見透かされているようで怖いな」
「それだけおまえがおまえじゃないということだろう。
彼女は70だ、堂々のゲイ一筋。
考えてみな、今は当たり前だが当時からゲイを公言していた。
差別、軽蔑、半端じゃない」
「そうだったのか」
「気にすんな、ロベルト、今度会うときは別人だ。
変わり身が早い」
「頭痛と“湖上の火事”がどう絡むのかわからなかった」
「楽器店に来る餓鬼共が、あの曲しか弾かなかったらおまえどうなる」
「ロック嫌いじゃないからな」
「一日中、ひっきりなし、毎日、朝から晩まで2年間、それも滅茶苦茶の音だったらどうだ?狂わんか?」
「、、、、」
「そもそもあの曲自体、とんでもない状況で生まれた。
71年、フランク ザッパ(FRANK ZAPPA・米ロック・コンポーザー)のスイス、モントレーのカジノでのコンサート中に火事が起きてカジノは全焼した。
客の悪ふざけの火遊びが原因だ。
それを対岸で見ていて出来た曲だ。
その燃えたカジノでレコーディングする予定だったからな。
いわくつきなんだ、だからロベルトの偏頭痛も起きる」
変わった奴だ、KISSは偏頭痛の原因を火事にした。

部屋に閉じこもって三日が過ぎた。
徹が学校から帰ってきては顔を覗かせる、散歩に行こうと。
KISSがコーヒー手に現れる、あのキャラだ、面白い作り話で笑わそうとする。

ピコ、鉄二、過去を避けているのに求めている、愚かだ。
四日目に外に出た、対決しに、逃げても逃げ切れない、わかってきた、その愚かさが。
ロベルトの偏頭痛もそうだ、今も引きずっている、一緒に生きていくしかない。

足は自然とロウア・イーストサイドに向かっていた、親父たちがデンバー転勤になって初めて一人で住み始めた8と9のアベニューAに。
日本レストランの看板が多い、また増えていた。
ヤッピー、アーティストの移動、ギャラリーの進出、犯罪、ドラッグの取り引き場所、
それらに左右されてNYは変化する。

9丁の1&アヴェニューAを歩いていた。
声をかけられた、部屋を斡旋してくれた不動産屋の爺さんだった。
ビル出入り口の階段に座っていた。
始まりだ、思い出との遭遇の、
「GO!GOじゃないか、久しぶりだな!」
「ザック、元気だった?」
「80だ、そろそろ娑婆ともお別れよ。
いろいろあったな、おまえも。
どうだお袋さんは元気か?」

ほら、きた、やってきた。
応えられるか、やるんだ、やるしかない、偏頭痛を見習え。
「お袋は病気で亡くなった」
「悪いこと聞いたな、許してくれよ。
ロイの爺さん覚えてるか?
部屋にゴミ、がらくたばっかり集めてた6匹の猫の召使よ。
いつもロイ・オービソン(米ポップス歌手)の“DREAM BABY(甘い夢を)”を歌ってた。
いい気持ちで古新聞にくるまって昼寝してたごきぶりが、目を覚ますと蓋がきっちりはまったごみ箱の中でよ。
出られなくておろおろ泣いてるような声してよ。
あいつは2年前、キャツト・フード喉に詰まらして死んじまった。
あいつらしい最後よ」

ロイ・オービソン爺さんはいつも出口で猫たちと日光浴をしていた。
「猫がいなくなったので探してくれ」
何度頼まれたことか。
彼の部屋に、ソファ、ベッドらしきものはなかった、ゴミ、古新聞、がらくたの山だ。
台所のシンクの皿の上に、水分を含んだキャットフードが五、六個ふやけて転がっていた。
すぐ横を数匹のごきぶりが見向きもせずに這っている。
ロイがキャット・フードを食べているのをみんな知っていた。
猫用のものだけは整理整頓されていた。
彼らが寝ていたダンボール箱には、洗いたてのバスタオルが敷かれ、彼らの食器はごきぶりが触れないようにプラスチック容器の中にあった。
彼の本当の名前を誰も知らなかった。
ここではニックネームで亡くなっていく人が多い。 



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5:With a little help.日記帳このエントリをはてなブックマークに登録

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5:日記帳

「彼女とは上手くやってるか、結婚したのか?」
「いえ、一人です」
「どうした、あんなに仲が良かったのに」

避けたかったのに案の定ザックはずけずけ入ってきた。
いつもこうだ、元気がない時は特に容赦しない。
弱いとこ突いてとことこん迫ってくる。
これが年の功なのか、強い人間だ。

「おまえにあの部屋貸してよかったのか、、
自殺に、あの事件、おまえの後、借りた奴は今、刑務所だ。
例の事件と関わり合いがあったとかな、テロリストだという噂だ。
今は物置になってる」

呪われた部屋?
今更言われても、
逃げたかった、行こうとした。
「ザック、俺行く、、」

ザックはそうさせる気はないようだ。
しわに埋もれた、縮んだ手が伸びてきた。
「待てGO!逃げるな。
ジジィのたわ言を聞け。
三年前に心臓麻痺だ、もう長くない。
おまえは変わった。
当然だな、多分、昔の俺に近いだろう。
あの自殺したNY大の女学生の日記帳にあった収容所の生き残りだ。
18の時、ドイツから移住してきた。
親父、お袋がいなくなって一人になっちまったか、
この世のありようが信じられんか、
すべてがもうどうでもよくなったか。
ここまで約50年以上、猫を12匹飼っていた。
彼らの死に様は立派だぞ。
母親、姉妹、兄弟、片方が亡くなって一人になっても、変わらん、悠然としている。
落ち込んでどうしようもないのは人間だ。
死とご飯食べるのが一緒だ。
当然のごとく受け入れてる。
あれにはまいった。
それに比べて俺達はやっかいな動物だな。
しがみついて、しがみついて、泣いて、泣いて、思い出、過去、記憶、、逃げたいのにすねて後ろ向いたり、戻りたいと願ったり、反吐が出るぐらいどうしようもない」

