ヒッチハイク:プロローグ. ストックホルム

2007年04月14日 09:37

ヒッチハイク

 
プロローグ:ストックホルム
1:ベルリン
2:ユトレヒト
3:アムステルダム
4:チューリヒ
5:バルセロナ
6:マドリッド.サンチアゴ・ベルナベウ
7:パリ.カトマンズ
8:ブエノスアイレス.プーケット
9:ラパス.クスコ.ゲバラ
10:リマ.カリ
11:ボゴタ.ベトナム戦争
12:中米.カタリ派
13:ラレド.US入国
14:NY.蘇生
15:サンディエゴ.LA.覚醒
16:ダラス.LA脱出
17:NY.再会
18:NY.メグの前世
下19:ウィスラーマウンテン
 20:バンクーバー
 21:シアトル 密入国
 22:東京 強制送還
 23:ハワイ島 コナ
 24:東京 グリーンカード
 25:東京ーNY
 26:NY ケネディ空港
 エピローグ 




フィクションです。    


登場人物

風耕二: 旅人
光 :   不思議な能力を持つ旅人
角さん: NY在住 ギタリスト
マーク・ボラン:  グレン大佐の一人息子
ボブ・レノン:  グレン大佐の部下
ミスターF:ヒーリングパワーをもった造形アーティスト
ロバート・スコット(トレーシー・デービス): 元米兵
キース・スコット:   ロバートの兄。朝鮮戦争の英雄
メグ・C・スコット:  ロバートの姉
チャック・ウォード:  キースの元部下で戦友
アントン・ウォード:  チャックの娘   
シャーキー・マーフィ: CIA工作員
バート・グレン大佐:元南ベトナム駐留米陸軍情報部サイゴン支局長
ジョージ・カミンスキー:ワシントン州選出、共和党上院議員
ハイメ(ジェームス):  アルゼンチンの旅人
パウロとハイディ:   チューリヒに住む学生


プロローグ ストックホルム

おかまのウェイター・ジョンがワインボトルを宙で2回スピンさせ、ケツを振り振り早足で歩いていく。
いつもの光景だ。
よく落とさねぇな。
落ちるよ、
光が言うや、
ギャシャーン!!
落ちた。
ジョンが小走りで飛んできた、
「大変!大変!大変!、
お客様、血まみれ!
助けて、誰か?」

おかま仲間のウェイター達が小走りでホールに向かった。
小走りなんだよな、いつも彼らは。
おう、ミス・エリックだけ大走りだ!
「おい、光、見に行くぞ」
「ほうきとモップはどこだ?」
「俺たちが後片付け、ってこと?」
ミス・エリックの首がホールから、
「ヤパンスカ、早く掃除!」

曲者だ、こいつは。
皿洗いと釜洗いがサボってないかいきなり来る。
釜洗いの光にはウィンクして小指で前髪をゆっくりかき上げ、俺には何もしない。
普段はサーカスの綱渡り、フォークにもけつまずきそうな悲しいぐらいの極端な内股、あわてると大走りなる。
この、偽善者め!
恋人ジョンと光には骨太い声をハスキーに変調し、俺には超低音のオクターブ奏法で迫る。
まったく釣り合いが取れていない2mの巨人だ。
神さん、寝ぼけてボタンかけ違った。

コンサート当日、ガムラスタンのリダホルム教会で、光、角さんと落ち合った。
スカンセンに向かった。

人波に飲まれた。
幼児をバックパックに背負った黒人の青年が角さんの名前を呼んだ。
「ヘイ、角」
「エドワード、元気か。
ジミヘンとなりゃ懐かしくて血が騒ぐようだな」
「モントレー・フェスティバル、67年以来だ。
「クリスティーナも元気そうだな。
もう何歳だ?」
「そろそろ三ヶ月だ。
彼女にもジミヘン聞かせたくてさ」
「生のジミヘンが子守歌になるってのは末恐ろしいな」

女性が角さんに声をかけた。
「角、あなたも来てたのね」
「おーマリアン、探してたんだ。
なんだ後ろにいたのか?」
「エドワードったら、この半年、この日の為だけに生きてるような感じなのよ。
明日からが恐いわ」
「もういいよ、マリアン!
今日だけは楽しませてくれよ」
「じゃな、俺たちは後ろで聴く。
マリアン、クリスィテーナはエドワードに抱かせないほうがいいぞ。
踊りだすから」


借りている部屋の裏手にある、
国が若者のために運営している溜まり場Club4(フイラ)で光に出会った。
そこはロックが夕方から10時までかかっていた。
もちろん、無料だ。
知らない曲、バンド名を彼から教わった。
ホテルの皿洗いの仕事を紹介してくれたのも光だ。
皿洗いが楽なのになぜかしんどい釜洗いをやっている。

角さんと出会ったのは帆船ユースホステル、チャップマンだった。
長髪にヘアーバンド、よれよれのジーパンにギターケース、ストリートミュージシャンだった。

片道切符、$246がすべてだった俺は、
ナホトカ経由でヘルシンキに着いた日からバイトを探した。
異国の地で生きていけるのか不安だった。
何事にも動じない二人の行きかたは新鮮で新しいバイパスが俺の中に生まれていた。

光と角さんはすでに空港で知り合っていたようだ。
ストックの空港でイミグレにパスポート取り上げられて別室行きさ。
すれ違った人が金を手渡してくれたさ、角さんだった。
500$、助かったよ。
あれがなきゃあ、多分、ロンドンに送り返されて日本に送還だった。

コンサートの後、俺の送別会を角さんの部屋でやってくれた。
三ヶ月限定の学生夏季短期アルバイトビザがそろそろ切れる。
二日後に俺が、二週間後に光がここを出る。

「角さん、日本出たのいつですか?」
「64年だ、USにな」
ギンスバーグ(Allen Ginsberg、詩人)ケロアック(Jack Kerouac、作家)等が始めたビートニックに近い世代だ。
羨ましかった。
後数年でこのムーヴメントも総括されるだろう。
微かに余震が感じられるだけ幸せか。

「角さん、USのビザ簡単に取れるとこないですか?」
「去年アムスからモントリオールに行ったんですが、カナダはビザ要らないのに入れてくれなくてアムスに逆戻りですよ、飛行機代まで払わされて」
「イミグレの理由は?」
「USのビザないからか、って聞くと、それもある、って。
納得できない、と言うと領事館から感じのいい中年の女性が来て、こっちに住む気なら日本で手続きして来なさい。
それの一点張りでした」
「イミグレに何か言ったのか?」
「いえ、特別、気に入ったら住むけどそうじゃなきゃあ三ヶ月で帰ります、と言いました」
「馬鹿だな、光、住むなんて言ったらどこにも入れないぞ。
余計なことを言うな。
イミグレにも人種的な偏見持ってるのもいる。
USのビザはアテネで比較的簡単に取れると聞いたことがある。
アテネまで行くなら日本で取ったほうがいい。
耕二、おまえは?」
「スペインまで下って船で南米に行きます」
「ヨーロッパ旅しないのか?」
「日本と変わらないようなんで」
「それで、南米か?」
「US目標にトライしますよ」
「どのくらい貯まった?」
「500です。
下でバイトできるような所ないですか?」
「アムスでバイトやってるのがいたが、スイスのチューリヒだな。
ここほどではないが、マレーシア人の若者がユースに屯していた。
仕事していると言ってた」
「スイスですか?
上手く行くと年が明ける頃、南米に入れそうですね」
「約二ヶ月、上手くいって300。
トータル750から800、船賃は?」
「120$ぐらいです」
「630〜780、、南米つく頃には500もないな。
どうやって、南米、中米、メキシコ、USまでたどり着くかだな。
下、ちんたらちんたら行って金が無くなる前にUSへ飛べ」
「はあ、ビザ、南米で取れますか?」
「ビザ?どこの?」
「USのです」
「持ってないのか!アメリカのビザ!」

大体、USにビザが必要だなんて、光の話でわかったぐらいだ。
「はい」
「やめろ。コロンビア、中米、メキシコ辺りで強制送還だ。耕二、無茶だ」
「無一文になったらバイト探します」 
光があきれた顔をして怒っている。
「おまえ、肝試しに行くのか?」
「それぞれの旅があるんだ。
光、いいじゃないか」

別れ際に聞いてみた。
「エドワードはストック長いんですか?」
「一年少し、と言ってたな。
USに戻れない」
「帰れないのですか?」
「ベトナムに一年いてベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)の助けでここに来た。
ジミヘンのコンサート楽しみにしていたようだが苦しかったかもな、3年前の自分には戻れない。
恐くてハイになって頭にこびりついたジミヘンの残音聴きながら自動小銃ぶっぱなして突っ込むんだ、と言ってた。
当時はビートニックの最盛期だ。
国内では同世代の若者が自由を謳歌しているのに、一方では精神をぼろぼろにされ病んだ自分にうろたえ苦悩している若者がいる。
アメリカ合衆国だな」

角さんのNYの住所をもらって別れた。


チャック・ウォードはこの一年余り空き家なっているニューメキシコ、サンタフェにある一軒屋のドアを開けた。
周りの田園風景とは場違いな錆ついた金属音がした。
昔、よく訪れていた頃とは余りにかけ離れた冷たい音にため息が出た。
カビ、埃臭、見覚えのある居間、台所、壁、床、
よそよそしかった。
去年の自動車事故以来ここではすべてが止まっていた。

くすんだカーテンを開けた。
まぶしかった。
昔と変わらないなつかしい風景があった。
微かに台所から音がした。
流し台脇の時計の針が,
約2時間ほど遅れて時を刻んでいる。
そういえば、
スコット夫人が、
三日で丁度1分遅れる不思議な時計よ、
と話していた。

喉が渇いていた。
蛇口に手を伸ばした。
水は出てこなかった。
冷蔵庫を開けるとコカコーラの瓶が2本とハイネケンのビール瓶が1本見えた。
キースの好みのビールだ。
ゆであがったハイネケンを恐る恐る口に含んだ。
シンクに流した。

二階のキースの部屋に向かった。
主のいない本棚横のキャビネットに2000枚近いレコードが立てかけてあった。
その表面が所々醜く剥がれている。
何かが引掻いたようだ。
床の上に爪の抜け殻が落ちていた。
猫の爪のようだ。

数センチ積もった埃と引っかかれた残骸を取り除いた。
目当てのMiles DavisのSixtetのアルバムを探した。

猫はMilesが嫌いなようだ。
無傷だった。
レコード盤を取り出して5枚の写真をセロテープで固定した。
ジャケットから落ちないのを確認して、
無傷のレコード100枚と共に車に運んだ。

一週間後、チャックはNY76丁ブロードウェイ角にある7階建てのビルに入っていった。
404のインターフォンを押した。

長い間、メグ・スコットはサンディエゴの療養所にいた。
会うのは事故以来だ。
相手ドライバーの飲酒運転が原因だった。
免許を取ってまもない自分の運転で家族を亡くした苦しみが彼女を抜け殻にした。
NYに帰っている、と人伝に知った。
訪問を躊躇していると手紙が届いた。

メグは青白かった。
簡単な挨拶の後、就職した、
と手紙にあったので聞いてみた。

上手く言葉が出てこない。
ため息をはいては手を口に当てている。
いらついているようには見えなかった。
もう諦めているようだ。

サンタフェに行った、と告げた。
言うべきじゃなかった。
彼女の顔が曇った。
用件を話している間、
深いため息をはき続けた。


1:えるびす&れのん

2007年04月15日 06:05

えるびす&れのん

 1: 宗教戦争
 2: リーさんのかなづち
 3: 松竹梅
 4: ヒマジンバンド
 5: かんとへるぷふおりんらぶ
 6: ECO
 7: あご痔
 8: ドクターキッド(木戸)プレスリー
 9: レイ、フレディ、ミックのももひき
10: ロックンロールの夜明け
11: えるびすじょん れのんぷれすりー
12: 歌謡ラップ ヒップホップ演歌
13: エルビス人形
14: アーティスト魂
15: 偉大な宗教 
  

fictionです。




登場人物
岡本J・L、誠:  ションレノン平和協会、代表。
山田・E・P平太郎:  エルヴィス世界平和、幹事。
田宮:  ションレノン平和協会、イマジンバンド、リーダー
聖子;  エルヴィス世界平和、デザイナー


1: 宗教戦争

隣接した古いビル。
ドアにELVIS PRESREY、もう一方にJOHN LENONの文字。
Love me tender,Imagineの曲を争うかのように流している。
LENONのドアからヒッピー風の長髪、ひげ面の岡本出てくる。
サイケデリックなシャツに汚いジーパンをはいている。

岡本: 私どもはビートルズのジョン・レノン様を教祖と崇め、世界平和を推進すべく活動している、ジョン・レノン平和協会でございます。
ストーカー、子殺し、親殺し、とんでもない時世となりました。
環境破壊によりこの地球は滅びようとしています。
いかにしてその速度を遅らし、地球を出来るだけ長くもちこたえさせようと、、そんな悲しいバンドエイド解決法しか見出せない現実です。
米、中国、日本、もう国に頼るのはよして、我々、民衆が、地球に住む我々一人一人が、手を繋いで歩もうではありませんか。
今こそジョン様のイマジンの教えに従い、心を一つにして、地球を再生すべく、争いのない世界を造るべく手を取り合って進もうではありませんか。
さあ、皆さん、声高らかにイマジンを歌いましょう。
(辺りを見回し、ため息をつく)
誰もいないのにこうやって声を出すのはさびしい。
それにしてもお隣さんはうるさいな。
いつも、いつも
“おめー何言ってんだ!”かけやがって。
本当は何というタイトルだったか?
おめー、、何言ってんだーーーだから、、おっと!
“LOVE め TENDER”だ。
日本語で何だったか?
、、、“やさしく愛してねーか”?
ホストクラブじゃあるまいし、今の時代に“やさしく”はないだろう。
“お・めー何言ってんだ!
、殴って、ひっぱたいて、
踏んづけて激しく愛してーーよね”
が似合ってると思うよ。
それにしてもあちらさんには他にましな曲はないのか、家はレンタル業もやってるから
恥ずかしがらずにジョン様の曲を借りに来ればいいんだ。
“実はわたくし達もあなたが、おっと、あなた様だな、あなた様がおっしゃるように
“おめー 何言ったんだー!”
にはうんざりしているところでございました。
熱中症にかかった輪ゴムのような伸びきり果てたテンポ、美しく聞こえこそすれ、どことなく平坦で情熱を感じることができない人生を歩んできたかのようなメロディー。
そして、最後まであなたを、、、、なんて、あの欺瞞に満ちた心にもない詩。
レインボーブリッジからバンジ―ジャンプで飛び降り、そのまま海面にたたきつけられて本当に万事休すに終わった万事ジャンプのような後味。
レノン様お若りしころのビートルズの曲でも結構でございますからどうかお貸しいただけないでしょうか?“って来ればよ、”I want to hold your hands(抱きしめたい)“でも喜んで貸してあげるのに。 

ELVISのドアから、リーゼントスタイルの山田、出てくる。
黒にピンクの水玉の入った繋ぎの衣服を着ている。
ズボンの裾が異常に広く、エルビスのステージ衣装を彷彿させる。

山田: また飽きもせず同じことを言ってますな。
岡本さん、どうしてわたくしたちの聖歌“ラブ ミ テンダー”にそのような難癖をつけるのか理解できません。
あなたがたの“ヒマジン”にわたくし達がケチを付けたことがこれまでにありましたか。
たしかにうんざりしていますが、そのような狭い見識でわたくし達は活動していません。
こちらに他に曲はないのかとかなんとか?誠に失礼なことを。
そっくりその言葉をあなたにお返しいたします。
“I want to hold your hands”、抱きしめたい、まあなんと下品なタイトル。
岡本:ヒマジンにうんざりしてる?イマジンだ!
山田:お!暇人とばかり思っていましたが、今ジンでしたか?
では、あなたもこれからはわたくしたちの聖歌“LOVE ME TENDER”と言っていただきたいですな。
(大声で)
“おめー何言ったんだー!”じゃあ、ありません。
岡本:ふん、、あんた達ラスヴェガスにイマジンの詩の崇高さを理解するのは不可能のようだな。
山田:ラスヴェガス?
岡本:ブラックのラッパずぼんにピンクの斑?
世を捨てた好色パンダじゃあるまいし、不自然だろうが。
山田:失礼なことを!
黒とピンクはプレスリー様のお好きな色でございますぞ。
あなたこそなんですか?その格好は、反社会的な長髪にみすぼらしいよれよれのジーパン、
臭そうなペンキを塗りたくったシャツ、まるで肥溜に巣くった銀蝿じゃございませんか。
岡本:肥溜めに巣くった銀蝿!何だと!
山田:わざわざ銀を付けてあげたのに怒っていらっしゃる。
やはり、ただの蝿のほうがお似合いのようですな。
岡本:エセ宗教めが、何を抜かす。
これはジョン様がインドに修行においでになった時の服をイメージしてデザインしたものだ。
あんた等の様に好き嫌いで作ったものではない。
そこがエセ宗教たるとこなんだ。
山田:なんですと!
エセ宗教とはなんですか!
岡本:ほら、そうやって怒るとことがそうなんだっの!
俺達はそんなことではネバー怒らん。
イマジンの詩がおっしゃっている様に、生きとしいける人類すべてにわき隔てのない愛を捧げてるからな。
素晴らしい神の曲“イマジン”を“ラブ メ テンダ”ーごときごくごくせーまーい愛しか歌っていないものと一緒にしてもらいたくないんだよ
山田:なんと言うことをあなたは!
何をもってラブ ミ テンダーを狭いと言われるのか。
どうしてイマジンが神の曲なのです?
わたくし達を挑発して何を得ようとしているのですか?
あなたは罰を受けるようなひどいことをおっしゃっているのですぞ。
災難を自分で呼び込む様な言動は慎んだほうがよろしいですぞ。


地味変 と 参るすでぶす. angel

2007年04月15日 22:26

地味変と参るす


1: あの世の参るすと地味変、そしてイチロー
2: ゴールドなゴージャスな蝿とストラット
3: あの世はこの世?
4: ドラッグ死? 



ウッドストックで、コンサート最後に出てきた.
午前0時の予定が9時間遅れてしまった.
既に客の大半は去っていた.
残っていた、疲れはてた若者がジミーを野次っている.
「Well, why don't you all go home,if you don't want to listen to this , I'm just trying to find something here」
「聴きたくなかったら家に帰れよ。俺は、ここで探 してるもんがあんだ」
Star Spangled Bannerが、行く末を暗示した戦場に響いた.
ぼろぼろの寝袋、段ボール、新聞、空缶、シャツ、服、靴、木片、ゴミ、壊れた椅子、ずたずたに裂かれたテント、、泥、反吐にまみれたがらくたの海に向かって、、、、、ジミーは弾いた.






angel

エンジェルが見つけてくれた
お月さんと深海の精霊は恋をしてたの  つづきはあしたね
翼をひろげた  飛んでいく  飛んでいく  かなたに
あしたは行くよ いっしょに  

エンジェルは来てくれた 
やっと  会えた、ね  さあ  行こう  
羽 やわらかいんだね  うん よくがんばったね  
もう  もう  はなれない

      
ジ: 地味変とりっくす、 どちらかというと日本南部弁
マ: 参るす・でーぶす  いい加減日本弁 




    1: あの世の参るすと地味変、そしてイチロー

ジ:  こんなとこで参るすに会うってさ。久しぶりだ!

マ:  おめー、ここさ、何年だ?

ジ:  70年に出たけん、こかれこれ37,8年になるとよ。参るすは?

マ:  まだ17年ぐらいじゃねぇか?それにしても、おめー、とんだ変わりようだな。スキンヘッドとはよ?

ジ:  育毛剤ないけんね。アフロは無理たい。

マ:  会ったことなきゃあ、本当に地味変か?わかんねぇべ。いや、、、、、スキンヘッドになっちょるとわな。おめー、俺がやりたかったの知ってんべ?

ジ:  参るす、何、言っちょるの?これじゃないとよ。(ゲイの振りをする)

マ:  馬鹿、ミュウジック。連絡してみっかーなんて思ってる内によ、おめー死んじまったんだ。

ジ:  おー、そうね。ばちが当たったとよ。

マ:  ばち?

ジ:  ギター火つけたり、床にぶちまけたりした、ばちたい。ギターの神さんが、もうこらえ切れんて。マリナーズのイチロー見習えばよかった。

マ;  誰だ?

ジ:  イチローも知らんと?

マ:  知らねぇな、チロー?そんな奴。

ジ:  イチロー知らんとーね?

マ:  しついこいな。知らねーぇで悪いのか?そうか、おめーはシアトルの出か?

ジ:  そうたい。
2001年から大リーグたい。
去年は城島が来たとよ。
ソフトバンクにおったたい。
入団したときは下手たい。
今は超一流たい。城島も努力したたい。
イチロー天才いわれとるばってん努力があったからたい。
努力したから天才たい。
(うなされたように話す)わんちゃんが監督、になって、、、、

マ:  うるせえー!!
わんちゃん、じょうちゃん、チローちゃん!
何なんだ、おめーえは!
何であの世の最近のこと知ってんだよ!
70年じゃあねぇのか、こっちに来たのは。

ジ:  NHK・BSの“大リーグ体感中感さあ大感!”のサークルに入っとけんね。最近、ここに来た人たちが教えてくれると。

マ: “大リーグ退官退官ああ退官”、、
、、響きが浄土宗か真宗だな?
え、、泣かせるじゃないの。
ギターの神さんも団塊世代の仲間入りか。
この姿、餓鬼どもが泣くな。
今もおめーのは売れてるよな。(ちょっと、寂しそうに)

ジ: 知っちょる。みんな、みんな、嘘たい。
CD勝手に作られとる。
それが一番頭にくるたい。
もう自分の音じゃないたい。
ギター壊したばちたい。
も少し、可愛がっとればよかったとよ。



    2:ゴールドなゴージャスな蝿とストラット

マ:  おめーがあんなにテープ残したからだ。
金がなる木ににゃゴキブリが集まるっぺ。
スタジオはスタジオだぞ。
スタジオ、楽器にしたらいかんがよ。
だが、立派な音出したな。
Fenderストラットキャスターな、おめーが使ったんで すげー人気だ。
60、70の婆さん、爺さんがよ。
最近、また目覚めてバンド組み出してるって噂だ。
これまた50年、60年のストラット持ってんだよな。
ビンテージってのを。
孫が曾孫がそれ狙って殺し合いよ、、、、、、
ってのは推測だ。Fender怒ったか?」

ジ:  そうたい。
ひどく怒っとった。
イチローのように大事に扱えばよかったと後悔しとるとよ。

マ:  おめーのお陰であの会社生き延びた。
ギターの神様のおめーがストラットキャスター使わなかったら倒産してる。
餓鬼共のヒーロだからよ。
後悔なんかすんな。
壊そうが知ったことか。
音出りゃ御の字よ。
俺も壊したかった。  

ジ:  トランペット?

マ:  おめーギターやってて良かったな。
様になんなえ、、、
ペット床にたたきつけてもな。わからんべ?

ジ:  はい。

マ:  一回投げたんよ。
みっともねぇんだな、それが。
鉄パイプなんで投げんのさ、、って目でにらまれた。
おめーと違って軽いんでな、ころころころがりやがって婆さんの顔にごつんよ。

ジ:  火はつかんとよね?

マ:  おめー馬鹿にしてんのか?

ジ:  なんで!参るす、誰があんたを馬鹿にできるね。しとらんよ。

マ:  何でギター壊したり火つけて燃した?
(地味変 股間の辺りで手の平を2度上に上げる)

マ:  何だ、それ?

ジ:  たまー、たまーですたい。

マ:  そんなしまりのねえしぐさすんじゃね!
ギターの神様がよ。餓鬼がそんな社会的な行為を見たら悲しむべや。
たまたま、?、、
馬鹿、そんないい加減でいいのか?

ジ:  演奏中に蝿がネックんとこにとまったんよ。

マ:  何!

ジ:  怒らんといてーな。参るす。

マ:  理解できねぇんだよな。こんにちは、地味―ちゃん、って蝿が言いたか?

ジ:  さすが、参るす、よく知っとるね。

マ:  何が、さすがだ。

ジ:  ゴールドの蝿たい。俺見てにやにや笑っとるんよ。

マ:  ゴールドの蝿ってのはどんなんだ!にやにや笑ってた!だと!

ジ:  ゴールドはゴールドさ。ゴージャスなゴールドの蝿さ。

マ:  蝿にゴージャスのがいるのか?

ジ:  ほんとに、参るす、怒ったらいかんよ。聞かれたから話てんじゃん。

マ:  なんだ、こんな大事な話のときに駄洒落言ったな。理解できるように言ってくれよな。おめーほどぶっ飛んでねぇからよ。

    

      3:あの世はこの世?

ジ:  参るすに“ぶっ飛んでるなんて”なんかうれしいな。

マ:  けっして褒めてねぇんだけどな。

ジ:  参るす、年取った?

マ:  なんだそれ!年取った、ってのは。
俺に聞いてんのか、それともなんだ、おめーが勝手に俺が歳食ったと判断したのか。
どっちだ?

ジ:  参るす。あの世でそんなこと話すのよそうよ。

マ:  何があの世だ?俺たちは今この世にいるんだろうが。

ジ:  そう?

マ:  だろうが。生きてようが死んでようが今いるとこがこの世だっぺ。

ジ:  参るすがそう言うならそうでいいよ。

マ:  それでいい、、?そんな社会的な言葉どこで覚えた。おめーは社会に妥協してなかったんであんな爆音出したんだろうが。
おめーの音はこの地球上の生物全てがよってたかっても出せなかったんだぞ。
どういうことか分かるか?

ジ:  いんね。

マ:  いんね!
いんね、とはなんだ!
因縁つけよってのか?

ジ:  違うよ!信州弁、、。

マ:  信州弁だと、、こんなときに九州から移動しやがって。

ジ:  “大リーグ体感中感さあ大感”に信州人がおってさ。違う、の意味たい。

マ:  信州、、、、言葉に独り旅させるな。
いいか、よく聞けよ。
おめーの音は全地球分の1だぞ。
当時は40億人分の1だぞ。
ジャンボ宝くじだと、1等が1000万の1の確率、、、、
400人分?、、、400億の価値があるってことだ。
わかるか。  

ジ:  ジャンボ宝くじ、、、さっぱり。

マ:  今のおめーは誰にでも妥協すんのか?

ジ:  ごめん、参るーす。

マ:  簡単に謝るな。おめーのあの反社会的な純粋な精神はこの世で消えちまったのか。

ジ:  歳食ったもんね。もうアフロヘアもできんしね。 

マ:  もういい、話続けろ。

ジ:  何の話だったかね?

マ:  忘れた?

ジ:  なんだったかね?参るす。

マ:  ゴキブリだろうが。

ジ:  おーそうそう、ゴキブたい。
  



      4:ドラッグ死?


地味変、しばらく思案している。

ジ:  参るす、思い出せんとよ。

マ:  なんだ!自分の話忘れてどうすんだよ。

ジ:  許してつかぁさいや。何だったかね。なんか聞いたんよね?

マ:  世話か焼けるな、なんでギター壊したのか聞いたらゴキブリがほいほいだ。

ジ:  ゴキブリ?

マ:  ここまで話しても記憶にないのか?

ジ:  なかとよね。

マ:  なかとよねー、だと。そんな傍観者の態度でいいのか?馬鹿なこと言ったのも覚えてねぇな?

ジ:  馬鹿?

マ:  、、銀色、金色だ!
金色のごきぶりが
、、、ゴージャスだ!
金色でゴージャスなゴキブリ、、のことだ。
これで分かっただろう?

ジ:  金色のゴージャスなゴキブリ!参るす、ゴキブリって言ったとね?

マ:  言ったとね!だと!言ったんよ、

ジ:  はーー!参るす、ゴキブリじゃないよ。蝿だよ。蝿!

マ:  おめーは都合悪くなりゃ話を簡単に変えるのか。

ジ:  ゴキブリ、言ったかね。記憶がなかとよ。蝿って言ったつもりだったけど間違っとったらごめん。

マ:  謝ってこの場を逃げようってのか!
あの世じゃ、おめーはギターの神様だ。
責任持て。
おめーにあこがれてこの世に来るやつらに申し訳ねぇだろう。

ジ:  そうですたい。 

マ:  アフロ髪がないと、みんな拍子抜けするな。で、続きは?

ジ:  にやにや笑って俺見て手をなめちょるのよ。
まぶしかったさ。
いきなり言ったさ“も少しまともな音出ねぇのか?”
びっくりだまげたさ。
蝿が話したんさ!

マ:  ついてけねぇ。
話がわかんねんだ。
蝿がおめーに声かけた。
それだけで、たいした蝿だ。
それから歌い出したか?

ジ:  参るす、これ誰にも話しとらんとよ。
話せんよ、ドラッグに、溺れちょる、溺れちょる、って見られとったけん。
死んだときもそうたい、ドラッグで死んだ、書いとるんよ。
みんな、嘘でいい加減たい。
運悪く喉詰まらせただけたい。
参るすだけは理解してくれる、って思ってたんさ。

マ:  そうか。
悪かった。
おめーはあまりにあの世の、しきたり、人間と違ったかんな。素面がラリって見えちゃあ、あの世じゃ生きてけねぇ。

ジ:  その蝿、生意気かとよ。
手なめた後、足なめながら言ったんよ。
“あんた、糞みたいな音に満足しとんの?”

マ:  ひれ伏してえ、崇みたくなるような立派な蝿だな。

ジ:  そうたい!
ちやほやされて、もう有頂天だったけんね。
自分を見失っとったんよ。
頭にきて叩いたさ。
ギターのケツに飛んだ。
ネック握って床に投げつけたさ。
蝿様、不死身たい。
まだケツに座っとる。

マ:  おめー目がいいな。

ジ:  見えるさ!
ぎらぎら輝いとんよ。
おったまげたさ!
そいで火をつけたさ。
すげーいい音が出たさ、
それからさ、病みつきになったんは、、、
あん時の音がベストたい。

マ:  その蝿様は?

ジ:  逃げないんさ。
燃えてったさ。
悲しかあーーー顔しとった、、、(語尾上がる)

マ:  蝿様は命かけておめーの腐った精神を直したんだ。 

ジ:  祭り上げられるのはもううんざりたい。  
その蝿様にそのあと遇ったんよ。

マ:  死んだんだべ?

ジ:  呼びに来てくれたさ。その蝿様さ、ここに連れてきてくれたんわ。

マ:  変なジャパニーズが差し入れたパンケーキを喉に詰まらせたと聞いたんだが

ジ:  そうさ、ドラッグじゃあなかと、、パンケーキじゃあなか”もち”と言うたい、参るす。その蝿さんがジャパニーズに化けて出てきたとおもっとるたい。

マ:  面倒見のいい蝿だな。おめーは、やっぱりドラッグじゃなかったのか。
パンケーキとはな、?

ジ:  ”もち”たい!うまか”もち”だったたい、参るす。


dorock osamu


angel

Angel came down from heaven yesterday. She stayed with me just long enough to rescue me.
And she told me a story yesterday, about the sweet love between the moon and the deep blue sea.

And then she spread her wings high over me. She said she’s gonna come back tomorrow.
And I said ‘fly on my sweet angel, fly on through the sky, fly on my sweet angel, tomorrow I’m gonna be by your side.

Sure enough this morning came unto me. Silver swings silhouetted against the child’s sunrise.
And my angel sha said unto ‘today is the day for you to rise, take my hand, you’re gonna be my man, you’re gonna rise’.

And she took high over yonder, take my hand, you’re gonna be my man, you’re gonna rise. And she took high over yonder. And I said’fly on my sweet angel, fly on through the sky, fly on my sweet angel, forever I will be by your side.
Jimi hendrix
  
                                

1: ヒッチハイク ベルリン

2007年04月17日 13:46

1: ベルリン

ストック市内から地下鉄で郊外のハイウェイに着いた。
バックパックのヒッチハイカーがいた。
「へい、どこ行くんだい?南に下んだろ。
僕、イタリア、アンジェロ。アンジーと呼んでくれ。
あんた、チーノ(中国人)?」
あご髭を生やし、年食った感じの、俺と同じ背格好の青年だ。
「耕二、ジャパニーズ、アムスに向かってる」
「方角は大体同じだな。
トリノに帰るとこなんだ。
毎年、伯父貴に会いに来てんだ」
「毎年ヒッチで?」
「5,6年、友達もやってる。
記録は5日、1週間あれば楽勝さ」
「何歳?」
「18」
老けた顔だ。13からヒッチ?

走り去る車に、あっかんべー、をしている。
世界共通だ。
「ここから協力してこぜ。道路で見かけたらドライバーに頼むんだ。
“お!友達だ、あいつ病気なんだよ。乗っけてってくれ””これでOK。
もう一つ、こっちは面白いよ。
先に着いた方が勝ち、ってのやらない?
僕は遠回りになってもいいからゴールはあんたが決めていい。
おお、、、もち!金賭けるぜ、どう?」
「いくら?」
「原則は50$なんだ、、、、」

20m先でクラクションが鳴った。
アンジーは知らん振りして俺の答えを待っている。
車は走り去った。
「10なら」
アンジーはやる気を無くしたようだ。

吹き飛ばされまいと不揃いのあご髭にしがみついたパン屑が、風に玩ばれ心細げに揺れている、今の俺のようだった。

「ユースのカード持ってる?」
「あるよ?」
「このゲーム、ユースに泊まるのが原則、身元確認」
こうしている間、アンジーは2台の車に肘鉄を食らわした。

一台の車が30m先で止まった。
アンジーが走った。
「ヤパンスカ・コジ、行くぜ!
今日、よく行ってハンブルグだ!
レーパバン(歓楽街)近くのユースだぜ!」

パン屑はしがみつけなかった、宙に消えいった。

20m先で急ブレーキの音がした。
日の丸ワッペンを貼りつけた登山リュックを荒々しく掴んで走った。
記念の最初の車だ!ボルボだった。
「アムスに行くところです!
もし南に下るんならどこでもかまいません!
乗せてください!」
「そんな遠くまで行かないよ。
ヨンコピングでよかったら乗りなよ」

勢いよく乗り込んだ車内の空気は居心地が悪かった。
喧嘩の真っ只中だ。3時間、奥方はくしゃみを3回、旦那は一言も発しなかった。
次の車でバサまで行き、そこの公園で寝袋におさまった。
翌日の昼過ぎ、マルモ、フェリーでコペンハーゲン、
その日は市内の公園だ。

ストックを出て、4日目の昼前、リューベック郊外の港に着いた。
弾む心でドイツに入った。
15人以上のヒッチハイカーが道路脇100m挟んで生活していた。
洗濯物がはためいている。
俺の船からあらたに20人余りが加わった、もう部落だ。
最終フェリーが午後2時、諦めた。
アンジーが10番目に座っていた。
「遅かったね。何番」
「35、6番かな」
「一日、25人がいいとこ。明日も難しいね」
ここで野宿する気はなかった。
「歩いてく。かったるくなったらバスに乗る。
ヒッチどうだった?会わなかったね」
「ヨーテボリさ。遠回りしたよ。
でも、ヘルシンボルグ、マルモ、あとはすいすいさ」

アンジーはストックより元気になっていた。
再会を約束して別れた。
そこから始まる一本道を歩き出した。

どのくらい歩いたのだろう。
遠くに教会のとんがり屋根が見える。
後ろでクラクションが鳴った。
最後のフェリーが着いたようだ。
すぐ横で声がした。
「ヤパンスカ・コジ!!
運転手さん、すごくやさしい人!!!
気が変わらないうちに早く乗れ!」

思わず、くすっ、と来た。
中型ベンツの前席に50代のカップル、後部座席にアンジーと二人の子供が荷物を胸に抱きかかえて座っている。
どこにも入り込む余地はなかった。丁重に断った。
運転席からおじさんが降りてきた。
窓越しに子供の荷物を取って無理矢理トランクに押し込んだ。
イタリア人の髭面のウィンクに、また、くすっ、と来た。

アンジーの肩越しに四つの目が俺を見ていた。
女の子だ。
小さなこぶしが伸びてきた。
俺の手のひらにキャンディが落ちた。
とろけるような甘さだった。

リューベックの駅前で彼等と別れた。
アンジーに10$渡した。
熱いシャワー求めてレーパーバンのユースに向かった。

 

アムステルダム駅近くのホテルで、チャック・ウォードはロバート・スコットに会った。
最後に会って4年が経っていた。
ロバートに昔の面影はなかった。
「ロバート、変わったな?
餓鬼から大人に変身したってとこか?」

話せなかった。涙声になるだけだ。
ベトナム、父・母の死、兄キース、メグ、この1年余り、何が起きたのか理解できないでいた。

「写真はメグの所だ。
覚えているか、キースのお気に入り、MilesのSixtetのアルバム?
そのレコードに貼り付けた、俺のところには隠すとこがないんでな」
「メグは?」
「元気になった、、も少しだな」
「家に行った?」
「ああ、行ってきたよ」
「、、、、、、、、、、、、」
「ロバート、写真のネガを100万で取引しないか。
お前は当分、国に戻れん。上層部が絡んでいたら長丁場になる。
金が必要だ」

どうしたらいいのか分からなかった。
元NATO情報部にいたチャックに相談した。
25離れた兄、キースの朝鮮戦争時代の戦友だった。
サンタフェの実家とチャックの故郷、テキサス、ラボックはそんなに離れていなかった。
帰省すると、いつも軍服姿で土産を持って立ち寄った。
兄、キース以上に親しい仲だった。

「大佐に写真を送って取引場所を告げる。それだけだ。
おまえは殺したいようだが俺は遠慮したい」


二日後、ベルリンに向かった。
結局、アンジーは現れなかった。

夜遅く、60半ばのハンスさんの車でベルリンに入った。
ライプチヒからの出張帰りでラジオ局の仕事をしている、と言った。
「この時間ユースは閉まっている。
私の家に泊まりなさい。
明日、送ってあげる」

途中、テイクアウトの店に寄った。
チキンバーベキュー、サラダ,ワインを手に戻ってきた。

いきなり、エンゲルベルト・フンバーティングの曲が流れた。
家族は誰もいない、不安になった。
おかま、だろう?野宿したほうが、、、、。
0時半を過ぎていた、見知らぬ地をさまよう気力はなかった。

チキンのこおばしいにおいがする。腹とハミングした。しきりにワインを勧められた。
飲めないと断った。

ハンスさんは饒舌になった。
話は重かった、相槌も返せない。
酔いも回ってきたようだ。
英語で話していたのが、いつのまにかドイツ語に、俺の存在に気づいてまた戻った。
時折、スラブ語が入ってくる。
飲めないのに、グラスを手にしていた。

ハンスさんはハンガリー系ユダヤ人でトレブリンカ強制収容所の生き残りだった。

「1942年、11月9日、 7時22分。
兵隊だ!10人。
デボラ、エステ、アニー、、、、スーザン、彼等は別々に連れて行こうとした、
私は抗議した、、、何度も殴り倒された。
抗議した、、
父と母がトラックに乗っていた。
目が、、合った、、、、、
さよなら、、、してる。
父の歳を越してしまった。
もう生きる気力も執着心もとっくに萎えて、、
時間だけが、過ぎていった、
どこかで生きている、
どこかで、、、、
、、、
わかったんだ。
もう会えないんだ、
もう、、、会えないのはわかったんだ」

テイクアウト容器の上に酔い潰れていた。
笑みを浮かべていた。
幸せだった頃の、明日を信じていた頃の家族といた。

白んでくる外をカーテン越しに眺めていた。
微かに居間から聞こえてくるエンゲルベルト・フンバーティングのレコード盤上で迷走している針の音が、ハンスさん家族のすすり泣きに聞こえた。

ベルリンの町は活気がなかった。
すぐ間近に見える壁の存在がすべての明日を閉じ込めていた。
空を見上げては壁から伸びる放物線を想像して気が滅入った。
ジャンプすると、頭をしたたか打ち、走ると、壁にぶつかるような感覚が俺をがんじがらめにした。壁に沿って歩くか、後退りするしかなかった。
圧力に押し潰されそうだ。壁がなくならないとベルリンは前に進めないと感じた。

ハンスさんがアウトバーン入り口まで送ってくれた。
俺の前では快活に振舞っていたが痛みを堪えている姿を何度か目にした。
 



2: ヒッチハイク ユトレヒト

2007年04月19日 16:39

2:ユトレヒ

すぐ車は捕まった。
速度制限のないアウトバーンは快適でわずか2時間余りでハノーバーに着いた。

途中降ろされた場所はカーブになった合流地点で見晴らしが悪いうえに車が止まるスペースがなかった。
ヒッチのやれそうな場所を求めてアウトバーンの中に入って行った。
ほとんどの車が100キロ以上で走っていた。
これはむずかしい。
その気になっても、ブレーキを踏むのに躊躇する。
 
1時間後、パトカーが止まった。
ソーセージを口にほ張った方が、ケチャップを右上唇につけたまま、乗れ、と目で合図した。
運転している方は耳を覆いたくなるような鶏声だ。
「あそこじゃあ無理。
止まるのはよっぽどの奴だ。
、下痢気味とかよ。
ヤーパン(日本人)?
重そうなリュックだな、米持ち歩いてんのか?
どこ行くんだ?」
アムステルダム
「俺も行きてえな。もう二年ご無沙汰だ。
パラジッソとファンタジオって名の旅人専用の安宿がある、そこに行くといい。
今ヒッチしやすい所に連れてってやるよ」

降ろされた所に、ヒッチハイカーが4人いた。
「運がいいな、4人だけか」
ケチャップがソーセージを食べ終えた。
「アウトバーンの中ヒッチやるなよ」

ハイカーは2人減って40分が経った。

一台の車が二人を通りすぎて俺の前で止まった。
40前後の人を食ったような赤ら顔が窓から出てきた、オリーブオイルでなでつけた髪が光っている。
リュックの日の丸ワッペンを不思議そうに見ている。

「免許証なんかどうでもいい運転できるか?。
運転さえしてくれればいいんだ」
車はくたびれた古いプジョーだ。
お仕置きを受けた傷が数か所見える。

「運ちゃん、ベルビエルスまで頼もうかな?」
「地図でどこにあるか教えていただけますか?」
「地図じゃあわからんよ」
アムステルダムの方向ですか」
知らんぷりして外を眺めている。

ガソリンスタンドで聞くと、アムスの方角ではなかった。
オリーブオイルは後部座席で酒を飲んでいる。
途中、ヒッチハイカーを見かけてはスピードを落とした。
今度も通りすぎた。
唾が飛んできた。
「止まれ!」 
ハイカーは女性だ。
おやじは後部座席に誘った。
ドイツ語を理解できない、間抜けな東洋の雇われ運転手の出番はない。  

ドルトムント近くで路肩に止めた。
荷物を持って降りると、ドイツ語で何か喚いた。
ボディを叩いて怒っている。
「おやじさん、ダンケ・シェーン!アウフ・ヴィダーゼン!」


目の前でBMWが止まった。
ドライバーは眼鏡をかけ、髪は五分刈りに近い。
白いものが混ざった顎鬚と口髭は伸ばし放題で、ジーパンに薄茶のワークブーツを履いている。
ブルーに白とピンクのストライプシャツの上にブルーのブレザーを着ていた。
礼を言うと、ユトレヒト・、フレドリック、と手を差し出した。
不思議そうに俺の後ろを見ている。
誰かいるのだろうか、、
「ジャパニーズ、コージ。
ユトレヒト近くのハイウェイで降ろしてください」

それから一分もしないうちに辺りが急に暗くなった。
強い風に雨が激しく落ちてきた。
それまで、誰かがお天とう様をなだめていたかのようだ。 
助かった。
目の前で親指が突き上がった。
ミスターFが微笑んでいる。
深海に横たわる地球の傷を治せないか、と苦悩しているような笑みだ。
手に異常を感じた、熱かった。

アーンヘムを過ぎてユトレヒトに達しようとしていた。
白地に赤くを眺めながら降りる用意をした。
そのとき日の丸ワッペンをなんとかしようと思った。

車がレンガ造りの二階建ての前に止まった。
玄関にカラフルな大きめのシャツを膝頭の辺りまで羽織った中年の女性が立っていた。
俺を見て頷いた。
「耕二、ここが家だ。泊まっていきなさい」
とミスターFは、家に入って行った 
彼女が笑みを浮かべ、エバ、と手を差し出した。
久しぶりに友人に会ったような感じがした。

彼女が二階客室まで案内してくれた。
なぜかしばらく家を留守にして帰ってきたような錯覚に陥っていた。
そこには「シャワーを浴びて、降りて行きます」
と言っている別の自分がいた。

ミスターFはブルーのフランネルのパジャマを着てソファに座っていた。
リラックスした様子で手巻きタバコ・サムソンを手に白ワインを飲んでいる。
エバさんはソファに座って、デッサン帳とにらめっこをしている。
さっぱりとした居間の片隅にいろんな物が置かれていた。
日本のお地蔵さんだろうか、ふっくらとした顔の像、パプアニューギニアの木製の顔、
象牙海岸の鳥が頭に乗っている手彫りのマスク、アステカの手足を縛られている囚人、
マヤの蟹の爪を持った人間、ペルーのナスカ以前の盃、古そうなバビロニアの小馬、
日本のつくね、モダンな形のシルバーフレームの鏡、ハーフムーンの目覚まし、器、ワイングラス、シャンペングラスも隅で輝いている。

エバさんが、「お腹空いている?」と聞いた。

シチューは旨かった、味のオンパレードだ。
三杯もお代わりした。
ガリガリに痩せていたので二人は不思議がった。
「美味いものなら腹がわめこうが泣こうが容赦しません。
極限まで食べます」
二人共、噴き出した。

食べ終えて動けなくなって居間のじゅうたんで大の字になった。
そのまま寝込んでしまったようだ。

意識がクリアになるにつれ、どこにいるのか、
恐くなってきた。金縛りになった。
動けない! 呼吸ができない!

ミスターFが右手で俺の額を触った。
全身の力が抜け、金縛りが消えた。
「旅の疲れが溜まってたね、バランスを保つために出した。
これからは余分な力や緊張をほぐせるようリラックスする方法を覚えると楽になる。
深呼吸を意識してね。
金縛りは精神の自由な遊びとも言える、普段は体も脳も同時に眠るから何も起きない。
今みたいなパニックに陥るのは体だけが先に眠ってしまったから意識はあせったんだ。
その間、意識は肉体から開放されて自由なんだよ」
金縛りが自由な遊び?
ミスターFは奇妙な人だ。  

ハーフムーンの形をした時計が目に入った、11時40分だった。
彼らはいつもなら床に入っている時間だろうか。
「もう遅いので先に休ませていただきます」
「耕二、もう少しここに居ないか?」
「今は不安でどこにいても落ち着けなくて動いているほうが楽なのです。
近いうちにこちらに住むつもりで来ますからその時はお願いします」
言葉が素直に出た。
「いつでも待ってるよ。
明日エバがハイウェイまで送って行く」

廊下の突きあたりの壁に小さな枠に入った顔写真があった。
ミスターFのお父さんだろうか?
髭、感じといいよく似ていた。

翌朝、キッチンにいたエバさんに、ミスターFは?と聞くと、隣の工房を指差した。
「邪魔じゃないでしょうか?」
「ええ、耕二が起きたら、来る様に、って」

納屋を改造した工房は、屋根が高く、小さな講堂のようだった。
窓から、ミスターFが一心不乱に土を捏ねている。 
ノックして入ると、おはよう、と言って作業を続けた。

許可をもらって、いろんな形をしたオブジェを見て回った。
彫刻、ブロンズ、木工、彫金、水彩、油絵、ガラス、ステンドグラス、シルクスクリーン、
乱雑に隅に立てかけてある。
靴、バッグ、食器、テーブル、椅子などの家具類も見えた。
好みの色はブルーのようだ。
でも、なぜ同じ色のブルーなんだろう。
それは、俺の知っているブルーと微妙に違った。
深夜人通りの途絶えたビルの立ち並ぶオフィス街を歩いているときに感じる、無機的なクールな音、”スー”と微かに唸る低い音になって入ってきた。
街の息遣いのようにも聞こえたが人間の介在は感じられない。

我に返ると、横にミスターFが立っていた。
「このブルーはどこから来たブルーですか?」
と尋ねようとした。
なんとなく生意気なようで思い止まった。
「耕二、知りたかったら自分で探せ」
とミスターFに言われたような気がした。
ミスターFはウィンクしていた。
なぜ理解できたのか不思議だった。

「これからどこへ行くの?」
「暮れまでヨーロッパでバイトします。
それから南米に渡り、
来年の今頃はニューヨークにいる予定です」
「暮れまでヨーロッパにいるの?」
「ええ、多分、アムステルダムチューリヒ辺りに」
「必ず来るのよ、待ってるわよ」
「はい、アムステルダムにバイトがあったらいつでも来れるけど。
でも、どうなるか」
「うん、先の話。あなたが自分の足で立とうとしているから、私たち、邪魔しないわ」

ミスターFの心に話しかけた。
「風と雨のお陰であなた達に会えたような変な気がします。また来ます。ありがとうございました」
「耕二、こうなるようになってたんだ、あの雨、風はね。
あの道路もどうして入ったのか分からないんだよ」
と言った。


車の中でエバさんに尋ねてみた。
「2階の廊下の写真はミスターFのお父さんですか?」
「パドレ・ピオよ。1年ほど前フレドリックは大きな交通事故に巻き込まれて医者に植物人間と宣告されたの。その3か月後、奇跡的に意識を取り戻したのよ。
彼の話では、その前日、枕元にイタリアの神父さん、パドレ・ピオが現れて何度か自分をグノー神父と呼んだんですって。
フレドリックはグノー神父が何者なのかヨーロッパ中を調べ回っているの。
今回もそのことで仏に行ってたのよ。
パドレ・ピオは2年ほど前に他界しているのに、、今でも彼のお祈りで救われている人が世界中にたくさんいるのよ。
フレドリックの調べたところでは、1918年、パドレ・ピオが礼拝堂で祈っていると突然キリストが現われて彼に光の矢を投げて失神させたらしいの。
しばらくして意識が戻ると、両手、両足、左脇腹の五箇所が焼けたように爛れていて血が流れていたらしいわ。
それ以来、パドレ・ピオはヒーリングパワーを持つようになったんですって。
1968年に亡くなるまでの50年間、その傷から数日間にコップ一杯分にもなる血が流れ続けたらしいわ」
「ミスターFの作品の、あのブルーは今のと?」
「耕二も気付いた。あのブルー、その事故からよ」

話に圧倒されていた。
エバさんの顔が目の前にあった。
とっくにハイウェイに着いていたようだ。
彼女が何やらダッシュボードから取り出した。
「お腹が空いたら食べてね。
フレドリックも好きな、エバのフライドライス」

彼女が走り去った方向を眺めていた。
何か大切なものを忘れてきたような感覚が残っていた。



その頃、チャックとロバートは、
スペイン・バルセロナからフェリーでイビサ島のエイビサに着いた。
この島は、ヨーロッパ・ヒッピー、アーティストのメッカで旅行者も多く、しばらく身を隠くすには打ってつけの所だった。


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3:ヒッチハイク アムステルダム

2007年04月20日 22:36

3:アムステルダム

 
エバさんと別れてすぐ車が止まった。
中は灰色だ、貧乏揺すりがひどい。
タバコをくわえ、足が交互に跳ねている、いや、全身だ、タバコも。
「時間があるんで好きなとこに降ろすよ」
アムステルダム市駅まで頼んだ。
市内に入って雲息が怪しい、渋滞だ。
事故だろうか。
5円硬貨をプレゼントして降りた。
犬の糞を踏んづけそうになった。
「、、運転してるときはテンポの早いロックは聴かないほうが、、」
「よく言われるよ。揺すると事故らんのよ、わかる?」

駅に向かった。
渋滞の原因は事故じゃないようだ。
若者が恐い顔をして走ってきた。
「お巡りがダム・スクェア(ダム広場)にたむろしてるヒッピーたちを追ん出そうと放水して追っかけまわしてんだ。逃げてっとこさ。
おまえも小突かれるぞ、そのなりじゃ!
先は行かないほうがいいぜ!」
なんて街だ、ここは、犬の糞とヒッピーのか。

若者の群れが大声でわめきながら走って来た。
「逃げろー、逃げろー、お巡りだ!お巡りだ!
みんな逃げろ!」
 
しかたなく一緒に走った。
鶏声が教えてくれたパラジッソかファンタジオを探すことにした。
一緒に走っている髭もじゃのヒッピーに尋ねた。
「パラジッソに行きたいんだ?」
「そこにいる。少し遠いけど探すのそんなに難しくないよ。地図持ってる?
連れてけたらな、友達とはぐれちまって心配でな」

パラジッソは、ダム・スクェアから4.50分程、
歩いたローゼングラヒト通りにあった。
講堂のような五階建ての大きな古ぼけたビルだった。
入り口がわからない。
隣接した空き地を囲った朽ち果てた塀から男が出てきた。
イラストの入ったサイケ調のTシャツを着ている。
ヘアバンドをしたお釈迦さんとモハメッド、
キリスト達がロックバンドを結成したようだ。

「ウェルカム、パラジッソ(天国)へ」
t-シャツに見とれていた。
「どこかで会ったかな?」
「ストックホルムにいたことは?」
出任せを言った。
予期せぬ答えが勢いよく返ってきた。
「ストックホルから昨日帰ってきたところだ。ジャパニーズ?
もしかしてストックでロバート・スコットというアメリカ人に会ったことないか?」
「会ったことがない」
ひどくがっかりした様子だ。

パラジッソに入ると、適当に学校の机を、15、6個並べて囲った受付があった。
後ろの棚に、バック・パック、リュックが並んでいる。
「泊まりたいんだけど?」
囲いの中にいた、180センチはありそうな女性に尋ねた。
「1日、2ギルダーよ」
「安いな。頼むよ」
「貴重品預かるとこないから自分で管理してね。規則ってものはないから責任持って行動して。ここにいる若者はビューティフルよ。
バック・パックはこの後ろに置いてね。みんな寝袋だけ持って行ってるわ。
それぐらい、、、かな、、、私、ネロ」
「耕二。よろしく。
ここは誰が経営してるの?」
「はっきりとは知らないけど市が関わってるみたいよ」 
「市が?ヒッピーのユースホステルを?」
「ええ、」
「部屋の番号は?」
「そんなもんないわ、1階以外なら屋根でも」
「天国(パラジッソ)には部屋の番号がないの?」
誰があんたに教えるもんですか、って笑みが返ってきた。

後ろの棚に白地に赤くを置いて、その、どこでもいい寝場所を探しに行った。
各階が体育館の広さだ。
それぞれの階に無数のマットレスが乱雑に横たわり、上で寝袋・蓑虫がうごめいている。
適当に寝袋を放り投げて1階まで降りてきた。

受付の反対側からボリューム一杯に音が唸り出した。
中で蝋燭の炎と一緒に15、6人の狂人が揺れていた。
まるで別世界だ。

ダムスクェアに向かった。
髮長族、リュックを背負った若者、それに犬の糞だらけだ。
昨日、マラソン中、なんとなく臭かった。
パラジッソ尋ねた彼が踏んづけたな、と思っていたら俺だった。
天国の入り口でぶつかりそうになった若者が鼻をつまんだ
「BULLSHIT(牛の糞)?
DOGSHIT?(犬の糞)」
犬をまだ見ていない。
犬のじゃないのか?

通りではサイケデリックなポスターがビルの壁をにぎわしていた。
来週ビーチ・ボーイズがコンサートをやるようだ。
アムスに真新しい鼓動を感じた、燃料は若者の熱気と犬の糞だ。

日本を出るとき不安だった、リュックに、白地に赤く、を付けた。
も少し何かが必要だった、髪を二分刈りにした。
不思議なもので少し落ち着いた。
それも首の辺りまで伸びていた。 

ここが騒動の起点だ、と言っていたのに、ダム広場にあっけなく着いたので拍子抜けした。
午前中は追い駆けっこやって昼過ぎに止めるのか?
ここならそれもありそうだ。

翌日、オールド・チャーチのチャイニーズレストランで、犬の糞、いや、昨日のヒッピーに声をかけられた。
「俺、ジェームス。今どこにいる?」
「耕二。パラジッソだよ」
「おかしいな、会わないな。何階?」
「4階のど真ん中」
「2階だから会わないわけだ。どうアムスは?」
「バイトがあったら住みたいね。ジェームスは?」
「ここに来て2か月、そろそろカタロニア(スペイン北東)の姉貴の所に行こうかと思ってる。それからブエノスアイレスに帰る」
「アルゼンチンから?」
「ロンドンに一年いた、スペイン語訛りの英語の普及にね」

彼の顔は、長髪、髭、顎髯で覆われていた。
眼鏡を掛けていたので素顔が見えない。
出会った日にダム・スクェアで何があったのか聞いた。
「野宿しているヒッピーを排除しようとポリスが放水したんだ。
みんなで抗議したら追っかけてきた。
ゲームでたまにあんだ、ポリスも刺激が必要なんだ」

その後、別世界へ行った。
光に教わった、ロックがかかっていた。

いきなり蝋燭の光が連続して飛んできた。
目の前で線香花火をやっているようだ。
数人が能面をかぶって踊っている。
あれ、呼んでる、俺を?

「あんた。
どこから来たのん?」
「ジャパン」
「それって、火星のどこあたり?」
「、、、、、」
「私の髪、どう?
2mあん..よ。
でもこれ.私の..じゃないの。
家に猫ちゃん十人と住んでるの、みんなこの..髪にくるまって..寝んの、最高よ。
みんな..に役割が.あって、ごろごろの..目覚まし..やさんとか、あなた、大丈夫?]
耳をつんざくような音の洪水で聞き取れない。
「えっ、何、何が大丈夫かって?」
大丈夫はそっちだろうが?
すぐ横で数人の男が牛と鳥になっている。

「おい、姉ちゃん、俺の踊りわかるか?」
「私としちゃあ.そう.簡単に.わかっ.てもらいたくない。その質問に.は.答えたくない.」
「俺が聞いてん、、、だろう、、、が?
その右手はヘアバンドかな?
あっ、わかった!
鳥の翼だな」
「いい線いってるけど、まだ、もうちょいが足りない。
いい、よく聞いて!
これは.ジーザス・クライストが.私を選んで.
つけてくれた傷があるんで隠してんの!」
「ジーザス・クライスト?
何言っているんだ」
「ねぇ中性!
あたいの.靴踏まないでよ.
これシャネルよ.高かったんだから!」
「わ.たしの.髪の毛.触らない.で。
ねえ、わかる?
.喜びの踊りを振りつけてるとこ.
あなた.なんか.シッダルサみたいね」
「おまえどっから来た.
インドネシアか?.
アメリカン・インディアンみたいだな。
おい、あんちゃん!
この姉ちゃんに何飲ましたか教えてくんねぇか.ここじゃ手に入んねぇんだろうな。
インディアンのか?.
金は払うぜ.おしえてくん.、、、、
もしかして、おめえジャパニーズじゃねえだろうな.
親父がひでえめにアッてんだ.ジャパニーズによ.
戦争中に.わかるか?おめえ」
「..いいから私に聞いて.キリストと.シッダルサも.来たのよ」
「何言ってんだ.
おめえは.男女(おとこおんな)のなりしやがって.
俺が話してんだよ..
このジョップによ.
キリストなんざ.どうでもいいんだ!」  
「ねぇ押さないでよ!
.唐変木!
社会の窓.なんか.開けて.
閉め.とき.なさいよ」  
「何だとこの尼,髪長お化けめ!
カリフラワーみてぇな.頭しゃがって!
.でけえ爆弾が落ちたろうがヒロコ、、?
ヒロナガか.ちょい違うな
.アトム.よ、、原爆よ」
「アトム..原爆..聞いた.聞いた..知ってる!
絶対に許せない。
キリスト様怒ってた…ヒロシキ.とナガシキ.
なんで覚.えてないの!
常識よ!
人間の義務よ!
あんたは人間じゃない!!」
「ありがとうよ.カリフラワー!
.いいか.横から口出.すんじゃねえ!
黙ってろ!.
その.ナガシキの.収容所でよ.ジャップがよ.」
「キリスト様をあなた.なんて言った?」
「うるせえな!
男女(おとこおんな)!
.このジャップに話があんだよ!」
「わたしは.一番弟子よ!」
「親父がよ.ジャップに.ひでえことされたんだ.ナガシキで」
「さあ、いまからでも.遅くナイ.悔い改めろ!」
「うるせぇ!!」

「耕二、何やってた?」
「あの髪の長い彼女が呼んだからさ。
何を話しているのかとんちんかんぷんさ。
まともに話せない。
みんな気が狂ってるんじゃないの?」
「わからなかったの?ドラッグだ。
相手にするな。疲れるだけだ。
明後日、出るんで俺はこれからファンタジオの友達に会いに行くよ」
「明後日、出るの?
来年の一月頃、南米に行く予定なんだ。
連絡してもいいかな?」
「ほんとうか?歓迎するよ」


ネイヴィのポロシャツに
オリーブ色のチノパンツをはいた男が入ってきた、あの宗教バンドのマネージャーだ。
「やあ、覚えてる?昨日?」
「ええ」
「時間あるかな」
「ええ」
「昨日尋ねたロバート・スコットのことだ。
ガムラブロ(溜まり場)によく出入りしてたらしい」
「ガムラブロに行ったことは?」
「ロックただで聞けるのでよく行ってました」
「ストックにどのくらい居たのかな?」
「四ヶ月ぐらいです」
「ジャパニーズだよね。ベ平連は知ってる?」
「はい」
「ベ平連と関係あるのかな?」
「ありません。ロバートはベトナムに?」
エドワードが頭をよぎった。
「ベ平連の助けでスウェーデンに来た。
差し支えなかったらこれからの予定聞けないかな。
おう、申し訳ない。自己紹介忘れてた。
シャーキー・マーフィ、ワシントンから来た。
君は?」
「耕二です。これから南に下って南米に行きます」
「じゃあ、頼み聞いてくれないかな?」
「ええ、事情によっては」
「そうだね。頼むからにゃ事情を話すのが礼儀だな。
三ヶ月ほど前ストックにいるって手紙をもらった。
国には帰れないしストックはおもしろくないんでこの冬カナダに行くと、書いてあった。
彼の家族に不幸があってね。
どうしても居所が知りたい。
ガールフレンドも知らない、最後に会ったのは7月終わりらしい。
アムスに何度か行ってた、と言ったんで来たんだが何も出てこない。
手ぶらで帰るのもしゃくでね。
旅の途中、もし彼に出会ったら私が捜してたって伝えて欲しいんだ。
どうかな?頼めないかな?」
「そういうことなら」
「ありがとう。これは2年前の写真。
右の耳たぶに小指の爪ほどのほくろがある。
身長6.5フィート、cmだと約190センチぐらいかな。
体重は180パウンドだから約80キロ。サイズはミーディアム、歳は24」
あどけない顔が笑っていた。
映画「イージー・ライダー」のCaptain America役のピーター・フォンダそっくりだ。
「国が近い南米に行く可能性がある。
これが私の名刺だ。
手がかりがあったらなんでもいいから名刺の電話番号にコレクトで頼むよ。
居所がわかったら1000$払うから」


ダム近くのマジックバス発着場でハイメを見送った。
金がやばい。
400そこそこしかない。
翌日、バイト探しに出かけた。
レストラン、ホテル、手当たり次第に聞いて回った。
労働許可証がないのですべて断られた。
次の日も7、8軒トライした。
マネージャーが休みなので明日来てくれ、このホテルが唯一残った。
角さんと光に生意気なことを言った自分はいなかった。

翌朝、そのホテルに行った。
ダムスクェアから2、3ブロック南に下った、アムバサダ・ホテルのレストランだ。
「今からやれるか」

朝の11時から夜10時まで、1時間の休憩のみ、
立ち尽くめだった。
棒になった足をひきずってサブ・マネージャーの所ヘ行った。
「どうでした?今日暇だったので楽でしょう。
バイト料、時間、2ギルダーです。
朝10時から夜10時まで1時間の休憩を除いて11時間で22ギルダー。
それから食費2ギルダーを引くので、20ギルダー。
これでOKですか?」

翌朝、チューリヒへ向かった。


 

4: ヒッチハイク チュ-リヒ

2007年04月22日 17:24

4:チュ-リヒ

車がユトレヒトを通るならミスターFの所に寄るつもりだった。
残念ながらロッテルダム行きだ。
その後、2台の車をヒッチしてアントワープまで来た。
橋桁の下で野宿した。
翌早朝、運良く一発でマストリッヒ行きの車に拾われた。
その後すぐケルン行きのトラックが停まってくれた、ケルンだと遠回りになるので手前のドーレンで降りた。
まだ5時前だ。
途中から小雨が降ったりやんだりの嫌な天気だ。
2台の車を乗り継いでマインツの手前10キロ辺りまで来た、蒸し暑い。

9時を過ぎていた。
お天とう様はどっちにしようかまだ決めかねている。
フランクフルトまで5,60キロの距離だったので続けることにした。
こんな天気で野宿なんかしたくない。

30分後、アウデイに拾われた。
フランクフルトに向かっている、と言った。
疲れが飛んだ。
今朝アントワープを出発してここまでの距離が約600キロ、新記録、達成だ。
ドライバーの顎髯と口髭が約1cmの幅で書いたように繋がっていた、ネイヴィグリーンのシャツに、グレイのVネック、プルオーバーのセーターを着ている。
ズボンが赤のコーデロイで靴も赤だ。
色は然ることながら、横にいるだけで汗が出てきた。 

10分ほどして本を差し出した。
「興味あるか?」
若者が裸で手を繋いでいる。
「興味ない」
気分を害したのか低く咳払いした。
お天とう様は決心したようだ。
外は霧雨だ。
車が路肩に止まった。
前を向いたまま言った。
「降りてくれ」

夕暮れも店閉まいだ。
見渡しても雨をしのげるような所は見当たらない。
ただ濡れた道路だけが、外灯を浴びて息づいている。
白地に赤くからアノラックを取り出した。
10時になろうとしていた。
たいして乗っていなかった。
路肩から少し離れて歩き出した。
白地に赤くがひどく重い。
1時間が経った。
雨宿りできるような場所はない。
リュックの重さが肩に食い込んだ。
アウディが頭から抜けない、、なんとなく悲しかった、リュックの重さより。

車が急ブーレーキをかけた。
40〜50m横滑りしながらスピンした。
なんとか止まった。
今にも壊れそうな古いシトロエンだ。
「どこ行くんだ?」
何事もなかったように言う。
何だ、こいつは、死んでいたかもしれないのに。
「大丈夫か!」
髮長の若いカップルだ。
「ああ、もちよ。
乗れよ。この雨、この時間で散歩のわけねぇだろう」
「パウロ、あれじゃない?
世界一周徒歩旅行とか、、、」
「そうなのか、何だ、そうなら止まって損した」
「違う!違うよ!何言ってんだ!、
ヒッチしてんだ!」 
「分かってるわよ、冗談。
あなた、その赤い太陽のマーク、、、ジャパニーズ?」
「そう、どこに向かってるの?」
「どこに行きたいの?」
「どこに行きたいの、、、、、って。
連れてってくれるの?」
「ええ、車で行けるらどこでもいいわよ」
笑っている。
何だ、、彼等は。
「チューリヒに向かってるんだ」
「いいわよ、連れてってあげる。
でも夜通し走るわよ、覚悟して。私、ハイディ、僕、パウロ。そっちは?」
「耕二、よろしく」
アムステルダムからの帰りらしい。
「学生で春先から5か月間住んでいた」と言った。
彼らはオープンで自由で純粋だった、しかも底なしだ。

早朝、スイス国境が見えてきた。
パウロが仏語で国境の係官と話していた。
その後、別の係官とイタリア語で話し出した。
「パパはイタリア人、ママがフランス系スイス人だからイタリア語とフランス語だろう。
スイスはドイツにも接しているから、この三つは母国語」

ユースまで送ってくれた。
彼等がどこに向かっているのか、さっぱりわからない。
「ここから、どこに行くの?
俺のために来たのなら申し訳ないんだ。
頼むよ、教えてくれ」
「耕二、ここだよ」
「ええ、それはないだろう?」
「あるのよ」
ハイディが念を押すように言った。

電話番号をもらって別れた。
何だ!あいつら、、、。
アウディの嫌な思いをきれいに掃除してくれた。

街に出た、広いリマット川を挟んでオールドタウンがあった。
さしずめ(ストックホルム+ベルリン+アムステルダム)÷三−犬の糞=チューリヒだ。
2週間余りの出来事を整理しようとした。
無理だった。流れに身を任しているのに溺れそうだ。
そろそろ光もストックを出る頃だ、NYで再会できるのだろうか。

前日、オールドタウンで見つけた
「BLOW UP(ブロウアップ)」という名のパブ兼喫茶店に行った。
M・Antonioni(ミケランジェロ・アントニオーニ監督)の映画タイトルと同じだ。
ロックとジャズがかかっていた。 
壁に1m大のビートルズの写真があった。
「彼らのハンブルグ時代にここまで足を伸ばして来たことがある。
ここでライブやったときの写真だ」
バーテンダーが誇らしげに言った。
そこには、リンゴスターを除く三人と別の顔があった。

おかしい。今日はジミヘンしかかからない。
「今日、ジャズかけないの?」
「知らないのか、ジミー・ヘンドリックス、昨日ロンドンで亡くなった。
今日はヘンドリックスしかかけないよ」
「亡くなった?どうして!」
「ドラッグだろう」
怒ったように吐き捨てた。
へラルド・トリビューに、
「原因不明、睡眠薬による窒息死か」とあった。

バイトを探すことにした。
久し振りにパウロに電話した。
「耕二、バイト探し手伝うよ。新聞に職業紹介所が載ってる。
可能性がありそうな所を書き出しておくから、明日、10時頃電話をくれないか?」
「ビザのない旅行者が行っていいのか?」
「可能性、自分で閉めるなよ。
情報ある所に当たるのがベストだろうが」

パウロが教えてくれた、駅近くのルーウェン・シュートラゼにある紹介所へ行った。
「皿洗いのバイトを探しています。
ここで働けるビザは持っていません。
どうか仕事、紹介していただきませんか?」

翌朝、トラム(路面電車)でチューリヒバーグを目指した。
紹介されたレストランの名はメーヴェンピック、市内から北北東、約15キロの郊外にあった。



11月初め、チャックとロバートはツアー旅行で帰国する英人に紛れてイビサ島からロンドン・ヒースロー空港に降り立った。

アールスコートのインド人が経営するB&B(Bed&Breakfast)に泊まって、ダラスに住む元大佐との接触を試みた。
3日目に繋がった。
チャックの存在を悟られたくなかったのでロバートが受話器を取った。
「グレン大佐か?」
「誰だ?」
「あんたを探すの苦労したぜ」
「誰だ!おまえは!」
「ティムだ。あんたの部下だったティム・ロビン、忘れたのか」
「ティム・ロビン?そんな名前は知らん」
「思い出したくもない名前は忘れるって訳か。
あんたに殺されたティムだよ、ベトナムのジャングルでな」
「一体何のことだ。切るぞ!」
「ティムから手紙もらってな、中に興味深いもんが入ってた。
100万$と交換したい」
「何を言ってる?」
「サンプルと楽しい会合場所の地図送るからそれ見て決めな。現金で、100$万用意しとけ、パーティは12月17日だ。場所は地図見て判断しな。現れなかったらすべて公表する。大騒ぎになるな」
「寝惚けたことを!おまえの名前は!」
「ティムって言っただろうが、17日に待ってる」

取り引き後の脱出に頭を痛めていたがサッカー好きのチャックが解決した。
会合場所はスペイン、マドリッドのベルナベウ・スタジアム内のコーヒーショップだ。
17日のバルセロナ戦、数万の観客に紛れ込むことにした。
 

11月半ば、二枚の写真と一枚のサッカー観戦の切符がロンドンから大佐の元に届いた。
ベトナム従軍中、カンボジアへ密かに行ったとき部下のティム・ロビンが撮影したパーティの写真だった。
彼はジャングルで始末したが、押収したフィルムはすり替えられていた。
大佐は、部下を動員してティム・ロビンの周辺を調べた。
12月初め、ティムの出身地とベトナム脱走兵をふるいにかけた。
それらしき男が浮かんできた。
その人物の写真とおおよそのバックグラウンドを入手した。
その男には右の耳たぶにほくろがあった。
ボブ・レノンに、ヨーロッパへ行って男を探すように命じた。


12月3日に出ることにした。
パウロ、ハイディが市内のレストランで送別会をしてくれた。
パウロが船乗り用の頑丈な分厚い麻でできたバッフルバッグを俺に差し出した。
これで白地に赤くから解放される。
でも、自分の足で立てるかまだ自信がなかった



5: ヒッチハイク バルセロナ

2007年04月24日 20:43

5:バルセロナ.  