新品のキャデラックが止まった。
運転していた青年がザックを呼んだ。
「ザック!行くぜ!」
「ああ、孫だ。こいつが一応、後を継ぐ。
このビジネス潰そうが、どうでもいい。
こいつの好きにやるがいい。
もうここには戻ってこん、田舎で往生よ。
最後の日におまえに会えたのも不思議な縁だ。
GO、十分、生きた、悔いはない。
俺のように言い切れるだけ生きてみろ。
生き続けるってのはおまけもある、、
よく覚えてろ」
「ザック、、、」
「縁があったらあの世でな」

テークアウトのコーヒーを持ってトンプキンソン公園に入った。
色違いのべンチがおなじ場所にあった。
ここでピコと読んだ、あの自殺したメラニー、メラニー・トンプソンの日記帳、
、おなじ夢を見るとピコが言った。


五日も汽車に乗っていました。
ぎゅうぎゅう詰めで、押されて、踏まれて、手が千切れるかと思った。
ずっと、お父さんとお母さんの手を握っていました。
私の手を離さないものだから、すべて二人にはわかっていたの。
私もうすうす感じていました。
だから、離さなかった、何があっても離さなかった。

駅です、遠くで音楽が聞こえます。
バッハです、オーケストラが演奏している。
嘘だったんだわ、こんなに歓迎してくれてる。
“ARBEIT MACHT FREI(仕事をすれば自由になれる)”
大きなサインが風と舞っています。
でも、兵隊ばかり、、

アウシュビッツ収容所入り口で、白衣を着た人が、無表情で右、左と指図していました。
ドイツ兵がからかって面白半分に行く手を遮ります。
やめて、列が乱れるじゃないの。
お父さん、お母さんと何度もはぐれそうになりました。
もう、恐くて、恐くて、お父さん、お母さんの手にしがみついていました。

「豚、おまえは働ける」
すごい力で右手を引っ張られました。

ああ、お母さん!お父さん!

一瞬でした。
手を離さなかったので、お母さんとお父さんがスローモーションのように倒れていきます。
目と口が開いて、何か叫んでる、

お母さん!
お父さん!

見えない、、じゃま、よ、、
ああ、、

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6:With a little help. ナチ収容所このエントリをはてなブックマークに登録

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6:ナチ収容所

泣いていました。
頭を剃られて裸にされていた、、
冷たいシャワー、、氷水のよう、かかっています。
数字が見えました、、取れない、、刺青、私の腕に、
木靴の上に縞模様の服がありました。
背が低いのに、、、、、大きい、お母さん、、
おかしい、、サイズがみんな、、
背が高い子はミニです。
ドイツ兵達は大声で指を指して笑っています。
わざとなの、、ひどい、、

一日の食事は薄いパン一切れ、飲み水は朝一回だけ。
どちらも泥水のような色、変なにおい、薬、、、
でも、食べないと、、お母さん、、泣きました、、おかしくて。
殺されるのがわかっているのに、体の心配をしてる。
雨の日、トイレに行くのが大変でした。
遠くて、泥です、ぬかるんだ泥を歩かないと行けません。
でも雨が降らないと手が洗えない。

私たちのバラック横は死体が山になっていました。
ドイツ兵は、病気、栄養失調で亡くなった、と言います。
でも違う!自殺した人、逃げようとして殺された人達がほとんどよ。
こんな地獄、誰もが逃げたくなるわ。
でも、失敗すると、迷惑をかけます、、
寒い中、5〜10時間も外です、立たされる。
夢、希望など、、怒りと復讐心だけです、
そんなものが生きる力になるなんて。

収容所で働いているユダヤ人がたくさんいました。
もう人間ではありませんでした。
「あの釜よ、あんたのお父さんとお母さん。
あんたの子供はその釜」
でも責めない、こんな所にいれば誰でもそうなる。

汚い床に整列させられました。
「今日はジャガイモ取りに別のキャンプへ行く」
そのときドイツ兵のスロバキア語が微かに聞こえました。
「13歳の子も?なぜだ?」
ガス室行きです。

途中、少女の一群とすれ違ったときとっさに紛れ込みました。
みんなおなじ顔でがりがりに痩せていて目は死んでいます。
髪の毛も、、誰が、、なんて言葉はもうありません。

六ヶ月間で三度ガス室を免れました。
でも、ついに運に見放されて、
私達は殺風景な部屋に連行されました。
白衣を着た四人の男がいます。
一列に並ばされ縞模様の服を乱暴に剥ぎとられました。
彼等は無表情です。
私達の口をこじ開けて、歯、歯茎を金属の棒で突付きます。
耳を上下左右に強く引っ張ります。
鼻を強くつまんでは揺すりました。
物でした、彼らは加減などしなかった。
最後に、腕、太股を触りました。
選り分けていたのです。
ほとんどが年老いた女性でした。
私はまだ、13なのに、、

恐いガス室です。
物を押し込んでいます。
私の番です。
右足の膝から下が扉にひっかかってどうしても閉まりません。
兵隊は無表情、、、無理矢理入れるつもりです。
私の足を強引に曲げて押して捻りました。
思いっきり足を叩かれました、ひどく怒っています。
痛い、、、、
右足を入れようと必死でした。
おかしくて、おかしくなって、笑いました、、
気が狂ったように笑いました。
泣きました、、泣き叫びました。

止めて!
無理です!
もうぎゅうぎゅう詰め!
ひどく痛いの!

兵隊がのこぎりを手にこちらに来ます。

みんな、ひどい顔、体、、足、顔、手、首、腹、頭、
誰の足か、手か、、、わかりません。
体が繋がっていない、目、鼻、口、耳、、だけ、
息さえしていない、できないわよ!
そんな人たちに哀願しました。
「お願い、もう少し詰めて、、お願い、、」

夢はいつもここで終わります、ここで目が覚めます。
こんな夢、もう見たくない。
「神様にお祈りが足りないからだよ」
お母さん、お父さんはいつも言ってた。
でも、去年、続きの夢を、、 


注:
この章と次章は、[ホロコースト全史 マイケル・ベーレンバウム 芝健介監修 創元社] 
を参考に創作したものです。

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7:With a little help. アウシュビッツ強制収容所このエントリをはてなブックマークに登録

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7:アウシュビッツ強制収容所


のこぎりです。無表情で兵隊が刃先を右手で触っています。
冷たい、私の右足を、。
、、突然、声がしました。
中年のSS(ナチ親衛隊)の制服を着た男でした。
この男も無表情です。顔はあるのに、目、口、鼻、耳、何も見えません。

私を抱き上げました。
もしかして助けて、、、物です、乱暴に右肩に担ぎ上げました。
別の釜、、、奥の部屋でした。

もう私は人間ではなかった、助かるならなんでもやるつもりだった。
13の私が、、、大人のように振舞おうと、、
自分が嫌になりました、、死んだ方がましだと思った。

行為の後、裸の私を担ぎました。
釜です、あの釜に向かっています。
「どうだ、悦びを知って死ぬのが嫌になっただろう。
冥土の土産だ、お前の歳で悦びを知っただけでも感謝しろ」

ああ、熱い、、体が焼けています。
もう足も挟まらない。
足、頭、首、胴体、、肩、、手、、が、泣き叫んでいます。
”じゅう””じゅう”、まだ生きている。
足首が、頭が、胴体の一部が、火の粉を降りかけて襲ってきました。
怒っている、みんな怒っていました。
自分だけ助かろうと、、怒って当然、。

自分の手が、足が、体が、火の粉を消そうと必死で体を叩いていました。
私はもう早く死にたい、、体が、勝手に反応しています。

長い行列が続いていました。
こんな寂しいところに何があるの。
かすかに門が見えます、みんなそこに行くようです。

ああ、お母さん!、、
お母さんがいました。
お母さん!!
お母さん!!

気づいてくれた!
、、振り向いたわ!

自分でした、お母さんそっくりの私でした。
無表情でこちらを見ています。

急に強い風が吹きました。
お母さんは足をすくわれそう、、
お母さん!
お母さ、、ん!
気づかない、、、私なのね。

何かが触った、手です、可愛いこわれそうな小さな手です。
幼い女の子です、泣いています。
必死で握ってきました。
こんな小さな体では風にすくわれそう、握り返しました。

門に立っていた大きな男の天使がこちらに来ます。
「ここはいい子の遊ぶとこじゃないよ」
「お母ちゃん一緒!」

お母さん、、私があなたのお母さん、、?

「別のお母さん欲しいだろう?見つけてあげようか?」
渾身の力で幼女の手を締めました。
大声で泣いています。
私は、、緩めなかった。
天使が言いました。
「この子のお母さんじゃないのはわかってるんだよ。これは特別だよ」
天使は知っていた、知っていたのです、私の醜い心を。

目の前に光線が現れました。
天使は私たちを担いでその中に放り投げました。

夢、、、夢だと思っていた、、、でも、夢では、、。

アウシュビッツ強制収容所跡に行けば私の夢の原因がわかるのではと、お父さんとお母さんは去年連れてきてくれました。
建物は取り壊されてなかった。
でも、私には、あのガス室とバラックが見えていました。
釜もトイレの場所も、みんな手に取るように見えます。
あの泥でぬかるんだ通路は砂利道になっていて乾いています。
でも、私はぬかるみを歩いていました、あの、粘土のような。

膝から下が気持ち悪くて、迎えのバスに乗って靴を脱ごうとしました、
そのとき、あの臭いです、あの“じゅう””じゅう”と、焼け爛れた臭いがしました。
あ、煙突から煙が出ています!
お父さん、お母さんは何も見えないと、私だけ、見えるの、。
靴下に手が、、濡れていました、泥水です、靴の中も。

なぜガス室で自分だけ助かろうと、、
なぜ“この子のお母さんじゃない”と天使に、、
あの子のお母さんが近くにいたはずです。
叫んででも探すべきだった。
あの幼い手をきつく締めました。
また自分だけ助かろうと、、
、ああああ、もう駄目です!
あの子に!
本当のお母さんに謝りたい!


この章と前章は、[ホロコースト全史 マイケル・ベーレンバウム 芝健介監修 創元社] 
を参考に創作したものです。


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8:With a little help. ピコと徹このエントリをはてなブックマークに登録

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8:ピコと徹

ザックの紹介で部屋を見に行った時、ピコが備え付けの棚の後ろの窪みであの日記帳を見つけた。
このベンチで一緒に読んだ。

のこぎりが来るところまで大体同じ夢だと言った。
部屋を諦めた。でも、ピコがどうしても借りて欲しいと駄々をこねた、自殺したメラニーと何か関係があるにちがいないと。
彼女もNY大に通っていたが俺は思い出せなかった。
メラニーは俺より三歳上でピコは5歳違いだ。
ピコが夢の続きを見るのが怖くなってザックに部屋を断ったが彼女の執拗な頼みに折れた。
それから三年余り、月二回、週末に彼女が来て日曜夜に帰る、そんな生活が続いた。

彼女には年老いた医者のお父さんがいてセントラルパーク西に診療所を持っていた。
名前がジョセフ・メンゲレ、あのホロコウストで有名な医者と同じ名前だ。
なぜ名前を変えないのだろうと思った。
ユダヤ人が多い、ここNYで、あの名前で生活するのは地獄だ。
そのことをピコに聞いてみた。
ドイツから移民してきた時、両親はすぐ名前を変えたけどお父さんは変えなかった、と言った。
どうしてそんなしんどい環境に身を置いてるのだろう。
彼に会いたいと何度か言った、でも実現しなかった。
ピコはその度に言い訳をした。
名前があの医者と同じだから?違うとだけ言った。

卒業の時やっと教えてくれた。
自分は養女で実の父親は八歳のとき行方不明になったと言った。
今の養父と実の父親は親友の間柄だったらしい。
行方不明になった原因と養父の職業に関連があるとも言った。
養父、メンゲレはNYマフィア・ボスのお抱え医者なので会わせたくないと言った。
実の父親はマフィアに殺されたのだろうか。