さすがに12月は寒い。
古着屋で仕入れたアーミーコートとセーターを着込んでハイウェイに立った。
肩まで伸びた長髪、着膨れで体は風船、まるでアルプスの雪男だ。
俺が運転手なら乗せたくない。
昨日、金をチェックしたら800$ちょっとあった。
日本を出てから八ヶ月間で六ヶ月以上働いていた。
旅をしたのはたった一ヶ月、まるで出稼ぎだ。
スペインへはなるべく仏領を通らないコースを選んだ。
今まで遭った仏人が悪かった、俺の英語に仏語で返してきた、他国の人には英語で答えているのに。

それにしても寒い、もう二時間以上、立っていた。
小便をしていたらバスが見えたので少し高い位置に移動した。
パウロのバッグ目指して流れていた。
とっさに動いた。
靴、ズボンにシャワーがかかってしまった。
そこが凍って寒い。

車が前方15mで止まった。
救出された、靴、ズボンをバッグで隠しながら走った。
ブルーのサンダーバードで戦車のようだ。
真っ黄色のシャツに、真っ青のブレザー姿の黒人の若者が座っていた。
「スペインに行く途中です。下るならどこでも構いません。
乗せてください」
「とんでもない遠くに行くんだね。乗んなよ、ブラザー。
2、3キロがんばってみる」
ジェシーと名乗った。
ゴールドのネックレス、ブレスレット、たくさんの指輪を身につけている。
それらが、顔、皮膚に反射し、踊っている。
ジュエリー関係の仕事でもしているのだろうか、歩く広告塔だ。
ローザンヌで別れた。

スイスはヒッチが難しかった。
一時間たっても車を拾えなかったので汽車に乗った。
運悪く仏のリヨンまでしかない、ジュネーブ経由のリヨン行きを買った。

リヨンに翌早朝、着いてニメスまでのチケットを買いに行くと、
駅員は俺の英語を理解してくれない。
仏語でブツブツ言っている。
観光案内所を探して発着の時間を紙に書いてもらった。
午前11時に出て夜の10時に着く便しかなかった。
駅員は、中年のアメリカ人と英語で話していた、リヨンなんか糞食らえ!
町に出る気になれなかった。
寒いプラットホームの椅子に2時間座っていた。
風邪を引いてしまった。
その夜はニメス駅近くの安宿に泊まった。

翌朝、体がだるかった。
無理して道路に出た。
早く仏を出たかった、仏人の車にも乗りたくない。
そんなことが可能だろうか?
二時間待って駄目なら汽車に乗るつもりだった。

女性の明るい声が窓ガラス越しに響いた。
「スペインに行くところよ。今日はペルピニヨンでキャンプの予定だけど明日バルセロナに行くわ。よかったら乗らない?」
アダムとジェニー、父親が軍人で、ベルリンの大学に通っている、と言った。
ギターケースの上に、Jack・Kerouac(ケロウアック)の「On The Road(路上)」の本が見えた。

熱があった。
周りがぼやけてきた。
どこにいるのか、何をしているのか、この二人は誰だったっけと考えていた。
谷底に逆さまに落ちていった。

体に毛布がかかっている。
「キャンプ場に着いたわよ。相当疲れてたみたい。気持ち良さそうに寝てた」
「申し訳ない、とんでもないヒッチハイカーで」
「いいわよそんなこと。どう、サンドイッチ食べれる」
アダムが備え付けの木製のテーブルにサンドイッチを並べていた。
「よく眠れたか」
「ありがとう、5時間近くも寝ていたんだね。仏人の車じゃなかったからよく寝れた」
「仏人が嫌いか」
「親戚に仏人がいたらいい気持ちはしない」
仏人が英語を話してくれないのを説明した。
「ここはどこだ?仏語で答えられてもしようがないだろう。嫌なら勉強しな」
確かに彼が言うとおりだ、、

翌朝、簡単な食事の後ハイウェイに出た。
曇り空で今にも雨が落ちてきそうだ。
夕方バルセロナに着いて、郊外のキャンプ場に向かう途中で落としてもらった。
「風邪、治ってから動かなきゃだめよ」
ジェニーがウィンクした。
「体、気をつけるようにな」
とアダムがとポーカーフェイスで言った。


ユースでシャワーを浴びて横になると完全に鼻孔がふさがった。
翌朝、船会社に向かった。
「12月21日に、リオ・デ・ジャネイロ、サン・パウロ、モンテビデオを経由してブエノス・アイレスに行く船があります。到着予定は1月4日、ポルトガルの港町ヴィゴから出港します」

通りは、ポリスがやけに目についた。
髪が肩を過ぎていたせいか、彼らの視線がきつい。
ここはヨーロッパなのだろうか。
「俺たちはスペイン人じゃなくカタロニア人だ。
スペインではフランコの悪口を言うな」、
ハイメが言っていた。
彼の両親は内戦後の抑圧、虐殺を逃れて、アルゼンチンに渡ったのだろうか。

ユースに戻った、掃除で部屋に入れなかった。
ロビーのベンチで横になっていた。
男に起こされた。
「マドリッドへ行く旅行者を探してる。
5$で行ける。出発は明日の午後4時。
どうだ?空は1つ、乗るなら迎えに来る」


チャックは大佐が既にロバートを割り出している、と推測した。
自分の存在が知れるのも時間の問題だ。
誰にも頼れない。
文無しの旅行者を装ってマドリッドに行くことにした。
実際、文無しに近いのは事実だ。
サッカーのチケット3枚、ロンドンへの旅行、そしてイビサ島の滞在費。
中古のおんぼろトラックを100$で仕入れたので手持ちの金は少なかった。
この俺が金欠とはお笑いだ。
以前、NATO情報部にいたので金は工面できたが、ヨーロッパにいることを誰にも知られたくなかった。
節約のため旅行者を集めた。
彼らにガソリン代を負担してもらうことにした。



ボブ・レノンは、ほくろの男を求めてロンドンからストックホルムに飛んだ。
ヒッピーの溜まり場、ガムラブロに何度か足を運んで情報を得ようとした。
蝋燭の明かりだけの、薄暗い、汚い所だった。
Bob Dylanと Beatlesが一曲もかからなかった。
いらいらした。
女を口説くとき数分、長く間を持たせるものでしかなかった自分の名前に、二人と神秘的な繋がりがあると信じていた。
音楽に詳しいと自負していたのに知らない曲ばかりだ、うるさいロックは嫌いだ。

7月末を最後に忽然と消えていたが、ほくろの男については興味深い情報を得た。
9月に、同じ男を探していた40前後のアメリカ人の存在を知った。
大佐に報告した。
「ほくろの男、ロバート・スコットが写真を送った主だと思いますね。
今もって行方知れずです。
人付き合いはいいほうではなかったようですが、限られた友達、ガール・フレンドにも、行き先を伝えていません」
「他に仲間は?」
「彼に近い人間でいなくなったのは見当たりませんでした。一つ気がかりなことは、9月に、アメリカ人がロバートを探していたそうです」
「これからマドリッドへ飛んでサッカー場の下調べと奴の現れそうな場所をチェックしろ」


翌日、午後4時、トラックが現われた。
荷台に5人、女性は二人でアメリカ人、それにデンマーク、イタリア、ドイツだった。
みんながジャック(チャック)と呼んでいた運転手の助手席に、帽子をかぶった髭面の男が乗っていた。
ジャック(チャック)がまずガソリンスタンドに寄って5$集めながら言った。
「夜どおし走って早朝マドリッドだ。
みんな振り落とされないように注意してくれ」
ジャックの横の男は帽子を深くかぶり、降りようとも振り向こうともしなかった。

さあ出発だ!
風邪薬を飲んだ。
頭が違う道を歩き出した。

オブラートに包まれた観覧車に乗っている。
馴染みのない絞った音が、ぶるぶる、ぶるぶる、とオブラートを震わしていた。
燃え盛る炎の地中海色の夕日を浴び、逃げ惑う排気ガス越しに見えるバルセロナの街が瞬時に戦場と化した。
家路に急ぐ人々、車、バス、すべてが、この煙にすくむ焼け跡から逃れようと必死に喘いでいる。内戦だ。 

四時間後、ドライブインに停車した。
ジャック(チャック)の食事代を、出す、出さないでドイツとイタリアが文句を言った。
「飯代まで聞いてないぜ、俺はやだ!」
この二人、大戦と同じで変なとこで手を結ぶ。
残りの四人で払った。
「もう一人いるじゃないか、あんたの横の奴はどうなんだ。
あいつはガソリン代払ってんのか、え?」
イタリアがチャックに詰め寄った。
「彼は文無しなんだ。そこんとこは勘弁しくれ」

独り離れて、遠くのテーブルに座っているチャックの連れに目をやった。
帽子をとっていた。
おや、右の耳たぶに黒い物が見える。
背格好は合っている。
なんとなく似ている。
彼のテーブルに向かった。
ガラス越しに暗闇を見ている。
ガラスに俺が映ったのか、いきなり傍らの帽子を鷲掴みしてかぶった。
間違いなく彼だ、ロバート・スコットだ。
急いで帽子をかぶったせいか、右の耳たぶから小指の爪ほどのほくろが覗いている。

「すいませんが、ロバート?あなたは、ロバート・スコットという名では?」
俺を見ようともしなかった。
「あなたの家族に不幸があったので連絡するよう頼まれました。シャーキー・マーフィという人です。心当たりないですか?」
「人違いだ。俺の名はトレシー、トレーシー、デビス。
悪いが、そのスコット〜〜なんかじゃない」 
「へい、トレーシー!
少しこのポテトチップあげっからよ!」
ジャック(チャック)だ。
「悪かったなさっきは。飯代も始めから言っときゃよかった。
断られそうで言えなかったんだ」
 
11時を過ぎていた。
荷台はひどく寒かった。
眠れなかった。
寝袋で覆っても風が忍び込んでくる。
辺りは砂漠のようだ。
道路の両脇に黒い山のシルエットが浮かんでは消えていく。

突然、イタリアが大声で喚いた。
「ミ・ギターラ!ミギターラ!」
車の弾みで飛んでいった。
ジャックが路肩に停めた。
イタリアが駆けていった。
しばらくして罵る声とどぎつい不協和音が響いた。
「グヲガギューー!!!!」
真っ赤な顔でイタリアが戻ってきた。
ジャックに毒突いた。
「あのギター500$もしたんだ、この野郎!
どうしてくれんだ!
おまえが飛ばすからだろうが。
え!どうしてくれんだよ!」
 
イタリアが急に静かになった。
呻き声を出して前につんのめっている。
トレーシーが担ぎあげて荷台に載せた。
月に照らされた顔は無表情で人形のようだ。

真夜中、ガソリンを補給して、マドリッド目指した。

太陽の目覚めとともに無事マドリッドに着いた。
みんな土埃のシャワーを浴びていた。
顔は土色、髪の毛は逆立ち、俺の髪はアフロだ。

ジャックが希望する場所にみんなを落としていった。
俺が最後だ。
カサデカンポのユースまで送ってくれた。
トレーシーが寄ってきた。
「俺がロバート・スコットだとしたらどうする。シャーキーって奴に連絡するのか?」
「ロバートの望みはそうじゃあないような気がする」
笑みが浮かんだ。
あの写真の、あどけない顔だ。
「ありがとう。恩に着るよ」
「シャーキーのカードあげる。じゃあ、トレーシー、ジャック、元気で!」

6:ヒッチハイク マドリッド. サンチアゴ・ベルナベウ

2007年04月26日 09:21

6:マドリッド.サンチアゴ・ベルナベウ  

カサデカンポのユースは、遊園地、競技場が隣接している公園の中にあった。
門を入ると長屋風の建物が広い空き地を挟んで並んでいた。
受付に、ダリ風、面長の顔に、黒ぶちの眼鏡、口髭、頭が薄いおじさんが座っていた。
机にエンリケ・ゴメスと名札があった。
ユースのカードを取られた。
何日分か払おうと待っていると、「もう行け」と手で仕種をした。
このユースは後払いだった。

角さんのアドバイスを実行することにした。
ストックホルムで作ったドイツバンク発行のトラべラーズチェック、250$を紛失した、と支店に届けた。
上手く行けば入国する際、イミグレ(移民官)に見せる偽金として利用できる。

通された部屋には、恐そうな中年女性がいた。
「バルセロナからのヒッチハイク途中、紛失しました」、
鼻で笑った。
「トラックの荷台に乗ってき来た」、
噴き出した。
ヒッチハイクの言葉も初めて知ったようだ。
紛失したチェックは使えなくされた。
上手の彼女に袋小路に閉じ込められしまった。
演技をするなんて荷が重い。
「紛失したチェック探して持ってきなさい。簡単に見つかるでしょう」 
ポケットの中のチェックを握り締めてユースに帰った。

翌日、「よく探したら、ジーパンのポケットから出てきた」
番号札を渡された。
囚人だ。
「胸元に持ってなさい」
正面、右横、左横の写真を取られた。
彼女は顔を上向き加減に勝ち誇ったように鼻の穴を膨らました。
封筒から現金、250$を無造作に俺の前へ置いた。
「もっと巧い嘘をつくのね」

どんな嘘であれ、人の嘘を暴いて得意になるほど愚かなことはない、と思った。
結局、筋書きどおりに行かなかった。
小細工せずに進めということだ。

アルゼンチン大使館にビザを取りに行った。
髪の長さが気になった。
問題なかった。
旅に支障があるなら切る。
そうでない限り放っておくつもりだ。

遁ずらせずにゴメスさんの所へ行った。
他人のカードを渡されたので黙って自分のを探し出した。
東洋人を見分けるのは難しいようだ。

風邪は相変わらずで、この2日は熱と頭痛で最悪だ。
もうヒッチをやる気力はなかった。
金をチェックしたら505$あった。
ヴィゴまでのチケット代を払っても、450$そそここ持って船に乗れそうだ。

19日、ヴィゴ目指して出発した。



それより1週間前、ロバートとチャックは、
郊外のキャンプ場で寝泊まりしていた。
中央図書館で、レアル・マドリのホーム、サンチアゴ・ベルナベウ・スタジアムの設計図を調べていた。

4日後の17日、スタジアム内のコーヒーショップ、「エル・グレコ」、でグレン大佐と会う手筈だった。

すべての準備が整い、あとは大佐が現れるのを待つだけだ。
「大佐は来るだろうか?」
「のこのことな。
ロシア寄りのベトナムは共産圏なのに中国と犬猿の仲だ。
カンボジアはどちらかというと中国に近い。
国の若い者の命を犠牲にして奴はそこんとこを突いてぼろもうけした。
許せない国賊だ。
そんな小賢しい狸がみすみす破滅の道なんか選ばない。
スタジアム内には部下が入り込んでいるはずだ。
味方は観衆しかいない。
楯にして上手くやるんだ」


ボブ・レノンと部下の3人は、インターポール(国際刑事警察機構、ICPO)の偽手帳を使って、
ペンション、ホテルの宿泊名簿のチェックをしていた。
ここまでロバート・スコットの所在を確認できないでいた。

当日、スタジアム内は凄い熱気だった。
レアル・マドリが、前半32分に1点を入れてハーフタイムになった。
コーヒーショップ・エル・グレコに観衆がなだれ込んできた。

それより30分前、ロバートは隅のテーブルで大佐を待っていた。
客は10人ほどいた。
ほどなく黒のバーバリーコートを着た男が、
ロバートのテーブルに座った。
「うまい所を選んだな」
「グレン大佐か?」
「思ったより若いな。名前は?」 
男の右耳のほくろを確認した。
「手ぶらのようだが、金は?」
大佐は20m程離れた所にいる、サッカー観戦には不似合いな黒づくめの男2人に目をやった。
「ネガは?」
ジャンバーの胸ポケットから封筒を頭だけ見せた。
「あの頭の薄い方にテーブルまで金を持って来てもらおうか?」
大佐はその男に合図した。
アタシュケースを持ってきてテーブルに置いた。
「あんた等はもう用無しだ。
これからゲートナンバー4まで行ってもらう。
さあ、行きな」
「どうする気だ。
金はここにある。
早くネガを渡せ」
「ゲートナンバー4だ!
そこに試合が終わるまでいてもらう。
ネガは相棒がこの2人が4番に行ったのを確認してからだ。
そろそろハーフタイムだから早く行かないと人混みで歩けなくなるぜ」
「言われたとおりにしろ」 

2人が去って10分が過ぎた。
人の流れが多くなってきた。
「セニョール・ホルゲ!
セニョール・ホルゲ!テレフォノ!
セニョール・ホルゲ!テレフォノ!」 
ウェイトレスが大声で電話の呼び出しを告げた。

ロバートは、入り口脇にあるカウンターでウェイトレスから受話器をもらった。
「そっちに着いた?」
「ああ、大佐の部下がまだいるはずだ。
よく観察しろ!
席に着いたら、すぐ服を変えろ。
帽子も忘れるなよ」
「じゃあ、50分に」

ハーフタイムに入って、スタジアム内の通路は人々の動きで身動きが取れなくなっていた。
「おまえの名はホルゲか?」
「、、、、」
「相棒がいるのか?」
「俺に聞かなくても、調べはついてんだろう」
「相棒はここにいないってわけか。
青二才の分際で100万$も吹っかけたな」 
15m離れたトイレのサインの下で、タバコを吸っている男に目配せした。
「ネガを確認させてもらおうか」
「あんたはピストル持ってんだろな。
かなわないな、これがネガだ」
内ポケットから大佐の前に投げた。
大佐は中を見た。
写真が3枚入っていた。
「ネガは?」
「この前、2枚しか送ってないから、その3枚見たいだろうと思ってさ」
「いい加減にしろよ。
ネガと写真だ。
写真もこれしかないという保障はないんだ。
おまえを信用したから来たんだ。
どうにでもできるんだぞ」
「力づくか。大佐、行くぜ?」
「なんだと、どこに行くんだ!」
「ネガは残念ながらここにはない。
相棒が持ってる」
「何だと!
提案しといて約束破るとはなんだ!
ふざけたまねをするな」
「悪かったな。怒りなさんな。
あんたが独りでのこのこ来るわけないからよ。
こっちは頭を使わなきゃなんなかったんだ。
分かってくれよ」
「あそこのトイレのサインが見えるか。
部下がいる。
相棒を今すぐ呼んでもらおうか?
おまえにこれ以上付き合う気はない」
「期待に背くようだが連絡は無理だ。
公衆電話だ。
電話番号知らない。
ここは俺の言うとおりにしてもらうしかない。
約束どおりネガは渡す」
こんな若造に手玉に取られている自分が情けなかった。
「トイレの男をここに呼んで、ナンバー4ゲートまで行くように言ってくれるか」

大佐は深い溜め息を吐いた。
トイレの男を呼んだ。
「ボビー4に行け」 
ボブ・レノンは大佐の言葉が理解できなかった。
「大佐、こんな若造に!」
「いいから行くんだ!」 
「あんたが20分以内に着かなかったら取引は無しだ。
試合が終わる9時までそこにいてもらう。
相棒から確認の連絡があるからそのつもりでな。
破ったら無しだ」
「何だと!この若造。
大佐、こんな餓鬼の言うこと聞くんですか!」
「他に手がないんだよ。
ここにネガがないからさ。
3人でトランプでもやっといてくれ」
「行け。
言うとおりにしろ」

ボブ・レノンが人混みに消えたのを確認して、ロバートは立ち上がった。
「大佐、行くぜ。
アタシュケースを持ってくれ」
「なんだと、、、!」
「いやなら俺が持ってやろうか?」
大佐は席を立とうとしなかった。
「早く終わらせてバイバイしようぜ。
俺たちは写真持ってるからもうネガ必要ないんだ。
ネガは必ずあんたにあげる。
約束するよ」
「何だと!
やはり別にあるのか?
その写真も出せ。
そうじゃなきゃ取引は無しだ」
「いいのか?
表に出して。
あんたは俺たちを付け回すよな。
写真は保障に必要なんだよ。
あんたも同じことやるだろう。
今回はネガとその写真で我慢してくれ。
あんたが品行方正なお爺ちゃんになったら返す」
大佐はしぶしぶアタシュケースを持って立ち上がった。

ひどく重かった。
2人は座席に戻り始めた観衆の中に入っていった。
「どこへ行く!
席は33のA5だろうが。
反対だ」

無視して人の流れに任せて進んだ。
指定席は誰かまわず声をかけて、それより遠い所でゲート出入り口に近い、公衆電話が間近にあるのと交換した。
フィールドに近い席だったので誰もが欲しがった。

「待て!
ロバート!
わしはアタッシュケースをぶら下げてるんだ。
ゆっくり行け!」 
自分の名前に、一瞬凍りついた。
動揺を悟られないよう速度を早めた。
「、、ゆっくり行け。、、、
ゆっくりな、、」 

高血圧と心臓に持病を持っていたので気が気ではなかった。
息切れがひどくなってきた。
今にも爆発しそうだ
ロバートは歩みの速度を緩めなかった。
大佐は人を押し退け、払いのけ、殴り倒し、
必死で後を追った。
周りを幾度となく見回しては部下を探した。
4人しか連れてこなかったのをひどく後悔した。
送られてきた席に配置した部下は何の役にも立たない。
ボブ・レノンは最後の切り札として取っておくべきだった。

促されて席に座ったときには後半が始まっていた。
持病、怒り、追いつくことに一所懸命だったので、
アタッシュケースの重さはさほど気にならなかった。
今は両腕を切断しても惜しくないほど痛かった。
幾度も辺りを見回した。
部下の姿はなかった。

ロバートは、裏表兼用ジャンバーを裏地のブラウンに着直した。
内ポケットから灰色のベレー帽を2つ取り出し、1つを大佐の頭にかぶせた。
「何するんだ!」
「帽子はかぶるもんだ。
大佐、コート脱ぎな」
「なんだと!
寒いのに脱げ!」
「威勢だけはまだいいな。
2度と言わねえから」
「無理だ。
手が動かん!」
「手間のかかる年寄りだ」 
バーバリーコートを乱暴に剥ぎ取り、自分の膝に当てた。
大佐は青白い顔をしてグレーのスーツ姿で震えている。
ロバートは時計を見て立ち上がった。
「直ぐ戻る」

3人がゲート4にいる確認電話をチャックからもらった。
公衆電話番号はチャックが調べておいた。

「ロバート!
1人後から来たぞ。
3人でいいのか?」
「ああ!知らせようと思ったけど、公衆電話が鳴るってのは、万が一気づかれたらと思って出来なかった」
「正しい選択だ。
そっちの電話はどうだ、大丈夫?」
「こっちはOKだ。
受話器すぐ取るんで大丈夫だ」
「双眼鏡で見てるぞ。
帽子、深くかぶせろ。
お前もかぶってるよな」
「ああ、、」
「服もOKだな」
「ああ」
「部下がまだいるかもしれない。
気を休めるなよ。
早く戻れ、大佐、目立つようなことやってるはずだ」

席に行くと、大佐が帽子を脱いで立っていた。
強引に座らせて、帽子を鼻まで押し込んだ。
大佐の震えなど知らん振りして試合を見た。

「いつまで待たせる気だ!」
「アタッシュケースを開けてくれるか?」
「駄目だ。ネガと交換だ」
「じゃあ、相棒が来るまでだな」
「ロバート、わしには持病がある。
頼むからコートを返してくれんか」
「俺はロバートじゃない!」
「おまえの素性はわかってる」
「中身確認させてくれたらコートを返すよ」
「おまえは病気持ちの年寄りが震えているのにゲームをやりたいのか」
「中を見るだけだ。
膝の上で開けてくれりゃあいい」
100$紙幣の束が詰まっていた。
ロバートは黒のバーバリーコートを裏返しにして大佐の肩にかけた。裏地は茶色だ。

8時45分になった。

「大佐、来な」
「どこに行くんだ?」
「野暮用よ。
さっきみたいなことされると困るんでな」
「何の話だ!」
「いいから、さあ、来な」
8時50分、チャックから予定通り確認の電話が来た。
「ロバート、3人はまだいる。変わったことは?」
「今のところ、ない」

ゲート4からここまで、何もない状態で走ってみた。
7,8分かかった。
この人込みなら10分はかかるだろう。

「チャック、ロスタイム入れても11,2分だ。
がんばってね」
「年寄りに過酷な役回しやがって。
記録作れそうもないが、トライする。じゃあな」
全速力でコンコースに飛び出した。

終了間際、アラビア人のスカーフを顔に巻いたチャックが現れた。
ぜーぜー言っている。
後ろから大佐の肩をたたいた。
肩越しに紙包みを差し出した。
「そのまま前を向いてろ。ネガだ」
大佐が鈍い動作でそれを手に取ろうとした瞬間、
ロバートは大佐の胸元にあったアタッシュケーをひったくった。
弾みで紙包みが座席の下に落ちた。
スローモーションを見ているかのように大佐は崩れ落ちた。

2人は群衆に紛れ込んだ。
レアル・マドリ、2−0の勝利だった。

7:ヒッチハイク パリ . カトマンズ.

2007年04月27日 17:39

7:パリ.カトマンズ.プーケット

  
おんぼろトラックで夜通し走ってマルセイユに向かった。
アタッシュケースの中にはきっかり100$紙幣で100万$入っていた。
上手く事が運んだのでチャックは助手席で一杯やっている。
ロバートは無力感、虚脱感を感じた。
自分の素性がすでに割れ、
チャックの名を彼らが知るのも時間の問題だ。

マルセイユでニュージランド・ウエリントンから
ペルーの港町・カジャオに寄港する不定期船の出港日時を確認して切符を買った。 
オーストラリアのメルボルンで石炭を積み、
ウェリントンで木材を積んでパナマに向けて出港するその船は、
フランスが核実験をする予定のムルロワ環礁の近くを通るので、
以前、船会社に問い合わせたところ、12月半ば以降にまた確認してくれとのことだった。
さいわい4月まで核実験の予定はなかった。
3月1日ウェリントン出港、
3月10日カジャオ着だ。

マルセイユ郊外の中古車ディーラーでフォルクス・ワーゲン・バンに乗り換えた。
パリに向かった。用心のためキャンプ場を利用した。
 
ロバートはチャックと行動を共にするようになって彼の語学の才能に驚いた。
フランス語、スペイン語を完璧に話すことができた。
ひどいテキサス訛りの母国語より上手にみえた。
チャックは朝鮮戦争後、
NATO(北大西洋条約機構)情報部で、
もぐら(相手国の情報組織に潜り込んだスパイ)狩りに従事していた関係でヨーロッパの裏組織に精通していた。
フランスがNATOを脱退する1966年まで本部があったパリにいた。

パリ郊外、エピネー・スュル・セーヌ市ダンケルク通りの錆びれたホテルにチェックインした。
パスポートを仕入れにパリ7区、カム通りにあるアパルトマン7階に向かった。
そこにはチャックの知人のイタリア人ジャーナリストが住んでいた。
「フランシス、久しぶりだな」
「お!これは、これは!
チャックか!
ほんとに久しぶりだな!
もう4年近いか!
今年はとんだクリスマスになりそうだ。
あれからどうしたんだ!
急に国へ帰ったと聞いていたが。
またこっち勤めになったのか」
「いや、もう昔の仕事はやってない。
ここに来たのはあの時の借りを返してもらおうと思ってな」
「何が必要だ?」
「英、フランス、スペイン、オーストラリアのパスポートが欲しい」
「そっちの連れも?ということは、8枚か。
英のパスポートはちょっと値がはるぜ
。2000$。
それ以外は1000でいい。
本物のパスポートだから名前は選べんよ。
おおよその歳は合わすがね」
「それでいい。
いつ頃になる?
できるだけ早く欲しい」
「どう急いでも3日後だ」


「そんなにパスポートが要るのか?」
「多いほうがいい。
上手く行けばおまえも国に帰れる。
パスポートにも色々あってな。
英のパスポートがベストだ。
まあ、英連邦のならOKだ。
昔の植民地の影響で簡単に入れる国が多い。
南米ではスペインかフランスのパスポートを使え。
待てよ。
おまえはスペイン語駄目だからすぐばれるな。
フランスのを使え」
「日本で生まれ育ったスペイン人だとも言えるぜ」
「やっと冗談が言えるようになったな」 

チャックは66年に妻パトリシアを飛行機事故で亡くした。
その1年後、NATOを辞めた。
事故が原因で辞めたのか訊いた。
「朝鮮の後パリに来た。
1950年、国が1946年以来フランス軍がベトミン(ベトナム独立同盟。
1941年、ホーチミンが中心となって結成した
民族統一戦線組織)と戦っていた戦争を半分肩代わりすることを決定した。それがそもそもベトナム介入の始まりだ。

その後、フランスの共産党がベトミンに情報を流している事実や、
KGBと繋がっているといううわさが出てきた。
国は先のベトナムが頭にあったんだろうな。
それで俺はパリのNATO本部に配属された。
最初は主にインドシナ情勢を扱っていた。
徐々にその比重がロシア関連の仕事に変化していった。

ここフランスは、KGB、東欧スパイ組織の出張所が到る所にある。
それに西の情報部が加わる。
表では挨拶するが、裏はドブネズミだ。
殺し合い、だまし合い、何でもありだ。

61年まではある程度の秩序は保たれていた。
その年に、フィンランド、ヘルシンキのCIA支部にゴリツィンというロシア人が政治亡命してきた。
それからだ、めちゃくちゃになったのは。

彼の情報では、フランスの警察機構、政府高官だけでなく、
国のCIA、
英政府、MI6(英対外情報機関)の中にもうんざりするほどのKGBのもぐらがいるということだった。
確かに、下っ端にスパイはいたさ。
だが、本当のところは、ほとんどがガセネタだと、思ってる。

この偽情報のおかげで西側諸国の情報機関すべて麻痺した。
お互い疑心暗鬼になってな。
国とフランスの関係は最悪になった。
そして1966のフランスのNATO脱退だ。
これはすべてKGBとその弟の東欧の情報部の策略だ。

ちょうどその頃パティが逝った。
潮時だった。
だまし合い、追いかけっこ、答えの出ない不規則な仕事の連続。
彼女に何もしてやれなかった。
気づくのが遅かった」
「フランシスは?」
「以前NATOの事務局に勤めていた。
その時、ルーマニア情報局の女に惚れた。
仕組まれたんだ。
奴らはもぐら獲得のためならなんでもやったからな。
深みにはまる寸前に俺が救ってやった。
NATOは首になったがそれだけで済んだ。
今、表向きはジャーナリストだが美術関係の臭い仕事をしてる。
盗難品、贋造・模造絵画、頼めば何でも手に入る」
「ここからボゴタに直行できないのか?」
「至る所に跡を残せば敵を惑わすことができる。
時間もをかせげる。
それが安全に繋がる。
しんどかったら、おまえは先に行ってていいぞ」
「いや、俺がチャックを引き込んだんだ。
やるよ」
「無理すんなよ。
話は変わるが、大佐を殺さなかったな」
「心臓が悪そうに見えた」
「それでいい、ロバート。
無駄な殺生はよそう。
もう十分やってきただろう」 

4日後のクリスマス早朝、新しいパスポートを手に2人はスイスのチューリヒ目指してパリを出発した。
当面、必要のないフランスのパスポートは、
南米、コロンビア・カリに住む、チャックの一人娘、アントン宛に送った。
彼女は彼らにとって唯一、頼れる人間だった。 

翌日、チューリヒで90万$を「ユニオン・バンク・オブ・スイス」の匿名講座に預けた。

それから2週間、寝るのも惜しむ強行軍で中近東を通って、
パキスタンのラ・ホールまで来た。
第三次印パ紛争がおきかねないぐらいの緊張感が町にある。

東パキスタン(現バングラディシュ)
の自治を要求するアワミ連盟が昨年暮れの総選挙で過半数を制したことで、パキスタンとインドが一触即発状態だ。
ラホールの国境は閉まっていた。

翌朝、インド、パキスタン国境の町、ワガに行った。
「チャック、ワガに行ってどうするんだ?
通れないだろう」
「せっかくここまで来たんだ。
確かめよう。
時間はある」
やはり国境は閉鎖されていた。
辺りでは20人ほどの兵隊が銃をぶら下げてだらしなく座っている。
落胆して助手席に座ったロバートを残して、
チャックはぶらぶらと検問所の方に歩いていった。

20分程してヴァンに戻ってきた。
「インド側の国境を見ろ」
と笑いながらロバートに言った。
少し右に蛇行した道路の、400mほど先にあるインド側のゲートも降りていた。
「わからんか?
真夜中に突っ走れば渡れるってことだ。
道路はあるし検問所だけだ。
それに、ラホールほどの緊張感がここには無い」
「でもどうやって!
兵隊がいる」
「まあ、任せろ。
堂々とではないが渡る方法がある」