それからあのトレード・センターテロが起きた。
あれがなかったら彼女と一緒になっていただろうか。
お袋を日本に連れ帰った時、ピコは22歳だった。
彼女との関係をどうしたらいいのかわからなかった。
愛し合っていた、でも若かった。
彼女を拘束したくなかった。
大体、先のことなんて、無理だ、不安で、不安で、自分が立っていられるかさえ危うい時に。
当時、彼女の養父も体をこわしていた。
必ず戻ってくるから待っててくれ、とは言えなかった。
どれほど愛し合っていたら言えるのだろう。
そう言えなかったのはそれだけ強くなかったということだろう。

日本に帰る早朝、ケネディ空港から電話をした。
元気な声だった、悲しくなった。
どんな声を期待していたお前は、行かないでくれなんてせがまれたかったか、GOよ。
俺のようにめそめそしたのは駄目だ、こんな男。

一人で喋っていた。
もう電話しないからと言った。ピコは自由だよ、と言った。
どこかで出会えたら声を掛け合おうと言った。
返事も聞かず受話器を置いた。
おい、おい、赤ちゃんのように空港のロビーで泣いていた。
誰も気にならなかったがお袋の目があった。
ひどくおびえていた、涙を一生懸命にこらえた。

電話の声が元気でよかった。これで彼女も踏ん切りがついて新しく前に進める。
こう思えるようになったのは大分経ってからだ。

彼女のことを忘れたことはなかった、忘れられなかった。
あの続きの夢を見ていたらと、心配だった。
二年前まで四年の間、三ヶ月ごとに電話していた。
無言電話が年に一回、後の三回は通りすがりの人に金を払って頼んだ。
それも二年前に止めた。電話を頼んだ人から結婚したようだ、と知らされた。
ひどく悲しかった。めそめそ坊やの淡い自惚れだ。
もしや俺を待っててくれてるのではと。
電話もかけられない馬鹿な男だ。
結婚を知ったのは、事件から立ち直ってピコの元に帰ろうと決心した頃だった。
お袋が亡くなって三年も腑抜け状態だった。
今回もNYに来たのはピコに会いたかったからだ。
今日ここに来たのも後押しを求めたからだ、勇気をくれるのではと。

もう彼女は結婚しているのに、何をめそめそ追いかけてる。

昔と同じベンチ横にある公衆電話を見た。
ザックに会わなかったらここから電話しようと思っていた。

もう忘れよう、ピコのことは今日限りで。
結婚して幸せになれてよかったね。
偽らざる気持ちだった。

部屋に戻ると十時を過ぎていた。
ベッドに横たわっていると徹がノックして入ってきた。
青色のTシャツの胸の辺りで、黒髪が額に降り注いでいる白衣のキリストらしき人物が、GROOVY のロゴが入った十字架の形をしたバスケットリングにダンクシュートをしている。KISSが新しくデザインしたTシャツのようだ。
黒髪から窺っている目が印象的だった、容赦なく、突き放すような、刺すような目だ。
誰かに似ている、?

「GO、メラニーって誰?」
ふいに飛んできた。
徹とキリストをしばらく見ていた。
「徹、なんでそんな名が出てきた?」

何かを言おうとしてドアを閉めた。
その音が答えのように聞えた。
徹は自殺したメラニーのことを言ったのだ。
あのキリストの目は徹だった。
 

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9:With a little help. 溜め息このエントリをはてなブックマークに登録

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9:溜め息

早朝、KISSと徹の声で目が覚めた。

「KISS、もう石戻しといて」
「なんのことだ」
「玄関に二つしかないけど一つはKISSの部屋でしょう?」
「ロベルトんとこだ、プレゼントにな」
「KISS、駄目だよ!人にあげちゃ駄目なんだ!」
「なんだと、なぜだ?」」
「どうしても駄目なの!学校から帰ってくるまでに持ってくんだよ!」
徹が強く言う時は逆らってはいけないのを知っていた。
「わかった、、わかったよ」  

徹が学校へ行った後、居間でコーヒーを飲んでいると、目を赤く腫らしたKISSがアトリエから出てきた。また、徹夜だ。
大食いなのに痩せているのはこれだった、寝不足ダイエットだ。
アーティストというのは悲しい人種だ、はまったら寝食忘れ、時を越え、溺れるようだ。
もう、アップ、アップなのにまだもぐっている。
時計は丸い顔をした数字のそばかすだらけの置物にすぎないか。
代償は命か、、瞬く間とは言わないが長いはずがない。

「今朝、石のこと話してたな」
「ロベルトのとこから回収だ。王子の命令だ。逆らえない」
「徹はどんな子だ。昨日変なことを聞かれた」
メラニーのことをKISSに話した。
「王子には数えきれないほど不思議なことがある。
電話先が心臓麻痺で死にかけてたり火事だったりな。相手は見ず知らずの他人だ。
二年前ジョーンズ・ビーチに行った時もそうだった。波打ち際で遊んでいた少女を見て、“
KISS、あの子溺れるから助けるんだよ“ってな。
そうしたら本当にその子が溺れた。
俺がハワイに行く前も、プラネタリウムに行った帰りにウエスト74丁のコロンブス・アべニューを歩いてたら急にあいつが走った。
70過ぎのお婆さんに後ろから体当たりして突き飛ばした。
びっくりした、なんせ相手はお年寄りだ。そうしたら間一髪、煉瓦が彼女の立っていた場所に落ちてきた。
お婆さん、倒れた時、右手首を折っちまった。
徹は違うものを見てる。花子さんの実家は巫女さん、コルベの父親は修道僧、、、、
コルベは徹のお父さんだ、亡くなった、地下鉄で線路に落ちた子を助けようとしてな、、」

最後の言葉“な”が宙に浮いている。
自分を納得させようと、無駄な努力をしている。
定番の溜め息だ、出るはずなのだが、微かな奴が。
目付きは既に変わっている。身近な、親しい人がいなくなると、誰もがこんな顔になる。
追憶モードになれば、出てくる、否が応でも出てくる。
遠くを見る、窓、窓の向こう、空、海、、、イメージする、そこにいるかのように。
無理してでもイメージする、こんなに悲しい気分にさせてくれた代償だ、イメージぐらい、鮮明な顔、体ぐらい出せよ。
輪郭をたどる、顔、目、口、、涙も、涙は出した方がいい。
こらえない方がいい、そうでもしないとなかなか切り替えられない。
癒しが必要だ、浄化してくれる、少しは折り合いを付けさせてくれる。
親しい人の突然の死だけは御免だ、わかっていたら代わりに死んでもいい。
残されるより先に逝ったほうが、、、理不尽だ、“なぜ”だけが心に巣食って一生、堂々めぐりのメーリーゴーランドの乗客になる。
気の利かない仕打ちをするものだ。せめて数分前、数秒前でも、知らせて欲しい、一言の別れ、感謝を伝える時間は欲しい。

KISSの言葉はコルベで止まったままだ。
それ以上喋らない、当然だ、誰だって御免だ。
もう会えない親しい人のことを赤の他人にその人となりを話すことほど馬鹿げた空虚なことはない。

やっと、KISSから溜め息が出た、やっぱり定番だ、ほっとした。

携帯が鳴った。
「KISS!すぐ来てくれない!お願い!調子が悪いのよ!」

〃ドタン〃

「GO!ロベルトがおかしい!付き合ってくれ!」



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10:With a little help. 火山の神・ペレこのエントリをはてなブックマークに登録

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10:火山の神・ペレ


管理人に鍵を借りてロベルトの部屋に入った。
ソファに横たわっていた、息はあったが呼びかけても応答がない。

あの大きなDEEP PURPLE(英ロックバンド)のステッカー[Smoke on the water・Go fuck DEEP PURPLE(英ロックバンド)](湖上の火事・犠牲者友の会・くたばれディーパープル)が“Smok on” と“the water・Go fuck DEEP PURPLE”の二つに裂かれてぶら下がっている。両端が焦げていた。
KISSがプレゼントしたハワイ島の石がその下にいる、、“ある”ではなかった、、いる、と感じた。

救急隊員がロベルトをストレッチャーに横たえた時、遠くで徹の声がした。
「ハワイの石は絶対に人にあげちゃあ駄目なんだ。
早くロベルトから取り戻すんだよ」

KISSが呟いた。
「徹か、、今朝、変なことを言った、、あれか」
ハワイ島のマナウ・ロア山の三個の石は、サンプルで仕入れたクレージーTシャツ七個の段ボール箱に入れて船便でNYに送った。
見知らぬ土地のものが好きな徹と石の収集を趣味でやっているロベルトへのプレゼントにしようと思っていた。
船便で送ったのは、飛行機ではやばい、と感じたからだ。
不思議な感覚だった、飛行機には乗せないで、と石が囁いたような、。

花子さんがアフリカに発って二日後、荷物が届いた。
港の倉庫からロフトに持ち帰ると徹が出し抜けに言った。
「KISS、部屋に持って行きたくなる、でも、程々にするんだよ。
花子さんに見せたいから帰ってくるまでなるべく玄関に置いといて。この石、いいことも悪いこともするんだ。
本当はここにいない方がいいんだ、でも来てしまったから」
「餓鬼、いいことも悪いこと、何のことだ?来てしまった、誰が来た?」
「説明してもわかるの?僕もわかんないんだよ」
また尻切れトンボだ。到底、理解できっこないとはなから思っている。
大人は経験があるからそうじゃないんだ、この餓鬼、説明しろ、と言いたかった。
現実的でもある、大人は、、徹の言ったとおりになるのは嫌だった。説明されても、多分わからない。

週に数回、彼が寝入った後、部屋に持っていって眺めるのが楽しくなっていった。
癪だったが徹の言うとおりになった。
ロベルトへプレゼントするのが惜しくなってGOが現れるまで決心できないでいた。

不思議な石だった、夢だ、誘った、とんでもないものを見せてくれた。
いつも怖かった、でもひどく魅惑された、中毒になりそうだ。
インスピレーションが頭の中を跳ね回って寝付かせてくれない、それも無数だ。
追いかけっこをしている、、、そう思っていた。
逃げているのに気づいた、逃げていた、後ろから水だ、滝だ、洪水だ、飲み込まれまいと逃げいるのだ。
飲み込まれそうになると目が覚めた。

夢によく出てくるのは、火(ひ)と水(みず)、それに、キリスト、ブッダ、マホメッドという名前の男達だ。名前が同じというだけで宗教とは関係なさそうに見えた。いつもホームレス、ギャングラッパーの姿で現れた。

公園で焚き火をしていた、その火を何で消すかでいつも喧嘩をした。
マホメッドは小便で、ブッダは雨が降るまで待つと言う。キリストは何もしないと言った。
共通しているのは火を消えそうとすると、小便、雨を飲み込もうと焚き火が巨大な火柱となって襲いかかってくることだ。火と水、お互いひどく憎しみあっていた。
結局、三人は焼かれてしまう。

ギャングの時は、今様のギャングラッパー制服姿だった、ピアス、ケツまでずり落ちたジーパン、たまたま親父の上着を羽織ってアンバランスな姿の自分に魅入ってしまった、ちょっと感覚がずれた子供。
このユニフォーム、最初にやった奴は革新的な人間だ、ノーベル賞ものだ、でも皆がこうじゃあもう看護婦さんのナースキャップと同じだ。
なんで最初にやった奴は現れない、俺がやったと、、、無理か、無理な話だ。
彼らは三派に分かれて、お決まりの殺し合いをやって死ぬ、それも今様だ、いや、大昔からか。

在るときなど、火は人間の格好をしていた、それも醜い乞食の老婆の姿だ。
物乞いをして、その人がいい人間か悪い人間か試している。
金があるのに施しをしない人にはとんでもない仕打ちをした。家、金、財産、ことごとく焼いて無一文にして、これが私の施しだと言った。
以来、最近のTシャツのデザインには必ず、キリスト君、ブッダ君、モハメッド君が出てきた、それに、火と水も。
正直、困惑していた。
俺にどうしろと、どうしてもらいたいんだ、この石は?