それから1時間、チャックは検問所から出てこなかった。
ロバートは心配になって様子を見に行った。
奥の部屋にいる、と兵隊に教えられ、ドアをノックした。
机に座っている50前後の軍人と酒を飲んでいた。
「中佐、じゃあそういうことで」 

ヴァンに向かいながらチャックが説明した。
「今夜2時に双方のゲートが開く」
「渡れるの?」
「そうだ。
1000$から始まって3000まで釣り上げられた。
双方で6000。
気が変わってもらっては困るんで、一応、500手付けとしてな。

今夜、インド側の検問所には中佐の親戚がいるらしい。
2時から5分間だけ双方のゲートを開けておくそうだ。
きっかり5分だけだから後でよく道路を見ておこう。
ただし、ライト無しだ。
ロバート、間違って車が土手に落ちたら歩いて渡るからな。
時間が勝負だ。
そのつもりで荷物の整理をしとけ」
「暗闇の中を5分で400m渡るの。
しかも右に蛇行している」
「いや実質2、3分だ。
中佐に金を渡してインド側に渡す時間も含まれている」
「インド側に目印は?」
「蝋燭か、ランプか、
一応目印になるような明かりを灯すとは言ってたが当てにするな。
直線道路じゃないからな。
俺が運転するからおまえは5m先の道路の右端と思う所を突っ走れ。
これで、走るのはあいこだ」
 
2時にランプが1つ、かすかに灯っている検問所に着いた。
辺りは真暗だ。
ゲート脇には中佐が立っていた。
2500$渡して、闇に向かった。
案の定、インド側に明かりはなかった。
ロバートは数回、土手に落ちたが、
なんとか道路上に上手く導いていた。

2時4分5秒、ゲート前に着いた。
男がいきなり暗闇から出てきた。
チャックが3000$手渡した。
もう一人の男がゲート脇に立っていた。
金を手渡された男の合図を待っている。
汗びっしょりで荒い息をしているロバートを助手席に引き摺り上げた。
「ロバート、5数えて突っ走るぞ!」 
チャックが4数えたところでゲートが少し開いた。
猛スピードで通り過ぎた。
国境を過ぎて30分程走った所でヴァンの調子が急におかしくなった。
2時間後なんとかアムリトサルに着くや力尽きた。
ネパールのカトマンズ目指して、汽車、バスを乗り継いで行くことにした。

カトマンズではフリークストリートに近いヒッピー宿に泊まった。
アメリカ人のヒッピーが多かったのでロバートは複雑な気持ちになった。
ベトナムとはまるっきり正反対だ。
ただドラッグだけが繋がっていた。
こんな場所にいたくなかった。
バンコクまでの航空券を探した。


2か月後、3月15日、南米・コロンビア・ボゴタでの再会を約束して2人は別れた。
チャックはポカラに、ロバートは空路タイのバンコックに向かった。
チャックはインドから空路、マルセイユ、
仏領ギアナに飛んでコロンビアに入る予定だった。
ロバートはタイにしばらくいてオーストラリアに渡り、
ニュージランド・ウェリントン出航の貨物船で南米へ渡る手筈になっていた。

「ロバート、今、俺たちは生き延びることだけに専念しよう。大佐を追いつめるのは後でいい」
「、、、ただ今は生きるしかないか、、、」
「そんな声出すな。
俺がいるから大丈夫だ。
苦しくなったらベトナム思い出せ」
「わかった」
「どんな些細なことでも何かおかしいと感じたら他の国へ行け。
嗅ぎつけられたら、ジャカルタとかクアラルンプールのような大都市で身を隠せ。
バンコックはできるだけ使うな。
あそこは要所だ。
誰かが見張ってる。

何事もなけりゃあずっとオーストラリアにいろ。
適当に動いてな。
オーストラリアの空港は大都市のできるだけ違う空港を利用するんだぞ。
出国間際に日をずらして5,6ヶ所、ロバートの名でホテルの予約を取れ。

俺はインドにいるように工作する。
おまえはオーストラリアにいるようにな。
直接ウェリントンには入るなよ。
シンガポール経由でウェリントンに飛ぶんだぞ。
いいな。
なるだけ出港間際に着くようにな。
ドラッグには手を出すなよ、感覚が鈍るからな」
「わかった。チャックは大丈夫か」
「俺のことは心配するな。
必ずおまえを待っている。
毎週火曜日、コロンビア・カリ時間、午後11時に公衆電話からアントンに電話するのを忘れるなよ。
時差を考えろよ。
俺は30分後に電話するからな。
火曜にできなかったら、水、木とずらしていけ。
午後11時だぞ。
連絡を絶やすな」





上巻 プロローグ:キャラメル超特急 

2007年05月29日 18:36

上巻
キャラメル超特急
Sweet Candy Express

この物語はdrugが副次的な主題です。
嫌悪される方はSKIPを。

概要 

岡本耕三はNYから東アジア(インド、ネパール、タイ)経由で日本に向かった。
カラチで、仏人・ジャン・メルク・トトことロシュトーに出会う。彼は元AD(仏極左組織)メンバーで革命細胞を組織してテロ活動をやっていた。
2月後、二人は黄金の三角地帯でカナダ人のヘロイン運び屋、アランと出会う。
アカ部落からチェンマイまで一緒に旅をした、元テロリスト、運び屋、旅人、3人の間に奇妙な友情が芽生えた。

耕三とアランは、ロシュトーがテロリストになった理由を一つ知っていた。
彼が叔母2人を焼き殺したとき、アリバイ工作を手伝ってくれたのがADメンバーだった。

トロントの孤児院で育ったアランは、11歳の時、母親のように面倒を見てくれたカレン族の女性ラムの為に生きようと決心した。
命に関わるような危険な時に、キャット・ステーヴンス(Cat Stevens)の《Wild World》の曲が聞こえてきた。
ラムが危険を察知してこの曲で知らせてくれていると感じた。
                    


   プロローグ     
1a: インディア
1b:カシミール   
1c:カシミール
 2:カトマンドゥ
2a:ポカラ
 3:プーケット
3a:プーケット
3b:プーケット
 4:Midnight Express バンコック
 5:黄金の三角地帯 チェンマイ
5a:黄金の三角地帯
 6:Wild World
 7:まさか、、?
 8:dとの決別                             

主な登場人物  

岡本耕三: 日本の旅人  
ロシュトー(ジャン・メルク・トト): 元仏極左組織・AD(アクシ ン ティレクト)メンバー
アラン: カナダ人、元ヘロイン運び屋。現在、探偵  
イギー: ベルギーの旅人  
ラシッド: インド・カシミール戦線メンバー  
アミール: インド・カシミール戦線メンバー  
ラム: バンクーバーの孤児院で働いていたビルマ、カレン族の女性 
徹: 耕三の知り合いの旅人  
カルロス・リオン: トロント・マフィアボス  
リュウ・T: NYチャイナタウン・福建青年ギャングボス・トニーの息子  
レジナルド・ダリ: 駐カナダ仏大使  
クリストファー・リー: NY大の仏人学生  
トニー・トンエンチャン(童恩正): NY福建青年ギャングボス。リュウ・Tの父親  
ルーリャチュン(陸定駿): NYチャイナタウン・安良堂ゴッドファーザー  
エディ・ワンシャオター(王暁達): NYチャイナタウン・飛龍ギャングボス  
マコト: アランの妻  
佐伯 守: 針金細工、露天商  
城 賢一: 針金細工、露天商 


全てフィクションです。  


プロローグ

空気、水、ミソ汁、ミルク
昨日の新聞とモメントの集合体
信じられるのは一瞬
かなしく
おちこみ
ふるえ
くるおしく
おどって
さけんで
きえたくなる
夕焼け、、、
太陽、、、
おまえの笑顔
キャンディー
スウィート・キャンディだ!


俺はこの10年あまり長崎を拠点に、
週3日から4日、日雇いのアルバイトをして生きていた。
年に一度、東南アジア、インド、ネパールへ予定期間なし、
金がなくなるまでの気ままな旅をするにはうってつけの仕事だった。

いつものように朝7時過ぎ、
三毛猫の小百合ちゃんの尻尾で起こされた。
彼女、なぜかこの時間になると俺の顔を尻尾でたたいて起こそうとした。
それでも起きないと、耳元で恐怖のゴロゴロと鼻息だ。
10m以上離れていても聞こえてくる大きな音だったのでいつも目が覚めた。
ゴロゴロは天性のもので、
鼻息は彼女が生まれてまもない頃、
風呂に入れて風邪を引かせたためだ、、と思っている。
それにしても8年だ、、、長い風邪だ。 

彼女のお尻を数分間ピンピン叩いてやった後、
郵便受けから新聞を取り出した。
邪魔されないように広告のちらしの上に彼女を誘導した。
今日は機嫌がいい、素直だ。
蒲団に腹這いになって三面記事を広げた。

築25年の4階建て、1DK、家賃2万、
ひび割れ、雨漏りあり。
このビルとおなじような記事が相変わらず並んでいる。
今日はおもしろいのがあった。

《針金細工師・麻薬密売に関係》 
全国の祭りを渡り歩き、アクセサリー類を路上で販売していた佐伯守・40歳と城賢一・41歳の二人は、
15年に渡り、大麻、ハシシ、ヘロインを東南アジア、
ネパール、インド各国から不法に取り寄せ独自のルートで売り捌いていた。
彼らの供述から、背後に大がかりな密輸入組織、
並びに麻薬密売組織の存在が明らかになった。
これまで判明しただけで末端価格、
約4億円余りを荒稼ぎしていた。
警視庁はインターポール(ICPO、国際刑事警察機構)を通じて関係各国に数十人の身元を照会している模様。 

いつのまにか小百合ちゃん、俺の腰の辺りに寝転がっていた。
こうなると、大変だ。
どかそうものなら背中に爪を立てる。
困った、お姫さんだ。

電話が鳴ったので受話器を取ろうとした。
やられた。
少し浅いが適当に痛い。
バンクーバーで探偵稼業をしているアランの声が響いた。
「耕三、起きてたか」
「どうした」
「ぶらぶらしてるならこっちに来れないか。
ロシュトーが昔の仲間に狙われているようなんだ」
「狙われてる?
俺が行って手助けになるか?」
「ロシュトーはボディガートを雇う気はない。
殺されるのを待っているようにも見える。
警察は駄目だし、俺たち以外、誰もいない。
できるだけ早く来てほしいんだが」

旅に出るときは、大家の浜田のお婆ちゃんに小百合ちゃんを預けていた。
大家にはディカプリオという9歳になる黒猫の息子がいた。
8歳の小百合ちゃんとは恋仲だったが、
最近、浜田光夫から浜田ディカプリオに改名してなぜか彼女によそよそしくなっていた。
カタカナの名前になって優越感を持ったようだ。
あんな中身のない猫なんか気にすんな、
と小百合ちゃんに諭して、3日後、バンクーバーに向かった。
 

仏極左組織AD(アクション・ディレクト)元メンバーだったジャン・メルク・トトことロシュトーは、
カナダ・オタワにある仏大使館に出頭した。

仏の刑務所で刑に服した後、カナダ・バンクーバーに渡り、アンドリュー・キャラハンという名で密かに生活していた。仏、カナダ両国政府の密約によるものだった。

ロシュトーはAD・革命細胞の情報を交換条件に、
刑期の短縮、釈放後のカナダ移住の司法取り引きを仏政府と交わした。
カナダ側の見返りは、カナダおよび仏国内のケベック州・分離独立を目指す過激派、及びその支援組織の情報を仏政府から得ることだった。
すべて、ロシュトーの思うようにことは運んだ。
しかし、カナダ移住に関して但し書きが添えられていた。

《ジャン・メルク・トトことアンドリュー・キャラハンに不測の事態が生じようともカナダ政府、警察は一切関知しない》

元テロリストに移住の権利を認めたが、
身を守るのに警察を当てにするなということだった。
先週、差出人の名前、住所が書かれていない一通の手紙がモントリオールから届いた。

『 親愛なるアンドリュー・キャラハン(Dear Andrew Callaghan)  
Francoise de Rocher  
Gustave Galle  
Stella Kupferberg 
Marjorie Graham   
Peter Paul Matsys  
Antoine Sanzio  
Jhon Ricardo               
Jacqueline Morton  
Thomas Malsberg  
Jean Francois Seurat  
Donald Kauffman  
Rino Dussi  
Rosalyn Stern  
Gregory de Rocher  
Bernice Melvin  
Robert Brock  
Jean Louis Imbert  
Pierre Ducasse  
Monique Gagnaire  
Claude Buonarroti 

ジャン・メルク・トト、これらの名前はおまえの情報でなんらかの苦しみ、被害を被った、AD、革命細胞、
およびケベック州分離独立過激派組織メンバー、
協力者、計20名の名前だ。
殺し屋を既に送った。
この復讐は、おまえの死をもって償われる』


 



1a:キャラメル超特急 インド

2007年05月31日 15:03

Sweet Candy Express



1a. インディア 


カシミールのスリナガールまで」
航空券を受け取ったカウンター内の女性が、モニター画面を見た。
「あなたの名前は予約されてません」
「えっ、そんなはずは。
その航空券に今日の日付と出発時間が記載されてますよ。
よく見てください」
「あなたのはありません。
次の方」
「ちょっと待ってよ!
五日前、ここ、ボンベイで航空券を買ったとき、今日のジャム・カシミール、スリナガール行きを予約したんだから日付をよく見てください!」
「ええ、でも私の予約表にはないわ。
はい、次の方。
あなた、退いてください」
「そんな馬鹿な!」
 
まいったな、どうなってんだ!
今日の日付と出発時間が記載された航空券を持っているのに乗れないなんて。
それになんだ!
この女性の態度は。
もう少し親切にしてもいいだろう。

耕三は怒りを静めようと深呼吸をした。
当初の予定より5年も長くなったNY(ニューヨーク)滞在に疲れ、久しぶりに旅に出た。
いや、これは正しくない。
彼の旅には初めから予定などなく、数年ぶりに旅の途中で立ち寄ったNYに居座っていただけで、気づくと5年近くの歳月が流れていた。

NYには、アートという魔物が住んでいた。
美術館、博物館、音楽、ジャズ、クラシック、ロック、それらのコンサート、演劇、それにダンス、写真、、、。
この街にはアートに無関心だった者をも目覚ませる、仕掛けとパワーが街中、到る所に溢れていた。
まるで罠にかかったように耕三は魔物に吸い寄せられ身動きできないでいた。
いっぱしのアーテイスト気分に浸り現実と夢を行き来していた。   

しかし、ゴキブリも干からびるような糞熱い夏をどうにか三か月間凌ぎ、後一月の辛抱というとき、彼の中で何かが弾けた。
ドアには3つの鍵、窓枠にスチール製のばかでかい奴。
部屋から見渡せる建物すべての窓枠にスチール製の蜘蛛の巣が張っていた。
隙間から上半身裸の囚人たちが、風を求め窓枠にへばり付いて汗を拭っている。
地獄のコンクリート・サウナで蒸し焼きだ。
みんな一様にしかめっ面をして溜め息を吐き、
だらしなく口を半開きにして無風のコンクリートジャングルになんとか風を起こそうと、新聞、雑誌、はてはテレビのリモコンまで手にとって扇いでいる。
涼しく感じられるなら皮膚まで剥ぎ取ってやる、って顔だ。

胡麻油のような脂汗を、胸、手足、手が届く所すべての表皮に擦り付け、出来上がった垢の炒めものを集めて愛しそうに眺め悦に入っている。
悲しいかな、熱さを忘れられるのはこの一瞬だけだ。
窓の蜘蛛の巣、ドアを開けるのに一分以上はかかる三重の鍵。
見慣れていた光景なのに、鍵の巣に覆われた建物の一室で鉄格子に閉じ込められているような錯覚に耕三は陥った。
錯、、そうだ錯覚だ!
今の俺も、、、アーティスト気分も、、、。


「なぜ予約表にないのか説明してください。
このままでは引き下がりませんよ!」
彼女は、まだそこにいたのか、って顔をした。
そして、受話器を取り二言、三言話して、「カム、カム」と人差指で俺を促した。

彼女は怒った風でもなく自然だ。
また独り相撲を取ってしまった。
空気に過ぎない旅人が口を挟むことではないのだが、インドをあらゆる面で他の国と比較してしまう。
それに徹しきれない。
旅の目的とは逆にストレスがたまっていた。 

滑車に乗った、物乞いをする手足のない子どもたちの余りの多さに、泊まっている安宿のおやじに尋ねた。
「赤ん坊で誘拐されたか、親が組織に売った子もかなりいるな。
そこで手足を切断され彼らのために物乞いして金を貢ぐってわけさ。
でもな、そのおかげで餓鬼たちは飯にありつけんだよ」
この馬鹿げた話にカリカリした。
インド旅行は回を重ねるごとにいらいらもなくなる」
友達が言っていたが、歯がゆくてしようがない。 

彼女に促され部屋に入ると、眼鏡をかけた50過ぎの男が、机の上の小さな鏡を覗き込んで鼻毛を抜いていた。
俺の顔を見ようともせずに、
「で、君はこの、、なんだったか?
、、ああ、ジャム・カシミール行きだな。
その飛行機に乗りたいんだね?」 
「いや、乗りたいんじゃなくて予約したその航空券を持ってるんです!」
「だから、君はこの飛行機に乗りたいのだね?」
「よく見てください、いいですか!
これが航空券で、はっきりと今日の日付とフライト番号が載ってるでしょう。
ボンベイ市内の、あなたの航空会社のオフィスで5日前に買ったんですよ!
これは何かの間違いだと思いますからよく調べてください。
満足のいく説明がないかぎり俺は乗りますよ」

男は航空券を受け取り、鼻毛のたまったテッシュの横に置いた。
それと鏡を交互に見ている。
「確かに日付は今日のようだが、君の名前がリストに載ってないから私がどうこうできるもんでもないんだよ。
私が君にチケットを売ったわけではないんだからね」
「ええ、分かります。
あなたの責任だとは言ってませんし、あなたを責める気なんて毛頭ありません。
でもあなたはこの航空券を発行した会社の方でしょう。
俺を乗せる義務があると思います。
とにかく今日カシミールに行くつもりで来たんだから駄目だと言われても乗ります!」
「いや、満席でね、、、席があるかどうか、、、」 

本気でこんな馬鹿げたことを許せなかった。
バックパックを担いで叫んだ。
「乗ります!
じゃあ、もう時間がないんで!」 

机の上の航空券を取ろうとしたとき、男の吐いた深い溜め息に乗って3本の鼻毛がその上に着地した。
男は何事もなかったかのように、その鼻毛にフッと息を吹きかけた。
宙を舞い、今度は俺のズボンの右太股の辺りに着陸した。
「私の鼻毛は君を好きなようだ。
まあ、ここで待ってなさい」
男はゆっくり席を立ち、俺の顔を胡散くさそうに見ながら部屋から出ていった。

何かを企んでいるようでおかしい、と耕三は感じていた。
ここに連れてきた女性が部屋を出るとき、男に目配せするのが目に入った。
しばらくして戻って来た男は、なんて手間のかかる旅行者だ、って顔をした。
「むずかしかったが、なんとか君を乗れるようにした。
感謝してもらいたいね」
 
航空券を直接、手で触る気にはなれなかったので、バックパックからトイレットペーパーを取り出して二重に包んだ。
右足を彼の机の上に載せ、親指と中指でそれを摘んで鼻毛をたたき落とした。
それから四重にしたトイレットペーパーで包み直してバックパックを担いだ。
しかし、彼は上手だった。
ひどくのんびりした口調で追い討ちをかけた。
「君、、、、いっしょうけんめい走らないと、、、間に合わないかもよ、、」

壁時計が出発20分前を指していた。
男の最後の言葉が脳裏から離れない。
怒りで爆発しそうだ。
 
カウンターに走った。
先程の女性にトイレットペーパーに包まった航空券を差し出した。
全速力で搭乗ゲートに向かった。
搭乗口のドアを閉めようとしていた。




1b:キャラメル超特急:カシミール

2007年06月02日 07:21

Sweet Candy Express



1b.カシミール


機内を見渡した。
すべての乗客が信じられないぐらい柔和な顔をしている。
彼らは異様な空気の層の進入を認めたのか好奇の目で、シャワーを浴びた全身、汗でずぶ濡れの俺を見ていた。
また怒りが込み上げてきた。
どうしたら彼らを怒らせることができるのだ?と馬鹿なことを一心に考えた。

隣に座っている70前後の老人の嫌な波長を感じた。
横目で見ると、俺を睨んでいた。
彼の視線が下に移った。
汚れた俺のバックパックの支柱の金具が微かに老人の膝頭に当たっている。

これ以上、痛いのは堪らん。

足を折り曲げ窮屈そうに座っている。
バックパックを抱えたまま座っていた。
老人の怒った顔を見て怒りが納まってきたので戸惑った。
やがて怒りを和らげる手っ取り早い方法を発見したので楽しくなってきた。
自己中心的なとんでもない解決法だ。
相手が値すると思ったときしか応用すべきでない。
いや、相手に関係なく絶対にすべきではない!
謝った。

「バックパックをどこかに置いといてくれませんか?」
パーサーは知らんぷりして行った。
邪魔になるよう通路に置いた。
しばらくして戻ってきた彼は黙って運んでいった。
そうか、ここではそう仕向ければいいんだ。

老人はまだ俺を横目で睨んでいた。
東方から来た下等動物を初めて見たような好奇の目だ。
わあー、もう止めよう。
悪いほうにばっかり考えが行く。
素直に見れない。
唯の空気になるよう努めよう。

「満席だ」と男が言っていたのに空席がかなりあった。
やはり航空券のことは、俺から賄賂を取る算段だったのだ。

前方でパーサーが俺を指差していた。
黒スーツ姿の二人の男が彼に続いていた。
一人は2m近い長身で、片方は頭にターバンを巻いた、ずんぐりした体格だ。
俺の所に来てターバンが口を開いた。
「聞きたいことがあるんで一緒に来てくれ」
「これからカシミールに行くんですが、、、」 
2mが俺の肩を二度、三度、軽く叩いた。
力づくでも連行する気だ。

2mとターバンに挟まれしかたなく歩き出した。
乗客の会話が耳に入ってきた。
「やっぱりあのジャパニーズはハイジャッカーだったのか。
飛行機に乗るときは彼らが乗っていないか確認したほうがいいな」

くたびれた机とやたら泣き叫ぶ三脚の折りたたみ椅子だけがある、窓のない殺風景な部屋に連行された。
俺が座らされた椅子はキーキー鳴き、ターバンのはグーと唸った。
その組み合わせに不安を感じた。
立っている2mの椅子がどんな音を出すのかひどく気になった。
俺の好奇の目に気づいたのか、
旨いスープを一気に飲んでため息を吐いたとき、器の底に湯で上がったゴキブリを発見したような顔をしたターバンが言った。
「何か楽しいことでもあるのか」
「飛行機に乗る前にも色々あったもんですからカシミールは地図より遠いんだな、と思いまして」 
「パスポート見せてくれ。
それから、ここに指紋」
2mが俺の指紋を持って部屋から出て行った。

「早く来て座れ、2m」
日本語でささやいた。
正直なところ、ケチの連続でもうカシミールなんかどうでもよくなっていた。
もうなんでも楽しんでやる。
ターバンがパスポートを胡散臭そうに捲っている。
「ここまで来た経路?」
「NY(ニューヨーク)からアテネ、それからパキスタンのカラチ経由でボンベイです」
「カラチに寄った理由?」
「アテネからボンベイ直行の航空券を買ったのですが機体のトラブルでカラチに寄ると言われました。
去年、友達がこの便に乗ったときもおなじ理由でカラチに寄ったとか言ってましたよ。
この便は表向きは直行便でも実際はカラチ経由のとんでもない便です」
「君の意見は聞いてない」 

突然ギーギーと苦しそうな音が後で鳴った。
いつ戻ったのか、2mが椅子を虐待している。
それからはキー、ギー、グーの三部合唱で俺は笑いをこらえるのに苦労した。
ターバンは、何だこいつは?
って険しい顔で俺を見た。

「カラチに2泊してるな」
「故障と言ったでしょう?
直行便の都合です。
しかたなくホテルに。
もちろん、直行便が払いました」
「ジャパニーズがなんであんな安い飛行機に?」
「安いのに乗っちゃいけませんか?」
「誰に会ったんだ?」
「カラチで?初めて行った所ですよ。
知り合いなんていません。
なんでここにいるのか教えてくれませんか。
カシミール行きはどうなるのかも」
「君は聞かれたことだけに答える。
飛行機は毎日飛んでるから心配いらん。
2度と言わんよ。
誰に会った?」
「カラチに知り合いはいません」 

ターバンは机の引き出しからファイルを取り出した。
数ページめくって一枚の写真を抜き取った。
「旅行中この男を見かけなかったか?」
カラチまでおなじ飛行機で来た長髪のスイス人、ロシュトーだった。
眼鏡をかけていたが、写真ではサラリーマン風の髪型で眼鏡をかけていなかった。

カラチ空港から直接アンバサダホテル内のレストランに案内されたとき、円形の5人かけのテーブルに同席した。
哲学者のような印象を受けた。
余り喋りたくなかったのだろう、彼との会話は当たり障りのない話に終始した。
自信なげに小声で話した。
外観との落差がひどかった。
彼自身の話になると英語をあまり理解できないように装っていた。
インドに行く、と言っていた。
2日後のボンベイ行きの機内に彼の姿はなかった。

「写真に似ている男は数人いたような気はしますがはっきり覚えてません。
ヨーロッパ系は20人以上いましたから」
「よく見ろよ」
「覚えがないからいなかったですね」
「君の名はオカモト・コウゾウか」
「ええ」
「レバノンには」
「行ったか、って意味ですか。
いえ」
「難波大助(テルアビブ空港乱射事件の犯人・岡本公三が持っていたパスポートの名前)を知ってるか?」
「知りません」
「PLO(パレスチナ解放機構)、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)をどう思う?」
「待ってください。
もしかして俺をテルアビブ空港乱射事件の岡本公三と思っているんじゃないでしょうね。
彼はイスラエルで捕まっているじゃないですか!」
「今年、5月16日にスイスのジュネーブで釈放された。
PFLPの捕虜になっている3名のイスラエル兵士とイスラエル獄中の1050人のパレスチスナ人と交換にな」
「そうでしたか。
でも俺はそのオカモトコウゾウではありませんよ。
それで調べたんすか?」
「君のような汚いなりをしたヒッピーくずれのジャパニーズはみんな調べている。
それに君は彼らと世代が大体おなじようだしな。
名前を変えたほうがいいかもな」

たぶんそうだろうと思っていたが案の定だ。
この5年間、旅をしていなかったので忘れていたが、昔旅をしていた頃の嫌な記憶が蘇った。
赤軍の岡本公三と間違えられ、彼がイスラエルで逮捕され終身刑を受けているにもかかわらず、俺は国境を通過するたびに移民局で足止めを食った。

「発音はおなじでも俺の名は岡元耕三で字が違うんだ!」
と、初めの頃はむきになって説明した。
どこの国の移民官も取り合ってくれなかった。
指紋、写真、そして質問、別人と分かるまで俺は拘留された。

ロンドンからトロントに行ったときはひどかった。
たまたまトロントに着いた日がユダヤの祝日、ヨム・キプール(贖罪の日・9月20〜29日)と重なった。
空港内の移民局施設で2日間拘留された。
容疑が晴れても入国は許されず、出発地のロンドン・ヒースロー空港に送り返された。

カナダ側から、疑わしい人物、という通知でもあったのだろうか、ロンドンでも入国を拒否された。
ロンドン在住のスイス人の友達が身元引受人になってくれたのでなんとか強制送還を免れた。

今回もニューヨークからアテネ、インドのボンベイに入るとき、移民官に入念にチェックされた。
アテネの旅行代理店でボンベイまでの航空券を探しているとき、受付が俺の名前を聞いて密かにポリスを呼んだほどだ。
あれは、5月に岡本公三がPLOとの捕虜交換で釈放されていたためだったのだ。

ターバンに言われるまでもなく名前を変えたいぐらいだ。
「その写真の男は何をやったんです?」
ターバンとはもう話したくなかったので、俺は後ろの2mに聞いた。
彼が話し出そうとしたところでターバンが阻止した。
「君はカシミールに今日中に行けるかどうかを心配したほうがいい」 

4時間後、解放された。
カシミールのスリナガールに向かった。


仏の極左組織 AD(アクシ ン ティレクト)元メンバーだったジャン メルク・トトことロシュトーは、
ジャム・カシミール独立を目指す独立戦線の助けでカラチからラホール、ワガー経由で陸路カシミールを目指した。
もう5年以上、ADを離れていた。
ここ数年は小人数の革命細胞を組織し、環境保護、動物愛護の路線に絞って破壊活動をしていた。

ドイツ赤軍(RAF)、ADなど底辺の細胞組織に始まり頂点の政 治局へと収束していくこれまでの左翼革命組織と違って、革命細胞は統括する中央組織、リーダー、アジトはなく、臨機応変に5〜7人のグループで破壊活動をした。

テレビのニュースで攻撃目標を決定する場合もあった。
このほうがテロリズム防止法の制定とコンピューター導入で、電気、電話の支払いまで入念にチェックされ、以前ほど身動き取れなくなっていた時世に合っていた。

AD時代は、NATO関連施設、軍産複合体関連施設、政治家、大使館上級職員、を狙って破壊活動をした。
成果ははかばかしくなかった。
民衆からはそっぽを向かれ嫌われた。
彼らの支持なしで活動する愚かさを嫌になるほど経験した。
そのため革命細胞の破壊活動はできるだけ夜中に敢行した。
人の殺傷は絶対に避けるという不文律を作った。
しかし、ロシュトーはそれにも限界を感じ始めていた。

崩壊状態のイタリア・赤い旅団(BR)、
ドイツ赤軍メンバーの避難場所として、
『インド・カシミール、スリナガールの独立戦線』、
『ビルマのカレン族』、
『スリランカのタミール・イーラム解放の虎(LTTE)』
を利用できないか可能性を探ってくれ、
とかってのADメンバーに頼まれてアジアに来た。

ADを離れてここ数年活動していないロシュトーなら、
インターポール(国際刑事警察機構)の目を誤魔化せるのでは、というのが彼らの考えだった。

これまで大量の逮捕者を出し、
3度の組織破壊の危機をなんとか乗り切ったドイツ赤軍(RAF)と
その最盛期の78年、政治家アル ド・モロの誘拐殺害の後、イタリア政府の厳しい追求にあい、
今では壊滅寸前にまで追いつめられた赤い旅団(BR)の避難場所として、
たしかにアジアは考慮すべき所だとロシュトーは感じていた。ヨーロッパから陸路、LARF(レバノン武装革命分派)の助けで行き来も可能だった。

しかし、テロ活動自体、我々の政治運動型テロリズムと彼らの民族独立闘争テロリズムという大きな違いがあった。
19世紀のアナキズム(無政府主義)を夢想する組織、
マルクス・レーニン主義、もしくはその変形である革命思想を掲げる都市型テロリズムを彼らはどうみているのだろう? 

帝国主義、西欧資本主義、既存の社会体制を倒すのを目標としているものの、
これに代わるべき社会システムを描き出せないでいる我々をどうみているのだろう。
我々との接点はあるのだろうか?
それに、RAF AD、 BR、の中核メンバー、
破壊分子を含め500人にも満たない組織に、
何万もの構成員を持つ組織が相手にしてくれるのか。

半年前、ADに頼まれたときは、
AD、RAFの政治家、実業家、誘拐殺害に内心、嫌悪していたので断った。
彼らの存在自体、必要悪だと信じて引き受けた。

ヨーロッパを久しぶりに離れたせいか今は後悔していた。
この旅が徒労に終わりそうな気がしてならなかった。
もう、イデオロギー、政治形態で争う時代ではないように思えた。 
破壊活動よりもっと平和的な積極的な手段があるのではないだろうか、外からではなく内に入って。

昔の自分の写真がインターポールから各国に配布されているはずだ。
捕まることだけは避けなければ。
 

1c:キャラメル超特急

2007年06月04日 10:07

Sweet Candy Express



1c.カシミール



アテネからボンベイ行きのあの便が、必ずカラチで二日間ストップ・オーバーし、乗客の人数を航空会社がチェツクしないのをあらかじめ調べていた。
人との接触をできるだけ避け、インタポール、警察の目を逃れて無事カラチまで来た。

ラホールに向かうカシミール独立戦線のメンバーが運転するジープに揺られながら、カラチのホテル食堂で同席したジャパニーズのことを考えていた。
カラチ空港で荷物を受け取ったとき、自分のすぐ横にあるバックパックの荷札を見て驚いた。
《KOUZOU OKAMOTO》と書かれてあった。
たしか5月、赤軍のオカモトコウゾウは捕虜交換で自由になったはずだ。
同一人物だろうか、いや、そんなはずは、、、、、。

運良くホテルでの夕食のテーブルがおなじだった。
「日本から?」
「ええ。
今はNY。仏人?」
「いえ、スイス」
「スイスの旅行者がアジアに?
珍しいな。
どこへ行くの?」
「プッタパルティまで」
「というと、サティア・サイババの所へ?」
「ええ。友達に教えてもらって。
NYは長かったのですか」
「5年近くいた。
でもひどいね、この飛行機は!
去年、友達がこの便に乗ったときも故障でカラチで二日、足止め食ったと言ってた」
「5年ですか、、、、、、。
同じ便で故障?」
「故障は口実で外貨を稼ごうとしたのかな、、」
「え!そこまで」
「それはないだろうな。
この飛行機に裕福な旅行者が乗ってるとは思えないし」
あのオカモトとは別人だ。 


夜8時過ぎスリナガールの空港に着いた。
まだ9月の終わりだというのに、チベットよりかすかに北にあるせいかさすがに肌寒い。
空港周辺は鋭い目をしたインド兵だらけだ。緊張感があった。
ここの住人はほとんどがモスレムで、独立派、パキスタン派に分かれ、インドからの離脱を画策していると聞いていた。

空港玄関で突っ立っていると、30半ばの太った男が近寄ってきた。
「泊まる所あるよ。
私、ラシッドです」
彼はかってに俺の荷物をフォルクス・ワーゲンバンの後部座席に運んだ。
空港から30分ほどのドライブでダル湖に着いた。
彼のドンガス(ペンションになる15〜30mほどのボート)が100m程先の湖に浮いている。
ラシッドが口笛を吹いた。
シカラと呼ばれている渡し船が来た。
彼の弟、二人の娘、奥さんが俺を迎えてくれた。客は俺だけだ。
簡単な食事の後、思い出したくもない長い一日の疲れが襲ってきた。

翌朝、過去にタイムスリップだ。
別世界だ
湖面はエメラルド色に輝き、シカラがあめんぼうのように軽快に湖面を滑走している。
対岸には木造の古い家屋が立ち並び、遠くにヒマラヤの山々が見えた。
360度、絵葉書の世界だ。
「どうです?
町に出ませんか。
車で案内しますよ」
横にラシッドがいた。
暇を持て余して気が狂いそうだ、って顔だ。

15分程で町外れの一軒家に着いた。
竹藪に囲まれた塀の向こうに、こじんまりした泥色の家があった。
ラシッドに促され靴を脱ぎ、20畳ほどの黒光りしている板の間の中央にある囲炉裏の前に座った。
家具らしきものはない。
まるで道場のようだ。
ここに巣くった空気がにおった。
薄暗い奥に目をやると、老人が二人、腰をかがめて何かを潰している。
その先の開け放たれた戸から日差しが浸食し、ささやかな光を提供している。
ラシッドが静寂を破った。
「私の父と母です」
戸の向こうで一斉にはためいた。
よく見ると麻だった。
7、8m四方の麻の庭園が丹精込めて管理されていた。
いや、違った。
ここの太陽を独り占めしている。
呼吸が荒々しい。
強い生命力と発散するパワーに貪欲な肉食のイメージを持った。
ラシッドの年老いた両親は彼らの召使いだ。
彼らが潰していたのは主の麻だった。
ハシシを作っていたのだ。老人がパイプを持って囲炉裏に来た。
表情のない老人の顔に刻まれた皺と瞬きを忘れた奇妙な目に吸い込まれ、耕三はパイプを手に取っていた。
老人の服、皺、顔、身体中に、そして、柱、板の間、天井、到る所にハシシのにおいが染み込んでいた。

ラシッドに手を取られたのは覚えていた。
その後は酔った感覚に身を任せた。
車から見えるスリナガールの町が、にぶい太陽を浴びていた。どんよりセピア色にくすんでいる。
この太陽のインパクトの無さでは、アラーにお祈りを捧げる時間を知らせる役目も果たせない。

ラシッドが倉庫のような建物の前に車を止めた。
今にも崩れ落ちそうな階段を上り、促されて中に入った。
小さな講堂のようだ。
薄暗い闇の中、四隅に巨大な物体がうずくまっている。
一つしかない50cm四方の窓から太陽が板張りの床を射していた。
居座った空気の層が重く肩にのしかかった。
少し息苦しい。

窓を背にしたソファに案内された。
埃、塵、ゴミが、気持ち良さそうに日差しを浴びて上下、左右に宇宙遊泳している。
一緒にスカイダイビングしていた。
いきなり、地上に曼陀羅が拡がった。
人の声がする。
「この端にお願いします。
はい、このボールペンで」
何を言っているんだ。
こいつは誰だ、、。
ボールペンを見つめていた。
「そのじゅうたん裏の端に日本の字でいいですからあなたの名前をサインしてください。
ほら、ここですよ」
ラシッドだ。
指し示した場所に漢字でサインした。
彼はもう1枚じゅうたんを持ってきた。
おなじようにサインしてくれ、と言った。

4枚目になったとき、どうもじゅうたんを買ったようだ、と気づいた。
ハシシの酔いは少し覚めてきたようだ。
「このじゅうたんは?
俺が買った?」
「いい買い物をしました。

全部で6枚。シルクが2枚あります」 
ハシシの酔いに惑わされて買ってしまったのだ。
「、、で、、全部でいくら、、?」
「この4枚が一枚500のとこを300$、2枚のシルクが1000なんですが、勉強して800、合計USドルで2000$です」
2000$!