ロベルトはトルコ石の収集をやっていたので喜んでくれると思っていた。
そうではなかった、プレゼントした時そんなに喜ばなかった、むしろ戸惑っているように感じた。
これだったのか、この石に何かがあると彼は感じたから。
あの時、GOの言葉に怒って帰れと言ってしまったから機会を逸したのだ。

ロベルトは16丁のベス・イスラエル・メディカル・センターに緊急入院した。

「KISS、インターネットでハワイ島の石のことを調べないか?
徹があれだけ言うんだ、何かあるはずだ」

ロフトに急いだ、KISSが神妙な顔つきで石を持っている。

ネットにハワイ島の石のことが出ていた。
火山の神、ペレが住んでいた。石は体の一部で持ち去った者には執拗な復讐をするとあった。

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11:With a little help. スコティ トイレットペーパーこのエントリをはてなブックマークに登録

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11:スコティ トイレットペーパー

「あの石はハワイ島のマウナ・ロアだろう?」
「そう、溶岩だ」
寝不足で充血している目だけが輝き、その他のパーツはとうにヘドロだ、生気がない。
脳ミソ・モードは既にTシャツにペレの神をデザインしようと走り始めている。
ロベルトがこんなことになっても懲りていない。

ドア向こうから大きな声がした、徹の声、まさか正午前に帰ってくるはずは、、徹だった。
すっ飛んできた、ドアが回転ドアのように揺れている。
「どうだったの、ロベルト!」
不思議な子だ、どうして知っている。何を感じているのだ?

いくら先延ばししようが徹は容赦しないだろう、その覚悟をする時間がKISSにはもう少し必要なようだ。ばつが悪そうに携帯を持って自分の部屋に向かいながら言った。
「ロベルトは16丁のベス・イスラエル・メディカル・センターに緊急入院した。電話してみる」
KISSのTシャツの背中で三人の若者が跪いてお天道様に祈っている。その一人が彼によく似ている。

「徹、あの石がペレの体の一部だって知ってたか?」
「ペレって?」
「ハワイ島に住んでいる火山の神様だ。溶岩はペレの体だから黙って持ち去った人間に復讐するそうだ。不運なこと、病気、事故とかな、死んだ人もいるらしい」
「あの石、水が嫌いでしょう?」
「そこまでまだ見ていない、どら、、、」

KISSが部屋から出てきた。
「ロベルトは大丈夫だ、持病の糖尿病が悪化した。数週間で元気になるらしい」

「ペレはタヒチ生まれで、姉さん、ナマカオカハイの旦那を誘惑したので親父に追ん出されたとある。それからハワイをふらふらしていたようだな。
マウイ島でその姉さんに殺されているな。マウナロアで神になった。
気性が激しい性格の女性のようだな、しかも恐いな。醜い老婆に化けて人間を試すそうだ。悪い人間には罰を与えると書いてある」
KISSの声がうわずった、唾を飲み込もうとして喉チン子に引っかかったようだ。
「、、GO、老婆に化けるって!」
「らしい、乞食になって試すとある。金持ちのくせに何もくれなかったら財産を取り上げるそうだ」

徹がKISSを見ている、餓鬼大人だ、この子に俺達は太刀打ちできない。
KISSは動物園の虎にいきなりオシッコを引っかけられたような顔つきだ。

「徹、あったぞ!お姉さんのナマカオカハイは水の神だ。
だから水が嫌いなんだ。火山の神と水の神か、、ロベルトのステッカー半分に千切られてぶら下がっていた、両端が焦げて、、火の神だからペレが燃したのかな」
KISSが今度はブルッと身を震わした、ゴリラのくせにチンパンジーの赤ちゃんのようだ。
「KISS、見た夢によく似ているでしょう?」
徹の言葉に凍りついた、ゴリラが蚊になった。
「GO、ロベルトのステッカー千切れてたの?」
「“Smoke on”(注) と“the water・Go fuck DEEP PURPLE”に裂かれていたよ。あれは“湖上の火事”の意味じゃあないかもな。
Smoke onとthe waterに分けたらどうだ。
Smokeには撃ち殺す、消す、って意味がある。“姉さんを殺す”と読めないか。
“DEEP PURPLE”も海水って連想も出来ないではない、、DEEP PURPLEをぶっ潰せだ」
「なぜ、ロベルトに災難が行って俺には来ないんだ?」
徹が諭すように言った。
「ハワイで何もなかったの?それでもKISS懲りないからロベルトに行ったんだよ」
「ハワイで、、」

俺とKISSは顔を見合わせた。
遊覧ヘリコプターからトイレットペーパを落として、運悪く交通事故でむち打ち症が治りかけていたお巡りさんに当たってしまい、またむち打ち症に逆戻りしたって話のことか、それでKISSは罰金5000$と一月の公共サービスの判決を受けた。
「トイレットペーパー落とした時、石は持ってた、、よな。拘置所であの石をお手玉していたからな、KISS?」
「俺が逮捕されたのは石の仕業か?」
「トイレットペーパ落としてむち打ち症の人間に当たるなんて、、おまけに当たったのはお巡りさんだ。これでやっと信じる気になった」
「、、彼の名前はスコット、スコティだ、、ありえないよな」

徹が射るような目で二匹の蚊が納得し合うのを見ていた、蚊は正月を越せないんだよとでも教えているように。

注:
DEEP PURPLE:
ディーパープル・英ロックバンド
Smoke on the water・Go fuck DEEP PURPLE:
湖上の火事・犠牲者友の会・くたばれディーパープル
Smoke on the water:
ディーパープル、1972年,Machine Head(糸つむぎ)アルバムに収録された名曲。アルバムはHeavy Metalのさきがけとなった。
1971年、12月、スイス、モントレー、Frank Zappa(米コンポーザ)のコンサート中(カジノ)客の火遊びが原因でカジノが全焼。たまたま、そのカジノでレコーディング予定だった彼らが対岸で火事を眺めながら作った。(参考:ウィキペディア)

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12:With a little help. アルカイナこのエントリをはてなブックマークに登録

With a little help from Stranger

12.アルカイナ(テロ組織)

いつものように徹夜したKISSは太鼓がないのに気づいた。どこを探しても見つからなかったので徹の部屋に走った。
「徹!太鼓知らないか?」
「、、ああ、あれ、バンドの練習にキャシーが使えないかと思って昨日持っていったよ。KISS、家にいなかったから言いそびれちゃった」
「花子さんが帰ってきてからにしてくれよ。一応、俺宛に来たんだからよ、責任があるからな」
「どうせ太鼓、僕のものなんだ。そのつもりで花子さん送ったんだから、でもいいよ、KISSがかわいそうだから。練習場にあるよ、今日は行けないから明日でいいでしょう?」