今、全財産、1800しかないのに。断ろう。
今ならまだ間に合う。
ラシッドが俺の胸の内を見透かしたかのようにウィンクした。
「日本で買うと、そうですね、、
最低4万はしますね」
「4万?、、ドルですか?」
「ええ。
前金は200$で結構です。
残金は後で日本から送ってください」
ラシッドの、「4万」の声が脳天にしばらく響いていた。
どうしよう?
このじゅうたんを日本で売れば数倍、いや20倍か。
長いこと旅に出れるな、、、、
なんて甘いことを、、、、、。
 
野菜を積んだシカラ、黄色で縁取った屋根を持つお菓子屋のシカラ、バラ、ライラック、ゆりを積んだ花屋のシカラが湖上を走っている。
それぞれ、ハピーボーイ、パワー、ドリーム、ソウルなど不似合いな名前を舳先に付けている。
どのシカラも櫓を漕いでいるのは女性だ。
男は長めの棒を持って船首に突っ立って煙草を吸っていた。
ラシッドもそうだが、ここの男は怠け者だ。
毎日ブラブラしている。
たいして俺と変わらないか。
ここの諺に、「2パイサ(約10円)くれるなら兄弟の皮膚も売る」とあるらしい。
男たちは血まな臭いことが好きなようだ。

町に出ると山を目指す羊、山羊、子馬を連れた遊牧民をよく見かけた。
煙草屋のおじさんが、
「春先はこんなもんじゃない。
道路が埋まるぐらいだ」と言った。
女性は頭に料理用の道具、体のベールに幼児を背負っている、力持ちだ。
男は何も持たず、ただぶらぶら歩いている。
彼らの顔は古典的な顔をしていた 。
顔が大きく、鼻はするどく尖っている。ユダヤ人の 顔立ちだ。
「彼らの名前は、モーゼ、ヨセフ、イブラハムなど聖書に出てくる名が多い」ラッシドが言った。
遠い昔ここに迷い込んだユダヤ人らしい。
ここは何千年もの昔から,中国から西アジアへの交通の要所として栄えた。
キャラバン隊が行き来していたのでさまざまな民族の顔が溢れていた。

数日後、友達に会ってくれ、とラシッドに頼まれたので待っていると、たいそう立派なシカラが来た。
凝った茶ぶ台があり、ピンクのサモヴアール(塩っ辛いお茶を作る容器)が見える。
友の名はアミールと言った。
ラシッドと同類だ、見るからに怠け者で、腹は出っぱり顎は二重だ。

俺たちはお茶を手にダル湖を一周した。

野菜、メロンなどを栽培している水上庭園が見える。
アミールがパイプに火を点け、一服して俺に渡した。
煙草かと思っていたらハシシだった。
ここでは生活の一部になっているのだ。
そうだ!
ラシッドのじゅうたんを買ったときも吸わされたんだ。
アミールにも魂胆があるにちがいない。
気をつけないと。 
しかし、それも湖上から見える野性のラン、チューリップを見ているうちに忘れてしまった。
ラシッドが、「マネー」と言ってアイリス(あやめ)を指さした。
ここではアイリスは金の象徴で、死体を埋めた後その上に必ず植えるらしい。

ダル湖を離れ、ジェルム川を15分ほど走ってシカラが止まった。
そこでボートを降りて土手を登ると、40m四方の小さな池があった。
その真ん中に高床式の3階建ての大きな家が建っていた。

私の家です」アミールが言って、ロープを手で繰り寄せた。
小さな渡し船が俺たちの方に牽かれてきた。
2階に案内された。お茶をご馳走になっていると、アミールがチョッキを持って現れた。
「どうです。
この皮のチョッキいいでしょう」
素晴らしい出来栄えの黒い牛皮のチョッキだった。
「イエス」と答えると、彼はポケットから巻尺を取り出して俺の寸法を計り始めた。
買う、とは言ってないんだが。
彼の真剣な眼差しに怯んだ。
でも、じゅうたんの事があった。
「3日後にここを出るから止すよ」
「いえ、御心配なくそれまでに仕上げますから」        
50$、と言った。
安いと思ったのか、俺は頷いていたようだ。
その後、工芸品を展示している一階に案内された。
胡桃の木を削り、めのう石にびゃくだんの粉を降りかけ擦って朱子色に仕上げた、煙草入れ、子物入れが所狭しと並べられてあった。
それらの美しさに魅せられ、俺は150$分買い、50$を前金として払ってもいたようだ。
どこかに消えていたラシッドが、俺たちの商談?が終わるのを見計らっていたかのように現われた。
まただ!
ハシシの酔いに任せて買ってしまった。
なんてことをしてんだ、俺は!
 

ロシュトーは、アミールの3階屋根裏部屋から渡し船を見ていた。
カラチで会ったジャパニーズがいるのを見てひどく驚いた。
なぜ彼がここに!
俺を追って来たのか!
ジャパニーズとラシッドが去った後、
「あのジャパニーズはあんたたちの知り合いか?」
「金離れのいい旅行者だ。
どうした、そんな顔して?」
「彼とはアテネからカラチまでおなじ飛行機だった。
カラチのホテルで話したこともある。
オカモトコウゾウって名前だ。
この名前、聞き覚えないか?」
「いや」
「72年、イスラエルのテレアビブ空港でパレスチナ解放組織と連帯する日本赤軍による乱射事件が起きた。
26人が死亡、76人が負傷した。
実行した3人の仲間の一人がオカモトコウゾウって名だった」
「奴がそうなのか?」
「いや、別人だろうな。
5月に囚人交換で釈放されたが、長い独房生活で精神状態がまいっていた、と昔の仲間から聞いたんでな。
それより俺を追って来たインターポールの可能性がある」
「ちっ!
どっちなんだ!
その乱射事件のオカモトなら問題ないが、インターポールだとやつかいなことになる。
ラシッドに確かめてみる」

アミールは船頭を呼んでラシッドのシカラを追った。
カシミール独立戦線の上層部の命令でしかたなくロシュトーを泊めていた。
ヨーロッパのテロ・グループの助けなしでカシミール独立は可能だと思っていた。
もしあのジャパニーズがインターポールなら、ヨーロッパ諸国はロシュトーがここにいるのを知っているのだ。
アミールは不安になった。

ラシッドのドウンガスに着くや、自分のシカラに呼び入れた。
「あのジャパニーズとロシュトーはカラチまでおなじ飛行機だったらしい。
自分を追ってきたインターポールじゃないかと心配してる」
「おなじ飛行機?
どいうことだ」
「アテネからカラチまで一緒で、カラチのホテルでしゃべったこともあるんだとよ」
「ジャパニーズがロシュトーを追っているとは思えんがな。
ポリスならハシシなんか吸わんだろう。
それにあの汚いなりを見ろ」
「カモフラージュかな。
この際ロシュトーを始末したほうがいいんじゃないか。
ヨーロッパを敵に回したらことだぞ」
「心配はいらんと思うがジャパニーズの荷物を調べて見るよ。彼がインターポールでも俺たちはかまわんさ。
ロシュトーを捕まえて奴らにくれてやればいいんだからな。
戦線の支部長には報告しとく。
ヨーロッパのテログループを匿ってもなんのプラスにもなんねえのは分ってるが、
利用できないかあらゆる角度から検討してるとこだって支部長が言ってた。
上がどう判断するかだ。
あのジャパニーズ、急に明日発つ、って言ってな。
チョッキのことを言ったら、じゃあ、明後日にする、とよ。
お前に明後日までにチョッキができないか聞いといてくれ、と頼まれた」
「、、てことはロシュトーを追ってきたんじゃないのかもな、、。
チョッキはなんとか明日中に仕上げるよ。
それからもう一つ気がかりなことがある。
佐伯たちにハシシを送っていたのがばれたのかもな。
その捜査に来たポリスっていう線はどうだ」
「彼らがジャパンでどじを踏んだ、?、、、」
「ジャパニーズは150$分買ったんだが、、
佐伯たちに送るのはどうする?
今回は見合すか?」
「オカモトの荷物をチェックしてみるよ。
佐伯たちに送るにしてもまだ時間はたっぷりあるし、
ポリスの様子を問い合わせてもいいしな。
ジャパンに送るのはそれからだ」

翌朝、ジャパニーズがいないのを見計らってラシッドは彼の荷物を調べた。
その夜、チョッキを持ってきたアミールに結果を報告した。
「荷物は心配いらん。
よれよれのジーパン、シャツ、パンツしか持ってなかった。
パスポートは普通だし、米のビザはツーリストビザだった。
彼はインターポールなんかじゃない。
俺が太鼓判を押す」

俺はこれ以上ここにいると身ぐるみ剥がされそうな気がして、一日早く出ることにした。
出発前夜、ラシッドの家族、会ったたことがないお爺さん、お婆さんまでもがわざわざ別れの挨拶に来た。
最初に来た14の娘がかなか立ち去ろうとしないので、俺に恋をしたのかと本気で悩んでしまった。
なんのことはない『バクシシ(喜捨)』だった。
ズボン、Tシャツ、パンツまで彼らに持っていかれた。
パンツは今はいている一枚になってしまった。
おかげでバックパックがひどく軽かった。
とんでもない所だ、カシミールは。もう一日いたら大変なことになっていた。


ジャバニーズが去って2週間後、ロシュトーはビルマの『カレン族』を目指してカシミールを出発した。
頼みのカシミール独立戦線との共闘は不調に終わった。
ジャパニーズの出現以来、彼らの態度が変わった。
迷惑顔をされた。
背後にパキスタンという国が控えているからだろう。
共闘はプラスにならないと判断したようだ。

スリランカの『タミール・イーラム解放の虎』との接触は、
カシミール独立戦線と状況が似ていたので諦めることにした。レバノン以東のアジアに行ったことがなかったのと旅の資金をADからもらっている手前
、報告する義務があったので、カレン族には接触するつもりでいた。

しかし、カシミールはまだしも東アジアはヨーロッパから遠いと感じた。
避難場所の件はもうどうでもよくなっていた。
カシミールからバスを乗り継ぎ、
インド北端を通ってネパールに入り、タイに飛んで陸路ビルマに入るつもりだった。

この数日、ラシッドの別れの言葉が引っかかっていた。
「あんたを捕まえて仏に送り届けたほうが俺たちにはプラスなんだが、上の命令だ。
五体満足でここを出れるだけめっけもんだと思って、
アラーの神に感謝しな」  




2:キャラメル超特急 カトマンドゥ

2007年06月06日 09:16

Sweet Candy Express



2.カトマンドゥー




カシミールからニューデリーまで、バスを乗り継ぎ一週間ほどで降りてきた。それから10日程で、ブッダガヤを経てラジギールに着いた。地下温泉風呂があった。もちろん無料だ。温かい風呂は一月振りだ。
風呂を出て安宿を探していると、誰かが名前を呼んだような、、、気がした。
又、聞こえてきた。
嘘だろう、、、。
友達が立っていた。
7、8年ほど前、日本を旅していた頃、沖縄のアラグスク島で知り合った徹だった。
インドのラジギールで会うなんて!こんなことってあるのだろうか!
しかし、昔の徹ではなかった。異常なほど痩せていた。何かがおかしい。
「徹か!、こんな所でな!どうしたんだおまえ!がりがりになって、病気か?」
「い.ゃあ.そ.れにしてもこ.んなこで.会.うとは.ほんと奇..遇だな!...」
「アラグスク以来だ。で、どうした?あの頃と違うぞ、おまえ」
「い.やまいっ.たよ。カ.トマンズーで.ほ.ら.穴に.一.か月以上.閉.じ込められた。さ.いあくのとこで.太.陽は当たらない.し.ネ.ズミ.がいてさ.俺.お.か.しいか?」
「どうして、また洞穴なんぞに?」
「ポ.リスが.朝早く.部.屋に.来てさ。た.また.ま.持.って.たハ.シシが見っかっ.た。金.50.$払.っ.たら見.逃してやる.だ.っ.てさ。ふ.ざけてるから.お.まえなんかに.払.う金.な.んかない.て.言っ.たら連.れて.行.か.れてさ」
徹は以前から少し吃っていた。時折、顔を歪めひどくなっていた。
「最悪の経験したな。そんな所に一月以上も閉じ込められたら誰だっておかしくなるぜ。ハシシか?弱いとこ突いてくるな。どうすんだこれから。旅なんていつでもやれるから早く日本に帰ったがいいぞ。普通に食べてたのか?」
「ネ.ズミ見.なが.ら.食べ.る気な.ん.か。馬鹿.見たよ.賄.賂.払っ.とき.ゃと思.うよ。でも.許せ.な.いだろ.うそんなこと。今.回は.い.い.勉.強.した。お.まえ.も注.意..したほ..うがい…いぞ」
「俺はカシミールでひどいレッスン受けた。ハシシはもうごめんだな。これからどこ行くんだ?」
「ち.ょくせつ.福..岡か.ら、タイ、ネパ.ール.に.来たから、まだ.旅.してな.い。監.獄の一.月だ.けじゃ.あ.。ボ.ンベ.イ、ケ.ララ.に行.くつ.もり。こ.の.まま.日.本.に.帰.る.気.は.し.ない。.ま.す.ま.す悪く.なる.のがわ.か.るから。あ.の.国では.僕なんかし.んどいんだ。ど.も.る.だけで変.な目で.見.られ.い.じめ.られて.きた.から。ど.こか.海の.見.える.とこ.で.休む.よ」
「徹、ドラッグほどほどにしろよ。うんざりするぐらいあるからな」
「けい.、さつ。祭.り.が近….くなると部屋に…くるから…..きを..つけろ…よ」

翌朝、右足が痛いのか徹はバスに乗るとき顔をしかめた。
呆然と見つめている。痛めていたのを今初めて知ったような顔つきだった。

パトナから船でチャルパまで行った。1時間早く着いたので乗船してバックパックを枕に寝ていると足を踏んづけれられた。やっと足の踏み場を見つけたって顔で俺を睨んでいる。まるで東京のラッシュアワー並みの人込みだ。
船は泥色の川を西北西に向かっていた。
ジャスミンの花輪、きんせんか、ばらの花弁が流れている。
対岸で火葬をしていた。
まきを積み上げた火葬壇に若者が火をつけた。
勢いよく火の粉が上がった。
周りの人たちも数歩、後退りするほどの勢いだ。
頭蓋骨を裂くか、割って、魂を出さないといけないらしい。
その横では花に飾られた紅色の小さな筏が離れようとしていた。幼児、子どもの遺体は焼かないと聞いていた。

チャルパからバスで、ネパール国境のラクサルに夜10時過ぎに着いた。
宿屋を探した。もう閉まっているか満員で見つからなかった。
しかたなく野宿をしようと町外れに向かう途中、ホテルの看板が見えた。
通常の倍を吹っかけられた。 
窓がない、ただ蒸し暑いだけの部屋だった。
ベッドのシーツをめくると10数匹のシラミがくつろいでいた。
余りの多さに振り払う気力が失せた。
彼らの存在などどうでもいいぐらい疲れていた。
横になると襲ってきた。
マッサージになったのか、いつの間にか寝入っていた。
朝、肌色が赤になっていた。赤点、40数えたところで止めた。

朝11時過ぎカトマンズに着いた。
ここには仏教徒が多いと聞いていたせいか、インドとは違ってなじみの空気が流れていた。チベット人が多いせいかどこか日本に似ている。
デリーのネパール領事館でビザを取りに行って知り合ったベルギー人のイギーとここのペンション、レインボウ・インで待ち合わせる約束をしていた。
20歳の若者で、ベルギーに送るハシシを捜しに来たんだ、と土産物を買いにきたかのように言った。
それはDURBUR SQUARE(ダルバール広場)から南に歩いて15分 ほどのJIYATHA(ジャタ)にあった。
真新しい四階の建物で、受付 のおやじさんに尋ねると、あいにく彼は不在だったが前もって知らされていたようで部屋の鍵をくれた。
4階屋上のバルコニー脇の部屋で日光浴もできて申し分ない。
荷物を置いて、蚤、シラミに荒らされ、赤く腫れあがった皮膚を冷やそうと3階のシャワー室に向かった。
湯を期待していなかったが、やはり水しか出なかった。

部屋に戻るとイギーがいた。
「も少し早く来るかと思ってたけど遅かったね」
「ブッダガヤで体がおかしくなって動けなかった。風土病のようだな、どうそっちは?」
「デリーからケララ、カルカッタ、3日前に着いたよ。ここは旅人が多いけどインドよりのんびりできる。みんな歳くってていい雰囲気でさ。60年半ばの出戻りも多い。すべてが変わった、と彼らは嘆いているけどね」
当然だろう。嘆く彼らの存在自体が変化を加速させているのだから。
「66年にカトマンズに来たことがあるアメリカ人に会ったら、当時のレストランのテーブルの上に、ハシシ、葉っぱが、塩、胡椒と一緒に並べられていたらしいよ。72年に、ビレンドラ王(2001年,drug状態にあった息子デペンドラ王子によって、后、子ども、計11名殺害される。デペンドラ自身、自殺を計り後、死去、、、、と報道された。今の王ギャネンドラ、ビレンドラの弟、が仕組んだ、、と当時から噂されている。真相は闇)になってハシシが禁止されたんだって。その禁止された翌日、SINGH DURBUR(シン・ダルバール)ビルが放火されたらしい。それほど地元では、ハシシを吸う根強い習慣があったんだ」
彼らの古い習慣を取りあげたのは、ビレンドラ王ではなくて俺たち旅行者だろう。俺たちの存在が西欧諸国からの圧力となり、対外的にハシシを禁止せざるえなくなった。
有名なフリーク・ストリートを歩いていると売人によく声をかけられた。この通りは60年代のヒッピーの溜まり場だと聞かされていた。通りで吸っていたのが路地裏に移動しただけで、当時と雰囲気は余り変わっていないのだろう。


タイ、バンコック行きの飛行機を探していたロシュトーは、カトマンズの安宿、イースト・アンド・ウエストを出てアッサンの広場へ豆腐を買いに出た。
スリナガールからニャーデリーを避け、バスと汽車を乗り継いで遠回りをしてウタル・プラデシ経由でここまで来た。 
AD(アクション・ディレクト)が用意してくれた本物の米国パスポートを持っていたので、ネパール国境、ルンビニはトラブルもなく通過することができた。
東アジアではヨーロッパのテロリストはマークされていないと強く感じた。

チベッタンの豆腐屋に行こうと路地を横切ったとき全身が凍りついた。
目の前に豆腐の代金を払う、あのジャパニーズの姿があった。
咄嗟にロシュトーは通りを隔てたバッグ屋のひさしに身を潜めた。
ひさし越しに聞こえてきた、ジャパニーズと一緒にいたヒッピーの声を聞いて身震いした。仏語訛りの英語だった。
やっぱりあのジャパニーズは俺を追ってきたインターポールか!どこからだ、コルシカ島か?いや、アテネか?なぜここにいるのがわかった!もしかしてAD内部にスパイが!

後をつけた。
レインボウという名の民宿に入って行ったのを確認して、受付にいた10歳ぐらいの少女に彼らの部屋番号を聞いた。
あのジャパニーズはハシシが好きだ、とアミールが言っていた。
ハシシが好きなインターポールがいるのか疑問だった。
フリーク・ストリートで売人を探した。
「ハシシは?」
「あるぜ」
「見せてくれ」
「そこまで来てくれ」
 路地裏で売人は、ビニール袋に入った茶褐色の塊をズボンのポケットから取り出した。
「いくらだ?」
「25$だな」
「これをある男に売ってくれたら50$払う。どうだ?」
「50。売ればいいのか。お安い御用だ」
「必ず売ってくれ。あんたは25$以上で売りたいだろうが、俺から50$入るんだから5$でもいいと思ってな。欲だけはかきなさんな」
売人とロシュトーはレインボウ・インに向かった。
もう少しハシシを欲しかったが、今二人が部屋にいるチャンスを逃したくなかった。

売人が部屋をノックした。
仏語訛りと話すのを階段の踊り場でロシュトーは聞いていた。
「ハシシ売ってんですが、、。ここじゃ話せないから中に入れてください」
「ハシシ?持ってるからいいや。でも、試し吸いして良かったら買ってもいいよ」
売人は部屋に入っていった。仏語訛りがハシシを持っている、と言ったのでもう売人が何$で売ろうがよかった。
それから20分後、レインボウインから出てきた売人は、ポケットの中の65$を握り締め、してやったりと思った。まだ半分ハシシが残っていた。
ハシシに興味がない彼は、なぜこんなもんに西洋人もジャパニーズも大金を払うのか理解できなかった。金があって物は溢れていても満たされないものがあるらしい。

ロシュトーは売人と別れた後、公衆電話から警察に通報した。
「もしもし、カトマンズ・ポリスですか。旅行中知り合ったジャパニーズとヨーロッパ系の白人が大量のハシシを国外に持ち出そうとしているんですが。今レインボウインの402にいます」
「あなたの名前は?」


彼の通報に応えた警官は楽しくてしようがなかった。
明日は新米のミラジでも連れて行こうかと考えていた。 


翌早朝、俺たちはポリスの強襲を受けた。ベッド脇の机にあるハシシが見つかった。
イギーは普通の煙草は吸わなかったが、餓鬼の頃からハシシ漬けだ。
「ブリュッセルでは12〜3歳からハシシ、葉っぱを始めるのが普通さ。俺はもう少し早かったけどね」
昼間、吸わないイギーは夜になると底無しだった。ここらがアル中と違うとこで、夜のトリップのため昼間は吸わないのだ。当然、朝はそれらの残骸が残った。
お巡りは二人とも痩せていた。賄賂をとる行為に少しは良心の呵責を感じるのか、目の焦点が定まらない。動作もぎこちない。
一人は若かった、新米だろうか。俺は関係ないなんて顔をしてドア横に突っ立っている。
相棒は30半ばで口髭を生やしている。ネズミに似ていた。
こいつが癖者でハシシを見つけるや態度が一変した。
表向きは恐そうな顔をしていたが、プランどおりにゲームを進められて嬉しくてしようがないようだ。目尻を下げ、笑いを堪えているのが見て取れた。今まで旅行者を泣かせた自信が身体じゅうに溢れていた。
徹もこいつにやられたのか。
イギーはというと、とんでもない時間に起こされたのでぶすっとしている。
「これはなんだ?」
自分の声が上ずっているのにびっくりしたのか、ポケットから煙草を取り出してフィルターに火を点けた。
相棒は相変わらずドア横で案山子だ。
まだ六時半だった。
何が起こっているのかイギーは理解していない。
鼾が聞こえてきた。
ネズミは彼のベッドに歩み寄って鼻をつまんだ。
そのとき、まずいフィルタータバコを床に落とした。誰にも見られないように。
「うわあー!」
ネズミが早口でハシシを指差した。
もう演技のようには見えなかった。
「これは何だ!これは!さあ二人とも起きろ連行する!」
ネズミがイギーの寝袋の紐を引っ張った。
上半身が剥き出しになると同時にネズミに殴りかかろうとした。
俺は体を投げ出して、なんとか彼を押さえた。
ネズミが髭をぴくぴくさせて、戸口の案山子に来るよう目配せした。
「さっさと起きろ!!行くぞ!あんまり俺を怒らすな!起きろ!」
 やばい。早く払わないとやばそうだ。
「幾ら払ったらいいんでしょう?」
「、、、、」
 ネズミはしばらく考え込んでいた。
怒りがいくらで納まるか、天秤にかけているように見えた。
「50」
「俺はやだぜ。こんなのに払う気ないぜ」
 ネズミがイギーに怒鳴った。
「おまえは絶対に許さん。起きろ!連行する」
「ちょっと待ってください。彼と相談しますから少し時間をください。どうかお願いします」
徹の話をイギーにした。それでも、厭だと言う。しかたなく俺が立て替えた。
2日後、俺たちはバスでポカラへ発った。
宿泊代を払いに行くと、ペンションのおやじさんが、
「明日出る!明日はダサインの祭り(ネパール最大の祭り。戦いの女神ドゥルガに捧げる祭り)だぞ」と言った。

ロシュトーは、402号の二人がポカラに発ったのを受付の少女から聞いた。
ポリスに捕まらなかったのは彼らがインターポールだったからか?それにしてもなぜポカラへ?
このままバンコックへ飛ぶのに不安を感じた。
ポカラへ行くことにした。 


2a:キャラメル超特急 ポカラ

2007年06月08日 18:41

Sweet Candy Express



2a.ポカラ




ポカラに着いてバスから降りると、目の前にPhewa湖(ペワ湖)、後にマチャァプチァレ、アンナプルナの山々が見えた。
1959年、中国がチベットを占拠するまで、ラバのキャラバン隊を率いたチベット人が、塩、ヤクの毛を穀物と交換しにここへ来ていた。
そのルートが閉ざされて観光客が来るようになった。
特に60年代後半からヒッピーたちが、トレッキングの中継地、ここの自然の豊かさに惹きつけられ来るようになった。

バス停で客引きをやっていた少年が、餓鬼の頃の遊び友達によく似ていたので彼の親父がやっている宿屋に向かった。
少年の名前はラジ、目が澄んでいてどこか人を食ったような表情をしている。宿屋はダムの方角にあった。
ラジの家の中にはベッドがあるだけで家具らしきものは見当たらなかった。
食事時になると、玄関脇の軒下でアンナプルナを眺めながら一家五人で楽しそうに食べている。
間近にすばらしい自然があると、部屋の中を飾る必要はないようだ。

腹が減っていた。
何かないか、とラジに聞いた。
スープを持ってきた。
4時間ほどして、周りがかすんできた。
目に入るものが二重になった。
イギーもおなじスープを飲んだのに、彼にはなんの変化も見られない。
「多分、スープに入ってたキノコはマジックマッシュルーム(毒きのこ)だったのかもな。ラジが気を利かせて入れたのだろう。たまたま耕三のは少し古かったんだろう。僕はなんともないから」
フィルターを通して昔を回想しているような、現世界から遊離した奇妙な感覚に捕われた。
すぐ治るだろうと思っていた。
翌日、次の日と三日続いた。
ラジが見舞いに来た。
「目がおかしいんだって?古かったのかな」
「おまえ、あのキノコは何だった?」
「マジックマッシュルームが少し残ってたからスープに入れたんだ」
「なぜ入れた?」
「ここに来る客みんなに出してるんだよ。みんな喜んでくれるよ」
「治るのか?」
「うん、1週間かそこらで治るはずだよ」 

昼間の明るさが苦痛になった。
声、音もエコーがかかったように聞こえる。
食事は暗くなるまで我慢した。
2日目からイギーは隣部屋に移っていたのであまり姿を見なかった。
朝早くからブリュッセルに送るハシシを探しに自転車で郊外へ出かけていた。
夜、たまに会うと何度か文句を言った。
声を掛けたのに知らんぷりするな。


4日間、ロシュトーは二人を探していたが見つけることができないでいた。
彼らはここにいないのか、トレッキングでどこかに行ったのか。
やっぱり俺を追ってはいなかったようだな。
明日ここを出よう。
ジャパニーズが暗闇から不意に目の前に現れた。 
あいつだ!咄嗟にナイフに手が伸びた。
ジャパニーズは虚ろな目をしてロシュトーの真横を通りすぎた。
どうなってんだ!俺の顔を覚えてない!
ジャパニーズはレストランに入った。
入口が見渡せる斜め向かいのコーヒー・ショップで彼が出てくるのを待つことにした。
これでやっと居場所がわかる。
なんで俺の顔を見たのにわからなかったんだ?

レストランの中は、いつものようにハシシの煙がもうもうと舞っていた。西洋の若者がストーンして頭の中はぬいぐるみの綿になっている。
CSNY(クロスビー、スティルス、ナッシュ、ヤング、70年代のバンド)の《TEACH YOUR CHILDREN(子ども達に教えなよ) 》がかかっていた。それからニール・ヤングの《HELPLESS(どうしたらいいんだ)》 になった。
選曲がハシシに狂った若者への抵 抗のように感じた。
イギーの姿が、、、、かろうじて見えた、、やはり、、彼だった。
「耕三、今日はどうした?僕が見えるのか?」
「知らんぷりは覚えてないんだ。悪かったよ。ピンボケの世界は結構つらい。で、いいハシシ見つけた?」
「今年産は安くて質がいいんだけどここから送るのが難しそうなんだ。中に入れる民芸品の人形を見せてもらったけど、それが冗談だろうというぐらい頼りない」
「大変なことにエネルギー費やしてるな。他に使えば素晴らしいだろうにな、イギーよ」
「僕達にとってはただのタバコだよ」
「で、どうすんだ?送るのか」
「ものはいいからね、、、他に何かいい方法があるか、、それ次第さ」

翌朝、目を開けると、元に戻っていた。ラジの言うように1週間かかった。
あいつ、前にもおなじことをやったんだ、、だから1週間と言ったんだ。 

昼過ぎ、部屋の前で日光浴をしていると、隣の部屋から眠たそうな顔をしたイギーが出てきた。
「どう目は?」
「今朝、やっと治った。ラジが言ったように丁度、1週間かかった」
「ラジは楽しんでやってんのかな?」
「被害にあった旅行者は多いはずだよ。とんでもない餓鬼だ。善意でやってんだろうが」
「善意でやってる?耕三は苦しんだのに意外とやさしいな。僕はやさしくなれないな」
「多分、今まで来た殆どの旅行者がキノコをラジに頼んだんだ。だから、あいつは残りもんをスープに入れたんだろう。いつも台所にある、とか言ってたからな。今日はハシシ探しに行かなかったのか?」
「昨夜、考えてさ。うまく行けば金にはなるけど、捕まったら監獄じゃ当分吸えないからやめたよ。ブリュッセルにないなら考えるけど危険冒すメリットないよ」
「止めた理由が滑稽で笑っちゃうな。ハシシがないと生きていけないようだな」
「無理だね。僕たちは10歳前から吸い出すんだぜ。おふくろの乳じゃないけど大好物のキャンディ、お菓子、食べ物みたいなもんさ」

ラジが、30前後の日本人カップルを連れてきた。
二人は、ここはどこ?って感じだ。もうぶっ飛んだ顔をしている。
ミッキーマウスがホームレスになったような顔をした旦那がクールな声で言った。
「山根です。ここには?何か目的でも」
「ただぶらぶらと来てしまったって感じです。山根さんはトレッキング?」
「いえ、金沢で民芸品の店をやっていましてその買いつけに」
「よくここには?」
「ええ、、、、」 
キノコの件以来、俺を避けていたラジが、2cm四方のてかてか光る茶褐色のタール状の塊を宙に投げて遊んでいた。
山根さんの奥さんが、素っ裸のマイケル・ジャクソンンを見つめているバービー人形のような顔をして眼球を上下に動かしていた。
「ローオ〜ウピ〜アム(生〜あ〜へん)?」
「そう。ほしいならあげるよ」
 生阿片と聞いて、俺たちもおもわず目が行った。
イギーも初めて見るのか手にとって珍しそうに観察している。
「何も薬は入ってないんだな?」
「うん。採って丸めただけ。100%自然のもんさ」
「食べるとどうなる?」
「どうにもならないよ」
イギーが四つににちぎって、一つを口に放り込んで残りを俺たちに手渡した。
俺は嫌みたらしくラジに言った。
「また古いんだろうな?」
「へへ、半年は経ってるけど食べてもどうってことないよ。僕らまだ古いのおやつで食べるから。目はどう」
「ラジ先生の見立てどおり今朝、治ったよ。これからは勝手に古いキノコ入れるなよ。おまえ、ひどい目に遭うぞ」
「OK、気をつける。新鮮なのを選ぶ」
その後、ラジを連れて食事に行った。
みんなは野菜中心の食事だった。
俺は栄養が必要だと感じていたので、年に数回も食べないステーキをオーダーした。ミルクをお代わりした。

この日から俺の体は糞を排出する作業を放棄した。
おかしかった
今までどこから排泄していたのかわかなくなったほどだ。
肛門が鉄筋コンクリートで固められたようでもう別の器官になっていた。
部屋から20m程の所にある共同便所が憩いの場所になった、気休めの。
翌日、その次の日も駄目だった。
肛門はもう完全に閉ざされて壁になっていた。
まるでトイレに恋をしたかのように、2、3時間おきのトイレ行きが日課になった。
原因はあの生阿片だろうか?
イギー、山根さん夫婦はなんともない。
あのとき、レストランで彼らは野菜食だった。
俺はステーキを食べてミルクをお代わりした。
原因はそれしか考えられない。
ステーキとミルクが絡まってクレーズィグルーになったんだ。
なぜよりによって普段は食べないステーキを注文したんだ!
それにミルクを2杯も!
この3日間まるで便器の上で生活しているようだった。
 

夜10時過ぎロシュトーはジャパニーズの部屋に向かった。
この二日間、彼の部屋に忍び込むチャンスを窺っていたが、いつも部屋の前庭に数人が屯していた。
部屋には明かりがついていた。
あきらめて帰ろうとしたとき、ジャパニーズが出てきた。
鍵をかけなかった、トイレにでも行ったのだろう。
しばらく暗闇に潜んで様子を見ることにした。
20分後に戻ってきた。
数分後、ロシュトーが帰ろうと立ち上がったとき、ジャパニーズがまた出てきた。
あわてて顔を引っ込めた。 
部屋のドアが微かに開いていたが我慢した。
20分後、浮かぬ顔をして彼が戻ってきた。
奴は腹を壊したのかもな。
しばらく様子を見ることにした。
午前1時過ぎ、またジャパニーズがトイレに行った。
ロシュトーは部屋に忍び込んだ。
寝袋、バックパックの中を調べた。インターポールに結びつくものは何も発見できなかった。パスポートを探したが見つからなかった。
10分後、部屋を出て暗闇に潜んだ。
しばらくして戻ってきたジャパニーズは部屋に入ってライトを消した。
明日ここを発とう、
とロシュトーが立ち上がったとき、突然、目の前でドアが開いた。
ジャパニーズが現れた。
ああ、見つかってしまった。
しかしそのまま通りすぎていった。
どうなってんだ?
ジャパニーズがトイレに入った。
壁に耳を当てた。
「クレズィーグルー。ステー、、、キ、〜〜〜〜〜〜〜〜」
うん、うん唸っている。
どうも奴は便秘気味のようだ。
これまでの償いをしてもらおうと、拳大の石3個を探して隣のトイレに静かに入った。
ジャパニーズによく聞こえるように跳ね返しに注意しながら上から勢い良く落とした。
これを聞けば奴は気が滅入るはずだ。
なんてこった!何がインターポールだ。
糞詰まりのインタポールか!とんでもないことで時間を食っちまった!それにしてもすげえ便秘症がいたもんだぜ。
ジャパニーズの苦悩に満ちた独言を聞きながら、ロシュトーは笑いを堪えることができなかった。

帰り道、道端に寝転んで腹がよじれるほど笑った。
ようやく納まって立ち上がったときにおってきた。
糞だった。右手の平に付いていた。
左の肩辺りからもにおってきた。
ズボン、シャツ、全身が糞だらけなのに気づいた。
また笑いがぶり返してきて涙が止まらなくなった。
マルチン・ルター(独の宗教改革者)とフランソワ・ラブレー(仏の作家)が頭に浮かんできた。
ルターは悪魔が肛門の周りに姿を現すので、それを追い払うには巨大な糞をしなければと信じていた。
そうだろうな、ルター先生、あのジャパニーズに教えてやんなよ。
巨大な糞をするにはガルガンチェア(ラブレーが書いた騎士道物語の英雄)みたいにならんといけんとね。
そういゃあ、先生あんたも便秘気味だったらしいな。
まあ糞が詰まれば詰まるほど後で宇宙に放出する解放感は増大するっていうから割には合うわな。
あのジャパニーズも糞が出たときは死んでもいいと思うだろうぜ。 


4日目に、ラジに教えてもらって医者へ行った。
30過ぎの若い医者で事情を話すとしばらく考えていた。
アヘンと聞いて怖じ気づいたのかぼんやりしている。
浣腸してくれないか、と医者に頼んだ。
それでも壁は強固でびくともしなかった。
俺が嘘を吐いているとでも思ったのか、涼しい顔をして言った。
「君、私にはどこも悪いようには見えないけど、、」
「他に薬は?」 
「ここにはない」と冷たく言い放って背を向けた。
俺を変態だと思ったようだ。

カトマンズに行こう、薬探しに。
出発前夜、妙にすましたラジが来た。
「糞が出ないんだって。生阿片が原因なら初めてのケースだよ」
それまで笑いを堪えていた彼は噴き出した。
涙まで出して転げ回っている。
「おまえにはほんとうに色々と世話になった。このまま糞詰まりで死んだら枕元に現れるからな。今度誰かに生阿片あげるときは後でステーキ、ミルクは食べるな、ってはっきり言うんだぞ」

翌朝、バス発着場まで見送りに来たイギーが、こいつに似合わないまじめな顔で、
「糞詰まりの結末知りたいから又会おうぜ」
と言った後、噴き出した。
この野郎!俺だっておかしくて笑いたいぐらいだ! 

カトマンズで数軒の薬屋を廻った。
事情を話すと一様に首を傾げて、「薬はない」と言う。
俺が初めての症例だとは到底思えないのだが、みんな阿片と聞いて関わりたくないようだ。
どうしよう?このままあの世行きなんて最悪だ。



3:キャラメル超特急・プーケット

2007年06月12日 07:37

Sweet Candy Express


3.プーケット 


バンコックに夜遅く着いた。
空港からタクシーで市内に向かった。
運転手が話しかけてきた。
「よお、あんちゃん!欲しいもんあるならなんでも揃えるぜ。ヘロイン、マリファナ、ここから5分とかかんないとこにあんだ。安くしとくぜ」
カオサンまで」 
ここにはドラッグをだしに小銭を稼ぐハイエナがうようよしている。
彼らの餌食になった多くの旅行者がバンコック郊外にあるラジャオ刑務所に入っている。
ハイエナの餌食になるのはご免だ。 

出口がないのに食欲はあるはずがない。
この一週間、水とスープしか取っていないので最悪の状態だ。
冷や汗、悪寒、吐き気、ズボンのベルトの穴が三つ減っていた。
カオサン通り近くの安宿に泊まって、翌朝、薬屋を探した。

中華街に大きな薬屋を見つけた。
50前後の主人に事情を説明した。
お祈りに近い。
その間、主人は微動だにせず、石像のように無表情だ。
奥に消えた。
一言も発しなかった。
なんとなく落ち着かない。
なかなかで出てこない。
数人がそれとなく俺を見ている。
客か?そのようには見えない。
そして、奥に入っていった。
何かがおかしかった。
監視されているようだ。
店を出た。
通りの向こうはマーケット(市場)になっていた。
薬屋を窺った。
数分後、警察官が二人、店に入って行った。
アヘンと聞いて、警察に通報したのだ。
ここに薬はあるはずだ。でもどうしたら手に入るのだろう。

バンコックはなんとなく恐かった。
翌日、山根さんに教えてもらったプーケットへ行くことにした。
ツーリスト・バスがあるのを知らなかった。長距離の路線バスに乗ってしまった。
15時間の旅は座席が狭くてしんどかった。
食べ物、排気ガスのにおいに吐き気が襲ってくる。
ヴィニール袋に吐いた。
何も出てこない。
もうおまえには付き合いきれない。
体内の器官がそっぽを向いた。

翌朝7時前、プーケットに着いた。
薬屋を探した。
マーケット近くに一軒あった。
店が開くのを待つことにした。
薬屋の主人は中国人だった、、かなりのお年寄りだ、90近い。
バンコックでのことがあったので、raw−opium(生アヘン)とはっきり言った。
すぐに主人は透明の液体が入った2mLの小瓶を奥から持って来た。
「コップの水に2〜3滴落としてよく混ぜて、1日、2回飲みなさい。これは毒だ。それ以上飲んでは駄目だよ。体がもつのは5日だけだ。1週間以上やってはいけない。それで駄目だったら来なさい。私が医者を紹介してあげる」

カタビーチ行きの小型トラックに乗りこんだ。
薬と老人の説得力のある言葉に興奮していた。
もう10日も糞詰まりだ。
夢遊病者だ。
運ちゃん、4人の乗客が恐々俺を見ている。
誰も俺の横には座らない。
死に場所を見つけた病人が興奮してにたにた笑っている。
ラベルには《opium tint(オピアムティント)》と書かれていた。
毒を以て毒を制すということなのか。 

バンガローで飲んでみた。
コップに一滴落とした。
水面を這った。
広がった。
暗い部屋に日が差した。
光沢を持った輝きに水銀を連想した。
ひどい味だ。
いきなり胸焼けと吐き気が襲ってきた。

四日が過ぎた。
もう胸焼けと吐き気に我慢できない。
明日も駄目なら日本に帰ろう。
朝、フランス式のトイレ(傾斜をつけたコンクリート上に足台のレンガがある)に屈んだ。
気のせいかコンクリートの壁がいつもと違う。
削岩機を手に兵士が直腸に忍び込んだ。
削り始めたのか?

夕方、直径2cm、長さ3cmほどの細長い純白のペンダントがトイレ溝に横たわっていた。
馴染みの排泄した感覚がまったくなかった。
美しかった。
こんな綺麗なものがほんとうに俺の体内から出てきたのだろうか?
見たこともない白さだ。
光沢を持った薄い透明の膜が光っている。
いつのまにか暗くなっていた。
でも、明るかった。
暗闇の中、純白の光に見とれていた。

真夜中、またペンダントがあった。
終わったのだ。
2週間たっていた。
虫歯が痛かった。
こんなに痛かったなんて、、、  

3a:キャラメル超特急 

2007年06月13日 12:11

Sweet Candy Express



3a:プーケット


「歯が痛い」
「ハ、、、」
それだけだ、プーケットの歯医者が言ったのは。
5分後、奥歯が一本消えた。

好物の蒸しまんじゅうを買った。
瞬く間に8個減った。
喉元過ぎたら〜だろうか、満腹で苦しい腹をさすっていた。
新たに20個買った。

誰もいない貸しきりビーチで寝転がっていた。
乳児を連れた小川さん夫婦に出会った。
40過ぎのカップルで、旦那は顔色が悪い。
夫人が彼のスポークスマンだ、よくしゃべる。
「どこからなの?」
「ネパールです」
「ポカラの方には?」
「ええ、行きました」
「じゃあ、山根さんに会わなかった?」
「ええ、会いましたよ。知り合いですか?彼らにここを教えてもらったんです。いずれ来るとか言ってました」
「民芸品の買い付けうまく行ったのかな。私たちに何か伝言なかった?」
「いえ、何も。民芸品については今年はいいのがあるけど値段が高いとか言ってましたね。民芸品も出来、不出来があるんですね」
「あら、知らなかったの。民芸品の中に入れるもののことよ」
「え!」
「あら、知らなかったの」
「もしかしてハシシ、、、、」
「決まってるでしょう」
 小川さんが声を荒げて口を挟んだ。
「おい、お前!」
 夫人は話題を変えようともしなかった。
「この国には何でもあるから気をつけた方がいいわよ。特にバンコックではドラッグに手を出さないようにね。タクシー運転手、ホテルの従業員、通りで声をかけてくる人間を相手にしないようにね。ひどいめに遭うわよ。警察から賞金が出るからドラッグを売っておいて後で警察に通報するのよ。知らないうちにドラッグをバッグに入れられて填められた旅行者もいるらしいわよ。ここの監獄は悲惨なんだから。食事も自腹だし」
ここの監獄に入っていたのだろうかやけに詳しい。
「私たち、明後日、発つけどカタゲストハウスの201号にいるから遊びに来て」

翌夕方、小川さんのバンガローへ行った。
明かりは点いているのに声をかけても返答がない。
ドアが少し開いていた。
奥さんが乳児のバスケットに何かを隠している。
しばらくして表に出てきた。
二人とも完全にfar out(ぶ っ飛んでいる)して目が飛んでいた。
俺の頭にオウムが留まっているのか、不思議そうに彼女が見ている。
けだるそうに言った。
「明日帰るから山根さんに会ったらよろしくね」
「ええ、もし会えたら」
赤ちゃんが泣いた。
激しくなった。
二人は動こうともしない。
「泣いてますよ!」
彼らの動作がのろい。
待てなかった。
走った。
おむつに隠れて注射針が右の太股に刺さっていた。
振り返ると、目が四つある裸のマネキンが立っていた。
 
翌早朝、ドアを叩く音で目が覚めた。
小川さんが立っていた。
「ちょっといいか」
「ええ、」
「昨日は変なとこ見られちゃって。言い訳するつもりはないが、、実は、、、、この2年ヘロインをやってる。交通事故で腰を痛めて、、、痛み止めに、、、使い始めて、、、中毒になった。以来ここに来てはやってるんだ。その、、、、昨日のことだが、、、心配で。つまり通報されることが、、、」
「誰にも言いませんから安心してください」
「ありがとう」

彼らは昼前に出発した。
これからの一生を時間の浪費で終わらせないためにも、ヘロインから抜け出てもらいたかった。
赤ん坊をだしに、ヘロインを運ぶまで堕ちていないことを、、、、
 

3b:キャラメル超特急

2007年06月14日 15:21

Sweet Candy Express


3b:プーケット.


バンガローのレストランは満席だった。
ここに座らないか、60過ぎの白人の男が言った。
彼とは二日前にビーチで簡単な挨拶を交わしていた。
10代半ばのタイ女性があどけない顔で横に座っている。

食事中、俺たちの会話は弾み、話はあらぬ方向に行った。
彼はつい最近までマイアミ空港の警察官だったらしい。
「コロンビアからペットの犬が空輸されて来た。まあ、普通なら99%、到着した日に飼い主が引き取りにくんだがこのときは誰も来なかった。妊娠しているのか腹が大きくて元気がない。触るとこれがカチカチに固い。レントゲンで調べて見ると、何があったと思う?」
「、、、、」
「筒だ。何個も見えた。手術で取り出すと、緑、赤、青、ピンク、黒、色つき風船が約100個出てきた。合計1パウンド(453g)のコカインだった。死にかけていた犬の腹から鮮やかな色の風船が見えたときは、前衛のアートを見ているような、なんか奇妙な不思議な感覚だったな。コンドームに詰めて風船で包んでむりやり犬に食べさせたんだ」
「ひどいことを」
「犬はひどい拷問を受けたもんさ。翌日、馬鹿が犬を引き取りに現れたよ」
「その犬は?」
「ああ、、元気だ。仕事してる、空港でね。どこも引き取り手がなくて預かっていたんだ。たまたま麻薬犬として訓練したらこれが抜群にすばらしくてね。まじな話、体験からドラッグに怒りを感じているようなんだ。今じゃあ、マイアミ空港ナンバー一のドラッグ探知犬だ」 
「すごいな、それは!」
「マイアミに行ったことは?」
「いえ」
「マイアミバイスのテレビ番組を見たことあるかね。かなり古いが」
「ええ、イアン・ハンマー(Jan Hammer チェコの作曲家、キーボード奏者)のテーマ音楽ですね」
「テレビと同じで麻薬関連の事件ばっかりだよ。コロンビアのギャングに、カストロが80年に追い出した13万人のキューバ難民。その中には数千人のキューバの犯罪者が含まれていた。それに不法入国者が加わるんで麻薬が絡んだ殺人事件は解決しにくい。
犠牲者のほとんどが偽名で特定できないんだから当然だな。
指紋の写しをコロンビアに送っても音沙汰無しか、あっても一年近くかかる。
もう他の事件で手一杯でなにもできない。おまけに麻薬密売人から押収する登録されてない武器が多すぎて、過去の殺人事件に使用されたかどうか調べる弾道テストさえできない状態だ。
目撃者の大半は麻薬密売に関わっているから証言はまず無理だ。
仲間が恐いからラテンアメリカ系の容疑者が自白したって話は聞いたことがない。 パナマのノリエガ(パナマの軍司令官)がカストロと組んでハバナを中継地として麻薬事業をやっていたのは周知の事実だが、バハマにリンデン・オスカー・ピンドリングという男がいる。
実は、独立前からバハマの首相でおまけに英枢密院の終身顧問、英連邦諸国内で最も長く指導的地位にある人間だった。そんな人間がドラッグに深く関り合いがあった」
「首相がドラッグに?」
「コロンビアの組織から金をもらっている。選挙資金、献金とかの名目でね。バハマはハバナ以上に麻薬の積み替え基地として最高の所なんだ。14の島が基地になってるよ。ある島は武装した密売人たちが占拠し、ある島は彼らの持ち物だ。しかも警察、役人は金で買われている。その他、周りに大小合わせて無人島が約700、それに2000以上の危険な岩礁がある」
「バハマの島を?マイアミ空港は?」
「もちろん活発だ。ボーイング747で運ばれてくる。主にコカインだ。定期航空便のパネルの裏、頭部ノーズコーン、貨物輸送機だとランの積み荷の中とか木製の家具やワインに溶け込ませたりね。
70年代後半まではマリファナが主で巨大な貨物船でフロリダ近くまで運んでそこから高速ボートで沿岸まで輸送していた。その後コカインが飛躍的に増えた。ママリファナ・ギャングにコカイン・ギャングが加わった。今は飛行機で基地のある島まで運んでくる。それからは超高速船だ。 
フロリダ南部には、大小さまざまな入り江、湾、運河、水路、湿地帯がある。
沿岸パトロールに追われても彼らは危険な岩礁を利用して命がけで逃げるんだ。
時速100キロで水深60センチ以下の所をね。熟練した船頭にはわけないことさ。
彼らは4時間働くだけで1万から1万2千$稼ぐ。
追跡する俺達は一回の勤務手当が100、それから税金を引かれるんだよ。
命まで賭けて追うってのは馬鹿らしいよな。それに奴らは無線をうまく利用している。
小船は超短波のVHFをよく使うが、この船舶用バンドの周波数は72チャンネルある。
彼らは符丁を頻繁に使って傍受を防ぐんだよ。さらに航空用の720チャンネルの無線を使ったりもする。
しかもフロリダ南部には13万隻以上のレジャアーボートが登録されているから麻薬を積んだボートを探し出すのは不可能に近い」
「取り締まるのは無理ですか?」
「浪費だね。合衆国のマリファナは合法化して高い税金をかけたほうがまだいい。その税金で中毒者を教育すればいい。コカインは命に関わるから合法化には反対だがうまい手がないな」
食事中、連れの女性は終始にこにこしていたが一言も話さなかった。 
彼らが去った後、いつもは愛想のいいウェイターがやけに不機嫌だ。
「あのカップルは親子か?」
「金!!いい歳したおやじが幼い少女の体を買って旅行してんのさ!何週間もだ!彼女、何歳だと思う!まだ12だぜ!こんなことがあっていいのか!」
食べ物の残骸にまみれたテーブル布巾を二人が去った暗闇に思いっきり投げつけた。

12歳の少女の体を数週間もてあそんで旅行している元警官。
犬の腹にコカインを詰め込んだ馬鹿。
どこが違うのだろう。

翌日プーケットを出発した。
山根夫婦は現れなかった。 




4:キャラメル超特急 バンコク

2007年06月17日 13:05

Sweet Candy Express



4.Midnight Express・バンコク



バンコックに戻るバスでオーストラリアの旅人と一緒になった。
ビーチで数回見かけて挨拶はしていたが彼とは余り話したくなかった。
自分の思いつくままに喋って一人で悦に入る質だ。
絶えずどこか体の一部が動いている
落ち着けない。

プーケットを出て3時間後に止まった休憩所で、席に戻ると俺の座席隣に座っていた。
「いゃあ、あんたも乗ってたんだな。
あのタイ人に替わってもらった。
同じバスってのも奇遇だな。
え?バス旅は退屈だからあんたがいたんで助かったぜ。
カトマンズでジャパニーズには世話になったよ。
飯おごってくれて、おまけに大事なもんまで運んでくれた」
辺りを見回して小声で言った。
「大事なもんてのは何か分かる?
ハシシだよ。
一月前に成功したんだ。
カトマンズから運んだ。
いくらあったと思う」
「誰が乗っている分からないからそれ以上は話さないほうがいい」

夜中、うつらうつらしている俺に小声で話しかけてきた。
「2kだぜ、驚いたろう。
どうやって運んだかなんて聞くなよ。
独創的な、今だかってなかった方法だ」
「独創的?独創的な方法で運んだハシシか。
お笑いだな。その名前でも付けて売ったら」
「ああ、言われなくても考えてる。
あんた、どんな方法か想像できないだろうが」
「想像する?そんな馬鹿なこと考えたことないからな」
「ヒントをあげようか。俺は一番、安全ってね」
「他人の持ち物に入れて後で回収するんだろう」
「いい線いってる。
登山隊さ。
どこの登山隊でもよかったんだが、たまたまジャパンからの登山隊がいてな。
その荷物の中に2kのハシシが入った俺の寝袋を紛れ込ました。準備は大変だったぜ。
飛行機の出発日時。
彼らの荷物がどこに行くか。
まっすぐジャパンに行かれちゃあ笑い話になるからな。
それに寝袋を紛れ込ますタイミングとかよ。
寝袋に2kのハシシを上手く隠すのも大変だった。
俺たち白人には甘いんで正直なとこ登山隊がジャパニーズで助かったぜ。
アジア人、黒人、彼らには見る目つきからして違うのに白人には甘いんだな、あんたの国は。
それで助かったんだから俺にゃ文句はねえんだが。
その登山隊は国際協力隊だったらしくて税関の検査は簡単でな。
タイの空港で寝袋、抜き取った後すぐおさらばしたかったが飯までおごってくれてな。
え、お笑いだろう。
2kのハシシがフリーパスってんだからな。
とにかく至れり尽くせりでジャパニーズ様様だったぜ」
「2kのハシシなんて爆弾抱えているようなもんだろう」
「爆弾、、、、?ああ、言えてるな。
バンコックで何度か売ろうとしたんだが、、、、。
あるコネでサイアム広場のバーで取り引きすることになった。約束の時間は夜10時だったが偵察をかねて一時間早く行ったんだ。
ブランディをシャツにぶっかけ酔った振りしてな。
約束の時間、間際になって何かがおかしいのに気づいたよ。
暗闇で数人の人間が目配せしたり手で合図してんだ。
胸騒ぎがしてトイレに行って窓から噸ずらした。
出たとこが店の裏でな。
そこからお巡りらしいのが4〜5人、入り口に屯してるのが見えた。
恐いとこだぜバンコックは。
お前、知ってるか?
バンコックのドンムアン空港は私服のお巡りだらけだっての」
「まだ爆弾を抱えてるわけだ」
「メルボルンまで運ぶつもりだ」
 
2kのハシシに一生を賭けているような深刻な顔でバスの天井を眺めている。
成功したとしても、気苦労を思うとまったく御苦労さんだ。
わずかばかりの泡銭と捕まって馬鹿をみるのを比べても割に合わないのは一目瞭然なのに。

「もうジャパニーズの登山隊はいねえし。
陸伝いでマレーシアに行こうとチェックしたんだが難しそうでな。
マレーシアのぺナン空港までうまく運べたら国まで運ぶ自信はあんだが。
問題はあそこはヘロイン、2グラムで死刑なんだ。
ハシシなら2〜30年以上ってとこだろうな、、。
バンコックの空港からは自信ないし、、、」
「そんなに悩んでるなら捨てな。
メルボルンまで運んで売っても監獄に入る年数は遊んで暮らせないだろう」
「抜け道があんだな。
大人は2グラムで死刑だが子どもは罪になんねえ。
子どもに運んでもらうってのもあんだよ」

「馬鹿なことを!アラン・パーカー(Alan Parker)監督の『Midnight Express(深夜特急』って映画見たか?1970年にあった実 話を映画化した」
「いや」
「2kのハシシをテープで体に巻き付けてトルコからアメリカに運ぼうとしたアメリカ人旅行者の話さ。
そういゃあ、そっちも2kだったか」
 彼は真剣な顔になった。
「俳優のブラッド・デビス(Brad Davis)が主人公の役だったが名前は忘れた。
サングラスをした主人公がイスタンブール空港の搭乗待合室でニューヨーク行きだったかな、搭乗アナンスを待っている。
煙草をせわしなく吸ってびっちり汗かいてな。
バックに流れている音が心臓の鼓動でもう特急みたいな速さだ。
周りには百人以上の乗客がいて、誰が見ても彼が異常に緊張しているのが分かる。
彼は自分を落ち着かせようとトイレへ行くんだ。
テープで体に巻いたハシシをチェックした後、待合室に戻ると乗客は誰もいない。
あわてた彼は係員の制止も聞かず搭乗口を駆け抜けて連絡バスに乗るんだが、彼の挙動不審がセキュオリティの兵隊に怪しまれる。

連絡バスから飛行機に乗り込むとき、50人ほどの兵隊が待ち受けている。
乗客はタラップの前で体を触られ身体検査をされる。
 
彼の順番だ。
検査が終わるや、30以上の銃口を一斉に向けられるんだ。
彼が夜空に両手を突き上げる場面は圧巻だった。

当時、ハイジャックが多かったからテロリストだと思われたんだな。
兵隊は爆弾を体に巻いていると思った。
今にも発砲しそうな真剣な表情だ。

それがハシシだと分かった途端、みんなバカ笑いさ。
つられて主人公も笑う。
《なんだハシシ運びは笑えることなんだ》ぐらいに軽く彼は思ったっただろうな。
みんな楽しそうに笑ってるから俺もそう感じた。

しかし、そうじゃなかった。
彼の両親は金のかかる弁護士を雇い、アメリカ大使館はトルコ政府に働きかけた。
やれることはすべてやったが徒労に終わる。
一度、逃亡しようとしたからそれも加算されたんだが、結局、30年以上の刑を言い渡される。

監獄の中には数人のアメリカ人、ヨーロッパ人がいた。
みんな気の遠くなるような刑期を宣告されてもう屍さ。
彼らの心情を表わす言葉なんてない。

俺はそんなへまなんかしない、なんて言わないほうがいい。
ドラッグには成功もヘマもない。
どっちも割に合わないつまらないことだからな」
「で、最後はどうなるんだ!」
「それから5年後だったか、、、当時、一緒にトルコを旅行していたガールフレンドが面会に来る。
すべてを諦め抜け殻になっている主人公に彼女が強く言うんだ。
“ここをなんとしても抜け出さないと駄目だ”、ってね。

そのとき、彼女、金を巧妙に隠した家族の写真集を置いていく。
主人公は脱獄を決意する。
75年、看守を偶発的に殺して脱獄に成功する。
心身の傷、時間、多大な犠牲を払ってな。

たかがハシシがそうじゃないんだ。
決行する前に《Midnight Express》のビデオを見たほうがいい」
「《Midnight Express》の意味は心臓の鼓動のことか?」
「escape(脱出)の意味らしい」

翌朝、バンコックで悩めるオーストラリア人と別れた。
 
バンコックは巨大な排気ガスの街だ。
通りで見かける片足を上げたキックボクサーのポスターが脳裏から離れない。
落ち着けなかった。

3日後、バスでチェンマイに向かった。
想像していたとおりの静かな町並で寺院が多かった。
その多さは町の大きさを考慮するとバンコックの比ではなかった。

The end of a明日 .プロローグ

2007年06月18日 12:37

The end of a明日

医学的に治癒が困難な病の記述があります。
どうか、skipしてください。


概略

中学校を退学したシュシは音楽と環境問題にはまっていた。
元パンクで代議士秘書の勤と出会う。
勤の父親は要人外国訪問支援室長で機密費を横領していた。
その大半が政治家、官僚に渡っていた。
勤はそれらの情報をメモリーカードに記録した。
カードがどこにあるか、いずれ知らせると言い残して父親は亡くなる。
シュシはクルド難民の子で妹、薫と勤の為に何か出来ないか探る。
薫と美世の空気が同じだ、と勤は感じていた。






 プロローグ 
1:シュシ(種子)
2:レディ・レジ魔
3:薫
4:何も-natural
5:恵美
6:勤 - punk
7:環境会議
8:機密費
9:Temple
10:触れ合い 
11:続 触れ合い
12:美世
13:葛藤
14:闇の中へ
15:桜散る
16:マサコと恵美
17:桜三部咲き

登場人物

シュシ(種子):ミュージシャン
恵美:シュシの母親
薫:恵美の養女。
美智子:恵美の妹
チキータ:フィリピン人、薫の母親
ムスタファ:クルド人、薫の父親
松岡行俊: 外務省、要人外国訪問支援室長 
松岡勤:法務大臣、藤山克夫の秘書。行俊の息子
マサコ:勤の母
美世:勤の妹
狂人(キョウト):勤のパンク仲間
藤山克夫:法務大臣  
武藤隆:外務省、事務次官
斎川俊行:外務省元北米一課長、現在内閣官房参与。
田中五郎:米大使
恋済十郎:総理大臣
山本邦明:外務大臣

(要人外国訪問支援室は既に廃止され、外遊先の担当部局が対応している模様)

全てフィクションです。





プロローグ


環境保護団体
[The end of a明日]

シンボル曲、スキーターデイヴス(Skeeter Davis)のThe end of the world 

太陽はどうしていつもあんなに輝いているの
どうして波はいつも浜に打ち寄せてくるの
知らないの、この世界は終わりの

なぜ鳥さんたちはあんなににぎやかなの
なぜ星はいつも光ってるの
知らないのね、もう世界は終わりなのよ

でも、まだ、
何も変わっていない
どうなるの、これから

わたしの心臓は動いてる、
生きていたいのよ
涙もそうよ、
なのに、なぜ世界が終わりなの、

さよなら、と地球さんが言ったから
ただ、それだけ、、
わたしたち、何をした?
、、、、
もしかして、、、、
わたしたちが、、
傷つけたからなの?




会の活動 
1:スーパーで買い物レジ袋をもらっている人がいたら、袋持参を問題が起きない程度に半強制的に薦める。
2:不必要と思われる外灯を消して回る。
3:なるべく、車に乗らないようにする。
4:捨て猫、犬を保護する。
5:魚屋の魚類、苦しんでいるようなら川、海に放す。(極力、魚屋さんの理解を得るよう努力する)
6:4000cc以上の車のタイヤをパンクさせる(ハイブリ  ッド車を除く)

その他、会員、活動内容、募集中。



自分が独りでやって、、も
何が変わるの、、、

でも、それは愚かな考えだった。
私はのうのうと生活しているのに、
もう既に環境で苦しんでいる人たちがいる。

明日のエコではもう地球を救えない。
もう、バンドエイドでは救えない。
私たちは地球が再生できる量の、
20%も多く自然を消費している。
地球上、すべての人間が、
私たち、金持ち並みの生活をするには、
地球が5個も必要なの。

これって、
欧米スタイルの、
私たち、
金持ちライフスタイルが問題なの?
もう私たち先進国は指導する立場にないのよ、
自分自身が問題なのに。

私たち金持ちのために、
貧しい人たちは食料を供給し、
そのために生態系を破壊され、、、
病気になり、
私たちが当然のごとく受けている
医療施設、薬もなく、
死んでいく。

世界平均で37キロ、
貧しい人たちは一桁、
アメリカでは3倍の110キロの地球資源を、
一人が1年で消費しているのよ。

地球の20%が、
世界人口の1/3が、
一日、1$以下で生活しているのに、
地球の約半分が、
1日2$以下で生活しているのに、
日々の糧を一部の人が独占していいの?
分かち合えれないの?
せめて、、、、地球があるうちに。

経済成長、、、って何?
利益以上にコストがかかるのに、、
何が経済なの。
経済拡大のため、
その資源はどこから来るの?
ゴミはどこに捨てるの?
経済成長って、、
有益なものと有害なものをつくることなの?
不経済成長じゃないの?

ある島で、
唯一ある木を切ったそうです。
みんなは言いました。
もうカヌーは作れないじゃないか。
経済学者は言いました。
仕事だよ、大事なのは。
その内、テクノロジーが解決してくれる。
傲慢なアメリカ人、ヨーロッパ人、日本人は言います。
おれの木だ、、自分の木を切ってどこが悪い。

もう、駄目なんです。
みんなの価値観を変えなければ、、
駄目なんです。
価値観なんて、、、、、、
そんな言葉さえ、、、
もう陳腐です。

何をやっても遅いんです。
、もう、、遅いんです。
でも、、
今やらないと、

美樹
新太郎
美咲
大二郎
、、、、
子どもたちが
、、


テレビでは、

パレスチナで、
ファタ派とハマスの内紛ですって、
国を造りたいならイスラエルに向かって行かなければいけないのに、、

年金問題、、
自民党って、
もう何年、政権にいるの?
なぜみんな投票するの?

イラク、、
世界がアメリカの言いなりになって、
もう何年、、、
世界は平和になった?

ミスター地球が笑いながら言ってます。
また、お笑いで時間潰しているな。
人間って、やっぱ馬鹿だ。
みんな、俺がどうなるか知ってんのに、
もう、今の俺はホスピスで死を待っているのに、
何もやらない、
やろうとさえしない。
人間は馬鹿だと思いたくないんだ、
心底、馬鹿なのに。
無能だと思いたくないんだ、。
心底、アホなのに。
人間は夢が好きなんだな、
でも夢ってなんだ。
地球はもう駄目だから、
月に住むことなのか?
まだ、この期におよんでも、
テクノロジーが全てを解決してくれる、、、
信じているの?
本当に?
救いようのない馬鹿だな。
宇宙に行くより、
海の底に住むのがまだ現実的だとわからないのかね。

みんな、
現実を、、、、
見たくないの、
聞きたくないの、
関係ないの、
今の生活の質、落ちるなら、
生きててもしようがない。

俺の
私の、
生きている間
もてばいいわ、
もっててくれれば、
もつさ。

だから、、
だったら、、
だからこそ、
私たちは宣言します。
”The end of a明日”
を創設して闘います!




お詫び

活動、6のタイヤのパンクは、
当初、何かをしなければ、、
と焦燥を感じて付け加えましたが、
個人の権利、自由の侵害、まして管理という、
私たち会員が一番忌み嫌うものでした。
人々の共感を目的とした、
この運動にはそぐわないと
会員、全員一致で削除を決めました。

なお、会員が既に2台の車のタイヤをパンクしました。
ご迷惑をおかけしました。
申し訳ありませんでした。
“The end of a明日”で
弁償させていただきました。
我々、会員一同、心から謝罪したいと思います。

(現在、パンフレットがうんざりするぐらい残っています。
次回のパンフレットから削除いたします)

(inspired by" The Planet" by Charon film)


The end of the world
(Written by Arthur Keat, Sylvia Dee)

Why does the sun go on shining?
Why does the sea rush to shore?
Don't they know it's the end of the world
Cause you don't love me anymore?

Why do the birds go on singing?
Why do the stars glow above?
Don't they know it's the end of the world
It ended when I lost your love.

I wake up in the morning and I wonder
Why ev'rything's the same as it was.
I can't understand, no I can't understand
How life goes on the way it does

Why does my heart go on beating?
Why do these eyes of mine cry?
Don't they know know it's the end of the world?
It ended when you said goodbye
Don't they know know it's the end of the world?
It ended when you said goodbye.