俺がかわいそう、、餓鬼に言われたくない言葉だ。
「キャシーって、パーカッションやってる子か?
親父がマフィアの副ボス(アンターボス)とかいう?」
「そう言ってる人もいる。電話するから受話器持ってきてよ」

今度は受話器持ってきてよか、、王子から王様になるのも近い。

「キャシー、あの太鼓、花子さんが帰ってきてからにしてよ。もう帰ってくるからさ、KISSがうるさいんだよ。明日持ってくよ」
「わかったわ。徹、ここにあれば明日、学校帰りに寄れるでしょう。
運んで玄関に置いておくわ」
「いいよ、八ブロックもあるんだよ。無理だよ、重いんだから」
「大丈夫、もっと筋肉つけないと太鼓叩けないもん」

俺がうるさいからか、、徹も人のせいにするとこなんざ成長したものだ。千里眼に大人のいやらしさ、、当の本人の前で素直に口にするとこだけは俺と違ってまだ餓鬼だ。

キャシーは午後、八ブロック離れた練習場から太鼓を運んで玄関脇に置いた。
二日前から瓜二つの太鼓が玄関入り口脇にあったので代わりに練習所に運んだ。
六歳のキャシーには大変な仕事だった。運び終えた時、人差指の皮がむけていた。


その夜遅く、山岡鉄二はリトル・イタリーのマルベリー通りにあるキャシーの家を訪ねた。

キャシーの父、サルバトーレ・アロイはNYマフィア5大ファミリーの一つ、ボナンノ・ファミリー副ボス(アンダーボス)だった。七十を過ぎたボス、ジョウ・マルセロに代わってファミリーを仕切っていた。
鉄二はアロイの命令で太鼓を取りに来た。
中には、メデジン・カルテ(コロンビア・メデジン市に本拠を置く麻薬組織)のコカインと交換したヘロインのサンプル、約一キロが入っていた。
イタリアではヘロイン、コカインとも、キロ5万$で売買されていた。米ではコカインが1万1千$、ヘロインが25万$もした。
ドラッグに関して、NY五大マフィアは上納金だけを取ってシチリアからの新参者にまかせていた。
しかし、このうまい話にNYで一番弱小のボナンノ・ファミリーが飛びついた。
 
メデジン・カルテのコカインを、ベネズエラ、エクアドル、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチンを偽装用の積み出し地として使い、アフリカのナイジェリアを中継地としてローマ、パレルモ、カタニアまで船で運んだ。
ポルトガルの密輸ボートや入り江の多いスペインのガルシア海岸を出航した漁船団と公海上で落ち合い、荷の交換をすることもあった。

帰りの船でシチリアの盟友ディマッジョ・フアミリーが、アジア、中近東の阿片から精製したヘロインをベルギーのアントワープやオランダのロッテルダム、アムステルダム、英の港を経由してNYまで運ぶという仕組みだった。
なぜか英の港を経由する荷物は税関に疑惑を持たれなかった。
液化したヘロインをシチリア産のワインに混ぜる、トマトの缶に詰める、食肉の中に詰め込む、それらが主な運搬方法だった。
今回、アフリカの太鼓に詰めて運ぶ新しい方法をシチリアが考え出した。
鉄二は二日前に届いたそのサンプルを取りに来た。
この太鼓にはきな臭い噂があった。
アルカイナ(アルカイダの親戚テロ組織)が関わっているらしい、と。

それにしてもアルカイナだと、、もろ日本語じゃあないか、、
テロリストが五大ファミリーと仲良くお手手つないで何おっぱじめるつもりだ。




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13:With a little help. ドゴン族の太鼓このエントリをはてなブックマークに登録

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13:ドゴン族の太鼓

鉄二はマフィア稼業が好きでも嫌いでもなかった、たまたま親父が広域暴力団、山岡組のボス、山岡哲司、お袋がシチリア・マフィアボスの娘、もう生まれる前からレールは敷かれていた。
親父が若い時、命を狙われて逃げた先がシチリア、まさにゴッドファーザーの日本版だ。ハリウッド映画と違うのは、お袋の死は自動車爆弾ではなかった。子どもを助けようとして亡くなったと、詳しくは知らない、誰も教えてくれないからだ。
当時、ニ歳だった、無理な話だ。
だが、30になってもまだ教えてくれないとは、まだ餓鬼扱いのようだ。

玄関脇にあった太鼓を車に運んだ。
おかしかった、揺すると太鼓の中から“ガサガサ”音がした。

真夜中2時過ぎ、NJ(ニュージャージー)チェリー・ヒルに着いた鉄二は、濃い青色のストライプのシャツに白色の絹のスカーフを首に巻いたアロイの前で、眠気眼をこすりながら太鼓の皮紐を解き始めた。
きつく張られていたので解くのは容易ではなかった。
アロイはウォッカマティーネを手に作業を見ている。
「鉄二、今度はドゴン族の太鼓だとよ。ディマッジョもいろいろ考えるな」
「簡単に解けるのには変えてくれないでしょうね。爪、手の皮がメロメロです。
ボス、切ってもいいですか」
「税関もうんざりするんだとよ、解くのにどのくらい時間がかかるか見よう。解いてみな」
「中身なんて開けなくても調べられるでしょう?」
「ヘロインが太鼓の壁にへばり付いてるんだとよ、、音はしないはずなんだがな」