1: The end of a明日 シュシ

2007年06月20日 16:33

The end of a明日



一. シュシ(種子)


カレン・カーペンターの声が特に好きだった
いつも自分だけに歌ってくれた
彼女は一番前で歌いたくなかった
どうしても自信がもてない
自分を守るため、、
必要だった、
囲いが、
柵が、、、、
だからドラムを叩いた
ドラムが、、、守ってくれた
カレン・カーペンターが好きだった。




シュシが学校に行かなくなって3か月が経った。
母、恵美はその理由を知っていたので何も言わなかった。
自分で解決してくれればいいけど、
容易にできるとは、、、。

13歳の夏、始まった。
シュシは字がきたないのを気にしていた。
字をきれいに書きたいと、
教則本を買って勉強していた。

学校から帰ってきた。
いつもは冷蔵庫を開けて大好きなプディンを探すのに、、、
目も合わさず無言で自分の部屋に向かった。
「シュシ、どうしたの。何も言わないで。
あなたの好きな、三毛猫の三色プディン買ってあるわよ」

5分が経った。
彼女の部屋をノックした。
応答がない。
「シュシ、いるんでしょう。入るわよ」
泣いていた。
「どうしたの、泣くなんて、いつものあなたらしくないわね」
「お母さん、字が書けなくなった、、、」
「何を言ってるの?書いているじゃないの?」
「書けない。手が震えて動かないの、、、」
「書いてみなさい」

おかしい。
指、手が小刻みに震えている。
鉛筆の芯が動こうとしない。
動かせない。
力が入りすぎている、
鉛筆が震えている、
あれ、、肘から、、、

時間をかけると書けた。
一つの線を書くのに、2,30秒。
直線には、、どうしてもならない。
曲線は書けなかった。
「シュシ、力を入れて書いては駄目よ。
これまでやっていたように書いてみなさい」
「やっているわよ。でも、、駄目なの」
「これまでのように何も意識しないで書いてみたら」
「意識しないで、、って、、、無理よ。
鉛筆持った瞬間から右手がおかしいのよ」
「力抜けない?」
「、、、、、」
「さあ、一緒に深呼吸しましょうか?」
「駄目よ!やったんだから。手を自由に動かせないの」
「鉛筆はいつもそのように持っていたの」
「分らない。どうやって持ってたのか、、、そんなこと気にして持ってないわ!」

シュシは広告用紙の裏の白紙を利用して書きなぐっていた。
一日、1時間以上も。
自分なりに解決しようと一生懸命努力していた。
見ていて可哀相だった。
出来るなら代わってあげたかった。
これまで無意識でやれたことが、急に出来なくなった苦しみにもがいていた。
「一生懸命、字をまねて書いていたの、、
急によ、、手が動かなくなって。
戸惑った、、あれ、、、って。
でも、、いくらやっても手が動かない!
動かないのよ!
お母さん!
本当に書けなくなった、、、」 

無意識でやれたことを意識して治せるのかしら。
どう修正したらいいのか解決法がわからない。
原因はわかっていた、、。
力を抜けばいいの、、右腕の。
でも、、どうやって。
鉛筆をもった途端、力が入っている。
シュシは気の遠くなるような時間をかけてあらゆる方法を試していた。
鉛筆を持つ位置、寝かす角度、
手と接地面との角度、
肘の位置、手のひらの接地具合、、
いろいろやっていた。

ただ、時間だけが通り過ぎていった。
鉛筆を持つ位置を変えるだけで数か月、
上手く行かないのでやり直して数か月、
翌日になると、昨日どう持っていたのかも忘れていた。
他の方法も効果がなかった。
稀に、右手の力が抜けることがあった。
「お母さん、ほら、上手く書けた。
力が入らなかった!」
その感覚を忘れまいと、
記憶に残しておこうとしていた。
手を一生懸命マッサージしながら、。

翌日、鉛筆を持った途端、泣き出した。
「昨日はただ手が麻痺していただけなのよ!」

悲しいぐらい努力した。
鉛筆を持つ矯正用ゴムを使ったり、
左手で書こうともしていた。
当初、左手は力が入らないとひどく喜んでいた。
それも、あきらめたようだ。
夜半泣いていた。
左手にも力が入った、

字を書こうとしなくなった。
快活な子だったのに。
成績は落ちた。
答えはわかっているのに書けないの、

結局、シュシは中3になった春から学校へ行かなくなった。
担任の先生は心配してくれたがどうすることも出来なかった。


学校に行かなくなって、
それまで薫とやっていた活動にめり込んでいった。
それと、並行して、
《Beat’em》(奴らを打ち負かせ。em=themは自らのinferiority(劣等感)を意味する)というバンド名でライブハウスで活動を始めた。一人だけの ONE-MAN band だった。
すべて自作自演の曲でパソコンで作ったギター抜きのオケに、ライブでギターをはめ込んだ。
歳に似合わず、60、70年代初期のロックが好きで、
ギターは、デュアン・オールマン(スライドギターの名手)、
ジミ・ヘンドリックス(ギタリスト)の影響を強く受けていた。
日本人では尾崎豊が好きだった。
早世したミュージシャンにしか興味が持てなかった。

彼等は、みんなすごいことをやっていた。
生み出しているものの偉大さに気づいていなかった。
エアポケットに入っていた。
ただ,邁進した。
僅か数年で、普遍なるものを生み出し、作品が彼等に代わって生きつづけている。
凝縮した塊が、体を生贄にして弾け永遠となる。
シュシは、憧れていた。
普遍的なものを生み出す力、時間は限られているわ。

5:キャラメル超特急 黄金三角地帯

2007年06月21日 11:12

Sweet Candy Express



5. 黄金の三角地帯 チェンマイ

 
13世紀にメングライ王がここに王国を作って以来、19世紀後半までビルマ族、モン族との争奪の地だった。
そのため、ビルマ族、タイ族、カレン族、メオ族、アカ族、モン族、シャン族の人々が住んでいた。
チエンマイは国際都市だった。
 
二日後チェンライへ行き、そこを拠点に2週間ほど三角地帯に行った。
マエチャンを回りそこから往復6日かけてバンポングまで行った。
マエサイまで行きたがったが、これ以上行くなと兵隊に止められた。
ここら一帯はラオスの共産軍、阿片畑を君臨するクンサの軍隊などでピリピリしていた。

そこからアカ部落へ行った。
車の通らない山路を彼方からこだまする銃声を聞きながら歩くほど心細いものはない。
周りは一面けし畑だ。
途中、肩から古そうな銃をぶら下げた数人とすれ違った。
銃身は剥きだしの木で餓鬼の頃使っていたくたびれた野球バットを思い出した。

入り口ゲートが、子孫繁栄のため性器の形をした部落に着いた。
頼んで泊めてもらった。
高床式の家に案内された。
床は板張りで一、二センチ間隔に隙間があって約2m下に地面が見える。
40前後のおやじさんが、隅のござで横になって阿片を吸っていた。もう長く生きそうもない。
頭痛薬の白い粉をどす黒い樹液に混ぜ、びんに入った石油を数滴たらした。
粘り気を出して吸いやすくするためだ。それを手にとって捏ね、適当な硬さになったところで丸めて針金の先に固定してランプの炎で焼いた。
それを竹パイプに詰めてジュ、ジューと音を出して吸っている。
「アメリカ人、オーストラリア人がよく来るよ」
 彼はとろんとした顔で天井に話しかけた。
 
ここにいる間、おやじさんは阿片の入った喫煙用具を枕元に置いて寝転がっていた。
女性のお年寄りはたくさんいたが男は見えなかった。
阿片で寿命を減らすのだ。
 
ここの女性は、ツイッギーより早くミニスカートを着ていたらしい。
確かに濃い青の綿を織った短いスカートを履いていた。
上半身は長袖のジャケットで、竹の帽子からリスの毛、犬の毛、鳥の羽、ビーズ、インドのシルバー・ルピーなどが垂れている。
祭りで着飾っているのだろう思っていた。
それが普段着だった。
生活は楽そうには見えなかったが、彼らの笑い声と笑顔は絶えることがなかった。


翌日の夕方、見るからに疲れはてた旅人が二人同宿した。
一人は若いカナダ人で名をアランと言った。
もう一人はカラチで会ったロシュトーだった。
一瞬、目が合ったとき目を逸らした。
俺に気づいたようだ。
そ知らぬ振りを装っていたので敢えて話しかけなかった。
彼らのバッグ、靴、ズボンには泥が乾燥してこびりついていた。
数日間、睡眠を取っていなかったのか、頬は窪み、疲れ切った顔をしている。
二人は食事の後、挨拶もそこそこに寝袋に入った。
 
翌朝、チェンライに戻ろうと荷造りをしていると、一緒に行こう、と精悍な顔付きに変わっていたアランが出し抜けに言った。
心細かったので喜んで申し出を受けた。
ロシュトーは目に隈を作って冴えない顔をしている。
彼が右足を庇っていたので俺たちは彼の歩調に合わせた。

アランはすれ違う人々にときたま話しかけていた。
「餓鬼の頃カレン族の知り合いがいてビルマ語を習った。
アカ、ラウ、リス、モン族とは片言だけどな」
彼は奇妙な話をした。
「ユンブリ、またはムラビって聞いたことは?」
「いや」
「この三角地帯のどこかにいるらしい。
ここらの山岳民族にも余り知られていない奇妙な種族だ。
噂では彼らはメオ族しか信用してないらしい。
10人ぐらいで移動し、一か所にとどまることがない。
木の葉の寝床を造り、二、三日して黄色になる頃、移動するので《Spirits of the yellow leaves(黄色の木の葉の精)》とも呼ばれている。
面白いのは彼らの唯一の関心事がサヴァイヴァルなんだ。
《ただ生き延びる》それだけだ。
その意味では世界で最も原始的な種族といえるかもな。
ここには虎が生息しているので、彼らと食いつ食われつの闘いをしていると噂されていたんだが、最近、誰も彼らを見ていない。トラの餌食になったのだろうといわれてる。

ここ三角地帯は小数の種族が無数に群居している世界でも不思議な所だ。
山岳民族に、1949年に蒋介石の国民軍の一派や共産主義を嫌うモスレムの中国人が逃げ込んできた。
カレン族を知っているか?タイ、ビルマ国境に住んでいる約28万ぐらいの部族だ。 
6〜7世紀に中国から来たといわれているがはっきりしない。

おもしろいのは彼らにはクリスチャンが多い。
独自の言葉、習慣を持ち、ビルマ政府と独立闘争をやっている。
19世紀、英国とビルマが戦争したとき、カレンは英と共に戦ったぐらいだからビルマ政府とは犬猿の仲だ。
第二次大戦が始まる1941年頃までイギリス植民地政府は、多数派のビルマ人を抑え込むため少数派のカレン族を優遇して軍人や警察官に採用した
。だが戦争が始まって日本がビルマを占領してからは一変した。
日本に武器供与を受けたアウン・サン将軍を指導者とするビルマ独立義勇軍は、カレンをイギリス側につく敵だとみなしてカレン人を虐殺した。
犠牲者は1000人以上だともいわれている。
戦後、ビルマ人の独立運動が興ったが過去のいきさつからカレンは自ら独立する道を選んだ。
 
1946年にカレン民族運動の指導者、ソ・バウジーは英に渡り支援を訴えた。
だが当時の英アトリー政権は将来の権益確保のため多数派のビルマ側に寝返った。
当初カレンは平和的手段で分離独立運動をやっていた。
しかし1948年に独立したビルマ政府はカレンに対する弾圧を強めていった。
指導者は逮捕され、カレンの村はビルマ軍に襲われた。
やむなくカレンは1949年に武器を手に立ち上がった。

一時は、首都ラングーン近郊まで迫ったが、約四ヶ月あまりの激戦の末、米、英の武器弾薬の支援を受けたビルマ軍によってサルウィン河流域からタイ国境にかけての地域まで追いつめられた。
以来、ソ・バウジーの死や組織の乱れ、兵力の衰えなどでゲリラ戦に活路を求めざるえなくなった。
 
1976年に他の10の小数部族とNDF(民族民主戦線、THE NATIONAL DEMOCRATIC FRONT)を組織して、ネ・ウィンのビルマ政府と戦っていた。
形勢は好転しなかった。
ビルマ政府に反対する学生が逃げてくるようになってますます政府の圧力が強まりタイ側に押されている状態だ。

たまたま俺は餓鬼の頃からカレン族の女性、ラムを知っていたんでカレン族の独立を手伝ってる」
「カレン族の独立?」
「金を送ることぐらいしかできないが、、彼女は俺が昔いたトロントの孤児院で働いていた。
この東洋の女(ひと)のおかげでここまで生きてこれたと思っている。
俺は餓鬼の頃からかなり悪だった。
10にしては体はでかかったし喧嘩は強かったんでトロント中のお巡りが俺を知ってたぐらいだ。
毎日、喧嘩を求めて歩いてたよ。
ポリスに捕まるたびに誰も身寄りがいないんでしかたなくラムの名を言った。
真夜中だろうが、雨が降ろうが、雪が降ろうが、俺を引き取りに来てくれた。
説教、小言、何も言わず。
部屋に着くといつも食事を作ってくれたよ」
「そのために、喧嘩してたんだな」
「そうじゃない!、、、、、、、、、、、、夜中の2時を過ぎてたが、あのクリスマスイブの日も喧嘩して彼女を呼んでもらった。
俺の一番嫌いな時期で街中が舞い上がってた」

アランは言葉を無くした。
遙か下の斜面に拡がるひょろひょろの坊主頭のけしが、風で波打つ様を眺めている。
彼の目は心なしか潤んでいた。
「四時、五時になっても彼女は来なかった。
そのときにはもうラムは死んでたってえのに!
馬鹿な俺はてめえのことしか頭になくて拗ねてた!」

彼の涙が見えたのか、けしは一斉に頭を下げて不安定に揺れた。
アランはしばらく遠くへいった。

そして、「勝手に喋って悪かった」と言った。
「構わなければ続きを聞かしてくれ」 
ロシュトーもその先を聞きたがっているのが見て取れた。
「夜明け前、パトカーで病院へ行った。
ラムはベッドで寝ていた。
頭と耳に血がこびりついていた。
お巡りが酔っ払いに轢かれたと言った。ここに来るまで俺の名を呼び続けてたってな。
俺が、、、俺がこんなんじゃなかったら、と思うと、、、、、、、、、」

5a:キャラメル超特急

2007年06月21日 17:55

Sweet Candy Express



5a. 黄金の三角地帯 


彼女の身の回りのものを整理してくれと大家に頼まれて彼女の部屋にしばらくいた。
表紙に《コートゥーレイ》と書かれたノートが出てきた。
日記帳だった。 
1947年、10月6日、彼女がカナダに着いた日から始まっていた。
コートゥーレイってのはカレン人の独立した国の意味で、花咲く大地、平和に満ちた土地、って意味もあるらしい。

彼女の親父さんは、ソ・バウジーの片腕として外務大臣の仕事をしていた。
1946年、ソ・バウジーと共に独立を支援してもらおうと英に渡ったが無視されたので英連邦の国々に働きかけようとした。
当時、ビルマ政府はカレン族を武力弾圧し始めていたので、カレン族の存在を世界に認知させる外交活動が急務だった。
1947年,親父さんは香港経由でカナダへ向かった。
健康に不安があったので17歳の娘ラムを連れていった。
しかし、バンクーバーに着いて5日後、心臓発作で亡くなっている。

彼女はカナダにとどまり父親の遺志を継ぐことを選んだ。
一生懸命やったようだが、初めての国で独りで投げ出され限界があった。
《父が一月長く生きていたらすべてが変わっていた》と日記にあったよ。
親父さんはカナダで信頼できる人々、その他すべての情報を頭の中だけに残していたんだ。
ビルマ政府が親父さんを監視していたんでラムの安全を考慮したんだろうが。
 
親父さんの死後、彼女はカナダ外務省に何度も足を運んだが徒労に終わる。
1950年にソ・バウジーがコーカレイ山中でビルマ軍に包囲され非業の死を遂げてからは門前払いを食ったようだ。
カレン族に関わりあってもメリットはないと判断したんだろうな。

以来、わずかな金をカレンに送って彼女は独りで生きてきた。
俺は彼女がやっていたことを継ごうと決心した。
それからバンクーバに移って大人になるのをひたすら待った」
「何歳だった?」
「11。175cmはあったからバンクーバーで職探すときは18と言っても信用してくれた。
学校へは行かなかったが建築現場で働きながら図書館に通って、知識、情報を仕入れた。
争いごとからはきっぱり足を洗ってな」
「今何歳だ?」
「21」
「、、、、」
「老けてると言いたいんだろ。いつも言われるよ」
「で、今回ここに来たのは?金を持ってきたのか」
「いや、その金蔓を取りにな」
「金蔓?」
「カレンは他の部族と違ってヘロインには一切関わってないんだが、それなりにルートがここの山岳民族にある」
「ドラッグ?」
「雲南省の純度四度のヘロインをカナダに運んで金を作ってカレンに送ってる」
「ドラッグを売った金を送ってるのか?
そこら普通の旅行者とは感じが違うし、ドラッグには興味ないように見えたんで冒険家かなと思ったが危険なことをやってるな。
捕まったら手助けも何もないだろう。
なぜ俺にそんなことを話した?」
「生後すぐ孤児院の前に捨てられこれまで独りで生きてきたんだ。誰が信用できるかぐらいは分かる」
「運びはどのくらいやってる?」
「2年」
「19からか」
「物心ついたときからこの世界のすべてに興味がなかった。
生きててもつまらなかった。
いつも死ぬことを考えてた。
カレンの独立を手助けしようと決心したとき、生まれて初めてここに留まる理由を見い出した。
あのときはラムを殺した苦悩と初めて生きる目的、理由を得た、興奮、喜びで頭がこんがらがった」
「何故、他の手段で金を得ようとしない。
金以外のことでカレンのためにできることがあるんじゃないのか。
自分はいつ死んでもいいようなことを言ってるが今までの境遇を拗ねてるように聞こえるが、、」

いきなり何かが飛んできた。

目を開けると誰かが覗き込んでいた。
顔がおかしい、俺の顔じゃないようだ。

濡れたタオルが顔に乗っていた。
左目の辺りが少し腫れているのか触ると熱い。
口の中が切れたのか血の味がする。

「悪かった。許してくれ」
 アランに殴られたのか。
「相手を間違えるな」
「申し訳ない。手が、、、許してくれ」
 
顔を冷やしたかったが水筒には飲水一杯分しかなかった。
躊躇しているとアランは自分の水筒を空にしてタオルに浸して俺の顔に当てた。
「もう動きたくないんでここで野宿する。ここで別れよう。聞いたことは忘れたんで心配しなくていい」
 独りになりたかった。
他人に関わるのはもううんざりだ。

道路脇の草むらに横になった。
二人は立ち去ったのか静かになった。
 
時間がたつにつれますます顔が腫れぼったく感じた。
何度か顔がひんやりとした。 
タオルに自分の残り水を浸した。
また腫れたようだ。

少し離れた所にロシュトーが横になっているのに気づいた。
さっき何度か顔がひんやりしたのは、彼がタオルに水を浸してくれていたのだ。
「ジャパニーズ、どうだ。痛むか」
「ああ、痛い」
「あんたとはいろんな所で会った。こんな所で会うとはな」
「俺はラジギールで数年ぶりに日本の友達に会ったことがあるよ」
「あんた、カシミールのアミールを覚えているか?」
「アミール!」
「思い出さないか。ラシッドは? アミールから皮のチョッキを買 っただろう」
「どうして知ってるんだ!」
「あんたがラッドとアミールの家に来たとき俺は3階の屋根裏部屋から見てたんだ」
「アミールの家にいた!」
「ポカラの糞詰まりはどうだ。
あんたがトイレで屈んでいたとき、あんたの懺悔をトイレの壁越しに聞いてたよ」
「俺を追ってたのか!」
「そっちが俺を追ってると思ったのさ。
とんだお笑いだ。
あんたとあのヨーロッパ人をインターポールだと勘違いしたんだからな」
「イギーのことか。
そうか、やっと分かった。
ボンベイの空港で写真を見せられた」
「俺の?」
「ああ、まだ若い顔をしてたが。
何をやった?」
「アクション・ディレクト(AD)って聞いたことは?」
「仏の過激左翼組織だな」
「メンバーだった。だから追われてる」
「過去形だな。もうテロは止めたのか」
「、、、」
「なんでヨーロッパのテロリストがこんな所に?」
「いいか、ジャパニーズ!
これからは俺をテロリストと呼ぶな!
その言葉には辟易してるんだ」
「破壊活動をやってるんならテロリストだろう」
「俺は警鐘の意味でしか爆破しない。
あくどい政治家、環境破壊企業の門、庭、塀それらしかな。
人を絶対に殺傷しない。
正義に反する奴らを懲らしめたいだけさ」
「元テロリストのせんづりか」
「ジャパニーズ、言葉には気をつけろ。
アランに借りがあるんであんたには何もしたくない」
 
ロシュトーは俺の顔から乱暴にタオルを取ると、自分の水筒を逆さにしてわずかの残り水をタオルに浸して、俺の顔に無造作に置いた。
「アランに借り?」
「カレンに捕まっていた俺を助けてくれた。
カレンはカシミールと同じでヨーロッパの国に俺を売って点数を稼ごうとした。
俺も同じことをやっただろうが、、」
「なぜここに?」
「ヨーロッパじゃ捜査が厳しくて身動き取れないんで一時的な避難場所確保にな。
ADのメンバーに頼まれた。
カシミールとここ、話は聞いてくれたがてんで相手にされなかった。
俺を捕まえてヨーロッパ諸国に差し出したほうがプラスだとさ。
2週間あまり独房に監禁されていたとこをアランが掛け合って助けてくれた」
 

濡れたタオルの冷たさで目が覚めた。
「どうだ、まだ痛いか」
 
朝日を浴びたアランの顔が俺を心配そうに覗き込んでいた。
しばらくして昨日のことが頭に浮かんだ。
顔を触ると少し腫れを感じる程度で痛みがなかった。
「薬草があるんだ。腫れがひいてよかった」

彼の目を見て昨日、一睡もしていないのが見て取れた。
彼は近くの部落に水と薬草をもらいに行っていたのだ。
改めて顔を触ってみた。
手に付いた薬草を嗅ぐとヨモギのようなにおいがした。
ロシュトーがやけに固いパンを一切れ俺にくれた。
口に含んで左の前歯が半分欠けているのに気づいた。

一時間後、俺たちは出発した。
ロシュトーの右足はひどく悪そうだ。
幾度となく立ち止まった。
アランの話では、ジャングルで数人の追剥に狙われたらしく逃げる途中、足首をひどくひねったらしい。 
歩けない元テロリストをこんな山路に置き去りにする気は毛頭なかったので、俺たちは嫌がる彼に肩を貸して歩いた。
「足手まといになるからかまわず先に行ってくれ。
それに俺の写真が出回ってるかもしれんのでな迷惑かける」

ここまでロシュトーは寡黙だった。
このときだけ困惑したような顔で同じことを何度も言った。

三日間、行動を共にしていてなんとなく俺たち三人に連帯感が生まれていた。

翌朝、出発前にアランが唐突に言った。
「今日の午後あたりバス停に着く
。実は今、最高級四度のヘロイン、50gを持っている。
マエチャンに入る手前に軍の検査があるからバス停の手前で別れよう。
違うバスならなんてことはないんだが、もう2時のしかないから同じになる。
俺は知らんぷりするから赤の他人ということで通してくれ。
俺は出発間際に乗るから」
「検査があるのを知っててこのルートを選んだのか?」
「いつもはメー・ホーンソーン(チエンマイの北西、380kの山あいの町)に抜ける。
カレン族が近いからな。
今回は追剥に行く手を阻まれてこのルートになった」
「ヘロインをここで捨てる気は?」
「ない」
「ヘロイン50なら、何年刑務所だ」
「30から40かな。
だが実際のとこ、2gで23年、40gで15年ってのもあるから分からん」
「まったくよくやるよ」

アランとバス停、手前1kの所で別れた。
俺たちはバス停に着いた。 

竹の帽子をかぶったお婆さんが石の上に座って、直径3cmもある巻煙草を吸っていた。
巻紙に糊が付いていないのか、煙草の真ん中を輪ゴムで留めてあった。
目は2m先の地面に吸い込まれている。
瞬きもせず見つめている。
彼女の想いが煙に乗り移って宙に消えていく様に俺たちは見とれていた。
ここらは煙草の葉の生産地でもあった。

「ビルマにはどこから入った?」
「カンチャナブリ(バンコック西、約120kの町)の先の何だったか、スリーパゴダだったか。
そこら辺りだ。
金はかかったがな」
「アランの話ではマエチャンでパスポートのチェックがあるらしい。そこらは大丈夫なのか」
「ビルマは密入国だ。
タイに居たことになってる。
俺の顔が出回っていない限り問題ないと思うが」 

バスは1時55分に来た。
停留所で待つ乗客は7人に増えていた。
出発間際、アランがバスに乗ってきた。
彼は真ん中あたりに、俺たちは一番後ろの座席に座った。

1時間半後、マエチャンの町はずれでバスが止まった。
自動小銃を持った2人のタイ兵が厳しい目つきでバスに乗り込んできた。
バスの出入り口、2ヶ所にも数人の兵隊が立っている。

運転席横の入り口から乗客を入念にチェックし始めた。

2:The end of a明日 レディレジ魔

2007年06月22日 16:35

2:レディ・レジ魔



声をかけるのはシュシの役目だった。
どんなにせがんでも薫には絶対にやらせなかった。
見張りをやってもらった。
もう近くのスーパーには行けなかった。
セキュリティカメラのせいで、すぐに警備員が飛んできた。
60を過ぎた高齢の人が多かったので素直に従った。
分らない様にやってね、と言ってくださる方がいた。

姿が見えない。
「シュシ、この前の警備員の伯父さんいないよ」
「休みかな」

警備員が来た。
「君達、買い物かね」
「ええ、、」
「お客様にレジ袋強制しないで欲しいんだ」
「悪いことやっているとは思っていません」
「シュシ、今日はよそうよ」
「川口さん、首になったんだよ。
あんた達のせいだ!
上がカメラで見てたんだ。
この前ここに来たでしょう?
あんた達が立ち去らなかったんでさ、、
川口さん上に呼ばれたんだ。
ばれたんだよ。
川口さん、分らない様にやって、、と言ったんでしょ?
善人ばっかじゃあないんだよ。
会社にゴマするのもいるしさ、スパイもいるんだ。
よく、考えてよね。
川口さんも俺達も生活があるからさ。
環境もいいけどさ、生きてくのに精一杯なんだ!
もう、仕事がさ、、無いんだよ!
川口さんの年じゃあ」

それ以来、指示には素直に従った。
一度追い出された所へは2度と行かないようにした。
スーパーが家から遠くなっていった。

「シュシ、あの感じの悪い叔母さん、トライする?」
「よし、ちょっと恐そうだけど、、がんばるぞ。
薫、見張り頼むよ」
「OK、今日は、野良猫のピコちゃんで行くよ」

4種類の猫の鳴き声を使って、薫が危険度を知らせた。
危険度の高い順に、ジュネ、チーター、天、ピコ。
ジュネは三毛猫で声はニャアーオー。
チーターはアメリカンショートで、ニーオ。
天は白黒の日本猫でニャン。
ピコは野良猫で、低音で小さくニオだった。

「こんにちは、環境保護の活動をしています。
これから買い物をするときは必ず買い物袋を持参するようにしていただけませんか?
些細なことでも、少しずつ皆が環境問題に関わって実践していけば、未来の子ども達は空気も水もきれいな生活ができる可能性が広がります」
「あ、、ごめんなさい、そうね。
いつも買おう、買おう、と思っているのに、、つい、忘れてしまって、ええ、早速買うわね。
ありがとう。がんばってね」
「あああ、、ありがとうございます!」

「薫、大成功よ」
「恐そうだったのに、拍子抜けね。
シュシ、次はあの、優しそうな感じのいい女(ひと)、どう?」


「ああ、環境問題ね。
自然でしょう。
人のせいじゃないわよ。
買い物袋、関係ないと思うけど」
「そうでしょうか?
私達が今の生活をしていると30−50年後には深刻な問題、、、この地球が再生不可能になる、、」
「悪いけど、私、忙しいのよ。
他の人に言って」
「1分だけ下さい。
お願いします。
もう既に地球は自ら再生できません。
私達が壊したからです。
今、瀕死の状態です。
再生できるレベルまで環境を戻してやらないと地球は元に戻れません、、
今、私達がやれ、、」
「待って!
忙しいと言ったでしょう!
何を言ってるの?
何の権利があって私に指図するの。
買い物袋?、、
もらえるのに何で持ってこなきゃあいけないの」
「自然を守るためには私達、一人一人が何かをすることから始めないと、この空気さえ、、」
「うるさいわね。
私の勝手でしょう。
自由でしょう。
なんで、あなたみたいな青二才に指図されないといけないの!」
「今の私たちの生活を続けていくと将来、悲惨なことになります。
食べるものはあっても汚染され、皮膚はただれ、高い酸素、毎日買って、密封した家で生活している自分の姿を想像して、」
「私が100歳も生きると思っているの?
もういないの、そんな世界にはおさらばしているの。
私の知ったことではないわ!」
「子ども達がいます!
少しずつでも皆が生活の仕方を変えれば、、それが不便でも、」
「いないの!
私、子ども嫌いなの!
今の生活は変えない!
あなたの知ったことではないわ。
今の生活捨てるぐらいなら死んでもいいわ!」
「それって、叔母さん、あなたは人間であることを放棄したのよ」
「あなた、
言葉に気をつけなさいよ。
叔母さんって何よ。
誰が叔母さんなの!
他人に言われたくないわね!
それになんて言った!
人間であることを放棄した!
まあ、ひどいことを!」
「人間は先が読めるわ。
叔母さんは自分に都合がいいことしか見ないのよ。
都合の悪い情報は否定するの。
理解しているのに考えないようにしているだけ。
動物は裏がないわ。
叔母さんは、人間の顔した、ただの生き物よ」

薫がシュシの肘を引っ張った。
7、8人、の買い物客が見ていた。

「この子は!
人呼ぶわよ!
誰か!
来てください!
誰か!」
シュシは捨て台詞を吐いた。
「叔母さん、怒れるのね。
それはね、自分の手で生き物、殺してないからなのよ。
無意識に私達、人間が集団活動で実際は殺してんのよ!
だから、何でも言えて、馬鹿テレビ見て時間潰せんの!」
「まあ、、許さないはよ!!!!
この子!
何の権利があって私に文句言うの!
私がテレビ見て何が悪いのよ!
誰か!!
誰か!!」

警備員が追ってきた
シュシ、薫、出口に走った。


なんとか、逃げ切った。
「シュシ、言い過ぎたね。もめたね」
「うん、あのくらいしないと。
でも、あれだけ言っても同じ。
変らないよ。
だからいいの。
ああいう人にはもっとひどいこと言っていいのよ」
「シュシ、大丈夫。最近イライラしてるね?」
「うん、、、、、、どうしようもない」

シュシが苦しんでいるのを薫は知っていた。
話題を変えようとした。
「今日は30人、皆、適当に怒ったね」
「でも、2人いたよ。
すぐ、レジ袋買ったよ。
今日の成果は30人で2人、、15分の1ね」
「あの恐そうな女、びっくりするぐらい素直だったね」
「面白いね、いろんな人がいて」
「5千万人の内で、仮に、社会保険庁みたいに計算して、1/15が買ったとしたら、え、、とね333万、、、シュシ!333万よ!
これすごいよ」
「今日30人で2人でしよう。
今までの合計すると730人、で買ってくれた人が今日2人だから27人。
4パーセントいかない」
「でも、進んでるよ。少しだけど」
「よし、薫、後、一人やろう。
ヨーカードーにしようか。
まだ、ここ来てないから」
「私にも一回やらせて欲しいな、ね、シュシ」
「駄目。
薫は見張りで充分役立ってるよ。
入管とか、何かあったら大変なことになる。
お母さんに怒られる」
「、、、、、」
「がっかりすな、薫。今度は男にしようか。
恐いから避けていたけどやってみる価値あるわ。
買い物してる男意外と多いよ」
「そうだね、、いいかもね、
今まで会員も男恐がってやってないよ。
やってみようか、意外と上手くいくかもね。
大人しそうなのにする、、それとも恐いの?」
「意外と逆が多いんだよね、女は。
男も同じかな」
「恐そうなのは恐いよ。
女と違って純だから男は顔に出ると思うよ」
「言えてる。
それって、女を武器にできるかもね。
私の美しさで迫ってみるよ」
「少しはにかみ屋で、若い子に声かけられて、ダラーッとする伯父さんなんかいいんじゃない」
「よしやろう。
薫、見張り頼むね」
「さっきみたいに怒っちゃ駄目よ」
「OKよ」
「今度はジュネの“ニャアーオー”にするよ。
聞こえたらすぐ止めてね、約束よ」


「あのう、地球環境のために買い物袋持参していただけたら、子ども達も幸せに、」
“ニャアーオー”の泣き声が聞こえてきた。
薫が両手を高く上げて罰点をしている。
警備員が二人、走ってくるのが見えた。

ああ、駄目だ、薫と離れ離れになってしまう。
もう一人の警備員が少し離れて携帯で話している。
「君達、申し訳ないが、お客様にレジ袋を強要するのやめてくれないか」
「なぜでしょう?
何も悪いことはしていません!」
「シュシ、怒らないで」
「君達、もうこの業界では知られているんだよ」
「え!」
「君達の顔写真入り手配書が大手スーパーに配られているよ。名前まであるんだ、レデェ、出島、、ってね」
「本条さん、デジマじゃあないですよ。
“レジ魔”ですよ。“レディ・レジ魔”」
「そう、それなんだよ。
君達がやっていることはよく分る。
でもお客さんの苦情があってね」
「本条さん、見えましたよ」

スーツ姿の男が走ってきた。
「お、、君達か、、有名なレディレジ魔は。
ここの副支配人の茂山です。
我々は非常に困っています。
苦情です。
お客様に喜んで楽しんで買い物をしていただきたい。
楽しい気分が、、君達の出現で最後に壊れる。
非常に困ります。
当社は本腰を入れます。
レジ袋の有料化は勿論すぐやります。
買い物袋をくじ引きで差し上げたり、とにかくやっていきます。
ですから、もう、君達は活動を止めていただきたい」
「シュシ、、、」
「真剣に会社が取り組んでいただけたら」
「環境は大事だ。
地球上、すべての人に降りかかる問題だからね。
我々企業も真剣に取り組まなければいけない」
「すべての生き物、植物です。
人間だけでは駄目です」
「シュシ!」
「、、、、そう、そうだったね。
地球上すべての生き物、植物、、」
「お願いを聞いていただけますか」
「何?」
「販売している買い物袋のデザインを変えて下さい。
今のデザインは駄目です。
子ども、大人、皆が地球を大事にしなければ、と切実に思うようなデザインに。
もっと、刺激的な、とてつもなく強烈なものにして下さい」
「そう、、そうですね、それはいい考えだ。
分りました。努力します」

薫、企業が真剣に取り組むって、、あんまり期待できないね。


3: The end of a明日 薫

2007年06月23日 10:26

3:薫



シュシはよく真夜中、薫、恵美に隠れて密かに外出した。

ある日、お巡りさんが来た。
「お宅に、シュシって子がいますか?」
「はい、娘ですが、何か?」
「証拠はないんですが、目撃者がいまして、、
隣町で車のタイヤをパンクさせたようなんです。
最近、このパンクの事件が結構ありまして関連がないか今、署で聞いています。
お母様でしょうか?」
「はい」
「ご足労願いませんか?」

かなりの数の被害届けが出ていたようだ。
証拠がなくて大事には至らなかった。
真相は分らない。
シュシは自分がやったとは最後まで言わなかった。

シュシは、千枚通しをビルの花壇、墓地の墓石脇、店じまいした看板裏、数ヵ所に隠していた。
使用した千枚通しはすぐ捨てた。
用意周到だった。
通行人を装ってタイヤを刺すだけ、簡単なことだった。

捨て猫、犬を見ると必ず連れて帰った。
もう100人どころではなかった。
里親を探して、今10人の猫が住んでいた。
魚屋さんで苦しんでいる魚を見るとその場で買った。
ロブスター、大きな魚のときは、魚屋の店主に譲ってくれるよう頼んだ。
到底無理な話で、買っては、近くの川、海に放した。
運送会社に頼んで海まで運んでもらうこともあった。
いつも頭を撫でて、さよなら、と言った。

丁度、字が書けなくなった頃と、制服警官の訪問が重なったので恵美はひどく心配した。
薫との会話や友達との電話で環境テロという言葉を何度か耳にしたので末恐ろしく感じた。
「シュシ、約束して欲しいの、薫を巻き込まないで。
もう充分、小さいときから苦労してきたから、何かあったらどうしたらいいのか」
「わかってる」
「お願いよ」



薫は恵美の養女だった。
4歳と8ヶ月で宙に投げ出された。
母親は不法滞在のフィリピン人、
父親は難民申請を却下されつづけ、悪名高い西日本のある入国管理局センターで病死した。
父、ムスタファはトルコに住む少数民族のクルド人だった。
彼はオーストラリアへ行こうと、入国ビザを必要としない日本に来た。
しかし、ブローカーに渡す金が底をついて動けなくなった。

(トルコは推定、約1500万人居住している少数民族の権利、存在を建国以来、認めていない。
クルド人の旗を掲げただけで弾圧、迫害の対象になる。
日本にいる難民は、国連難民高等弁務官事務所(UHRCR)による難民認定があるにもかかわらず、政府(法務省、外務省)が難民と認めないために、日本政府の難民認定がなければ日本以外の国に行けない。
政府の本音は、目障りな難民を追い出したい。
自発的に出て行ってもらいたい。
無理な話だ、金も行く所もない難民には。
その環境作りに税金を使っている。

迫害を受け、生命を脅かされて逃げてきた難民をその国に平気で送り返すこともやる。
これまで何度かそうしてきた。
監獄に入れられようが、殺されようが他人事だ。
自分に火の粉が降りかからない限り関係ない。
それが、今の日本の難民政策だ。
唯一、国際社会の目だけが機能している。
政治家、我々国民の反応は鈍い。

UHRCRで難民認定されているので強制退去はできない。
難民申請者が仮放免申請を何度しても却下し、入国管理局センターに長期収容する。
彼等はいつ出られるのか分からない状態で絶望、病気、精神障害に陥る。
刑期を終えたら出れる犯罪者のほうがまだましだ。

どんなに遠くても、仮放免中の難民の家族全員は
月、一回の入管出頭が義務となる。
家族全員となると金がかかる。

日本人には彼等の苦悩がいかほどなのか想像すら出来ない。
外務省、法務省、政治家、裁判官、一応、表向き良識ある人達までもが、難民に対しては異常なほど厳しい。

日本で生まれ育った2歳の子どもに、強制退去命令を出せる国なのだ。
もし、そういう境遇に自分が陥ったら、、、
関係ないか、、、日本人なんだから)


薫の母親のチキータはフィリピン人だった。
ムスタファと結婚して薫が生まれた。
不法滞在のフィリッピン人とクルド難民の結婚、
アジア、アフリカの人には特に厳しい日本では想像もつかない困難を生み出した。

薫が生まれて3年後にムスタファは亡くなり、
チキータは途方にくれた。
そのとき、恵美の妹、美智子に出会った。

チキータの住まいの近くの保育所で美智子は保母をしていた。
チキータは仕事を探していた。
もうお金がなかった。
しかし、幼い薫がいたので動けない。
役所はただ迷惑そうな顔をして相談相手にもならない。

その日、役所帰りに、たまたま子猫と出会った。
久しぶりだった。
猫が本当に好きだった、、
この数年、それさえも忘れていた。
無意識に後をつけていた。
可愛い三毛猫だ。
4、5か月ぐらいだろうか、無心でついて行った。
薫も興味を持ったのか、
歩く、と駄々をこねた。
手をつないでいっしょに後をつけた。

なんとなく奇妙な子猫だった。
すばしっこい。
見失った、
と思っていたら、いつまにか次の路地横にいた。
座ってこちらを見ている。
ついて来ているか確認している。

まあ、どこに行くのかしらね?薫ちゃん
ついて行こうか?
う、、うん!

そういうことが、3度、、4度になった。
どこかに連れて行きたいようよ、薫ちゃん。
ずっとついてくよ!
そうね、ついて行きましょうね?

それが、、6,7度になった。
チキータは確信した。
どこかへ案内しているんだわ。

子猫は建物の前で待っていた。
ああ、、、ねーちゃん、、あそこ、。
そうね、薫ちゃん、待っててくれてるね。

私達を確認すると、
柵の隙間から中へ入って行った。
子どもの声がした。
保育園だった。

女性が入り口に立っていた。
こちらを見ている。
子猫が、横に座っていた。
ああ、、ねーこちゃん!

「こんにちは、お子さん何歳?」
優しい声だった。
涙が出てきた。
今まで、日本人にこんなに優しい声で、、、
「ええ、4歳に、」
涙が止まらなくなった。
「さあ、中にはいりましょう?」
彼女は何もかも知っていたように話した。
私が困っていることも、
どうして?

「ここにお仕事があります。園児の食事を作ったり、その他、雑用です。散歩、昼寝、などの。お子さんもお母さんと一緒にいれるし。ここで働きませんか?」

それも半年と続かなかった。
美智子とチキータは園児8人を連れて散歩に出た。

その時にかぎって薫の歩みが遅い。
幾度となく、一番後ろで立ち止まっては空を見たり、
周りを必要以上に見ている薫に目を遣った。

どうしたの、薫ちゃん、今日は?
何が見えるの?
きょろきょろ周りばかり見て、
皆について行けないの?
さあ、行きましょうよ。
ほら、皆、待ってるよ。

その時だった。
チキータと恵美子は、薫の後方に一台の車が猛スピードで走ってくるのが見えた。

即死だった。
薫を含め、園児8人はかすり傷一つ無かった。

あの二人、車に、、僕の、、車に、、飛び込んできたんです!
運転していた二十歳の若者は駆けつけた警官に何度も同じことを言った。



恵美は、一人残された薫を養女にしようと外務省に足を運んだ。
日本生まれなのに、不法滞在の母、難民の父、ハードルは高かった。

薫は日本生まれですよ。
どうしても勝手に出て行ってもらいたいようですが。
行くところがないのです。
日本という国は、強制退去させるための口実を探して、難民を受け入れる気はさらさらないじゃないですか。
収容所には白人の欧米人はいなくてなぜアジア、アフリカ系の人ばかりなのです。
彼等を最初から犯罪者として決めつけているのです。
差別でしょう。
白人になんでそんなに甘いの、まだ劣等感を持っているのですか?
最後の言葉で外務省の役人は怒った。
本音を言われると怒るのが人間です、、とも言ってしまった。

恵美はめげなかった。
薫を養女にする、それだけを考えた。
何度も外務省に足を運んだ。
利用できるものはなんでもトライした。
特にマスコミを積極的に活用した。
こういうことを報道しないマスメディアなんて存在価値がないと。

簡単にことは進まなかったが、約一年後、法務大臣裁量による在留特別許可が取れた。
その間、入管当局による面接調査を数え切ないほど受けた。

年齢制限があった。
6歳未満だったので恵美の養女として認められた。
もし、そうでなかったら、、認められたのだろうか。

シュシ、どうか薫を巻き込まないで。




6:キャラメル超特急 Wild World

2007年06月25日 10:41

Sweet Candy Express


6.Wild World



兵隊がアランに近づいた。
心臓が爆発しそうになった。
彼のパスポートと荷物を調べ始めた。

立ち上がって声を出した。
兵隊が刺すような一瞥を俺に投げた。
大きなあくびを装って腰を落とした。

兵隊がアランを通り過ぎて俺の所へ来た。
徹底的に調べられた。
おかげで、ロシュトーは簡単なチェックで終わった。

「どこに隠してた。てっきり見つかったと思った」
「あのへんてこな声はなんだよ。
笑ってしまった。
ここだよ」
ズボンのベルトを指した。
幅が広くて厚い、、でも、普通のベルトだ。

それは薄い4枚の牛皮で出来ていた。
その間にくぼみ、へこみが生じないようにヘロインは均等に敷かれていた。
麻薬犬対策用のにおい消しの石鹸がそれぞれの皮の間に擦り込まれている、と言った。
「荷物はチェックされるが着ている服まではなんらかの情報がない限りしない。自然体でいれば何も問題ないよ」
平然と言った。 

翌日、バスでチェンマイに着いた。
アランはここに一軒家を借りていたので、途中、ワローロット市場で野菜、肉を買って彼の家へ向かった。
旧市街北東のPing River(ピン川)を越えたCharoenrat Rd (チャロエンラット通り)の外れにあった。

通りから20m程入った奥まった所に、竹藪に囲まれた、半分崩れかかったった小さな家があった。
家賃は年、100$。年に約2か月間、ヘロインを仕入れに来るときだけ使用していた。

15畳と8畳ほどの板張りの空間がピン川に向かって広がっている。
ろうそく立て、寝袋、バックパック、数冊の本、ラジカセ、テープが片隅に転がっていた。 
土間に炊事用の釜、バーナーなどのキャンプ用具が見えた。
アランがインスタントコーヒーを煎れた。
ロシュトーは独り8畳の部屋で横になってピン川を眺めている。

「今までに何回運んだ?」
「6回かな」
「兵隊にパスポート、顔を覚えられてないのか」
「トロント・マフィアにコネがあって、バスポートは本物で毎回、違う名だ。
仮に同じ兵隊に当たっても外国人の顔を見分けるのは難しいだろう。
仕入れ先もカレンの仲間が前もって調べてくれてるんで問題ない。
同じルートは2回以上使わない。
虎に出くわすこともあるが、山中を数週間トレッキングするのが気にならなければルートはいくらでもある。
その点はほぼ完璧だと思ってる。
しかし最近、情勢が変わってきた。
ここには2人の麻薬王がいた。
クンサーが生産、ラオ・スーがヘロインの精製、販売を担当していた。
俺は彼らから仕入れていないが、2年前、ラオ・スーが殺されてバランスが微妙に変化してきた。
世代交代だな。
今はビルマ側にいるワ族の共産主義者・アエ・ビの天下だという話だ。
タイ政府は軍隊を投入して、ケシ栽培を果物、野菜、コーヒーに替えるよう山岳民族を指導しているが、それを嫌ってアエ・ビの共産ゲリラに入ると聞いた。
相手が共産主義者だからタイの軍隊もぴりぴりしているよ。
今回、俺が狙われたのもどうもそれと関係があるようだな。
ここでは極力、地元の人間と接触しないようにはしてるが、、」

アランがカセットにテープを入れた。
キャット・スティーヴンス(Cat Stevens)のWild World(困難な世界)だった。
「キャット・スティーヴンスか?」
「よく分ったね。彼を知ってる人は珍しいよ」
「お前こそよくこんな古い曲知ってるな。
いつ流行したか知らないだろう」
「70年初期だろう、Wild Worldは」

アランが部屋の隅の蝋燭に灯をつけた。
いつのまにか暗くなっていた。
「お巡りに連れられ病院に行ったときこの曲が鳴っていた。
出るときもかかっていた。
繰り返し繰り返しかかってたんだ。
この曲になぜか頭に来て、どこで鳴らしているのかお巡りの制止もきかず探した。
分からなかった。
大きな病院なのに俺とお巡り以外、誰もいなかった。

外に出ると景色が一変してた。
今、雪が降りやんだって感じで真っ白だ。
朝日が当たってきらめいていた。
3〜40分前に着いたときは降ってなかった。
気象庁に聞いたら、降らなかったそうだ。
病院にだけ降ったんだろう、ってお巡りは言った。
その時、気づいた。
一度だけ、、、
ラムとマクドナルドに行った。
雪が降ってきた。
瞬く間に一面雪化粧になった。
その時、この曲がかかってた、、」

ピン川の暗闇に、雪景色を見ているようにアランは呟いた。
「でも、30,40分で30cmも積もるかな、、」 

ロシュトーが俺の脇で横になっていた。

「この曲はそれ以来、忘れてた。
俺はこの曲知らなかった。
ラムは好きだったんだろうな。
気になって探したんだが見つけ出せなかったんだ。
5年ほど前バンクーバの建築現場で仕事していると、
いきなり塀越しにこの音が飛び込んできた。
『Oh,baby,baby,it's a wild world』
のところで全身に稲妻が走った。
仕事を放り出して音を追いかけた、、
と同時に後ですげえ音がしたんだ。
振り向くと俺が今まで立って仕事をやっていた、
その場所に、5トンはある鉄骨が
砂煙をあげて横たわっていた。
音を追いかけて走り回ったが、、
やけに強い風が吹いてるだけで
辺りには誰もいなかったよ。

そのときは気づかなかったが、
後でこの曲が俺を助けてくれたんだと感じた。

真剣に探した。
キャット・スティーヴンスの名を知った。
彼のことを調べたよ。
変わった生き方をしていた。
アイドル歌手から出発して20そこそこで、
もう大金持ちになっていた。
何度も生死をさ迷った、病気、自動車事故、、
マリブで溺れ死にそうになったとき祈った。
“神様、助けてください、
もし助けてくれたらあなたのために働きます”

以来、新しく生き返って、数多くのヒット曲を生み出した。
七〇年代終わりに、音楽産業から足を洗って
イスラム教に改宗した。
名前をヨセフ.イスラムと変えた。
ギリシア正教の出だったが、溺死事件以来、
禅、瞑想、あらゆることをやった。

稼いだ金を殆どユネスコに寄付した。
今も、アフリカ、アジアの飢餓、孤児のために活動している。
最近、音楽に戻ったようだが」
「、、そうか、、、、不思議な話だな。
メッセージを送ったようだな」
「これ以外にもある。
三角地帯をトレッキングしていると
突然。聞こえてきた。
藪に身を潜めた。
軍隊がすぐ脇を通って行った。
この曲は警報、注意、
そこを出来るだけ早く立ち去れ
というメッセージなんだっておぼろげに分かった。

2年前、トロント空港で搭乗しているとき、
飛行機の中で突然スピーカーからWild Worldが鳴った。
胸騒ぎがして乗らなかった。
4時間後に墜落した、って聞いた」

4:The end of a明日 何もーnatural

2007年06月25日 18:08

4:何も〜natural



勤は目が覚めた。
まだ、2時だ。
1時間半しか経っていない。
眠れなかった。
最近また吸い始めたマルボロを探した。
見つからない。
親父とマルボロが頭の中を走りだした。
無造作に頭を落とした。
マルボロの箱がつぶれた。
フィルターだけがかろうじて原型を留めている。
指で弾いた。
葉がシーツに散った。

朝刊が郵便受けに落ちた。


外務省は報償費(外交機密費)支出文書を開示する気は毛頭無かった。
再三のNPO情報公開市民センターの要請を突っぱねた。
外交に支障をきたす、国の安全の根幹に関わると。
NPO情報公開市民センターは不開示処分取り消しを求めて訴訟を起こした。

その頃、外交機密費を天皇誕生日祝賀レセプション費用、
高級ワイン、絵画の購入費などに当てていたとする、
内部告発文書が出回った。

当然、地裁は認めないと信じていた。
そうはいかなかった。

外交機密費(報償費)の支出文書を全面開示するよう、
外務省に命じた。
支出対象に関する基準や運用のあいまいさを批判し、
公にしないことを前提とする外交活動以外の支出に関するものが相当数あると推定できる、と認定した。

ショックだった。
これまで上手く隠蔽してきたのに。


朝刊の週刊未来の広告記事に大きな字で、
機密費に関する支払い明細流出、とあった。

近くのコンビニに走った。

高級料亭、寿司店、ふぐ店、銀座高級クラブ、ガソリン代などの明細、
それと、クラシック、オペラ好きの恋済首相のチケット購入代金30万が含まれていた。
恋済首相の私的流用の疑いが出てきた。
勤が一番懸念していた首相外遊の際の明細に関しては
何も記述されていない。
しかし、外務省主流派が業務上活動を隠すために機密費を使っていた疑いがある、とあった。

携帯を取った。
「お父さん、」
「勤、、どうした、こんな時間に」
「お母さんは、、」
「寝ている」
「眠れないの?」
「ああ、、」
「今、週刊、未来読みました」
「何があった?」
「報償費の明細が流出したそうです」
「何!で、支援室のことは!」
「いえ、ただ、外務省主流派が業務上活動を隠すために機密費を使っていた疑いがある、とありました」
「、、、、、そうか」
「雲行きが怪しくなってきました」
「どうしたらいい、お前の意見を聞きたい」
「お父さんが持っている情報を整理しましょう。どう転ぶか分らないから」
「危険ということか?」
「用心のためです。情報はすべて書いてある、って言ってたよね」
「ああ、メモ、紙切れもあるが、、すべてある」
「メモリカードにでも保存する。小さくしておいた方が、」
「そうか、、」
「父さん、、命を狙われてもおかしくないよ」
「、、そうだな、、、2週間ほど時間をくれるか?
母さんには気づかれたくないんで、、夜中しかできない」
「そんなにかかるの?」
「メモが4冊、それに紙切れに書いたのがかなりある、、、」
「できるだけ早く頼むよ」
「分った」
「お父さん、近いうちにそっちに行く。仕事帰りにピックアップするよ」



ライブハウス、Temple(お寺)にようこそ!
ここは、お寺なんだけど、ただのお寺じゃないよ!
天が空にpull(引っ張る)してくれる、
宇宙認定、宇宙遺産のライブハウスだ!
じゃあ、、Beat’emのシュシ!

わああ!!!!!

やあ、皆、元気で何より、、、
Beat’emのシュシ!です。
ワ!!!!!
この前、叔母さんにこっぴどく撲られて、もうブルー一色よ!
みんな!!慰めてくれーー!!!
やあ!!!!
じゃあ、、行くぜ!!!


何もーnatural

いまーーやりたいことは何!

いゃあーー!!

何もーやりたくなーいなんて
こたえられないーー
でもーーそれがーこたーえよー 
なあーーーにもーやりたーーくなーーい

いぇえええ!!!

よどんだーーそらのしたの昼寝
スモッグのーー中を走るーーじょがー(jogger)
あなたがいればーーさいこう――なんて
きみがいればーーなーにもいらなーいなんて
かわいいーことーばも
ロマンチックなことばんかーーいらない

うまいものをーたらふく食べーても
その日の夢はーいつも食べれるーー夢
痛さにめざーーめるーーそうさー痛いのさ
求めれーば求めるだーーけ
欲しくなれーばーーー欲しいーーだけ
なくなーーってく

何もやらないことが 
とーーってもnatural
何もしないでーーー!!
natural!!!!

幸せをーー求めれーば求めるーだけ
遠―――ざかり
すがればーーすがるだけ
まわりは見えないーー
そしてー
行き、止まーーり

何もやらないことが 
とーーってもnatural
何もしないでーーー!!
natural!!!!

今―やりたいことは、なに――
なーにもやりたくないーー
はっきり言えるよ!
それがーこたーえーなのさ!!

わああ!!!!


シュシ、薫、“The end of a明日”のブログをチェックした。
現在、活動会員、7人。
創設以来、4ヶ月でいろんな問題が出てきていた。
メールを見た。

1・こちら、アトムより
「電柱に登って余分な外灯を消しました。
成功。でも、落ちてしまいました。
アトムになりたかった。足、骨折、3ヶ月。
電柱は高いので規約から削除検討を、、
むしろ、消費電力のいい、
電球型蛍光灯に買えるよう働きかけた方がいいと思います」

2・ブルースカイです。
タイヤ、パンク見つかってしまい大目玉を食いました。
田舎なので、もう、変な目で見られて困っています。
タイヤはちょっと、過激なのではないでしょうか」

3・蛙の元気です。
レジ袋、もう活動できません。
近くにスーパーがないので電車で松本まで行ってます。
成果もはかばかしくありません。
何か、他に効果的な方法がないかと思います。
テレビで見ましたが、昔、フロンもハロンもオゾン層を破壊するとは知らなかったそうです。
それをスカンジナビアかどこかの映像で破壊状態をテレビで流したそうです。
それがフロン、ハロンの禁止に繋がったそうです。
そのような映像を上手く使えたら広く伝えることが出来ると思います

4.猫の大目玉です。
魚屋さんと喧嘩になりました。
お陰でボーイフレンドの耕太と仲が悪くなりました。
耕太の家は魚屋です。
苦しんでいる魚の解放を頼んだのですが相手にしてくれません。親父さんに言われました、
耕太と付き合ったら容赦しないと。
困りました。難しいです。
お魚はいいんじゃあ、ないでしょうか?

5・アンジェリーナよ、
あたしがこの活動を始めて3ヶ月が過ぎました。
感じたことを書きます。
この活動は意義が大いにあると思います。
でも、聞いてくれない人が大半です。
正直、悲しいです。
問題点があります。
個人の価値観を管理しているような錯覚に陥りました。
私たちの活動は個人の価値観を管理しようとしているのではないでしょうか?
もう、ほっといた方がいいのではと思います。
自業自得です。
でも、メッセージだけは伝えないといけないと思います。
その方法を真剣に考えましよう。
それが出来たら、もうほっといてそれぞれに任せるしかないと感じています。

「シュシ、このメール見るがぎり皆悩んでるね。
限界があるんじゃないかしらって」
「皆で話し合う必要あるね。続けるかどうかも含めて」
「でも、あの副支配人のような人も居るって知って少し元気になったよ」
「薫、甘いよ。
企業には何も期待すんな。
彼も何もしないよ、真剣になれないよ。
売り上げとか、利益求めるでしょう、必要以上に。
これでいい、、って限度が無いもん。
地球環境に悪いことは一切しない、
という企業が普通になればいいね。
そんな企業が出てきたらいいんだけど」
「そうね、、じゃあ、ミーティング、
1週間後の10時にしようか。
ブルースカイはskype(無料インターネット電話)に入ったのよね」
「そう言ってたよ」
「じゃあ、皆にメール出しとくよ」

5:The end of a明日 恵美

2007年06月26日 13:21

5:恵美



恵美はシュシの書きかけの詩を台所のテーブルで見た。
いつも自分の部屋で書いていたのに
こんなとこで、、珍しい。



もう心行くまで楽しんだでしょう
もういいでしょう
それぐらいで
夜空の星、、
少し前までは
まだ見えていたのに、、

限りがないのね、
いたずらに貪欲なのね
これでも
気がすまないの
すべてが過去のものになるのよ
焼き尽くしたいの


「シュシ、これ、、、、、ごめんなさい、
あなた、忘れて寝てしまったでしょう」
「あ、、、」
「ちょっと、見てしまったんだけど。
あの詩はどういうつもりで書いたの?」
「レベルの低い、ただの言葉の集まり。
お母さん、深く考えないで、、
私がいなくなればいいなんで考えてないから」
「なぜ、そういうふうに言うの?」
「だって、そう感じたから聞いてるんでしょう?」
「う、うん、、。
種子がどうこうじゃなくて、、あれは地球環境のことなのかなと思っているけど」
「恵美ちゃん!分ってんじゃん!」
「茶化さないの。
あなた、夜半、よく出かけているようね。
責任もって行動するのよ」
「分かってるわ」
「あのタイヤのこととは関係ないんでしょうね」
「恵美ちゃんは心配しないで、責任持つから」
「答えになってないわね」
「ええ、、関係ないわよ!」
「あなたは苦しんでいる、学校へ行けなくなった。
私があなたなら同じことをやる。
ただ、そのことで何も引きずってもらいたくないの」
「引きずる?」
「前ほど明るくはないわ」
「字は関係ないよ。それだけ年取ったのよ」
「ええ、そうね。
ただ自暴自棄になるとか、そういうふうに自分を追い込まないで」
「そんな時間なんてないよ」
「もし、悩んでいることがあったら、言ってくれる。
どんなに悪いことをしてても、お母さんはあなたの味方になるから」
「え、、、、それって、、人を殺しても、、」
「理由があるんでしょう、、、」
「危険よ、それ。
理由がなくて発作的に殺したらどうするのよ」
「あなたを生んだのは私よ。
だからあなたの罪は私の罪。
そういう意味で味方だと言ったの」
「、、、、、、」
「字は時間が解決するわ」
「はい、分ってます」

「一つ頼みがあるんだけど、怒らないで聞いてくれる」
「、、、、、」
「あなた、今、字を書くの避けてるわね」
「ええ、避けてる!」
「シュシ、怒らないで聞いて、、ね。いい?」
「どこが悪いの、
だって書けなのよ!、、、、」
「社会には申請しなければ手に入らないものがある。
戸籍謄本、履歴書、、パスポート、、銀行口座の開設、、、
生きていくうえで、否が応でも字を書かなければいけない状況が出てくる」
「お母さん、何を言いたいの!」
「どうだろう?
お母さんが麻痺で字が書けなくなったらシュシに書いてもらいたいの」
「何を言ってるの?
麻痺なんかしてないじゃないの?
縁起が悪いこと言わないで!薫がいるわ!
何を言ってるのよ!もう聞きたくない」
「あなたは何を言おうとしているか分っているわね?」
「だったらどうするの?」
「逃げてはいけないのよ、シュシ。
書くの!
人前だろうが、どこだろうが、時間をかけても書くの!
汚くても、読めなくても、書くのよ!」
「時間かけても読めない字よ。
そんなの書いても無駄!
お母さんは字が上手いから私の気持ちなんか分らない!」
「ええ、分らないわ。
でも!無駄じゃない。
すべて始まりがあるでしょう!
始めるの、そうしないと進めないわよ」
「だって、人前だと緊張して手が動かないのよ!
変な目で皆見るし」
「変な目で見る!
何、それ?
あなたいつも言ってたじゃない。
人の目なんか気にしてたら何も生まれないって!
薫が小さい時、
“薫、外人、外人って言われても気にすんな。そんなつまらないことで泣いちゃ駄目”、、
覚えてる?」
「、、、、、」
「あなたの言葉が薫をここまで元気に育てたのよ」
「、、、まだ字が書けたからよ」
「字が書けなくなっただけで考えがころころ変わるのね」
「変わらないは。
でも今はそうなの。
気になるのよ!」
「字が書けないから知能が劣っている、馬鹿、って見られたくないよね」
「そうだったら、どうなのよ!」
「あなたがそういう考えを持つということは、そういう人たちと同じだということなのよ」
「違うわ、、私はそんな人間じゃないわ」
「今のシュシは字が書けなくなってそういう立場にいる人の気持ちが理解できるんじゃない。
誰でも、なんらかの劣等感を持っている。
あなたのように、字を書けない子は日本では珍しいから皆不思議に思うかもしれない。
誰もが普通に出来ることを出来ない人ってたくさんいる。
その人にとって苦痛になることが、
社会ではごく普通に出来ることなら馬鹿にする。
でも、あなたはそれを知ったのよ。
大切なことをね。
これで、字を書けない人の苦しみを知ったでしょう。
馬鹿にできないわよね」
「ええ、何でもないないことも、その人にとって大変な苦しみになるって知った」
「シュシ、逃げてはいけないのよ。
周りなん気にせず書きなさい。
汚くていい、
時間かけてもいい、
読めなくてもいい。
書くことが解決の一歩なのよ。
周りを気にして逃げてはいけない!」
「、、、、、」
「お父さんは日系2世だった。
私と会った時、日本語話せなかった。
ハワイの小学校の頃、ひどく馬鹿にされたんですって。
日本語に劣等感を持ってた。
でも、私に会って努力した。
間違ってもいいんだ、って気づいた。
心が通じ合えばいいんだって。
馬鹿にする人はいるわ。
そういう人とは心は通じ合えなくていいの。
通じ合える人と親しくなればいいの」
「、、、それだけ」
「もう一つだけ聞いて。
あなたはまだ手が動く。
でも障害のため字を書けない人がいる。
外見は普通に見えてもね」
「、、、、」

7:キャラメル超特急 まさか、、!

2007年06月27日 12:40

Sweet Candy Express


7.まさか、、!



「今までの出来事を考えると、ラムが俺を見守ってくれてると確信してる。
だから今やってることも含めて100%安全なのさ」
「おめでたいな。100%寄りかかって生きてる?」
「寄りかかってなんかいない!」
「結婚とか考えたことはないのか?
運び、止めれるぞ」
「奇妙な出来事以来、すべてをオープンにすることを学んだ。
このほうが楽そうだ、と思ってきたとこさ。
昔の俺なら、一緒に行こうなんて声をかけなかった。
ありそうもないことを体験して、すべてが可だと思える。
最悪なのは昔の俺みたいにすべてを否定することだってね。
キャット・スティーヴンスのユネスコの寄付で、
その人の価値は、どのくらい愛を与え、どのくらいの愛を受け取ることができるかだと思った。
気づくのが遅かった。
でもそれには遅いなんてないんだ」

あの世からラムは希望のある方向に導いていた。
人間関係で傷ついた心は、それでしか癒すことができない。

ふいにロシュトーの声が響いた。
「お前は捨てた両親を赦す事ができるのか」
「いや、、、まだ、、でも、、、それだと苦しい。
社会に抵抗してきて、もう疲れた。
出口、抜道、隙間がなくてただ苦しかった。
ラムのメッセージで命を救われて分った、
自分を大切にしたい。
そうして初めて他人を大切に思うようになれると気づいた。
それまでの俺は苦しみを自覚してなかった。
今でも飛行機事故で亡くなった人の顔が浮かんでくる。
彼らに知らせなかった、
出来たのに」
「俺を助けたのはなぜだ?」
「カレンに何もしていないのに理由が納得できなかった。
送り返しても独立になんの影響がある?
俺の到着が一日遅れていたら危なかった。
左翼のテロリストだ、とカレンが言ってたけど」
「ここ数年活動してない。状況も変わってきたからな」
「変化があったんだ?」
「色々あるが、、
共産産主義体制を嫌悪して逃げるベトナム難民の姿をテレビで見てからかな。
75年、4月30日にサイゴンは陥落した。
76年、7月に統一された。
79年にもなって、14万もの人が外海に出てまで逃げようとした。
海賊に襲われ、男は斬殺、女は強姦、
子どもは海に投げ捨てれれ、溺れ死んだ。
やっと、タイ、マレーシア沿岸にたどり着いた人たちは追い返された
殆どが海に消えた。
これにはまいった。
俺だけじゃないだろうな。
ベトナム反戦抗議運動をしていた左翼も言葉がなかっただろう。
そこまで見通せなかった。
もうイデオロギー、政治形態がどうだこうだという時代じゃあない。
想像もつかなかったさまざまな問題をばらまきながら地球は勝手に歩いてる。
地球環境しか興味がない。
そのためには破壊活動をやる。
平和的な道も模索するつもりだ。
自然を残すために破壊活動をやるってのはどう考えても不自然だからな。
基本的には社会的な問題だ。
経済活動がもたらす環境問題は解決可能だ。
この天体に住んでいる人の目覚めが必要だがな」

元テロリストと運び屋。
俺より真剣に生きていた。

「これからも運び続けるのか」
「ある程度の区切りがつくまでは」
「中毒患者、その家族、友人、周り、、
下手すると皆、常習者だ。
彼女は容認しないだろう」
「一応トロントの元締めには常習者にしか渡らないように頼んであはるが、、
今回初めてジャングルで追剥に付け狙われた。
俺の行動はどうも筒抜けのような気がした。
ルートはヘロインの仕入先しか知らないから彼らが情報を流したとしか思えない。
カレン族の独立は進展がないし、この数年戦況は悪くなってる。
こんな金でも日々の助けにはなっても目指す独立には役立ってない。
敵対するビルマ政府の民主化が不可欠だと思うんだが今の状況では、、、」
「ロシュトーは?」
「出国、入国のとき足を引っ張り合いそうな気もするが、
アランとカナダまで行こうかと考えてる。
ここからヨーロッパに戻るってのはやばそうだからな。
まだ踏ん切りはつかんが警察に出頭して一から出直そうかとも考えてる。
どっちにしろ今のままでは身動き取れんからな。
で、あんたのポカラの便秘は治ったのか」
「あれは便秘じゃない。
生阿片とステーキ、ミルクが固まったんだ。
2週間後にペンダントのような美しい光沢を持った糞が出てきたよ」

アランが大声で笑った。
そんな馬鹿な、、ありえない、と。

翌朝、再会を約束して彼らと別れた。
二日後、帰国のためバンコック空港に行くと、悩めるオーストラリア人の言葉が浮かんだ。

ここの空港はポリスだらけだ。
見回すと、たしかに多くの目と合った。
見返すと目をそむける。
ここでは新聞を読まなかった。
ドラッグの記事の多さににうんざりした。
この旅で遭遇した人の記事が載っているような気がして、
恐かった。 



長崎の家に帰ると、カシミールからじゅうたんとアミールの工芸品が届いていた。

「耕三、何ね、これは?
3週間ほど前、税関から電話があったとよ。
じゅうたんと品物が届いてるってね」
「連絡しなくてごめん。
ここではちょっと手に入らないじゅうたんだからみんなに配ったら喜ばれると思ってさ。
金は払ったの」
「全部で25万円。お前は変なもんいつも買ってくるって、お父さんかんかんに怒っとったよ。
でもね、このじゅうたんの値段調べておとなしくなったとよ。いくらと思うね?」
「倍?」
「20倍以上しとるとよ!日本で!」
「この国はいい加減だな。
なんでそんなに差が出るんだろう」
「シルクの、、あれなんか30倍よ。
お父さん静かになった」
「ここで売れない?」
「それは駄目。
もうあんたのもんじゃなか。
お父さん世話になった人にあげるって。
それに誰が買うとね、あげん高かもん。
欲しか人は向こうに買いに行くたい」
 
お袋が団ボール箱を持ってきた。
アミールから買った工芸品だ。

ハシシの臭いがした。
「お前の許しももらわんで開けたとよ。
臭かたい!これ」 

20以上ある小物の蓋をすべて開けた見た。
その内、3個にハシシの塊がビニール袋に包まれ入っていた。
100g以上あった。
どうなってんだ! 

お袋の声が響いた。
「きれいな箱ばってん、その茶色っぽいのが臭うとよ。
そのにおい嗅いで、お父さんふらふらになったと。
急に浪曲なんか歌ったと。
三味線弾けって、、。
10数年ぶりに弾いたとよ。
上手くなっとった!
びっくりしたと!
お父さんもいい声しとっとよ。
あんた、聞きたかね?
今夜、弾いてあげるたい」
「10数年ぶりに弾いて上手くなるはずないだろう!
ただそう感じただけなんだ。
お袋よ、これはハシシって言うんだ。
麻、知ってるだろう?
あれから作るんだ。
これを吸うと気持ち良くなる。
向こうでは生活の一部だけどここでは警察もんだよ」
「なんでそんなものが入っとると!」
「俺に聞くなよ!!!
知らないよ!!!」 




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