1時間後やっと皮紐を解いた。
中身を作業台の上に開けると、ヘロインが木片、繊維、植物に化けていた。
頭に来たアロイは受話器を荒々しく取った。
ディマッジョの副ボス、ジョン・スパーロが出た。
「何のつもりだ?手品でも見せてえのか?」
「誰だ?サルバトーレか。何をかりかりしてる。
手品だと?何を言ってんだ」
「ヘロインがゴミに化けたんだ!」
「ちょっと待て!どういうことだ?」
「太鼓の中身はゴミなんだよ!木、植物の屑のな!」
「ヘロインはなかったのか?」
「ない!ゴミだ!」
「サルバトーレ、落ち着け!俺がじかに入れたんだ。
間違いない。なんせ初めてのサンプルだ。
特殊な塗料を太鼓の内側に塗ってその中に上手く隠した。壁がヘロインだ。
念を入れてX線で調べたぐらいだ」
「”がさがさ”揺らすたびに中で喚いたぜ」
「中で喚いた?音がしたのか?」
「捕まえてくれ、ってな」
「おかしいな。塗料が剥げ落ちても音はしないはずだ。
そっちで手違いは?」
「ああ、今のとこ、ありゃしないぜ」
「FBIはどうだ?奴らが仕組んだってのは」
「ヘロインでしょっぴけるのにゴミに変えるか!」
「分かった。徹底的に調べるから少し時間をくれ。
おまえもそっちを調べてくれ」 

それから6時間後、
「サルバトーレ、徹底的に調べた。ゴミに変わったのが分からん。
そっちはどうだ?」
「荷揚げ業者から船員にいたるまでな。あんたのシチリアのライバル、インツェリッロ・ファミリーがやったってのは考えられんか。噂ではガンビーノ・ファミリーと手を組んで俺たちと同じことをやろうなんて考えてるらしいが」
「初耳だな。インツェリッロとガンビーノが組むのか。
ガンビーノはコンクリート、ごみ車、ブルックリンの荷降ろしで充分だろう。
まだ勢力を広げようとしてるのか?」
「ああ、強力な組み合わせだ。メデジン・カルテはどうだ?
奴らを取られたら戦争だ」
「じゃあ、コロンビアのカリ・カルテ(コロンビア・カリ市に本拠を置く麻薬組織)も奴らと組むな。
インツェリッロとカリ・カルテはコネがある。昔、俺たちとの戦争で負けたのがコロンビアに逃げた。
カナダ、ベネズエラにもな」
「てことは、このビジネスを始めても俺たちとは同じルートを使わねえってことか」
「そう願いたいな。このルートは俺たちが作り上げたんだからな。
だが参入してきたら、もう甘い汁は吸えないな。
最近メデジンの奴ら金にうるさくてな。コカインの値上げを要求してきた。
実は、サルバトーレ、1週間前にインツェリッロのスパイが見つかった。
絞りあげて吐かせようとしたが殺しちまった。今、聞いた話と辻褄が合うな。
だが、太鼓の情報は流せても中身までは変えられないはずだ」
「ガンビーノが噛んでると見たほうがいいかもな。
きたねえことを考えてやがる。
戦争の準備だけはしとくかな」
「まだ、その段階じゃあねえ。他のファミリーがどっちにつくか読んでからだ」
「手は打つよ。ガンビーノのドン・ゴメスが相手なら勝ち目はない。
ドンを始末すればなんとかなるが。ジョン、戦争になっても地獄の底まで一緒ってことで裏切りはなしだぜ」
「サルバトーレ、その言葉そっくり返すぜ」
「アルカイナの連中はどうだ、何か企んでいないか?」
「奴等はヘロインの元締め、パキスタンルートは一番安全だ、それだけの付き合いだ。深入りしたらとんでもないことになる」
「もう深入りしてんじゃないだろうな、テロ組織との関わり合いだけは御免だぜ」
「アルカイダとは関係ないと言ってたから大丈夫だ。あっちにはいろんな組織があるんだとよ」


翌朝、寝坊したキャシーは玄関に太鼓がないのに気づいた。
徹が持って行ったのね。

学校帰りに徹はキャシーの家に寄った。
母親、エリザベスがいた。
「キャシーは?」
「あなたたちとバンドの練習してると思ったけど違ったの?」
「じゃあ、練習場に行ってみるよ」
太鼓を玄関の入り口に置いておく、と言ってたのに。

アンプ横に太鼓があった。
やっぱり、キャシーは重くて運べなかったんだ。


家に戻ってすぐ電話が鳴った。
「徹、太鼓持って行ったんでしょう?」
「ここにあるよ」
「練習場に太鼓がないのよ」
「だってそこから僕が持ってきたんだよ。ないのはあたりまえさ」
「私の家から持って行ったんじゃないの?」
「う、ううん、君んちになかったよ。
練習所にあったから持ってきたんだ」
「それ、本当に徹の太鼓?」
「もちさ、何を言うんだ!KISSも見たし。そうだよ」
「私の叩く太鼓がないのよ!アンプの横に置いてたのよ!
昨日、家に二つあったの!みんな消えちゃったから私の叩く太鼓がなくなっちゃったの!」
キャシーは泣き出した。
「キャス!泣くなよ!これで君をバンドから追い出そうなんてしないから。
約束するよ。花子さんが帰ってきたらこの太鼓、君にあげていいか聞いてみるからさ」
「本当!徹、約束よ!バンドから追い出さないって!」

キャシーは家に着くやエリザベスの部屋に直行した。
いつものようにベッドに酔い潰れていた。
「ママ、起きて!ママったら、起きて!」
「あら、キャシー、早かったのね。もう学校は終わったの、、、」
「朝あった太鼓がないの、欲しいの。
どこに行ったの、ねぇ、ねぇってば!」
「太鼓?あれはパパのよ。パパが持って行ったわ」

キャシーはどの太鼓が誰のものかもう分からなくなっていた。
花子さんが早く帰って来ることだけを一生懸命に祈った。



KISSが毎日のように見舞いに来てくれた。
もしかして糖尿病以外の不治の病に冒されているのかしら。
身寄りのないロベルトは不安でKISSに哀願した。

「お医者さんに後どのくらいの命なのか聞いて欲しいのよ」
「ロベルト、申し訳ない、俺のせいなんだ」
ペレの神話を一生懸命に何度も説明した。
「KISS,あなたっていい人ね。
そんな馬鹿な作り話をして、、、、気休め言ってくれなくてもいいのに、本当にありがとう。
生まれたときから天涯孤独の身でしょう、だから覚悟は出来てるつもりよ。お願いだから先生に、、」 




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